ID物語

書きなぐりSF小説

第35話。6月の花嫁。2. 隼人、見参

2010-12-31 | Weblog
 (永田らは、別の小会議室を利用している。もうすぐ、本庁に戻るから、仮住まいのつもりだ。)

永田。珍しい。小浜さんが来てくださるとは。

関。どんな用事かしら。

小浜。実は…。

 (小浜さんの理解では、基地の機能を使いこなす人物がもう一人必要、ということだ。)

永田。なるほど。話は分かりました。

関。でも、なぜ財務省関係なの?。

小浜。あれ、違ったかな。

関。もう。小浜さんは私以上の慌て者。

永田。だが、サイボーグ研は国家事業だ。万一のことがあったら、大変。こちらも介入手段が欲しかったところだ。

関。そうか。今は偶然私たちがいるけど、その後はすっ飛んで来ないといけない。

永田。連絡が手薄になる。何とかしたいところだ。

関。一人手配しよう。どんな人物がいいの?。

小浜。要望できるのか?。そちらで決めてくれ。

関。この微妙な任務をこなせる人物か。考えなきゃ。

永田。あいつだ。羽鳥。

関。隼人くん。うげえ、嫌なこと思いだした。

小浜。できるやつか。

永田。めちゃくちゃ優秀。

関。ちょっと。財務省の威厳を落とすような人選はやめてください。

小浜。秘蔵っ子だな。

関。ある意味。おえっぷ。

小浜。微妙な反応だな。

関。見ればすぐに分かる。

永田。呼ぶぞ。

 (バイクを飛ばしてきた。永田が迎えに行く。関のいる会議室に、亜有と虎之介が訪問する。)

清水。専門情報調査課の実働隊って、何人いるの?。

関。秘密よ。彼もその一人。

芦屋。永田と同じ技能を持つのか。

関。だいたいみな同じよ。

永田。来たぞ。紹介する。羽鳥隼人(はとり はやと)だ。関と同期。

関。ばらすなー。

羽鳥。よろしく。うふっ。

 (これが小柄なやつで、身長は150cmほどしかない。体重も45kgと言ったところか。そして最大の特徴が…。)

清水。女にしか見えない。その制服、女性用。

羽鳥。女よ。

関。心だけが。Y染色体を持っているはず。

芦屋。いわゆる、女形(おやま)。やたらとかわいい。

羽鳥。ありがと。ここで働くの?。

永田。そのつもりだ。

芦屋。作戦でもその格好するのか。

羽鳥。当たり前よ。強いんだから。

芦屋。役立ちそうだ。

羽鳥。この男、大丈夫?。美少女にくらっと来ないのか。

関。誰が美少女よ。でも、そう。虎之介は実用本位。外見や性格は二の次。

羽鳥。紹介してよ。

関。失礼。こちらは芦屋虎之介。

羽鳥。関さんの恋人。

関。こほん。プライベートの話はあとで。ID本部所属で、日本ID社情報収集部にも形式的に属している。

羽鳥。あの評判の組織の一員だ。かっこいい。

関。こちらは、ID本部航空部門長秘書の清水亜有。私たちと行動を共にする仲間。今は本基地の運用を考える仕事をしている。

羽鳥。色っぽい女。

清水。よろしく。あなたの方が、わたしよりよっぽどかわいいわよ。

羽鳥。話の分かる人。気に入った。

関。こちらは小浜さん。ID社の専属パイロット。我が空軍出身。今はシリーズBと呼ばれる、ID社の垂直離着陸機を操る。

小浜。よろしく。くらっと来そうだ。

羽鳥。やっと普通の殿方がいた。

永田。月末までは試用期間だ。仕事はきついぞ。

羽鳥。願ってもない。私の実力を見てもらいます。それから、私を呼ぶときは、隼人って呼んでください。それで慣れているから。

芦屋。作戦時には、そう呼ばせてもらう。

清水。部長と所長にあいさつに行かなくちゃ。

小浜。よければ、シリーズBで乗り付けよう。

第35話。6月の花嫁。1. プロローグ

2010-12-30 | Weblog
 (ID社東京2階の仮サイボーグ研にて。研究分野は際限なく広がるは、有名になるは、折からの不況で博士級の人材の参加申し込みが相次ぐはで、海原所長と大江山教授はてんてこ舞い。やっとのことで、休憩している。)

志摩。お茶をお持ちしました。

大江山。志摩くんか。ありがとう。ふー、きつい。何てこった。優雅な研究を予想していたのに。

海原。うれしいことじゃて。だが、わしらの出番が少ないぞ。どうなっているのだ。

大江山。最初の予定では、イチとレイを使って、テレビドラマみたいに教授自らが事件現場に乗り込む。

海原。で、わしが隠居役か。

大江山。ズバリ、お茶の水博士役。

海原。姿は違うがの。禿とらんぞ。あんなに太ってもいないし。

大江山。それに、今回のタイトルは我々とは関係なさそうだ。

海原。タイトルとは何じゃ。

イチ。奈良さんがぼくたちの活躍を話にするんだよ。その際の、各回のタイトル。

レイ。なんで知ってるのよ。

イチ。鈴鹿さんから聞いた。さんざん翻弄されたって。

レイ。で、今回は「6月の花嫁」。誰が花嫁よ。

イチ。レイじゃないことだけは確実だ。

レイ。悪かったわね。

海原。タイミングよく出てきて、解説ご苦労。トカマク基地にいなかったのか?。

イチ。土本さんはこっち。付いてきた。

海原。しばらくは行き来じゃの。

レイ。ほんの1カ月なんでしょ?。

大江山。そのとおり。来月にはエクササイザーの予算がやってくる。国からの補助も、そろそろ手に入るだろう。必死で働かなければ。トカマク基地で。

海原。志摩くんと鈴鹿くんは行くのか。

志摩。営業のために、こちらを拠点としたいのですが。

海原。こちらの方が便利じゃの。そうしてくれ。

 (トカマク基地では、基地の基本計画を任された虎之介と亜有が大忙し。所長室の隣にある小会議室で作業している。)

小浜。ほら、お茶持ってきたぞ。少しは休め。

清水。小浜さん。何てことを。私がします。

小浜。遠慮するな。この基地に関する作業だろう?。

芦屋。ええ。実作業はID社の各部署がするけれど、基本計画はこちらに来た。

小浜。実作業って、基地の改造の他は何だ。

清水。改造だけでも大変な作業量。幸い、事務系は総務がしてくれるけど、通信網の掌握などはこちらでする必要がある。

小浜。そりゃそうだ。基地だからな。

清水。宿泊施設、倉庫、地上の施設の管理などもこちらで要望をまとめないといけない。

小浜。サイボーグ研の施設じゃないのか。

清水。そうですけど、閉鎖された地下の研究施設やホテルをまともに運用できるところは、日本にはない。

小浜。だから、初期にはID社のノウハウを投入する。

清水。そうです。世界中探せば、実例はいくつかある。参考にしながら組み立てる。いつ引き継ぐかは、相談。ふー、お茶がうまい。

小浜。やれやれ。本当は帰るんじゃなかったのか。

清水。そうですよ。自律型自動人形の問題点は分かった。緊急対策は手配したけど、長期的にはかなりの仕掛けが必要。だから、私は本部に当然帰ると思っていた。

小浜。トカマク基地が重要施設になったから止まっているのか。

清水。さすが、よくお分かり。最終的にはサイボーグ研に引き継ぐものの、それまではID社の施設に近い。せっかくだから、拠点の一つと仮定して機能を整えろと。

小浜。そのためには、兵隊がいるわけだ。

清水。小浜さんで充分と思ったけど、細かな手足がいる。

芦屋。それがおれか。

清水。およそ、この関係のことなら虎之介は万能。何でもある程度こなせる。何か起こったときのチェックは、虎之介級の人物でないとできない。

小浜。なるほど。2人とも期待されているんだ。

清水。自動人形の緊急対策だけでも大仕事なのに。

小浜。若いうちは無理の一つもするもんだ。安心しな、自動人形が健康管理してくれるんだろう?。

マグネ。お任せください。

清水。来月に入ったら、どんどん人が増える。もう一人くらい、欲しいわ。

芦屋。伊勢さんを呼ぶとか。

清水。伊勢さんペースか。悪くないけど、上司を呼びつける感じ。虎之介の知り合いに、誰かいない?。

芦屋。空木の同期とかか。めぼしいやつは、どいつもこいつも一癖も二癖もある。

小浜。火本くんらが優秀だろう。

清水。ええ。研究自体は彼らに任せておけばいい。じっくり専念させて上げたい。

小浜。なるほどな。戦力か…。永田くんに相談してみる。

清水。え、ちょっとまって…。行ってしまった。意外におっちょこちょい。

芦屋。空軍だろう。一秒でも早い者勝ち。結果を待とうぜ。

作者より、その8

2010-12-29 | Weblog
 作者です。いつもID物語を読んでいただき、ありがとうございます。

 小浜さんと土本五香が仲間になり、第三部の主要人物はあと一人で出揃うことになります。残る一人は次の話で出てきます。
 後に、第四部の模索が始まりますが、とある理由により、途中で終了してしまいます。

 このあたり、登場人物は増えるのですけど、展開がやや単調で、今の掲載間隔だと時間が実際の経過より遅く、物語の時間がどんどん過去に向かって行く不思議な個所になっています。
 ただ、個々のエピソードには面白いのもあるので、しばらくこの調子で続ける予定です。

 冒頭の絵は、私(作者)が自分で挿絵を描こうと「コミpo!」と呼ばれる漫画作成ソフトで試作したものです。ソフトは発売直後なので、今のところ、このような絵しか描けないのですが、雰囲気は出ていると思います。ネコの絵型がないので、クロが男の子の姿なのはご愛敬ということで。
 「コミpo!」の発売記念のコンテストが開催されるというので、この絵を元にしたショートストーリを作成中です。もちろん、見たまんまの、直球ど真ん中の萌え絵による、高等学校風学園物が順当な線でしょう。
 「コミpo!」は制限が多そうに見えて、良く工夫されており、登場人物の気分や意図をちょっとした合図や仕草で表現することができそうです。志摩たち人間組の個性が表せるかどうかが一つのポイント、もう一つはアンとクロのロボットらしさが表現できるかどうかです。アンドロイドにありがちな、ヘッドホンみたいなのとか、とんがり耳は使えません。
 アンは元々人形なので、取っかかりはあります。問題はネコ耳少年姿のクロで、さて、どうなりますやら。

 作者より、その7はこちらから↓
http://blog.goo.ne.jp/greencut/e/08fbe8b9ca14525e832e51040f40f38b

● 付録、漫画プロット。ID物語、学園番外編 (多分、作画は後半の寸劇のみ)

※ この物語はフィクションです

 (新学期冒頭。とある私立校の少数精鋭教室。生物学の授業開始。なにやら、2人分、机が増えている。)

