ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

キル・バレンタイン あとがき

2010年06月02日 22時49分44秒 | 小説
えー・・・なんとか書き終えたな。

どうもキョッピーです。お疲れ様でした。

まあこのあとがきまでたどり着く人がいただけでも奇跡ですね

素晴らしい。頑張った俺。



まあ、このネタはバレンタイン後に思いついたんですが・・・

何せ書き始めたのが学年末考査前というね

しかも考査中も懲りずに書き足し・・・

ホワイトデーの今日に完成です

時期的にはちょうどよかったかな



このブログにある俺の小説って、

ほとんど考査前後に書いてたりしますね

精神的にアレなのかも

ということは、文章を書く人はみんな精神が逝っちゃっt・・・

いえ、何でもありません



さて、まともなあとがきを始めよう。


バレンタインに「リア充爆発しろ」って思ったのが最初ですね

自分の文章の中でいいからリア充を懲らしめてやろう、と。

悲しい考えですね、ハイ


最初の段階では、毒の餌食になるNは死んじゃう設定だったんです

「リア充は毒でも食って死んでください」ひゃっほう!

・・・でも流石に高校で殺しってのはどうかと思ったし

何より内容がシェイクスピア並の悲劇になるのでやめました



バレンタインを題材にすると、

自動的に恋愛を組み込まなきゃいけないんですよね

俺には無理だ(キリッ

と言いながら疑似的に織り交ぜてはいますが



今回は珍しくキャラを濃い目にしてみました

主人公のSはどことなく俺を連想するかもしれませんが


この小説はフィクションです

作中の人物・団体は実際のものとは一切関係ありません



Tはとりあえず完璧な感じに仕上げて

非リア充で終わってもらいました

イケメンざまあwww


キャラ設定を見て「あれ、これ○○のことじゃね?」と思うなら

多分それは俺の潜在意識が表れているんでしょう

しかしあくまで


この小説はフィクションで(ry

作中の人物・団体は実際のものとは一切関係ありませ(ry




とりあえずこれにて終了

お疲れ様でしたー


2012.3.14


キル・バレンタイン⑦

2010年06月02日 22時49分42秒 | 小説
玄関先に立つ3人の間に沈黙が流れた。

どこからか犬の遠吠えが聞こえてきた。


「お前は、TとHが付き合っていると勘違いしていた。

だからHの持っていたチョコレートに毒を仕込んだわけだ。

でも実際は、Hと付き合っているのはN。

毒入りのチョコは、お前の知らないうちにNの手に渡って・・・」


Mはすっかりだんまりを決め込んでしまった。

これじゃ犯人確定も同然だな・・・認めさせるのは難しいけれど。

まあいいか、俺の目的は犯人を突き止めるだけだから・・・



「・・・はぁ」


Tは腑に落ちないのか、不服そうな顔をしている。


「何だよT、せっかくいい感じでまとめたのに」

「おかしくないか?俺を狙うなら、わざわざこんな面倒で、

しかも他人に渡るリスクもある方法なんて使わなくても・・・」

「あーもう、分かった分かった。お前もめんどくせーな。

あらいざらい詳しく話してやるよ」



俺は夜空を見た。いつの間にか月が昇っていた。


「じゃあ、あの日の出来事を整理するぞ。

まず朝、M――いや、ここは一応「犯人」とするか。

犯人は、教卓にあの怪しい文章の書かれた紙を仕込んだ」

「・・・そんなとこ見られたら疑われるだろ」

「簡単だよ。前の日に教卓の上に一緒に何枚か紙を置いとけば、

怪しい文書を混ぜてもなかなか気付かれない」

「じゃあ何のために?」

「まあさしあたり、クラスの注目を俺に向けさせるためだろうな。

前の日の俺の言葉を聞いて、とっさに思いついたんだろ」


俺はあの日の周囲の視線を思い出し、体中に虫唾が走った。


「そしてその後、Kがクラス中に義理チョコを配った」

「ノロ付きのな」

「そのチョコは、Tの手元にも渡った。

この時点では、犯人はそのチョコに毒を仕込もうとしてたんじゃないかな。

あの日は午後に体育の授業が予定されてたし、

着替えのどさくさに紛れて仕込む予定だったんだろう」


Mの目がまた泳いだ。図星か。



「ただ、ここで犯人の予想外の事が起こった」

「食中毒、だな」

「犯人もKのチョコレートが原因だととっさに気付いたはずだ。

これは犯人にとって致命的だ。そいつも相当慌てただろう。

Kのチョコは検査のために回収されるだろうし、

下手をすればこのまま残りの授業が流れてしまうかもしれない。

Tに毒を盛るためのチョコがないばかりか、

毒を仕込むタイミングも失った」

「計画は破綻した、というわけか」


Tも段々納得してきたようだ。


「だが、次の機会に懸けようにも来年のバレンタインデーまで

丸1年も待っていられない・・・」

「何もバレンタインにこだわらなくても、弁当に入れればいいんじゃ」

「馬鹿、弁当なんかに入れたら、学校中大騒ぎになるだろ。

チョコに仕込めば、帰って一口かじったところで・・・バタン」


TはMをちらりと見た。Mは相変わらず黙っている。

気にせず続ける。


「そんな中、犯人の目にとまったのがHだ。

Hはあの日学校に遅れてきた。だから、まだチョコレートはカバンの中。

そして、食中毒でクラスは大混乱。この状況を利用する手はない。

そこで犯人は、苦肉の策に出た」

「Hのチョコレートに、毒を仕込むわけだな」

「そう。犯人は混乱に乗じて、Hのカバンを開けた。

もちろんその中には結構な量の義理チョコが入っている。

そして、寝坊して朝渡しそびれた、Nへのチョコも・・・」



もうTも分かっただろう。俺はニコニコしながらTを見た。


―――・・・えっ


Tはまた考えこんだ顔をしている。嘘だろ。


「犯人はー、HがTと付き合ってると思ってたわけだからー、

本命のチョコに毒を入れるよなー。

義理と本命の違いなんて、赤の他人でも一目で分かるしー」


俺はわざと嫌味ったらしく付け足したが、Tはまだ考えている。


「お前、鈍いのか?お前ってそんなに鈍かったか?」

「いや、お前の話は分かったんだけど・・・」



ここで突然、Mが口を開いた。


「あのさぁ、さっきから聞いてて気になったんだけど、

Sの話の中に、僕がやったっていう根拠が一つも無いんだけど」

「そうそう、俺もそれが言いたかったんだ」


何だ、説き伏せられて黙ってたわけじゃなかったのか・・・。


「根拠ならあるぜ。あの日のお前の言葉だ」

「・・・何か言ってたか?」

「ああ、Kが配ったチョコを何人かが食べ始めた時にな」


Tは思い出そうとしているのか、また考えだした。


「駄目だ、思い出せない」

「Mはこう言った。『帰ってから食べろよ』ってな」


Mの表情が明らかに変わった。


「あの時、何か違和感があったんだよな。

自分が家で食べるにしても、どうして他人にもその場で食べないように言うのか」

「確かに不自然だな」

「答えは簡単、食べられたら困るからだ。

もしお前もチョコを食べちまったら、毒を仕込めないだろ」

「・・・あっ」


今度こそMは黙りこくってしまった。

