毒入りチョコレート事件、第9の回答。
(アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件」創元推理文庫、クリスチアナ・ブランドが「『毒入りチョコレート事件』第七の解答」ー「創元推理1994/Spring」収録。を参考にしました。ブランドのネタに触れています)
クリスチアナ・ブランドによる「毒入りチョコレート事件」第七の回答の出来事があった後、翌朝の出来事。
●毒入りチョコレート事件本編の翌朝。
英国の新聞見出し(号外1)「号外!「犯罪研究会」の面々、毒シャンパンに倒れる!」「生存者チタウィック氏、搬送先病室にて恐怖の一夜を語る!」同新聞本文「ベンディックス夫人毒殺事件を独自に捜査していた民間団体、犯罪研究会にて、「ある達成」を得たために主催者ロジャー・シェリンガム氏によって振る舞われたシャンパンに毒素が混入。同メンバーであるロジャー氏本人、刑事弁護士チャールズ・ワイルドマン卿、劇作家フィールダー・フレミング氏、推理作家モートン・ハロゲイト・ブラッドレー氏、四名が死亡、同メンバーであるアンブローズ・チタウィック氏はアルコールに弱い体質のため飲酒後すぐ嘔吐、その一命を取り留めた」(号外2)「スコットランド・ヤードはメンバーで唯一毒シャンパンを飲まなかった小説家アリシア・ダマーズ氏を緊急任意同行し取り調べるも嫌疑不十分で釈放!」
●同日午後、チタウィック氏のいる病室。面会謝絶の札。
モレスビー警部「ロジャーが!まさか、彼が犯人だったのか!」
チタウィック氏「いえ、きっとシャンパンはどこかですり替えられたのです。黒い毒殺魔は恐ろしく巧妙です」
モレスビー警部「黒い毒殺魔!なんですかそれは!」
チタウィック氏「私が末席を汚している犯罪研究会。学識優れた参加者の皆様は、ベンディックス夫人毒殺事件を推理している過程で、きわめて類似性の高い事件を例として発表されました。それは恐るべき数でした」
モレスビー警部「そうです。ここ最近、ロンドンでは確かに毒殺事件が多発しています」
チタウィック氏「個別の事件ではありません。警部、ロンドンには黒い毒殺魔が跳梁しているのです。それが、我が犯罪研究会の結論でした…」
モレスビー警部「しかし、それらはすでに解決…まさか、貴方は全て冤罪だとおっしゃるのか!」
チタウィック氏、ゆっくりとうなずく。
チタウィック氏「警部、あなたがはじめにおっしゃっていた、悪魔的な知性を持つ、偏執的殺人狂による犯罪、それこそが正鵠を得ていたのです」
モレスビー警部「ああ、だから言いわんこっちゃない!」
チタウィック氏「狙いを定めた階層の、様々な人物になりすまし、新たな環境に紛れ込む。そして……高級クラブなどぬかし、日々遊興にふける高等遊民どもに鉄槌を下す、まさに恐ろしい犯人です!」
モレスビー警部「チタウィックさん、あなたは…」
チタウィック氏、愛らしい笑顔。
チタウィック氏「チタウィック?誰なんでしょうな、その人物とは」
チタウィック氏の素早い動き。モレスビー警部の首筋に注射器を刺す。
●夕刻、アリシアの家。アリシアと彼女の弟。アリシアが外から帰ってくる。苛立った様子でドアを閉じ、新聞(号外2)をテーブルにたたきつける。
アリシア「正直に言って頂戴!ロンドンの黒い毒殺魔、これはあなたの仕業なの?」
弟「(青ざめた様子で)……姉さん、これ見てくれ」
弟が手にしているのは、メイスン社チョコレートボンボンの小箱。
アリシア「ちょっと、それ」
弟「さっき届いたんだ……俺が送った箱に見えるよな……」
弟、メイスン社の用紙を使ったタイプ打ちの手紙を姉に突きつける。
アリシア「ああ、いったい、何が起こっているのかしら!」
ノックの音。アリシアと弟、不安げに顔を見合わせる。アリシア、おそるおそるドアを開く。
アリシア「…あら、どなたかと思いました。なんて格好……もうお加減はよろしいんですの?」
チタウィック氏が立っている。その無邪気な笑顔。
アリシア「…妙ね、チタウィックさん、どうしてこの家をご存じなのかしら…」
チタウィック氏、郵便配達夫の衣装を着ている。
チタウィック氏、満面の笑顔。
