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魂って何でしょうね?

Lifia - Summer snow clouds -

2010-04-12 00:30:03 | Verre
この季節でもこの星のどこかには雪が降るのでしょうか?



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  来週末に決めたよ。



数日前に私のルーティンを確認していたアルディアスから、今朝そう告げられた。

彼はこの機会に、いままであまり口にしてこなかった家と家族と親族との事情に
ひとつ区切りをつける決心を固めたようだった。

結婚のことだけではなくて、先の事故も動く決意の理由なのかもしれなかった。



施設でのアクシデントの後、彼は

なにかを表に出さないよう、慎重にしていると分かる。




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当日は早朝に官舎を出発した。


 
  日帰り …は、きつくても、、そう遠いわけでは無いから。
  


途中の休憩で、すこし足を伸ばした後、ポツリと彼がつぶやく言葉。



  そうね。 そう遠い場所ではないのよね。


私も後の言葉は仕舞っておく。

そんなに遠くない、だけど帰れなかった生家。 
いまやっと帰郷する。



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古い造りの館の応接間で、彼のお父様とお会いした。



沈黙が時間の大半を占めたティータイムの後、お父様の前を辞して
泊まる部屋に案内された。


ソファに身を沈め、うつむき加減に両手を組んだ彼を振り返りながら


  あなたの部屋は … 

と聞きかけて、口を噤んだ。  
幸い薄いカーテンを引こうとした音に紛れて、それは届かなかったよう。

アルディアスの心は深い水底に住む貝のようで、ぴったりと閉じられた先は
私には分からなかった。 


たぶん。



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言葉数少なく屋敷内と敷地の説明をしてくれた後、アルディアスは
ずっと別居間での話し合いにつめていた。

出立の日の午前中まで、私は初日通されたより幾分こぢんまりとした
家族用の居室にいるか、庭園を歩いて時間を過ごした。



そろそろお話し合いはどうなったかしら?と様子を尋ねようと思った頃
お父様が私のところまで出向いていらした。


そうして長い沈黙の後、ご不自由な足で立ち、私に頭を下げられた。




  息子を、よろしくお願いします 




話し合いの席を中座して来てまで私に伝えたかったことは
それはいったい何だっただろう?

戻られるお父様を見送り、ドアを静かに閉めながら思った。





積もった想いは過ぎた時の重さに押し黙り、いま降る想いは融けず
凍えた時間を上積み、重ねてゆくばかり。


それでも。


受け入れたいと想っている小さなかすかな切望は、地の底で地表の春を知った

湧水のように、凍った大地を内側から溶かしたいとお互いを願い合っているのは

感じられるのに。  




だけど ……はるか遠い。

こんなに近くにいるのに。


瞳を潤ませる感情から、私は黙って心を切り離す。

だって。
私が涙すれば、またこの2人は自分自身を責める。



  私にはいったいなにができるのかしら?


私には いったい なにが できるかしら?



季節が巡ることを責める人はいないのに、亡き人達に捧げられた白い喪は
いつまでも明けてはならないものなのでしょうか?

中央大陸は初夏を迎えた。
でもこの星のどこかでは、いまが冬季の街はある。 あるけれど。

星の季節は巡る。 巡るのです。 生きていれば、留めようもなく。


誰も忘れることは無いでしょう。お父様も、アルディアスも。
それでも彼らは雪の季節ばかりを抱かなくてもいいのです。


私はいつまでも同じ時に立ち竦む雪雲を季節の巡りの中へ
連れてゆける風になれるならなりたいと思った。

たおやかに強い風を熾す大きな翼が欲しいです。







(それはいけないことでしょうか?)  

目を閉じて、古いフォトフレームの中、幸せに微笑む故人を想った。








Summer snow clouds / 夏の雪雲
コメント (4)
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