アン。ここはどこ。

クロ。作者が「コミpo!」という、漫画作成ソフトで作った、自作SF小説のプロモーション漫画だ。

伊勢。はいはい、勝手にロボットがしゃべらない。操縦者の亜有さん、聞いてるの?。

清水。聞いてます。えーと、まずはSF小説、ID物語の背景と自己紹介を。

伊勢。しかたないわね。志摩くん、プレゼン、ゴー。

志摩。最初に、ロボットを紹介します。でないと、混乱するから。

鈴鹿。人間以外なのは、こちら。

アン。アンでーす。

クロ。クロだ。

アン。他は人間。

志摩。おれは志摩弘(しま ひろし)。日本ID社の営業であると同時に、某トップの国立大学の修士大学院生でもある。

伊勢。ずいぶん、頭がいい設定ね。

鈴鹿。試験が私たち帰国子女に向いていたのよ。しかも、試験会場であっと言う間にできた友人から、試験のヤマを教えてもらって、その山勘が大当たり。

伊勢。その某トップの国立大学の友人は、今回は出てこない。

鈴鹿。ええ、出ない。彼女、結構おもしろいキャラなんだけどね。私は鈴鹿恵(すずか けい)。志摩と同期。虎之介っ、自己紹介しろ。

芦屋。おれの名は芦屋虎之介(あしや とらのすけ)。同期だが大学院生ではない。鈴鹿は院生。

清水。某トップの国立大学院工学研究科の学生は、志摩さんと鈴鹿さんだけ。

芦屋。亜有も大学院生だったな。

清水。某巨大私立大学院理学研究科数学専攻、清水亜有(しみず あゆう)。私たち4人は同学年で友人。

志摩。伊勢さんは、ID社でのおれの上司。面倒見がよいので有名。

伊勢。あらあ、さっそくよいしょ、ありがと。私が伊勢陽子(いせ ようこ)。

清水。設定では、生物化学兵器が専門の科学者。その知識を買われて、計測器の世界的メーカー、ID社の調査部門にいる。

鈴鹿。強すぎて軍から追いだされたのよ。

伊勢。そのあたりの経緯は長くなるから、省略しなさい。

志摩。つまり、伊勢さんが現代の魔女役だ。

清水。その攻撃に対抗するためにいるのが、この2機のアンドロイド、アンとクロ。

アン。クロは本当はオスの黒猫なのに。

清水。しかたないわよ。ネコのボディがソフトに入ってなかったもの。

クロ。作者は絵が描けないのだ。

清水。練習すればいいのに。

伊勢。そんな時間、ないわよ。

鈴鹿。でもって、なんで50過ぎのオヤジが、コミpo!の存在を知ったのよ。

伊勢。こほん。かいつまんでいうと、地デジが欲しかった。どうせだからプレステ3とトルネを買った。で、週刊トロ・ステーションというのを見たら、いきなりコミpo!の紹介。

清水。ちなみに、作者は往年のゲームファン。アニメファンではない。

鈴鹿。コミpo!はパソコンショップには置いてない。よくアニメイトなんかに入ったわね。

清水。情熱よ。

芦屋。本編と関係ないぞ。元に戻せ。

志摩。伊勢さんと鈴鹿と虎之介とおれは、地下組織DTMの出身の設定。ID社は地上への窓口の仕掛け。

清水。さっき、帰国子女と言ってた理由。

志摩。うん。大学2年の3学期から、亜有のいた大学に編入した。

清水。それまではどこにいたのよ。

鈴鹿。秘密。とにかく、伊勢さんと、私たち同期の3人はヨーロッパの小国、Y国で軍事訓練を受けている。ID社本部のある国よ。

清水。志摩さんたちは屈強な感じがする。

鈴鹿。それよ。さっきから気になってしようがない。な・ん・で、修士大学院生がセーラー服なのよ。体形もリカちゃんみたいだし。

清水。似合っているから、いいじゃない。

クロ。これしか選べなかったのだ。作成時点では。

アン。亜有さんも、めちゃ合ってる。

清水。あなたも。設定通り、超絶美女よ。

鈴鹿。で、黒猫がなかったから、とりあえず男子学生にネコ耳付けてみました、と。しっぽはなくしたの?。

クロ。面倒だから付けなかったらしい。

志摩。本来は、クロは8kgと大型のロボットネコで、生意気な口調なのが特長。

清水。ロボットに性格を与えた奈良部長は来ないの?。

伊勢。奈良さんは脇役よ。ドクター・ワトソンの役。

清水。本来は、アンは奈良部長が操縦者。とても愛されている。

クロ。奥さんと娘がいるのに。

清水。関係ないわよ。奈良部長は獣医で、クロをネコらしく育てた。

鈴鹿。ついでに、アンも女らしく。

清水。元は指令を淡々とこなす、無感情なロボットだったらしい。

芦屋。A国軍で、救護班用に作られた。

清水。発想は、我が国の大学教授によるものよ。

志摩。そう、原子力発電所の事故に対応できる救護ロボット。しかし、それは核生物化学戦に役だつロボットでもある。

清水。アンたちは不幸な歴史を背負っている。

伊勢。そんなの、人間と変わんないわよ。

鈴鹿。伊勢さんの攻撃力に対抗するため。

伊勢。名目はね。

アン。でも、今は伊勢さんも私たち自動人形の操縦者。

芦屋。奈良部長が、自動人形の操縦を伊勢さんに勧めたのだ。自動人形に秘められた真実を発見できると考えたらしい。

志摩。自動人形は、このA国軍開発の救護ロボットの総称。元が大学で構想されたために、自動人形というマニア向けの呼称で呼ばれている。

芦屋。軍事用プログラムが入っている。

志摩。危険をいち早く検出し、あっと言う間に対応する。

清水。元は、核事故などの過酷な環境で危険を避けながら、傷ついた人間を連れて帰るのが目的。

鈴鹿。戦場でも役だつように調整されたのよ。

伊勢。ちなみに、自動人形は他にもたくさんいる。アンドロイドは男性型の方が多い。動物型もいろいろ。

清水。家畜の姿の他は、ニシキヘビに、ワタリガラスに、小型竜に、メカカメ。

芦屋。なんで恐ろしい姿のが多いのだ。

伊勢。役だつ形だからよ。人間と対抗できる姿でないと、救護ができない。

清水。人間の話に戻っていいかな。役どころとしては、虎之介さんが戦士、志摩さんが忍者、鈴鹿さんがくの一。

鈴鹿。亜有が軍師役よ。

清水。いつのまにか、そうなっちゃった。伊勢さんは軍曹役。軍にいた頃の地位は、専門家だったので、かなり高位だった。

伊勢。昔の話。奈良部長は、そのまんまの獣医少佐。

清水。今でも?。

伊勢。今でも。

芦屋。戦闘シーンはない。

伊勢。そんなのあったら、全員死んでるわよ。

鈴鹿。小競り合いだけ。つまんない。

清水。周囲を破壊しまくっているような気がする。

鈴鹿。気のせいよ。

伊勢。奈良部長も決して止めないしね。だから、亜有さんがいるの。Y国ID本部から派遣された監視役。そうでしょ?。

清水。秘密。

鈴鹿。秘密になってない。いざとなれば、自動人形で私たちを押さえ込むのよ。

芦屋。実質、そうなっている。ところで、こんな紹介だけで終わるのか、この話。

伊勢。後半に寸劇を用意した。覚悟なさい。

鈴鹿。じゃあ、前半の締めに行こう。漫画作成ソフト、コミpo!に対する要望、ある?。

清水。もともと作者は、自作小説の挿絵が描きたかったのよ。

伊勢。たしか、天野喜孝画伯の絵が気に入っていたはず。前期ファイナルファンタジー風の。

鈴鹿。うん。でも、役柄が描き分けられれば、他でもよい。シリアスSFの話が描けるような。

伊勢。この絵も、微妙に合ってる。

鈴鹿。そうなのよ。設定年齢と体格に自由度があれば、このまま使えそう。

志摩。動きが付けられるネコなんかの動物ボディは欲しい。

清水。その手の要望はいっぱいありそう。順番よ。

伊勢。コミpo!がさらに発展してくれたら、いいわね。

アン。そのために、私たちがいる。

クロ。期待してくれてよい。

● 寸劇。クロとアンのお使い

 (生物の授業中。)

鈴鹿。先生、質問。

伊勢。まだ説明しはじめたところよ。こんなところで質問?。

鈴鹿。これ、ロボットですか?。

クロ。おれは「これ」ではない。クロという。

アン。同じく、アン。わたしたちは自動人形、つまりロボット。

鈴鹿。こんなの学校に連れてきていいんですか?。

伊勢。人畜無害と聞いているから許可したんだけど、たしかに変。操縦者の亜有さん、何か知ってる?。

清水。私の上司がコネでねじ込んだと聞いています。

鈴鹿。上司って何。どんなコネよ。

清水。上司は私が所属する国際企業の部長。コネは、Y国大使館から外務省経由で、本学理事会に無理矢理。

志摩。国際的背景ありか。

芦屋。高度そうなロボットだな。少なくとも、日本語をしゃべる。

鈴鹿。授業の邪魔にならないかな。

アン。役だつロボット、それがわたしたち。

クロ。頼ってくれてよい。

鈴鹿。何ができるのよ。

伊勢。あの、生物の授業中なんだけど。

芦屋。ちょうどいい。生物とロボットの見分け方を。

伊勢。しかたないわね。みんな関心がそっちへ行ってしまった。しばらく乗ってみるか。

鈴鹿。血が流れてないわよ。

芦屋。だが、息をしているぞ。瞬きも。

鈴鹿。わざとらし。

アン。瞬きはわざとだけど、呼吸は必要。燃料電池で動いているから。

全員。おー。

伊勢。つまり、酸素を必要とするわけだ。息こらえはできるの?。

クロ。10分くらいしかできない。だが、酸素がなくても停止するだけで、死にはしない。

鈴鹿。便利なやつ。

芦屋。食事はできるのか。

アン。純エタノールが本来の燃料。でも、食事もできる。体内でアルコールに変換する。

志摩。じゃあ、そのボトルはアルコールか。

鈴鹿。飲酒になる。

アン。酔わない。

鈴鹿。力は強いのかな。

クロ。強いぞ。試さない方がいい。

志摩。怒ると恐そうだよ。

鈴鹿。ロボットに怒るってあるの?。

清水。簡単な喜怒哀楽ならある。

鈴鹿。意志があるとか。

清水。意志や意識はない。でも、考えているふりはできる。アン、この問題を解きなさい。

アン。アイアイサー。

 (アンは黒板にいって、数学の証明をする。)

全員。おーっ。

芦屋。できるな。

志摩。手品のたぐいだろう。

清水。よくお分かり、単なる芸です。分かってはいない。

伊勢。こんなによくできているのに。

鈴鹿。高価そう。

清水。一機20億円です。

伊勢。お使いができるとか。

清水。ええと、このコントローラーから500mしか離れられない。

鈴鹿。電波で通信しているの?。

清水。その通りです。

鈴鹿。じゃあ、校門の近くのコンビニに買い物に行かせてみてよ。

清水。イヌみたいに。

鈴鹿。メモとお金を渡す。これ、買ってきてちょうだい。

伊勢。何よ。たこ焼きって、おやつにするつもりだったの?。

芦屋。悪乗り。

鈴鹿。うるさいわね。

伊勢。ちょうどいい。たこ焼きはだめだけど、プリンタのインクを買ってきて。ちょうど切れかけだから。

クロ。単調な作業。なめてるな。

清水。あなたたちの能力を試したいのよ。言うことを聞きなさい。

アン。はーい。いってきまーす。

 (2機は出て行った。)

鈴鹿。すごい。自律動作ができる。

清水。できません。この通信機で、状況を聞きながら、指示します。

鈴鹿。なーんだ。

志摩。でも、ロボットを見ているわけではない。壁にぶつからないとかは自分でできる。

清水。ええ、状況判断はできる。だから、私は簡単な指示しかしてません。ポストを右へ行けとか。

鈴鹿。それがロボットの操縦なんだ。

志摩。普通のロボットじゃないよ。

鈴鹿。20億円。たしかに普通じゃない。

芦屋。壊れたら大変。後を付けよう。

伊勢。その方がよさそうね。

 (全員で、付いて行く。)

 (心配したとおり、校門前で、別の学生につかまっている。アンは男子学生、クロは女子学生にだ。)

