三鬼 そうかな。同じ事かな。まあいいや。小生、俳句に沈没するに至った、そもそもを一席やりましょう。あの神田の病院にね、四人でいつも通って来る下町の道楽息子がいたんだ。それが揃いも揃って慢性のトリッペルでね、当時、あの病気の治療は何ヶ月もかかった。そのうち外科の医者と友達になっちまったんだ。ところがその外科が、少年時代の投書家でね。その道楽息子共と俳句のプリントを作り出したんだ。小さな病院だから、僕にも俳句を作って出せって言うんだ。道楽仲間に万太郎を知ってる奴がいて、その男が万太郎に見て貰うんだという。僕も出たらめを出したが、その最初の時、その与太息子の一人から電話がかかって、これから俳句をプリントで刷るから、俳句の名を附けてくれっていうんだ。小生電話室で受話器を耳にあてていてね、数秒の間考えた。その時、命名したのが今の三鬼ですよ。
静塔 なんちゅう意味だ?
三鬼 そんなことはどうでもよろしい。これは近頃、人に聞いたんだが、広島の方じゃあ、天狗の異名を三鬼というそうだね。小生、天狗じゃないですよ。まてよ――。「天狼」即ちシリウス星座は天の狗だ。すると天狼と三鬼は同意語ですな。そうだ、小生はあの時、電話室で、後年「天狼」の番頭をやる事を予言したんだ。
静塔 大嘘つき!
三鬼 ハハハ。じゃ、も一つ、三鬼という文字の神秘的、超時代的な話をしよう。終戦後、奈良の毎日新聞に和田辺水楼がいてね、三鬼に観せたいものがあるというから、彼と一緒に三月堂の日光、月光を観に行ったんだ。そしたら堂内で仏師が、疎開中に破損した密迹力士を修理しているんだ。横っ腹に穴が開いていてね。辺水楼が、懐中電灯を借りて来てその穴から中を覗いて見ろというから、中を見るとね、乾漆の張りボテの内側に文字が所々書いてある。その文字がね、ナンと「西東三」「西東三」と書いてあるんだ。密迹力士は二千年前の作だからね。二千年前に小生の名を予言した奴がいるんだ。大したもんだろう?
静塔 「鬼」という字がないじゃないか。
三鬼 然り。ところがね、外の力士は鬼を踏まえているのに、その力士だけは鬼を踏んでいないのだ。つまり「鬼」が抜いてあるんだ。さながら小栗蟲太郎の推理小説だよ。
静塔 ウフフ(と陰気に笑って)しかし、三鬼の俳句は二千年もは残らんね。
三鬼 残りませんな。二十年もあぶないね。
静塔 俳句入門談は、どうなった?
三鬼 では閑話休題として、つづいて閑話だが、さっきの道楽息子が共が、夜ナ夜ナあちこちの運座に押出していてね。僕をつれてゆくって言うんだ。(『平畑静塔対談俳句史』)
静塔 なんちゅう意味だ?
三鬼 そんなことはどうでもよろしい。これは近頃、人に聞いたんだが、広島の方じゃあ、天狗の異名を三鬼というそうだね。小生、天狗じゃないですよ。まてよ――。「天狼」即ちシリウス星座は天の狗だ。すると天狼と三鬼は同意語ですな。そうだ、小生はあの時、電話室で、後年「天狼」の番頭をやる事を予言したんだ。
静塔 大嘘つき!
三鬼 ハハハ。じゃ、も一つ、三鬼という文字の神秘的、超時代的な話をしよう。終戦後、奈良の毎日新聞に和田辺水楼がいてね、三鬼に観せたいものがあるというから、彼と一緒に三月堂の日光、月光を観に行ったんだ。そしたら堂内で仏師が、疎開中に破損した密迹力士を修理しているんだ。横っ腹に穴が開いていてね。辺水楼が、懐中電灯を借りて来てその穴から中を覗いて見ろというから、中を見るとね、乾漆の張りボテの内側に文字が所々書いてある。その文字がね、ナンと「西東三」「西東三」と書いてあるんだ。密迹力士は二千年前の作だからね。二千年前に小生の名を予言した奴がいるんだ。大したもんだろう?
静塔 「鬼」という字がないじゃないか。
三鬼 然り。ところがね、外の力士は鬼を踏まえているのに、その力士だけは鬼を踏んでいないのだ。つまり「鬼」が抜いてあるんだ。さながら小栗蟲太郎の推理小説だよ。
静塔 ウフフ(と陰気に笑って)しかし、三鬼の俳句は二千年もは残らんね。
三鬼 残りませんな。二十年もあぶないね。
静塔 俳句入門談は、どうなった?
三鬼 では閑話休題として、つづいて閑話だが、さっきの道楽息子が共が、夜ナ夜ナあちこちの運座に押出していてね。僕をつれてゆくって言うんだ。(『平畑静塔対談俳句史』)
三鬼山○○寺というお寺があります。
コメントありがとうございます。
三鬼の名前については本人が「サンキューをもじった」という発言もしてるみたいですね。
意識的にしろ無意識的にしろ、興味を惹かれる人物です。