了。
(アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件」創元推理文庫、クリスチアナ・ブランドが「『毒入りチョコレート事件』第七の解答」ー「創元推理1994/Spring」収録。を参考にしました。ブランドのネタに触れています)
クリスチアナ・ブランドによる「毒入りチョコレート事件」第七の回答の出来事があった後、翌朝の出来事。
●毒入りチョコレート事件本編の翌朝。
英国の新聞見出し(号外1)「号外!「犯罪研究会」の面々、毒シャンパンに倒れる!」「生存者チタウィック氏、搬送先病室にて恐怖の一夜を語る!」同新聞本文「ベンディックス夫人毒殺事件を独自に捜査していた民間団体、犯罪研究会にて、「ある達成」を得たために主催者ロジャー・シェリンガム氏によって振る舞われたシャンパンに毒素が混入。同メンバーであるロジャー氏本人、刑事弁護士チャールズ・ワイルドマン卿、劇作家フィールダー・フレミング氏、推理作家モートン・ハロゲイト・ブラッドレー氏、四名が死亡、同メンバーであるアンブローズ・チタウィック氏はアルコールに弱い体質のため飲酒後すぐ嘔吐、その一命を取り留めた」(号外2)「スコットランド・ヤードはメンバーで唯一毒シャンパンを飲まなかった小説家アリシア・ダマーズ氏を緊急任意同行し取り調べるも嫌疑不十分で釈放!」
●同日午後、チタウィック氏のいる病室。面会謝絶の札。
モレスビー警部「ロジャーが!まさか、彼が犯人だったのか!」
チタウィック氏「いえ、きっとシャンパンはどこかですり替えられたのです。黒い毒殺魔は恐ろしく巧妙です」
モレスビー警部「黒い毒殺魔!なんですかそれは!」
チタウィック氏「私が末席を汚している犯罪研究会。学識優れた参加者の皆様は、ベンディックス夫人毒殺事件を推理している過程で、きわめて類似性の高い事件を例として発表されました。それは恐るべき数でした」
モレスビー警部「そうです。ここ最近、ロンドンでは確かに毒殺事件が多発しています」
チタウィック氏「個別の事件ではありません。警部、ロンドンには黒い毒殺魔が跳梁しているのです。それが、我が犯罪研究会の結論でした…」
モレスビー警部「しかし、それらはすでに解決…まさか、貴方は全て冤罪だとおっしゃるのか!」
チタウィック氏、ゆっくりとうなずく。
チタウィック氏「警部、あなたがはじめにおっしゃっていた、悪魔的な知性を持つ、偏執的殺人狂による犯罪、それこそが正鵠を得ていたのです」
モレスビー警部「ああ、だから言いわんこっちゃない!」
チタウィック氏「狙いを定めた階層の、様々な人物になりすまし、新たな環境に紛れ込む。そして……高級クラブなどぬかし、日々遊興にふける高等遊民どもに鉄槌を下す、まさに恐ろしい犯人です!」
モレスビー警部「チタウィックさん、あなたは…」
チタウィック氏、愛らしい笑顔。
チタウィック氏「チタウィック?誰なんでしょうな、その人物とは」
チタウィック氏の素早い動き。モレスビー警部の首筋に注射器を刺す。
●夕刻、アリシアの家。アリシアと彼女の弟。アリシアが外から帰ってくる。苛立った様子でドアを閉じ、新聞(号外2)をテーブルにたたきつける。
アリシア「正直に言って頂戴!ロンドンの黒い毒殺魔、これはあなたの仕業なの?」
弟「(青ざめた様子で)……姉さん、これ見てくれ」
弟が手にしているのは、メイスン社チョコレートボンボンの小箱。
アリシア「ちょっと、それ」
弟「さっき届いたんだ……俺が送った箱に見えるよな……」
弟、メイスン社の用紙を使ったタイプ打ちの手紙を姉に突きつける。
アリシア「ああ、いったい、何が起こっているのかしら!」
ノックの音。アリシアと弟、不安げに顔を見合わせる。アリシア、おそるおそるドアを開く。
アリシア「…あら、どなたかと思いました。なんて格好……もうお加減はよろしいんですの?」
チタウィック氏が立っている。その無邪気な笑顔。
アリシア「…妙ね、チタウィックさん、どうしてこの家をご存じなのかしら…」
チタウィック氏、郵便配達夫の衣装を着ている。
チタウィック氏、満面の笑顔。
了。