男子1。こんなかわいい娘、いたか。

アン。うれしい。

男子2。直接聞くしかないか。どこのクラス?。

アン。伊勢先生のとこ。

男子1。エリートコースか。それにしては、違和感がある。

アン。アホの子に見えるとか。

男子2。言ってない。何かやってよ。

アン。ここで?。

男子2。うん。

アン。それじゃあ、歌って踊って。アン、いっきまーす。

鈴鹿。きさまら、アンに何させるのよ。

男子1。うわあっ、出た。

男子2。鈴鹿。なぜここが分かった。

鈴鹿。あんたらの出没場所はワンパターンなのよ。

アン。鈴鹿さん、有名人。

鈴鹿。一部には。

男子1。有名なんてものではない。こいつに腕力で勝てる普通の男はいない。

鈴鹿。化け物みたいに言うなー。

男子2。逃げるぞ。

男子1。おーっ。

アン。見ただけで分かります。

鈴鹿。本来ならね。って、何言わせるのよ。

アン。あっちも騒がしそう。

鈴鹿。ごまかしだな。でも、たしかに。

女子3。かわいいネコ耳。どこで買ったの?。

クロ。これは外せない。本物の耳だ。

女子4。その下のは何よ。

クロ。絵の都合で、付いているだけだ。

女子3。尻尾付けたら、本物のネコみたい。

クロ。付けなくても、本物のネコだ。ロボットだがな。

女子3。何かやってよ、猫ちゃん。

クロ。何でもいいのか。

女子3。うん、得意技。

クロ。行くぞ、長嶋茂雄の三振。

芦屋。きさまら、クロをおもちゃにするんじゃねー。

女子4。でたーっ。ヘンタイ男。

芦屋。だれがヘンタイだっ。

女子3。あなたよ。根性だけでエリートコースにいる。

志摩。クロは伊勢先生のお使いの途中。忙しいんだ。見送ってくれるかな。

女子3。志摩先輩。この猫ちゃん、先輩のクラスにいたの?。

芦屋。ちょうどいい、志摩、女子の相手してくれ。クロ、行くぞ。

クロ。悪いが、用があるのでな。

女子4。ばいばい。

志摩。おれはおいてけぼりか。

芦屋。買い物が済むまでだ。たのむぞ。

アン。志摩さん、磁石みたいですー。

鈴鹿。あいつは、あんな役どころなのよ。

芦屋。きたぞ。アン、クロ、目標はあのコンビニだ。分かったか。

アン。目標設定。方角320度、距離50m。ロックオン。

芦屋。なんだそれは。

鈴鹿。あんた、おちょくられているのよ。

 (とにかく、2機はコンビニに到着。おつりも間違えずに買い物はできたようだ。)

芦屋。今度は無事そうだな。

鈴鹿。それは、悪い予感がする、とのフラグよ。

芦屋。フラグってなんだ。

鈴鹿。業界用語。…、あ、来た。自転車が。

芦屋。おじいさんが漕いでいるだけじゃないか。

鈴鹿。都合よく、転倒。あ、やっぱり。

清水。自動人形だけでは何もできない。行かなくちゃ。

 (アンとクロは緊急手当て。駆けてきた亜有が救急車要請。ところが。)

老人5。わしは大丈夫じゃ。救急車など必要ない。

アン。怪我してる。ちょっと気を失った。危ないよ。

クロ。その通りだ。ここは、言うことを聞いてくれ。救急車を待つんだ。

老人5。言うことを聞かんか。

アン。元気になってから、言って、お願い。

老人5。わしゃ、元気…。げほげほ。

クロ。ほら、いわんこっちゃない。

アン。あ、救急車が近づいてきた。お医者さんに調べてもらお。

クロ。孫の言うことは聞くべきだ。

老人5。それもそうじゃの。わしも歳じゃ。

 (救急隊到着。亜有が説明すると、念のため、老人は病院で検査ということに。救急隊にも危ないと分かったらしい。)

芦屋。なんちゅう展開。わざとらし。

鈴鹿。でも、アンの判断は良かったみたい。救急隊が病院に症状を問い合わせた途端、態度が変わった。病院に行こうって。

芦屋。そのまま自転車に乗せたら、再び転倒するって?。

鈴鹿。今度は生死にかかわるわよ。

 (全員でとぼとぼと校門を入る。志摩と伊勢先生が待っていた。)

伊勢。この近距離に、何時間かかってるのよ。

鈴鹿。えーと、かくかくしかじか。障害物レースでした。

伊勢。もういい。授業の再開よ。

アン。もう残り時間わずか。

志摩。都合のいい展開。

鈴鹿。次が落ちか。

アン。決めポーズ、そーれっ。

 (映画ポスター風の決めポーズ)

鈴鹿。結局、落ちは用意されてなかった、ってことか。

伊勢。そのようね。亜有さんの意見は。

清水。賛同します。

 (終)

第34話。牧場にて。20. 対決

2010-12-29 | Weblog
土本。伊勢さん。

クロ(会話装置)。なんだ、土本。興奮して。

土本。あんたっ、黙ってなさい。伊勢さん。

アン。落ち着いて。伊勢さんは逃げない。

伊勢。何よ。

土本。あなた。生物化学戦のエキスパート。

伊勢。知識はある。

土本。だから、情報収集部にいる。相手が何人来ても恐くない。

伊勢。そうね。相手が末端のちんぴらだったらいいけど、組織だったら大変。

土本。鈴鹿、志摩、虎之介。この第一防衛網が突破されたら、次はあなた。

伊勢。私が。ふん。魔法使いでもない限り、彼らに勝つのは無理よ。

土本。攻撃手段を持っている。そう、魔法よ。悪魔の薬を駆使する女。

伊勢。勝手な想像して。

土本。変だと思った。あの屈強な部下を縦横に操っている。やっと分かった。逆らおうにも逆らえないんだ。

伊勢。だったら何よ。

土本。自動人形がいる理由。伊勢さんが強すぎるんだ。だから、押さえ込む役。たまたま、ID社にいた。だから、ここに来た。

伊勢。致死的な成分も、自動人形には効かない。話は合ってる。おまけに、アンたちは軍出身。並の攻撃はかわすことができる。

土本。あなたが訓練した。

伊勢。誘導しようとしたって無駄。でもそうね、訓練はしたわ。いろいろと。自動人形は救護ができる。あなたが想像するような状況でも。大変な装置。

土本。攻撃はできない。

アン。だから、棄てられた。

クロ。そして、ID社に引き取られた。5年前のことだ。

アン。私たちは一機残らず買い取られた。二束三文だけど、それでも大変な額。

クロ。すぐに改良された。理由は不明。

アン。でも、たった1年でID社もあきらめた。

土本。危機に陥った。

アン。有志が助けてくれた。私たちA31は奈良さんに引き取られた。幸せな日々が続いた。

クロ。だが、それも1年。情報収集部が結成され、我々4機はここに来た。

土本。何のために。

アン。運命の日々だった。私たちは連れて行かれ、活躍した。

クロ。思いもよらぬ自動人形の働き。そして、量産が開始された。

土本。自動人形に考えさせるのは無理か。

伊勢。ふん。残念でした。彼らに聞いても、とんちんかんな答えしか返ってこない。事実の説明以外は。

土本。不思議な作用。人間を落ち着かせる。

伊勢。やっと話ができるようね。で、何が聞きたいのよ。

土本。もういい。じっくり観察する。いいでしょ?。

伊勢。いいわよ。そのために、接近させているんだから。

土本。私たちが、どう判断して、行動するか。

伊勢。そういうこと。ID社は製品を直接、顧客には売らない。ここは数少ない例外のひとつ。

土本。世間の動向が分かる、貴重な部局。行政や学会との接点もできた。

伊勢。なにかかぎ取ったのかしら。

土本。大胆な質問。まだ整理できてない。分かったら言う。

伊勢。楽しみにしてるわ。

アン。大丈夫?。いろいろありすぎて、混乱した?。

クロ。亜有なんかは大変だったぞ。

土本。先輩がいたか。彼女は今やID社員。ミイラ取りがミイラ。

アン。不幸には見えない。それに、活躍している。

土本。そうね。虎之介も関さんもいい人。

クロ。伊勢さんも奈良さんもだ。

土本。不思議。どうなっているのかしら。

伊勢。いいのかな。もう、お昼も近い。食事にでも行く?。

アン。水本さんたちも誘おう。

土本。そうするか。

 (土本、水本、火本、伊勢、志摩、そして、アンとクロが食事に行く。土本の希望で、わざわざデパートの大食堂に行く。クロは大きなリボンをして、ロボットであることをアピールしている。)

水本。なんでわざわざデパートの食堂なのよ。

土本。来てみたかった。お上りさんまるだし。

火本。東京タワーの方が良かったかな。

土本。後日行く。志摩さん。情報収集部一の色男。

志摩。おれが。

土本。そうよ。来る女、全員を引っかけている。私も、そうなりそう。

伊勢。おやおや、もてもて。

土本。今日は伊勢さんのボディーガード。

火本。というか、伊勢さんより先に手を出す役。相手のために。

土本。なるほど。

伊勢。まあた。買いかぶりすぎよ。

土本。きたきた。おいしそう。いただきます。

伊勢。うふふ。どうぞ。

土本。うーん。これこれ。和風洋食。絶妙。絶品。東京にうまいものあり。

火本。本当のフランス料理もあるけど、これもいい。

土本。あー、来てよかった。

火本。デパートの食堂が?。

水本。わざとらし。

伊勢。きみたち、仲いいわ。みんな向こうに行くのかな。

火本。7月初めには行く予定。エクササイザーをつくらなきゃ。

水本。準備できしだい、班毎に移動する。

伊勢。モグ2号も来ることだし、虎之介と亜有にはしばらくいてもらおうか。

水本。帰る話があったんですか?。

伊勢。ええ。自律型自動人形の改良点があらわになった。土本さんのおかげよ。対応方法は分かったから、亜有は本部に戻していいし、虎之介も時々来てくれるだけでよくなった。

土本。お会いできたばかりなのに。

伊勢。だから、しばらく居させる。私たちがトカマク基地を守るのは無理がある。

土本。第二情報収集部か。

伊勢。出張所みたいなもの。志摩と鈴鹿とA31は東京にいさせたい。

水本。亜有さんは本部が強制的に戻しそうな気がする。

伊勢。考えておかなくちゃ。でも、機動力を確保するにはいい人選よ。彼らはID社のエリートコースに乗っている。トカマク基地の基地機能を掌握させましょう。

土本。東京に近い前線基地。

火本。華の都の守護神。

水本。新しい話が始まりそう。

 第34話、終了。

第34話。牧場にて。19. 伊勢に弟子入り

2010-12-28 | Weblog
 (時間を戻そう。ID社東京、情報収集部のオフィスにて。)

伊勢。私たち、出番が少ないわ。

奈良。私たちって、伊勢と私のことか。

伊勢。そうよ。いつのまにか、虎之介と亜有の話になってる。

奈良。前にも指摘していたな。

伊勢。それに、登場人物、多すぎ。訳が分からなくなって来た。

奈良。某トップの国立大学が出てきてからだ。去年の暮れだったか。

伊勢。水本さんに火本さん。土本さんが出てきて、あとは…。展開が予想できる。

奈良。日月火水木金土。

伊勢。ネタを先にバラして、どうするのよ。

奈良。誰でも予想が付く。五行説だ。

伊勢。じゃあ、木本くんと金本くん、というのが出てくる。

奈良。あいつらはどうなった。下間と竹村。

伊勢。最近来てたかな。竹村くんは医学部が忙しくって、こちらどころではないはず。下間くんも来ないから、大会なんかで活躍しているとか。

土本。こんにちは。

奈良。でたーっ。土本か。

土本。何か。

伊勢。ある人物を思い出したのよ。突撃娘(註: 原田銀)。今A国にいる。

土本。伊勢さーんっ。

伊勢。はいいーっ、って何よ、その迫力。

土本。弟子入りさせてください。

伊勢。何を言うかと思ったら。トップの国立大学の卒業生に、何を付け加えろと。

土本。あの大学は、当然のことしか論じない。かくかくしかじかの考察によって、1たす1は2であることが論証されました、って感じ。

伊勢。自分で言って、どうするのよ。中には天才も居るわよ。

土本。ほら、その程度。虎之介に聞きました。伊勢さんに付くべきだって。

伊勢。何だ。どうせろくなことがない。最悪の魔女とか。

土本。ぜひ、その技術を私に授けてください。

伊勢。悪魔の儀式とか。退屈よ。

奈良。例の資料を見せていいか。

伊勢。手術室にある文献のこと?。市販されている。構わない。

奈良。まずは、そこから見てみるか。

土本。何が何だか分かりませんが、オーケーです。

 (土本を社内の手術室に連れて行く。家畜用の施設だ。)

土本。すごい。奈良さんが使う。

奈良。整備させた。今のところ私しか使わない。どうだ、使ってみるか。

土本。イルカの治療とか。

奈良。使えそうだ。

土本。メスで切って、針で縫う。

奈良。それができたら、一人前。

土本。そっちも知りたい。

奈良。両方やるか。あなたならできそうだ。

土本。はいっ、やります。文献は。

奈良。こっちだ。

 (案内する。3基の本棚だ。施設内の廊下の一角にある。)

