曹達記

ゲーム、特撮、ポケスペ等について比較的長めの文章を書く場所。

ポケスペ剣盾編におけるマナブの立ち位置について

2021-07-24 00:06:00 | ポケスペ
ポケスペ剣盾編は開始から単行本3巻分を重ね、キャラの立ち位置もある程度定まってくる段階である。

しかし、今一つ掴めていない立ち位置もままある。その一つがマナブである。
彼はゲームのモブキャラのデザインであるにも関わらず、御三家を手にしたということがまず極めて異例の存在である。
御三家を手にする、それはポケスペという作品において図鑑を手にすることに準じる重要性があると、個人的には思う。

そもそも、ゲームには御三家を手にするライバル枠としてホップがいるのである。
それを差し置いてまで、わざわざオリジナルキャラクターであるマナブを設定した理由がどこかにある、そういう思いが強くなってきた。
そこで、マナブ自身の特徴、図鑑所有者二人の設定、前章におけるハウの三点からマナブを設定するに至った理由を推察していく。

マナブの特徴


最初に、マナブの特徴を箇条書きにしてみる。
  • ガラル出身ではない
  • 前に住んでいたところではトレーナーズスクールの優等生だった
  • ガラルの学校に馴染めず不登校となった
  • 親の同意が必要な年齢
  • 容姿はスクールボーイ
  • ガラルのことはほとんど何も知らない
  • 図鑑所有者という呼称を知っている
  • そーちゃん、しーちゃんから見ると新参者
下の3点については読者の視点に近い要素であり、そういう意味では狂言回しとしての役割が大きいとも言える。
ただ、やはりそれだけが彼に与えられた役割なのかと言えば、違うのではないかと思うのである。

そもそも、なぜ狂言回しが必要になるのか。
その問いへの参考となるのが、前に図鑑所有者以外の狂言回しを用意した12章である。
この章では意図的に図鑑所有者の内面描写を少なくしていて、引きこもりというエックスの設定を効果的に生かしている。
また、もう一つ参考となるのが6章。こちらもトオルという狂言回しを用意し、エメラルドの内面描写を削って「フロンティア攻略のための作戦を練る頭脳の強調」「エメラルド自身のバックボーンを隠す」といった効果を出している。
となると、今回も図鑑所有者の内面描写を減らす方向であると推測をすることができる。
ではなぜ、内面描写を削ることが必要なのか。それは次の検討事項で見ていきたい。

図鑑所有者の設定


次に検討したいのが、図鑑所有者二人の設定について。
マナブが二人の存在から逆算して設定されたのは明白なので、二人のパーソナリティーを見ていけば、自ずとマナブの立ち位置が見えてくるはずである。


まず、剣創人から見ていく。
彼のパーソナリティーに大きく関わるのは、言うまでもなく「武器」。
これはゲームのストーリーに関わる要素であり、そこから引き出されたものであろうことは明白だ。

そして、ここまで描かれた彼の性質は「一つの物事に集中して取り組めるが、人に興味を持たない。バトルは強い」ということ。
なぜそのような設定をされたのか分かりにくいのだが、「継承」というゲームのテーマを照らし合わせることで見えてくると思う。
即ち、師匠ポジションのキャラが雄弁に内面を語ってはいけないということである。
師匠が人当たりよく、なんでも内面を語るようではドラマとして成立しない。
弟子がその内面を推察し、技術を学ぶことで完成するというのは古典的な師弟関係と言える。
この関係を踏襲させるべく、そーちゃんは内面を見せないキャラになったのだと思われる。

ただ、かなり根拠として弱い推測なのは確かだ。
憶測としか言いようがないのだが、4月に掲載された回で「マナブへの継承」が話題となっていたので、この線も悪くはないかもしれない。


次に、盾シルドミリア。
彼女の場合、「人を驚かせるのが好き」という部分は「ダイマックス」にインスパイアを受けたことがわかる。
ただ、「コンピューター技師」という設定がどうにもゲームからダイレクトに繋がらない。まだ検討材料がいるだろう。
また手持ちと生き別れになるという設定についてだが、これは前章のムーンから逆算して作られたと思われる。
というのも、ムーンは尺の問題で手持ちを6体揃えることができなかった。
思想・信条の問題で手持ちが揃わなかったファイツとは明らかに異なり、製作陣の中でもかなりのしこりとして残ったことは想像できる。
そこで、逆算して手持ちをあらかじめ用意しておけば、その再会だけでもドラマとして成立させることができる。
男主人公に活躍が偏りがちで、36話前後しか期待できない現在の連載状況では、割と有効な手だてであろう。
逆に言えば、手持ちに入れる選択肢をなくしていることでもあるので、「誰を手持ちにするのか」という連載ならではの楽しみを奪っている面もある。
これはマナブを設定したことによって補えているのではないだろうか。

