ID物語

書きなぐりSF小説

第10話。モノリスとピナクス。19. 付属水族館の沖にて

2009-05-31 | Weblog
 (で、予想通りと言うか、亜有が初日から付いてきた。現地で虎之介と合流。昼食直前だ。)

芦屋。何しに来たの。

清水。訓練を見せてもらいに。

奈良。私が許可した。

芦屋。海岸近くでスーツを試す以外は、見ているだけだよ。

清水。それでいい。

 (虎之介はIFFの軍事設備を感づかれるのを恐れているようだ。でも、使うのはDTMが整備した通信網など。ID社もちゃっかり使用している。IFFのはいざという場合しか使わない。
 で、まずは館長に全員であいさつに行く。虎之介も亜有もいる、ということは、トラブル必至。)

奈良。はじめまして、ID社の奈良治といいます。

伊勢。同じくID社の伊勢陽子。よろしくお願いします。

館長。よくおいでなさいました。歓迎します。我が大学の学生3人の上司とか。お世話になっています。お二人の専攻は生物学、論文を拝見しました。

奈良。ありがとうございます。こちらは、社所属の芦屋虎之介です。

芦屋。よろしくお願いします。

館長。よろしく。そちらがうわさの自動人形ですか?。派手です。

奈良。今は戦闘ロボ風の外見ですが、近々、アンドロイドに改造予定です。

モ、ピ。よろしくお願いします。

館長。幸い海は穏やか。たっぷりと訓練してください。必要なものがあれば、連絡をください。すぐに検討いたします。ショーはあさってとしあさって。

奈良。そのようにお聞きしてます。午前1回と午後2回。その前の夕方に練習します。

館長。楽しみにしています。

 (粗相はなかったようだ。ふつうに海岸に出かける。)

奈良。装備を付けてくれ。

 (モノリスには男性、ピナクスには女性が行って着替える。私も伊勢も着替える。ご丁寧にも分子シンセサイザーを用意している。)

奈良。出発。

 (モノリスとピナクスで沖に出る。といっても、海岸から20mほどのところ。砂浜の続き。重いから結構沈む。いつも使っている普通のドアは開かない。左右と天井に専用の出入り口がある。おまけに、水上にはバランスよく浮くだけで、船としての形状などほとんど考えられていないので、遅い。川渡り専用のようだ。その割には、計測器などは充実していて、外洋でも使えそう。
 外部蓄電器付きのA31を先に潜らせて、危険がないかを探らせる。)

タロ(通信機)。穏やかです。普通に注意していればOKです。

伊勢。モノリスとピナクスを先に試しましょう。

 (ロボ型、ウマ型、白鳥型を次々に試す。ウマ型がある程度潜って行動できるとは、あらためて見ると変な感じ。カバみたいだ。動作に異常はない。設計は念入りのようだ。最後に竜型を試す。するするとうまく泳ぐ。)

鈴鹿。分かっていてもびっくり。

芦屋。ああ、特に竜型は驚異だな。

 (A31の水中推進装置や予備センサーを試す。すぐに慣れて、使いこなしている。ちょっと楽しそうだ。)

奈良。虎之介、志摩、鈴鹿。装備をチェックしてくれ。

 (次々と飛びこむ。志摩と鈴鹿は久しぶりのはずだが、すぐに思い出したらしく、うまく泳いでいる。水中スクータも試した。)

奈良。志摩、鈴鹿、私と伊勢と交代してくれ。

 (こちらも装備を試す。うまくできている。ちっとも寒くない。少し泳いで全員帰還する。お茶の時間にする。)

奈良。志摩、水中スクータはどうだった?。

志摩。面白かったです。機動性もあるし、計器で前方もよく分かる。安ければレジャー用に売り出せそうです。

芦屋。いまのところ、商用には向かないほど高価。慣れも必要だし。

 (ピナクス車内にて。)

伊勢。ふーん、久しぶり。水中遊泳はいつやってもいいわ。

清水。寒くなかったですか?。

伊勢。スーツがよくできているから大丈夫。水は冷たい。先に清水さんに潜水を体験してもらいましょう。それから沖に出る。

清水。暗くなります。

伊勢。A31たちがいるから大丈夫。さっき試したのはそのため。志摩たちは夜の海の経験はあるはず。そうでしょ?。

鈴鹿。やらされた。怖かった。

伊勢。鈴鹿、清水さんに潜水の初歩を教えてあげて。

鈴鹿。はーい。お待たせ、亜有。

清水。よろしくお願いします。

 (小一時間の講習。念のため、アンとジロが付いている。亜有は器用で、最低限必要な器具の使い方はすぐに覚えてしまった。戻ってきたので、沖に向かう。時速20kmほどか。海が荒れていたら、とても使えない。)

鈴鹿。レジャー用。

清水。それにしては装備が大げさです。第一、歩いてもあまり揺れない。不思議。

伊勢。スタビライザーがある。でないと、ロケット人間を発射しただけで船体が傾く。

清水。これだって、魚群探知機というより、海底の地形が丸分かり。高度な機械。

伊勢。あら、ID社のラインナップにあったでしょ。

清水。とてつもなく高価。もちろん、実物を見たのははじめて。

伊勢。それより、潜水初体験はどうだった?。

清水。浅瀬だと簡単。寒くなかった。よくできた装備です。海がきれいでよかった。

伊勢。レジャーの範囲なら楽しいわ。

清水。わざわざ私のために用意したのは、今後も使う、ということです。

伊勢。そうね。いつ使うかは分からないけど。私の装備も、当分役立たずかもしれない。年に数回の練習に使うだけかも。

 (沖に出た。あたりは急速に暗くなってきた。水深は1000mほどもある。)

清水。ここで潜るの?。とんでもない深さ。

伊勢。志摩たちの軽い訓練と自動人形の調整。壊すと大変だから、カタログ性能の確認。

奈良。A31とモノリス、ピナクス。水中活動開始。

 (自働機械が水中にはいる。クロともども、深く潜って行く。600mまでわずか5分。)

奈良。タロ、異常はないか。

タロ(通信)。異常なし。ソナーで互いを確認しています。

 (伊勢が一つずつ項目をチェックして行く。)

清水。よく通信できます。びっくりするほど。

伊勢。あら、よく気付いたわ。

清水。ええっ、やっぱりしかけがある。

伊勢。そりゃそうよ。作戦時にびっくりされても困るから、先に言っておく。光ファイバーによる中継装置をすぐ近くに降ろしている。こっちのパネルに位置が表示されている。

清水。簡易環境計測器付き。水温は0℃近く。ふむ。よくファイバーが切れません。

伊勢。細くてよく切れるようにわざわざ作っている。複数台配備していて、切れたらすぐに予備を向かわせる。切れた中継装置は戻ってくる。

清水。ID社の技術。

伊勢。そう。高価だし、普通は音響だけで交信するから普及はしていない。

清水。用意周到。

伊勢。でないと、作戦できない。でも、さっきから装備に足りない点がいくつも発見された。すぐに整備しておかないと。

清水。そういう意味の訓練だったんですか。

伊勢。機械の調整のつもりだったけど、ほかにもあった。

奈良。虎之介、志摩、鈴鹿。潜ってみてくれ。

 (3人が海中に入る。)

鈴鹿◎(DTM手話の通信)。肉眼では全く何も見えない。

芦屋◎。じゃあ、練習しようか。目標を投げるから、互いにキャッチしよう。

 (ゴム製のロケットを投げる。すぐに止まるから、取りに行く。自動人形も加わって、試してみる。)

清水。アクロバット。

伊勢。よく訓練されている。うまいわ。

清水。映画では訓練で機械を組み立てたりしていました。

伊勢。そうね。ショーではアンドロイドにも竜型にもやらせてみる。穴開けとか溶接もしたいけど、魚のいる水族館の水槽では無理。

清水。なんとまあ、大変なこと。

伊勢。たいへんよ。水中での作業なんて。装備が発達したから鈴鹿たちでもできるけど、本来は専門家でないとできなかった。

清水。じゃあ、自動人形は大変な装置。

伊勢。ええ、そうよ。不気味なほど。

 (すぐに疲れるだろうから、一時間ほどで引き上げさせた。本日はおしまい。施設に戻る。)

第10話。モノリスとピナクス。18. クリスマスセール

2009-05-30 | Weblog
 (クリスマスの直前の金曜日の夕方。ID本社前の狭い広場で。)

鈴鹿。あの、この格好、何とかならないの。

志摩。おれといっしょだよ。

清水。私までサンタの格好。ヒゲはしてないけど。

鈴鹿。それに、日本ID社クリスマスフェスタって何よ。クリスマスを何かと勘違いしているんじゃないかしら。

志摩。便乗商法。日本のクリスマスはサンタの祭りだから、騒がないと損。まちがえてふらっと入ってきた人にID社のパンフレットを渡すのが目的。

清水。まじめな営業もあるんでしょう?。

志摩。もちろんだよ。奥で2人が待ち構えている。

 (そう、周りのコンビニや菓子屋が道端で販売するものだから、社長の思いつきで、多色ペンやビーカーなどのIDグッズをID社東京前の狭い広場で売ることになったのだ。志摩たちは、それをサンタの格好で売っている、というより、単に立っているだけ。ほとんど売れていない。)

鈴鹿。奈良さんと伊勢さん。一応、我が社の最新測定器を置いている。でも、人気はこっちの騎馬ロボットとA31。

清水。タロとジロが器用に風船で動物作っている。

志摩。あんな芸も仕込まれていたんだ。

鈴鹿。でも、一銭も儲からない。

志摩。うん。チャリティーで、全額寄付。戦闘ロボって人気ある。200円で次々に売れているよ。

鈴鹿。こんなときには役立つみたい。売れたときのポーズがまた大げさ。アンがちょっと恥ずかしがっている。

志摩。でも、アンとクロが横にいなかったら、子供が怖がって近づかない。

清水。でもって、こちらで売れているのはA31やモノリスとピナクスのポスター。

鈴鹿。ジャック親子の宇宙開発も。

志摩。永田さんが来た。関さんといっしょ。

永田。商売ですか。この寒いのにご苦労さんです。

関。記念にピナクスたちのポスターを買いに来たの。ホームページで知った。

清水。ようこそいらっしゃいました。1枚1500円。モノリスとピナクスのポスターには新版のもありますけど、どちらにします?。

関。両方。

清水。こちらの日本語のデザインでよろしいでしょうか。

関。ええ。そうしてください。

 (亜有がプリンタでポスターを打ち出す。)

関。これが新しいモノリスとピナクス。

鈴鹿。まだ、詳細が変わる可能性がある。現時点での構想。

関。予想通り、絶対美少女になっている。

清水。ロケット人間でしょ。ヘルメット脱いだ姿。オタク趣味むんむん。

永田。たしかに関の面影がある。

関。こんなに美少女じゃなかったと思う。

志摩。関さんは大人になるほど美人になるタイプだから。

鈴鹿。あんた、すかさずフォローするわね。でも、そんな感じ。

関。うふふ。モノリス少年にも永田さんの面影がある。

永田。こちらもかっこよすぎる。

清水。正義の少年よ。ずるい大人なんかあてにできない、って感じ。

関。うん。分かる分かる。純粋な感じが出ている。

永田。感じ…。

関。大人ピナクスは着ぐるみなの?。ヘルメットと言うか、お面を脱いで抱えている。

清水。ええ、そうさせてもらった。救護班ですもの。戦闘ロボはあくまで演技と分かるように。

関。なるほど。でも、素顔はアンより精悍な感じがする。

鈴鹿。アンはおとなしめの表情に作られているから、違いが際立っている。騎馬隊として凛々しさを強調したみたい。

関。ふーん。ロボットといっても個性豊かなんだ。

永田。ID社の功績だな。どれもこれも魅力ある機械になっている。あれ、円盤も少しデザインが変わったのかな。

鈴鹿。さすがに永田さん。そうよ。短時間水中に潜れるようにするの。水中でもある程度の速度で進めるように、その形になった。

永田。ジェットエンジンで動くのか。

清水。いいえ、水中では足を出して揺らして泳ぐみたい。

関。おえー、それじゃクラゲか何かみたいじゃない。

清水。浅瀬だと、カブトガニみたいになる。

関。うわあ、聞かなきゃよかった。

永田。いや、でも、かえって大変な機械になる。音もなく水中を近づき、空中にこれまたほとんど音もなく飛び立つ。言ってるだけで不気味だ。

関。でもって、腕と脚が伸びてくる。うわー。

永田。ふむ。移動メカまでデザインを変えている。なんだか、あれだ、幼稚園の送迎バスみたいだ。

鈴鹿。今の日本車が丸みを帯びているから。でも、元のやや武骨なデザインを支持する一団もいて、まだ確定していない。

関。そうか。悩ましい。武骨なのは怖そうだし、かといって、送迎バスは攻撃の的になりやすいかも。

鈴鹿。最後は伊勢さんが、うるさいわよ、あんたたち、って決めてしまうのだろうけど、今は論争させている。

永田。そういえば、大学付属水族館で年末にモノリスらの水中ショーをやるとか。

清水。よく知ってらっしゃる。さすが。来週の土日。まだ出し物が確定していません。

永田。その割には、盛んに宣伝していた。

清水。私学の悲しさ。人集めに必死。

永田。協力する理由は?。

鈴鹿。単に面白いから。集まってきた学生や教授連の反応を見るため。授業と称してアンケートとか取るみたいだから。ロボット研究者の意見も聞ける。

志摩。元々は、海中でのモノリスたちの動作を知るために、水族館の施設を借りるのがきっかけ。そのついでの、サービス。

永田。なるほど。でも、ものすごい持ち出し。

鈴鹿。自動人形に関する限り、採算度外視なのはいつものこと。こればかりは不可解。

関。そうでした。自動人形が継続して研究されていること自体が謎。

永田。見学させてもらってもいいかな。

清水。光栄です。スタッフの一員として、そのまま職員入り口から入ってください。

鈴鹿。それより、間近で見られたらいかがですか。

関。つまり、いっしょに水槽に入れと。

永田。面白いな。ささやかながら、連係動作の練習にもなる。

関。そうか。それなら入る意義もあるか。鈴鹿さんたちも入るの?。

鈴鹿。その予定。志摩も亜有も。

関。清水さんまで。

鈴鹿。ついで、ついで。

関。なわけないでしょ。あなた方、民間人を巻き込む気なの?。

清水。私の選択です。

関。はっきりいって、邪魔。こちらがどれだけ気を使っていると思っているんですか。

清水。あなた方の暴走を食い止めるのが、私の役目と考えています。

関。命をお大事に。

清水。アドバイス、痛み入ります。

関。もうっ。分かったわよ。あなたの正義と命と引き換えの覚悟があるんですね。

清水。煽っても無駄。自分の信念に従うまで。

永田。やれやれ、本気らしい。関、そんなに深刻になるな。成るようにしかならんだろう。普通に真面目な民間人だと思って守れば済む話。我々の通常の業務だ。

関。でも、作戦に付き合うのなら、最低限の逃げ方くらいは学習してもらわないと。

永田。それはそうだな。清水さん、たのむから、そのくらいは勉強してください。こちらからのお願いです。

清水。努力します。どうすればいいんですか。

永田。こちらからも指導できますが、ID社にもノウハウがあるでしょう。

志摩。ええ。検討します。亜有、おれからもお願いだ、君のなれの果ての姿を見たくはない。一般人用の教本はあるから目を通しておいて欲しい。危険地域での社員の教育用だ。

清水。うん。そうする。

 (一応深刻な話だが、なにしろ三人はサンタ姿。すぐに商売に戻った。)

伊勢。商売はどう?。

清水。伊勢さん。たった今まで永田さんたちが来ていました。

伊勢。はて、何の用だったんだろう。

清水。わざわざフェスタを見に来たみたいです。関さんがポスターを買って行かれました。

伊勢。ふうん。新ピナクスの構想は見たのかな。何か感想を言ってた?。

清水。特に反対意見はなかったです。何がいいとも。

伊勢。まじめな方。

清水。永田さんが水族館での水中ショーを見に行きたいと言ってました。

伊勢。もうモノリスたちの動きは見たのに。

鈴鹿。いっしょに水中で動きを見たいと言ってました。

伊勢。どうせあなたが誘ったんでしょう?。いいわよ、心行くまでご覧になったらいい。

志摩。水族館には連絡しておきます。

伊勢。だめなら、本物の海水中での練習になる。

 (水族館は最初は断ったそうだが、志摩がうまく事情を説明したらしく、結局OKになった。)

学友1(女)。鈴鹿さーん。ホームページで見てやってきた。

学友2。商売熱心。

鈴鹿。熱心と言うか、本業。バイトではない。

学友1。そうだった。正社員。

鈴鹿。よかったら、我が社の測定機器を見てみる?。中の方が暖かいし。

学友2。我が社か。いい響き。うん、見てみたい。どんな商売しているのか。

 (鈴鹿はオフィスに行ってしまった。伊勢も戻る。)