土本。これだけ。

奈良。そう。これだけ。こちらが私の知識。ここが伊勢の知識。ザッツ・オール。

土本。あとは雑誌を読む。

奈良。すばらしい。さすがだ。

土本。おだてないでください。その気になってしまう。どれどれ。

 (土本、ただ者ではない。ものすごい速度で教科書やらレポートを読んでいる。基礎知識が豊富にあるからだ。感じで分かる。)

奈良。きさま、ただ者ではない。

土本。理解には時間がかかる。

奈良。あっと言う間に読破しそうだ。

土本。まずは、概略を見ているだけです。

奈良。熱心だな。テーブルを持ってくる。

土本。お構いなく。って、持ち出されると困るか。

奈良。それはある。

土本。じゃあ、テーブル運びましょう。

奈良(通信機)。タロ、ジロ、来てくれ。

 (2分もしないうちにやって来た。2人と2機でにわか仕立ての閲覧コーナーを作る。)

土本。便利。ケイコ班も、こんなの作ればいいのに。

奈良。見回りロボットだったか。難しそうだ。

土本。本当に歩き回るだけらしい。最初は。

奈良。起伏のある牧場の見回り。できたら、大したもの。自動人形でもずっこけるかも。

土本。獣医の本って、バラエティに富んでいる。

奈良。海産物だって、いろいろだろう。

土本。種類は多いけど、解剖とか生理はこんなに詳しくない。病理や感染症も。

奈良。魚類はほとんど知らんぞ。

土本。でも、一応ある。

奈良。飼ってる魚がぐったりしました、って、あり得るから。

土本。犬猫病院に持ち込み。

奈良。そのとおり。爬虫類はまだしも、節足動物とか軟体動物になったら、お手上げ。

土本。他に相談できそうなところ、無いもの。う、こっちは寄生虫か。

奈良。一応、全生物種は押さえてある。

土本。こちらは植物。伊勢さんの棚。きれい。園芸関係だ。

奈良。産業関係は、ID社の仕事に関連してだろう。どちらかというと、彼女は基礎分野に強い。

土本。本当だ。難しそうな本が並んでいる。分析に関する本が多い。純粋な化学や物理や、電子・機械関係も。なんという広範囲。

奈良。いつでも見てくれ。当分、テーブルは片付けなくてよい。じゃあ、私は戻る。

土本。ま・ち・な・さ・い。これは何よ。

奈良。ええと、細菌学かな。

土本。こっちは。

奈良。生物活性物質の本。

土本。言い方もあるもの。生物・化学兵器じゃない。その検出を請け負う。

奈良。可能性はある。

土本。処理の相談も。

奈良。ありうる。

土本。実際の処理も。

奈良。あったような。

土本。こちらから使う。

奈良。ノーコメント。

土本。自動人形には効かない。

奈良。当然。

土本。自動人形は攻撃には不向き。調査と後始末はできる。とすると、消去法で…。なんてこと。伊勢さん。この本も、これも。やたらと詳しい。

奈良。ええとだな。

土本。ジロ。この物質、検出できるの?。

ジロ。できます。軍により搭載されたセンサーで。

土本。やっぱり。そのためのロボットか。やけに念入りに作られていると思った。核事故に対応できる救護ロボットを改造して、核・生物・化学戦に投入しようとしたんだ。

奈良。証拠はない。

土本。明らか。でも、戦闘には役立たない。だから放棄された。ID社はなぜ買い取った。

奈良。自律調査が目的と言われている。

土本。虎之介からも聞いた。公式見解。でも、潜在的に化学兵器を無効化する恐るべき兵器。温存しようとしたんだ。

奈良。そんなの分かっていたら、A国軍が手放すわけはない。

土本。そりゃそうだ。ここにいるのは、偶発的理由か。伊勢さんを問い詰めないと。

 (たったった、と行ってしまった。不穏な感じなので、アンとクロを差し向ける。)

第34話。牧場にて。18. 自律プログラムの問題

2010-12-27 | Weblog
芦屋。土本、どうした。大丈夫か。

土本。うーん。何が起こった。

関。あなた、うなされていた。夢でも見てたのかな。

土本。自動人形。何かを想起させる作用がある。

芦屋。人形だからな。じっと見つめると、たしかに不気味だ。

土本。この子たち、何かを託されている。

関。そういううわさがある。来るべき事項に備えていると。誰も知らない。起こらないかもしれない。

土本。連想か。

関。単なる想像じゃない。亜有さんが調べている事項の一つ。自動人形との関連も含めて。

土本。気のせいじゃないんだ。だから、夢を見た。

芦屋。何か分かったのか。

土本。いいえ。私の疑問を再確認しただけ。

芦屋。そうか。惜しかったな。

土本。亜有さんは。

関。眠っている。くーすか。

土本。当然か。

関。午前2時よ。

土本。外は。

関。ここはまだ田舎だから暗い。はるか向こうに、首都圏の明かりが見えるけど。

 (ソファに面した大きなモニタに映す。)

土本。永遠に続きそうな都会。

芦屋。400年の都。

関。一時期廃墟になったけど。それも昔の話。

清水。うーん、何よ。何かあったの?。

関。なんでもない。お話ししてるだけ。何か起こったら起こすわよ。

清水。うん。安心して寝る。

土本。ほんわかしているように見せかけて、度胸ある。

関。ええ。この界隈で、一番の曲者よ。

土本。あとは伊勢さんか。

芦屋。紹介しようか。

土本。どうしようかな。近々会いに行くつもりだった。

関。弟子入り。

土本。ずいぶん詳しそう。

関。生化学と分子生物学に関しては。本物よ。

芦屋。早めに行く方がいい。情報収集部のことが知りたければ、伊勢さんは最後の難関だ。

土本。何かあるってこと。面白くなってきた。

関。大丈夫?。いろいろありすぎて、さっきうなされたんじゃないの?。

土本。そうみたい。向かうところ敵なし、じゃなくって…。

関。敵ながらあっぱれ。

芦屋。相手にとって不足はない、だろう。なにいってんだ、お嬢さん方。

関。私もお嬢さん。

土本。私、お嬢さんじゃない。

芦屋。決まり文句だよっ。お嬢さんだ。認める。

土本。あなた、面白いやつ。

関。ふふん。虎之介の本領発揮。

芦屋。好きに言ってくれ。

 (女どもはベッドに帰る。夜は更ける。
 朝。午前7時。亜有が朝食を用意。)

清水。はいどうぞ。召し上がれ。

関。トーストにハムエッグに蒸した野菜。絵に描いたような朝食。

土本。飲み物はテ・オ・レか。

清水。何か文句でも。

小浜。おいしくいただきます。うん、うまい。

芦屋。いい焼き具合だ。

清水。お上手。

土本。見れば見るほど、面白いメンバー。

小浜。そんな中によく一人でやってくる。

土本。ID社3人に政府系1人。全員、軍関連。

芦屋。亜有は違う。

土本。調査には関わる。いわゆるインテリジェンス。関さんも。

関。想像の範囲内よ。私なんか、かなり末端。

土本。それでかな。

清水。何かあったの?。

 (土本は見た夢のことを話す。)

清水。イチとレイが勝手にあなたを引き込んだ。

土本。そうなるのかな。仲間とは思ったみたいだけど、やることは無茶苦茶。

清水。まだ完全には調整しきれていない。注意しなきゃ。

土本。単に私の想像よ。

清水。私の想像の範囲内でもある。

小浜。救護所に連れて帰ろうとしたのかな。

清水。そのつもりだったのかも。安全なところに避難させる。人工知能の判断で。

土本。その肝心の判断が狂ったら、大変。

清水。その通り。あとで調べる。

 (私と伊勢に連絡があった。それは、無害と思われた自律機構の思わぬ副作用であった。今の自動人形はしょっちゅう修理が必要だし、コントローラの厳格な管理下に置かれていたから、発見されなかったのだ。伊勢は自動人形の研究仲間に呼びかけ、対策と改良点を研究し始めた。
 改良は困難と思われた。というのも、人間の意味での意識や思考がない自動人形には、高度の判断は不可能だからだ。画期的な発明がない限り、調整の範囲の対応しかできない。だから、人間側の対策が急務となった。自動人形の管理集団は、受け皿を構築し始めた。
 同じ話は、大江山教授と海原所長にもした。両人とも関心が湧いたらしく、研究会を立ち上げた。しかし、こちらは自動人形に触れる機会が少ないこともあって、なかなか周囲には理解されなかったようだ。
 亜有は自律型の自動人形が身近に居るので、緊急対策を任された。開発されるべきコード群は、彼女の最初の大仕事になったのである。)

第34話。牧場にて。17. イチとレイに連れられて

2010-12-26 | Weblog
 (夜。交代でシャワーを浴び、女どもはベッドに入る。小浜さんと虎之介は運転席で眠る。)

土本。関さん、いきなり眠っちゃった。豪快。

清水。あなたもぐっすり眠るタイプの感じ。

土本。あはは、ばればれ。聞いていいかな。

清水。どんなこと?。

土本。自動人形との付き合い方よ。まるで生き物みたいに扱っている。

清水。外界に反応するロボット。それが分かっていれば、混乱することはない。ハード、ソフトとも複雑すぎて、理解は困難。

土本。意識みたいなの、あるのかな。

清水。意識はない。でも、気分みたいなのはある。怖がったり、怒ったりする。そして、人間がその状態であることも分かる。

土本。不気味。

清水。全然不気味ではない。巧妙に反応しているだけ。情動に対応する部分は、奈良さんのプログラム。動物や人間にうまく対応するし、なついたり怖がったりするから、かわいく見える。

土本。芝居をしているのか。

清水。そのあたりの表現は難しい。芝居と言えば芝居。でも、自動人形にはそれ以上の意識はないから、本心とも表現できる。

土本。慣れるまで時間がかかりそう。

清水。自動人形は、人間をうまく扱うから、大丈夫よ。親しみを持ってくれたら、相手を喜ばそうとして、芸のプログラムが起動する。見てると面白いわよ。勝手に漫才とかしてくれる。

土本。イチとレイがときどき掛け合い漫才しているのは、それか。

清水。そうよ。芸達者。元々は、殺伐とした雰囲気に陥りやすい救護所で、関係者や被救護者を楽しませるための仕掛け。ピアノを弾くとか。関係者がよってたかって、どんどん芸を仕込んだから、驚くような技を繰り出すことがある。

土本。イヌみたいなものか。

清水。そう表現されることが多い。イヌの気持ちは誰も知らないから、いつまでたっても比喩だけど。そうね、そう言う意味では、高度な反応をしてしまうイチたちより、アンの方が分かりやすい。見かけと違って、とても面白いキャラクタの持ち主なの。

土本。まじめそうなアンが。

清水。行動はストレートでまともよ。美女に作られているから、ちょっと気取った言い回しをするように調整されている。でも、突如としてとんでもない喜ばせプログラムが起動する。

土本。たとえば。

清水。伊勢さんの陰謀で白いワンピースの水着を着たことがある。

土本。色っぽそう。

清水。男性の視線をくぎ付けよ。ついでに、女性のジェラシーもむんむんと。で、注目を浴びたら、「あれ、なにかな」なんてとぼけながら、さりげなく髪を調えたりする。もちろん、プログラムした奴がいるって事。

土本。悪質。どういう研究成果の応用よ。

清水。アンは特に念入りに調整されている。考えてもみなさい。なぜ救護ロボットをわざわざ超絶美人に作ったのか。

土本。うん。頼もしそうなおばさん風に作るのがいい。

清水。だから、その通りの自動人形もいる。アンは、救護所で襲われる確率が大きい。寝ぼけていても、屈強のままの男とか。

土本。うわあ。で、撃退する。

清水。そうよ。恐いんだから。美女なんかに作るものだから、その手のプログラムがぎっしり。

土本。救護ロボットが撃退プログラム一式を装備している。なんか矛盾。

清水。おかげで、アンに関しては、追加の調整個所は少なくて済んだらしい。

土本。でも、逆に言えば、とても大切にされていた、ってこと。

清水。ええ。今でも、奈良さんの愛情を一身に受けている。

土本。うわあ。危ない危ない。

関。清水さーん、思わせぶりな解説はやめなさい。

清水。はーい。寝よっと。

関。あ、ごまかした。

土本。自動人形を操縦しているのは、亜有さん。

関。そう。でも、いちいち手足とかを動かしてはいない。それもできるけど、普段は何か取って来いとか、簡単な指示らしい。あと、奈良部長と伊勢さんがコントローラを持っている。