さて、そんな彼女のパーソナリティーは「うるさい、コミュ力は強いがバトルは弱い」である。
こちらはマナブと絡む要素は少なく、むしろ剣創人のカウンターとして作られたように感じられる。
実際マナブはしーちゃんとの絡みから何かを得ている様子がほぼない。
ただ、しーちゃんも内面描写が少なめなのは確かで、彼女の気質からするといささか奇妙だ。
現状ではこのギャップを説明する材料がないので、それも相まってしーちゃんの扱いには不安定さが目立っている。


ここで見えてくるのが、マナブの存在はそーちゃんとの関係性が前提であるということだ。
逆に言えば、しーちゃんとマナブは軸になりうる部分がそこまでなく、あくまでそーちゃんを中心として回る衛星同士でしかない。
必然的に話のウェイトも「そーちゃん>マナブ=しーちゃん」となっていき、コロイチという雑誌の都合にも合致する。
それが大人の視点から良いか悪いかはさておき、男子読者中心の雑誌としては妥当な選択となる。


あと設定ではないがもう一つ、二人の内面描写を削る理由として推測できるのが、作品のテーマ。
これは他者の考察の受け売りなのだが、本章のテーマは「本当に心から願うこと」という見方がある。もしそれがテーマなら、その願いを簡単に出してしまってはドラマが成り立たない。
そこで内面描写を減らせば、彼らの本心を出す必要がなくなる。
この必要性からマナブが設定されたのではないか。
こちらもかなりの推論であるため、正直的を得ているかどうか微妙なのだが、内面描写を削る理由としてはかなり近いのではないかと個人的に考えてはいる。


ここまでは剣盾編の作中から考察できる範囲からマナブの存在意義を考えてきたが、次に検討するのは前章での問題である。
シリーズ物は前作の反省点や対比によって作られるものであるため、逆にそこを調べていけば問いの核心に至ることができると思えるからだ。


ポケスペにおけるハウ


そこで検討しておきたいのが、前章でのハウについてである。
個人的には、ハウの扱いに「苦戦」(敢えてこう書く)したことが、マナブというキャラクターの誕生に大きく関わっていると思われるのである。以下で検討したい。


まず、ハウというキャラクターはゲームにおけるライバル枠である。
ただし、XYにおけるカルム・セレナとは異なり、御三家は自分に対して不利なものを選ぶ。
これはBWのベルやXYのサナといった、友達の女性キャラクターが担ってきた部分である。
彼の立ち位置は後のホップにも受け継がれ、よく戦うライバルキャラは難易度を高くしないよう不利な御三家を持つようになった。

さらに、しまキングの孫という設定がある。
ライバル枠が強いトレーナーの身内である、という設定は割と多く、ストーリーにも絡めやすい。このことからSM・USUMでは共に存在感を示していて、USUMではストーリーのラスボスを務めるにまでなった。
ただし悪との戦いという面ではあまり存在感がなかったのも事実で、USUMではグズマとの因縁も描かれたが、彼の再起にはあまり関わってない。

ハウのゲームにおける立ち位置を踏まえて、ポケスペにおける彼の扱いを再確認してみる。
まず、初登場自体は割と早めである。
ただし、ゲームとは異なり主人公サイドとの絡みは薄い。
これはゲームでの彼が「島に来て最初の友達」という役割も兼ねていたものの、ポケスペではそれがオミットされたことが原因である。
このことが彼の出番に尾を引いている面は十分に考えられる。
というのも、ポケスペでは悪との戦いを主軸に話を作り直した分、ハウが絡まなければならない要素が削られてしまったのである。
ハウはゲームでは主人公の島巡りへと同行し、その先々で行動していくのであるが、ポケスペでの同行者としての役割はムーンが担っている。
そのため、中盤での見せ場である「リーリエに庇ってもらったことに奮起しエーテルパラダイスへと乗り込む」という展開がそっくりなくなっているのだ。
作品特性として、ポケスペは図鑑所有者同士の関係性が非常に濃厚である。
しかし、それは逆にそれ以外の人物との関係性が薄まることも意味している。
その弊害が顕著に出てしまったのがハウであろう。
若干本筋から外れるが、14章に関してはサン―リーリエとムーン―グラジオのラインもかなり強く構築されている。
しかしそれも結局、ハウと図鑑所有者間の関係を薄めることとなった。