危なかった、何か間違いがあったかと思った・・・


Tの顔が徐々に険しくなってきた。

俺はMを睨みつけて言った。


「呆れた奴だな、こんなことで赤の他人を殺しかけるなんて。

お前に何の事情があって毒を盛るなんてことしたのかは知らねーけど、

お前のやったことはバレンタインへの冒瀆だぞ、ボートク」


俺はここ一番の決め顔でMに吐き捨てた。


「チョコレートに謝れ!」

「・・・いや、それ違うと思う」



ここぞの場面で大恥をかいた俺を押しのけ、Tが前に出た。

TはMにゆっくり歩み寄ったかと思うと、突然右頬を殴った。


「俺に用があるなら、直接来い。関係ない奴を巻き込むな」


なんて格好いいんだT。これが俺とTとの違いって奴なのか。

TはMの胸倉を掴んで、もう一度殴った。


「今のは、お前が傷つけた奴の分だ」


Tは茫然とするMを尻目に、家の門を出た。

俺はニヤニヤ笑いを押しとどめながら、Tの後を追った。


「一発じゃなかったのかよ」

「気が変わったんだ」

「ふーん」

「・・・何だよ」


俺とTは、夜道をゆっくり歩いていった。

欠伸を一つした俺に、Tは呼びかけた。


「やっと帰って寝れるな」






翌日、Mは警察に出頭した。

M自身、赤の他人に害を与えたことにショックを受け、

精神的にもかなり追いつめられてたらしい。


Nは治療が峠を越え、意識も戻った。

Hも疲れていたのか、安心して気が緩んだのか、

それとも病院でウイルスをもらってしまったのか、

急にインフルエンザで寝込んでしまった。

症状は大したことないらしいが・・・。


TにHとNとの関係の事を尋ねてみたところ、

これからも温かく見守っていく・・・らしい。

本当だろうか?

その時のTの目は、心なしか寂しそうだった。



そして今日も俺はいつも通り、家路を急いでいる。


余計な発言でTを困らせ、

クラス中から非難の視線を受け、

何かにつけてはめんどくせーと呟く、

いつもと何ら変わらない一日だった。


ただ、今日は一段と寒い。

俺は無意識にポケットに手を突っ込んだ。

ポケットの中で、何か角ばったものが手に当たった。


・・・そういえば、チロルチョコ入れっぱなしだったな。

俺はポケットの中身を取り出した。



俺の手には、チロルチョコが2個。


・・・ん?

俺が買ったのは1個だけだったはず・・・

誰かが入れたのか?


「・・・毒入ってたりして」


俺は思わず呟いた。とがめる視線はここにはない。



「まあいいや、めんどくせー」


俺はチロルチョコの包装をはがし、

まとめて口に放り込んだ。



キル・バレンタイン⑥

2010年06月02日 22時49分41秒 | 小説
俺は、ある場所へと向かっていた。

前を歩く俺についてくる形になっているTが、

しびれを切らしたのか食ってかかってきた。


「おい、どこへ行くんだ。何か言えって」

「待て待て、まだ確信もしてないのに気安く言えるかよ」

「・・・普段は必要無いことしか言わないくせに」



Tはそのまま話し続けた。


「そういえば、気になってることがもう1つあるんだけど」

「どーぞ」

「お前の話じゃ、バレンタインの由来は

バレンタインって人が処刑された日なんだよな。

どうしてバレンタインって奴は死んだんだ?」


よくぞ訊いてくれた。話してやろう。


「まず、古代ローマでは2月15日に祭りが開かれていた。

祭りの前日――つまり、今で言うバレンタインデーだな――に、

女性が自分の名前を書いた札を入れ物に入れておく。

祭り当日、男がその中から1枚引く。

その祭りの間は、くじ引きで選ばれた男女が一緒にいることになっていたんだ」

「ははぁ、だから愛を誓うみたいな日になったと・・・」

「そのローマで、確か皇帝だったかな・・・とりあえず何か偉い奴が、

兵士同士の結婚を禁止したんだ。兵士の士気が下がるってな」

「・・・で?」

「そんな中、司祭だった聖バレンタインが、兵士を秘密裏に結婚させた」

「かっこいいじゃん」

「しかしそれはすぐに明るみになって、バレンタインは捕えられた。

そして2月14日、処刑された。祭りの生贄としてな」



話し終えて、俺はTに訊いた。


「どうして今更?」

「あの日の朝あった文章、あれもヒントになるかと思って」

「俺は始めっからそんなこと考えてなかったぞ。

Nが誰かをかばって毒を食った・・・なんてドラマチックな展開あるか?」



俺は満足して歩き出したが、Tは続けた。


「てっきりそのバレンタインってのが禁断の愛でもしたのかと・・・」

「俺の言ってたことだけ聞いたら、そう思うかもな」


もしかすると、犯人もそういう勘違いをしているのかもしれない。

・・・そんなわけないか。




もう辺りは真っ暗になっている。

2月の寒さが身にしみる時間帯だ。

これで風邪ひくなんてシャレにもならない。早く終わらせよう。



俺は今日3度目のインターホンを押した。

・・・いや、Oの家で2回押したから4回目か。


「はーい」


母親と思われる声が聞こえてきた。


「すいませーん、○×高校のSですけども」

「あ、そうですか。ちょっと待ってて下さいね」


このお母さんも、これから大変だろうな。

そう思うと、自分の行動に少し引け目を感じた。


「おいS」

「何だ」

「ここに来たってことは、こいつを疑ってるのか」


Tは寒さで震えながら表札を指差した。


「疑っちゃ悪いのか」

「いや、俺にはこの先が読めないから・・・しかし寒い」



しばらくすると、玄関から人が出てきた。


「おいおい、こんな時間に、2人そろってどしたの?」

「いやー、そんな大した話じゃないんだけど」


俺はニヤニヤ笑いを作った。



「Nに毒盛ったのお前だよな、M」




TとMは、「はぁ?」というような顔で俺を見た。


「・・・どうしたM、反論しないのか?」

「いやいや、言ってる意味が分からないだけで」


Tは呆れた表情を見せている。

いきなり犯人扱いした発言は今までなかったから、無理も無い。


「冗談で言ってるんだよな」

「俺の顔を見ろよ、冗談で言ってると思うか」

「ああ、思う」


・・・このニヤける癖、どうにかした方がいいな。



「大体僕はNって人をニュースで初めて知ったんだぞ。

会ったことも無い人に毒盛る訳ないだろ」

「そう、お前はNなんて奴は知らない。会ったことも無い。

もちろん恨みを持つ訳も無いよな。

当たり前だ、だってお前は初めからNなんか狙っていなかったんだからな」


Tの表情が真剣になった。


「・・・それ、どういう意味だ?」

「まーだ分かんないのか、めんどくせーなぁ」


俺はMの方に向き直って言った。


「Mは、勉強もスポーツも何でも出来るよな。

羨ましいなー。俺ももう少し運動できれば、

クラスでの扱いも少しは良くなると思うんだけど・・・」

「大したことないよ、Tとかに比べたら」


俺はここぞとばかりに得意の嫌味をぶつけた。


「そうだよなー、お前はTに全面的に劣ってるよな」

「・・・・・・・・」

「おい、だから余計なことを・・・」

「普通だったらお前は学年でもトップぐらいだろうに。

小中学校じゃ、お前もクラスのリーダーってところだったんだろ?