土本。3人。

関。そう。今現在、日本のコントローラは3人。自動人形は増産されているから、今後増えるでしょう。

土本。でも、奈良部長や亜有さんほどの操縦は厳しいから、イチたちが開発されたのか。

関。自律機構はB国ID社が開発した。アンも状況判断できるけど、よほどの危険と認識しない限り、自分から動くことはない。イチは飛び出して、一連の行動開始。

土本。やりすぎかも。

関。さんざん振り回された。でも、人間が振り回されるという意味なら、アンでも変わらない。どこが違うのか、亜有さんが解析中。

土本。なんとなく、みなさんの役割が分かってきた。ありがと。

関。うん。おやすみなさい。

 (窓は閉じているが、波の音がかすかに聞こえる。わざわざスピーカから流しているらしい。車体も、完全に水平ではなく、軽く揺らしている。土本はなかなか眠れない。いろいろ知りたいことがあるからだ。横に寝返ってみる。カプセルホテルみたいなベッドの脇には、簡易なモニタがあって、明かりなどの調節のほか、外の様子を見たり、インターネット接続もできる。接続してないので、単調な表示、うとうとしてきた…。)

 (ふと、イチとレイがソファで寄り添っているのを発見した。ごそごそ起きる。そばに寄ったら、中を空けてくれた。ここに座ってよ、ということらしい。座る。)

イチ。眠れないの?。

土本。あんたたち、なんで間を空けたのよ。

イチ。気に入らなかった?。

レイ。入ったってことは、気に入っているみたい。

土本。私が知りたいのは、理由。

イチ。お話ししたいからだよ。

土本。あなたたちと。

レイ。あなたの知りたいこと、私たちの知りたいこと。

土本。私の知りたいことはいいから、あなたたちの知りたいことって何よ。自動人形には意識はない。何が知りたいのか興味ある。

イチ。なぜここに来たの?。面白そうだから?。

土本。なんだ、サービスプログラムか。期待して損した。そうね、でも人形にお話しする要領で付き合ってみる。そう、研究に決まっているわ。私の本職。海洋生物の。そのためには、モグのような観測機が必要。でも、モグは高価すぎて買えない。だから、サイボーグ研に来た。

レイ。理由はあるんだ。

土本。何よ、その何か含んだような言い方。

レイ。モグを参考にするだけなら、ここまで来ない。目的は何よ。

土本。なっ、何か探ろうとしているのか。

レイ。会ったときから怪しかった。なにかいちもつ持っている。さっさと言ってみたら?。あっと言う間に願いがかなうかもよ。

土本。私がどこかのスパイと。

イチ。情報収集部の活動は知っているはず。ID社の中でも、その本性はトップシークレット。

レイ。おちゃらけ集団なのは見かけだけ。最初の4人だけでも大変な戦力なのに、今は虎之介に亜有。

イチ。小浜さんまでいるよ。

レイ。各国の安全保障関係者が正体を知りたがっている。でも、いざ調べようとすると、日本政府から横やりが入る。

土本。関さんか。

イチ。分かっているみたいだ。

土本。あれ、モグは潜水しているの?。

レイ。よく分かったわね。

土本。水上モードで出たはず。なぜ潜れるのよ。

イチ。モードはカモフラージュ。本当は自由に潜水できる。公開してない技術を使うから、普段は使えない。

土本。今は使える、って、私をどうする気よ。

レイ。単刀直入に言う。地上からしばらく消えてもらう。私たちの地下組織に案内する。

土本。誘拐。

レイ。死ぬよりましよ。命は保証する。快適な暮らしも。外界と遮断するだけ。

土本。他の人がいない。操縦しているのは誰。

イチ。五郎と六郎。ぼくの支配下だ。

土本。自動人形。そのためのしかけか。

レイ。やっと核心に近づいてきた。その調子よ。で、ID社のどこまで知りたいのかしら。

土本。そう、うすうす感づいていた。普通の会社じゃない。どうやって儲けているのか、なぜこれほどまでに平和に貢献しようとするのか。異常よ。不穏な動きと繋がっていたら、大変。

レイ。知ったところでどうにもらならないわ。日本政府はこちらを保護している。ID社は多国籍企業。日本の法律の及ばないところでも活動している。

土本。そこに案内してくれるの?。

レイ。要望は分かった。いまからかなえる。でも、あなたが知るだけ。それだけ。

イチ。もう二度と地上には帰れない。ぼくたちといっしょに、平和に貢献するんだ。

土本。間違っている。どこか狂っている。何よこれ。あんたたちは何よ。

 (すっと、誰か近づいてくる気がした…。)

第34話。牧場にて。16. 驟雨

2010-12-25 | Weblog
 (雨が降ってきた。かなり強い。通り雨らしい。土本は運転席に移動。)

土本。激しい雨。ほとんど先が見えない。

モグ。大丈夫だ。周囲の状況は分かっている。

土本。自動人形のセンサー群だ。

モグ。私のセンサーは、自動人形より高度だ。モニタを見てみろ。

 (土本はモニタを見る。数km先まで掌握しているようだ。その先は地図のようだが。)

土本。便利。気象レーダーは。

モグ。それはないが、ある程度大気の状態は分かる。それに、ID社の観測網がある。安心しろ。

土本。うん。

 (バケツをひっくり返したと形容できるほどの雨。それでも、モグは巡航速度で進む。20分もしたら、晴れてきた。)

土本。夕暮れの雨上がりの街。きれい。

レイ。そう見えるの?。

土本。そう見える。

 (自動人形は人間の仕草に関心がある。だから、なぜきれいに見えるのかと、必死で解析しているようだ。そのさまが、かわいく見える。)

土本。よくできた装置。ID社が総力を傾けているのが分かる。

レイ。私に?。

土本。そうよ。分かるでしょ?。

レイ。みなさんの期待は分かる。とてもありがたい。幸せ。

 (都心に近い海岸線をめぐり、西海岸を南下する。浦賀水道を出て、房総半島南端のあたりまで来た。ここから東海岸に沿って、ゆっくり北上する予定。
 あたりは暗い。夕食にする。土本と亜有が、トカマク基地に近いスーパーで買った魚を料理する。)

芦屋。おいしそうだ。

土本。あはは、無難な料理よ。

芦屋。田舎風だ。

土本。これがおいしいのよ。

小浜。いただきます。うん、ちょっとしょっぱいが、うまい。

芦屋。この程度の塩辛さの方がいいぞ。

小浜。たしかに。

土本。まるで昔からの仲間みたい。

小浜。さっき打ち解けた。同じ社員だしな。

芦屋。知っているという意味では、お互い知っていた。情報収集部員ではないけど、密接に関連している。

小浜。職場が同じになるのは初めてだ。

土本。社内でもいろいろあるか。大企業だし。

関。ID社は大型の多国籍企業。世界の従業員数は10万人。できる人は多数の国を遍歴することが多い。特に、Y国本部に行くのは一つのステータス。

小浜。A国やB国、F国あたりは魅力がある。機会があれば、行ってみたい。

土本。超が付く大企業。一つの国家のようなもの。

関。本物の国家じゃないけど、経済的には巨大。

土本。計測機って、儲かるの?。

芦屋。さあ。でも、同業他社はいて、吸収合併の話は聞くけど、つぶれた話はあまり聞かない。

小浜。地味だからな。本当の収益は知らん。

土本。ID社の計測器は時々見る。

芦屋。だろう?。おれは営業じゃないし技術でもないけど、見るとうれしい。

土本。宣伝は見たことない。

芦屋。業界誌には出しているらしい。カタログ上の性能はぱっとしないから、飛びついて買う人はいないようだ。

小浜。どちらかというと口コミだな。ごく一部でヒット商品はあるけど、あまりに市場が狭いので、ニュースにならない。

土本。よくつぶれない。

関。堅実な商売している。いわゆる超優良企業。身の程をわきまえた商売しているうちに、気付いてみたら超大企業になっていた。そんな感じ。

土本。技術力で勝負。

関。それと、アフターサービスと。小浜さんたちの仕事も、その一環。

土本。どんなところでも修理に行きますとか。

芦屋。あはは。たしかにしつこくメンテはする。あきれるほどだ。

土本。自動人形が役立つと思った。

芦屋。軍から買い取った理由は、そう説明されている。過酷な環境で計測器を設置したり、データを取ったり。でも、できなかった。だから、ここにいる。

土本。計測の意味が分からないからか。

芦屋。そのとおり。単純な設置だったら、自動人形を使うまでもない。活躍できる場面が、あまりに少なかったのだ。

関。でも、ID社の改造は有意義だった。体重を軽くして、救護服を作り、センサーを改良した。泳げたり、飛べたりするのは、改造があったから。

土本。ずっと重かったんだ。

関。今の3倍。鉄の男。いまの自動人形は、攻撃したら簡単に壊れる。だから、軍は改悪と考えていた。

土本。とんでもない誤解。

関。救護服を着たら、強さは変わらない。データの分析も巧妙になった。ID社のノウハウがいかんなく発揮された。

芦屋。もっとも、当初は改良は失敗と、社内でも見なされていたがな。だから、専門のロボット部隊でなく、奈良部長がA31を率いている。家畜の世話に役立てようとしたのだ。

土本。聞いた。膨大な開発経費の結果が、家畜の世話。開発元はさぞやがっかり。

芦屋。さあな。とりあえず役立ったんだから、安堵したんじゃないか。かわいいし。

土本。あはは。そうね。

関。軍事的には、調査と後始末しかできない。今でも同じ。活躍しているように見えるのは、奈良部長以下、スタッフがあきれるほど優秀だからよ。世界中が、ここで活躍している自動人形に注目している。

土本。サイボーグ研然り、ってことか。

関。そうみたい。

第34話。牧場にて。15. 東京湾一周

2010-12-24 | Weblog
 (ちょっと心配していた、地下ドックからのモグ2号発進は、あっさり国と県の許可が出た。大きさから言えば、観測用の小さな船だ。大江山教授のつてを使ったらしい。地上部は、とりあえずゲートと駐車場が必要。クレーターの整備もいる。トカマク基地の本部部分は最後の仕上げ。できるところから、作業して行く。
 本部建物の食堂で昼食。工事関係の人も多い。土本が席について食べ始めると、小浜さんがやってきた。)

小浜。ここに座っていいかな。

土本。ご遠慮無く。何かご用件でも。

小浜。いや、会話をしておこうと思って。情報収集部の活動はご存じ。

土本。ええ。話は聞いています。企業動向の調査。危ない活動を検出して、警察に素直に届ければいいものを、毎回のように突っ込んでしまって大変なことになっているらしい。

小浜。最近は一時期よりおとなしい感じだ。

土本。ミサイル発射が。

小浜。シリーズEのことかな。

土本。鈴鹿さんたちは仲間。いつ何時事に巻き込まれるか分からない。だから、行動を共にしそうな人物の性格とかを知りたい。

小浜。ズバリそう。勘がいい。さすがだ。海の女かな。

土本。よく父に近くの漁に連れていかれたわ。何を考えていたのか、さっぱり分からないけど。

小浜。こりゃ頼もしい。

土本。あなたも珍しい方。軍は壮絶な縦割り組織と聞いています。なのに、こうしてお話を。

小浜。空軍と海軍か。指揮系統は大切。守らないと、組織はたちまち崩壊。でも、現場で鉢合わせしたら別。上司の命令には細部で任意性がある。

土本。理屈はある。で、具体的にはいっしょにドライブとか。

小浜。うむむ、手強い女。でも、そんな感じ。合宿が一番良い。

土本。ここのメンバーで、モグに乗って東京湾一周。

小浜。企画力抜群。

土本。亜有さんたちと相談してみる。早い方がいい。

 (もちろん、すぐにやってみようということになった。メンバーは、小浜さん、虎之介、亜有、土本、関、イチとレイ。モグを使うので、五郎と六郎もいっしょ。水上モードで発進。ゆっくり進んでモグ内で一泊の予定。
 トカマク基地の海岸から海に進んで、ゆっくり北上する。
 軍関係同士で話が合うのか、運転席では小浜さんと虎之介が談笑している。)