代わりにポケスペではグズマとの因縁を主軸にドラマを展開することになるが、それも中盤以降(USUM発売後)である。
しかし練り込みが足りなかったのか、グズマと顔を合わせたときには言及がなく、終盤でようやく言及するという始末。
当然ハウのドラマも中途半端となっているのだが、通巻版での補足用に敢えてそうしたとも考えられる。
ムーンの手持ちの件含め、14章は通巻版で補足することを前提に描写を飛ばした面が多くあるので、現段階でのストーリーから判断するのは時期尚早とも言えるが、現状ではハウについての消化不良感が否めないのである。

ここで分かるのが、名前を自由につけられない限り図鑑所有者として扱えないというルールによって、ハウは扱いが難しくなってしまっているということ。
DPtまでは、主人公とライバルの関係は自由に構築して問題がなかった。名前がなかったからだ。
しかしBWのチェレンとベルを筆頭に、ライバルキャラは名前を持ち、確固たる登場人物としてストーリー上での役割が与えられ、主人公との関係を固定化するようになった。

原作のキャラを極力弄らないようになったポケスペでは、この変化が厄介な問題を生んだように思える。
主人公一人のストーリーである原作ゲームの中に、ダブル主人公としての図鑑所有者を入れ込み、更にその間に強い関係を作る。
このストーリー構築で割を食うのが、ゲームにおいて主人公と関係を構築するライバルたちなのだ。
XYにおいては、カルム・セレナは主人公と同じ姿なので図鑑所有者に加え、幼馴染み3人組はキャラを大きく弄ってストーリーに馴染ませていた。
しかしこの措置もキャラ立てが強めのSMでは取りづらかったのだろう。


もう一つ、ハウに纏わる問題がアシマリである。

そもそも、ダブル主人公制になってからのポケスペでは、余った御三家の扱いには毎回苦慮している節がある。
10章ではなんとかドラマ的な見せ場を作れたが、11章についてはヒュウやファイツへの御三家受け渡しが流れ作業的で、ラストの合体攻撃しか見せ場を作れなかった。
12章ではZバージョンの発売が流産したせいか、当初の行方不明展開から一転、敵の手持ちとして活躍することになった。個人的にはうまい見せ方の部類に入ると思う。
一方で原作では手持ちにいれるはずのサナが持てなくなる改変も起きたが、やはり個人的にこれは許容範囲であろう。

では14章における余った御三家である、アシマリはどうか。
登場自体は初期からしていたが、ハウが選ぶのは中盤以降。
そこにどのような選択があったのかについては、例によってない。
それでは済まずアシマリの不遇さは更に進んでいき、終盤にてオシャマリへの進化が台詞で済まされた上、バトルでの活躍は0。
確かにハラとの特訓でちょっとはバトルしているが、これはノーカウントとしか言いようがない。
アシレーヌへの進化シーンこそ描かれたものの、その後の戦いはカットされてしまった。

山本先生は2018年始めにカレンダー絵を描いた際、サン・ムーン・ハウと最終進化の御三家が並ぶというテーマを選んでいるのだが、実際の作中の活躍はアシレーヌ以外の2体しかなかった。
通巻版での今後の補足前提、と言えば聞こえはいいのだが、実際に連載された雑誌で見ると恐ろしくバランスを欠いてしまった。
無論、マイナーチェンジが出るかわからないという2016年当時の状況は仕方がなく、この段階ではアシマリをハウに託せなかったのはやむを得ない。
しかし、ミツルのように一旦手持ちにして手放すという方法はいくらなんでもハウには取れない。それこそハウが余計に不遇となる。
結局原作通りにハウに託すという方法しかとれなかったのだが、そことドラマをうまく結びつけられずに終わってしまった。


結論

まとめると、

  • 原作のライバルキャラでは図鑑所有者との関係構築をやりづらい
  • ダブル主人公制での余った御三家の扱いに苦慮していた
  • 剣盾のテーマに沿う形で狂言回しが必要だった