プライドってのも相当高いんでしょうねー」


Mは黙ったままだ。

俺はニヤリと笑った。心から。


「知ってるぞ、お前が嫌いそうな奴。

何でもかんでも完璧すぎて、非の打ちどころがない。

でも、そのつつく隙も無いのがイライラする・・・そんな奴をな。

まあ、感情が顔に出やすいっていう欠点はあるけど・・・」


Mの目が泳いだ。

Tはまだぽかんとしている。

仕方ない、駄目押しだ。


「Mってさー、街中で男女2人で歩いてるの、

あれ全部付き合ってると思ってるんだろ?」


Mは目を逸らす。


「そのセリフ、俺が言った・・・もしかして」

「やっと分かったか、T」


俺はTに満面のニヤニヤ笑いを見せた。



「そう、T、お前だ。Mに狙われてたのは、お前なんだよ」





⑦へ続く・・・


キル・バレンタイン⑤

2010年06月02日 22時49分40秒 | 小説
日も沈みかけた頃、俺は病院に着いた。

Tによれば、Hは今病院にいるという。

Tは、後で遅れて行くと言ってどこかへ行ってしまった。



院内に入ると、待合にHが座っていた。


「あれ、S君1人だけ?」

「何かTの奴遅れてくるってさ」

「ふーん・・・」

「N君はどう?大丈夫なの?」

「今は落ち着いてるけど、今夜が峠だって」

「・・・そんなに酷かったのかよ」


俺は今までの数々の発言を心から後悔した。


「そうだ、N君の事聞きたいんでしょ」


「N君」という言葉に俺は引っ掛かった。

Tに「君」を付けないのは、それほど気が知れているというわけか。

今思えば、俺はどうしてTとHが付き合っているなんて思ってたんだ?


「あー、まあそうなんだけど・・・」


俺はあやふやな答えしかできなかった。

Tがいない場で話せば、どんなことを口走ってしまうか分からない。


「Nをぶっ殺そうとする奴に、心当たりない?」


・・・ほら、こんな風に。



Hは普段のように反抗的な態度を取らず、答え始めた。


「私の周りでは特に・・・。O君も言ってたんでしょ」

「Oは事故じゃないかなんて言ってたけどな」

「でも、私もそうとしか思えない。それくらい、N君性格いいもん」


・・・ノロケか?そうなのか?


「その性格の良さをねたむ奴がいるとか」

「・・・そんなのある?」

「他人を羨ましく思って行動に出る、ってことなら分からないでもない」


羨ましく思う・・・。

俺の頭に一人の顔が浮かんだ。



「すまん、遅くなった」


Tが待合に駆け込んできた。


「あ、もう話は済んだ。行こう」

「え?S君、まだ話し始めたばかりじゃん」

「いや、もう大丈夫。それに、今俺達が邪魔しちゃ悪いだろ」


Hは少し俯いた。やっぱり、あっちが気になるよな。


「ごめん、ありがとう」


Hは小走りで奥へ入っていった。

案内表示の矢印には「ICU」と書かれている。


「へぇ、Sもたまには人の事気遣うんだな」

「うるせーな」


そういえば、俺はNの顔を見たことがない。

顔も知らない他人のために、こうやって調べて回っていると思うと

何か強烈な違和感を覚えた。




俺とTは病院を出た。日はすっかり落ちている。

Tは早速俺に食いついてきた。


「本当に何か聞けたのか?そのために来たんだぞ」

「・・・ああ、聞けたさ」


俺は取り繕うような言い方をした。


「分かりやすい言い方だな、まあいいだろ。

Hも何だかんだでNが心配だったみたいだし・・・」

「・・・なあ、ちょっと思ったんだが」

「何だ?」

「まさかとは思うけどー・・・」


目の前のTを見た。何かをしでかしそうな雰囲気は全く見られない。

俺の考えが揺らぐ。

だが、ここで思い切って言うしかない。



「もしかして、お前がやったんじゃないよな」


「はぁ?」


Tの声が裏返った。

そんなこと予想だにしていなかった、という風にぽかんとしている。


「だってOもKも毒を入れるような動機が無いし、

Hもあの様子だろ・・・それなら、残ってるのはお前だけだ」

「待てよ、俺が犯人捜そうって言ったんだぞ。そんなバカな話があるか」

「それにお前なら毒を盛る理由が思いつくしな」

「あのなぁ、俺はNとはほとんど話したことも無いし・・・」

「話してなかろうが関係ねーな」


俺はニヤッと笑ってTに突き付けた。


「お前の今日の言動見てたら誰だって分かるよなー。

Hの事が話に出ると急に敏感になる」

「何が言いたい」

「だから、お前がNに嫉妬して、Hが持ってた本命チョコに・・・」




ん?


本命?



