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怠惰なひな菊

漫画家・萩原玲二(はぎわられいじ)の怠惰なブログ(2006~2019)

My name is John Ford. I make Westerns.

2018-05-24 10:11:47 | 映画
Victor Mature, "To Be Or Not To Be"



↑自分が『荒野の決闘(原題・我が愛しのクレメンタイン)』〔1946〕で一番好きなシーン。

『荒野の決闘』といえば、ラストシーンを宮崎さんが『カリオストロ』〔1979〕でこれみよがしにいただいているわけだが、↑の『ハムレット』のシーンのかっこよさは、ヴィクター・マチュアのドク・ホリディのかっこよさと、4:20あたりのヘンリー・フォンダのワイアット・アープのアクションのかっこよさと、ホークス作品ではコメディリリーフでおなじみのウォルター・ブレナンがクールにオールド・マン・クラントンを演じる4:57あたりの「When you pull a gun, kill a man.(抜いたら殺せ)」の台詞のかっこよさ!である。

考えてみれば、「OK牧場の決闘」は幕末の「池田屋事件」みたいなもので、ドク・ホリディはまんま沖田総司といえまいか。




それはともかく、最近日本の報道関係が絶望的に殺伐としているので、この状況を相対化すべく、ジョン・フォードの例のエピソードを引用したくなってしまった。


以下、『インタビュー ジョン・フォード』(ピーター・ボグダノヴィッチ)35Pから―――


ジョゼフ・L・マンキーヴィッツは語る。
「一九五〇年代のひと頃、マッカーシーの赤狩り旋風が吹き荒れていた頃だが、私は“ディレクター・ギルド”の会長をつとめていた。そしてある時、セシル・B・デミル監督を頭とするギルドの一派が、マッカーシーにごまをすろうとしてか、全会員に国家に対する忠誠の誓いの署名を強制しようと試みたことがあった。それが画策されていた時、私はたまたまヨーロッパに行っており、ハリウッドを留守にしていたが、彼らがその通知を送ってくるや、すぐに折り返し電報を打った。‥‥‥そのようないかなることにも大反対だ‥‥‥すると、たちまち私のことをあげつらう記事がゴシップ欄に続々と現れたのだ。『ジョー・マンキーヴィッツはかわいそうな男だ。彼が“アカ”だとは知らなかった』という調子の、根も葉もない中傷記事だった。‥‥‥その当時、デマはほぼ証明済みの事実同然に信じ込まれたものだ。‥‥‥ついにギルドの‥‥‥総会が開催されることになり、‥‥‥当日、‥‥‥デミルの一党が次々に立ち上がっては演説し、‥‥‥四時間にも及ぶきわめて陰惨なものになった。
議事が進行している間、私は‥‥‥フォードが何を考えているか知りたくて仕方なかった。フォードは言ってみればギルドの最長老であり‥‥‥と、フォードが手を挙げた。会場にはすべての発言を記録するよう速記係が同席しており、発言者は自分の言ったことが記録に残ることを覚悟しなければならなかった。指名されて立ち上がったフォードは、まずこう言った。‥‥‥


このフォードの発言は、映画馬鹿なら周知の、あまりに有名で感動的なものだが、元々英語でなんといっていたのかそういえばよく知らんな?と気づいてぐぐってみた。


"My name is John Ford. I make Westerns.
I don't think there is anyone who knows more about what the American public wants than Cecil B. DeMille - and he certainly knows how to give it to them. In that respect I admire him.
But I don't like you, C.B. I don't like what you stand for and I don't like what you've been saying here tonight. Joe has been villified and I think he needs an apology."


"Then I believe there is only one alternative, and I hereby so move: that Mr. DeMille and the entire board of directors resign, and that we give Joe a vote of confidence - and then let's all go home and get some sleep. We've got some pictures to make in the morning."