これらの事情からマナブというキャラが必要になったと言える。
一応ホップでこの役回りができないことはないかもしれないが、個人的には少ししっくり来ない。

ここからは分析ではなく本当に私見でしかないのだが、ポケスペに原作ストーリーの焼き直しは必要ないし、なんならキャラを弄っても問題はないと思っている。エッセンスを抽出して、両先生の作家性に沿ったストーリーをうまく展開できさえすれば、キャラ描写の違いなどさしたる問題ではないと考えているからだ。
しかしSNS時代というものは大変難儀なもので、メディアミックスで大きなキャラ変更をされると怒る人がそれなりにいる。
例えば、剣盾が出たとき「キバナがポケスペで悪役化されたらどうしよう」とTwitterで言ってる人が少なからずいるのを見かけた。
こういう意見については最近のポケスペ読んでる?としか思えないのだが、アニメでもグズマの描写で炎上沙汰になりかけたのは記憶に新しい。
この辺りの問題はゲームにおけるキャラ立てが強くなったBWから続いているのだが、メディアミックスに人は何を求めているのかというところに行き着く。
ここの問題は中々苦しいのだが、ポケスペに限って見れば、メディアミックスとしては異色で独自のファンが結構いるジャンルではある。
正直、キャラ変更しないでかつ独自性のある話を通そうとする、という無理のあるストーリー設計をやめて、もうちょっと自由に作った方がファンからの受けはよくなるのではないか、そんな気はしている。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ジュパー)
2021-09-12 21:37:28
なかなか、面白い考察ですね。全体的に筋が通っていて、わかりやすいです。

ポケスペの構造上の問題が、キャラの薄さや消化不良を起こしている。納得です。

中でも、アシマリの件は深刻ですね。ルザミーネに拾わせるという手法もあったでしょうが、それでは前章のパキラと被りますから。

せめて、SP剣盾かSPダイパリメイクで、成長したハウとアシマリがゲスト登場して、兄貴分的な活躍をして欲しいとさえ思いました。

(ハウの兄貴分なところは、グズマを見習ったからという風にすれば、グズマの消化不良感も解決する)



シルドミリアの技師設定は、彼女の過去が人工ポケモンと密接に関わっているからかもしれませんね。

ポケモン世界では、物質をデータ化する技術があるようですし。

ポリゴンはもちろん、カセキメラ達もあるいは、その技術を応用して産み出された可能性もあります。

シルドミリアは幼い頃にその技術を利用して、人工的にポケモンを製造した過去があったりして。それが現在行方不明になってるポケモン達。

それに、こういうエピソードがあれば、シルドミリアの内面描写がまるで無い理由になるんじゃないでしょうか。

シルドミリアは人間としてどこか壊れている。内面描写をするとそれが読者にバレてしまうから、敢えて無くしているとか。



山本先生達は、過去にラクツのキャラを扱いきれず、消化不良を起こしてしまった事があります。

シルドミリアでそのリベンジをやろうとしているのかもしれません。

ネット上にはユウリ闇堕ちネタもあります。だから、シルドミリアを壊れたキャラとして描き、救済するみたいなエピソードにして、読者ウケを狙っているとか。

図鑑所有者ならいくら弄っても許されますし。



ムーンは、手持ちが揃わなくて残念でしたね。しこりが残っていると見て間違いないでしょう。

ただ、通刊版で補足されますかね?

図鑑所有者の手持ちとなると、通刊版で補足できる領域を超えているように思いますが。

エメラルド編みたいに、未完結の状態なら大幅に加筆して補足できるでしょうが、既にサンムーンは完結している以上、中途半端な補足にしかならないのでは。

それだったら、別の章で再登場する時に備えて、手持ちは不明のままにした方が良い気もします。



キャラは弄っても問題はない。私も同感です。

アニポケのフウロみたいに、誰も得しないような改変ならアレですが、物語的に意味があったりキャラや世界観の掘り下げになるような改変だったら問題ないと思います。

その条件さえ満たしてくれれば、キバナがムゲン団的な悪役になっても受け入れられますよ私は。
返信する
Unknown (h2co3na)
2021-09-21 21:23:49
コメントありがとうございます。返事が遅くなり申し訳ありません。
他の地方へのハウの再登場は期待したいのですが、接点が薄く持っていきづらいのが難しいです。ただ、14章ラストが割と謎を残したままだったので、そこからの書き足しに一抹の望みを託しています。
しーちゃんはどうもただの人ではなさそうなのですが、そこについては本稿の主旨から外れる上、判断する材料に欠けるのであまり書きませんでした。
ムーンの手持ちは、先述した14章ラスト以降の書き足しで捕まえてほしいなと個人的には思っています。補足するとしたら進化の経緯でしょう。
メディアミックスでのキャラ変更に対して、短絡的にならず大きな視点での見方が増えてほしいですね。
返信する

コメントを投稿