清水。いつまでここに突っ立っているんですか?。

志摩。適当でいいみたい。とにかく、ID社が一般客相手にも商売していることを見てもらえば良いらしいから。

清水。コンビニの方は大変。午後9時くらいまでは立っていそう。

志摩。冷えそうだね。

 (結局、風船がほとんど売れなくなるのを見計らって、全員戻ってきた。社の玄関はおろか、オフィス内にも小さなクリスマスツリーがある。総務が用意したのだ。)

伊勢。戻ってきた。ご苦労さん。暖まってちょうだい。

志摩。ポスターが20枚ほど。グッズは10個ほど売れました。風船はたくさん。

奈良。ご苦労さん。風船は2万円ほどの売り上げか。思っていたよりもよく売れた。

伊勢。こんなオフィス街で。がんばったわ。

タロ。喜んでもらえる人がいる。

伊勢。その通りよ。よかった。

タロ。うれしいです。

清水。ピナクスたちの改造案の締めきりは月曜ですか?。

伊勢。そう。年内に発注するため。言いたいことがあったら、今のうちよ。

清水。もう、言いたいことは言ってしまったと思います。

伊勢。じゃあ、次はできてから。

清水。年末の水中ショーにはいついったらいいのですか?。

奈良。前日の17時。つまり、閉館時。実際の水槽で潜る体験をしてもらう。翌日からはできる範囲で演技にお付き合い。2泊3日だ。お気に入りの水着とバスタオルを持ってくるように。水槽には以前見てもらった水中保護スーツを上から着て入る。

清水。奈良さんたちはそれ以前に行く。

奈良。天候にもよるが、木曜の朝に出かける。新しい装備、A31や恐竜型の潜水時の性能などの確認を海洋でする。訓練だし、多少危険だから、最初から付き合わなくて良い。

清水。あとで話を聞かせてください。

奈良。ああ、映像やデータもそろうはずだ。

清水。楽しみにしています。

第10話。モノリスとピナクス。17. 水中装備

2009-05-29 | Weblog
 (海中というのは、宇宙に匹敵する未知の世界らしい。何かの役に立つかもしれないと発注しておいた、タロたちの水中活動用の蓄電器と、虎之介のアイデアによる水中活動用の服とメカが届いた。虎之介が確認のために来た。)

鈴鹿。何でよりによって冬に水中なのよ。

奈良。ええと、ヨットレースは冬場に多かったな。

伊勢。単に暑いとやってられないんじゃないかな。

芦屋。風のこともあるんでしょう。冬の低気圧は夏より立派だし。

伊勢。まずはA31用の蓄電器か。

タロ。これで丸一日海中で活動できる。

奈良。その通りだ。充電は外部電源でもできるし、自動人形側からも可能らしい。

志摩。タロたちの燃料電池から充電するんですか。

奈良。そうだ。効率はよくない。緊急用の位置付けかな。

伊勢。タロたちの二次電池の容量が150倍になったと考えればよい。重さ20kg。

奈良。比重はほぼ1だから、水中に入ったら重量としては感じない。

伊勢。でも、質量は不変。移動に伴う抵抗もある。慣れないと。

奈良。ああ、訓練は必要だな。クロのは小さくて、2kg。普通に活動すると6時間しか持たない。他の自動人形の蓄電器から充電できる。

鈴鹿。普通って、水中でネコが活動したっけ。

伊勢。予想される普通の活動なんでしょう。実測値は訓練で測るしかない。

奈良。活動度によって消費電力は大違いだ。時間は設計の際の参考値に過ぎない。

志摩。こっちはスキューバ用器具。

鈴鹿。人間は無理しても100mくらいしか潜れない。

芦屋。特殊なのは用意しなかった。その半分くらいかな。そのかわり、極寒の海でも活動できるのを用意した。

鈴鹿。この水中スクータは牽引式。

志摩。のんびり泳ぐわけじゃない。

芦屋。うん。かなり強引に引っ張られる感じ。運動性も良い。モニタを見ながら進む。

鈴鹿。強引って、どれくらいよ。

芦屋。時速40km。もっと速くもできる。

鈴鹿。死ぬわよ。

芦屋。モーターボートや水上バイクは速い。魚だって100km/hほど出ることもある。

清水。あくまで調査や救護用です。

志摩。でも、ある程度の攻撃を受けるのは予想しないといけない。

芦屋。だから、レジャー用じゃなくて、計測器が充実している。

志摩。自動人形のは、簡単に見える。ブーツの脇にダクトプロペラ付けたのと、腕に付ける補助の軍用センサー。電源は蓄電器を共用。不自然な姿勢を長時間強要されるから、ロボット専用。

芦屋。軍時代に研究されていて、設計図もあったから、普通に発注できた。装置自体は深海まで使える。みかけよりはるかに強力。

清水。自動人形にとっては600mはどうってことない深さ。人間の60mみたいなもの。

芦屋。そのようだ。

清水。不気味な意図を感じる。

芦屋。そのとおり。

アン。なんですか、それ。

奈良。言っても分からないだろうが、君たちは人間の活動範囲を広げるための開発目標もあったのだ。少しの改造で、超真空の宇宙から、最深の海底まで活動できる。

アン。理解を超えています。

奈良。それでいい。少なくとも、アンたちに関しては私が責任を負う。心配するな。

アン。分かりました。大切にしてください。

 (混乱したみたいだ。むべなるかな。)

清水。あの、それ、もしかしてわたし用なの?。

志摩。そうみたいだね。

清水。そうみたいって、私、一度も潜ったことない。

鈴鹿。じゃあ、訓練しなきゃ。泳ぎはうまかったはず。

清水。いっしょに潜れっての?。

伊勢。最初はA31の誰かを付けるから大丈夫。

清水。もう、どうにでもなれって感じ。

伊勢。お付き合い、よろしく。

清水。船舶も欲しくなってきた。

伊勢。いずれにしても、移動司令室機能は必要。

芦屋。みなさんの意見があると思いましたので、まず潜ってからと考えました。

奈良。レジャー用のモーターボートの改造でいいんじゃないのか。

芦屋。少し潜れたら便利かなとも。

奈良。清水くんの言ってた潜水艇は2人乗りだったか。

清水。そうです。200mほど潜れるもの。港や浅い漁場の調査とかに使う。

伊勢。レジャー用潜水艇は珍しくない。そんな感じでどう。

芦屋。調べてみます。

鈴鹿。当面はピナクスたちで訓練するの?。

奈良。そうしようか。ほとんど浮いているだけ。

伊勢。お笑いネタをたっぷり提供しそう。

奈良。どこか適当な練習場所はないかな。

志摩。おれたちの大学の海洋研究所。

伊勢。鬼門。

志摩。じゃあ、付属水族館の方に当たってみます。すぐ沖がかなり深いはず。

奈良。うーん。他に良いアイデアもなし。志摩、何か適当に研究課題をでっち上げて、申請してみてくれ。

志摩。用意します。

 (研究者は忙しいみたいだが、学生は暇な季節。なので、やすやすと志摩の提案が通ってしまった。すぐにでも来てよいとのこと。)

 (で、案の定、ほどなく館長からメールが来た。ショーをやってほしいだと。)

伊勢。水族館といっても、田舎でしょうが。

志摩。完全に田舎とも言いきれない微妙なところ。少なくとも海洋研究所ほどのど田舎ではない。

伊勢。それに、冬もさなか。お客さんなんか来ない。

志摩。冬休みだから、小学生連れの親子とか。

伊勢。単に自分たちが見たいだけ。

志摩。海洋ロボットの研究者がいるはず。そっちからの提案でしょう。

伊勢。なら、ショーではなく、単にデモするだけでよさそうなもの。

志摩。いろいろ大人の事情があるようだ。多分、広報に写真を載せたいのでしょう。

鈴鹿。ショーって、恐竜の輪くぐりとか。

奈良。潜ってさまになるのは、武者ロボットと恐竜型。それだけでいいのか。

鈴鹿。A31と私たちも。

奈良。そうだった。

鈴鹿。でくのぼうは間に合わない。円盤型は潜れるんですか?。

奈良。そんなの想定していないはずだ。でも、たしかに水面に落下したらどうなるんだろう。

伊勢。どんぶらこと浮くだけかな。

奈良(通信機)。モノリス、円盤型が水面に落下したらどうなるのだ。

モ(通信機)。想定されていません。多分、しばらくすると沈んで壊れます。雨の中を飛ぶのは大丈夫。

鈴鹿。飛行機が海に不時着したのと同じか。

伊勢。対策が必要。水たまりでずっこけるだけで危険。

奈良。次々と改善点が出てくる。ロケット人間も同様の対策が必要そうだ。

伊勢。この際、簡単な水中活動ができるようにしましょう。そんな設計できるところあるかな。

奈良。思いつく限りメールしまくってみようか。

 (でも、心配いらなかった。どちらも本部航空部門が設計と調整を引き受けてくれたのだ。結局、フィニティ計画はずいぶん大げさになった。ID社内のオタクの総力を上げての作業となり、クリスマスも正月も関係なし。結局は正月中旬に最初のバージョンが完成するのである。)

清水。あの、みなさん盛り上がってらっしゃいますが、モノリスとピナクスの引き取りは大丈夫ですか。

伊勢。奈良さん、どうなっているの?。

奈良。すまん。すっかり忘れていた。図に乗って改造したから、貸し出し元が拒否した場合にどうなるかだな。どうなるんだろう。

伊勢。ここはA31でたくさんよ。これ以上自動人形が増えたら、世話しきれない。

奈良。その通りだ。初期バージョンが完成したら交渉しよう。

 (結局は心配はいらなかったのだが、それは結果である。元の世話係は職場で浮いてしまっていたらしく、世話しきれないと言い出したのだ。本人はかわいそうなくらい世話したがっていたのだが、上司が許さなかったのである。それで、プロモーションを開始することになったのだ。)

第10話。モノリスとピナクス。16. 生還パーティー

2009-05-28 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。その外観の改造方針が決まった。それとは別に、永田から怪しいビルの調査依頼が舞い込んだ。調査の下見の下見のはずなのに、虎之介らは現場に介入してしまい、銃撃戦の寸前で証拠を押さえることに成功。現場を指揮する形になった関は、あまりの危険行為にあとで上司にこってり絞られ、とぼとぼとID社のオフィスにお詫び訪問。元気を付けてもらうために、生還パーティーをすることとなった。)

志摩。野菜のクリーム煮込みとスペアリブ。本日のメインディッシュなり。

清水。お茶も香り高い。鈴鹿さん、グッドチョイスです。

鈴鹿。気に入ってもらえたかしら。

清水。ええ、とっても。そしてデザートには関さんアレンジのフルーツポンチと伊勢さんお勧めのケーキ。おたのしみに。

奈良。それでは、関さんの笑顔を再び見られたことに、みんなで乾杯。

関。私からも。みなさんが生きていたことに、乾杯。

全員。乾杯。

 (乾杯と言っても、紅茶だ。なぜか茶話会が恒例になってしまった。虎之介がいたら、なぜアルコールが出ないのか、騒ぎ出すところだ。)

伊勢。うーん、この野菜の煮込み、おいしいわ。志摩が作ったの?。

清水。そうですよ。だんだん器用になってきた。そのうち、家庭料理を脱して、本格料理も作り出しそうな勢い。

鈴鹿。スペアリブもいける。ソース作ったの、亜有なの?。

清水。へへっ、残念。そっちも志摩さん。でもー、ソースは調合済みのベースがあったから、すぐにできた。

伊勢。それでも値打ちよ。

関。いろいろありがとうございます。ふーん、ブタじゃないんだ。

志摩。ヒツジがあったから。珍しいので買った。関さん、大丈夫だった?。

関。私は何でも食べられる。永田さんはどう?。

永田。ご同様。ソースは酸味が利いている。醤油は入ってないのか。

志摩。日本のスペアリブのたれのレシピって、醤油ばっかり。匂いが強烈なのに味が単調。入ってないのがあったから買った。

永田。ふむ。醤油を入れると照り焼き風になってしまうからな。

関。そうか、ちょっと異国風なのは、そのせいか。

志摩。塩味が足らないのなら、自分で振りかけて。

関。うん、そうしてみる。

 (永田も関も、安心しておなかがすいたのか、結構食べている。)

清水。伊勢さん。ロケット人間の新構想は決まったのですか?。

伊勢。何か提案があるのなら聞く。

清水。ええとですね。かわいい男の子、希望です。

鈴鹿。金田正太郎みたいな。

清水。元ネタをよくご存じ。

伊勢。こほん。理由を聞こうじゃないの。救護できないと意味がない。

清水。ロケットですよ。進行波ジェットを使う。そのためにはリリくらいの体重が限界。

伊勢。たしかにそう。ええと、リリは13才の設定。男の子も、この年齢なら同じくらいかな。

奈良。そう思う。

伊勢。じゃあ、13才になった永田さんと関さん。

永田。私ですか。ご冗談でしょう?。

伊勢。冗談なもんですか。子供の外見だから、なめられたら大変。永田さんくらい鼻っ柱が強くないと救護できない。

清水。救助に来たぞ。意見があれば言ってくれ。でも、こちらの指示にしたがってもらう。そこ、勝手な行動しない。死にたいのか。ちゃんとそこに座っているのだ。そうだ、できるじゃないか。なんて。

鈴鹿。きゃはは。で、女の子の方が。助けに来たんだから、言うことを聞くのよ。痛いとか、そういうのははっきりいって。でも、余計なことは言わないの。うるさいから。ほらほら、そこ、さっそくうるさい。こっちは武器持ってるのよ。物言わせないでくれる?。

永田。関、おれたちってそんな風に見られていたのか。

関。あーら、自覚無かったの?。そっくりだったわよ。

永田。そういえば、関の言い方もよく似ていたな。

関。あなたほどではないと思う。

伊勢。ストップ。遊んでいるだけだから、相手にしない。

関。あら、私としたことが、申し訳ありません。

永田。どうぞ、続けてください。

奈良。つまりだな、リリみたいに救護服のような感じのパイロットで、背中にロケットを背負う。

清水。イメージはそんなの。

奈良。ロケットを本当に背負うとつんのめってしまいそうだ。

伊勢。ジェットの位置は工夫するとして、リリの体内にモノリスの大きさの板が入るかな。

清水。ロケットの方に本体を付けます。

伊勢。じゃあ、アンドロイドに見える部分は、単なるでくのぼう。

鈴鹿。操り人形。いくつもやるとつまらないネタだけど、ひとつなら面白そう。

伊勢。ううむ。突飛と言えば突飛。でも、多数乗ってきそうなネタ。

 (結局、この案は採用され、自動人形ならぬ他動人形が作られることになった。すでに自動人形の設計用ソフトはあったので、驚くほど早く完成することになる。でも、当然、クリスマスイブには間に合わなかった。背負うロケットは、本部航空部門が請け負ってくれた。進行波ジェットだけでは垂直に発射できないので、発射時のみ機能するブースター付き。発射時はやっぱり轟音を発する。うむ、どんどん話がエスカレートしている。)

志摩。残りは武者姿だ。

伊勢。スクリーンにモノリスとピナクスのアンドロイドの姿を映してくれる?。

 (本社でやったあれだ。モノリスの元の姿と、それに合せたピナクス。)

清水。もともとアメリカ人なの?。

モ。カナダ人だそうです。

伊勢。カナダといっても広い。

モ。ニューファンドランド。

鈴鹿。赤毛のアンの土地?。

清水。近いはず。

志摩。騎馬隊もいる。

奈良。騎馬武者の末裔か。

関。騎馬隊か。やってみたい。

志摩。馬に乗るの?。

関。そうよ。

鈴鹿。関さん、似合ってそう。

伊勢。さっそうとした感じがぴったり。

奈良。ピナクス、ウマ姿に変えてきてくれ。

ピ。いますぐにですか?。

奈良。ああ、たのむ。

 (社内をメカウマが走るわけだが、以前はロボットニシキヘビが這っていたのだから、まだましだろう。5分ほどして到着。)

清水。あの、その格好でエレベータ使ったんですか。

ピ。そうです。

清水。器用。

ピ。救護しないといけませんから。

清水。そうだった。

奈良。関さん、乗ってみてください。

関。やってみる。

 (ふむ、何となく似合う。捨てがたい姿だ。関はすぐ慣れたようで、ピナクスを動かしてみる。)

関。いい子ね。

ピ。満足していただけましたか。

関。とっても。

奈良。アンに交代してくれ。

アン。いいですけど、何のために?。

奈良。救護服がそのままで似合うかどうかを確かめるのだ。

アン。はい。では。

 (アンがピナクスに乗る。)

志摩。アンの頼もしい感じが生きている。

関。救護服も真面目で精悍なデザインだから、悪くない。

清水。いわゆる乗馬服ではないから多少違和感があるのみか。

 (少しその場で回ってみる。アンも乗馬を仕込まれていたらしい。何とか乗りこなしている。)

