「IPCCレポートを根掘り葉掘り読む会」に、昨日参加してきましたよ!
今回、初めて参加された方が何名かおられました。その中には気象予報士さんや某新聞社の方がおられました。いや、さすが、各々の専門分野からの鋭い切り口でトークをビシバシ。会話に厚みと深みがありましたネ。
また島根から来られた理科教員の方がおられたり、神戸大の学生や京都大の学生さん、六甲高校の高校生さんもおられました。若い方々、熟練パワーに負けず続けて参加してほしいです。
会の終了後、お茶でも飲みながら雑談をとなり、有志(熟練パワーのみ)でダベりました。この「お茶飲み会」で久しぶりにT先生にお会いできたのが嬉しかったです
「お茶飲み会」ではワタシはほとんど聞き役でしたが、たまにツッコミ役となり、E先生と某新聞社の方の会話を拝聴させていただきました。このお話もたいへん興味深かったのですが、今回の「読む会」の内容とはズレますので別エントリーにします。
さて、気象庁によって日本語に訳された「IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書」の「政策者決定者向け要約」(Summary for Policymakers:SPM)を読み込んでいく勉強会です。(前回の報告は、こちら)
前回同様、非常に丁寧な読み込み作業で、しかも質問や意見交換が活発だったので、終わったのは「近年の気候変化に関する直接的な観測結果」の1セクションのみでした
概要文をコピペ
データセット及びデータ解析結果の改善と増加、観測領域の地理的な拡大、不確実性についての理解の向上、観測内容の拡充を通して、気候の空間的、時間的な変化についての理解が、第3次評価報告書以降改善してきた。氷河と積雪面積に関しては1960年代以降、海面水位と氷床に関しては、過去約10年間以降、ますます包括的な観測が可能となった。しかしながら、いくつかの地域においては、データが得られる範囲は依然限られている。
概要文の次に始まる本文冒頭では、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」と宣言されてます。つまり、観測の結果は、確実に温暖化になっていますよということです。
この温暖化宣言の根拠としては、「世界平均温度の上昇」「雪氷の広範囲にわたる融解」「世界平均海面水位の上昇」が観測されていること。で、「今や明白である」とのこと。
えっと、先走ってはいけないのは、当該セクションは、温暖化の原因(例えば二酸化炭素などの温室効果ガス説)についての報告ではないという点です。「環境問題」での紛争的議論は、ついついそちらに流れそうになるのですが、原因特定が詳しく検討されるのは、後のセクションになりますので、起こりがちな脱線の話(っていうかワタシ?)を随時「修正」しながら進められました。専門分野に特化した研究の場の雰囲気を、ほんの少々ですが、感じ取れた気がしました。
Summaryをさらにまとめます。数字は苦手なので極力排除 正確に知りたい方は、上にリンクしてありますので読んでみてください。図表なども見れます。
- 最近50年間の線形の昇温傾向は、過去100年間の傾向のほぼ2倍。
- 都市のヒートアイランド現象による効果は、実際にあるものの局地的。これらの値(世界平均地上気温*a)に与える影響は無視できる(陸上で10年あたり0.006度未満、海上でゼロ)
- 下部・中部対流圏の気温は、地上気温の記録と同様の昇温傾向を示す。
- 大気中の平均水蒸気量は、陸域及び海洋上ならびに上部対流圏で少なくとも1980年代以降上昇。
- 全海洋の平均水温は上昇。気候システムに加えられた熱の80%を超える部分は海洋が吸収。昇温は海水を膨張させ、海面水位上昇に寄与。
- 山岳氷河と積雪面積は平均すると縮小。氷河と氷帽の広範囲にわたる減少は、海面水位上昇に寄与。
- グリーンランドと南極の氷床の減少が1993年~2003年の海面水位上昇に寄与した可能性がかなり高い*b。
- 世界平均海面水位の1993年から2003年にかけての上昇率は、年当たり3.1[2.4~3.8]mmの割合。ただし、10年規模の変動なのか、より長期的な上昇傾向の加速なのかは不明。
- 北極の平均気温は、過去100年間で世界平均の上昇率のほぼ2倍の速さで上昇。(ただし)北極の気温には大きな10年規模変動がある。
