ID物語

書きなぐりSF小説

第50話。海の自動人形。15. 帰還、そして、ケイコ来訪

2011-12-03 | Weblog
 (さらに、その翌日、つまり演習の2日後、私はタロとジロとクロを引き連れて、東京サイボーグ農園にある、ID社の施設に行く。時間は待ってくれない。この3機で東京港ファミリー牧場の運用開始だ。セイリュウには、とりあえずゴールド3兄弟を付ける。こんなに自動人形がいるのに、足りない感じがする。亜有に相談。)

清水(テレビ会議)。アンを失って、さぞやショックでしょう。

奈良。何も感じないと言ったら嘘になる。だが、あれはアンドロイドだ。同じものは手に入らないが、代用はいくらでもいる。

清水。レイとか。

レイ。私、行こうか?。

奈良。気遣ってくれるのか。うれしい。だが、レイはサイボーグ研を守ってくれ。イチだけでは、負担が大きすぎる。

レイ。了解。

清水。それで、相談というのは、何ですか。

奈良。自動人形の追加の相談だ。とりあえず、2機程度。

清水。相互運用したらどうですか?。今やカワセミ号で、手軽に基地間を行き来できる。

奈良。そうしようか。この態勢でしばらく様子を見よう。

清水。自動人形の追加に関しては、優先度を上げずに本部に打診してみます。

奈良。そうしてくれ。ん、連絡だ。(通信機)情報収集部部長、奈良治です。

総務21。奈良さんあてに、大きな箱が届いていますけど、どうしましょう。

奈良。予定は聞いていない。どこから来た。

総務21。A国海軍、アレックス・サンダースさんからです。東京湾の海軍基地から。

奈良。知っている。どんな大きさの箱だ。

総務21。大きなのが4つと、小さいのが2つ。大きいのは、人が入れるくらい。

奈良。棺桶みたいな感じか。

総務21。そうですね。

奈良。取りに行く。情報収集部のオフィスの控え室に置いてくれ。すぐに行くから、誰か付けておいてくれ。

清水。私が、カワセミ号で行きます。

奈良。そうしてくれ。

 (多分、自動人形だ。だが、アンドロイドは3機のはず。数が合わない。一つ多い。亜有もそう感じたらしく警戒して、虎之介を率いてID社東京の総務に行く。)

芦屋。これか、箱は。

清水。うん。確かに、6つ。

芦屋。分析していいかな。

清水。もちろん。

 (アンドロイド4機とサムとジャグのようだ。外からの音響調査では、形が崩れている感じはしないのだと。私がタロたちといっしょに駆けつけたのは、30分後。)

奈良。自動人形なのか。

芦屋。そうらしい。発見したので、送ってきたのかな。

清水。数が合わない。アンドロイドが一機多い。

奈良。箱を開けてみよう。

 (出てきたのは、サム、ジャグ、ジョーンズ、トーキョー、アン。全機無傷のようだ。そして…。)

清水。ケイコ。以前に会ったときと同じ姿。

奈良。覚えている。手紙か何か、入っていないか。

 (機体だけだ。起こしてみる。)

奈良。起きよ、自動人形。

サム。内部状態の正常確認、周囲に検出できる脅威無し。遅くなりました、奈良部長。いま帰還しました。サムです。

奈良。生きていたのか。どこか壊れていないのか。

サム。無事です。

 (自動人形が次々に起きる。軽く肩を抱く。すぐに離れた。アンなんか、実にわざとらしく話す。)

アン。心配してくれた?。

奈良。それなりに。

アン。とても。

奈良。その通り。

アン。でも、どうなったのか、データベースにない。

清水。ふうむ。何もしかけは無いようね。単に、送り返してきただけかな。

奈良。ケイコか。

ケイコ。ケイコです。コード名B04、本物。女性アンドロイドが一機、必要だからと送られて来たみたい。

奈良。それはその通りだが、なぜ、A国海軍から来た。

ケイコ。出発したのは、A国の国立研究所から。何かお聞きになっていませんか。

奈良。聞いていない。夢でも見ているようだ。

清水。なんか、深刻な話というより、なぞなぞの気がする。面白いから、サンダース少佐を呼んでみましょう。

 (少佐は来るか来ないか、興味深かったが、ヘリですっ飛んで来た。30分後。)

