シアトルの町を散策し終えた私達はホテルに帰り、 前日コンビニで買って来た食料
の残りを食べながら日本に帰る支度をしていた。 A子ちゃんが「叔母さんにお礼の電
話をしなくちゃ。」と言ったので、 「私も。」とついて言った。 電話は部屋には無くフロ
アの廊下の壁に付いていた。 電話を掛けようとするとまたもやアイロンの子とは別の
白人の女の子が話しかけてきた。 今度は何を言っているのかさっぱり分からなかっ
た。 「ここに書いて。」とA子ちゃんが持っていた自由帳とボールペンを女の子に渡し
たが、 ミミズの這った様な字で二人で解読しようとしたけど無理だった。 女の子は
首をすくめて自分の部屋に入って行った。 「もうちょっときれいな字で書きなさい!」
A子ちゃんは少し怒っていた。 それにしてもなんでそんなに私達に興味津々だった
のか未だに謎、 言葉さえ出来てればなぁ・・・あの女の子達と仲良くなれたかも知れ
んのに。 叔母さんにはちゃんと電話が繋がり
お礼も言えたしさよならもした。 A子ちゃんが「今度はそれぞれの家に電話してみよ
う。」と言ったので、 「よっしゃ!」と部屋に戻りガイドブックの「国際電話の掛け方」の
ページを開き、 頭に入れた。 ちょっと楽しくなっていた二人。 念の為ガイドブックも
持って「それっ!」と部屋を出て電話の所へ。 後ろでドアがパタンと閉まる音。 「あー
っ! かぎー!」 やっちゃった。 オートロック、 鍵は部屋の中、 パニック! とにか
く急いで1階のフロントへ。 分かってはいたけど、 4時過ぎているので電気も消され
声を掛けても誰もいない。 どうしようもなくただフロントの前でうろうろしていた。 何故
だかそこへ、 フロントの隣に有って目覚まし時計等を客に貸し出す部屋の若い女性
従業員が帰って来た。 天の助け! 二人でその人に駆け寄った。 でも何と言え
ば良い? 私達は日本語混じりで「きーが。」「かぎが。」と言うばかりで、 その女性は
「何?」とキョトンとしている。 私は「あっ!」と思いついて大声で言った。 「キー イン
ザ ルーム!」 彼女は「ん?」と少し考えてから、 「Ohー!」と言いクスクス笑いなが
ら人差し指と親指で丸を作った。 それからすぐにフロントに合い鍵を取りに行ってエレ
ベーターで一緒に上がり部屋の鍵を開けてくれた。 私達は女性に「サンキュー、 サ
ンキュー。」と感謝しまくった。 彼女はエレベーターの中でずーっと、 鼻から口を手
で覆いクスクス、 クスクス小さく肩を揺らして笑っていた。 「また、 笑われちゃった
ね。」 「もう、 慣れたわ。」 部屋でぐったりしていたが、 本来の目的を思い出した。
「家に電話、 電話。」 今度は鍵をしっかり持って。 まずA子ちゃんの家から。 交
換手の人に「コレクトコール プリーズ」と言い電話番号を言う、 受話器の向こうで
A子ちゃんちのベルが鳴っている。 もしもしとお母さんの声。 交換手が英語で「コ
レクトコールですが繋げて良いですか?」とお母さんに聞いている。 「なにー? な
にー? なにこれー! ちょっと-、 どうするのー!」 ああ、パニック起こしちゃっ
た。 A子ちゃんが大きな声で「私、 私、 イエスって言えば良いの、 イエスって
言って!」、 お母さんが「えっ! イエス。」と言ってやっと繋がった。 次は私の家、
電話を取ったのは弟。 よしっ! 交換手の英語の問い掛けに、 高校生の君は
さぁどうする? 「えーっとぉ、 うーんとぉ。」 おーっと、 残念。 私も大きな声で
「イエスって言えば良いんだよ、 イエスって!」 弟「イ・エ・ス。」 面白くなってつ
い弟で遊んでしまった、 さっきまで自分がえらい事になっていたのに。 今なら
ケイタイが有るからこんな事しなくても良いんだなぁ。 次の日、 私達は色んな
思いを持って日本に帰って来た。 まだもう少し、 叔母さんの家にもシアトルに
も居たかった。 夏休みが終わり大学の授業が始まると何となく変な自信が付
いていたのは何故だろう。 英語が出来るようになった訳でも無いのに。