- 北極の年平均海氷面積は、10年当たり2.7[2.1~3.3]%縮小。特に夏季の縮小は7.4[5.0~9.8]%と大きい。
- 1980年代以降、北極域の永久凍土の表面温度は全般的に上昇(最大3度)。
- 陸域のほとんどにおいて、1900年から2005年にかけての降水量には長期変化傾向が観測された。
- 1970年代以降、特に熱帯地域や亜熱帯地域では、より厳しく、より長期間の干ばつが観測された地域が拡大。
- 大雨*cの頻度はほとんどの領域において増加。
- 過去50年間に極端な気温の広範な変化が観測。寒い日や夜の頻度の減少。暑い日や夜の頻度の増加。
- 北大西洋の強い熱帯低気圧の強度の増加を示す観測事実はあるが、データの品質に大きな懸念がある。熱帯低気圧の年間発生数に明確な傾向はない。
- 気温の日較差(DTR)の減少傾向は、第3次評価報告書以後得られた観測データによれば、1979~2004年まで変化がない。大きな地域差がある。
- 南極の海氷面積には統計学的に有意な平均的傾向は見られない。昇温が認められない。
- 海洋の深層循環や竜巻、ひょう、雷、砂塵・嵐といった小規模な現象の傾向を判断する十分な根拠はない。
*a 陸上における地表付近の気温及び海面水温の平均
*b 政策決定者向け要約(SPM)における用語。発生確率が90%を超えると判断された場合に用いられる(SPM 3ページ 注釈6を参照)
*c 降水量がある基準値を超える日の割合(または日降水量)。基準値としては一定の値をとるか、平年期間(1961~1990年)の日別降水量の95パーセンタイルまたは99パーセンタイルを基準とする、地域的に異なる値をとる。
ふぅ
読めば分かるんですが、さらにまとめると、No.1~4は「世界平均温度の上昇」についての記述。No.5~8は「世界平均海面水位の上昇」についての記述。No.9~11は「雪氷の広範囲にわたる融解」、No.12~15は「気象現象の広範囲な変化」についての記述。最後No.16~19は「変化の観測がないか明確な傾向が認められなかったもの」についての記述でした。
観測がどのような精度をもって行われているのかといった検証はありませんでしたネ。後のセクションで報告されるのでしょうか。
ただ観測の方法については、たとえば海面水位上昇は、潮位計から、1993年以降に衛星高度計による観測になっているというように、変わってきているという注釈がありました。
このように「方法」が変わってきたことで、「精度」も改良されたと考えていいのかについては、まだ判断保留にしたいのですが、とりあえず今回読んだセクションでは、観測技術が改良された結果、第3次評価報告書までは不一致だった「見積もり」が「不確実性の範囲内で一致している」と記されています。
つまり観測値と見積もりとの差異が、一般的なコトバで誤差と言い換えていいと思いますが、減ってきているということでした。
ところで、上にはピックアップしなかった二つの文章があります。
一つ目は「海水中の塩分が、中・高緯度において減少し、低緯度において増加していることから、洋上の降水量と蒸発量が変化していることが示唆される。(5.2)」という文章。
二つ目は、「中緯度の西風は、1960年代以降、両半球において強まってきた。(3.5)」という非常にシンプルな文章です
二つ目の文章について、ワタシは反射的に「だから何なのさ」と思い質問しました もちろん何度も強調されたように、このセクションは「観測結果の報告」に過ぎませんけど、観測するには、何らかの目的(解明すべき何かや調査意図)があったはずだと思ったので。
現象に何らかの意図や意味(あるいは原因)を見つけたいと思う性分のため(スンマセーン)、この二つの文章について、少し粘着して書いておきます。
この二つの文章は、上でピックアップされたNo.12とNo.13の文章の間に配置されていることから、「気象現象の広範囲な変化」に関係しているように思われます。あるいは、「関係しているよう思われたい」意図があると思われます。
たとえば、一つ目の文章の英文は、”Changes in presipittation and evaporation over the oceans are suggested by freshening of mid- and high-latitude waters together with increased salinity in low-latitude water.”となっています。