土本。あきれた。小浜さん、私の行動とかが知りたいと言ってたのに。

関。嫌でもそのうち分かるわよ。女好きではあるものの、作戦遂行優先と見た。

清水。仕事には忠実みたい。不祥事のたぐいは、一切聞かない。

土本。お調子者の感じは、単なる性格か。

清水。虎之介と同じ感じかも。

関。なんとなく似てる。

土本。じゃあ、私は予定通り、モグのセンサーで周囲の見学などを。

清水。コンソールへどうぞ。

土本。うん。使い方、分かるかな。

清水。すぐに分かるよ。

 (女3人は、モニタの前に集合。土本には、こうした才能があるらしい。亜有が少し教えただけで、自分でマニュアル見ながら、一所懸命に性能を確かめている。関心は、東京湾の生物相らしい。)

関。熱心。こちらも仕事に忠実。

清水。目の色が変わっている。好きなんだ。お茶、用意する。

関。私がやる。亜有さんはいっしょに解析して上げて。

清水。それじゃあ。

 (関がキッチンでことことやりだしたので、小浜さんが近づく。)

小浜。それが海軍流の入れ方か。

関。空軍流ってあるの?。

小浜。ない。

関。もう、お調子者。さっさと入れるからそっち座ってなさい。

 (年齢的には、小浜さんの方が5才ほど上だ。虎之介もソファに着く。お茶ができた。)

小浜。ふむ、うまい。

関。ありがと。さっきは何を話していたの?。

芦屋。もちろん、トカマク基地の機能についてだ。

関。主に警備関連。

芦屋。そういうこと。

関。緊急発進とか。地下からシリーズBが直接飛び出す。

小浜。近いうちに試さなくちゃ。

関。戦闘機のホットローンチ。宇宙戦艦みたい。

小浜。有名なアニメだな。

関。いっしょなのか疑義ありだけど、多分、同様。

芦屋。そんなに種類はないよ。やれやれ、見かけ上は大変な仕掛けだ。

小浜。A国にはあるそうだ。こっちには空母はない。…、ん、ID社はどうなのかな。

関。あるのかっ、虎之介。

芦屋。宇宙戦艦。欲しいな。

関。ごまかすな。海上兵力よ。

芦屋。あれば衛星写真で見つかっている。すぐにでも作れるそうだけど。

関。やっぱり。観測用とか言って。

芦屋。カタログには乗っていないだろう。普通のヘリポート付きの、観測船と称するものならある。

関。頭痛がしてきた。なんちゅう会社。

小浜。シリーズBを数機搭載とか。そりゃ大した兵力だ。あはは。

関。あはは、ではありません。相手が小国なら、お手上げ。

小浜。こまったな。あんな高価な観測機、誰が軍事用に改造するもんですか。闇の中古市場でそれっぽいヘリを購入すれば、おしまい。

清水。なんちゅー不穏な相談を。

土本。この3人、不吉。

芦屋。おわー、聞いていたのか。

土本。秘密も何もないわよ。まる聞こえ。これじゃまるで、トカマク基地はID社の最前線基地。

小浜。あはは。鋭い分析。そんな感じだ。

土本。だから、各国の安全保障関連から目をつけられているのか。あきれた。

小浜。そんな。本気でやってこられたら、ひとたまりもない。守秘義務で詳細は明かせないけど。

土本。じゃあ、日本の軍からも目をつけられている。

関。当然。見たとおりよ。

土本。関さんは政府の調査員の一人。

関。隠してない。

土本。あー、私の人生、どうなるの。とんでもないところに来た。

イチ。分かるよ、その悩み。

土本。自動人形。あんたが一番まとも。

レイ。田舎に帰る?。

土本。帰んないわよっ。こうなったら、正体が分かるまで、とことん付き合ってやる。

芦屋。土本はモグ班だったか。

土本。いいえ。鈴鹿さんたちと同じ。計画推進本部付きよ。企画を持ち込んだり、営業したり。普段は大学院の研究していろって。

芦屋。海洋気象研究所の。

土本。身分的には、そちらに席がある。

芦屋。生物学だったな。

土本。海産物と、それに影響する生物や環境。つまり、海のすべて。産業は切り口よ。

芦屋。なるほど。お国のための研究だ。

土本。でないと、研究費が来ない。

芦屋。御用学者って、言われるぜ。

土本。構わない。お金でできることは多い。

小浜。よくできたお嬢さんのようだ。頼りがいがある。

土本。ふーむ。なんとなく居心地はよさそう。これからもよろしく。

第34話。牧場にて。14. 五香と探索

2010-12-23 | Weblog
 (夕方。居室で土本がくつろいでいるとノックする音。)

土本。だあれ。

イチ。イチだよ。レイもいっしょ。入っていいかな。

土本。ちょっとだけ待って。

 (ドアの向こうを確認してから、開ける。イチとレイが入る。)

土本。何の用?。

イチ。いっしょに探索してくれないかな。

土本。これか。自動人形の探索行動。でも、親しみを覚えた人にしか誘いをかけない。私でいいの?。

レイ。お話しもしたいし。

土本。お話って、あんたたち、意味が分からないでしょうが。

イチ。うん。でも、雰囲気は分かるし、事実の説明ならできる。

土本。亜有さんに派遣されたの?。

イチ。どう説明しても、その結論になる。

土本。これからの長いお付き合い。挨拶みたいなものか。

レイ。それでいい。

土本。支度する。

 (土本は、外出着を着る。レイが通信機を手渡す。)

土本。これなに?。ケータイなら持っている。

レイ。ID社の専用回線に繋がる通信機。持っていてください。ケータイは地下では使えない。

土本。ここでは使える。

レイ。わざわざ使えるようにした。でもケータイの中継器から少し離れると使えない。

土本。そうなのか。気付かなかった。うん、持っておく。

 (居住区から整備場に向かう。ちょっとシュールな廊下を行く。薄明かりの状態。普段は暗いはずだから、自動で明かりが点灯するようだ。)

土本。ここは地下。地震とか大丈夫かな。

イチ。ここは海岸に近くて、周りは水分を含んだ土。浮かんでいるようなもの。

土本。水槽の中にいる感じ。

イチ。適度に柔軟性があって、しかも比重をあわせてある。そのとおり。

土本。うまく作ってある。おもちゃじゃないんだ。

イチ。そうしないと、次々に壊れて、収拾がつかなくなる。

 (地下整備場に付いた。ここも薄明かり。虎之介は警備室に居るはずだ。通信機を使ってみる。)

土本。虎之介、聞こえる?。

芦屋(通信機)。うわっ、なんだ。土本、何かあったのか。すぐ行く。

土本。来ないでいい。ちょっと通信したかっただけ。整備場に居るのよ。警備室の明かりが見える。

芦屋。何だ。そう言うことか。うん、ここから見えるぞ。そっちから見えるか。

 (虎之介は手を振っている。)

土本。あなたって、面白い人。うん、こっちからも見える。ありがと、付き合ってくれて。

芦屋。自動人形の探索だな。付き合ってくれてありがとう。

イチ。これから原子炉経由で地上に出る。

芦屋。そうか。気をつけてな。

土本。さよなら。

 (ヘリポートのエレベータはクレータに上がった状態。地下の該当部分には、柵が迫り上がっていて、入りにくくなっている。土本たちは、原子炉に向かう廊下に入る。原子炉近くから、エレベータで外に出る。対岸の明かりが見える。振り返ると、月が出ている。)

土本。月は同じだけど、対岸の明かりはまぶしい。

イチ。東京湾の夜景。はじめての経験?。

土本。いいえ。でも、しばらくここで暮らすのかと思って。

レイ。家族と別れて、寂しいの?。

土本。いいえ。ここで仕事しなきゃ。私のできる限りの。

イチ。張り切っているんだ。

土本。うふふ。それくらいは分かる。

イチ。分かるよ。

 (あたりは暗い。イチとレイはLS砲を取り出して行く道を照らす。)

土本。ロボットに案内されて、道無き道を進む。これからずっとこんなのかな。

イチ。いっしょにいたい。

レイ。私も。

第34話。牧場にて。13. 公開日

2010-12-22 | Weblog
 (東京に近い東京湾に面する、アニメ調地下軍事基地、トカマク第二基地。本日は、そこに拠を構える予定の国立サイボーグ研究所、完成直前としての公開日。といっても、一般公開ではなく、日本政府が招待状を出した人々だけだ。それでも、明らかにお偉いさんや、軍関係者に見えるのが集まっている。粗相があってはいけないので、ID社からも総務部長や長野本社から技術部長を来させている。
 出発地点は、首都ど真ん中の日本ID社東京の二階にあるサイボーグ研の仮施設。海原所長が挨拶を切る。)

海原(英語)。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。来年度のサイボーグ研の移転場所が公開できる状態になりましたので、いち早くみなさま方にお知らせしました。わざわざ集まっていただき、大変光栄です。

 (最初、20人程度と聞いていたのだが、モグ2号の件が伝わったらしい、その倍はいる。なので、4班に分かれて説明する。情報収集部も自動人形も、総出だ。サイボーグ研(仮)を巡回し、質問を受ける。そして、バスに乗ってトカマク基地へ。モグと旧車両も行く。
 仮設のゲートを開き、入る。駐車スペースは工事用で、クレーターからは少し離れている。立地等を説明。シリーズBがやってきた。)

土本。ジェット機が旋回している。あれがシリーズBか。

火本。うん。ID社が世界に誇る観測用ジェット機。低速時の運動性能は世界一と言われている。

 (旅客用ジェットよりも静かなはずだが、やはりかなりの騒音。クレーターに着陸した。一行もクレーターに行く。
 人数が多い。よくよく確認して、エレベータを降ろす。軍事関係では珍しくないらしく、あまり驚いている人はいない。
 シリーズBが着陸した部分はプラットフォームになっていて、そのまま格納場所に移動して行く。パイロットの小浜さんがやってきた。)

小浜。お久しぶりです奈良部長。大変な施設を作ったもんだ。

奈良。なので、公開することになった。まだ未完成なのに。

小浜。完成が楽しみです。

 (本部建物の会議室に行く。こちらのメンバーを海原博士が紹介した後、大江山教授がサイボーグ計画の概要とトカマク基地の詳細を述べて行く。バトンタッチして、伊勢がモグ2号の計画を説明する。)

参加者1。モグ2号の目的は?。

伊勢。日本ID社情報収集部の業務に使います。

参加者1。サイボーグ研で類似品を作るんですか?。

海原。検討中です。できれば作りたい。居住性がよく、小回りが利く潜水調査艇を。

 (こんなやり取りが1時間ほど続いた。ヘリコプターのデモはしなくてよいから、基地内を詳しく見せろとの要望。4班に分かれて、基地内を巡る。普通の高等学校くらいの規模の建物が地下にあるのだ。それと、小さなホテルのような居住区、地下整備場、原子炉、倉庫。
 午後1時。食堂に集まって、昼食。司令室に食事を持ち込みたいとの要望があったので、急遽、司令室を準備する。普段から、関係者の憩いの場として使われていたから、すぐに整った。大きなスクリーンに、資料映像を映す。
 施設が冗談と分かったためか、ほとんどの人がリラックスして談笑している。入れ替わりで、何人かと話をする。私(奈良)が自動人形の使い手であることは知られているらしい。操縦のコツなどを聞いてくる。特に秘密もないので、知っている限りを話す。)

参加者2。自動人形は、大変な金額の装置だ。よく予算が続いている。何か理由をご存じ。

奈良。ID社に来て1年間の集中開発の後、私などの個別の研究者の手に渡ってから、予算の出方は変わらない。昨年から、ID社で追加生産が開始されてからも同じ。必要な予算は、ためらいなく出る。