という風に発言したようだ。


以下『ジョン・フォードを読む』(リンゼイ・アンダースン)205Pから―――

「私の名はジョン・フォード、西部劇を作っている」。彼はそう言うと、この発言を印象づけるかのように、しばらく間を置いた。「ここに御列席の方々で、アメリカ大衆が欲求するものを知り尽くしているという点では、セシル・B・デミル氏にかなう者はあるまい。デミル氏は確かに、いかにしてそれらを大衆に与えるか、よく御存知だ。その点では大いに尊敬する」。そこでフォードは、部屋の反対側にいたデミルをはったとにらみつけた。「だが、君は嫌いだよ、C・B。君が支持しているものも好かんし、今晩、君がここでしゃべっていたことも気に入らん。ジョーはそしりを受けた。彼は陳謝してもらいたいと思っているぞ」。フォードは会員一同が無言で待っている間、デミルをにらんでいた。デミルも正面をにらんだままで、身動きしなかった。三十秒ほど経ったころ、フォードは口を開いた。「それでは、取るべき方法は、ただ一つだ。ここに提議する。“デミル氏以下全委員は辞任。ジョーに信任”の投票をすることにしよう……それが済んだら、みんな、家に帰って寝ようじゃないか。みんな、明日も映画の仕事があるんだ」
‥‥‥会員たちはフォードの動議に賛成して投票を行った。デミル以下委員は辞任し、‥‥‥棄権した四人を除いて、満場一致でマンキーヴィッツを信任した。

‥‥‥いざというとき、リベラルな人間たちが役にも立たなかった場でフォードが成功したのは、彼が人より優れたタイミングの勘とドラマの勘を持ち、勇気に勝っていたからだった。‥‥‥
 だが、たとえ“リベラル派”の人々の指導的役割を果たしたにせよ、フォードは彼らとともに行動はしなかった。‥‥‥フォードは‥‥‥アナーキーな伝統主義者として独りで孤立していた。‥‥‥


自分にとって、すごくまっとうな「保守」のイメージなのだった。



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ジョン・フォードを読む―映画,モニュメント・ヴァレーに眠る (ブック・シネマテーク 7)


フィルムアート社


インタビュー ジョン・フォード


文遊社


Shoplifters

2018-05-20 06:28:30 | 映画
『万引き家族』予告編





カンヌのパルムドールといえば『影武者』〔1980〕か。
やはり、勝新だったら傑作だったろうとしか。

今回の『万引き家族』〔2018〕―――プロットからして映画祭をしっかと見据えた高度な戦略がうかがえ、獲るべくして獲ったという頼もしさ、したたかさを感じる。

自分はさほど鑑賞したいとは思わないが、こうした「貧困」が作劇に不可欠だろう作品がリアリティを持てる2018年の日本は問題では?ということはいえるのでは。





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The Searchers (1956) - Let's Go Home, Debbie Scene

2018-05-09 06:16:31 | 映画
The Searchers (1956) - Let's Go Home, Debbie Scene (9/10) | Movieclips


↑あまりの鮮明なレストアっぷりに思わず貼り付けるのだった。

今世紀にいたって、『捜索者』〔1956〕はジョン・フォードの最高傑作の評価が定まった感がある。
どんだけ後進に影響あたえておるのかと。

↑の「 Let's Go Home, Debbie」(2:20あたり)のシーンはもちろん素晴らしいが、自分が何度観ても泣いてしまうのが↓のシーンである。

Martha



デュークの背の高さが素晴らしいし、ワード・ボンドの芝居も物凄く素晴らしい(そして無声!)。

ボグダノビッチのインタビューにフォードはこう答えている。

 兄嫁が結婚前、ウェインと恋仲だったということは、明らかのはずだ。君の指摘を待つまでもなく、インテリジェンスを少しでも持っている者なら誰でもわかることだよ。彼女がウェインの外套を取り上げる際の手つきとか、その場にいあわせたワード・ボンドが何ごとも見なかったふりをする動作の中に、それとはっきり示したつもりだ。(『インタビュー ジョン・フォード』169P)

国内版BDというのは存在しない?にしても2KのデータをDLできるのであればよしとせねばばるまい↓



捜索者 (字幕版)

南北戦争が終結。一匹狼のイーサンはテキサスの兄の家を訪れる。しかし、愛する兄と義姉はコマンチ族に虐殺され、その娘たちまでもさらわれてしまう。復讐を心に誓いイーサンは、仲間と共に捜索の旅に出る。 Eirin Approved (C) 1956 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

主演: ジョン・ウェイン, ジェフリー・ハンター, ナタリー・ウッド 上映時間: 1 時間, 58 分
対応デバイスで視聴できます



インタビュー ジョン・フォード

「私は敗けいくさのほうが好きだ。ハッピー・エンドというのが大嫌いだからな」―『荒野の決闘』『静かなる男』『リオ・グランデの砦』『シャイアン』『捜索者』『駅馬車』『わが谷は緑なりき』…サイレントからトーキー、カラーへ―ハリウッドを生きた「映画の巨人」が若き映画人に語り遺した貴重なインタビュー。