Changesという語の取り扱いが、気象庁による日本語訳によると「変化していること」となっているのですが、実際に「変化している」かどうかにはまだ留保の必要があるように思います。つまり陸域の観測でNo.12/No.13のように明瞭に「長期変化傾向が観測された」と言い切っていることと比較すると、「洋上」における観測は多くが未知数なのではないか。
「洋上の降水量と蒸発量の(直訳すると)変化」は、「海水中の塩分の緯度別の密度変化」から、suggestされると書いているだけなのですが、どうも日本語訳にすると、それ以上の関連性(因果)を想起させてしまっていると思うのはワタシだけでしょうか。
さらに言えば、「海水中の塩分の緯度別の密度変化」からほんとうに示唆したかったのは、実は「海洋の深層循環」の「変化」だったのではないか。
「海水中の塩分の緯度別の密度変化」、つまり「(塩分が)中・高緯度において減少し、低緯度において増加」という観測結果が得られたのは事実としても、「海洋の深層循環」を判断する明確な根拠とまでは、No.19で記述されているように、認定されなかったわけです。
そこでかどうかは分かりませんが、(長期的変化かどうかは留保としても、一応は観測された)「洋上の降水量と蒸発量の(直訳すると)変化」と結びつけてまとめられた可能性があります。もちろんSuggest(示唆)なので問題なしという意見はあると思いますが。
次に、「反射的に、だから何なのさ」と思ってしまった二つ目の文章には、どんな意味が隠されているのでしょう。
こちらの英文は、”Mid-latitude westerly winds have strengthened in both hemispheres since the1960s.
意訳の余地がないほどシンプルですが、この「中緯度の西風」とは何のこと?これって「偏西風」のことなのでは?
「偏西風」と意訳してもいいように思いますが、そう訳さなかった理由は、「異常気象」議論に発展することを恐れたのかとか邪推してしまいます。
Summaryのモトとなった文書(英文:IPCC WG1 AR4 Full Report)で該当するセクションのContentsを確認してみました。やっぱりStorm TracksとかBlockingとか書いてありましたね!(内容まではちゃんと読んでないけど)。
んでも、「傾向を判断する十分な根拠」は認められなかったわけなんでしょうねぇ。ざんねん!
まぁ、今のところはということですが。
【関連エントリー/検索ワード:IPCC】本日の最大イベント(2007年10月26日) 環境-地デジ問題(2007年10月15日) 雲のタネ(2007年9月16日) 根掘り葉掘り読む会(2007年9月14日) サイエンスショップが(2007年9月4日) 市民(2007年7月28日)
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私の一番嫌いな事(みなみかぜ)
http://blog.minami-uehara.com/?eid=732084
そこまでボロカスにいうくらいなら,直接言うかなにかすればいいのに...と思ってしまいました.
みなみさんは、現在、神戸大で学ばれていて、先生方とも顔なじみなので、内部告発というカンジですかね?
んで、フォローするわけじゃないですが、みなみさんは直接いろいろと発言されてましたよ。気象予報士さんらしい、わかりやすい説明で、「北極と南極の違い」などもレクチャーしていただきました!あと、ヒートアイランド現象についての、IPCCの判断に納得いかないというか異議をお持ちのようなカンジでした。
「会の進め方」について、「ひたすら読むだけなのか」という不満というか、さらなる欲求というかは、【関連エントリー】でもあげましたが(2007年9月4日)、立ち上げ当初からあります。つまり初めて参加する方が必ず感じてしまうことなのかもしれません。
ワタシの場合は、一人では「ひたすら読む」ことさえも出来ないと思うので、ありがたい場所なんですが、皆さん、それぞれに知識が豊富なので、まどろっこしいんだろうと思います
でもIPCC報告書を、どこかの誰かか解釈して読み解いた「物語」じゃなく、自分で原文に当たることが大切だというのが趣旨の会だと思うので、「ひたすら読む」しかないと思うのですけど。