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by hamarie_february

「靖国」再考

2008-08-15 16:41:21 | 映画・TV・書籍

本日は敗戦の日です。こちらのブログでは三度目の8月15日です。

【関連エントリー】敗戦の日に(2006年8月15日)/沖縄密約(2007年8月15日)

 

午前中、戦争関連の番組@地上波は、「戦争童話 キクちゃんとオオカミ」「全国戦没者追悼式」以外見当たらず、どこをつけてもオリンピックか高校野球かといった敗戦の日。

午後からも2時から関西ローカルでドキュメント番組がひとつあったのと、夜10時半からNHKスペシャルでレイテ戦の特集があるぐらいで、BS(アナログ)も北京オリンピック一色のようです。

あー見事な敗戦ぐあいだ(爆)。

と、そんな北京に抵抗して(笑)、やっぱり8月15日ぐらいは戦争関連の話を書いてみたいと思います。

先日、『靖国』を観にいった話を書きました。というか、『休暇』を観にいったついでに観たというほうが正しくて、感想も何も「あれはダメです」で切り捨てて済ませてしまったわけですが、こちらのblogでは「いい映画だった」という評価で、さらには「8月15日の靖国を、この目で、生で見てみたい」などの感想が述べられていて、へぇそういうもんかいなと思いました。正直、この感覚は一瞬わからなかった。

時代錯誤の志士たちの無残な「お祭り騒ぎ」を映し続ける映画『靖国』。ここから目を逸らすべきではないのかもしれませんが、こういった「お祭りの現場へ駆けつけたい」という感覚は、もうワタシの中から失われて久しいので...。

もしかしたら、現場を撮るドキュメンタリーという手法という観点から「見てみたい」と思われたのかもしれません。ワタシは最近遅ればせながら観ることができた森達也の『A』と『A2』にショックを受けたのもあるので、表現の一形式であるドキュメンタリーについては、また考えてみたいなと思います。機会を改めて。

あと、靖国神社には一生に一度ぐらいは行ってみるのもいいです。本殿に到る境内の道はさすがに圧倒的な存在感がありますし。(問題化したためにむしろ忌避感があるのが残念という気もします)

と、前置きが長くなりましたが、本日は前回書けなかった「靖国と英霊」について、少し書いてみます。

基本事項の確認から。靖国が戦後問題として明確化したのは、よく指摘されるように85年の中曽根首相の靖国神社公式参拝がきっかけで、その後、前小泉首相お得意の「パフォーマンス」により対アジアの関係は最悪になったということ。

外から見た靖国神社公式参拝の問題点は、「A級戦犯が合祀されている(そして顕彰されている)神社に首相が参拝するのが問題」ということに尽きる。靖国神社は昭和初期の国体明徴運動以降、八紘一宇の推進母体としての役割を負って来たが、これが憲法上許容されているのは、国家活動とは無関係な宗教団体だから。そういった場所への首相の公式参拝は、国家が「公式の戦没者慰霊の場」として靖国を認定することであり、宗教の自由を保証した憲法20条に違反する。公式参拝を明言した中曽根氏に対して1992年の大阪高裁は「違憲の疑いある」と判示し確定判決となり、これ以降、玉串料は公費から支出できない。

小泉氏の参拝については、ことごとく合憲判決。ただし、福岡地裁や大阪高裁は傍論として違憲に言及@Wikipedia

A級戦犯については、昭和28年の国会で可決された「戦争犯罪による受刑者の釈放等に関する決議」と「遺族援護法の全会一致による改正」によって戦犯遺族にも遺族年金等が支給されることになった事実がある。

これをもって、当時の立法府が戦犯として処刑された者を一般の戦没者と同じとみなし、日本国民の総意として戦争犯罪人は日本にいないことが確認されたと主張する方々がいるのだが、日本国民の総意というのは言い過ぎじゃないか。

当時、一部の世論の後押しがあり、与野党の合意があったことは確かであるけれど、当然ながら日本人の「戦争の記憶の仕方」は決して一様ではなく、分裂し対立している。

先日のエントリーでも書きましたが、戦前と戦後で、日本の社会システムや体制はまったくリセットされなかったがゆえに、立法化が可能だったと見るほうが妥当だとワタシは思う。

「戦没者は戦前体制のひとつの象徴である靖国神社にまつってもらいたいとは思わないだろう。だから首相が参拝しても喜ばないというのが、これまでの最大の反対理由だった」と小熊氏(慶応大学)は指摘している。A級戦犯が合祀されているからという理由で靖国を参拝しない人は、戦争体験者にこそ多い。

そう、靖国のお祭りの御輿に乗せられる「英霊」たちの戦死の実態は、その過半数が「飢餓地帯での野垂れ死」(藤原彰『餓死した英霊達』)であることは、よく知られている。ひとかけらの遺骨さえ戻らず、ニューギニアやビルマ(ミャンマー)のアラカン山中などで、現在も大部分がそのまま雨ざらしになっている。多くの名も無き戦没者は、実は靖国にはいない。

靖国参拝公式表明は「国のために尊い犠牲となった方々に対する追悼として、長きにわたって多くの国民の間で中心的な施設となっている靖国神社に参拝」するということだった。

まず「国民の間で」「中心的」というのは、まったくの事実誤認であることは先に述べた。

さらに、政治的なパフォーマンスとして利用した前首相・小泉氏の軽薄さは周知のことなので追悼の意にも懐疑的だが、あくまでそうだと言うのならば、靖国に祀られているとされる「名も無き戦没者」を 「英霊」という都合のいい呼び名でひと括りにせず、個々人の名前を、身体の記憶のかけらを、取り戻す努力をしてはどうだろうか。

加藤典洋氏はその著『敗戦後論』の中で、大岡昇平の『レイテ戦記』に言及し、「彼は「英霊」と呼ばれるものにこの膨大な地名と人名と部隊名を対置する。彼は、死者を名前ある兵士として取り出すことであの「英霊」なるものの虚妄をついている。「英霊」なる観念から一人一人の兵士の死を奪回している」と書いている。

厚労省(当時は厚生省)は19997月から遺族の要望を受けて遺骨のDNA鑑定の実施を発表し、ようやく2003年度から国費でDNA鑑定を始めた。

戦没者遺骨のDNA鑑定結果について(平成16年3月12日)@厚生労働省

ただ、その元となる遺骨収集はおそらく進んでいない。

【追記】ボーガスニュースが、さすがに面白い。


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2 コメント

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なるほど (hamarie_february)
2008-08-16 10:31:35
K_Tachibanaさん、コメント&TBありがとうございます。

靖国でお花見ですか。さすがに美しく立派な桜が咲いて、潔く散っていくんでしょうかね(爆)

それから、ワタシもテレビばっか観てるわけじゃないんですけど、「さすがに15日だから(オリンピック以外の)番組やってるかなぁ」と思いつつテレビ欄を確認して、その異様さにちょっと驚いたのでした。

というわけで、テレビに呆れつつあるので、久しぶりにラジオ生活に戻ろうかと思ってます。
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靖国神社は花見に行くところ (K_Tachibana)
2008-08-15 20:18:57
靖国神社には,花見シーズンに行ったことが数回あります.上野公園に比べると比較的すいていて,交通も便利なので.

トイレで困ることもありません.

花見以外の目的で行ったことはないなあ.
ワタシの親戚がまつってあるわけでもなし.
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