文遊社


M4A3E8 シャーマン イージーエイト

2018-04-23 03:50:37 | 映画
Fury |2014| All Tank Battles [Edited]



唐突に―――ハリウッド映画で、21世紀のポリティカル・コレクトネスの敷衍、一般化と、映画の題材としてのナチズムの絶対悪度の高まりは比例していると思っていて、もちろんナチズムは絶対悪に決まっており、映画の中で武装SSが虫けらのように殺戮されるシチュエーションなど、まあそりゃそうだろうなのだが、それとは別にナチの絶対悪度は映画のプロットにおける都合にすぎないともいえ、もやもやするのである。

タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』〔2009〕くらい戯画化されていればわはははと笑ってすませられるものの、ブラピつながりで『フューリー』〔2014〕となると、かなり疑問符がつく。

なぜなら『フューリー』は戦車馬鹿勢が渋々(!)満足する高水準の戦車映画だが、実はこの作品の本質は「西部劇」であり、『駅馬車』〔1939〕や『赤い河』〔1948〕や『ワイルド・アパッチ』〔1972〕のリメイクといってもよいような異文化との衝突にある。

すなわち『フューリー』の武装SSはインディアンの偽装にすぎず、『フューリー』の最大の欠点はラストに騎兵隊が突撃ラッパを鳴らして救援にやってこないことに尽き(?)、その点さすがにスピルバーグは『プライベート・ライアン』〔1998〕でP-51にティーガーを爆撃させてみせた。
(といいつつ、武装SSの少年兵が見逃してくれるシーンは嫌いになれない)

とにかく『フューリー』は作品全体がフラーの『最前線物語』〔1980〕のオマージュにみえるのに(オープニングなどそのまんま)、『最前線物語』に横溢するアナーキーで硬質なユーモアは全然ない。

ようするに真面目すぎるわけで、戦争やナチを語るのにユーモアなど必要ではないといわれればその通りなのだが、映画は所詮映画なのであって、そのクソ真面目な姿勢に21世紀の澱が何処かに凝縮されつつある気がして憂鬱なのだった。







で、『フューリー』といえば、本物のティーガーI初期型以上にM4A3E8シャーマンであり、イージーエイトといえば近年発掘された朝鮮戦争における↑のカラー写真はすこぶる興味深いものであった。
(映画で使用されてるのはディーゼルエンジンのM4A2E8らしいが)





タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.359 アメリカ戦車 M4A3E8 シャーマン イージーエイト 朝鮮戦争 プラモデル 35359

新考証に基づいて、赤い悪魔の顔で知られる第89戦車大隊などのデカール2種類をセット。

タミヤ(TAMIYA)


世界の果てまで

2018-04-04 11:55:00 | 映画


なんというか、西部劇になってほしい!という期待。
ペキンパーの『ビリー・ザ・キッド』〔1973〕みたいな‥‥‥

前作『散歩する侵略者』〔2017〕は、三郷のシネコンで観て、ぽろぽろ泣いたのだったが、後日「あの映画って着ぐるみの出ない回のウルトラセブンでは?」と考え直し、それなら「ウルトラセブンのほうがよいのでは?」となり、はからずもおのれの世代的限界を見つめ直すことに‥‥‥

エリセが『ミツバチのささやき』〔1973〕でフランケンシュタインの怪物を出したように、『散歩する侵略者』にもメトロン星人やペロリンガ星人的なギミックを繰り出してほしかったわけなのである。

そういえば以前、蓮實先生が清監督には「フェティシズム」がないと好意的に評していたことがあって、ホラー系の代表作においてはその通りなのだが、『散歩する侵略者』や『Seventh Code』〔2014〕のようなSF的ガジェットが必要とされるファンタジーではその性質はあまりよろしいといえず、『散歩~』の無人機のアクションシーンなど相当疑問符がついた。

そのあたりは『シン・ゴジラ』〔2016〕の監督の、あふれでるフェティシズム(=幼児性)に軍配があがってしまうのがおのれの世代なのである。






予兆 散歩する侵略者 劇場版 [Blu-ray]

<概念>を奪う侵略者は他にもいた。
夏帆×染谷将太×東出昌大×黒沢 清監督
映画『散歩する侵略者』から生まれた恐怖と驚愕の侵略サスペンス

ポニーキャニオン