「ふざけんなよ。俺がそんなことすると思うのか、お前は」



そうだ、毒が仕込まれてたのは本命のチョコレート。

それをHがNに渡した・・・



「・・・S、聞いてんのか?何か言えよ」

「おいT、お前がHから義理チョコもらったよな」

「え?あ、まぁ・・・」

「それ、HがNに渡したのとは別だったか」

「そりゃそうだよ、義理と彼氏用だぞ」


俺の頭には、数人心当たりのある人物がいた。

えーっと、確かあの時・・・



俺ははっとした。そうだ、あの時だ。



「どうした?何か思いついたか?」

「ああ」

「そりゃ良かった、話せよ。明日また調べよう」

「いや、今から行く」


今日は帰って寝るつもりだったのか、

Tは意表を突かれたように怪訝な表情を向けた。


「今日のうちに終わらせた方が、明日ゆっくり寝れる」

「それって・・・分かったのか?犯人」


俺は答えなかった。

Tにはその場で話そう。その方が面白そうだ。

俺はこれから先の展開を考え、思わずニヤッと笑った。



「なーるほど、そーいうことか」





⑥へ続く・・・

キル・バレンタイン④

2010年06月02日 22時49分39秒 | 小説
「さーて、着いたぞ」


俺とTは、ある家の前に立っていた。


俺はインターホンを押した。

反応が無いので、続けざまにもう一度。


「せっかちだな」

「さっさと終わらせて帰って寝たい」



しばらくして、Oが出てきた。

病み上がりにしては元気そうだ。


「どうした2人とも、移してもらいたいのか?」

「あー、それは勘弁してくれ。吐いてまで学校休もうとは思わない」


Oは少しむっとしたが、俺達を玄関の中まで案内した。


「それで、用は何。俺もまだ吐き気残ってるんだよ」

「じゃ率直に言うけど、Nの事は知ってるよな」


Oは大きく溜め息をついた。よりによってそれか、とでも言いたげだ。


「まああいつとは知り合いだぜ、幼馴染だもんな」




俺とTは、教室で話を続けていた。


「実は、犯人の目星は付いてる」


俺はここぞとばかりに得意顔を見せて返した。


「このクラスの誰かだろ」


Tは「え?」というような顔でぽかんとしている。


「どうして知ってんの?」

「考えてみなよ、あの怪文書もどき。

あれがこの事件と関係ねーとでも?」


Tによれば、警察もあの教卓にあった文章の話を聞き、

このクラスに疑いをかけているらしい。

まあ想定内だな。


「もう一つ絞れる。お前がもらった義理チョコには、毒は入ってなかった」

「ああ、事件のことを知るまでに全部食っちゃったからな」

「ということは、Nを狙って意図的に毒を入れたってわけだ。

それなら入れたのはNの事を知ってる奴ってことになる。

Nを知ってる奴なんてこのクラスじゃ限られるよな」

「ああ、それならHも言ってた。多分警察も生徒に事情聞きに来るだろう、って」

「条件に合うのは誰がいる?」


Tは指を動かしながら考え出した。


「えっと、確かOはNと幼馴染らしいし、

Kは共通の友達がいるって言ってたな。

あとは・・・Hだけだな」

「お前はどうなんだ?」

「俺はNの事はあんまり知らねぇ、Hからもそんなに聞いたことないな」


つまり、H以外の2人はどちらも食中毒事件に関わっているわけだ。

この毒チョコと何か関係があるんだろうか?


「よし、そうと決まれば即行動だ。放課後行くぞ」

「えー、金曜くらい帰って寝たい」

「協力するって言ったのはお前だぞ」




・・・というわけで、俺とTはまずOの家を訪れたのだ。


「・・・つまり、俺とKさんを疑ってるってわけね」

「ま、一応ねー」

「・・・軽いな」


Tは俺を横目でちらりと見た。黙ってろ、というわけか。


「お前は、Nの事を一番よく知ってそうだから」

「へー、それならHさんに訊けよ。仲いいだろ」

「後で行く」


Oもなかなかに意地の悪いことを言ってくる。


「俺の知ってる限り、Nを恨むような奴はいないな。

アイツ憎まれないタイプだし、学校でも周りに好かれてたぜ。」

「じゃ、心当たりはないんだな」

「まあ、関係がこじれた・・・ってのなら考えられなくもないけど」


俺はTに視線を向けた。いきなり殴りかかられたらたまらない。

Tは落ち着いてはいるが、多少語気が強くなった。


「それは絶対にない。もしチョコレートから毒が出たら、

一番に疑われるのは渡した奴だろう?

それじゃ、自分が犯人ですって言ってるようなもんじゃないか」


強めの口調で言うTから目を逸らし、

Oは俺に意味ありげな視線を向けてきた。

俺はニヤリと笑みを返した。



「お前らだから特に話すけど、俺はNが誰かにやられた、とは思えないんだ」


Oは真面目な顔で言った。


「要するに、もしかしたら事故じゃないかってこと。

俺の食中毒みたいに、どこかでたまたま毒がついたとか」

「ふーん、でも人が死ぬような毒、バレンタインのチョコにつくか?」

「それは・・・まあないな」


俺はOの説を速攻で潰した。ウイルスで頭が春なのかもしれない。


「今のは気にしないでくれよ、ただの思いつきだし」

「言われなくても気にしない」




俺たちはOの家を後にし、電車でKの家へ向かった。

Kの家は俺の家の近くだから、場所もよく知っている。


「あのさぁ、Kって昔どういう感じだったの?」

「陰キャラ」

「・・・答えが速いな」


結局、Kからはろくに話を聞けなかった。

テメェは口を開けばろくなこと言わないから、らしい

俺は慣れているから平気だったが、

Tは普段のKの口調とのギャップに恐々としていた。

俺は個人的に、ああいう荒い口調のKの方が好きなんだが。




「あとはHだけか」


Kの家からそのまま帰る気でいた俺は、不意を突かれて思わず反論した。


「いや、Hもまだ心の整理ができてないんじゃ・・・」

「さっき連絡しといた」


Tは携帯電話を俺に差し出した。

Hからのメールには「大丈夫」と書いてある。

俺はTに聞こえないよう小声で愚痴をこぼした。


「えー、めんどくせー・・・」





⑤へ続く・・・



キル・バレンタイン③

2010年06月02日 22時49分38秒 | 小説
俺は息を切らしながら教室に入った。



いつもは賑やかな朝の教室も、

この日ばかりは気味が悪いほど静かだった。


昨日のノロウイルス騒ぎで休んでいる5人、

騒動を起こした張本人のK、

そしてHの席が空いている。

7人もいなければ、静かなのもうなずける。


「お、S間に合ったんだな」

「畜生、てっきり学級閉鎖だと思ってたのによ・・・」

「まあ5人じゃギリギリってとこだな」



自分の席に向かうと、Tが浮かない顔で待っていた。


「どうした?休みにならなかったのが残念なのか?」

「・・・・・・・・・・。」


明らかに様子がおかしい。ここまで分かりやすい性格も珍しいな。


「黙ってないで何か言えよ」


その言葉を待っていたかのように、Tは話し始めた。


「昨日のニュース、知ってるよな」

「ああ、隣の高校の奴がチョコに毒盛られたってな」


クラス中の耳が俺の言葉に反応した。

まあそうだろう、昨日の事があるから敏感なはずだ。



昨日近くの高校で、事件は起こった。

男子生徒が他校の女子高生から受け取ったチョコレートを食べたところ、

意識不明となってそのままICU・・・という流れだ。


正直に言うが、俺は「他校の女子高生から」という言葉が印象的で、

彼女に毒殺されそうになるなんて昼ドラかよ、と笑っていた。

そんな修羅場がこんな近くで起こるとは。



「その重体になってるNって奴がな、Hの彼氏らしいんだ」



・・・ん?

俺は何か違和感を覚えた。


「それでHがNに渡したチョコを調べたら、毒が入ってたそうだ。

Hも当然警察で事情聞かれてな。

もちろん疑いはすぐ晴れたぜ。彼氏に毒盛るわけないし。

でもな、自分が渡したせいでNがこんなことになったって責任感じてて、

精神的にかなりまいっちまってるん・・・」


「え、ちょっと待て。Hとお前って、付き合ってるんじゃなかったの」

「はぁ?何言ってんだお前。そりゃ仲はいいけどよ、それだけだぞ」


ということは、俺はずっと勘違いをしていた訳か。

俺の今までの嫉妬って一体・・・。

ついでに、それと知らずにテレビの前で笑っていた俺って一体・・・。


「まさかSって、街中で2人で歩いてる男女、全員付き合ってると思ってんのか?