永田。なんだか、自動人形の測り知れなさが分かる。アンもアンだが、ウマまでこんなに調整されていたなんて恐ろしい。とてつもない意図を感じる。

伊勢。そうね。少なくとも軍で製作され、仕込まれた段階では明確な目標があったみたい。

奈良。モノリス、ピナクスに乗ってくれ。

モ、ピ。はい。

 (武者人形だ。ううむ、本来なら怖いはずだが、デザインがデザインなので、そこはかとないおちゃらけ感が醸し出されていている。案の定、モノリスもピナクスもポーズ取ったりしている。)

永田。そのポーズに何か意味でも。

モ。かっこいいとのことです。

永田。わかりました。

関。こちらも、明らかな意図を感じるわ。

永田。ああ、どうしてもこれをやりたかったらしい。ただそれだけのための格好。

関。ID社の体質がよく分かる。

永田。格好の例だ。

伊勢。こういう歩行機械の着ぐるみってあるの?。

清水。作った人はいます。市販品はあったとしても、とてつもなく高価。

伊勢。そのアイデア、いただき。

清水。いただきって、人体にさらにパーツをかぶせると、まるでどてらを着たみたいで、まるまるした歩行機械になります。

伊勢。いいじゃない。どうせおちゃらけなんだから。ついでに、コスプレ衣裳としてID社から売り出せるし。

永田。ほらやっぱり。

関。真面目に議論しているところがID社らしい。

 (何となく開発方針は決まった。デザインは週末までに募集。決まった部分から次々と発注して行く。しかし、ロケット人間も武者人形も大改造。クリスマスイブに公開できたのは、開発中のイメージ画面だけだった。)

第10話。モノリスとピナクス。15. 生還パーティーの支度

2009-05-27 | Weblog
清水。そそくさと買い物に行ってしまいました。

奈良。ああ。ピナクスとモノリスは武者姿でいいかな。

清水。無難と思います。新デザインでは頼もしさを残したまま、威圧感を除こうと思っているので、ちょうどいい経験になるかも。

奈良。なるほど。パーティーでどう見えるかか。

清水。奈良さんはどうなんです?。戦闘ロボは違和感無いですか。

奈良。アニメの話だろう?。戦うロボットなんか昔からあった。大きいのも小さいのも。大きいのは怖かったな。どうしてもなじめなかった。

清水。身長20mくらい。

奈良。そうらしい。消防のはしご車は40mくらい届くそうだから、その半分。人間がいかにも大きく感じる大きさ。機械的にも、何とか動かせそうな感じ。100mでは立つのが難しいように思えるし、台風なんかで飛ばされそう。

清水。トラックの本体から手足が伸びた大きさかな。人間の想像力って、こんな感じなのかしら。

奈良。建設機械の大きさか。たしかに頼もしそうだ。

清水。そんな自動人形って、作られるかしら。

奈良。将来の話か。モノリスらを見ていると、誰かやりそうだな。モノリスのロボトラックはそれに近い。

清水。あれに足を付ける。

奈良。カバみたいな形。時速40kmで走る。

清水。うわー、迫力満点。

モ。私がカバですか。

奈良。モノリス。いつからいたんだ。

モ。ついさっきから。パーティーの手伝いに。

ピ。テーブルを並べます。

奈良。ああ、いっしょに頼む。

清水。でもなんか、そのカバ計画、陳腐な感じがします。

奈良。少し考えただけでも、昔見た映像がいくつか浮かんで来る。

清水。誰でも考える、安易な発想。

奈良。そう見える外観はまずい。科学戦隊としては。

モ。車輪はかなり自由に動きます。カニ移動に近いことから、少々浮かせることも。

清水。ほら、やっぱり。ロボットカーだから、そのくらいは。

奈良。たいした技術と思う。クルマとして成立している。念入りに調整されている。

清水。そうか。改良は容易ではない。

奈良。多少の改良のつもりは、たいてい改悪。

清水。そうね。身に覚えがある。

 (すぐに画期的なアイデアが湧くでもなし、やっぱり若い連中にまかせることにした。
 ところ変わって、大きめのスーパーにて。)

鈴鹿。野菜の煮込みにスペアリブ。

志摩。鈴鹿が作るの?。

鈴鹿。アイデアだけよ。あんたが作るの。

志摩。じゃあ、お茶選んでよ。材料買ってくるから。

鈴鹿。紅茶から選んでみる。売り場はあっちか。

関。てきとーに行ってしまいました。

伊勢。いつものことよ。何か出来合いのもの、買う?。

関。ふーん。メインディッシュはできそうだから、デザートなどを。

伊勢。ケーキやくだもの。

関。お手軽に、缶詰使ったフルーツポンチ。アルコールなしの。適当にくだもの足して。

伊勢。じゃあ、あとで、ケーキを選びましょう。

 (簡単に決まってしまったようだ。さっさと買うもの買って、帰ってきた。
 いつものように、志摩と亜有が料理を作っている。)

関。あの二人、マメ。

鈴鹿。マメなのは志摩で、亜有は付き合っているだけ。

関。清水さんは志摩さんに関心があるの?。

鈴鹿。そばにいると安心だから接近しているだけ。亜有に付いて行ける男なんて、この近辺にはいない。

関。そうか。孤独なんだ。

鈴鹿。いまは私たちに付き合ってくれているけど、いずれ独立する。

関。そんな感じ。政治家か、思想家か。

鈴鹿。そうか、関さんは政治家を見ることが多いんだ。

関。普通の人よりは多い程度。

鈴鹿。政治家って、うさんくさい感じ。

関。それは権謀術数しているからよ。自分の正義を実現するためにはしかたがない。

鈴鹿。まさに政治的判断。

関。それができない人はだめ。理想ばっかり言っていると、肝心の自分の夢が実現できない。

鈴鹿。つらい仕事。

関。そう。普通の精神ではやって行けない。

鈴鹿。思想家の方が楽なのかな。

関。時に命懸け。政治家なら、本心にそぐわないことをしてまでも切り抜けないといけないところで、真正面から受け止めないといけない。

鈴鹿。それもつらい。

関。たいてい思想家の方が薄命。

鈴鹿。そうか。数学者のままなのがいちばん幸せ。

関。そうよ。あなたからも言ってください。

鈴鹿。うん。勧めてみる。彼女、調べ物していると楽しそう。

関。いつも作戦途中でショックを受けてふらふらになっていると聞く。

鈴鹿。そう。なんでそこまでするのか分からない。

関。一途なんだ。

鈴鹿。今のところ分かっているのはそこまで。真の野望は知らない。

 (ふむ。亜有にしてみれば、理由は単純、というに違いない。なんとなく、その野望とやらは分かる。)

永田。結局、役立ったのは謎の円盤とロケット人間でした。

伊勢。予想外れもいいところ。開発者も分かっていなかったはず。でもなぜか、真剣に作られていた。日本人趣味とはかけ離れている。

永田。使ったのは奈良さんの趣味ですか?。

伊勢。にべもない言い方。でも、そのようよ。ぜひとも出動させたかったみたい。

永田。失敗していたら、大恥だった。

伊勢。ええ、大変なリスク。奈良さんでないとやってられない。私ならためらっていた。

永田。モノリスとピナクスは、みごとにそれに応えたわけだ。

伊勢。その言い方が妥当。自動人形は例外なく奈良さんを慕っている。とても不思議。

永田。関によると勇敢に見えたらしい。

伊勢。円盤が勇敢ねえ。独特の世界。とても付いて行けない

永田。ふむ。あっちでは部下たちに振り回されているようだが。

 (なぜか鈴鹿がこっちにやってきたのだ。)

鈴鹿。奈良さーん、関さんが直談判したいんだって。

奈良。直談判って、あれか。ピナクス。

関。そうです。許可なさるんですか。女性になるのを。しかも、私がモデルと。

奈良。ええと。女性にするのまではほぼ決まり。

鈴鹿。ピナクス、こっちに来て。

ピ。お呼びでしょうか。

鈴鹿。この方があなたのモデルになる関霞さん。よーく観察するのよ。

ピ。初日にお目にかかりました。

関。ええ、活躍も見せてもらった。優れたロボット。

ピ。ありがとうございます。

関。詳しく説明していただけるんでしょうね。

奈良。もちろん。どこから説明しようか。

関。モデルって、まさか私の全身の型どりをするとか。

奈良。そういえば、マネキン製造法にそんなのがあったっけ。あまりに似すぎて、マネキンを見たモデルが恥ずかしがったとか。

関。こほん。分かってらっしゃるよう。許しません。そんなことは。

奈良。計画責任者に聞いてみようか。

関。さっき、その張本人からわざわざ申し出がありました。さあ、分かんないけど、たぶん参考にするだけよ、ですって。

奈良。じゃあ、そんなところだろう。イメージを借りるだけだ。たとえば、アンにもモデルはあったそうだが、軍の趣味で理想化されてしまって、ちっとも元に似なくなったそうだ。

関。なんか引っかかる表現。ま、まあ、その程度なら許せるのかも。で、そのイメージが肝心。どういうイメージですか。

奈良。私の抱いてるイメージと、計画責任者のイメージが一致しているかどうか。

関。本人に聞いたら、あらあ、要するにイメージよ、面影って言うやつ。顔形の雰囲気、性格の感じ、すべてが含まれる。あなたが先生、ピナクスが生徒ってわけ。だそうです。

奈良。よくわからん表現だな。

関。引っかかる点があったら、私が口出す権利はあるんでしょうね。

奈良。ああ、そういうことか。何とかする。ただ、ほとんどの人が悪い方向に考える事項を修正する以外は、ぜひ目をつぶって欲しい。

関。要するに、美容整形みたいなのはお断り、と。

奈良。そんな感じかな。不自然に見える。第一、そんなに心配しなくとも、オタク揃いの集団だろう。超絶美少女になることは目に見えている。むしろ現実の感じを残すのに苦労すると思う。

関。ううむ、そっちか。

奈良。関さんは人気が出そうだから、大変だぞ。理想化を押しとどめるのが。

鈴鹿。関さんのイメージ。私たちが知っているのは真面目で勇敢な素顔だけど。オタクどもが知っているのはヒョウ柄の色っぽい服の姿。

関。そうだった。忘れかけていた。展示会でやってしまったんだ。うーん、どちらも私。

奈良。ええと、戦闘色は薄めて、救護色の方向に修正するつもりだ。

関。軍服姿はあんまりだったもの。救護に来ているのか、戦闘を拡大しに来ているのか分からない。いまのこの姿もものものしい。

奈良。その2体はモノリスともども修正されるはずだ。

関。動物型はどうなるのですか。

奈良。私が修正する。といっても、動物の雌雄は人間には分かりにくい。白鳥もウマも、見た目はほとんど変わらない。恐竜は知らないが、色合いなどは同じ感じにするはずだ。

 (料理ができたらしい。)

第10話。モノリスとピナクス。14. 関の訪問

2009-05-26 | Weblog
 (次の日の夕方。亜有は調べ物。志摩と鈴鹿も戻ってきた。)

清水。鈴鹿さん、志摩さん、営業お疲れさま。

鈴鹿。ふう。単に我が社の名前を連呼してきただけ。何も買ってもらえなかった。

伊勢。それでいいのよ。印象づけが肝心。ずっと売れ続けないのも困るけど。

鈴鹿。でもって、出てきたのがオタクで、私のサインをねだられてしまった。

伊勢。で、どうしたの。

鈴鹿。何か買ってよと食い下がったんだけど、熱意に負けてしまって、そのオタクが作っている同人誌にサインされられた。こちらも一部もらったけど。

清水。見せてもらえる?。

鈴鹿。帰りの電車でちらっと見たけど、いきなりあんな絵やこんな絵やで、あわてて閉じてしまった。ほら、これよ。

清水。おーっ。いきなりグロい展開。陰湿。

鈴鹿。妙に明るそうなオタクだったから、油断してしまった。表紙もラブコメ風だし。

清水。カモフラージュ。うーん、最後まで陰湿。落ちもない。そのまんま。でも、絵はきれい。

鈴鹿。まともな部分は。

志摩。災難だったね。

鈴鹿。志摩の方はどうだった。

志摩。同じく、何も売れず。

清水。何も起こらなかったの?。

志摩。何もって、人と人との付き合いだから、多少は何か起こる。営業のささやかな楽しみ。

清水。どんなの?。

志摩。見学させてもらった。ついでにアンケートも取らされた。逆にパンフレットをもらった。

清水。どれどれ。女性用下着メーカー。計測器を売りに?。

志摩。そうだよ。そういったら、こんなの測れるのかって難問奇問を。

清水。主観的な尺度を何とか客観データで説明する。

志摩。そんなの、研究しないと分からない、と正直に言ったら、現場を見せてくれた。

鈴鹿。それで、念入りにアンケートを。

志摩。いろいろと悩み事があるんだなあ、とまでは分かった。

清水。ふむふむ。どちらかというと、鈴鹿さんの領域。

鈴鹿。それで、志摩っ、ただでとことん付き合ったの?。

志摩。担当者がやたら熱心なので、熱意に負けてしまった。

鈴鹿。熱心だったのはあんたでしょうが。

志摩。気付いたらそうなっていた。でも、測定項目は陳腐で、我が社の測定器でなければならない、というのは無かったと思う。

鈴鹿。計測にも付き合ったの?。

志摩。実物で。

鈴鹿。実物って、あんた、見たわね。

志摩。鈴鹿、怖いよ。なんで迫力出てきたの。

鈴鹿。とーぜんじゃない。弾力とか肌触りとかも測ったの?。

志摩。一応計測はできるんだけど、手で触った感じとはいまいちしっくり来ない。

鈴鹿。手で触ったって、なんてことするのよ。

清水。あのー、もしかして、志摩さんの話は素材の話。

志摩。裁断してしまうと、元の布地と感じが違ってくるんだって。

鈴鹿。なんだ、そうなのか。

志摩。他に何があるの?。

清水。突っ込まない方がいいと思う。

鈴鹿。それで、昨日の相手の素性は分かったんですか?。

志摩。ええと、営業の話はどうするの。

清水。もういいそうです。

奈良。いつものとおり、分からない。ともかく、資料や証拠は政府の手にわたったのだから、こちらの仕事はおしまい。軍からは感謝の意が届いた。もうこれ以上、手を出すなとの意思表示だろう。

伊勢。永田さんからの連絡はないの?。

奈良。ない。

関。こんにちは。

奈良。関さん。ようこそ。どうかしたのですか?。

関。お礼とお詫びに来ました。

奈良。昨日の件で。

関。そうです。

伊勢。その様子だと、こってり絞られた。

関。ええ。一歩間違えば、死者多数だって。

伊勢。それはこちらの評価と同じ。あなたの命も危なかった。

関。はい、そうです。お礼を言ってこいって。ありがとうございました。

伊勢。無理しないで。全部あなたの手柄。関さんでないとできない仕事。

志摩。そうだよ。わずかなチャンスが生かされた。おれもあきらめかけていた。

鈴鹿。煽ったのは虎之介。

志摩。ええと、直接はそうだったかな。

清水。もし、虎之介さんがいなかったら。

関。それでも、私が手を出していたと思います。

伊勢。被害は拡大していた。状況証拠は十分。でも、直接の証拠はまだ無かった。

関。その状況でした。

伊勢。核心に近づいた。でも、肝心の非合法物質が見つからない。危険回避と直接証拠を手に入れる天秤になった。

関。はい。

鈴鹿。虎之介が引き留めなくても、倉庫の調査を続けていた可能性が高い。そこに10人がやってきて…。結果は同じか。

関。志摩さん。

志摩。おれ?。

関。そうよ。また、あの声が聞こえた?。

志摩。声って。周りのみんなのこと?。

関。うん。

志摩。何も聞こえなかった。成り行きでうまく行くとの評価だったんだろう。

関。じゃあ、いまこの結果が志摩さんの受け入れた運命。

志摩。ふしぎな表現するね。でも、そう思う。そのとおりだ。

関。うん。ごめんなさい。やっぱり私の決断で、みなさんを危険にさらしたんだ。

志摩。よく分からないけど、それで納得するんだったら、それでいいよ。

関。円盤が入ってこなかったら、反撃していたの?。

鈴鹿。当然。すぐに降伏してくれたらいいけど、多分、自動小銃の銃撃戦になっていたと思う。

関。円盤を突入させたのは奈良さん。

奈良。そうだ。いちかばちかだ。虎之介のアイデアだ。

関。撃墜されていたかもしれない。

奈良。冷静に判断されていたら、おしまい。円盤が逃げるという失態になる。撃墜の可能性もある。逆に、軍事コードが起動して、モノリスが相手をむりやりねじ伏せる可能性もある。いずれにしても、まずい。相手がぼうぜんとしてくれたのが幸いだった。