少佐。来たぞ。…、アンドロイドだ。知らないのもいる。

ケイコ。ケイコです。よろしく。これから、日本にいる予定。

ジーン。本物なの?。

清水。さあ、知らない。でも、アンとケイコはオリジナルの機体。わざわざ他から改造はしないと思う。

ジーン。分かるんだ。

奈良。我が社が作製したクローンとはわずかな違いがある。それと、整備された跡がある。それも変だ。

少佐。じゃあ、整備記録を調べたらいい。

 (それもそうか、ということで、記録を照会する。あった。Y国本部、航空部門だと。)

清水。部門長に聞いてみる。

ジーン。あちらは、丑三つ時よ。

清水。応答するかな。あ、出た。

部門長(通信機)。届いたかな。自動人形、6機。

奈良。おはようございます、部門長。届きました。こんな早く起こして、申し訳ありません。

部門長。遅かったではないか。何していた。眠いぞ。

芦屋。ええと、少佐を呼んだからかな。

少佐。何があったか、説明してくれ。

部門長。その声は…、誰?。

清水。名前を書いたのに、わざとらし。A国海軍の少佐です。日本の東京湾の基地に駐在。偽名を使わないといけない職業。

部門長。テレビ会議の方がいい。つないでくれ。

清水。了解。

 (オフィスに移動。スクリーンを出す。)

部門長。自動人形が送られてきたのだ。日本の軍の演習場から。

少佐。我々も演習場として使っている。失礼、私はアレックス・サンダース少佐。はじめまして。こちらのジーンのことは知っているか。

部門長。資料にあった。私は、ID社Y国本部航空部門長のクエスチョン・ワードだ。

清水。部門長っ!。悪質な冗談ですっ!。

部門長。なので、緊急整備してケイコといっしょに送りつけたのだ。緊急輸送系で。心配していると思ったのでな。

奈良。肝が冷えました。

清水。こちらもご同様。

少佐。自力で脱出したのか。

部門長。よく分からんが、そちらの誰も知らんとしたら、そうだろう。

清水。いくら何でも、誘導した者がいるはず。

部門長。その調査は、そちらの仕事だろう。

清水。あくまで、わざとらし。

少佐。送付元は日本の軍。

部門長。その通り。何か思い当たる点でも。

清水。アンたちは、A国軍の演習に参加したのです。日本の演習場で。途中で行方不明になった。2日前に。

部門長。軍事コードが起動したな。

清水。多分、そうでしょう。

部門長。100%そうに決まっている。連絡はなかったんだろう?。

清水。ええ。なので、いつものおちゃらけをかました。

部門長。そのとおり。…、ひっかけがうまくなったな。もういいか。あとはメールで質問してくれ。

清水。了解。回線終了。

少佐。つまり、後半は、あの航空部門長の、冗談。

清水。いつものことです。ご容赦ください。

ジーン。この清水さんの上司です。

少佐。誰かが、何かを隠している。

清水。明らか。

少佐。おまえか?。

清水。そちらは?。

芦屋。もういいじゃないか。無事に戻ってきたんだ。

清水。1億ドルの問題よ。

少佐。知られたら都合の悪い事態が起こったんだ。

清水。そうでしょうね。

少佐。こちらの裏をかいた。完璧だ。うますぎる。

清水。1億ドルをお返しするよう、取り計らいます。借り賃だけだと、半額よりずっと安い。

少佐。すべてが明らかになってからだ。今後、その金が何往復するのか、分からん。

ジーン。こちらに内通者がいるのか。

少佐。可能性はある。しかし、他のいくつかの仮説より、特に強いとは思えん。

奈良。よく考えてからにしますか。

少佐。同意する。帰る。失礼した。

 (少佐はさっさと基地に帰ってしまった。でも、その後、この件に関しては全く音沙汰なし。たしかに誰かが何かを隠している。でも、自動人形は戻ってきたから、ありがたく事態を受け入れることにした。費用の件は、すったもんだの末、最初の予定通り、通常の自動人形の貸し出し費用で決着した。
 ちなみに、ケイコはA国ID社から日本に来るというので、Y国本部で整備されていたのだ。ケイコのいた国立研究所には、新しい機体が行くので、交換になったそうだ。しばらく日本にいてくれるそうだ。)


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