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横須賀総合医療センター心臓血管外科

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心房中隔欠損症に対する閉鎖術に関する標準術式は右小開胸アプローチ

2020-11-25 23:21:49 | 心臓病の治療
 心房中隔欠損症は先天性心疾患の中でも最も多い先天奇形の一つになりますが、この心房間短絡によって右心系の容量負荷がおこり、将来的に心不全や肺高血圧症を起こす病態です。
 根治術はこの短絡孔を閉鎖することです。穴をふさぐだけなので手技としては比較的簡単といってもいいと思いますが、心臓を止めて治す手術ですから生命に直結する手技であり、注意点はいくつかあります。一つは穴をふさぐのに直接閉鎖かパッチ閉鎖か。直接閉鎖の場合は、組織に緊張がかかって断裂し、新たな欠損孔を作ってしまう可能性があるので、その危険がある場合はパッチ閉鎖にして組織に緊張がかからないようにすること。特にパッチ閉鎖の場合、または閉鎖にプレジェットなど異物を使用した場合は術後に血栓を作る可能性があるので、極力左房側には異物はおかず、もし使用するにしても右房側におく必要があります。左房側にできた血栓は脳梗塞など重要な合併症を引き起こす可能性があり、また右房側であれば血栓は肺でトラップされるので、軽症ですむ確率が高くなります。続いて、他の手術でも同様ですが、左心系に空気を極力入れないようにして空気塞栓の危険を減らす努力をすることです。これは左房左室ベントを留置したり、遮断解除前に十分にエア抜きをする、術野に炭酸ガスをかけながら手技を行うなど通常行っている空気塞栓予防で対応できますが、昔は左房左室ベントを留置しないで手術していた時代は空気塞栓をかなり気にしながら手術する必要がありました。現在はベントを入れる手間をおしまないで、安全に手術するようになっていると思います。
 こうして安全、簡単に手技を完遂できる心房中隔欠損症ですが、現在はより小さい右小開胸アプローチで行うことが一般化しつつあり、ここ数年間、横須賀市立うわまち病院で行った手術もほぼ右小開胸アプローチを採用しています。これにより患者さんの回復もはやく、傷も小さくて済むようになっていますが、手術手技は難易度が上がったので若手ドクターの執刀チャンスが減ってしまうという現象が起きています。