志摩。虎之介も慎重になった。元の性格なら、ためらいなく銃撃戦でねじ伏せていた。

鈴鹿。そういえば、そうね。こちらも準備中だったもの。虎之介のささやかなフォローかな。

伊勢。もういいかな。恒例になってしまいそうな関さん生還パーティーをしましょうか。

鈴鹿。こちらの生還パーティーでもある。

奈良。関さんが出席しないと意味はない。それでいいか?。

関。ええ、みなさんが楽しめるのなら。

伊勢。じゃあ、準備。私も買い物に行こうかな。関さん、一緒に行きます?。気晴らしになる。

関。ええ。そうします。

伊勢。鈴鹿と志摩も付いてきなさい。

鈴鹿、志摩。はい。

清水。永田さんも呼んで欲しい。

奈良。ああ、そうだった。声をかけてみよう。

 (永田も来るという。永田は永田で、フォローが大変だったようだ。)

第10話。モノリスとピナクス。13. ロケット人間、発射

2009-05-25 | Weblog
 (トラックは北へ向かう。最初は慌てていたようだが、パトカー等が追いかけてこないので、途中からゆうゆうと運転するようになった。間抜けなやつで、普通のケータイで交信している。会話が丸分かり。)

関。スクランブルも何もせず、堂々と交信しているの?。

永田。相手の場所もすぐに分かる。ええと、変電所らしい。休眠中。電力不足になったときのみ稼働する。今は誰もいないはずだ。

関。自分から怪しいです、と言っているようなもの。罠かしら。

永田。可能性が無くもない。

 (ピナクスは鈴鹿が運転している。伊勢と志摩と亜有とジロがいる。)

伊勢。もうっ。清水さんがいながらなんですかこれは。下見の下見じゃなかったんですか。

清水。ごめんなさい。展開が早すぎで、付いて行けなかった。

伊勢。我々の攻撃パターンはよく知っているはず。早いとこ慣れてください。

清水。そうします。

志摩。展開を促したのはおれたち。亜有は待ってただけ。それに、いち早く10人の到着を知らせてくれた。十分だよ。

鈴鹿。さいわい拳銃だから4人に狙われても当たらなかったけど、自動小銃ならいまごろ関さんとはお別れ。

伊勢。で、三人で反撃して、さらに6人ほど死者が増えている。

清水。恐ろしい展開。

伊勢。ま、まあ、いまのところうまくいっているみたい。

ジロ。単なる偶然です。

清水。ええ。

 (またふらふらになったようだ。ジロがそっと寄って慰めている。志摩がお茶を用意している。
 モノリスは私が運転。虎之介とタロとアンとクロがいる。)

奈良。航続時間も少なくなってきたから、飛行船を交代させよう。

芦屋。じゃあ、後のが追いついたら、先ので変電所を観察させてください。

奈良。追跡だけなら遠方からできる。捉えたらすぐに変電所に向かわせよう。

 (交代は5分とかからなかった。)

芦屋。変電所の方もIFFの目標の一つのようです。こちらは少し優先度が高い。

奈良。動きがありしだい、踏み込む、ということか。

芦屋。理由ができたらさっさと攻撃する。政府の方はどうなっているかな。

 (永田に聞いてみる。同様に調査対象としていたらしい。飛行船からの画像を要求してきた。)

伊勢(通信機)。もうすぐ手に入る。赤外線による疑似カラー画像。

永田(通信機)。そうしてください。モニターを見ています。

伊勢(通信機)。見えた。明かりはついていない。

永田(通信機)。屋上に動きがある。拡大できますか?。

伊勢(通信機)。ずいぶん遠方。解像度が落ちますけど、やってみます。

永田(通信機)。機械の設置かな。あっ。

 (光と共に何か発射されたようだ。ズームを引くが、とうに視野から消えていた。そして、ほんの20秒ほどでリーダーの乗ったトラックが破壊された。誘導ミサイルだったらしい。)

奈良(通信機)。ロケット人間を破壊現場に派遣する。

 (モノリスとピナクスから轟音とともにロケットが垂直に発射。音のわりには亜音速だが、それでも速い。ものの2分で到着。トラックは大破して炎上している。運転手は、何とか生きているようだ。モノリスが引きずり出して介抱する。)

伊勢(通信機)。もう一発が発射された。モノリス、ピナクス、協力して安全な場所に移動せよ。

 (モノリスたちはやっとのことで50mほど離れただけだった。2発目がトラックに命中して、今度は跡形もないほどに破壊された。
 当然、永田は軍に出動要請。)

モ(通信機)。こちらは大丈夫です。運転手の他には誰も乗っていなかった模様。運転手もけがはしていますが、命には別状ありません。救急車を呼んでください。

永田(通信機)。了解。手配する。

 (私の乗っているモノリスの移動メカはトラックの方に向かう。永田のクルマとピナクスは変電所に向かう。
 5分ほどで破壊されたトラックのそばに到着した。ロケット人間は、それぞれの移動メカに戻す。)

芦屋。ひどく破壊された。

アン。めちゃくちゃ。

 (運転手は当然だが、リーダーだった。失敗の責任を取らされたらしい。けがをしていることもあるが、ただただぼうぜんとしていた。会話ができないほどショックを受けている。他に生存者がいないか、タロとクロに再調査させる。モノリスの評価と同じ。一人だけだったようだ。程なくして警察と救急が到着。引き渡した。こちらも変電所に移動。)

永田(通信機)。出入口は2カ所。伊勢さんは裏に回っていただけますか。

伊勢(通信機)。そうする。

芦屋。誰か出てきたらどうするんですか。

伊勢。政府としての臨検を行う。

 (でも、その必要は無かった。軍がさっさとやってきて、有無を言わせず突入してしまったのだ。それも扉を装甲車で突っ切る手荒いもの。手順はとっくに用意されていたようだ。
 当然、変電所は立ち入り禁止。撮影もだめ。永田も押し黙ってしまった。)

永田。これまでのようです。今回もいろいろありがとうございました。再び関の命を救っていただいたそうで、感謝しきれません。

伊勢。こちらが煽った側面があるようです。申し訳ありませんでした。

永田。公表できる分はお知らせすることになります。今後ともよろしく。

 (でも、完全に軍の管制下に置かれてしまったようで、しばらくは何の情報も入らなくなった。虎之介はすぐに帰ってしまい、上司が感謝の意を伝えてきただけだった。)

第10話。モノリスとピナクス。12. 酒工場にて

2009-05-24 | Weblog
 (鈴鹿は運搬車の陰に隠れて工場に入る。運搬車は所定の位置があるらしく、そこに置かれると、係の人はエレベータに戻って1階に行ってしまった。工場内は薄暗い。建物の天井まで吹き抜けになっていて、5階に見えたのは外見だけ。3階の天井が高かったのだ。工場は広く、半分は倉庫代わりのようだ。アナライザーで調べながら歩く。
 関らがやってきた。合流する。)

鈴鹿。志摩、来たわね。まだ調べ始めたばかり。

志摩。うん。やはりここが怪しいって。

芦屋。分かれて調査しよう。

鈴鹿。関さんは虎之介を連れて、工場部分を頼みます。その服だと、誰かと会ってもごまかせそう。

関。そうする。虎之介っ、ちゃんと付いてきなさい。

芦屋。はーい。

鈴鹿。志摩っ、こちらは倉庫内に展開。さあっ、行くのよ。

志摩。うん。気をつけて。

 (関は簡単な分析装置を持っていた。工場の設備を確認して行く。何台もの醸造用の装置が並んでいる。
 虎之介は辺りをアナライザーで調査。今は誰もいないが、狙撃者が位置するには絶好の場所に何となく狙いやすそうな踊り場みたいなのがある。天井にはレールがあって、移動式のクレーンがある。屋根はゆるい傾斜になっている模様。換気と採光のためらしい窓は天井近くに並んでいる。)

芦屋。上の方に行ってくる。

関。気をつけて。

 (虎之介が狭い階段を登って踊り場に来ると、やっぱり、自動小銃が置いてある。志摩にも知らせて回収を始める。
 さらに2カ所には据置型の機関銃が置いてあった。戦闘行為を見越して配置している。発射できないように細工しておく。
 結局、自動小銃は8丁もあった。倉庫に戻って隠しておく。)

志摩。もう十分なような気がする。後は永田さんにまかせよう。

芦屋。まだ、非合法物質を見つけていない。調査だけはしておこう。

志摩。まあいいか。もう一度来るのも面倒だし。

 (虎之介は関に合流。機関銃のことを言う。)

関。これじゃ相手にならない。いったん引き返した方がいい。

芦屋。非合法物質は見つかったのか。

関。いいえ、まだ。うーん、悩ましいところ。武器の所持だけでも封鎖できるけど、犯人は二度と近づかないでしょう。あら、あそこ、事務所かしら。

芦屋。近づいてみよう。

 (たしかに事務所らしい。踏み込んだら多分警報が鳴る。窓から見ると中には書類がいっぱい。通信機みたいなのもある。そのまま押収したいところだ。)

芦屋。ここは調査したんだろう?。

関。ええ。でも、通常の監査だから、相手方に言われるまま見せてもらったに過ぎない。

 (終業時間が近づいてきた。場内にアナウンスが流れる。)

清水。ああ、3人とも行ったっきり。関さんも合流して、武器のあるのが分かって。もう十分じゃない。

ジロ。非合法物質を探しているとか。

清水。念入りにかくしているみたい。

 (亜有は業務用エレベータの前で待っていたわけだが、10人の集団がやってきて、エレベータを待っている。ジロが反応した。)

ジロ◎(DTM手話)。5人が自動拳銃を持っています。1人は護身用ですが、4人のはかなりの威力の模様。

清水◎。志摩さんたちに知らせて。

ジロ◎。知らせました。スーツ姿の6人のうち、背の高い屈強そうな4人ですから、すぐに分かります。作業員風の4人は武器は所持していません。

清水◎。どこからきたのか分かるかしら。

伊勢(通信機)。今、飛行船からの画像を解析している…。2台のクルマから来たみたい。1台はトラック。もうすぐ到着するけど、間に合うかしら。

奈良(通信機)。間に合いそうもないな。空飛ぶ円盤でマーキングするから、私は少し横に入る。伊勢はそのまま急行してくれ。

伊勢(通信機)。了解。

 (私はモノリスを少し街道から入ったところに移動させ、円盤を発進させた。月も出ていないし、暗いから途中の目撃情報は来ないだろう。円盤は静かに発進。いくら非実用とは言え、時速200kmは出る。あっと言う間に駐車場に到着し、くだんのトラックと乗用車にマーキング。こちらに戻した。うむ、駐車場は暗いはずだが、帰りの人々でやや混んでいるはず。案の定、UFOの目撃情報がちらほら気象台あたりに舞い込んだそうだ。当然、相手にはされないだろう。
 志摩ら4人は集合してエレベータから人が出るのを見守っている。)

関。待った甲斐があった。向こうからやってきた。

志摩。そのようだね。

 (拳銃を持った4人は護衛のため、エレベータ周辺に突っ立ったまま。リーダーらしい一人は作業員風の4人にハンディターミナルを渡す。作業員は倉庫に展開して、酒のビンを取っては運搬車に運んでいる。)

関。泳がせるか、止めるか。

 (選択の余地はなかった。作業員の一人がこちらに気付いたらしい。大慌てでリーダーに知らせる。拳銃を持った4人はすぐに離れて、階段を駆け上がる。狙撃の態勢に移るためだ。リーダーがもう一人を連れてこちらにやってくる。作業員は危ないので、運搬車の影に隠れた。関は永田に踏み込むように要請した。永田は警官の出動を要請。10分もしないうちに現れるはずだ。)

リーダー。どなたかいらっしゃるのですか。出てきてください。

関(変装中)。すみません。なんだか男の人がわらわら出てきたので、怖くて隠れたのです。あの、会社の人ですか。

リーダー。そうです。迷い込んだの?。

関。ええ、まだ採用されたばかりなので。

 (展開した男たちはすぐに自動小銃がないことに気付くはずだ。鈴鹿が先手を打って、事務所に行き、ドアをぶち開ける。警報が鳴り響く。)

リーダー。まだいたのか。おまえ、何者だ。

関。政府から来ました。臨検です。そのまま待機願います。

 (リーダーが合図したらしい。隣の男が拳銃をいつでも抜けるような格好している。)

リーダー。ご用件を言っていただけますか。

関。非合法物質がここを経由しているとのうわさなのです。ですから、調査に来ました。

リーダー。証拠はございますか。

関。まだありません。

リーダー。なら、早々にお引き取りを。

 (志摩が茶々を入れた。運搬車の中に集まりかけていたビンの中身をアナライザーで分析したのだ。)

志摩。非合法物質なら、ここにあるみたい。よかったら、分析してみる?。

関。どうやら証拠はそろった模様。もうすぐ警察が来るはず。おとなしく私の指示に従ってください。

リーダー。攻撃。

 (リーダーが叫んだ。まず、隣の男が拳銃を抜く。関が反撃。腕に命中。拳銃が落ちる。リーダーが拾おうとするが、関が蹴っ飛ばした。不利と見たリーダーは非常階段に向かって逃げ出す。)

関。待てー。

 (関が拳銃を構えようとしたが、周囲から銃撃が始まった。慌てて物陰に隠れることに。リーダーは逃した。つけあがるのを防ぐため、虎之介が3発反撃。にらみ合いになった。)

鈴鹿(通信機)。相手の位置は分かるの?。

志摩(通信機)。分かる。こちらは自動小銃をすぐに取れる。

鈴鹿(通信機)。事務所にも自動小銃がある。攻撃しようか。

 (その時、高い窓が割れて、2台の空飛ぶ円盤が入ってきた。静かに展開。)

モ。拳銃を渡してください。

 (男はびっくりしてためらった時間ができた。モノリスは腕を伸ばして拳銃をつかみ取る。)

モ。ありがとうございました。下に降りて集合してください。ここにいると警察に銃撃される危険が高いと評価されます。

 (腰が抜けて動けないようだ。他の3人も同様。モノリスとピナクスが拳銃を押収。関に渡して飛び去った。)

関。不気味。

志摩。ああ、何度もやるとしかけがばれる。

関。拳銃は通用するの?。

志摩。普通の機械と同じ。急所を狙われると一撃。

関。勇敢。

志摩。ああ、よく働いてくれる。

 (けがをした男は虎之介が介抱している。関は作業員を説得、そのまま待機するように言った。ほどなく永田は到着。警察が9人を保護する。撃たれた一人は軽傷だった。
 リーダーはマークの付いたトラックに乗って逃走。観測用飛行船が追いかけている。)

永田。逃げた男は追跡可能なのか。

志摩。そうです。追いかけましょう。

永田。うむ。この倉庫は警察に任せればいいだろう。当方は追いかけることにする。

 (志摩たちはモノリスとピナクスに分乗。永田は政府専用車で関とともにリーダーの乗ったトラックを追跡する。)

第10話。モノリスとピナクス。11. 郊外型酒屋へ

2009-05-23 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。その外観の改造方針が決まった。それとは別に、永田から怪しいビルの調査依頼が舞い込んだ。調査の下見は明日朝から。
 なのに、虎之介は我慢できないらしく、その日の夕方から直行する。志摩と鈴鹿を連れて。律儀な虎之介は私と伊勢に出すぎた行動をあらかじめ告げる。止めようがないので、許可する。無茶するなよ、とは申し添えた。新車両で行く。運転は当然、鈴鹿。観測用飛行船は戻すのも面倒なので、そのまま上空で待機。)