参加者2。じゃあ、本当のところは知らされていない。

奈良。ええ。いろいろ想像してはみるけれど、どれもしっくりこない。

参加者3。誰に聞いたら分かるのかな。

奈良。ID社本部の経営担当の委員会ですけど、おそらく社外秘の事項。

参加者2。だろうな。外から見ていても、全く謎。

参加者3。そちらもそう考えているのか。

参加者2。ああ。A国で開発が再開されたのと、この日本のサイボーグ計画に刺激されて、各国が高度な自律ロボットに関心を集めている。ID社は何か気付いたのだ。あそこにいるのが、クローン。屈強な男性型アンドロイド2機。残りがオリジナルを改造したもの。

参加者3。A国が開発した軍事用アンドロイドをコピーしているのか。

参加者2。そのとおり。ですな、奈良部長。

奈良。そのとおりです。寸分たがわぬ設計。全く同じプログラムが動作する。

参加者2。完全に同じではないはずだ。A国軍のファームウェアがクローンには入っていない。

奈良。そうでした。失礼。

参加者3。ん、どう違うんだ。

奈良。A国軍の初期のプログラム。ID社に引き継がれなかった試作プログラムは、クローンでは動かない。予想ですけど。

参加者2。古くて性能の低いプログラムだ。誰も見たことが無い。

参加者3。そのファームウェアは、今は使ってないんだ。

参加者2。そう、基本ソフトが直接機械を動かしている。だから、今はクローンもオリジナルも、全く同じプログラムが動作している。何一つ変わらないと言う表現は、今は正しい。

参加者3。じゃあ、オリジナルには、なぜファームウェアが残っているんだ?。外すのは簡単だろう。

参加者2。奈良部長、何かご存じ。

奈良。知られていなかったか。引き継いだ時点のA国軍の基本ソフトは、そのファームウェアが無いと動作しない。使ってはいないので、単に存在を確認しているだけ。

参加者2。そうだったのか。で、今はID社の基本ソフトが動作している。

奈良。ええ。イチたちオリジナルにもID社製の基本ソフトが入っている。A国軍のプログラムで残っているのは、軍事コードのみ。

参加者3。万一のために、A国軍の基本ソフトもバックアップしている。それは、オリジナルでないと動かない。

参加者2。そんな理由だろう。よく分かった。

 (もう十分と判断したのか、参加者は三々五々、タクシーで帰りだした。)

小浜。納得したみたいだ。外見は派手だが、要はおもちゃだ。

奈良。来年4月からは、サイボーグ研が使う。かなり活気づくはず。

小浜。これを作ってしまったとか言う社長、満足でしょう。

伊勢。最後のグループが帰った。あとは関係者だけ。

小浜。伊勢さん、こんにちは。また間近で会えた。うれしいです。

伊勢。おほほ、私もうれしいわ。小浜さんがいたら、百人力。しばらく、ここにいてくださる。

小浜。ええ。長野本社にいても同じことですから。

伊勢。みなさん楽しそう。

小浜。やってきた調査陣も途中からきゃっきゃ言って喜んでいた。実物大秘密基地。みんなのあこがれ。完成はいつなんですか?。

伊勢。聞いているところでは、来年4月から正式稼働。でも、9月には建物自体は完成する。地上部や地下ドックも急いで整備するらしい。

小浜。自動人形が増えている。紹介してもらえますか。

伊勢。エレキたちはここに駐在する予定です。いい機会、顔合わせしましょう。

 (メンバーを司令室に集める。紹介して行く。)

海原。いつのまにか、大変な戦力になっとるの。

火本。陸海空、なんでもござれ。

海原。モグにモグ2号にシリーズB。本当の実力がばれたら、大事じゃ。

火本。大事じゃ、って、博士、楽しんでおられる。

海原。子供のころからのあこがれだったからの。

火本。いいんですか?。何か起こりそう。

海原。何も起こりそうにないのう。お主たちがいるうちはいいが、将来は遊園地にするとか、何か別の計画が要りそうじゃ。

火本。地上はのんびりした公園にする。交通の便も微妙。イベントでもしない限り、人は集まらない。こんなに都心に近いのに。

海原。やはり、ひなびた研究所かの。

大江山。海原博士、集まっていただけますか。施設、特にヘリポートの使用について、サイボーグ研とID社で合意が必要。

海原。水くさいこと言わずに、好きなだけ使えばいい。他に使ってくれるところなど、ないじゃろ。

大江山。実質そうでも、国の監査が入りますから形式的な文書は必要。

海原。面倒じゃの。どれ、話し合いに行くか。

 (ID社からは、サイボーグ研に対してはかなり投資している。知っている人は知っているのだが、一般に対するID社の認知度は低い。おまけに、日本の競合メーカーの実力は大変なもの。現場では99%負けていると言ってよい。だから一般向けの製品開発もやりたい、というのが表向きの理由。本当の理由は、東京ID社が情報収集部を持て余しているので、ちょっと郊外に行って欲しい、のようだ。
 ヘリポートとモグ2号関連の合意は普通に成立し、具体的な文章はID社の総務が作製することになった。本日の予定は終わり。虎之介や永田たちを残して、全員東京ID社に戻る。)

第34話。牧場にて。12. B国からの設計図

2010-12-21 | Weblog
 (数日後、B国ID社からモグ2号と地下波止場のスケッチが届いた。亜有は関係者に開示する。見た永田と関が慌てている。日本ID社東京、第二機動隊本部にて。)

永田。あの…、これを作るんですか?。しかも東京湾に配備。

清水。おもちゃです。あまりの小ささに、実物を見たら百人中99人がずっこけるはず。

永田。写真で見たらスケールを勘違いする。たいへんな仕掛けに見える。

関。モグ2号って、全然モグに似てない。

清水。プレジャー用モーターボートを水中に沈めるのが、元々の案。モグ同様、しばらく居住できるように言った。

関。で、高速艇部分が前部に付いている。4人乗りだから、狭いはず。なので、後ろが居住部。

清水。私も今見た所よ。前部を観測のために水中で発射する。水中でも高速だけど、海面から飛び出して、トビウオみたいにしばらく飛行する。再び着水して、潜れる。

芦屋。そんな魚雷があったな。

関。おぞましい兵器よ。こいつは飛び出して、そのまま上陸可能。

清水。タイヤがでてくる。でも、推進はジェットがメインだから、ほぼ航空機。

関。後部は当然飛べないけど、地上には出られる。で、この格好で、街中を走る。

清水。シュールなデザインのトレーラーよ。日本の車両法にあわせるのに苦労したみたい。

永田。こちらの図は、地下ドックか。

清水。ええ。トカマク基地に接して、新たに作る。

関。水中から発射。秘密基地、そのもの。

清水。あくまで、水中プレジャーボートです。

永田。言い切れるかな。

関。トカマク基地の公開日は3日後。この絵を追加して送らなきゃ。

 (永田と関はパーティションの中に入った。)

火本。明らかに焦っている。新兵器に見えるのかな。

芦屋。見様によっては。地上では目立ちすぎるから、簡単に発見されてしまう。

水本。悪趣味に入ると思う。

清水。日本のみなさん、こういうのお好きでしょ?、ってノリ。

芦屋。モノリスの時もそんな感じだった。あれはG国製だった。

火本。東京湾でトビウオしたら、危険だよ。

芦屋。詳しい性能は、書いてないのか。飛行距離300mとかだったら言い分けも簡単だ。

清水。波が静かだったら飛び続けられる。キックに蒸気ロケットを使うみたいだから、普通は3回とかかな。とりあえず、危険から逃げるのが精一杯。でも、理屈上は、カスピ海を横断できる。

芦屋。冗談…。

火本。虎之介が驚くんだから、たいしたもの。

清水。でも、そのとおりよ。冗談機能。数字だけ見たらびっくり。本部がやらかすのと同じ。

水本。日本ID社、情報収集部門の性格が知れ渡っている。

清水。世界的に有名よ。前代未聞のおちゃらけ集団。

芦屋。で、誰が操縦するんだ?、そんな面白い船。

清水。あなたよ。しっかり講習を受けてきなさい。

芦屋。他動人形だろう。自分で動く。

清水。教え込んだらの話。しっかり訓練してください。

火本。こんなの操縦できるの、世界で何人もいない。

水本。やってくださったら、うれしい。

土本。私も興味ある。いっしょにやろうよ。

芦屋。面白く見えるのか?。

土本。もちろん。こんな船が欲しかった。あなたも、そう言ってたじゃない。

芦屋。純粋に趣味のレベルならな。

土本。海洋気象研究所で買い取れれば買いたいくらいだ。

芦屋。なるほど。研究に役立つと思うんだ。協力しようじゃないか。

土本。あんた、いい人。

清水。計画続行と伝えておく。

火本。これから本設計するんだろうけど、大変な技術。真似しようにもできない。

土本。1/100の値段で作るのよ。

火本。どっちを?。

土本。両方。岡に上がれなくていいし、調査艇は飛ばなくていい。小回りが利いて、かつ、外洋に出られる多目的調査艇。

芦屋。母船に調査艇を積めばいい。

土本。まあね。でも、いちいち降ろしたり上げたりするのが大変。事故は、そんなところで起きる。

芦屋。その点は有利か。多少海が荒れていても平気。

土本。うん。便利。

芦屋。世界中に売ろう。

火本。所長にアイデアを伝える。

 (海原所長は、とりあえずモグ班に強力な電池などの基盤技術の調査を指示。何に役立つか分からない点が多いので、モグ2を見てから具体的な計画を立てる予定とした。)

清水。名前は。モグ2世号でいいの?。

土本。考えよう。先端部と本体の愛称も。

芦屋。実物を見てからの方がいい。モグは一瞬で決まった。

清水。関さんの命名だった。

土本。見てからにする。ところで、ここは何をする部署なの?。

芦屋。あれ、言ってなかったか。

火本。まず、日本ID社情報収集部の通常のメンバーは4人。奈良部長、伊勢さん、鈴鹿、志摩。鈴鹿と志摩はぼくと同期の大学院生でもある。

土本。だから、何するところ。

水本。日本の科学系企業の動向を調べて、本部に報告する。ID社は計測機の会社。どんな製品を開発するかの参考にする。

土本。もっとありそう。

火本。そりゃそうだよ。企業にしてみれば、表にしたい事項と、したくない事項がある。どちらも情報収集部の関心事。

土本。知られたくない部分も探る。

水本。ID社の製品は高度で信頼性抜群。不正使用は会社の面子にかかわる。

土本。そういう情報も集めるのか。だから、鈴鹿さん、あんな感じなんだ。

火本。虎之介は本部から派遣されている。志摩と同期。攻撃陣では最強。形式的に情報収集部付きなので、奈良部長の配下。亜有はY国本部航空部門長秘書。自動人形の評価のために日本にいる。

土本。何の評価。

水本。イチとレイ、マグネとエレキには、B国ID社が開発した新パラメータが入っている。奈良さんが操縦しているアンたちとは若干動きが違う。

土本。そうなの。

清水。アンたちにも自律パラメータは入れたけど、動作させていない。だから、アンはその場で反応するだけ。でも、イチは一作戦持つほどの自律性があるはず。

土本。なんだかややこしそう。

火本。それを解析するのが、亜有の仕事。応用数学者だ。

土本。虎之介が相棒。

清水。今のところは。もともとよく知ってたし。

土本。じゃあ、イチとレイは暴走する可能性があるんだ。

清水。暴走しそうもないから、B国が手放した。どちらかというと、実用性があるかどうかが関心事。

土本。メリットがないなら、分かりやすい方がいい。

清水。そういうこと。アンたちも十分に活躍している。イチたちには振り回されることが多い。勝手に行ってしまう。

水本。あと、調査能力を買われて、永田さんたちから調査依頼が来る。

土本。私立探偵だ。

火本。そんな感じ。不思議なほど連携している。

土本。だって、目的がいっしょですもの。財務省は、我が国の国力に関心がある。そのためには、法治国家であることが大切。ID社には健全な市場が必要。まっとうな商売には平和な世界が都合がいい。なんとしてでも紛争を防ぐ必要がある。