んなわけねぇだろ、もうちょっとその子供っぽい考え改めろ」


・・・図星だ。こいつには口ではかなわない。



「俺の義理チョコには毒入ってなかったから、不幸中の幸いかな」

「はいはい分かった、それはよかったねー。ご愁傷さまでーす」

「お前いくらなんでも不謹慎だぞ、Nって奴死んでないからな」


そうか、これは人の命がかかってるんだ。



「で、何なの。俺にHの近況報告されても困るぞ」

「そうだそうだ。それで、折り入って頼みがあるんだが・・・」

「『傷ついたHの心を、S君の温かい言葉で慰めて・・・』」

「毒盛った犯人を探すの手伝ってほしいんだ」


おいおい、無視かよ。


「そういうのは警察の仕事です、探偵ごっこは幼稚園まで」

「それくらい分かってる。警察もバカじゃないし、そのうち犯人も捕まると思う。

だから、警察より早く犯人を突き止めたいんだ」

「警察より先に犯人を捕まえて『高校生お手柄』・・・」

「Hの代わりにそいつを一発殴ってやりたい」


・・・少しぐらい突っ込んでくれてもいいだろ。


「何だその漫画みたいなヒーロー精神。

そんなバカらしいことに付き合ってられるか、めんどくせー」

「頼むって、お前ぐらいまともじゃない奴の方がいいと思うんだよ」

「・・・それ、褒めてるつもりか?」



確かにHは気の毒だと思うし、どうにかしたいとは思うが、

他人のヒーロー気取りのために使う労力なんてない。

めんどくせーことには関わらないのが一番・・・



Tはじっとこちらを見てくる。

脅迫的ではないが、何か訴えかけるような目をしていた。


―――ははーん、そういうことね


俺はTの言わんとすることが何となく理解できる。

思わずニヤリと笑いがこぼれた。



「ったくしょーがねーな、分かったよ」





④へ続く・・・


キル・バレンタイン②

2010年06月02日 22時49分37秒 | 小説
甘ったるい匂いに耐えつつ教室に入ると、

教卓の周りに人が群がっていた。



教卓の上には紙が1枚。

その紙には、ワープロでこう書かれていた。



「今日はバレンタインデー!

聖バレンタインが処刑された日です!

・・・というわけで、今日はそれにちなんで

誰かを処刑してやりたいと思いますっ!

皆さん、お気をつけて!」



クラス中の視線が俺に集まった。


「S、だから余計なことは・・・」

「お、俺じゃねぇって」



全員が気まずい雰囲気に包まれる中、


「そんなの気にしないでさ、ほらチョコ配るよー」


クラス1の美人のKの声で、暗い空気は一瞬で吹き飛んだ。

去年と何ら変わらない、にぎやかな教室。


―――畜生、またアイツはよぉ・・・


俺はKとは小学校の頃から知り合いだ。

普段はあんな感じで明るく見せているが、

根は恐ろしく暗いことを俺は知っている



「まためんどくせー展開になってきたな」


俺は教室の右端の席をちらりと見た。


「そういえばH来てないな」

「本当だ、インフルエンザか?」

「・・・そうならいいのに」

「何か言ったか?」

「いや何も」


Hが休めば、Tにチョコが渡ることも無い・・・

いかんいかん、人の不幸を喜んでどうする。



Kがチョコをあらかた配り終え、調子づいた数人が食べ始めた。


「おいおい、帰ってからゆっくり食べろよ」

「別にいいだろ、いつ食ったって」


先に食べる派のOと、取っておく派のMか・・・。



「・・・毒入ってたりして」


俺は思わず余計なことを呟いた。

だが、今度は俺が睨まれることはなく、

全員の視線がチョコを食べた数人に集まった。


「・・・何だよ、大丈夫だって」


Oはチョコレートをもう一口かじった。


「まだあの紙の内容引きずってんの?考えすぎだろ」


クラス中に安堵の溜め息が漏れると同時に、

今度こそ俺に鋭い視線が集まった。

・・・痛い。




授業はいつの間にか3時間目に入った。

数学担当のRが意味不明な話を続け、

右の席のTが俺にちょっかいをかけてくる。

いつもと何ら変わらない授業風景だ。


「・・・Hの奴まだ来ないな」


Tは後の空席を見て言った。


「まだ来ると思ってんのか、休みだろ?」

「いや、来る気がするんだ」

「ふーん」


何だよ、そのフィーリングみたいなの。

嫉妬して腹を立てるのは人間的にダメだってのは分かってるけども、

俺はそんなに褒められた人間でもないしな。



心の中で自虐を言いながらHの席を見ていると、妙に嫌な予感がした。


―――まさか「処刑」って・・・まさかな


流石にこれを口にすることはできなかった。



そんな心配をしていると、突然後ろのドアが開いた。

そこには、息を切らしたHの姿があった。


「どうしたH、遅刻だぞー」

「すいません、ちょっと色々あって」


Hは素早くTの後ろの席に座った。

俺は少しほっとして、前に向き直る。


「色々って何だよ」

「寝坊よ、それぐらい察して」

「いや、お前が寝坊なんて珍しいからさ」


HとTの会話を右手に聞きながら、Rの間の抜けた声に集中した。

イチャついた会話を聞いてたら、こっちが嫌になる。

しかも今日は・・・



「あ・・・あの先生」


突然Oが立ち上がった。


「ん?どうしたO、トイレかー」


間の抜けたRの声が耳に障る。

そういえばこの声誰かに似てるな。

・・・もしかして俺か?