志摩。で、なんで亜有とジロがいるわけ?。

芦屋。伊勢さんが行けって。おれたちの監視らしい。そうなんだろう?。

清水。そうです。明日朝、って言っているのにこのありさま。本当は伊勢さんが行きたかったらしいけど、あまりにばかばかしいので、私で十分だと。

志摩。口出し役。

清水。当然です。無意味な破壊工作を引き留めるため。破壊の要注意人物二人と、行った方がいい、とかいって、そのきっかけをつくるお一人。

鈴鹿。ちゃんと指名してくれないと、わかんなーい。

清水。かなり鈍感な読者でも分かるようなことを、いちいち説明しません。

志摩。ジロがいる理由は?。

清水。私は軍事的には素人。ジロがいないとみなさんの相手などできません。

鈴鹿。ジロ、あなたは亜有の味方なの?。

ジロ。監視役です。

清水。私の監視役の位置付けです。

鈴鹿。訳分からない。つまり、亜有の暴走を止める役。

清水。だそうです。

志摩。伊勢さんからみたら、おれたちの破壊力は亜有の足元にも及ばないようだ。

鈴鹿。このクルマで売り場を破壊しながら走り回るとか。

志摩。結果的にそのように見える事態はあり得ると思う。

清水。ええと、とにかく、私を切れさせるな、ということです。

鈴鹿。ふん、分かったわよ。おとなしく下見の下見だから大丈夫。

志摩。この4人のチーム行動って、今後もあると思う。チーム名考えない?。

鈴鹿。あんたも暇ね。

芦屋。他のチーム名ってあるのか。

志摩。伊勢さんと鈴鹿とおれで猪鹿蝶。亜有と鈴鹿とおれでRPG 3人組。

芦屋。前者が奈良さんの暴走部下3人で、後者が爆笑3人組。

志摩。虎之介って、表現がうまい。

鈴鹿。バカにされているのよ。そのバカに合流する殊勝な一名。

芦屋。4バカ・カルテット。

志摩。虎之介って、調子が続かないみたい。

芦屋。志摩っ、てめえ、自分で命名してみろ。評してやるから。

志摩。ちょうど4人か。

鈴鹿。その表現、分かる人でないと分からない。

清水。あの、単純に雀荘仲間のこと?。

鈴鹿。あんた、麻雀やったことあるの?。

清水。家庭麻雀なら。

志摩。賭けないとゲームにならないよ。

清水。そんな論文がありました。一人でも必死にならないのがいたら、ちっとも面白くないって。

志摩。亜有って、何でも学問に昇華できる。その意味では伊勢さんに似ている。

芦屋。マッドサイエンティストといっしょにするな。

鈴鹿。おやおや、虎之介は亜有もいいなあ、なんて思ってるの?。関さんにいっちゃおーっと。

芦屋。べつにかまわない。関さんは、嫉妬深いのか。

鈴鹿。やや執念深そう。でも、女性として当たり前の範囲。

芦屋。スパイやってなければ普通の女だ。

鈴鹿。凛々しくって、美しくって、かわいくって、キュートでおしゃま。男心をクリクリくすぐるってやつ。

清水。どさくさにまぎれて、自分のこと言ってません?。

志摩。そう見える。

鈴鹿。そ、そう?。

芦屋。演技ができたら、無敵のはずだった。

鈴鹿。ふん、どうせ私はお笑い誘発役よ。ええと、何の話だっけ。

清水。4バカ・カルテットの命名の話。

芦屋。看板が見えた。

鈴鹿。え、どこどこ?。

芦屋。右前方。

鈴鹿。右折か。

芦屋。次の交差点で右折して回り込むみたいだ。

 (ちょうど混む時間だ。わざわざその時間に出かけたことになる。駐車場の奥の方に誘導されてしまった。一階と正面はガンガン照明されている。辺りは薄暗いが、かろうじて建物は見える。)

鈴鹿。広い駐車場。

芦屋。建物の全体がよく見える。たしかに窓が無い。

志摩。換気口みたいなのだけ。

清水。デパートなんかではよくある感じだから、不自然ではない。

鈴鹿。そのように装っているんだ。

 (駐車場を突っ切り、正面から入る。結構人がいる。)

志摩。箱のまま山積み。演出かな。

鈴鹿。他にどういう意味があるのよ。

志摩。半分倉庫代わりにしているとか。

芦屋。両方なんだろう。どうする?。4人プラス一機で歩くのも不自然。

鈴鹿。いつもどおり、虎之介は志摩と。私は亜有とジロといっしょに行く。

芦屋。そうしよう。

 (虎之介と志摩は2階に向かう。ちょっと高級そうな酒類が売られているはずだ。)

清水。一階は大量に売れるビールとか日本酒とか手頃なワインとか。

鈴鹿。缶入りカクテルにチューハイ。

清水。結構広い。

鈴鹿。こんな中に目標物質があっても、なかなか分からない。

ジロ。今のところセンサーに反応なし。

鈴鹿。そうか。分析しながら歩いているんだ。その意味の派遣もあったのか。

清水。多少は役立つかも。

 (二人で売り場を回る。結構色とりどり。各社の主力商品が並んでいるわけだから、当然か。棚や設備にも妙なところがあるかどうか、チェックして行く。普通の売り場に見えた。奥のエレベータのところに到達した。)

鈴鹿。何もないわね。

清水。大きなエレベータ。商品を運ぶためのもの。

鈴鹿。B、1、2、3。三階まで。地下は機械室だったか。

清水。そうよ。建物は5階建てくらいの高さがある。

係1。すみません、運搬ですので、空けてください。

清水。ごめんなさい。お仕事用の通路でした。

係1。通ります。ありがとうございました。

清水。ふう。大きな運搬車。って、鈴鹿さんがいない。

ジロ。いっしょに乗って行きました。

清水。あの女ー。あれほど出過ぎたことするなと言っているのに。

 (エレベータは3階に着いたようだ。そのように表示されている。鈴鹿は3階に潜入成功。)

志摩。高級そうな洋酒が並んでいる。

芦屋。珍しい日本酒や焼酎も。

 (あれま、関がいる。店員にすっかり化けている。潜入調査のようだ。わざとらしく声をかけてくる。あろうことか、虎之介は気付かない。志摩はちょっとあきれてしまった。)

店員1(関の変装)。何かお探しものでもございますか。

芦屋。ああ、泡盛でうまいのがあったのだが見つからなくて。

店員1。銘柄をご記憶ですか。

芦屋。忘れたから往生しているのだ。

店員1。ビンの形とか。

芦屋。円筒形だったことは覚えている。

店員1。ほとんどのビンは円筒形です。他の特徴は?。

 (関もあきれかけている。こいつ、本当に気付かないのか。)

芦屋。味はよかったな。香りも。

店員1。ここにあるのは味も香りもよいものばかり。手がかりになるものを言っていただかないと分かりません。

 (などといいつつ、接近する。早く気付けよ、このバカ、ってな雰囲気になってきた。)

芦屋。旅行した友人の父親からもらったのだ。

店員1。あの、味の特徴とか聞いているのです。

芦屋。味。泡盛だったな。

店員1。振り出しに戻りました。困りましたね。それじゃ、一つずつチェックしますから、こちらに来てください。

 (といって、虎之介の腕をつかんで引っ張る。よくみるとかわいくて美人な店員だ。スタイルもいい。店長の趣味らしく、いささか萌えっとした衣裳を着ている。ちょっとぽわっとする。)

芦屋。ちょっと酔ってきたみたいだ。ぽわんとする。

店員1。まだ、一つも試飲なさっていません。

芦屋。うーん、こんなビンだったかな。

店員1。これは幻の泡盛。とても試飲できるものではありません。お客さん、真面目に考えてください。

 (といって、腕にぴとっとくっつく。なに考えてるんだ、この女。)

店員1。空港に置いてあったんでしょ?。

芦屋。そうだった。めったに手に入らないのに、なぜか空港の売店に置いてあったので、そそくさと買ったと聞いた。

店員1。なら、かなり絞り込めますわ。

 (といって、ぎゅーっと腕を絞る。まだ分かんねえのか、このやろっ、て感じ。)

芦屋。あの、ちょっと。

店員1。何ですか。

芦屋。いくら何でも、なれなれしいのではないかと。まだ恋人にもこんなに接近したことはない。

店員1。あらあ、覚えていないのですの?。

芦屋。ええと、一回くらいあったか。

店員1。あったはずですわ。

芦屋。あの、あなた、そんなにかわいくて美人でスタイルがいいのに、サービスしすぎです。その気になる男が出てきたらどうするんですか。

店員1。まあ、そんなによく言ってくれる人なんて、初めて。もっと言ってくださいます?。

芦屋。はじめてなんてことないでしょう。そのルックスなら引く手あまた。それなのに恋人ができないなんて。

店員1。何が原因なんでしょう。

芦屋。プライドの高さかな。ちょっと気取りすぎ。

店員1。ふむふむ。

芦屋。それに、攻撃的。男がぐっとは来るものの、結局自分ではねつけてしまう。

店員1。損な性格だわ。

芦屋。性格ではなくて…。あれ、なんか心に引っかかるものがある。

店員1。なにそれ、なにそれ。

芦屋。えーと、うーむ。なんだったっけ。

 (いくら何でも、ついに切れたようだ。)

店員1。こーのー、鈍感男ーっ。

 (関はわざとらしくビンタを食らわせ、とっとっとと逃げる。目指すは非常階段。行きたかった3階にどさくさに紛れて行くようだ。)

志摩。追いかけた方がいい。

芦屋。ああ、そのようだな。

 (関は非常階段の途中で待っていた。監視カメラの死角だ。虎之介に小型の拳銃を渡す。予備を持っていたらしい。)

関。虎之介さん。演技だったかどうかはあとでじっくりお聞きすることにして、とにかく潜入します。中は地酒の工場のはず。政府の立ち入り調査では何も出なかった。しかし、従業員にも接近させない。

芦屋。警戒している、ということか。

関。そうです。

志摩。鈴鹿が先に潜入したらしい。

芦屋。わかった。行こうか。

 (志摩から連絡を受け、私はモノリス、伊勢はピナクスに乗って急行。残りのA31も連れて行く。展開が始まったからだ。とはいえ、到着には1時間はかかる。関がいるということは、永田は近くにいるはずだ。ずっと早く到着できるだろう。)

第10話。モノリスとピナクス。10. 怪しいビル

2009-05-22 | Weblog
 (東京ID社に帰ったら、永田からメールが来ていた。郊外の怪しいビルを調べて欲しいとのこと。)

伊勢。懲りてないわね。

鈴鹿。とっとと踏み込んだらー、って返事はどう?。永田さん、軍でも動かせるんでしょ。

芦屋。どんなビルなのだ?。

 (なぜか虎之介の席はある。そこに座っている。一応、情報収集部の名簿には載っているからだ。ほとんどの時間は空席だが。)

鈴鹿。あんた、関心あるの?。

芦屋。確認は必要だろう。まともな意見くらいは返すべきだ。

鈴鹿。くそ真面目。

芦屋。ああ、我ながらそう思う。で、メールの内容はどんなのです?。

奈良。住所しか書いてない。地図はと…。広い敷地内の孤立したビル。回りは駐車場。

鈴鹿。いつぞやの小物ショップみたい。

芦屋。IFFの目標の一つなら都合がいいのだが…。ふむ、そのようだ。

鈴鹿。IFFがマークしてるの?。

芦屋。ほんの少し。優先度は非常に低い。何か分かったら教えてね、の感じ。

鈴鹿。じゃあ、資料もあるんだ。

芦屋。あるぞ。映してみようか。

 (オフィスの入り口を閉じて、スクリーンを出す。例によって、亜有が噛みついてきた。)

清水。奈良さん、いままで黙っていましたね。

奈良。この仕掛けか。言わなかったっけ。

清水。不定期にオフィスが閉じるとしか聞いてません。作戦司令部。冗談じゃないです。本社だけかと思ったら、用意周到。よりによって、首都のど真ん中。無垢の市民が何百万人といる。屋上の測定器群と通信施設は怪しいと思っていたけれど、ちゃんと対応する設備がある。

奈良。ええと。我々情報収集部はそのための部署だ。

清水。いよいよ開き直りときましたか。たしかに、こちらも徐々に慣れてきた感じがします。でも、だめ。いったい仮想敵は誰ですか。はっきり言ってください。

奈良。有事を引き起こす奴等だ。

清水。では、A国とか、B国とか、C国とか、我が国とか。

奈良。全部含まれる。

清水。何てこと。

伊勢。あの、お取り込み中のところ申し訳ないけど、観測用飛行船を飛ばします。

清水。どうぞ、ご勝手に。今回という今回はとことんあきれました。その様子では、戦うための準備はいつでも万端。発動を待つばかり。一触即発を誘導しているのは、まさにあなた方です。自覚はあるんでしょうね。

芦屋。亜有さん、これには歴史があるんだ。好きでやっているわけではない。

清水。末端には、そのように教育されている。よく分かりました。

伊勢。悪いけど、納得できないのなら出て行ってくれる?。作戦の邪魔。あなたの言うとおり、ここは末端も末端。虎之介も含めて私たち5人はその末端で活動する人物。

清水。だから、自分では何もできないと。それは嘘です。できることはたくさんあります。

伊勢。私たちの装備は熟知しているはず。強制排除されたくなければ、おとなしく自分から立ち去ってください。

清水。立ち去りません。とことん付き合います。何が起こっても。

伊勢。言いましたね。とことん付き合ってもらいます。覚悟してください。

志摩。大げさなことにはならないと思う。調査だけだよ。怪しいビルとかいうのの。

清水。志摩さんまで。政府もIFFもマークしている。ただで済むわけがない。

志摩。予想では動けないよ。ほら、今から虎之介が解析する。見た方がいいよ。

清水。志摩さん。とことん落ち着いている。いったいあなたは。

鈴鹿。なにをいまさら。志摩の秘密は亜有も知っているはず。

清水。私、何か大切なものを失いつつあると思う。

志摩。亜有さん、またいつものようにふらふらだ。隣の部屋に行こう。アンも呼んでみる。

清水。ごめんなさい。また、みなさんにご迷惑かけた。

 (亜有は志摩に連れられて退場。アンはというと、付き合ってくれるそうだ。これも不思議な仲間。)

アン。またふらふらです。よく飽きないこと。

清水。気遣ってくれているの?。そちらこそご苦労様。

アン。私の仕事。

清水。うん、ありがとう。感謝している、いつでも。

アン。私も。亜有さんがいると安心する。だって、他のみなさん、変。

清水。で、いつまでも付き合っているわけ?。

アン。私には選択の余地はない。

清水。そうだった。なんて気の毒なこと。あなたには自由がない。

アン。それを自覚する自分もない。

清水。そうだった。自動人形は周りに反応するだけ。それだけの存在。

アン。そう、それだけの存在。

志摩。お茶用意した。飲む?。

清水。いただく。

志摩。アンはどうだい?。

アン。私にも?。お茶はカロリーなし。私には意味がない。

志摩。それは嘘だろう?。化学センサーが反応するはずだ。

アン。分析はできる。それが唯一の私の貢献。

志摩。それでいい。分析してくれる?。

アン。面白いの?、周知よ。

志摩。だから、それでいい。

 (アンは茶の分析を始めた。成分から始まって、人間への影響やら歴史やら、多少のうんちくも。でも、ジロと違ってすぐ飽きる。容器の説明とか、とりとめもない話にすぐに突入した。)

清水。うまく話す。飽きるところまで人間みたい。

アン。喜んでもらえた?。

清水。うん、とても。ありがとう。作戦会議には自動人形の誰かが出ているの?。

アン。知ってどうするの?。

清水。確認だけ。知りたかっただけ。

アン。クロが出ている。あとで情報交換すれば、私は大丈夫。モノリスとピナクスも同じ。

清水。そうか。自動人形って便利。志摩さんは出なくていいの?。

志摩。あとで虎之介か鈴鹿から聞く。今はいい。それに、もしもおれの想像もできない事態になっていたら、とっくに呼ばれている。

清水。志摩くん。落ち着いている。恐くないの?。

志摩。怖いよ。亜有と同じ。

清水。ふふ、うまく言うわね。

アン。今回も付いて行くの?。

清水。ぜひ付いて行きたい。関心があるもの。

アン。そうか。じゃあ、いいこと教えてあげる。

清水。なにそれ、不気味だわ。

アン。聞きたくなかった?。

清水。内容によるけど、内容は聞かないと分からない。

アン。フグは喰いたし、命は惜しい。

清水。喰ってみる。

アン。誰かとはぐれたときは、私たち自動人形の誰かを通信機で呼んで。きっと役立つ。多分、クロが向かう。クロが安心したそぶりを見せていたら安全。危険が迫ったら誘導するし、いざとなったら戦いもする。

清水。うん。それ、伊勢さんの要請?。

アン。そう。そろそろ無謀な行動を起こす時期だって。

清水。だから、それを監視する役。

アン。素人考えはけがの元。私たちが助けないといけなくなる。

清水。うん。よく考えて行動する。あなたたちに頼ることもありうる。

アン。最初はそうして。クロに従うの。意見があればそのつど言って。クロが冷静に判断する。時期が来れば解除するって。

清水。あなたたち。なんて役立つロボットなの。

アン。こんな形で役立つなんてうれしくない。でも、亜有さんが喜んでくれたらうれしい。通信機貸して。私たちと連携できるように伊勢さんが設定するから。

清水。うん。はいこれ。感謝している。アン、手を握っていい?。

アン。いい。亜有さんの手、暖かい。

清水。アンの手も暖かい。うまくできている。

 (実は、この時、伊勢は亜有の通信機にA31専用のコントローラを埋め込んだのだ。私と伊勢の持っているコントローラは自動人形として管理されている機体にはすべて通用する。だから、自動人形を世話したり研究開発する義務が生じる。亜有には、義務は生じない。ちょっとお茶目な伊勢は、亜有がA31をコントロールするという表現を隠して、A31が亜有の作戦時の行動を監視すると表現したのだ。ほどなくばれることを見越して。)

芦屋。IFFの資料はこれ。介入目標としては最低ランク。疑義内容は、某国の違法物資の中継基地になっているとのうわさ。

伊勢。うわさなの?。外れの可能性も高い。

芦屋。そうです。今ここは郊外型の酒屋として営業している。永田さんたちも担当官に化けて調査したらしいが、普通の酒屋の機能のみ。でも、ここで買った酒のビンから違法物質が押収されたことがある。

