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横須賀総合医療センター心臓血管外科

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なぜLIQS手術は普及しないのか

2022-04-28 16:50:54 | 心臓病の治療
 

 Less Invasive Quick Openstenting(LIQS)手術は、遠位弓部大動脈瘤に対して、低体温循環停止下に大動脈弓部を切開してオープンステントを挿入し、近位側の人工血管部分を大動脈内側に縫着して瘤を閉鎖する術式である。これにより、オープンステント部分より近位側を弓部置換する必要がなく、低侵襲・短時間に手術可能となる。しかしこの術式の実施施設は少なく、弓部大動脈置換が実施されているのが一般的である。
 LIQSが行なわれない理由として、
①循環停止中の脳血流遮断時間が長くなった場合の脳ダメージのリスク
②視野不良な大動脈内部での人工血管縫着の手技、人工血管を縫着する縫合糸の針穴からの出血リスク
③ブラインド操作での食道や期間の損傷
④エア抜きが不十分になるリスク
⑤先進的なTEVARを実施している施設では、弓部のTEVAR対象となっている
 等が考えられます。

 安全性の高い応用手技としては、
①左鎖骨下動脈を閉鎖し、上行大動脈に吻合した人工血管で左腋窩動脈に再建することで、より近位側にオープンステントを挿入できます
②大動脈切開を長軸方向へ延長することで大動脈内部の充分な観察をしながらの手技が可能となります。
③弓部分枝の選択的脳灌流を併用することで手技に時間的余裕が出来ます。
④左腋窩動脈へ血行再建する人工血管からエア抜きができます。

 より低侵襲な方法として、胸骨部分切開アプローチでも上記の応用により、安全、確実なLIQSが可能となり、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では積極的にこの術式を採用しています。

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (Unknown)
2022-04-28 19:43:14
術後に脳梗塞を合併する頻度はどれくらいでありますか?
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Unknown (gregoirechick)
2022-04-30 00:07:42
 ご質問ありがとうございます。筆者が経験したLIQS症例はまだそれほど多くはありませんので、まだ脳梗塞の症例を1例も経験しておりません。脳保護の手技としては、低体温循環停止(直腸温28℃、咽頭温25℃以下)、弓部三分枝の順行性選択的脳還流を採用し、通常の弓部大動脈置換と同じ手技で行っておりますので、脳梗塞の頻度は通常の弓部大動脈置換と同じと考えております。筆者の今まで経験した弓部大動脈置換の脳梗塞の頻度は2%ほどですので、LIQSに関しても、この頻度と考えていいと思います。やはりShaggy Aortaかどうか、頸動脈病変がないかどうかなど患者サイドの因子に脳梗塞の発生頻度は大きく影響されると思います。通常、LIQS手術は上行~弓部大動脈の性状良好な症例を選択して適応としていますので、性状の悪い弓部大動脈瘤症例は弓部置換をしている、という点からすると、弓部大動脈置換術よりも脳梗塞の発生頻度は少ない可能性も考えられます。
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Unknown (地方の心臓血管外科医)
2022-06-03 17:29:34
質問させて下さい。このLIQSというOSG留置術。2017年頃までは当院でも施行しておりましたが、TEVARが普及した今、debranch、RIBS、もしくはNajitaで全ての症例をcoverできてしまい、特に高齢者には循環停止までしてOSGのみを留置する必要性が無いように感じますが、いかがお考えでしょうか?つまり高齢者では無くてShaggy Aoでは無いものはTAR、それ以外はTEVAR(debranch,RIBS,Najuta含む)でLIQSの立ち位置がわかりません。
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Unknown (gregoirechick)
2022-06-05 00:22:50
 ご質問ありがとうございます。お陰様でご質問に対する返答をするためにたいへん勉強させていただきました。当施設でも2017年以後、LIQSはしばらく行いませんでした。というのも、鎖骨下動脈の遠位側での固定の部分から出血して非常に止血に難渋した症例を経験し、手技的なリスクが無視できないと判断したからです。止血に関してはFroen Elephant Trunk(FET)の中枢側を弓部置換したほうが時間はかかりますが手技として確実です。そうして当施設で今までTAR+FETを施行していた症例に対してLIQSで対応可能な症例があり、そうした症例を術式を工夫して数例実施してみたところでありますが、こうした症例も当グループの基準に合わせてTEVARが適応外と判断された結果としてLIQSの適応と判断しています。筆者はステントグラフト実施医ではありませんので、実際には当施設のステントグラフト実施医とグループ内(自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局)のステントグラフトチームで手術適応について判断しております。その関係で、早速、チーフクラス3名のステントグラフトチームのドクターに、ご質問の内容に関連して弓部大動脈瘤に対するTEVARに関連した考え方についてヒヤリングさせていただきました。