「あ、すいません・・・」


Oはいつになく弱々しい口調で席を離れた。

顔は青ざめている。


「大丈夫かO、腹壊したのかー?」

「いや、それもあるんですけど、何か気持ち悪・・・」



言うが早いか、Oは突然吐いた。

悲鳴が上がり、騒然とする教室。


「お、おいO、大丈夫かー?」


この状況でも間延びのするRの声が妙に浮いて聞こえる。

すると、教室中から呻くような声が聞こえてきた。


「何だか私も気持ち悪くなってきた・・・」

「僕さっきから腹痛いんだけど・・・」

「は、吐きそう、トイレ行ってくる」



教室内の誰もが、原因の見当がついた。

そしてそのほとんどが、朝教卓の上にあった紙を思い出した。

視線を浴びるのは、もちろん俺だ。


「・・・めんどくせーことになったな」


呟きながら、俺は救急車のサイレンを聞いていた。






「ったく集団食中毒とか脅かすなよ、本当に毒かと思ったじゃねーか」

「食中毒だって怖いぜ、今の時期流行ってるからな」


検査の結果、結局あれはただの食中毒だと分かった。

原因は全員が思った通り、Kのチョコレートだった。

何でもKの弟がノロウイルスにかかっていたらしく、

何かのはずみでチョコレートに菌がついてしまったらしい。


チョコレートで食中毒騒ぎを起こすなんてのもKらしいが・・・

これで学校でのKの地位も終わりだな。

また昔みたいに陰キャラ同士仲良くいこうぜ、と言ったら

KとHに思いっきり睨まれた


「今日の体育のバスケ楽しみにしてたのによ」

「俺としては嫌いな授業が潰れてありがたいけど」

「S運動神経ゼロだもんな」


そういえば、Hはどうしたんだろうか。

普段ならTと帰ってるはずなんだが・・・

まあいいか、あの2人の掛け合いを見るのはもう飽きた。



Tと別れ、家に急ぐ俺の前にコンビニがあった。

俺の家と学校の間にはコンビニが2軒ある。

あまりにも近い場所にあるため、

そろそろ共倒れするんじゃないかとこの辺りではもっぱらの噂だ。


―――何かチョコ食いたくなってきたな。


俺はバレンタインは嫌いだが、チョコレートは大好物だ。

だからこそ、チョコがバレンタインのダシに使われているのが許せない。

まあクッキーだろうと何だろうと甘いものは好きだが。



俺はコンビニに入ると、レジの横に目をやった。

レジに並んだ時につい手に取ってしまうようにという

店の策略で置かれたチロルチョコ。

何だか癪だが仕方ない、一個だけ・・・


レジの店員が俺を変な目で見ている。

まあ予想できたことだ。

俺が店を出て行く瞬間、後ろからクスクス笑いが聞こえた気がした。


―――しまった、こんな日に買うんじゃなかった。



帰り道に買ったチョコを食べようとしたが、

食中毒を目の前で見た後に、手も洗わずに食べる勇気はなかった。

俺はそのままチョコをポケットに突っ込み、家までゆっくり帰った。






翌日、俺達の学校の集団食中毒のニュースは

新聞やテレビでそこそこ大きく報道された。

さらに、学校でのバレンタインについての議論も

数日間度々行われることとなる。



ただ、世間のそういった反応は、

俺達の学校の事件からきたというよりも

他の原因の方が大きかったように思う。




その日の新聞の一面の見出しはこうだ。


「毒入りチョコで男子高校生重体」




③へ続く・・・

キル・バレンタイン①

2010年06月02日 22時49分36秒 | 小説
俺は今日もいつも通り、学校への道を歩いていた。



今日は別に祝日でも何でもない、普通の日だ。

ただ、周りにはどことなく浮ついた雰囲気が漂っている。


学校へ向かう女子の手には、少し大きめの紙袋。

いつも以上に明るい顔もいれば、微妙に曇った表情もある。

一方の男子どもはというと、中には浮かれた表情の奴らもいるが、

ほとんどは何食わぬ顔で、意識していないようなふりをしている。



―――あーあ、めんどくせーなぁ・・・


俺は毎年この日に流れる、甘ったるい空気が苦手だ。

・・・いや、むしろ嫌いだ。大っ嫌いだ。



空気が読めないとか、強がってるとか言われそうだが、

俺は声を大にして言いたい。


「バレンタインとか死ね!!」





話は昨日へさかのぼる・・・



「めんどくせーなぁ・・・」


教室はいつもと変わらず賑やかだ。

女子数人が集まって何やら話をしているのは分かる。

男集団からもそのワードが聞こえてくるってのはどういうわけだ。


そうですとも、明日は2月14日、バレンタインデーですとも。

だからって何だ。ぎゃーぎゃー騒いでバカらしい。



「あのさぁ、その『めんどくせー』って口癖、どうにかなんないの?」

「口癖気にしてたらまともに話せねーよ」


俺は普段、こいつ――これからはイニシャルで「T」と呼ぶことにする――といることが多い。

Tはいわゆる「欠点のない奴」というタイプだ。

勉強は成績のいい部類に入る俺よりできるし、

スポーツに関しても万能、特にバスケはクラブチームに入るほど。

体育で留年しそうになった俺とは大違いだな。

おまけに顔も・・・いや、俺と比べるのはよそう。



「本当はSも(俺のイニシャルは「S」)内心意識してんだろ?正直になれよ」

「だーかーら、俺はいつでも正直だって言ってるだろ」


どうせこの話を聞いてるあんたも、俺が意地張ってるって思ってるんだろ?