伊勢。ことがあるって、今は全く無いかもしれない。

芦屋。ですから、待ちぼうけになる確率も高い。

伊勢。なんだか、貧乏くじを回されたみたい。

奈良。物質は特定されているのか。

芦屋。数種の麻薬。時期もビンの銘柄もバラバラ。だから、まだ稼働している可能性が高い。自動人形なら近づけば検出できます。アナライザーでも。

鈴鹿。ここ、酒の製造もしている。

伊勢。振る舞いだけでなく、販売している。

鈴鹿。計測器の売り込みに行こうか。

奈良。下見が終わったら、そうしようか。食い下がって製造現場を見回ってもよい。

伊勢。政府はとっくにやっているでしょう。

鈴鹿。うん。でも、後学のためにもなる。

伊勢。好きにして。

鈴鹿。そうする。

奈良。これが外観か。

芦屋。1階と2階が展示販売。その上が倉庫と製造工場になっている。一階以外は窓がほとんどない。中は分からないが、全体で5階建ての高さ。

伊勢。地下はあるの?。

芦屋。水槽のようなものはあるらしい。消防用かな。簡単な機械室と。

伊勢。で、なんで今の時期にこちらに相談が来たのよ。

芦屋。被害が広がっているらしい。つけあがっている。冬で酒の販売量が増えているらしく、事故も予想される。

伊勢。のさばらせるのはよくない。たたきつぶす。

奈良。じゃあ、さっそく明日、モノリスとピナクスに乗って行こう。開店は午前11時からか。午前9時に出発して駐車場で待機しよう。

 (伊勢と虎之介と鈴鹿は、観測用飛行船で外観の写真を撮って、侵入できそうな経路を割り出したりしている。
 亜有は、その後志摩に連れられて帰ってきた。虎之介から志摩といっしょに解説を受けていたようだ。明日の調査には付き合うとのこと。勝ち気な性格だ。)

第10話。モノリスとピナクス。9. 虎之介と

2009-05-21 | Weblog
 (東京に向かうピナクス車内で。私が運転している。)

芦屋。お茶どうですか。

奈良。ありがとう。

アン。交代しようか。

奈良。おまえが運転するのか。

アン。そう。来るときやった。

芦屋。頼んだらどうです?。運転はうまそうだし、どうせ責任はこちらにある。

奈良。それじゃ頼もうか。

 (運転をアンに代わる。上手に運転している。たしかに救護に必要な技能。しつこく調整されているので、思わず見とれてしまった。)

アン。どこか変ですか?。

奈良。いや、うまいと感心しているのだ。かなり調整されたな。

アン。必要な技能ですから。

奈良。飛行機も操縦できるのか。

アン。登録されているものと、容易に分かるものなら。

 (リリがオートジャイロをすぐに乗りこなしたのを思い出した。問うと、結構いろいろと仕込まれているようだ。
 虎之介が水上と水中の乗り物について訪ね出した。恐竜型からの連想らしい。)

芦屋。情報収集部に水中用の推進装置はありませんでした。

奈良。あまり考えてなかったな。この前は、アンを救護服のまま水中活動させた。

芦屋。考えてみていいですか。

奈良。そうだな、この際揃えておこうか。しかし、あからさまな攻撃兵器はおまえの分だけで十分だ。志摩やアンたちに妙な武装させないように。

芦屋。分かってますよ。合法の範囲の介入でしょう?。

奈良。介入って、海上保安庁ではないんだから、調査だけだ。

芦屋。でも、当然相手は狙ってくるから、十分に逃げきるだけの装備は必要。

奈良。市民として当然の反応の範囲だ。海事に関心があるのか。

芦屋。ええ、最近。

奈良。そういえば、おまえとであった途端に海上発射の巡航ミサイルにぶち当たったな。

芦屋。その直前に、謎の潜水艇が高性能の小型魚雷で撃沈された。

奈良。よく知っている。調査したのか。

芦屋。させてもらいました。情報収集部の活動ですから。

奈良。それで、おまえの結論が、水中での活動性の向上の必要と。

芦屋。そう思いました。

奈良。分かった。発注前に一言声をかけてくれ。関係各方面との調整が可能かどうかのチェックをするから。

芦屋。まかせてもらえる、ということですか?。

奈良。そうだ。志摩や鈴鹿とは相談した方がいいと思うが、それも含めてまかせる。

芦屋。ご満足いただけるようがんばります。

奈良。ああ、頼む。

 (虎之介は、見かけの軽率な感じと違って、ずっと真面目で慎重だった。志摩や鈴鹿ともよく相談し、伊勢と激論してもまったく臆することなく、さらにタロたちや亜有とも意見を交換したのだ。さすがに、IFFの同期の中でトップのことだけはある。
 でも、ちょっと気になった。なぜ我々と行動を共にすることを、こんなにも重視するんだろう。虎之介は我々の仲間というより、増援部隊であって、こちらの言うことを聞くとは限らない。たしかに、連携を失敗すると自分の命も危ないからチームプレーは必要だ。でも、そうでないときは関係ないはず。本人に直接聞いてみた。)

奈良。虎之介、聞いてもいいか。

芦屋。何ですか?。

奈良。まるで我々の一員のように行動してくれる理由を知りたい。

芦屋。志摩みたいに、そうした方がよいと思ったから、ではだめですか。

奈良。別にかまわないが、もっと直接的な表現で理由を知りたいと思ったのだ。

芦屋。少々気味悪いと。

奈良。我々はIFFにとっては中途半端な組織のはずだ。

芦屋。そういう見方もできます。でも、IFFが直接手を出すと、軍事衝突とほぼ同じ。いったん起動してしまうとルールなんかあってないようなもの。相手が完全撤退を開始するまで全力の攻撃が続いてしまう。

奈良。それに関しては情報収集部以前にDTMが専用部門を作っていたようだ。

芦屋。そう聞いています。軍事衝突を未然に防ぐための部門。それは温存されたまま、ID社内に調査のための部門ができた。それが奈良さんたちの情報収集部です。

奈良。うむ。合法の範囲の調査。相手にこちらが知っていて、いつでもつぶせることを目の当たりにさせることが目的。

芦屋。それだけなら、自分に関心はありませんでした。

奈良。おまえと会ったとき、最初はそんな感じがした。

芦屋。でも、思い直したんです。面白い組織だと思うようになった。

奈良。志摩たちがいたからか。

芦屋。志摩がなぜかこの部門に意義を見いだしていた。鈴鹿も。あの優秀な二人が二人とも。たしかに、なにかあると思いました。

奈良。それだけではない。

芦屋。いちばん大きいのは、伊勢さんと奈良さんの攻撃力の高さ。調査部門には不釣り合いです。

奈良。伊勢は運があれば一旅団や防衛した一都市を壊滅させることができる。私のA31もその気になれば凶悪な兵器になる。

芦屋。A31にしかるべき装備をさせると、特殊な訓練を受けた小隊規模の威力になります。

奈良。軍事コードの存在か。

芦屋。そのとおりです。公開された分だけでも、そのありさま。永田さんらは気付いていて、何かあるとすっ飛んで来るのはよくご存じのはず。

奈良。しかし、いままで本格的に役立ったことはない。

芦屋。そうです。分子シンセサイザーは実際には使えない武器だった。自動人形は単なる失敗した救護ロボットでした。

奈良。いまでも失敗作だ。

芦屋。そんなことはありません。分子シンセサイザーはその潜在力が徐々に現れてきました。A31はまさかと思っていた作戦で縦横無尽に働いています。もちろん、救護にも後始末にも役立つ。

奈良。おまえの評価か。

芦屋。はい。でも、私の上司も気付いています。何かあると。

奈良。だから、我々に接近する。間近で見るために。

芦屋。それがいちばん大きいです。分子シンセサイザーは事実上、伊勢さんしか使えない。自動人形を作戦に積極的に投入しているのはここだけ。

奈良。なるほど。しかし、それでもちょっと弱いな。IFFにいるなら、我々の活動などすべて分かっているはず。わざわざ合流する理由にはならない。

芦屋。奈良さんはうわさ通りのよい上司。私も付きたいほどです。

奈良。私の軍事経験は乏しい。

芦屋。実戦経験のことでしょう?。それと実力とは微妙に異なります。装備などの知識はご心配なく。私や志摩や鈴鹿がいかに優秀かはご存じのはず。そんなところは、こちらにまかせてくださればいいのです。

奈良。大きく出たな。期待しているぞ。で、最後の理由は何だ。

芦屋。永田さんや関さんや亜有さんの行動。

奈良。ふむ。清水くんの行動はたしかに不可解。いつも調べ物に来ていて、作戦行動を聞きつけると、積極的に付いてきたがる。

芦屋。で、ほとんど毎回、ふらふらになって志摩や鈴鹿やアンが世話している。

奈良。立ち直るのも早いがな。

芦屋。調べ物なんか、とっくに終わっていますよ。今調べているのは細かいことばかり。それなのに、いつまでも通っている。単にこちらに来る理由付けです。

奈良。虎之介にもそう見えるか。

芦屋。ええ。数学は面白いので、途中からのめり込んでいますけど、積極的にここに来る理由にはならない。

奈良。永田らも。

芦屋。プライドの高い公務員が、なんでわざわざ民間の調査部門に、ときにはへつらうような行動に出るのか。

奈良。彼らはどちらかというと、交通整理が仕事であって、実働部隊ではない。警察や担当部署に適切に依頼すればいいのだ。たしかに、それ相応の実力はあるが、決して最高ではない。

芦屋。そのとおり。なのに、わざわざ我々といっしょに現場に突入する。まるで、こちらの行動を観察したいかのように。

奈良。ふむ。そんなに特色のある仕事だったか。

芦屋。そうですよ。奈良さんだって、大きな計画を感じているでしょう?。

奈良。ああ、たしかに。でもそれこそが、DTMの本来業務。特別なことではない。

芦屋。伊勢さんなら、ふふ、そうね、その通り。でも、それだけ?。なんて言うでしょう。

奈良。そうかもな。こちらは必死でやっているから、気付かないのかもしれない。それなら、あとは伊勢と相談したら分かるんじゃないかな。

芦屋。そうさせてもらいます。

 (ずいぶん長話になった。虎之介には情報収集部は不思議な部門に見えるらしい。でも、たしかにあれだけ個性的な3人の部下が生き生きと働いているのは、不思議と言えば不思議。A31の活躍も、不気味と言われれば、そうかもしれないかな、とは思う。
 ふとクロを見る。私に軽い不安を感じ取ったせいか、こちらに来て甘える動作をする。軽く鳴いたきりしゃべらない。いい機械だ。よくできている。なでてやる。クロもそれに応えて満足したそぶりを見せる。不思議ではない。いつもの動作だ。その内容も、分かりきったことだ。私が調整したのだ。)

第10話。モノリスとピナクス。8. 特命チーム結成

2009-05-20 | Weblog
 (翌朝6時、目が覚める。もう、恒例になってしまった朝の散歩。誰かに会わないと寂しいから、駐車場にいるモノリスとピナクスを見に行く。こちらが近づいたのが分かったらしく、2機ともランプで知らせてくれた。)

モ(通信機)。おはようございます。避難経路複数確認、安全です。

ピ(通信機)。おはようございます。

奈良(通信機)。おはよう。入っていいか。

モ(通信機)。ご遠慮なく。

 (私はモノリスに入る。ピナクスはロボ姿でやってきた。)

奈良。寒いな。

モ。いま空調を入れました。すぐに快適になります。

ピ。私を女性にするのですか?。

奈良。ああ、そのようだ。まだ決定はしていないが、ほぼ確定。

ピ。目的は?。

奈良。特にない。今のところ、可能性の追求だけだ。多少便利な点は出てくると思う。こちらの学習にもなる。

ピ。かろうじて納得できます。

奈良。元はウマの姿だった。

ピ。そうです。

奈良。雌雄はあったのか。

ピ。参考にしたウマはメスだったとか。

奈良。そうか。じゃあ、元に戻るわけだ。今のディスプレイに映る姿は何かモデルがあるのか?。

ピ。モノリスの元の姿を参考に、仲間の姿を想像したものです。

奈良。なるほど。年齢と性別を合せただけか。

ピ。そうです。

伊勢。入ってもいいかしら。

奈良。来たか。おはよう。

伊勢。おはようございます。

奈良。ピナクスの元の姿はメス馬だったらしい。

伊勢。そうなの。でも、心はなかったから、外見だけのこと。

奈良。そうだ。

伊勢。なるべく一気に決めたいから、少数のチームを組みたい。社長に相談してもいい?。

奈良。ピナクス改造のチームを組む目的で?。

伊勢。ええ。

奈良。じゃあ、勝手に組んでいいんじゃないかな。自動人形は特に歓迎されていない存在だ。私が自分の研究範囲で責任を負える。参加したい個々の人間が直接の上司に許可をもらえば良い。

伊勢。そうさせていただく。改造に関係する部署にはメールした。今から文章を作ってチームに参加したい人を募る。早ければ今週中に最初の案を作って金曜に部品を発注。来週の終末に改造する。

奈良。その改造は私がやるのか。

伊勢。期待しているんだけど、頼めるかしら。

奈良。よほどのことがなければOKだ。私も関心あるし。

伊勢。よかった。東京ID社で調整できるから、便利。

奈良。ピナクスを女性に改造する理由を聞いていいか?。

伊勢。もちろん。どのようなことになるのか関心があった。それができるチャンス。これでいい?。

奈良。十分。ピナクスは何か言いたいことがあるか。

ピ。特に言える立場ではありません。大切にしていただければ、それで十分です。

奈良。約束できる。安心しろ。

ピ。うれしいです。

モ。私たちを情報収集部の作戦に使うのですか?。

奈良。そのつもりだ。ただし、適当であると考えられた場合だけ。全く出動の機会はないかもしれない。

伊勢。1回以上は使う機会があると考えて。準備を怠らないように。情報収集部の装備は帰ったらすぐに取りつける。

モ、ピ。わかりました。

 (朝食を摂ってから高速道で帰る。モノリスは鈴鹿が運転。助手席にはジロ。伊勢と志摩と亜有が乗る。ピナクスは私が運転。アンが助手席。虎之介とタロとクロが乗っている。)

奈良。虎之介はすぐに帰らなくていいのか。

芦屋。移動メカに乗っておこうと思いまして。

奈良。なるほど。虎之介はどう思う?。情報収集部の作戦に使えると思うか?。

芦屋。動物型はそのまま使えそうです。円盤型とロケット人間は陽動作戦には使えそう。ロボ型は改造した方が良いように思います。

奈良。もう少し詳しく言ってくれ。

芦屋。ちょっと重厚すぎ。なんだか、源平時代の鎧カブトを見ているようです。軽く動けた方がよい。戦国時代の機動的な装備を参考にした方が良い。

奈良。亜有やオタクどもがよく知っていそうだ。

芦屋。ええ、期待通りになると思います。あまりに役立たずに思えたら、意見を言います。

奈良。そうしてくれ。

芦屋。円盤型とロケット人間を積極的に使うなら、積載量の少なさを補うべき。白鳥型で50kgとか運べませんか。

奈良。ID社の無人ジェットオートジャイロは現に50kg運んでいる。残念だが、私は素人で、改造できるかどうか分からない。

芦屋。言い出したから、おれが調べますよ。

 (結局、容器を工夫したら、少しの改造で50kgまで運べることが分かった。
 というのも、虎之介の働きかけでID本部航空部門が関与することになったからだ。円盤型とロケット人間は冗談と見なされてしまったが、白鳥型は航空機と認められたのである。
 白鳥型の体重は進行波ジェットシステムを合せても25kgなので、ずいぶん重いものを持てることになる。ただし、荷物が20kgを超える場合は、離陸には助走するかカタパルトを使用する。そして、速度0で置くことはできない。時速20km程度までで落とすことになる。移動メカの改造ともども大がかりになったので、年明けに持ち越すことになった。)