回答① 弓部TEVARは一般的治療とはまだ言えない。チムニーは遠隔成績の問題で行われなくなりました。RIBSとNajutaが生き残っています。RIBSも枝からのガターリークやトリッキーな手技の為、広がらないのが現状です。Najutaも含め、上行を中枢シーリングゾーンにするTEVARは遠隔期も含めて症例を選べばよい成績ですが、スタンダードとまでは言い難いと思います。解剖を選ばないのはやはりOpenという認識です。LIQS適応であればTEVARで行けると考えられる症例もあるのは事実ですが、最近TEVAR領域のベテラン勢が強く言わなくなったのは遠隔期の成績が無視できなくなったからと考えられます。解剖学的な適応を選ぶことが一番大切と思われます。

回答②弓部のチムニーはあまりいい話は聞きません。RIBSは限られた施設で実施されているのが現状で、実施している施設では経験豊富であるため成績は悪くない印象ですが、弓部置換やLIQSに代わる術式とは断言できないと思います。やはり血管内治療は血管の性状が悪いと脳梗塞のリスクとなりますし、RIBSも弓部分枝でいろいろと操作が加わるので対象となる症例が異なってくるため、解剖学的適応を見極める必要があります。基本的には当グループではオープン第一選択、エンドであれば弓部分枝の操作を極力控えたいため開窓型ステントが第一選択、デブランチが第二選択となっています。一昨年の胸部大動脈手術全体の内訳はオープン140例、エンド40例ほどの比率です。

回答③ 弓部のTEVARはZone2以下のランディングはまだControversialの認識です。チムニーは頸部分枝にランディングするため脳梗塞が多い印象があります。弓部のTEVAR適応は個々の症例の解剖学的な要素に影響されます。上行大動脈にランディングが必要になると3分枝のデブランチが必要になり、解離のリスクもあります。また、Zone0,1からTEVARしてエンドリークが残った場合の次の治療が困難です。オープンの手術が可能な症例であれば、LIQSの方が安全とも考えられます。

というような返答でして、貴施設のようにTEVARの経験豊富な施設は先進的な治療としてハイレベルな血管内治療を実施していると言える一方、当グループはコンサバ、ともいえるかもしれません。グループによって、こうした考え方に温度差があるのも現状では事実と考えられますが、また、グループ外の意見として、大動脈外科を得意としている他大学の懇意にしている教授にも同様に質問し、即、回答がきましたので、以下④に記載させていただきます。

回答④ チムニーに関しては、成績不良で実際に行っている施設は減少していると思います。どう考えても不確かな治療だからです。また、RIBSに関してはチムニーに比べてより確実ですが、限られた施設において行われ成績も未公開なところもあり標準化はされていないでしょう。LIQSも近年において報告がないのは、遠隔期成績で問題が発生しているからではないでしょうか?最近のTARのトレンドは、Fenestration FETで、FenestrationにBiabaanを挿入して分枝再建を行うことだと思います。これは弁膜疾患に対するsutureless valveと同じ考えで、成績も良好な様です。胸腹部人工血管置換術における分枝再建においても少しずつ行われています。FETの成績が良好なので、近い将来のTARはFenestration FETではないでしょうか?いずれにしても弓部に関してはOpen surgery with endovascular techniqueが、医療安全的に標準治療だと考えます。

とのことでした。またご意見などあれば、いただければ貴重な勉強の機会となりますのでよろしくお願いいたします。
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