この時期に「バレンタインとか興味ねーし」と言ってる奴らの

半分以上は「興味が無いふり」だからたちが悪い。


俺はバレンタインが心底大嫌いだ。

何だ最近は友チョコだとか言って女子同士で交換してるし

その辺で適当に買ったのを無愛想に渡して返しを求めてくるし

あーつまらん。鬱陶しい。めんどくさい。



「女子同士とかお返し期待とかおめでたいよなー!」


俺が声を張って言った瞬間、教室の空気が静まり返った。


気まずい雰囲気がしばらく流れた後、元のとおり騒がしい声が聞こえ始めた。


「・・・S君ってさぁ、そういう余計な一言多いよね」

「Hに賛成」

「Tも大変よねー」


クラスメイトのHにすれ違い様に言われた。

そうかそうか、俺は「君」付けでTは呼び捨てかよ。

HとTの関係からして・・・

だからTは余裕なんだろうな。



俺はどうも空気が読めない存在らしい。

こんな「余計な一言」のせいで、今までどれだけ損してきたことか・・・。

いや、そんな話はこの際どうでもいい。



「どうしてそこまで嫌うんだよ?確かSって甘党だろ」

「あのなぁ、バレンタインデーにチョコなんて日本だけなんだぜ」

「ああ知ってる」

「チョコレート会社の宣伝文句に乗せられてこうなった」

「わかったわかった、知識披露はもういい」


さっきも書いたが、俺は成績はかなりいい方だと思っている。

ただ、学校の授業よりも無駄な知識の方が多い。

それが空気の読めない性格に拍車をかける。

無駄知識をここぞとばかりに話して、場を凍りつかせたことは一度や二度じゃない。

あれだ、「かしこぶっててウザい奴」。自分で言うのも何だが。



「Sが好きだろうが嫌いだろうが、もうこの通り皆染まっちゃってるから」


普段菓子類持ち込み禁止の小学校でもこの日は見逃されてるし、

どうして誰もかれも不自然に思わないんだよ。

大体、インフルやらノロやらが流行るこの時期に食い物交換するとか・・・

駄目だ、考えただけで吐きそう。



一人吐きそうなそぶりを見せる俺に、Tが食いつく。


「それじゃ俺も言うけど、外国じゃ女同士も男から女も贈るそうだぞ」

「・・・そりゃそうだけど、『ホワイトデー』とか問題外・・・」

「はいはいわかったわかった、しょぼい義理を返すのが面倒なのね」

「・・・・・・・・。」


何だこの見透かされてる感じ。


「これが本来のバレンタインだ、諦めろ」

「・・・何を諦めるんだよ」



ここまで説き伏せられて黙ってられるか。


「それなら、バレンタインの由来って知ってるか」

「何だよ、言ってみろよ」



「バレンタインって人が処刑された日」



教室内が凍りついたように静かになった。

女子数人が親の仇でも見るような目で俺を見ている。


「・・・S、もう喋るな」


またやった。俺は大きくため息をついた。


「・・・そうだな」


これじゃあ、明日もろくな1日じゃなさそうだ。




②へ続く・・・


幽霊のパラドックス

2010年06月02日 22時49分35秒 | 小説
ある人に聞いた話だが、

「幽霊はいない」ということを証明することはほぼ不可能なんだそうだ。

だからこそ、現代でも霊媒師という職業が存在できるんだろうが。






-1-



「あそこは出るぞ」


駒井はいつになく真剣に言った。


「あの林か?まあ確かに心霊スポットって噂だけどな」

「あれはマジでヤバい。俺も最初は疑って行って来たんだけどよ」


笹川は椅子にもたれながら話を聞く。


「林の入り口から見たら、奥の方に青白い光が見えてな」

「懐中電灯か何かだろ」

「いや、あのボヤッとした感じは違うな。あんなのは今まで見たことない」


まだ怯えているのか、駒井の声は少しうわずっていた。


「あれ絶対に幽霊だぜ、この目で見たんだから間違いない」



笹川は、こらえきれないという風にクスクス笑い始めた。


「何がおかしい」

「だってさ、この時代に幽霊って・・・正気か?」

「バカにしてんのか」


「俺が幽霊とか宇宙人とかそういうの大っ嫌いなの、知ってるだろ。

最近もさぁ、急に心霊映像とか流行り出して・・・」


笹川は真面目な顔に戻って言った。

駒井も負けじと張り合う。


「じゃあお前は、幽霊はいないって言いきれるのかよ」

「それは・・・」


笹川は言葉に詰まったが、噛みつくように言い返した。


「いないね、絶対に」




駒井と笹川は、中学校からの友人である。


―――「友人」と言っても、相容れない仲ではあるが。


二人は周囲からは似た者同士と言われている。

自分の意見を曲げない頑固さ、それでいて素直に負けを認める潔さ、

どんなことにでも取り組むアクティブさなどなど、

どの点を取っても双子のように同じ。


ただ、そこまで性格がそっくりなのにも関わらず、

二人は一度として意見が合ったことが無い。

例えば、駒井は肉派だが、笹川は魚派。

駒井はアウトドア派だが、笹川はインドア。

駒井はカラオケ命、笹川はボウリング信者。

ここまで意見が正反対(?)なのも珍しい。



そんなわけで、いつもこんな風に水掛け論をしているのだ。



ふーん、と言いながら、駒井は話を持ちかけてきた。


「じゃあ、あの林に本当に幽霊がいるか、賭けてみないか」

「はは、面白いな」


二人とも互いをバカにしたような口調で続ける。


「じゃあ、とりあえず千円賭けるか」

「いや、千円じゃつまらねーな。一万円にしようぜ」


そして3日後、それぞれ証拠を持ってこの食堂で会うことを約束した。






-2-



「・・・という訳なんだけどな」


笹川はヘラヘラしながら事の顛末を話した。



約束を取りつけた時、笹川は内心儲けたと思っていた。


―――幽霊なんかいるわけねーだろ。小学生か。


ただ、それでは駒井を説得することはできない。

何とかして証拠を作らなければ。

というわけで翌日、まずは協力者を呼ぶことにしたのだ。



「へー、お前らって・・・子供みたいだな」


真っ先にもっともな意見を言ったのは木沢。

笹川と駒井の高校からの共通の友人で、

どうでもいいことで言い争う二人を傍観してきた常識人。


「まあ、霊なんかがいるとは思えないけど。誰かが噂流したんだろ」


流石木沢。常識人は言うことが違う。


「でもさぁ・・・本当にいたらどうすんだ?俺あんまり気進まないんだけど」


菊池の腰が引けているのはいつもの事だ。

笹川の幼馴染で、天性のビビり。

大学でたまたま再会した時も、昔と何ら変わりなかった。


笹川が菊池を協力者に選んだのには理由があった。

こんなビビりでも確信を持って「いない」と言えれば、

これ以上ない証拠になると思ったからだ。


「その時は、テレビ局にでも送りつけるまでだな」


笹川は右手に持ったビデオカメラをちらつかせた。

公平な証拠には、なんだかんだで映像が一番。




薄暗くなってきた頃、3人は問題の林へ向かった。


入り口の道から少し入ると、開けた場所からすぐに林が広がっている。

向こう側は草むらになっているが、その先には住宅地があるらしい。

今はまだ奥まで見渡せるが、夜になれば少し先も見えなくなってしまう。


「・・・ほんとに行くの?」

「バカ、一万円かかってんだよ」


菊池をたしなめ、3人は林へ入っていく。


「今置いて朝取りに来れば、バッテリーは持つはずだよな」


木沢の意見で、暗くなる直前にカメラを置くことにした。


まずは奥から入り口側に向けて1つ、

さらに林の左右の端に1つずつカメラを設置

これで、林全体をくまなく見れることになる。


「・・・まるでテレビの企画だな」



こうして準備は完了し、3人は林を後にした。


「これで何も映ってなければ、とりあえずは証拠になるな」


笹川は林で一晩過ごすくらい覚悟していたのだが、

この程度で済んで余裕しゃくしゃくといったところ。

菊池は菊池で、夜中に来ることにならなくてよかったと一安心。

そんな中、冷静な木沢が一言。


「・・・明日撮った映像全部見るんだよな?」




木沢が予想した通り、次の日は朝から地獄だった。


朝一でカメラを回収、すぐにチェックに入る。

映像は夕方から朝まで12時間、しかも3台。

3人でビデオを早送りで回してみるわけだが、とにかく単調作業。

3時間で3人とも完全ダウン、ビデオだけが流れる状態になってしまった。


「・・・これなら真面目にバイトした方が稼げる気がしてきた」

「もう別に見なくてもよくね?どーせ何にも写ってないし」

「夜の林のビデオ3時間とか・・・こっちが幽霊になるっての」



そして、笹川がビデオを止めようとすると、木沢が声を上げた。


「・・・ん?あれなんだ」


木沢が指差す先には、何やらキラリと光るものが写っている。


「ああ、あれは西側のカメラのレンズだろ。ちょうどあそこに仕掛けたはず」

「なんだよ、脅かすなよ・・・」



3人の視線が画面に向かっていたちょうどその時、

画面の奥にふわっと青白い光が見えた。


「・・・・・・ん?」


無言になる3人。


「・・・まさかな」


3人は光が現れた場所をじっと見つめた。


次の瞬間。


「・・・あっ」


今度はもっとはっきりと、不気味に光る影が現れた。


「・・・レンズ?」

「いや、あのボヤッとした感じは違うな。あんなのは今まで見たことない」


笹川は駒井の台詞をそのまま繰り返した。


「あれは幽霊だな、うん」


ゆっくりと揺れ動く様子、怪しく光るその姿、

それはまさに幽霊だった。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・嘘だろ・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・ガクガクブルブル」