清水。女性版ピナクスのロボ型は女武者になるんですか?。

伊勢。それしか思いつかない。何かアイデアある?。

鈴鹿。モノリスが騎馬武者だから、こちらも他に思いつかなかった。

志摩。ギリシアのアテネ神も鎧カブトを装備していた。

清水。ふむ、古今東西、女武者は珍しくはないのか。

伊勢。そのようね。

清水。軽い鎧のように見える方がいいと思う。今のままでもかっこいいけど、動きにくそう。

鈴鹿。ああ、それ言えてる。本人に聞いてみましょう。モノリス、いまの戦闘ロボの格好、動きやすい?。

モ。防御性能を重視したとかで、動きにくいです。少なくとも、普通のヒト型で救護服着ていた時よりはずっと動きにくい。

鈴鹿。やっぱり。

清水。戦国時代の軽快な鎧を参考にしてみたらどうでしょうか。

鈴鹿。ゲームにいっぱい出てくる。

清水。うん。そう。懸賞の募集に応じるようなオタクなら、山のようにアイデア持っていると思う。

伊勢。アイデアはいいけど、実用とはかけ離れているんでしょう?。

清水。当然、物理学など無視されています。だって、ゲームだもん。

伊勢。ゲームだもんって、重力が反転するなんてことはないでしょうが。

清水。伊勢さんなら、画面を見れば5秒で分かるはず。何と言おうと、変です。

伊勢。想像はできる。巨大な武器振り回したり、急に全力で走り出したり。

清水。それやらないと、かったるいです。

鈴鹿。デザインを参考にするだけよ。ヘルメットかぶっている女いた?。

清水。ええと、急には思い出せない。鎧ならありふれている。

伊勢。救護ロボットで、災害現場に突入することもあり得るから、それなりの防護が必要。ヘルメットは必要。

清水。アンたちよりも少し早く現場に行く役。

伊勢。イメージができてきた。あとは流れにまかせるか。

 (気の早い伊勢は、その日のうちに日本ID社内にモノリスとピナクス改造チームの募集を始めた。懸賞金のこともあり、応募はそこそこあったが、少数のチームでないと機動性が確保できないため、一軍と二軍以下を明確に分けたようだ。幸い、デザインを考える人は複数いたため、競争形式にした。とりあえずの急務はモノリスの重装備風の外見を動きやすいものにすることと、ピナクスの新デザインである。次がロケット人間。車両部門からは車両の再デザインの話も出たので、好きにやらせる。動物は私に一任されてしまった。ウマは戦闘ロボと合せないと変なので、セットでデザインしてもらい、私がチェックして細部を検討することにした。)

伊勢。チーム名募集。

志摩。科学戦隊の?、それとも開発チーム名?。

伊勢。両方。

志摩。1機で5体と2台。

鈴鹿。石盤と陶板。タブレット。ドミノ。メモリアル。

清水。ファンタジーに近い題材。幽玄戦隊フィニティ。

伊勢。有限って、漢字で書かないと洒落とは分からない。

鈴鹿。数学の有限って、どんな大きな数でも有限なんでしょ?。

清水。そう。限界があると言っても、途方もない限界も含まれる。

伊勢。物理学では、極端に小さな確率の事象は、決して起こらないと見なされる。

清水。数学なら、無限の事象でも確率ゼロのことがある。

志摩。もっと単純な名前が思いつかなかったら、それでいい。

鈴鹿。何か考えたの?。

志摩。もういい。

鈴鹿。白状しなさい。

志摩。J2。

鈴鹿。もういい。

伊勢。じゃまあ、とにかく幽玄戦隊フィニティ、開発チーム名もフィニティにしましょう。

 (ということで、フィニティ計画開始。時間もないので、同時進行でいろいろやる。)

第10話。モノリスとピナクス。7. 夜

2009-05-19 | Weblog
 (遅くなったので、本社で一泊することにする。志摩たちは部屋に行く。
 私はA31とモノリスとピナクスで場内を探索する。自動人形の習慣、安全確認と生存者の確認だ。モノリスとピナクスは騎馬姿。なぜか、車両航空部長と伊勢と亜有が付いてきた。)

タロ。星空がきれいです。

伊勢。きれいだわ。ここに来ると、見たくなる。

 (月は出ていない。小接近している火星が目立つ程度。だから、星空がくっきり見える。天の川も見えるし、オリオン座が目立つ。)

部長。作ってしまってから、目的を探しているのですか。

奈良。そのようです。動物型は良くできているけれど、謎の円盤とロケット人間は、多分趣味の産物。

部長。戦闘ロボも。

清水。騎馬武者。何となく捨てがたいデザイン。

伊勢。デザインは多少変えても良いようだから、日本ID社好みにすれば良いと思う。鎧カブトのつもりみたいだけど、多少変。

部長。そういえばそうかな。重点的に応募してみましょうか。若い連中が乗ってきそう。もともと日本趣味のようだし、本家本元の意地を出してもらいましょう。

伊勢。それと、ピナクスは女性にしてみましょうか。

 (しばし沈黙が流れる。さっきテレビ会議で言っていた改造って、性転換のことだったのか。)

清水。女武者っていました。日本の伝統です。

奈良。たしかに、即座に二人ほど歴史上の人物の名前が浮かぶ。

清水。関さんなんか、まともにそんな感じ。

伊勢。あら、適当なモデルが身近にいた。じゃあ、決まり。

 (決まりって、この女はっ。)

奈良。誰が設計するの?。

伊勢。私にまかせてくださいます?。動物型の性格付けは奈良さんに頼みます。

奈良。別にいいが、円盤型などの後始末は。

伊勢。最初から破綻している。そういうのはオタクにまかせて、優れている点をさらに強固にしましょう。

 (どうやらわざわざ付いてきたのは、女性への改造を宣言する目的だったようだ。私と部長が数秒黙っていたのをいいことに、了承とみなしてしまい、さっそく準備をするために宿泊所に足取りも軽く駆けていった。決断が早い。)

清水。行ってしまいました。やる気まんまんです。

奈良。止める手だてはない。

部長。そんな感じです。

 (こんなときの伊勢の馬力は計り知れない。マニュアルを一気に読んでしまい、改造個所を洗い出して、ラフスケッチをし、関連方面に話をつけてしまった。クリスマスイブに間に合わせるんだと。2週間しかない。
 考えてみれば、自動人形の女性アンドロイドは珍しくない。恐竜のメスは知らないが、オスも知らないから適当でいいだろう。ウマはよく知っているし、白鳥は想像可能だ。ロケット人間の女性って、あれだ、有名な漫画だ(註: マグマ大使)。
 東京に向かう新幹線にて。)

関。はっくしょん。あら、寒気までする。風邪をひいたのかしら。

永田。ええと…(風邪ひくわけないだろと言いかけたのをやめて)、どうやら誰かがうわさしているらしいな。思い当たる点はと。

関。伊勢さん。間違いない。何か企んでいる。

永田。モノリスとピナクス。

関。それよ。何かしら。

永田。君と関連すること。空飛ぶ円盤、ロケット人間、白鳥、恐竜、ウマと戦闘ロボ、ロボトラック。

関。戦闘ロボ。まさか。

永田。女性の戦闘ロボって、あったか。

関。いっぱいある。ははーん、モノリスかピナクスのどちらかを女性にする。そのモデルが私。

永田。考えすぎと言いきれないのが微妙だ。

関。伊勢さんは陰険なところがあるけど、嘘はつかない。今度会ったら問い詰めてやる。

 (こっちも勘のいい女。たしかにそうだ。伊勢は嘘をつかない。後日、いともあっさりと、新ピナクスのモデルになって欲しいと言ってのけたのだ。関はといえば、まんざらでもなかったようで、いやとは言わなかった。エリートで実力があり勇敢。ちょっとあわてものなのが気になるが、正義感は見上げたもの。たしかにこういうのが女武者になったのかもしれない。)

 (部屋は4室。虎之介と志摩、鈴鹿と亜有、伊勢とクロとアン、私はタロとジロと。モノリスとピナクスは駐車場。)

志摩。伊勢さんがピナクスを女性にするそうだ。

芦屋。ふむ。ロボットだから、あまり変わらないんだろう?。

志摩。外見が変わるのと、周囲の反応が若干変わる。

芦屋。タロとアンの違いか。アンはおとなしいが、タロよりはしゃべる。

志摩。そんな感じ。好奇心が強くて、適度に飽きる。

芦屋。なるほど。美人なのはおまけ。

志摩。アンは美女なのを楽しんでいるみたいだ。

芦屋。攻撃のターゲットになることも多いだろう。なんで中年の頼もしいおばさんにしなかったのかな。

志摩。伊勢さんと同じ考えだ。おかげで、調整個所が多くなった。

芦屋。調整の経験にはなったということか。

志摩。その点に関してはこれ以上調整のしようがないくらい調整されている。

芦屋。そうだった。適当に男性をあしらうすべに長けている。

志摩。戦闘ロボとロケット人間なら、あまり工夫がいらないかな。

芦屋。力が変わらないのなら、あまり変えなくても良いと思う。

志摩。ええと、もうすこし考えてみようか。

 (男から見るとあまり変わらないようだ。一方、鈴鹿と亜有は楽しんでいる。)

鈴鹿。伊勢さんがピナクスを女性にするんだって?。

清水。そう、はりきっていた。モデルは関さんになりそう。

鈴鹿。関さんか。圧倒的な初期攻撃を好みそう。擲弾で撹乱して剣を振り回して突入。

清水。あの、一応救護ロボットです。

鈴鹿。そうだった。んでも、貴婦人の乗馬みたいにはできないし。

清水。たとえば昔のナース姿。勇敢さと決断の速度はいずれにしても必要。

鈴鹿。その点では救護服が便利だけど、モノリスの武者姿に似合わない。

清水。結局女武者姿か。ヘルメットはどうしよう。

鈴鹿。すればいいじゃない。

清水。クワガタみたいな角付きの?。

鈴鹿。帽子に見えればいい。飾ってもいいし、あるいは布か何かで覆う。

清水。僧兵みたいな格好。

鈴鹿。悪くない。私なら普通にヘルメットがいい。関さんの趣味は知らないけど、どちらでも似合いそう。

 (いつもおとなしいアンが伊勢に話しかける。)

アン。ピナクスを女にするの?。

伊勢。そうよ。ええと、ちょっと静かにしてくれる?。

アン。あまり恐い姿はいやです。

伊勢。勇ましく見えないとだめ。あなただって、十分に勇敢。火の中でも飛び込む。

アン。人工知能で飛び込んでもよいと判断された時のみ。

伊勢。でも、人命優先でしょう?。

アン。そうなってしまうことはある。

伊勢。なら勇敢よ。大丈夫。救護服を強化したようなもの。

アン。それなら私も装備したい。

伊勢。そうか。あなたにもチェックしてもらおうか。救護ロボットに見えないと元も子もない。

アン。うん、安心した。ありがとうございます、伊勢さん。

伊勢。どういたしまして。あなたの期待は裏切らない。

アン。はい。おとなしくしています。

伊勢。ありがと。

 (タロが話しかけてきた。)

タロ。ピナクスを女性化するんですか?。

奈良。ああ、そうなる。

タロ。何か利点でも。

奈良。ええと。まず、女性の看護がしやすい。安心感を持つ人がいる。幅広い考え方ができる。

タロ。なるほど。外見以外の調整個所は?。

奈良。反応が若干異なる。人間で言えば、性格とか思考過程とか。

タロ。女性アンドロイドの実例は多いです。

奈良。そうだな。しかし、戦闘ロボの例はない。

タロ。ロケット人間も初めて。白鳥も、恐竜も、メカウマも初めてです。

奈良。経験は大切。たとえば、アンとクィーンでも感じが異なる。

タロ。いろんな可能性を試したい。よくわかりました。

奈良。気付いたことがあれば、いつでも言ってくれ。

タロ。はい。注意しておきます。

奈良。よろしく頼む。

 (ギャラリーが多い。伊勢にしてみたら、たんなる遊びだろう。自分が科学戦隊してみたかった、くらいか。自動人形のことがよく分かる点はありがたいので、そのまま続けさせることにした。)

第10話。モノリスとピナクス。6. 交歓会

2009-05-18 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。その周辺機器はまるでアニメの科学戦隊のような取り揃え。長野にあるID本社に移動して機能を確認したのだが、さっそく社内のオタクどもに注目されてしまい、社員向けの交歓会をすることになった。)

 (午後5時。展示場となる格納庫に移動する。観客席があって、空席は目立つものの、見たい人はしっかり集まっている模様。モノリスとピナクスの移動メカが飾ってあって、さっそく近づいて見学している。
 格納庫の壁には大きなスクリーンがあって、交歓会の表示がされている。その前に、質疑に答えるためのテーブルがある。
 脇には6体のメカと移動メカと本体のポスターが飾られていて、簡単な仕様が書かれている。)

部長。みなさんはこちらの席に座ってください。まず、社長のあいさつがあります。その次に、G国ID社の航空部長がテレビ会議システムであいさつします。

伊勢。その航空部長のところにモノリスとピナクスはいたんですか。

部長。航空部の一部門にいたようです。ヨーロッパの大国のID社ですから、航空部門は忙しくて、熱心な一部の人が自動人形を改良しているだけだったようです。

伊勢。何となく状況は分かる。

 (結局、こういうことらしい。軍で開発された自動人形J01とJ02は、ヒト型とウマ型。軍にウマがいるのは不自然ではない。ID社に来てから本体を共通にして、パーツで外見を変える工夫が加えられたらしい。それが、その航空部門に引き取られてから、思いっ切り趣味の自動人形に改造されてしまったのだ。私がA31に心を与えたのと同様、こうした派手な改造はむしろ推奨されている。)

社長。時間になりました。臨時の交歓会を始めます。今回、3カ月の予定で東京ID社に配属された自動人形、モノリスとピナクスをご紹介します。本体はビデオカセットみたいな外見で、移動メカなどにセットして使用します。まず、モノリスとピナクスにあいさつしてもらいましょう。スクリーンに姿が写るそうです。

 (スクリーンに2人の男が現れた。A31に似た救護服を着ている。元々のモノリスの姿だったみたいだ。ピナクスはウマの外見だったはずだが、やはり救護服を着た男として映し出されている。)

モ。みなさん、始めまして。自動人形、コード名J01。モノリスといいます。本体は今ご覧のトラック型の移動メカにセットされています。よろしくお願いします。

ピ。同じく、J02、ピナクスです。よろしくお願いします。

 (次に、各周辺機器の外観が紹介された。さすがに、ロケット人間には注目が集まる。早く見てみたい、との雰囲気がありありと伝わってくる。)

部長。ここでお知らせがあります。今回の配属の目的は、このモノリスとピナクスの応用先を開発することです。懸賞金が用意されました。本部で審査され、合格点に達したものはできばえに応じて懸賞金が配当されます。最大200万ユーロと上限は大きな額です。詳しくは社内のホームページを参照してください。

 (会場がざわめいた。オタクどもの意欲がわいてきたようだ。おかげで、後に山のようなゴミ論文を見ることになる。本部は日本ID社に投げたはずだが、なぜか海外からも提案が殺到したのだ。)

G国ID社航空部長(テレビ会議)。日本ID社のみなさん、おはようございます。

 (よくある失敗。わざと受け狙いのようだ。しかし、さすが冗談が通じない日本人で、だれも笑わず、あまり良くない雰囲気。でも、伊勢がけたけた笑っているので、それが映し出されたせいか、航空部長は満足したようだ。)

航空部長。モノリスとピナクスをご紹介します。我が航空部門の人間が開発した画期的な外観を持つロボットたちです。今回は日本ID社を表敬訪問させていただきました。みなさんのアイデアで、世界最高の自動人形に仕立ててくださることを期待しています。

伊勢。多少こちらで改造するかもしれませんが、よろしいでしょうか。

航空部長。大いにやってください。

 (どさくさにまぎれて、伊勢はとんでもないことを言ったのだが、やすやすと通ってしまった。どうやら、この人は伊勢の恐ろしさを知らなかったらしい。
 いかにも延々としゃべりそうな人なので、どうなるかと思っていたら、さえぎるようにモノリスたちの世話係があいさつしてきた。)

世話係。日本のみなさんこんにちは。僕たちが作った自動人形を楽しんでください。実用性もさることながら、外見に工夫してみました。きっと満足してもらえると思います。

部長。ありがとうございました。どうしましょうか、回線はそのままでよいでしょうか。

世話係。ええ、お願いします。

 (日本のID社員の反応を見たかったらしい。この配慮は良かった。あとで関心のある社員からいろいろと質問が出たからだ。もちろん、世話係は自慢げに解説してくれた。)

奈良。それでは、デモンストレーションを開始します。まずは、移動メカの演技運転をご覧ください。

 (無人の2台のトラックが動き出す。これだけでもちょっとシュールだ。そして、格納庫内を一周してから、まるでダンスするように演義をする。ランプを上手に光らせたり、バックミラーをパタパタさせたり。普通のクルマではなく、かなりメカニズムに凝っているようだ。ヒトが乗っていたら、完全に乗り物酔いするはずだ。車両部の連中が、身を乗り出すようにして見ている。)

清水。うわあ、こうしてみると、たしかにロボットみたい。

奈良。なんか、そんな子供向けの番組があったな。

伊勢。いっぱいあるわよ。でも、実際にやってみるとおもしろい。

 (意外に受けたので、世話係がテレビ会議システム経由で、移動メカの装備について画像付きで解説してくれた。プレゼン資料は、以前から作っていたらしい。結局、この感じで別の周辺機器もデモ直後に解説してもらうことになった。
 演技が良かったので、2機をちょっと撫でてやる。これが良かったらしく、その後の演技に磨きがかかってきた。)

奈良。謎の空飛ぶ円盤、発進せよ。

 (モノリスとピナクスの屋根から、静かな風切り音と共に円盤が発進する。やはり倉庫内をゆっくり編隊飛行して、ジグザグ飛行などしてから、足を出す。いちいち、喚声とも悲鳴とも言えない声が上がる。なぜか今回は被救護者の代りをアンがやってくれた。円盤から出た腕でじゃんけんして、勝ったピナクスが救護服のアンを抱えて走る。モノリスは腕と足を収納して、上空から付いて行く。少し演技して終り。)

奈良。ロケット人間は、危ないので収録した画像でご紹介します。

 (ロボ型が出て、ロケットを外して移動メカの前に据え置く。変形場面だけを見せるためだ。やはり、変形場面は印象的。出てきた軍服人形は、適当に走ってポーズする。背嚢がちょっと重そうだが、普通の自動人形に見えた。ロケットに戻り、移動メカにロボ型が収納する。
 円盤型とロケット人間型は関心を集めたが、積載量と航続距離を聞いてがっかりした人が多かったようだ。)

奈良。白鳥型、発進。

 (白鳥型も屋根から飛び立つ。飛んでいるときの姿が美しくなるように設計したようだ。会場からため息がもれる。ゆうゆうと2機で場内を回り、着陸。ロボット腕で軽作業する。すこしぺたぺたと歩いて、コォーと鳴く。再び編隊飛行する。戻る。)

奈良。白鳥型は、本来は水上用です。ある程度潜ることもできます。

 (世話係が解説する。白鳥型の航空機としての速度と航続距離はクロのオートジャイロ並みで、優れたものだった。積載量は20kg程度なのでたいしたことはない。一瞬空中に止まる感じはできるが、ホバリングは無理。普通の白鳥と同じ。水上の様子と潜る様子は、世話係が画像を持っていた。)

清水。白鳥の王子。

鈴鹿。そんなロマンチックな話があった。

志摩。よくできている。清んだ湖を泳いでいるときれいだろうね。

清水。うん、機会を作って欲しい。

奈良。恐竜型、発進。

 (恐竜型がトラックから飛び出す。すばしっこい。観客席を回ったり、飛び移ったり。サービスでギャーと鳴いてくれた。こちらも、世話係から水中活動のすばらしい画像が提示された。会場がどよめく。恐竜型の開発目標は水中動作なので、そのままで4時間ほど潜れるそうだ。水面で20秒ほど息をすると再び4時間。ちなみに、A31は息を吸い込むのは一瞬だが、一回に10分ほどしか潜ることはできない。もちろん、電源を背負わせれば、どちらもずっと長く活動できる。
 多分冗談で武装できるのかとの質問が出たので、ロケット人間が装備していたおもちゃの自動小銃を持たせた。恐ろしいことに、しっかり構えている。SF映画みたいだ。会場がしばらくしんとしてしまった。)

清水。結局こうなる。恐ろしいこと。

鈴鹿。うん、隠してもしようがない。地球最強の動物がさらに武装できる。

志摩。救護も器用そうだよ。

清水。そうか。諸刃の剣ってやつだ。

 (鳥が意外にヒトに懐くことは知られている。モノリスとピナクスもいわゆる人の良さを持っていた上に、元々の騎馬部隊と言えばエリートだから、さっそうとした感じや勇気も持っている。恐竜の姿になると、こちらには懐くし、すばしっこくて勇敢なので、私はこの姿が気に入ってしまったのだ。)

奈良。ウマ型とロボ型は同時に稼働させます。

 (2騎からなる騎馬隊になった。楯と砲を構えさせ場内を走らせる。うむ、びっくりするほど様になっている。とても器用な動作をする。会場から拍手が湧いたりする。モノリスとピナクスはそれに応えてポーズしたりする。
 2体に消火液の入ったタンクを背負わせる。会場に小さなベニヤ板でできた小屋がしつらえられ、火が点けられる。2騎は近づいて、砲から消火液を発射、消火する。慣れたものだ。
 で、よせばいいのに、ウマから降りて盛んにポーズする。日本の感覚からいえば、ちょっとやりすぎだ。うん、たしかゲームでこんなの見たことがある。)

伊勢。これって、ゲーム趣味なの?。

清水。そのようです。アメリカの巨大ロボゲームでこんなの見たことがある。ゲームに勝って喜んだ感じを目一杯出す。こんなところに凝るの。

志摩。小さな子供には受けそうだ。

鈴鹿。うん、応用例1。小さなお子様同伴の親子向けアトラクション。

 (世話係から解説が入る。元々の開発が騎馬隊だったので、よく調整されていたこと。ウマはウマで、こちらも念入りに多種用途に使えるようにできていること。ついでに、ポーズには凝ってみましたとのこと。正直だ。
 最後に部長が締めてくれた。周辺機器をすべて出し、クルマも中が見られるようにする。オタクどもに混じって、部長クラスも盛んに見ている。面白いらしい。
 この交歓会の様子は録画され、世話係が持っていた資料画像とともに社内に開示された。でもって、やはり一部がインターネットに漏れてしまい、概要をID社のホームページで公開せざるを得なくなり、問い合わせが殺到することになったのである。
 貸し出すこともできないので、結局、東京と長野で数回公演することになった。)

第10話。モノリスとピナクス。5. ID本社にて

2009-05-17 | Weblog
 (ID本社に着いたのは午後1時。さすがにおなかがすいたので、車両航空部の部長に断って、あいさつ前に食堂に行く。モノリスとピナクスの本体はコンデンサに蓄電してエネルギー源にしている。瞬時に充電可能な充電池のようなものだ。燃料電池は周辺機器の方についていて、電磁誘導で本体を充電する。戦闘ロボ型が一番ましかと考え、本体をセットして食堂に行く。
 モノリスとピナクスはA31といっしょに、純アルコールを補給。戦闘ロボがスポーツドリンクの容器からストローでエタノールを吸うのは、何となく滑稽。スポーツドリンクの宣伝に見える。)

関。何か、舞台裏を見ているようで泣き出す子供が出てきそう。

永田。ああ、容器は工夫が必要だな。デザインを変えたら、結構かっこよくなりそう。

伊勢。そうね。何となく武骨な電池型とか、そんなのかな。

奈良。そのくらいなら何とかするよ。アイデアが出た分、次々に試してみよう。

芦屋。こんにちは。また、たいそうなロボットを引き連れてきました。

奈良。虎之介。突然現れて。モノリスとピナクスを見に来たのか。

芦屋。その通りです。駆けつけました。モノリスとピナクスがその自動人形の名前ですか。

 (虎之介は志摩と鈴鹿と話し始めた。要点を説明してもらっているようだ。)

奈良。結局、全員集合になった。

永田。私は初めてです。

奈良。そうだった。連絡するので、社長とご面会願えますか。

永田。セッティングしていただけるのなら光栄です。

 (社長秘書室に連絡したら、社長も自動人形を見に来るから、そのときにあいさつしたいと。永田も了承した。
 で、気がついたら、前回と同じ。オタクみたいなのがぞろぞろと集まってくる。今回のターゲットは、もちろんはでな格好したモノリスとピナクス。鈴鹿が自慢して本体を出させたりするものだから、さらに人が集まってきた。驚いたことに、モノリスとピナクスがありがちなポーズを取っている。仕込まれているのだ。よほど日本のアニメを研究したに違いない。
 結局、またもや午後5時から交歓会をすることに。)

車両航空部長(通信機)。5時には外は暗いし、格納庫でデモしましょう。ちょうど11月の展示会の座席が残っています。

 (要は、年末年始の社の展示会に設置し直すのが面倒だった、ということらしい。
 モノリスとピナクスの紹介で終わりそうだからと、簡単にOKしてしまった。各メンバーに確認。伊勢はなにやら部長に注文していたが、それ以上は動く気配がない。普通に紹介できそうだ。)

 (まずは、車両航空部長の部屋に表敬に行く。付き合ってくれるのは、車両と航空機のそれぞれの設計主任。適宜、他の関係する技術者も呼ぶとのこと。でも、結局、社長も部長もいっしょに回ることに。
 日が暮れると飛行物体の目視は困難になるので、滑走路わきの池のあるところに移動した。白鳥型が飛び立つのを見るためだ。円盤型などは滑走路の表面を焦がすおそれがあるので、進入路の片隅を使う。
 まずは、懸案のロケット人間だ。)

奈良。それではロケット人間から試してみます。モノリス、ピナクス。発進せよ。

 (ロボ型のモノリスとピナクスは自分のトラックに戻る。ほんの数秒して発射台のようなものが現れ、轟音とともにロケットがほぼ垂直に発進した。)

全員。おーっ。

 (ロケットといっても普通の小型のジェット機。長さは3mくらいしかない。風防が目立たないので、羽根のあるロケットに見えるのだ。ジェットエンジンは小さいとはいえ、消音の工夫などまるでしていないから、結構うるさい。デザインは、ロボ型と同様、白地に2色のストライプで飾っている。
 2台で空中でちょっとデモしてから、近くの舗装した部分に垂直に着陸。ここから変形だ。ロケットのお腹の部分が分かれて、人形が姿を現す。身長は180cmくらい。なぜか軍服風の衣裳を着ている。ロケットの本体は卵の殻のように見えたかと思うと、巧妙にたたまれて行く。)

全員。おおおおーっ。

 (結局残ったのは、背嚢を担いだ兵士のような格好の2体のヒト型ロボット。ヘルメットしてサングラスしているから、表情はほとんど見えない。うむ、ロケット人間の雰囲気を出しているぞ。それだけ。)

伊勢。つまんない。

鈴鹿。見飽きたらおしまい。

志摩。これだけ工夫しているのに、瞬間芸。

永田。結局やりたかったのはこれだけなのか。

関。これをまじめに作ったのか。おそろしい執念。

芦屋。一応、兵士の格好になっているのが救い。空挺部隊のように見えなくもない。

 (小型の自動小銃と軍用拳銃、擲弾筒(てきだんとう)に擲弾、その他、一応普通に装備している。)

永田。装備を見せていただけますか。

奈良。モノリス、永田さんに装備を見せてあげなさい。

 (モノリスは永田に近づいて、武器を見せる。)

永田。おもちゃ。全部。

 (関も確認する。)

関。発射能力まるでなし。音すらしない。ただのプラスチックのかたまり。

モ。本物も装備できますが、情報収集部では過剰装備とお聞きしましたので。

伊勢。で、わざわざおもちゃを作ったわけ。

奈良。もう一度飛んで、格納までデモして欲しい。

 (今度はロケットの殻が展開、人形を包む。よく見たら、人形の方も若干変形している。隙間をなるべく作らないためだ。垂直に発進はできた。立派。その辺りを飛んで、やはり垂直に降下。トラックから出ていた発射台みたいなのがロケットをつかみ、収納。かなりのアクロバットだ。でも、それだけ。ロボ型のモノリスたちが出てきた。)

伊勢。おしまい。よくできている。

芦屋。これに意味を見いだせというのか。

奈良。懸賞金がかかっている。

 (格納庫の展示会でロケット発射はできないので、あとで撮影することにした。)

奈良。次はUFO。

 (トラックにロボ型が消えたかと思うと、ほんの5秒後。屋根から空飛ぶ円盤が発進。直径1.2mほどの小型だ。)

全員。おーっ。

 (進行波ジェットなので、ゴーという風音しかしない。関は知っていたが、永田は初めてなので、結構驚いている。
 円盤は、いかにもそれらしく、編隊飛行したり、わざわざジグザグに移動したり、ホップしたりしている。そして、例の、いかにも機械の足と腕が4本ずつ出てきた。)

全員。おおおおーっ。

清水。何度見ても気味悪そう。タコのお化け。

永田。もしかして、これが救護用のつもり。

関。ショックで意識を失う人、続出の予感。

奈良。アン、ちょっと行って、持ち上げてもらいなさい。

アン。いやです。

清水。ロボットまでいやと言っている。

奈良。しようがないな。じゃ私で。

 (一応、けが人1人を抱きかかえることはできるようだ。あまり抱かれ心地は良くない。そして、4本の足で歩き出した。)

清水。おえーっ。見ている方が気持ち悪くなる。

鈴鹿。何とか担架にはなるみたい。

志摩。抱きかかえたまま飛ぶことはできないんだ。

伊勢。そんなのとても無理。20kgくらいかな。空中で持てるのは。

永田。少量の救援物資を運ぶのみか。

関。そして、歩いて引き上げてくる。

伊勢。モノリス、奈良さんを抱えたまま全速力で走ってみて。

 (時速20kmくらいは出ている。格好さえ目をつぶれば、けが人の運搬には使えそうだ。)

伊勢。分かった。ロボ型に戻りなさい。

 (モノリスは私をていねいに地面に置くと、安全な場所に移動し、垂直に発進した。手足を収納し、トラックに着陸。ロボ型が出てきた。)

奈良。ううむ。何と言うか。

伊勢。アトラクション。

奈良。それでは、最後の空中型、白鳥型。

 (ロボ型がトラックに入って、これも5秒ほど。大型の機械的な姿を強調した白鳥が屋根から飛び出した。)

全員。おーっ。すばらしい。

 (羽根の幅は3m近くある。グライダーなので、羽根は方向を変えるときにうごくのみ。けっこうさまになっている。目の前の池に着水。なかなかうまい。羽根をたたんで、ゆうゆうと泳ぐ。)

清水。今度はなんとか見られます。

 (救護用に4本のロボット腕が出てくる。ちょっと気味悪いが、どうしようもない。飛び上がるのもうまくて、ほんの1mほどの助走で飛び立ってしまった。地面にも降りられることを確認して、デモ終了。トラックには屋根に降りたって、器用に中に入る。)

奈良。次は恐竜型。

 (恐竜型が出てきた。けっこうでかい。頭の先からしっぽの先まで3mくらいはある。腕はやや長めだが不自然ではない。走らせてみる。ダチョウが首を前に伸ばして走っている感じ。けっこう速い。)

永田。時速60kmほどはあるか。

関。ヒトより速い。

 (モノリスはジャンプして、3mはあるトラックの屋根に器用に駆け登る。わざとらしくギャーと鳴いたりしている。)

鈴鹿。うわあ、たしかに、恐竜は地球最強の動物ってことが分かる。

芦屋。さらに、泳いで潜れるんだろう?。

鈴鹿。うん。深海まで。

志摩。よかったね。絶滅していて。

 (モノリス恐竜メカは池を泳いでくれた。これもけっこう速い。ううむ、恐るべし、恐竜。ただ、メカ恐竜で色は白を基調とした例の色のストライプなので、不気味な恐さはかなり薄らいでいる。)

奈良。最後。ウマ型。

 (モノリスたちはロボ型に戻る。トラックからメカであることを強調したウマ型が出てきた。そして、ロボ型が器用に飛び乗る。楯と砲を構えて、格好付けている。)

志摩。格好は一人前。

清水。さまになっている。ちょっとウマが小さいけど。

奈良。ポニーだな。

伊勢。そのかわり、頑丈に見える。

奈良。走ってみてくれ。

 (見かけより速くて、60km/hほど出ている。力もありそうだ。消火剤の入ったタンクを背負わせで、同様に走らせる。それでも速い。放水もさせてみた。うん、ちょっとかっこいい。受けたのが分かったのか、馬上でポーズ取っている。ついでに、メカウマも自慢げだ。)

伊勢。ウマはまともみたい。

奈良。そのようだな。モノリス、今度はトラックで、その池を横断してくれるか。

 (モノリスはトラックに入り、自分で動く。池に入り、そのまま進んで向こう岸からでてくる。ちゃんと水陸両用車している。)

部長。では、水槽に移動しましょうか。

 (我々はモノリスとピナクスに乗る。社長と部長も乗った。)

部長。乗り心地は良い。クルマとして良くできている。

奈良。ええ。実用的と思います。

伊勢。周辺装置を合せると、軽く100億円を超すわよ。

部長。実際的とは言えないか。惜しいな。

 (水槽では、恐竜型、白鳥型、ウマ型、ロボ型を試した。器用に潜るが、やはり恐竜型の速度が群を抜いている。)

社長。いやあ、いいものを見せていただきました。

伊勢。役立つかどうかは別として、メカとしては面白い。

社長。そうです。やはり動物型が良くできている。生物のデザインには進化の重みがある。

 (永田と関が話し合っている。いまのうちに見ておきたいものがあるかどうか、確認しているのだ。どうやら残りは資料で十分と判断したらしい。帰ると言い出した。あわただしいやつら。)

関。虎之介さん、会えてうれしかった。

芦屋。うん。またすぐに会えるさ。

 (今回もちょっと肩を抱いただけ。そのあたりを二人きりで15分ほど散歩して戻ってきた。永田と関は列車で帰るらしい。タクシーを呼んで、早々に行ってしまった。)

鈴鹿。虎之介もいっしょに東京まで行ったらよかったのに。

芦屋。まあな。ただ、交歓会は見たかったから。

志摩。めったに見られないからね。

鈴鹿。何を見るのよ。

芦屋。ID社の観客の様子。

 (交歓会まで一時間ほどある。伊勢に呼ばれた。打ち合わせとのこと。)

伊勢。デモ用のプログラムがいくつか仕込まれている。選んでくれる?。

奈良。そういうことか。

 (モノリスのトラックに入って、本人たちも交えて協議する。部長とは通信機で連絡して、展示会の内容の追加修正を求めた。)