惑星歯車を渦に乗せて、太陽歯車は力を伝達させる。
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望みの在処は分かっているの。
私は、時を焦らなければいい。
歩き出そうとした爪先にコツンと何かがあたる。
え?木の実??摘みあげてしげしげと眺める。
近くに葉ごといくつも落ちている。
なにこれ可愛いけど?なんで? 笑
コホン
私の背後に小さく咳払いの音。
そこには書架の守人のひとり、翡翠色の友人・Rが微笑み立っていた。
翡翠、といっても彼女は、青紫のラベンダー・ジェダイドの人である。
首から提げた硬玉と同じ色の瞳、淡紅藤の腰まである長い髪の持ち主。
今日の彼女は、生成り色の七分袖ワンピース、撫子色のローパンプス。
襟はマオカラー、袖口にミルフィオリを模した飾り釦が3つ、膝下丈セミタイトなスカートの裾にティアドロップの小さな透かし模様がくるっと入っているのを着ている。
とてもお似合いである。
造詣の深い彼女が教えてくれる。
それね、ピンオークの実よ。
調べに来ていた人が、落としていったのね。
まるでリスの忘れ物みたい。 笑
私が預かるわ…と、彼女は私の手からその木の実を受け取った。…ときに
D、守人を探していると聞いたのだけれど?
相変わらず耳が良い。
綺麗な髪を両サイドの分だけ、後ろに高く束ねている。
視るように聴く人らしくて、情報早いわね… R。 笑
でも、残念。 今日は違う書架に用事なの、私。
あら?それは残念、言いながらRはケラケラと、上品に笑っている。
どう笑っても品が良い。
Rがいつも羨ましいな。 笑
並んで歩き出しながらそう言うと、また実に嬉しそうに彼女はウフフと笑った。
彼女の石、紫色をした硬玉が歩みに軽く揺れ、きらっと光って物言いたげだ。
ねえ R。
「賢者の石」にも色々あるけれど、貴女のは堅さもとびきりの部類
でも、全然そう見えなくてね。 笑
探求を続ける堅固さは、他者を受け入れ難くするものではない、と
相対する人へ、理解しようと取る態度は、いつもとても柔らかい。
全天一頑固につき処置無しの、と言われる私と違うとこ…
そこで話を遮り、私と向き直って、Rは澄んだ青紫の眼を丸くする。
まぁ D。 苦笑
私、そこまでは聞いたことなくてよ?
掌のピンオークを転がしながらRが言う。 思慮深い眼差しをして。
この樹はね、とてもとても大きくなる樹なの。
自由に枝を伸ばして、地中に根を広げるのよ。
D、あなたもそのように、おいきなさいな。
春から夏、日差しを受けて緑の影をつくるわ。
秋は炎の紅葉… 冬は枝が炎の影を地に映す。
その変化を何かに慮ることはしていない…。
誰でも、そんな風に移ろいゆく季節を歩いていいのじゃないかな?
人は、どのような体験や出会いからも最善の答えを導きだすもの。
物事の捉え方や答えを導きだす…全ての過程は、とても個人的な作業よ。
あのね、説教がましくするつもりはないのよ、と、締めくくるRに私は言った。
ええ。
他者を変えようと、あなたが行動していないのは、私も知っているわ。
あなたに会って変わってゆく人は、あなたの生き方に刺激されてるのよ。 笑
受けた感銘が臨界に達したとき、その人は自らを変えてゆくのだと思う…
あ、私はこっちに用事だから、じゃあここで…
岐路に立ち止まったRが、壁に掛けられた装飾用の織物にある
古い文字で書かれた一文を指さし、翻訳して読み上げてくれた。
・】 汝、ただ純粋に己の哲学を深め、知識と智慧を高めることに専念せよ 【・
私も知っているのよ。と、R。
他者を変えようとなんて思って、あなたが行動してないのは、皆が知っているわ 笑。
けれど、それでもあなたに会って変わってゆく人が居るのは
あなたの生き方を素直に映しだした言葉に刺激されてるのよ。
「常識」を覆すその言葉を受けた衝撃は、その人を盲信から目覚めさせ、自らを変えてゆくのだと思うの…
全天一のなんて刺激的な目覚まし時計、と、澄ました表情で返してくれた。
翡翠 / 本ヒスイ(硬玉ジェダイド) 東洋の宝石と呼ばれ、日本や中国では古くから珍重されている宝石。ラベンダージェイドはその名の通り、翡翠(ジェイド)の中でもラベンダー色のものを指す。
パワーストーンとして / 不死、純粋、忍耐、知識、慈悲、正義、道徳を象徴する石
日本の伝統色 和色大辞典 ・
http://www.colordic.org/w/
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