3人は茫然としたまま、いつまでも画面を見続けていた。






-3-



笹川のグループがビデオを見た日の夜―――


「ほ、ほんとに行くの?やめといた方がいいって」

「う・・・一万円だからなぁ」


駒井は林の入り口で迷っていた。



駒井は駒井で、「幽霊がいる」という突拍子もないことを証明しなければならない。

一番確実なのは、笹川に幽霊を目撃させることなのだが・・・

尤もこの時の駒井は、笹川がその幽霊を見てしまったことを知らない。


そもそも、駒井がこの林までやってきた理由は別にある。

一時は「一万円賭ける」と言うほど自信を持っていた駒井だが、

冷静になってみると、自分が言っていることに疑問を抱き始めた。


―――あれは本当に幽霊か?俺の見間違いじゃないのか?


そうするうちに不安にかられた結果、

もう一度自分の目で確認しようと思い立ったというわけだ。



「だって私もこの前聞いたよ、林から変な声がするの」

「香田は直接見たわけじゃないだろ」

「・・・疑うの?」


別に疑ってるわけではないんだが。俺も見てるし。

「絶対幽霊いるって!」と肯定派を前面に出していたから呼んだのであって、

好きで香田を連れてきたわけじゃない。


余談だが、笹川と木沢は香田を駒井の彼女だと思っているらしい。

駒井にとっては迷惑な話だ。

ただやたらとくっつかれてるだけなんだけども・・・

そう言うと決まって返ってくる言葉はこう。

「そういうところがリア充なんだよ」



さて話を戻して、林に入っていく駒井と香田。


「えー・・・絶対ダメだって・・・」


・・・これじゃ完全に肝試しに来たカップルだな。

まあ一応証人が増えるってことでよしとするか。


そんなことを考える駒井の前に、早くも待望の光景が現れた。


「・・・あ、で、出たっ」

「え?ちょっと待って、まだ心の準備が・・・」


林の奥に見えたのは、数日前に駒井が見たぼんやりと光る影。

だが改めてみると、前に見た時よりも不気味に、ゆらゆらと揺れている。

2人は思わず声を上げた。


「ちょ、あっけないからもう少し引っ張れよ!」

「文章の尺足りなくなるじゃない!」


2人の言葉とは裏腹に(?)、光る影は少しずつこちらへ近づいてくる。


「た、退散退散!」



逃げ出そうとする2人の背後から、どこか間の抜けた声が聞こえてきた。


「すいませーん、大丈夫ですかー?」



??となる駒井と香田の後ろには、気味悪く光る影。

恐る恐る目を向けると、申し訳なさそうな顔をした若者が立っていた。


「大丈夫ですか?驚かしちゃったみたいで・・・」


はあ、と言ってキョトンとする2人の耳に、何やらぼやく声が聞こえてきた。


「あーあ、変なの写りこんじゃったよ」

「これじゃ台無しじゃんか・・・ったく空気読めよ・・・」


しばらくして、連れと思しき2人の学生がやってきた。


「すいません、ご迷惑おかけして・・・」


いかにも反省しているかのような顔。


―――さっきの声、聞こえてたぞ。


駒井は心の中で呆れかえっていた。


「あのー・・・どういうことですか?」


香田はすぐさま疑問を投げかけた。

カメラを持った若者が、頭を掻きながら答える。


「いやー・・・僕達、大学のサークル仲間なんですけどね。

この林が出るって噂なんで、流行りの心霊写真でも撮れるかと・・・」


もう一人の大学生が話を割って続ける。


「でもね、噂は噂。心霊写真なんて撮れっこないですよ。

で、『ここで撮ったら信憑性出るんじゃね?』ってわけで・・・」


隣の薄気味悪く光る男を指差す。


「こうやって、ボヤーっと光る服作ったんですよ。

え、どうやって作ったかって?いや、ちょっと高校の理科部でかじったのをね」


思わず謝ることを忘れて話し出す若者を制し、光る男がさらに続けた。


「できるだけバレないようにって、裏の方から入って」


指差す先には、林の奥から裏に抜ける草むらがあった。

なるほど、あそこが抜け道になってたのか。

誰もこの3人の存在を知らなかったわけだ・・・

いや、感心している場合ではない。


よく見れば安っぽい作りの服を着た学生が、控えめに付け加える。


「あの・・・このことはどうか秘密に・・・」


なるほど、こいつらは全く悪びれてないってことか。

安心しろ、明日キャンパス中にばらまいてやるよ。


「とにかく、驚かしてしまってすみません。もう二度としませんので」


頭を下げる3人の前で苦笑いしながら、駒井は心の中で呪った。


―――こいつら・・・一万円返せよな






-4-



翌日。


駒井は残念そうにキャンパス内を歩いていた。

幽霊はインチキ。駒井や香田の早とちり。

しかもあの3人が写真を撮りまくっても心霊写真の類いは1枚もなし。

これで、あの林に幽霊なんてものはいないと証明されてしまった。


今思えば、何であんなくだらない事に一万円も・・・

後悔してもしきれない。



一方、笹川は約束の食堂へ向かう途中、願うような気持ちでいた。

自分で置いたカメラに幽霊が写りこんでいた。

逆に相手の証拠を作ってしまった上に、

余計な証人を2人も作ってしまい、墓穴を掘る結果になった。


笹川は正直なところ、駒井が約束を忘れていてくれないかと思っていた。

食堂に行っても駒井の姿が無ければ・・・


だが、その願いはあっさり崩れた。

食堂の2人席で苦笑いする駒井に、笹川は苦し紛れに笑みを返した。



向かい合って座った2人。

互いに何の言葉も交わさず、相手の出方を伺う。


しばらく沈黙が流れた後、

2人はほぼ同時にポケットから一万円札を取り出し、

テーブルに叩きつけて叫んだ。


「参りました!!」





その夜―――


サークル仲間の3人は、相変わらず林で撮影をしていた。

駒井の読み通り、「2度としない」はあっさり破られた。


「あーあ、昨日はリア充に邪魔されるし、

一昨日は変なカメラがあって入れなかったし・・・

今日は面倒なことが起きなきゃいいけどな」


写真の出来を確かめるため、カメラマンのもとに集まる。


「・・・ん?この光ってるの何だろ」


デジカメの画面を指差す先には、ぼんやりと光る2つの影。

1つはもちろん光る服を着た1人。

もう1つは・・・


「多分、服の光が反射したんだろ」

「はは、そうだよな。」

「ったく驚かすなよ・・・」


ひきつった笑いを浮かべる3人の背後を、

微笑を浮かべた、青白く光る影が通り過ぎた。