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横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

下大静脈への浸潤する腫瘍に対する腫瘍切除術

2021-10-27 20:39:17 | その他
 下大静脈に浸潤する腫瘍として有名なのは腎細胞癌です。腎静脈の内部に顔を出して、静脈内を進展して下大静脈から右房、肺動脈に至るまで腫瘍が進展した例もあります。
 腎細胞癌の治療の基本は陣摘除術になりますが、この時、下大静脈に浸潤している場合は、下大静脈も合併して切除する必要があります。また後腹膜腫瘍や副腎腫瘍など腎周囲に発生した腫瘍が下大静脈に直接浸潤する場合もあります。これらの腫瘍を下大静脈ごと切除する際には心臓血管外科に相談がしばしばあります。

 下大静脈を切除など操作をする場合は、下大静脈を遮断しないといけない、となると、下半身の静脈還流がストップして循環不全に陥ってしまう可能性があります。また下大静脈から手術操作によって出血すると大量出血によって、Hypovolemic Shockになります。これらを回避するためには事前の十分な方針検討が必要です。

下大静脈合併切除に必要なものとして
①下大静脈の部分遮断、再建
②下大静脈遮断の遠位側から脱血して、上半身へ返血するシャントの作成
③人工心肺によって下大静脈脱血、大腿動脈送血とする部分体外循環
④開胸して人工心肺装着し、心停止、低体温循環停止
などが考えられますが、特に下大静脈は出血するとその止血が困難で、大量出血になりやすく、その場合はすぐに循環虚脱に陥る危険があります。上記の中で、人工心肺を使用した方法では、大量出血しても出血した血液を人工心肺で吸引し、体循環へ返血することが出来るため、安定した循環動態での手術が可能です。
 術中所見によって瞬時に判断して対応する必要があります。

LITA-LADから始めるMICS-CABG

2021-10-27 20:39:01 | 虚血性心疾患
 12月4日にMICS-CABGのウェビナーがあり、この中で、横須賀市立うわまち病院での経験をお話する機会を与えられました。題名は、LITA-LADから始めるMICS-CABG、です。
 左小開胸アプローチからの冠動脈バイパス術は、左内胸動脈(LITA)を剥離、採取して、左前下行枝(LAD)に吻合する、このLITA-LAD吻合が基本となります。特にLITAを採取することが手術におけるもっとも重要なキーです。LADへの吻合自体は左開胸では脱転をほとんどしないため安定した視野での吻合操作が可能で、正中アプローチよりもやりやすい場合も少なくありません。LITAをいかに損傷なく確実に採取するかにかかっています。
 そしてこのLITAーLAD吻合がうまくいって初めて多枝MICS-CABGが現実のものとなります。
 ウェビナーでは、MICS-CABGを始めるにあたって最も重要なLITAーLADを基本に、それが確立してから、徐々に応用編である多枝バイパスなどへ発展させていく過程、工夫についてお話させていただく予定です。

地域の協力のもと面で救う急性大動脈解離診療体制

2021-10-27 20:15:17 | 大動脈疾患
 急性大動脈解離、特に上行大動脈に解離がおよぶStanford A型の解離は直ちに手術をしないと救命できない症例が多い重大な疾患です。心臓血管外科の診療の中では緊急手術のなかで最も多いのが、この急性大動脈解離です。死因の一位は、大動脈破裂による心タンポナーデで、他に、大動脈弁逆流、分枝の閉塞による臓器虚血(Malperfusion)などが命を脅かす病態です。
 一刻を争う症例が多く、少しでも早く手術室へ入室し、人工心肺を開始して、種々の循環不全に対応する必要があります。

 急性大動脈解離が搬送されてきた時点で、常にそのまま手術室に入れる状況とは限らないのが現状で、その時に心臓血管外科チームが他の手術中であったり、手術室がすべて使用中であったり、またICU入室が満床のためできない、心臓血管外科医はいても麻酔科医、臨床工学技士、ナースなどのスタッフが足りないなどの現実的な状況が常にあり得ます。というのも、年間の発生数10万にあたり5~10人の急性大動脈解離のためだけにスタッフが常備していることはあり得ませんし、その緊急対応が必要な症例が同時に複数発生することもあります。

 いずれにしろ、一刻も早く手術室へ搬入して救命のための処置を開始することが救命に最も近づくことは間違いありません。そうした状況を少しでも打開するために、東京都では急性大動脈解離スーパーネットワークを立ち上げて、その発生時点で受け入れ可能な施設がネットワークを構築して情報共有することで、適切に対応できる施設はどこか、ということを効率よく受け入れできる体制を作っています。
 前任地である自治医科大学さいたま医療センター心臓血管外科においても、急性大動脈解離の相談があるときは、直ちに手術室へ搬入できるかどうかを判断し、受け入れ困難な場合は近隣の主に関連施設に応需を依頼する方針とし、決して手術が出来ないのに不用意に受け入れはしないことで、患者さんが最も適切な対応が最短で受けることが出来るようにしています。

 横須賀市においては横須賀市立うわまち病院以外に横須賀共済病院にも心臓血管外科があり、どちらの施設がより早期に対応できるかによって、場合によっては患者を転送することで救命を優先しています。この5年間に2例の急性大動脈解離を横須賀共済病院へ転送をお願いし、また横須賀共済病院からは年間数例の転送症例を受けれいています。この両病院が急性大動脈解離などの緊急手術が対応できないときは横須賀市街の病院へ転送することになり、現実としてはこの5年間で、横須賀市立うわまち病院から転送した大動脈の救急疾患は、横浜市立大学病院、湘南鎌倉総合病院、川崎幸病院にそれぞれ1例ずつを転送依頼しました。それでも9割以上の依頼症例を転送することなく受け入れており、こうした工夫によって急性大動脈解離の救命率は非常に高い数値を維持しております。
 横須賀市立うわまち病院の急性大動脈解離の手術死亡率は約3%で、全国平均の約10%を大きく下回っております。これは、最も早く手術室へ搬入できる施設で治療することを優先している結果とも言えます。
 多くの急性大動脈解離を治療している施設ほど、救命率が低い傾向にありますが、これはそれほど救命困難な重症例も数多く手術していることを表しており、必ずしも施設の診療レベルを表しているものではないということに注意が必要です。

横須賀の新しいシンボル

2021-10-27 19:27:07 | その他


横須賀中央公園の錨の形をした平和のシンボルが耐用年数が来たということで新しいシンボルが作られて整備されました。上から見ると、それまで整備が不十分であまり人も入っていなかった公園がきれいになっています。夜になると上空に光を投射してその存在感をアピールしています。

特定ケア看護師

2021-10-27 19:21:49 | 心臓病の治療


医師は忙しい、というイメージがありますが、ではいったい何に忙しいのか・・・。医師免許が必ずしもなくともいい仕事もたくさん抱えている、という面もあります。医療はいまやチームで行うのが常識。こうした現状の中ではチームのメンバーと情報を共有したうえで役割分担をしていくのが最も効率が良いということになります。医師免許がないと出来ない仕事はたくさんあり、その専門性に特化した仕事をするために、できだけ仕事を役割分担していくことは、その診療レベルを向上させることにつながります。
 心臓血管外科においてはその中でも時に特定ケア看護師の存在は非常に力強い味方になります。横須賀市立うわまち病院でも特定ケア看護師が複数名いて、特にICUに滞在中の患者さんや、その後一般病棟へ移動した後も種々の処置や急変時の対応も含め非常に活躍してくれています。これからますますこうした特定ケア看護師の活躍の場は広がっていくものと思います。