清水。土本さんは、そんなのに関心があるの?。

土本。純粋に科学していたい。その気持ちはあるけど、でも、責任がある。

芦屋。いい人材が揃っている。さすがだ。

火本。トカマク基地の居心地はどうだい?。

土本。昼間はこっちにいるから、あまり感想はない。宿泊施設は快適。虎之介さんはどう?。

芦屋。警備室に陣取っているだけ。巡回は自動人形がしてくれる。不備があったら、自動人形では解決できないから、行く必要がある。

土本。あくまでロボットか。

清水。人間は必要よ。

火本。移転はいつ。

芦屋。公開日の夜から。シリーズBが常駐する。

火本。永田さんたちも。

芦屋。同時に移るらしい。一応、未定だそうだ。

第34話。牧場にて。11. 地下波止場

2010-12-20 | Weblog
 (昼食にする。本部にある食堂。厨房はすでに小規模ながら使われている。工事関係者がいるからだ。)

土本。来週にも公開する。

伊勢。そうよ。誤解をされないように、未完成の段階で公開する。

奈良。サイボーグ研から大使館などに案内を出した。主要国はすぐに反応したらしい。

土本。基地内を見回るだけ。

伊勢。ヘリを飛ばして、シリーズBもデモする。

土本。なんだか、それっぽい。地下秘密基地。

伊勢。モグ2号はどうなったの?。

土本。岡を走る潜水艇。B国ID社が作る。

伊勢。どんな形?。

土本。任せちゃった。すぐにスケッチを送るって。

奈良。キャンピングカーじゃないのか。

土本。その機能も持たせる。

伊勢。モノリスみたいになるのかしら。

奈良。意地でも真似しないはずだ。クレーターから出すのか?。

土本。考えてなかった。

伊勢。駐車場から発進、というのも情けないわ。

清水。イメージぶっ壊し。

鈴鹿。物語ではありがちだけど、水中に出入り口作ろうよ。

志摩。地下に海水のプールを作って。

土本。海面と高低差がある。

芦屋。ゲートを設ければいいけど、とんでもない工賃がかかるぜ。滑り台でいいじゃないか。

土本。するするー、ドボン。って。

清水。毎回進水式か。B国ID社はどんなのを想定していたのかな。

芦屋。波止場。当然。作るか。

土本。海が荒れてても、出港したい。潜水艇でしょ?。

芦屋。鈴鹿の意見を検討しよう。亜有、設計できるかどうか、費用がでるかどうか、確認してくれ。

清水。いいわよ。B国ID社に伝える。

伊勢。そんなの、言ったら最後、なにがなんでも作るって言う。

土本。B国ID社の考えられる限りの技術で。

芦屋。じゃあ、志摩の意見採用だ。地下波止場。

清水。あんた、面白がってるでしょう。

土本。映画にあった。I国のとか、E国のとか。

芦屋。発注先を変えるか。

清水。地下波止場だけI国とか。それはやめた方がいい。

伊勢。同意する。B国に全部やらせましょう。失敗したら、とんだ私たちの恥。

清水。知らせる。

 (まあとにかく、原子炉からの大電力が使えるので、地下波止場部分はB国のお得意だ。東京近くに作るというので、すっかりその気になってしまったらしい。水中発射管などの土地利用については、日本ID社が調整する。)

第34話。牧場にて。10. モグ2号計画

2010-12-19 | Weblog
 (5人で相談開始。)

土本。モグは完成しすぎている。魅力ある。

清水。F国ID社の開発陣に聞かせてあげたいセリフ。

芦屋。何か心づもりはあったのか。

土本。ええ。クルーザーをベースにしたかった。

芦屋。なもん、できるかよ。トレーラー何台分だ。

清水。ええと、土本さんが言ってるのはレジャー用のモーターボートのこと。

芦屋。なんだ、そうか。

水本。何を想像したのよ。もしかして、イージス艦みたいなやつ。

土本。海底軍艦かな。

火本。よく知ってる。先にドリルの付いた潜水艦。空も飛ぶんだよ。

芦屋。なんちゅー兵器。そんなもん、ありゃせん。

水本。あんた、どこの国の人よ。

清水。こほん。つまり、キャンピングカーベースのモグに対抗して、プレジャーボートベースのモグ2世号。

水本。愛称は後で考えましょう。それより、陸に上がった船は情けない感じ。

火本。変身するとか。カシーン、カシーン、カシーン(註: マグマ大使)。

芦屋。なんだそれは。

水本。昔の漫画よ。知らなくても差し支えない。で、クルーザーが水中を進む。

芦屋。なら分かるぞ。いいな、そんなのが欲しかった。

土本。水本さん、この男、信用していいの?。

水本。虎之介のこと?。ぜーったいに浮気しない。保証付き。

芦屋。なんの話だよっ。この大学って、こんな感じだったのか。

清水。そうらしい。

火本。いろいろだよ。超真面目なやつもいる。

土本。水深20mを高速で進むのよ。デザインはエイの感じ。

芦屋。作ろう。絶対にいい。

清水。陸に上がれない。どうするのよ。

芦屋。東京湾のトカマク基地だ。水中専用でいい。地上部分は別に考えよう。シリーズBの水中版。

清水。あなた、狙いはそこか。新手のシリーズXを作る。作者も考えてないような。

火本。乗った。それで行こう。地上にはホバーで這い上がる。

清水。ううむ、SF。

水本。面白いじゃない。こんな無理を聞いてくれるところって、あるの?。

清水。Y国ID本部の航空部門は意外に真面目。F国とかの方が面白いのを作る。とにかく、各方面に打診してみる。

 (何と、B国ID社が反応した。要するに、潜水艇だろう。それを地上を這わせればいいんだ、だと。大丈夫か。出来上がりは1カ月後。それまでは旧車両を使うように指示した。
 翌日。情報収集部総出でトカマク基地の整備を行う。亜有たちは宿泊施設の準備。さっそく泊まってみるらしい。私(奈良)たちは地上の警備装置の設置。)

芦屋。3室ある。とりあえずは、これでいいかな。

清水。モニタとベッドが置ければ、当面の用は果たす。すぐに、10室ほどに増やすらしい。小浜さんとシリーズBの整備の人が来る。関さんたちはどうするのかな。

芦屋。後で聞いておくが、通いだろう。中は豪華だ。ホテルみたいだな。

清水。そのものよ。食事は注文すれば届けてくれる。工事関係者の昼食のために、業者が入っているらしい。

土本。洗濯とかゴミは。

清水。ゴミは工事関係者といっしょの経路を使う。洗濯は自分たちで。ID社の宿泊施設みたいに、共同の台所とか、ランドリーとか必要。早急に整備してもらおう。

芦屋。客人が来るのか。

清水。いつ来てもおかしくないそうよ。それでなくても、大江山教授とかが泊まるかもしれない。

芦屋。そりゃ大変だ。きちんとしなきゃ。

 (こちらは、クレーターの地下の整備場の一角にある管制室に集まる。)

鈴鹿。使えるのかしら。

志摩。調べなきゃ。

 (照明とエレベータなどの操作ができるだけ。でも、スペースはある。)

鈴鹿。専門家に整備させた方がいい。

志摩。とりあえずの警備室機能を置こうと思ったけど、それじゃ邪魔だな。

鈴鹿。本部建物を使う?。

志摩。あそこはアミューズメント専用施設にしようよ。

鈴鹿。じゃあ、ここがメインの管制室。警備室は少し離そう。

 (整備場のフロアに降りて、周りを見渡す。)

鈴鹿。8つの区画がある。ヘリコプターが一つ使っていて、エクササイザーが一カ所。それとシリーズBが一カ所。あとはモグ班とかが使う。

志摩。うん。ここが工房。

鈴鹿。対面にも管制室みたいなのがある。一カ所じゃ場内を見渡せないからだ。あちらを当面の警備本部にしましょう。

 (当分の間はモニタを置くだけだ。
 手分けして巡回し、監視装置の設置場所を決めて行く。全員集合し、相談。これでいいだろうということで、装置を発注する。)

第34話。牧場にて。9. 五香の引っ越し

2010-12-18 | Weblog
 (翌日、第二機動隊本部にて。)

火本。突然、移転が決まったの?。

清水。そうみたい。

火本。お別れになるのか。

水本。すぐにこっちもトカマク基地に行くわよ。

火本。そうだった。自動人形はどうなるの?。

清水。チームU4は引っ越す。イチとレイは、ここにすぐに飛んで来れるから、心配はない。

芦屋。モグはこちらに残す。五郎と六郎も。

火本。そちらの移動手段は。

芦屋。シリーズBをしょっちゅう使うわけにはいかない。トースター号はどうなった。

火本。来週に一台手に入るけど、こちらで持っておきたい。

清水。モグ班がトカマク基地に来るまで、離れ離れか。

火本。もう一台用意すればいい。

芦屋。モグ班が来たときに余る。

火本。売ればいい。引き合いは多い。すでに1年待ち。

清水。レンタカーでも借りるか。

芦屋。社用車が手配できないかな。

清水。聞いてみる。

 (亜有から私に連絡があった。伊勢と話し合うと、モグ2号はどうかとの提案。なるほど。伝える。)

清水。モグ2号を作りなさいって。他動人形。イチのメンテの予算で。

水本。贅沢。10億円。

火本。モグのクローンを作るの?。

芦屋。同じではつまらない。考えよう。

水本。選べるの?。

芦屋。あのな、仕事用のクルマだ。役立たないと全く意味がない。しっかり考えるんだ。

火本。分かった。考える。

水本。あんたが。

清水。参考にする。考えてくれたら、うれしい。

火本。土本に知らせよう。

水本。五香さんのこと?。

火本。当たり前だ。

水本。それならいい。

 (知らせたら、土本はすっ飛んで来た。外見の肝っ玉のある感じとは裏腹に、かなりの慌て者らしい。夕方。)

土本。はあはあ、終業に間に合った。

清水。って、もうすぐ勤務時間は終わり。今夜は泊まるの?。

土本。とりあえず、本日は水本さんの家に泊めてもらう。

水本。うん。ご遠慮なく。

清水。その大きな2つのトランクは何よ。家財道具一式の雰囲気。

土本。さすが。そのとおり。

清水。当分、東京にいるつもり。

火本。あまり考えないで出てきたとか。

土本。てへへ。当たり。

芦屋。面白いやつだ。予定通りトカマク基地に泊まれるかどうか、検討しよう。

水本。明日の夜から。

芦屋。どうせ、警備の当直が必要。何とかならないと、計画そのものが破綻していることになる。

清水。手配する。宿泊施設と、地上の監視装置。

芦屋。あとでリストを作ろう。

土本。モグ2号を作るんだ。

芦屋。そのとおり。

土本。モグの設計書を見せてよ。

火本。モニタで見よう。

 (土本は伊勢と同様、必要とあれば何でも勉強してしまうタイプのようだ。火本の解説を受けながら、熱心に見ている。虎之介があきれている。)

芦屋。生物系の学者の卵か。

清水。もう卵じゃないわ。若鶏ってところ。

芦屋。伊勢さんの若い頃もあんなのかな。

清水。あなた、伊勢さんは歳喰ってないわよ。学者のもっとも活躍する時期は、まだ少し先。

芦屋。学生時代のことだよ。

清水。もっと暗かったらしい。黙々と、図書館の最深部で資料探し。

芦屋。恐怖だ。

水本。気持ちは分かる。興味が湧いたんでしょう。衝動的なもの。どうしようもないわ。

芦屋。普通、自分で変だと思うだろう。

水本。あなただって、必要とあらば航空力学でも生物科学でも何でもやってしまう。

芦屋。実用主義。変ではない。

水本。変よ。

芦屋。そう見えるのか。

水本。うん。やたらと頭がいい。特定の分野では。

芦屋。いつものごとく、引っかかる言い方だな。

水本。すばらしいと言ってるのよ。

芦屋。好意的に受け止めておくよ。

水本。幸せな性格。

清水。いいでしょ。虎之介は、だから断トツのトップでも他人に好かれる。