横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

90歳以上の心臓胸部大血管手術

2018-09-09 08:47:18 | 心臓病の治療
【背景】日本は世界でも類を見ない高齢化社会であり、2017年時点の日本では65歳以上の高齢者が3514万人と総人口の約27.7%を占める比率となっており、80歳以上は1074万人(8.5%)、90歳以上は206万人(1.6%)と初めて200万人を突破することとなった。高齢化の進行に伴い、手術対象の患者年齢も上昇することが予想される。こうした中で80歳以上での手術成績の報告は散見されるが、90歳以上の手術成績について述べられた文献は少ない。今回、我々は自験例における90歳以上の高齢者の心臓胸部大血管手術の手術成績とその詳細について検討した。
【対象】2016年10月から現在までの約2年間における、当院での90歳以上の高齢者の開心術手術成績について考察した。80歳以上の手術が57件、その内の8件が90歳以上の手術症例であった。
【結果】平均年齢は92.8∓2.8歳、男女比は3:5であった。内訳は大動脈弁狭窄症の大動脈弁置換術が3例、僧帽弁閉鎖不全症の僧帽弁形成術が1例、弓部大動脈瘤の弓部大動脈置換術が1例、Stanford A型大動脈解離(DA)の上行大動脈置換術(AAR)が2例、右房内腫瘍の摘出術が1例であった。大動脈解離に対するAARのみが緊急手術症例であり、残りの6例は定時手術として行った。患者背景として、入院前の居住状況は自宅で家族と同居4例、独居3例、施設入所1例。心臓血管外科コンサルト前に既にDNAR(蘇生不要)の同意を取得済みの症例が2例あった。手術決定理由は、100歳まで生きたい:3例、NYHA Class IVの心不全解除:3例、救命を家族が希望:2例で、すべて治療に家族が積極的という周囲状況があった。平均ICU滞在日数は8.3∓6.7日で、平均術後在院日数は21.3∓6.3日。1例で脳梗塞を術後第7病日に発症し入院リハビリ中であるが、他の7例は合併症なく生存退院した。
【考察】高齢者の手術適応に関しては、ADL、frailty、合併症の有無、その予後や、自力での意思表明が可能かなどが挙げられ、それに合わせて、本人の体力と手術侵襲の程度を考えてどこまで行うかが一つのポイントとなる。今回の検討中7例は自力歩行可能なADLであり、侵襲低減のため必要最低限での手術治療を行うに留めた。心臓大血管手術に関しては、原疾患を治療することが病態の改善に直結するものであり、手術に対する拒否感があるか、侵襲に耐えられない状態でない限り、かつ手術が病態に対する唯一の治療選択である場合、現在ないし直近の状態悪化を防ぐために手術を行うことは妥当であると考える。
【結語】90歳以上でも、適応を選べば治療成績は悪くなく、家族の希望があり、自立した生活に復帰できる可能性がある症例は、若年者と同等の手術適応で対処することも検討に値する。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする