ID物語

書きなぐりSF小説

第36話。雨の日に。10. 鈴鹿と探索

2011-01-31 | Weblog
 (トカマク基地、クレーターの地下。整備場上部の警備本部にて。)

芦屋。どうだった?、土本は。使えそうかな。

清水。まだ分からない。感じとしては実直で、すぐ手を出しそう。ケイマみたいな政治的な正義感というより、もっと庶民的なレベルの正義感みたいだけど。

芦屋。じゃあ、普通だな。

清水。おじいさんの件で、行政がしっかりしないといけない、みたいな思いはある。

芦屋。だから、この大学に。周到なこと。

清水。私たちに対して警戒していたのも、そのあたりからかな。自分は、お上に上り詰めないといけないと思っている。

芦屋。いいじゃないか。日本を背負って立つつもりなんだろう?。貴重な人材。大切にしなきゃ。

鈴鹿。虎之介、あんた、見かけによらず、いろいろ考えてるんだ。

芦屋。どういう印象だよっ。おれは突撃バカか。

鈴鹿。なれるって、幸せよ。

芦屋。ほめていると受け取るぞ。

鈴鹿。そのとおりだから、それでいい。ん、あれ、土本さんかな。イチとレイの探索に付き合ってる。

芦屋。このところのパターンだ。自動人形に気に入られている。

鈴鹿。何かあったのかな。

清水。水本さんたちより、こちらのことを理解していると自動人形が評価したみたい。

鈴鹿。イチが何が起こるのか興味を持ったんだ。私も行ってみよーっと。

 (鈴鹿はイチたちの探索に合流。)

イチ。鈴鹿さんだ。これでもって、百人力。

鈴鹿。わたしゃ、豪傑か。

レイ。ある意味そうよ。虎之介さんと同じ実力を持ってて、隠密作戦もできる。

鈴鹿。私の仕事だからよ。特別なことではない。

土本。そんなのできるって、まれなケースと思う。誇っていいわよ。

イチ。二人とも鍛えている感じだ。スタイルがいい。

鈴鹿。うまくいう。でも、これ、仕事用。外見が目的じゃない。土本さんも仕事上必要だから鍛えている感じ。

土本。うん。観測とか実験は、要は体力よ。怠けると、すぐに筋肉が落ちる。

鈴鹿。意見が合いそう。

土本。ちょっと走ってみるか。

鈴鹿。うん。

 (2人と2機でジョギングしながら探索。地上に出てからも走る。クレータ近くで休憩。)

土本。あなた、タフ。

鈴鹿。あなたこそ、持久力ありそう。

土本。ええ。何としてでも生き残るのよ。あら、自動人形、仲がいい。

 (イチとレイは、座って寄り添っている。)

土本。自動人形。運命を背負って作られ、維持されている機械。何か感じるものがあるのかな。

鈴鹿。感情らしきものはあるらしい。奈良さんの説だけど。

土本。そう思わせるに十分な仕草。

鈴鹿。そうでしょう?。個性があって、面白い。イチの性格は虎之介に似せたとのうわさ。

土本。あはは。勇敢なんでしょうけど、でも、普段は火本の感じ。レイを立てるので精一杯。

鈴鹿。うん。そうとも思える。

土本。レイは鈴鹿さんかな。突っ込み役。

鈴鹿。志摩説もある。

土本。志摩さんを女性にして、おしゃべりにしたら、か。意地悪婆さんになりそう。

鈴鹿。あはははー。ぴったり。うはは、あまりに合っていて、涙が出そう。

土本。その様子じゃ、さんざん振り回されている感じ。

鈴鹿。私を振り回すなんて、ただ者じゃないわよ。志摩だから許せるって感じはある。虎之介ならぶん殴ってる。

土本。志摩さんか…。いずれ、お付き合いを。

鈴鹿。私が合わなかったら、志摩を付ける、って部長が言ってたから、限(きり)を見て交代しましょう。亜有が、こちらにのめり込んだのも、多分、志摩のせい。

土本。毒のある男か。手は出さなそうだし、練習としてはいいかも。

鈴鹿。うん。手を出さないのは保証する。この界隈の男、まじめよ。触っても来ない。

土本。居心地がいいのは、そのせいか。自動人形は。

鈴鹿。動物に合せているみたいだから、普段は性別とか気にしないんじゃないかな。

土本。奈良部長の調整だからか。レイ、脅威を感じる?。

レイ。脅威は検出しません。複数の退避路確認。安全です。

イチ。先に行こうよ。

土本。そうしよう。鈴鹿さん、いい?。

鈴鹿。行こう。

 (停めてあったモグに入る。)

土本。モグを連れてきたんだ。

鈴鹿。こちらの方が人数が多くなった。旧車両と交換したのよ。モグ2号が来るまで。

土本。五郎と六郎もいる。海の中では、六郎が便利そう。

鈴鹿。六郎はモグ2号に入れた方が良いかも。

土本。考えないといけないんだった。

鈴鹿。ロボット腕はあるの?。

土本。先端部分にも本体部分にもある。先端部には6本もあるって。4本で自分を支えて、あと2本で作業。

鈴鹿。じゃあ、モグみたいに作業のための他動人形は必須ではないんだ。

土本。モグも他動人形だから、普通は自動人形を乗せる。たとえば、イチだったら六郎の代わりも五郎の代わりもできる。

鈴鹿。何か発見したら、シリーズHを進ませればいいか。空を飛ぶのはオリヅル号にさせたらいいし。

土本。六郎はよくできている。六郎2号でもいいくらい。

鈴鹿。メスのメカカメ。他に何か考えたの?。

土本。どれもいまいち。人魚、イルカ、海蛇、アメフラシ、タコにクラゲ。

鈴鹿。全部見てみたい。人魚って、下半身が魚の姿のアンドロイド。

土本。雰囲気だけ。普通の小型アンドロイド。ブーツにヒレをつける。

鈴鹿。小人にするのか。面白そう。人魚って言い張れば、男性に受けそうだし。

土本。相棒にイルカが欲しいけど、地上では役立たず。

鈴鹿。小型のメカイルカなんでしょう?。いろいろ工夫できるわよ。

土本。オリヅル号の方もアンドロイドにしようか。

鈴鹿。鳥人。

土本。セイレーンとマーメイド。

鈴鹿。もう1機欲しい。

土本。3人目の女か、男1人か、動物か。

鈴鹿。勝手に羽鳥をアンドロイド化しちゃおう。やっぱりカメとか。

土本。化け物シリーズ。五郎も以前はそうだったとか。

鈴鹿。四郎という他動人形がいて、召還した悪魔役。五郎はゴーレム役。今は2機とも高校生風だけど。カラス型の三郎とともに、怪奇シリーズだったのよ。

土本。じゃあ、今度はカッパ。

鈴鹿。もう寝ようよ。考えすぎると、迷う。

土本。そうしよう。部屋に戻る。モグ、おやすみ。

モグ。おやすみなさい。

第36話。雨の日に。9. 装備

2011-01-30 | Weblog
 (その夜、土本の宿泊室に鈴鹿がやってきた。)

鈴鹿。今晩は。入っていい?。

土本。ちょっと待って。開けるから。

鈴鹿。どう?、もう落ち着いた?。

土本。東京には3月までいた。帰ってきた感じ。

鈴鹿。そうなのか。

土本。そちらはID社内に住んでいたんだって?。

鈴鹿。2年とちょっとになる。

土本。お茶入れるよ。

鈴鹿。簡単でいい。

土本。甘いミルクティーでいいかな。

鈴鹿。そうして。

土本。ハイどうぞ。打ち合わせかな。

鈴鹿。うん。部長から聞いた。土本さんの望む範囲で、こちらの作戦に参加させろと。

土本。企業の調査。

鈴鹿。営業のついでの場合と、政府などからの依頼のことがある。

土本。じゃあ、ID社の商品知識があった方がいいな。

鈴鹿。カタログ置いておく。目を通して。

土本。端末からでも検索できるんでしょ?。

鈴鹿。内容は同じ。

土本。冊子体は便利だから、よく読んでおく。

鈴鹿。あと、今から亜有がアナライザーとLS砲を持ってくる。その通信機といっしょに、いつでも携帯しておいて欲しい。

土本。どんな形かな。

鈴鹿。私の使っているのは、これ。多目的分析機。改造されているけど、基本的には市販されているものと同じ。

土本。ここから覗くのか。

鈴鹿。うん。目標が分析できる。

土本。こちらは高級な懐中電灯だ。

鈴鹿。かなり強力な光と音が出る。

土本。へーえ。面白い。

鈴鹿。実用よ。調査時に使う。あとは手袋くらいかな。私の持っているのは。

土本。分かった。使い方を調べておく。

鈴鹿。いつ呼び出されるか分からない。調査も空振りが多い。

土本。相手がすごすごと引き下がってくれればいいんだけど。

鈴鹿。たいてい反撃してくるわよ。逃げ道を指示するから、しっかり逃げて。自動人形もあてになる。

土本。気をつける。

 (しばらくして、亜有がアナライザーとLS砲の入った箱を持ってきた。亜有の使っているホルダと同じ形のものを土本にも付ける。)

清水。あと、私たちの装備には時空間計がある。

土本。その腕時計。

清水。ええ。時刻は自動調整。位置と方向も分かる。

土本。GPSか。

清水。GPSは使ってない。自前のシステムを使っている。

土本。大変な会社。持ってた方がいいのかな。

清水。タフだから、重宝する。注文するから、デザインを選んでよ。

土本。うん。全部、貸し出し。

鈴鹿。買うと大変な額になる。貸与よ。モニタ制度があって、それを使う。

土本。じゃあ、何か貢献しないといけない。

鈴鹿。レポートが必要。出さないと、没収。

土本。書く。

清水。あと、ID社のモニターになって欲しい。任意だけど、ID社の身分証が手に入って、いろんな情報にアクセスできる。

土本。そのかわり、社員のようなものだから、守秘義務とか発生。

清水。当然よ。でも、常識の範囲。今まで訴訟沙汰になった例はない。

土本。なってみる。

鈴鹿。じゃあ、今日はここまで。何か疑問があったら、私でも虎之介でも亜有にでも好きに聞いてください。

土本。調査対象のリストってあるの?。

清水。あるわよ。優先順も付いて。でも、指令がなければ、動けない。勝手な動きはご法度。

鈴鹿。あなたは情報収集部員じゃないから、見せられない。その都度、教える。

土本。まだ見習いか。

清水。その代わり、いつでも撤退できる。

土本。何かしておくことある?。

鈴鹿。さっき言った商品カタログに目を通すことと、我が社の危機管理のガイドラインを見ておいてください。いざというとき、役立つ。

土本。すぐやる。

鈴鹿。明日どうしようかな。営業に付き合う?、それともID社東京を見学するか。

土本。見学させてくれるのなら、見学したい。

鈴鹿。じゃあ、明日朝、8時半に来るよ。いっしょに行こう。

土本。うん。

第36話。雨の日に。8. 第二機動隊本部改

2011-01-29 | Weblog
 (その日の夕方。トカマク基地の食堂にて。)

芦屋、羽鳥、小浜。うっ、うわー。なんで鈴鹿がここにいるー。

鈴鹿。なによ、合唱して。派遣された。

芦屋。トカマク基地に。

鈴鹿。ええ。土本さんと行動を共にせよと。

羽鳥。じゃあ、泊まるのか。

鈴鹿。当然。

小浜。いつまで。

鈴鹿。あんたたち、さっきから聞いていたら、私を化け物みたいに。

清水。ある意味、化け物よ。

芦屋。これで、戦力は男女で均衡。

羽鳥。いや、自動人形の分だけ、あっちが優位。

鈴鹿。何だ、そんなことか。どちらも一枚岩じゃないじゃない。勝手に組んでみてもしかたがないわ。

小浜。そりゃそうだが、何とも迫力。

鈴鹿。ええと、水本さんと土本さんと亜有と私。

土本。それと自動人形。

芦屋。超能力者と魔法使いと戦士2人にロボット軍団。

火本。ぼくはどっち。

水本。こちらの陣営の一部らしい。

火本。愉快な小間使い。

水本。自分で言わなくても。

鈴鹿。とりあえず、連絡室みたいなのが欲しい。

清水。今は整備場にある警備本部室を使っている。

鈴鹿。そこに行くか。

芦屋。狭くなる。

羽鳥。おれが使っている小会議室を区切ればいい。持て余していたところだ。

清水。いいの?。いっしょで。

羽鳥。ID社でもそうしていたんだろう?。似たような部署だ。連絡を密にしたい。

清水。じゃあ、甘える。パーティションを用意させる。

羽鳥。よろしく。

鈴鹿。その制服、動きやすそう。

羽鳥。これか?。いいぞ。気に入ってる。派手なのが難点だけど。

鈴鹿。亜有はお付き合いか。

清水。そんなところ。実用性もあるし。理由は半々。

鈴鹿。私も着てみる。面白そう。

土本。水本も着たら?。

水本。だから、嫌だって。

火本。男性用ってあるの?。

清水。もちろん。ちょっと軍服っぽいけど、シュールな感じは同じ。

火本。赤っぽい銀とか。

清水。創作になる。作らせてみるか。

水本。じゃあ、私も、その創作で。青っぽいのがいい。

土本。あんた、さっき嫌って言った。

水本。気が変わったのよ。その後。

土本。素早い。

鈴鹿。虎之介っ、あんたもコスプレしなさい。

芦屋。来たっ。ラットルズのか。

鈴鹿。とりあえず、着てみてよ。

芦屋。付き合うぜ。

鈴鹿。あんた、いい男。

芦屋。見直したか。

鈴鹿。うん。

 (小浜さんも付き合うというので、新調する。)

第36話。雨の日に。7. トカマク基地地上部にて

2011-01-28 | Weblog
 (亜有に連絡して、地上部分の計画の図をモグに送ってもらった。海岸に面した部分に、電力公園と、回廊と座席が来る。というのも、中央のクレーターから上がってくるエクササイザーは、海に向かって体操するからだ。公園と回廊には無料で入れるが、ゲートはある。
 クレーターの左右には、短い滑走路が付く。その下に駐車場。その周りが牧場で、最外周はトースター号などのテスト用の、半地下の周回路になっている。
 つまり、周回路に隔てられて、回廊からは牧場に入りにくくなっている。滑走路の延長部分は危険なので、周回路は地下に入っている。
 今、急ピッチで整備されているのは、駐車場=滑走路と、公園=回廊部分だ。地下波止場共々、9月始めに完成予定。周回路と牧場が利用できるのは、年明けになる。
 トカマク基地に着いた。所長に挨拶して、土本と私とアンとタロと六郎は牧場予定地に出る。五郎は駐車場のモグでお留守番。)

土本。広いし、なだらかな起伏がある。

奈良。いい眺めだ。

アン。まだ整備されてない。

タロ。完成したところを頭に描くんだ。

アン。努力してみる。

土本。うふふ。アンとタロが漫才している。兄弟なの?。

奈良。タロとジロが二卵性双生児の兄弟で、クロがペット。アンはご近所さんの設定。元はボストン郊外の、良家の子女たち。

土本。タロもジロも、アンとお近づきになりたい。

奈良。そう。でも、アンはどちらともお友達になりたい。どちらかに決めるなんて、できない。

土本。面白そうなシチュエーション。コメディーか何か。

奈良。なんだろうな。そんな設定で調整されたようだ。

土本。環境が人を育てる部分があるというけど、ロボットもそんな感じ。

奈良。ああ、タロもアンもジロも、とっても人がいい。お上品な感じがよく出ている。A国人の陽気さや冗談を備えている。新しいことをものともしない。A国のよいところを結集している感じ。

土本。クロは最初の自動人形、アンは最初のアンドロイド。

奈良。そのためかどうか、2機とも好奇心旺盛。

土本。私もアンみたいに愛されたい。

奈良。ん、何か言ったか。

土本。いえ、サイボーグ研の計画の参考になります。

奈良。今はハードを作るだけで手一杯か。

土本。ええ。火本くんたち、作るのはいいけど、その先をあまり考えてないみたい。

奈良。作ってみないと分からない部分が多いって理屈だろう。

土本。ロボットにはその側面がある。

奈良。トースター号とオリヅル号も汎用だ。こちらでも1セット用意しておこうかな。

土本。必要な改造をして。

奈良。そうなる。通信機やモニタを付けるだけだけど。

土本。聞いていいかな。

奈良。恐い話でなければ。

土本。恐いかも。

奈良。聞いてみないと分からないか。

土本。うん。今の仕事を選んだ理由が聞きたい。

奈良。私が。

土本。なぜって聞くんでしょ?。

奈良。ああ。

土本。興味がある。私の将来の仕事の参考にしたい。

奈良。同じ生物学者だから。

土本。そうかも。

奈良。水産は大切だ。農業と同じ。政策が失敗したら、社会不安を起こしかねない。

土本。だから、協力できるところは協力する。

奈良。たまたま、私には必要な知識が揃っていた。そして、ID社のとある幹部と知り合いだった。

土本。だから、その幹部が起用を思いついたんだ。

奈良。そんなところだろう。くだらない理由だ。

土本。くだらなくない。あの癖のある部下を率いている部長。虎之介はもちろん、天才の亜有さんも尊敬している。アンたちは部長と行動を共にできることを喜んでいる。イチたちも。

奈良。ああ、よい部下に恵まれた。特に、伊勢はよかった。よく来てくれた。

土本。ほとんど使い道のなかった自動人形を生かし、行くあてのなかった伊勢さんが、ここでは大活躍。

奈良。伊勢は音楽でも食べて行けるほど多能だ。

土本。逆に、伊勢さんが、よくこんなところに部長は止まっているといぶかっていた。

奈良。エリートコースではないからな。新設の部署だから。志摩たちも、結果を出している今のうちに、どこかに変わった方がいい。

土本。私も仲間になりたい。

奈良。もう、ほぼ仲間だろう。

土本。亜有さんは、どうやって仲間になったの?。

奈良。私たちと付き合っているうちに、才覚を現し、たまたま本部航空部門長の目に留まったのだ。

土本。しばらくいっしょに行動したい。

奈良。困ったな。トカマク基地には虎之介しかいない。亜有を護るだけで手一杯だろう。小浜さんを頼るわけにも行かないし…。鈴鹿か志摩を派遣するか。

土本。私が東京に行く。

奈良。ええと、モグ2号がもうすぐ来るはずだ。君は海の知識が豊富だった。勘も働くだろうし。

土本。乗せてもらえるの?。

奈良。調査用潜水艇をサイボーグ研で作るのではなかったのか。

土本。よく覚えてらっしゃる。そうです。モグ2号は、何としてでも知りたい。

奈良。どちらがいいかな。最初は鈴鹿で行くか。女同士で情報交換がうまく行きそうだ。合わなきゃ交代させればいいし。

土本。よろしいんですか?。鈴鹿さんは奈良さんのボディーガードとお聞きしました。

アン。我らで充分。

タロ。あてにしてくれ。

奈良。無理するな。

土本。うふふ。A31がやる気満々。頼ってあげたら?。

 (というわけで、鈴鹿をしばらくトカマク基地に常駐させることにした。)

第36話。雨の日に。6. 心揺れる土本

2011-01-27 | Weblog
 (メンバー全員で食堂に移動する。羽鳥たちはときどき声をかけられるので、会釈したりする。羽鳥と小浜さんは自分で払うと言って聞かないので、そうする。)

土本。にぎやかになった。

羽鳥。メニューも増えた。

土本。うん。うれしい。

清水。そのうち、いろんなサービスが始まりそう。

土本。今、ここに何人くらい居るの?。

海原。100人ほどじゃ。

土本。ホテル部分は。

清水。部屋数だけだと、ツインで100室分ある。使っているのはごく一部。

土本。それじゃあ、200人。

清水。無理したら、その倍はいけるし、増設も可能。

海原。何か考えておるのか。ヘルスセンターみたいなのを開設するとか。

土本。なにそれ、ヘルスセンターって。スポーツジムのこと?。

清水。ええと、お風呂やさんの大きいやつ。

土本。親子連れで休憩できる。

清水。そんなの。

土本。もっと学術に近い発想はできませんか。テーマパークとか。

海原。トカマク基地は商標だろう。サイボーグ研では商売にならぬ。

土本。微妙にひなびた科学館みたいになるか。

海原。具体例をあげるでないぞ。

羽鳥。大浴場の方が実現性はありそうだ。

芦屋。原子力が余ってるのか。

火本。うん。商売できるのかな。

海原。やり様じゃの。職員向けのサービスを一般開放とか。

清水。近藤さんはどうなったの?。

羽鳥。誰だそれ。

海原。公園部分の企画担当だ。電力公園以外は、のどかな牧場にすると言っておった。

羽鳥。やっぱり、動物だな。客寄せなら。機械もので成功しているのは、鉄道とか、筋金入りのマニアがいる分野だろう。

清水。奈良部長が喜びそうな意見。

羽鳥。羊を飼うとか。

清水。涙流して、感激しそう。その予定はないんだけど、奈良部長の夢みたい。

土本。実現してあげようよ。規模は問わず。

海原。あまり贅沢はできんのう。

清水。動物なら何でもいいのよ。家畜がうれしいらしいけど、小鳥でも魚でもいい。

海原。牧羊犬ロボットなら構想中じゃ。

火本。そちらでがんばるか。

土本。整備するだけで、鳥や小動物が来るかも。

海原。管理は必要じゃ。土本、考えてくれるか。

土本。やってみます。

 (慌て者の土本は、電車を乗り継いで、オフィスにやってきた。目的はトカマク基地地上部の動物相管理だが、要するに私と話をしたかったらしい。なぜかは分からぬが。)

伊勢。そうか。地上部分をどうするかで、なかなか折り合いがつかないと。

土本。ええ。広大な土地。見回りのロボットはいるけど、あとは飛んで来る鳥と、やってきた小動物。

奈良。下手すると、カラスと野良猫の楽園になりそうだ。

伊勢。猿とかは来ないだろうけど。

奈良。森仕立てにはしないんだろう?。牧場風のはずだが。

伊勢。林は提案した。

奈良。感じは分かる。

土本。お二人って、仲がいい。

奈良。ん、何の話だ。

伊勢。おほほ。生物学の話は合うわよ。それだけ。んー、そうか。それじゃあ、奈良さん、A31の誰かを連れて、トカマク基地の地上部の視察に行ったら?。

奈良。なんでそうなる。

伊勢。いいからいいから。クロとアンがいいかな。

アン。タロと行く。

伊勢。じゃあそうしましょう。

奈良。じゃあって…。

アン。行って、お願い。

奈良。きさま、いつどこでそのような仕草を学んだ。分かったから、普通に戻れ。

アン。はい。モグでしゅっぱーつ。

奈良。なんでモグ…。

土本。行きましょう、私が運転したい。

 (五郎と六郎もいっしょだ。助手席にはタロが座り、モグの機能について、土本の質問に答えて行く。)

アン。久しぶりだね、いっしょに乗るの。

奈良。いつもそばにいるから、気付かなかった。

アン。いいクルマ。楽しい。

 (何だか知らぬが、アンまでウキウキしている。)

第36話。雨の日に。5. エクササイザー、地上へ

2011-01-26 | Weblog
 (エクササイザー1号の補強が終わり、地上での動きを試すことにした。晴れの日の午前。)

羽鳥。大江山教授が来ている。あっちのカメラはなんだ?。

土本。取材よ。画像を公開して以来、張り付いてエクササイザーの製作過程を記録している。

羽鳥。ドキュメンタリーか。面白いのかな。

土本。だって、巨大ロボを作るのよ。楽しいじゃない。

羽鳥。波瀾万丈はなさそうだ。

土本。そんなに簡単に作れないわよ。火本たちが天才なのと、技術者が優秀だからできる技。

羽鳥。じゃあ、ロケットが初めて大気圏を突き抜けたくらいのインパクトはあるんだ。

土本。もちろん。しっかり警護してください。

羽鳥。納得した。

 (エクササイザーが迫り上がってきた。膝を抱えた格好をしている。脇に火本がいて、携帯型の操作卓を持っている。駅弁売りみたいな格好だ。降りて、海原所長の近くに移動。)

火本。動かします。

海原。やってくれ。

火本。エンジン始動。

 (どどどっと、音がして、最初だけ噴煙が上がる。浄化装置付きのガソリンエンジンなので、あとはほぼ透明な排気。)

火本。立て、エクササイザー。

 (操作卓から指令する。前回と同じ。すっくと立って、腕を上げ、ポーズ。)

土本。いいのかな、ちょっと恥ずかしい気がする。

海原。それくらいがいいのじゃ。

火本。ウォーミングアップ。

 (各関節をゆっくりと動かす。軽く体操しているように見える。)

土本。緩慢、でも、迫力ー。作ってみるもんだ。

海原。うほほ、そうじゃろう。この一瞬が楽しみなのじゃ。

火本。歩行のポーズ。

 (リラックスして歩いている感じを再現している。うまくレールを使っている。)

火本。クロスカントリー。

 (すり足でかけて行く感じ。)

土本。車輪付けるなら、こんな格好しないでも進めるのに。

海原。格好は大切じゃぞ。今日はここまでかな。

火本。あとは技術の方がチェックします。

 (交代して、担当者が細部のチェックに入る。最大加速度とか、物理的干渉などを調べるのだ。大江山教授が声をかける。)

大江山。ほぼ完成だな。

火本。ええ。もう大丈夫でしょう。データを取って、動かせる限界を探ります。

大江山。ガソリンエンジンか。逆さまにしても大丈夫なのか?。

火本。一瞬しかだめでしょう。あとで聞いておきます。

大江山。発表できるな。

火本。技術のOKさえ出れば。

 (普通に動かす分にはかまわない、ということで、ホームページで1号機の完成を発表した。
 記念撮影するというので、エクササイザーの前に関係者が並ぶ。火本のアイデアで、イチとレイを飛ばし、エクササイザーの両肩に止まらせる。頭部は、イチとレイの身長より高く、なんとなく釣り合ってる。)

土本。いいな、イチとレイ。私も、あんな風に、ロボットに乗りたい。

海原。今は危険だからできぬ。できるように努力しよう。

 (この映像は、お昼の全国ニュースで取り上げられた。反響はすさまじく、数日は電話などの問い合わせの対応に追われるのである。
 もちろん、エクササイザーを見せろとの要望が多いので、正午にポーズして、2~3の動作を毎日することにした。基地の海岸側は県所有の道があって、さらに短い砂浜になっているのだが、その県道には観客がひっきりなし。公園は完成しておらず、事故が恐いので、入れることはできない。だから、せっかく来てくれても、フェンス越しに見ることになる。これが精一杯だ。しばらく、そんな感じが続いた。
 数日後の所長室にて。)

火本。どんな反響があるんですか。

海原。資料は渡すから、あとで、まとめてくれい。おおざっぱには、よくやったという激励と、何という無駄なことを税金で、という意見が多い。次には、こんなポーズさせてくれ、と言う希望じゃな。

水本。その苦情には、どう答えているのですか?。

海原。むろん、作ってみなければ、無駄かどうか分からぬじゃろ、と反撃しておいて、いろいろ理屈をこねる。

土本。実際の所は、所長の趣味。

海原。多くの人の夢じゃろうが。お主、肩に乗りたいとか言ってなかったか。

土本。乗りたい。

海原。じゃあ、同士じゃ。わしも…。

土本。私や博士のことはいいですから、サイボーグ研シンパの議員を説得しないといけない。

火本。直接には、商売になる。次に派生技術が獲得できる。最後に、夢をはぐくむ。

土本。あんた、楽観的。さっき、羽鳥さんと亜有が設計図を詳細に見ていたわよ。

水本。軍事的価値を探ったんだ。

土本。その手のアニメはわんさかある。

海原。奈良部長に連絡してみる。清水くんたちの解析を教えてもらえるかじゃな。

 (そんなの、国防省に聞いたらいいじゃないか、という反撃はぐっと我慢し、亜有に協力するよう要請した。まじめな亜有、虎之介と小浜さんを連れて所長室に行く。羽鳥を誘ったら、来てくれた。)

清水。結論からいって、エクササイザーは軍事的にはおもちゃです。一瞬、威嚇するくらい。

小浜。いい的だ。本体は発熱しているから、外すわけがない。

海原。ミサイルをじゃな。

羽鳥。他、いろいろ。それにしても、何てくだらない議論を。専門家に任せた方がいいです。軍の該当部署に連絡しましょうか。

海原。連絡してくれ。だが、いまはみなの意見が聞きたい。

清水。正確な性能が分からない。

海原。この前言っとったハンマー投げとか。

清水。ええ。どれくらい持ち上げて、どれくらい投げられるのか。

火本。投擲競技か。解析する。それと、ポーズや動作を公募してはどうですか?。

清水。突拍子もないアイデアが来るかも。

海原。期待薄だが、買わぬ宝くじは当たらんからのう。

小浜。剣とかこん棒とかの接近戦。

芦屋。役に立ちそうにないけど、シミュレーションはいいんじゃないかな。

羽鳥。建物を壊したりするには役立ちそうだ。

土本。アニメの巨大ロボが持ってる、巨大ライフルとか。

芦屋。素直に巨大砲作ればおしまい。

羽鳥。自走台車付きの大砲の方が役立ちそうだ。

芦屋。なるほど。

土本。つまりは、役立ちそうにないと。

芦屋。そのとおり。

土本。飛ばすことできるの?。

清水。鈴鹿さんだったか、旅客機にまたがらせればいい、ってアイデア出していた。

小浜。充分できそうだ。いいパフォーマンスになる。

清水。たしか、スポンサーに貸し出すんじゃなかったっけ。

火本。うん。そうだよ。だから、普通のトレーラー1台で運べるように工夫する。

海原。今日はここまでかな。昼食をおごるぞ。食堂に移動しよう。

第36話。雨の日に。4. 見学コースにて

2011-01-25 | Weblog
 (見学者はいろいろ。何を勘違いしたのか、幼稚園からの申し込みもあったのだが、小学生から高校生の集団見学が多い。人数を絞って、しかも平日の午前中のみとした。それでも、毎日来客がある。相手をするのが、火本たちの仕事になってしまった。
 所長室にて。亜有が基地の整備状況を海原博士に報告している。その後の雑談。)

清水。いいんですか?。彼らにあんな仕事をさせて。

海原。社会との接点じゃ。貴重なフィードバックが得られるでの。

清水。貴重な、って、大した意見は聞けそうにない。

海原。そんなの分かっておる。世論は捨て置けぬ、ということじゃ。だいいち、こんなブームが長続きするわけないからの。忙しいのは今だけじゃ。

清水。あら、通信機。応援要請。行ってきます。

海原。行ってくれ。

 (中学生の集団だった。火本と水本と土本が相手していたのだが、質問が多く、対応しきれなくなったのだ。虎之介と亜有と自動人形が総出動。
 なんとか見学を終えて食堂へ。一部は司令室に移動。虎之介たちがいっしょに行く。)

芦屋。大変だったようだな。

水本。一人、よく知ってるのがいて、次々に質問してくる。ところどころ間違って覚えているから、修正が大変。今も火本が図書館に連れていって、説明している。

芦屋。熱心なやつ。できるのか。

水本。さあ。しばらく話してないと、単に興味あるだけか、役立つやつかは分からない。

先生1。あの、スタッフの方ですか?。

 (2人、行方不明になったらしい。トカマク基地は大きい。珍しくはないので、亜有が警備室に行って、モニタで探す。)

羽鳥。また迷子か。

清水。そうみたい。好奇心旺盛な中学生。どこに行ったのかな。

羽鳥。トイレとかじゃないのか。

清水。そんなのでしょう。

 (一人は簡単に見つかった。虎之介を向かわす。)

芦屋。やあ、迷ったのか。

学生1。迷った。みんなどこにいるのかな。

芦屋。食堂と司令室だ。案内する。

学生1。もう一人はこっちに行ってしまった。

芦屋。どうしようかな。

清水(通信機)。イチとレイを向かわした。その生徒はレイに案内させて。

芦屋。そうする。

 (ほどなくレイが到着。学生を案内するように言う。イチが残る。)

イチ。また迷子なの?。

芦屋。その通りだ。探すぞ。

イチ。うん。

 (人探しだ。自動人形は必死。普段は見せない真剣な表情に、虎之介が気付いた。)

芦屋。真剣だな。

イチ。うん。ぼくの仕事。これがあるから、維持されている。

芦屋。確かに。これを一から作り直すのは、途方もない無駄。

イチ。クロや六郎の方が良かったかな。

芦屋。一機あれば便利かも。だが、もう少しねばろう。さっさと片付けて行くぞ。

 (警備本部にて。)

清水。最後の一人が行方不明。

羽鳥。警備システムを見直した方がいいな。

清水。事故に遭ったか、隠れているのか。

羽鳥。いずれにしろ、発見されないとまずい。

清水。自動人形を全機出す。

羽鳥。おれも手伝うぞ。

清水。じゃあ、ここでモニタを監視していて。

羽鳥。交換しよう。おれが行ってくる。お前はここで監視。

清水。はい。

 (羽鳥はレイと合流。)

レイ。今度からは、追尾システムでも導入すべきだわ。

羽鳥。すでに迷子が数人。今回みたいに見つかりにくいのは初めて。

レイ。危機管理がなってない。

羽鳥。文句はあとだ。探すぞ。

レイ。任せて。

 (居住区から倉庫へ移動。)

羽鳥。こんなところにいるのか。建物の雰囲気が明らかに他と違うぞ。

レイ。念には念を入れて。

羽鳥。付き合ってやる。

 (人の気配を検出。レイは羽鳥に合図して、ゆっくり近づく。)

羽鳥。おーい。誰かいるのか。

 (返事はない。)

羽鳥。入るぞ。ん、鍵がかかっている。(通信機)亜有、倉庫の124号室の合鍵はあるか?、欲しいんだが。

清水(通信機)。遠隔操作で開ける。中に誰かいるみたい。

羽鳥。対人センサーか。

清水。そう。動物かもしれないけど。

羽鳥。それはないだろう。入るぞ。もしもーし。

 (中は暗い。明かりをつけようとしたら、一人飛び出した。)

羽鳥。うわっ、何だ、待てー。

 (レイが追いかける。羽鳥も。エレキとマグネがうまく回り込んで囲む。)

羽鳥。おーい、大丈夫か。

学生2。うわあ、おまえたちなんだ。

レイ。スタッフよ。

羽鳥。トカマク基地の制服だ。知らないのか。

学生2。さっき見たのと色違いか。

羽鳥。そう。戻ろうか。

学生2。うん。

 (学生を送り届ける。待っていたらしい、全員で帰る。
 亜有は、虎之介に124号室の調査を指示。)

芦屋。鍵かけて、なにしていたんだろう。

清水(通信機)。隠れて、あとで出て、もっと見たかったのかな。

イチ。これだよ。

 (通信ポートになにやら装置が繋がっている。)

清水。画像をよこして。

イチ。はい。

 (通信解析装置兼盗聴装置だった。市販のもの。)

清水。妙な装置、持ってたわね。

芦屋。プロの道具ではないな。

清水。いたずら用よ。被害が及ぶことはあり得るけど。

羽鳥。来たぞ。それか、何かやっていたのは。

清水。そうらしい。

羽鳥。通信の解析装置か何かか。

清水。市販品の。

羽鳥。高機能なケータイを持ってたぞ。何か盗聴されたとか。

清水。まず大丈夫。接続装置から警告は出ていない。ログを解析に回すけど、ざっと見たところ、怪しくない。

羽鳥。地下だから、外部との無線通信も無理。

清水。ええ。その通り。構内電話網はID社の特製だし。

羽鳥。今回はいいけど、プロの攻撃を受けたらまずいな。

清水。普通の回線でないことが分かってしまう。装置などはID社の市販品だけど。

羽鳥。こいつは没収だ。意図がありあり。

清水。そうね。侵入の意図以外、考えられない。警察沙汰になるの?。

羽鳥。なるけど、実被害がないんだったら、注意くらいだろう。

 (実被害はなかった。その後、見学者全員には追跡装置付きの名札をぶら下げてもらうことにした。)

第36話。雨の日に。3. エクササイザー、起動

2011-01-24 | Weblog
 (お昼。土本は海原博士に報告、そのまま食堂へ。)

水本。土本さん、まさか本当に着るとは。

土本。この制服、動きやすくて、丈夫。あなたも着てみたら。

水本。遠慮します。

海原。最強の突撃軍団だな。

土本。羽鳥さん、虎之介、亜有と自動人形。私も入るの?。

火本。当然。小浜さんも入る。

土本。何か企んでいるとか。

海原。開発したロボットをいち早く使って欲しい。

土本。そんなことか。

火本。大切なんだよ。実際に使われるのは。

土本。そりゃそうね。

海原。さっきのトースター号みたいに、多少の酷使はしたい。

土本。最初からいきなり使える連中は限られているか。

火本。そういうこと。

土本。さっそく出番がありそう。

火本。エクササイザーの最初の組み立て試験がもうすぐ始まる。集合して意見を言って欲しい。

土本。なんとなく、危険な香りがする。

海原。するけど、実際にやってみないと分からんからの。

 (午後3時。関心のある研究員が集まる。サイボーグ研のほぼ全員だ。ヘリポートは降ろされていて、開口部分は、2重の膜状の屋根が覆っている。地下のヘリポートに、ステージを移動して、そこでエクササイザーを動かすのだ。最初はうずくまった格好している。)

土本。顔だけでもでかい。

火本。身長14m。背伸びすると20m近くになる。

土本。ここは地下30mだっけ。

火本。そうだよ。これが自由に手足を振り回せる最大の大きさ。

土本。身長18mとか言ってなかったっけ。

海原。目標じゃ。好評だったら、何機か作る。

土本。こんな役立たずを。

海原。これまたはっきり。

芦屋。役立ったら大変だよっ。こんなのが大挙してやってきたら、おおごと。

羽鳥。ID社だけでなく、ここも結構おちゃらけ。

清水。おちゃらけなのは情報収集部だけです。

芦屋。悪かったな。

土本。内部抗争やめ。で、体操するだけ。

海原。そこを考えて欲しいのじゃ。動かせるかの。

火本。がってん。エンジンスタート。

 (火本がコンソールに着席。胴体内のガソリンエンジンがスタート。)

土本。おー、ガタガタ言ってる。ロボットらしい。

レイ。私はロボットらしくない。

土本。なこと言ってない。大型ロボットは、かくあって欲しい、ってこと。

火本。立ち上がれ、エクササイザー99!。

土本。すごい。音声認識。

水本。気合いをかけているだけ。

 (すうっと立ち上がる。歓声が沸く。両手を前から上に上げてー、がしっとポーズ。)

土本。砲丸持ったら、よさそなポーズ。

海原。ハンマー投げできるかの。

芦屋。ハンマー投げできたら、都心を攻撃できるぞ。

羽鳥。本物の砲弾を投げるのか。

清水。計算してみなきゃ。100kgくらいだったら、数十キロ飛ばせるかな。

羽鳥。霞ヶ関が射程内に入る。

土本。あんたたち、面白い。

水本。だから呼んだのよ。

 (腕を振り回してみて、壁に当たらないことをチェック。片足ずつ上げて、左右のレールに取りつけられた台車との接合具合をチェック。むろん、2つとも外れたらずっこける。無理な力がかかっても外れるので、計測しながらの動作確認だ。)

火本。歩く格好。

 (レール上の台車と連携して、左右の足を前後に動かし、歩いているように見せる。つま先立ちができて、さらに少し浮いたように見せることができるのだ。)

土本。遅い。当たり前か。

水本。ずんっ、ずんっ、って感じ。

羽鳥。本当は正義の巨大ヒーローもこんな感じだよな。

清水。アニメや特撮の素早い動きはめちゃくちゃよ。

芦屋。それでも、小走りくらいの速度は出ているぞ。

火本。ルームランナー。

 (少し大またにして、トレッドミル上を歩いている感じにする。)

羽鳥。これが最高速度ってことか。レールから外に出られたとして。

火本。そうです。このロボットは、安定化させてないから、ただちにずっこけますけど。

羽鳥。ローラースキーみたいのを付けたらいいんだろう?。

火本。そうか、なるほど。

芦屋。冗談じゃないよっ。こんなの200台とか来たら、パニック。

土本。20台でも恐いよ。

羽鳥。どうやら、大変な装置だな。誤解されればだが。

海原。スキー版は作ろうかの。面白そうじゃ。

火本。小さいので。

海原。作りやすい大きさから。

羽鳥。ある程度、動きができるのなら、ただちに発表した方がいい。

海原。そうじゃの。

 (しかし、技術陣からストップがかかった。やはり無理な力がかかっている部分があるのだと。改良の範囲で行けると判断されたので、断りを入れて、画像で公開することとなった。
 とにかく実働する巨大ロボが完成したとの情報が広まり、見学や取材の申し込みが殺到。見学コースを作ることにした。)

第36話。雨の日に。2. 雨のトースター号

2011-01-23 | Weblog
 (地上に出る。しとしとの雨。結構降ってる。レイとマグネが付いてきた。なぜこの2機かの理由は不明。)

レイ。誰も傘差さないのね。

芦屋。普段は差す。今は警備の調査だ。

清水。誰か来た。

マグネ。土本だ。

 (土本がやってきた。手に入れたばかりの制服を着て。)

清水。やっぱり似合ってる。

土本。ありがと。着心地もいい。カツラがあるのに、何のためのヘルメットとかと思ったけど、こんな時に使うんだ。

芦屋。制服はどうだ?。雨でも平気か。

土本。うん。いいプレゼント。多分、波しぶきも平気。よくできている。

羽鳥。制服の予算はどこから出てるんだ。

清水。基地の維持費用から。だから、貸し出し。

 (地下基地のための機材置き場は縮小し、今は整備場の一角に収まっている。そのかわり、滑走路と駐車場の工事が開始されている。見回りのために作られた、仮設の通路を歩いている。むき出しの土で、雨にぬれて滑りやすい。)

羽鳥。靴までよくできている。単なる衣裳じゃないな。

芦屋。もともと、戦闘用だろう?。

清水。アニメのだけど。

羽鳥。悪乗り。

清水。デザインしたのは、悪乗りするので、有名な部署よ。

羽鳥。必死で調べたんだ。

芦屋。そんな感じだ。

羽鳥。トースター号は使えるのかな。

芦屋。試してみよう。

 (駐車場に行く。トースター号は幌がかかっていた。)

芦屋。さすがに大手メーカー。中は濡れてない。

羽鳥。だが、濡れずに入るのは不可能だぞ。

土本。こんな日に役立たずじゃ、話にならない。使ってみよう。

芦屋。キーを取ってくる。

 (モグ班の技術者が一人付いてきた。乗り心地を観察するためだ。雨合羽を着ている。レイは空中サーフボードで、上空からお付き合い。
 幌を取る。ドアのないオープンカーだ。乗り越えて入る。運転席には羽鳥が陣取る。)

羽鳥。シートは頑丈なビニール製。でも、床に水がたまる。

土本。水陸両用車じゃなかったの?。

芦屋。オフロード性能はあったはずだ。

羽鳥。場内を走ってみる。

 (起伏のある未整備地。サスペンション等はよくできている。難なく凸凹を乗り越える。)

羽鳥。こりゃいいや。

土本。普通の走行は。

羽鳥。レジャー用じゃないってか。

土本。何か作業するとき、どうするのよ。

 (停車して、全員降りる。その間に、雨が入る。床に水がたまる。)

羽鳥。杓がいる。スポンジも。

土本。買い出しに行こうよ。

 (国道に出て、カー用品店に行く。必要そうな機材を買う。基地に向かう。)

土本。雨の日はあまり快適ではない。

羽鳥。あくまでレジャー用だな。

清水。それは困ります。作戦で使えないと。

土本。もちょっと経験してみるか。海に入るぞ。

 (東京湾だから、それほど波は立ってないけど、普通に揺れる。)

土本。幌を取るぞ。

羽鳥。何か作業を考えてだな。

土本。もちろん。

 (雨は入ってくる。この程度の波でも、しぶき程度は入る。床が水浸しになり、スポンジで吸い取って、杓ですくいだす。)

土本。改良した方がいい。

芦屋。これじゃ、使えない。

羽鳥。作戦に使うつもりだったのか?。

清水。当然よ。

技術1。船舶に詳しいところと相談してみます。

 (モグ班は、トースター2号の設計に入った。1号は晴天時のオフロード性能がよいので、ラインナップには残すことになった。)

第36話。雨の日に。1. プロローグ

2011-01-22 | Weblog
 (外はしとしとと雨。日本ID社東京、情報収集部のオフィスにて。)

伊勢。今日も雨だわ。うふふ。

奈良。以前から聞こうと思っていたのだが、雨の日は楽しそうだな。

伊勢。ええ。好きよ。植物が育つもの。

奈良。なんだ、そんな理由か。

伊勢。もっと深刻な理由と思った?。

奈良。ロマンチックな理由かと。

伊勢。少しはある。いいたくないけど。

奈良。なら、いい。

伊勢。奈良さんはどうなの?。雨を喜ぶ動物はいそうよ。

奈良。すぐに思いつくのは、カエルにコイ。

伊勢。コイって、魚の鯉。

奈良。もちろん。雨に喜んで、飛び跳ねる。理由は知らん。

伊勢。何だろ。不思議。

奈良。植物は雨の気配を感じるのか。

伊勢。そう言われている。私たちも、気配で動くことあるでしょ。

奈良。予想で身体の体勢が変化することがある。植物とは、原理は違いそうだが…。

伊勢。昆虫が反応するようなものか。

奈良。きっと、それに近い。

伊勢。超能力に見えるのよね。

奈良。ああ、自然の神秘だ。

 (トカマク基地。前倒しで、エクササイザー99の組み立てが始まっている。地下の整備場の一区画にて。)

海原。てっきり骨格を組んで、そこにパネルを取りつけるのかと思ってたぞ。

火本。外板に剛性を持たせる構造。バスなんかの作り方。最初はフレームにパネルを取りつけるつもりだったけど、実物大の部分模型を作ってみて、考え直したらしい。

水本。元は航空機の技術。プロの発想は違う。

海原。いきなりいいのができそうじゃの。

火本。ええ。きっとびっくりしますよ。

海原。ある程度組み立ったら、あやつらに見せよう。面白い意見を言うに違いない。

火本。早い方がいいな。外観ができたら、午後にも呼びます。

 (その、あやつら。整備場一角の、警備本部室にて。)

芦屋。ぶわっくしょん。風邪か。

羽鳥。うわさだろ。何かな。

芦屋。どうせくだらないことだ。急に基地内がにぎやかになってきた。巨大ロボットの組み立てが始まっている。

羽鳥。他の班もな。それに伴い、食堂や売店が充実。うれしいじゃないか。

芦屋。ああ。活気があるように見える。で、何しに来た。

羽鳥。本日は雨。明日まで降り続く予報だ。こんな日の基地の警戒システムの動作を確かめておきたい。

芦屋。モニタから見よう。

 (基地内、地上の様子をモニタでチェックして行く。激しい降雨ではないが、視界はそれなりに悪い。)

芦屋。視界が悪い。赤外線ではどうかな。切り替えてみる。

羽鳥。本格的だな。

清水。途中で文句が続出も困るから、最初から該当部署に相談したのよ。

羽鳥。研究所の安全システム。

清水。ええ。それと、観測基地の警備システム。

羽鳥。高度研究施設とか、立地が紛争地に近いとか。

清水。まあね、いろいろ。特別なことではないけど。

羽鳥。設計図とかは見せてくれるのか。

清水。羽鳥さんなら、いつでも自由に見ていい。そこの棚にある。

 (熱心に見ている。でも、トカマク基地はかなりの大きさ。とても短時間では読みきれない。)

羽鳥。だめだ。何回かに分けて読む。

清水。そうしましょ。

羽鳥。じゃあ、地上に行こうか。

芦屋。ヘルメットにコートと。そちらはその制服で出られるのか。

羽鳥。よくできている。その通りだ。

清水。私のも。ヘルメットしたら、おしまい。カツラのままでも活動できそうだけど。

羽鳥。自動人形はヘルメットすらいらないんだな。

清水。ヘルメットは用意しているけど、普通の任務なら不要。雨くらい、へいちゃら。

第35話。6月の花嫁。23. 内輪のお別れ会

2011-01-21 | Weblog
 (永田らのいる会議室に集まる。内輪のお別れパーティーだ。)

関。短い間だったけど、楽しかった。みなさん、ありがとう。

永田。いつでも会えるけど。

芦屋。寂しくなるな。

土本。関さんとの結婚はいつ。

関。いつって…。いつなのよっ、虎之介。

芦屋。どっちかか、どちらとも今の仕事をやめなきゃな。

清水。婚姻届のこと?。形式よ。

土本。問題発言。…、やったわけ。

芦屋。答えられるかよ。

関。同様。何よ、いつのまにかすさまじい話題。

永田。場所が多少移動するだけだ。仕事とか、全く変わらない。

土本。ここの部屋は、引き続き専門情報調査課が使うの?。

永田。そのつもりだ。

清水。何かと便利なのよ。

土本。ははーん。それでID社に力がこもっている。

芦屋。立地条件はいいな。東京にほどよい近さ。交通の便もよい。

土本。首都がパニックになっても、ここから次々に支援ができる。

永田。うーん、どうだろ。

関。ちよっと近すぎるような気がする。

羽鳥。この基地は、地震などに耐性がある。虎之介の言ったとおりだ。地上の設備と比べると、評価を間違う。

土本。関東大震災にも耐える。

清水。そのはず。この基地、土の中に浮いているのよ。圧力にも耐える。

土本。土の中の原子力潜水艦。

羽鳥。そんな表現ができる。

土本。やっと繋がった。なぜ、このメンバーがいるのか。

芦屋。おれたちの正体が分かったのか。

土本。いいえ、全然。でも…。

羽鳥。暗い話になる。ここが地下にあるせいか。

清水。さっき所長室でそんなこと言ってた。

土本。雰囲気がそうさせるのか。

芦屋。アニメのラットルズも、戦争物なんだろう?。

清水。直接の戦争じゃないけど、敵対関係。小競り合いは頻発。

芦屋。ここは敵側の施設だったな。

清水。そうです。すぐに放棄して、また取り返して、だけど。

芦屋。前線だな。

清水。新しいことは、ここで起こる。

土本。私たちも、ここで出会った。

清水。うん。その調子。

 (司令室に移動。)

土本。ここを作った社長さんはどうなったの?。

清水。普通に仕事している。時々は、ここに来るらしい。

土本。私もその制服着ようかな。

清水。無理しなくていい。

芦屋。理由があるんだろう?。

土本。うん。互いに越えられない溝があっても、ここでなら協力できる。そんな感じを出したい。

芦屋。サイボーグ研のエンブレムの付いたやつだな。

清水。注文する。色とか変えなくていい?。

土本。同じ銀色がいい。一体感あるもの。

レイ。変えた方がいい。組織が違う。

清水。レイ、口出しして、悪い娘。

土本。いいえ、悪い娘じゃない。一理ある。黒っぽく見える銀って、作れるの?。

清水。赤っぽいとか、青っぽいのもできる。可能よ。

土本。深海の感じがいい。黒い銀。

芦屋。我々を待つ開拓地だ。

関。未知の世界。誰も行ったことのない。

土本。人間がね。

イチ。ぼくなら行ける。

土本。うふふ。この子たちがいるんだ。

清水。私たちの行けないところに行ける。

土本。私たち人間の格好をした仲間。

イチ。うん。そうだよ。同じ言葉をしゃべる。

レイ。イチ、余計なことは言わないの。

土本。うまく漫才する。何か感じているのかも。

羽鳥。そして、何か知っている。

 第35話、終了。

第35話。6月の花嫁。22. 羽鳥と虎之介

2011-01-20 | Weblog
 (夜。所長や火本たちは帰ってしまった。イチとレイの探索に、土本と亜有が付き添う。)

土本。私、不思議な経験している。

清水。私もよ。なんでこんなことになったのか。

土本。江戸っ子だってね。

清水。神田の生まれよ。

土本。だから、残したのかな。ID社は多国籍企業だから、警戒する向きもある。

清水。そりゃあね。いったん流出した技術は取り返しようがない。でも、こちらだって同じ。日本にない技術を投入している。かなり節操無く。

土本。見れば分かる。かえって不気味。

清水。そう見えるよね。私もそうだった。不思議な会社、ID社。

土本。同じ感想なのかも。でも、今は中の人。

清水。ええ。あちらとこちらにいる。越えられない溝。でも、私たちは友達。何とかしなきゃ。

土本。うふふ。うまく言う。

清水。火本くんが、このセリフを言ったのよ。いずれ、敵対関係になるってこと。

土本。またはっきりと。

清水。私の勘違いかな。

土本。そう取れるセリフよ。けっこう深刻になるのかも。

清水。今のうちに、いろいろやっておこう。

土本。うん。そうするのが吉。今は何でもできる。

 (エレキとマグネの探索に付き合っているのは、羽鳥と虎之介。)

芦屋。なんでおれが誘われたのかな。

羽鳥。好かれてるんだよ。

芦屋。マグネにか。

マグネ。その理解でいい。

芦屋。まったく…、意味は分かってないくせに。

羽鳥。かわいいじゃないか。彼らなりに必死なんだ。自動人形は、人間無しでは何もできない。

芦屋。さっそく調べたな。

羽鳥。分かったよ。アンもエレキも、確かに戦闘には役立たずだ。

芦屋。ああ。だが、例外が2人いる。

羽鳥。一人は奈良部長。一見温和に見えて、実力行使にためらいが無い。自動人形を使って。

芦屋。周囲には、そう理解されている。実は、おれには経験がある。

羽鳥。さっそく試したんだな。度胸のあるやつ。

芦屋。てめえにいわれる筋合いは無い。

羽鳥。自覚はあるようだな。もう一人は誰だ。

芦屋。当ててみろ。

羽鳥。清水亜有。

芦屋。その通り。まだ、偶然なのかどうか、分かっていないが、2機がいっしょに相手を取り押さえた。というか、永田と関の攻撃中に、武器を巻き上げただけだけど。

羽鳥。なんだ。証明されていないのか。

芦屋。ああ。救護された者を護る動作は、不思議ではない。相手が傷つくのを防ぐのも、自動人形は自分の職務と考えている。

羽鳥。その習性みたいなのを利用したんだ。

芦屋。最初に説明を受けたときは、そう思った。

羽鳥。違うのか。

芦屋。誰に聞いても、一線を超えた動作だと言う。

羽鳥。何かつかんだな。

芦屋。彼女自身、解析中。まだ原因がつかめないそうだ。

羽鳥。何か呪文のようなものがあるとか。

芦屋。同じことだが、キーになる状況や動作があるのかも。

羽鳥。なるほど。面白い。解析が長引いているのは、試せないからだな。

芦屋。そのとおり。軍事コードには得体の知れない部分がある。試さない方がいい。

羽鳥。どんな手段が出てくるのか、分かったものではない。くわばらくわばら。

 (地上に出る。今夜は、起伏のある内部を巡回。)

芦屋。おまえ、まじめなやつ。

羽鳥。そっちこそ、くその付くまじめな男。

芦屋。悪かったな。

羽鳥。ほめてるんだ。

芦屋。そうか。失礼。

羽鳥。聞いたとおり、単純なやつ。

芦屋。それがセールスポイントだ。

羽鳥。ははーん。だから、情報収集部のスタメンを外されたんだ。

芦屋。くそっ、志摩のやろー。

羽鳥。はじめて志摩に負けたと。だから、何にしてもちょっかいを出す。

芦屋。先を越されて、たまるかよ。

羽鳥。たしかに、志摩は防衛に向いている感じだ。聞くところによると、伊勢さんのお気に入り。

芦屋。ああ。あいつ、伊勢さんの脇に付くと、日頃と打って変わって、何でもやる。

羽鳥。しかたないだろう。上司と部下だ。

芦屋。そう言えば、伊勢さんは志摩がいなければ、ジロを付ける。今のところ検出器として使っているだけだが。

羽鳥。何か起こったときのジロの行動が気になると。

芦屋。そんなことは起こりそうもないが。

羽鳥。理由は分かるぞ。

 (整備場で両探索隊がばったり出会う。)

土本。あらあ、いい感じ。関さんに言っちゃおーっと。

芦屋。構わない。そっちこそ、何の密談をしていた。

土本。男の人には秘密。

芦屋。あーはいはい。くだらんことか。

羽鳥。地下波止場はどこにできるんだ。

清水。あっちの壁から廊下を通す。両隣の整備場にも出入り口を儲ける。

羽鳥。一方にはシリーズBがいる。

清水。偶然だけど、ちょうどよかった。

芦屋。ここは水面下だな。

清水。ええ。通ってしまうと、ここは一気に水没。何重ものゲートがあるけど。

 (全員でシリーズBの整備区画に入る。)

土本。外から見た感じより、ずいぶん大きい。

羽鳥。何にせよ、航空機の整備場だから。

土本。なんでこんなの用意したのかな。

羽鳥。シリーズBの必要性か?、知らん。でも、政府が優先的にチャーターできる契約はかわした。

土本。じゃあ、いざとなったら、隼人はこれで発進。

羽鳥。あっちのヘリコプターの方が借り賃は安いから、使う機会はあちらが多いと思う。

土本。仕事内容によるわね。

羽鳥。経験してみないと、何も分からない。

第35話。6月の花嫁。21. M国ID社からの依頼

2011-01-19 | Weblog
伊勢。今月、やり残したことはあるかな。

奈良。無いと思う。もう、やりすぎ。大変な月だった。

鈴鹿。結局、イチたちは亜有に付くのか。

奈良。教授以下、大学関係者はサイボーグ研に張り付き。そうなったな。

伊勢。2回も失敗。

鈴鹿。所長と教授。火本たち。土本さんは微妙。

伊勢。こんなことで、自動人形を量産していいのかしら。

奈良。そのことで相談があるんだが。

伊勢。だめーっ。これ以上自動人形が増えたら、パニック。

鈴鹿。チームU4はトカマク基地で亜有が操縦。じゃあ、日本ID社東京は人手が余ってるなって。

伊勢。私のこと。あっちはトカマク基地物語とか、独立した話になる。

奈良。話の都合は知らんが、いつもこの調子で依頼が来る。

伊勢。単にあなたがお人好しだからよ。こっちにいるのは、A31だけではない。モグ、五郎、六郎がいる。

鈴鹿。他動人形だから数に入っていないとか。

伊勢。他人事と思って…。

鈴鹿。で、どんな話なんですか、今度は。

奈良。コントローラの研修だ。1カ月間の。M国ID社から。

伊勢。M国って中東に近いアフリカの。大国かな。紛争地にも近い。

奈良。堂々たる地域大国だぞ。紛争地には近いだけで、政治的には安定した国だ。経済規模は我が国と比べると小さいから、世界経済からの影響は大きい。それだけ。

伊勢。人間が来るだけなのか。

奈良。もちろん、自動人形も付いてくる。2機。

伊勢。でも、コントローラ付きならいいかも。こっちに負担はかからない。

奈良。それでも、何かと負荷はかかるはずだ。よろしく。

伊勢。ふむ。初めての試み。面白い。

奈良。受けると…。

鈴鹿。待って。M国なら、自動人形の形が問題よ。アンドロイドだったらいいけど、妙な動物型だったら大変。

伊勢。ラクダ型とか、コブラ型とか。

奈良。ラクダ型ならかわいく見えるかも。

鈴鹿。スフィンクス型とか、セト神型とか。

奈良。なんだそれは。不安になってくるではないか。

伊勢。確かめてよ。

奈良。そうしよう。

 (すぐに返事が戻ってきた。男女のアンドロイドだと。)

奈良。アンドロイド2機。男と女。

伊勢。イチタイプ?。エレキタイプ?。

奈良。ええと、普通サイズだな。ただし、飛ばしてくれとの要望。

伊勢。ケイコみたいに飛ばすのは無理よ。空飛ぶ自転車ならいいけど。

鈴鹿。M国で役立つかな。

奈良。相談だな、飛ばす方法は。

 (来るのは来月。
 トカマク基地にて。海原所長が亜有から説明を受け、部屋を割り振って行く。)

火本。各研究班の作業スペースは格納庫。

海原。広くて使いやすい。機材の出し入れもしやすい。

土本。駐車場は。

海原。作らないといけない。今は露天じゃ。ホテル機能や倉庫機能もあるし、うまく配置せねばならん。

水本。司令室は当面、娯楽施設にする。

海原。で、いいじゃろ。使いたかったか?。

水本。いいえ。聞いただけ。

海原。計画を前倒しして、8月末に、ほぼ完成に持って行く予定じゃ。

火本。ID社の2階はどうなるんですか?。

海原。小さな展示場と、連絡所は残す。大江山の判断じゃ。東京駅からすぐ行けるからの。

火本。推進委員会の会合とかはあちらか。

海原。その通り。ふむ、ここはしっかり地下組織じゃの。

火本。密談の感じ。

土本。やだな。

水本。なんとなく、暗い。亜有さんは?。

清水。たしかに。でも、こんな感じの所はある。うまく空間を使い、パノラマの効果を使って、閉鎖空間の感じを多少とも解消していた。

海原。詳しいの。

清水。珍しい、と言うほどではないわ。洞窟みたいなところに居住するなど、ありふれている。

土本。だから、ID社から基地のデザインを任されているのか。

火本。トカマク基地はアニメだから、そこまで考えてなかったんだ。

清水。ホテル部分は今から改造してもいい。予算があればだけど。

海原。サイボーグ研に役立つかの。

火本。こじつけの理由ならいくらでもできる。

清水。ここはすぐに地上に出られるから、いいじゃない。何なら、1/8人形の町を作ってもいいし。

火本。グッドアイデア。それいこう。職員の娯楽にもなる。サイボーグになって、1/8の町を歩き回る。

水本。MMORPGの実物版。でも、役立つの?。

海原。個別の技術は役立ちそうだ。機構の開発とか。具体的な展開は各企業に任せればよい。コクウ班に考えさせろ。

火本。はい。

第35話。6月の花嫁。20. 引っ越し前倒し

2011-01-18 | Weblog
 (オフィスにて。志摩が私と伊勢に起こったことを報告。)

伊勢。ふーん、恐かったわね。きみたち、ご苦労さん。それはなに、隼人くん。

羽鳥。鉄道安全の小さなマスコット。お礼にくれた。安全週間で配った人形の残り。

伊勢。駅長室なんかに飾るためのものか。

羽鳥。多分、そう。

志摩。虎之介から聞いていたけど、大変な身のこなし。事後処理もてきぱき。

伊勢。来てくださって、大助かり。よかったわ。

羽鳥。そちらもただ者ではない。残るは奈良部長。いったいどんな技を。

奈良。ん、私か。

伊勢。奈良さんの技はよくご存じのはず。自動人形、A31よ。

羽鳥。イチやマグネたちも。

伊勢。彼らは、最後の最後は奈良さん側に付く。

羽鳥。さらに五郎と六郎も。

伊勢。クロとかが支配するから、そうなる。

羽鳥。あなおそろしや。

伊勢。そうよ。

 (ドアをノックする音。)

海原。入っていいかな。

伊勢。海原博士。どうぞ。

海原。おや、羽鳥くん、ここにいたか。

羽鳥。こんにちは。ええ、所用があって。

海原。上は大変なことになっているぞい。我も我もとトカマク基地に移動したがっている。

羽鳥。あんな不便そうなところに。

アン。羽鳥さんを見たいのよ。

羽鳥。というより、この制服だろう。見たいのは。

アン。両方。色っぽい。

海原。まあだから、わしは今からトカマク基地に行くことにした。

伊勢。あの、そのタイミングでいうと、わしも隼人が見たいのじゃ、に聞こえます。

海原。悪いか。

伊勢。いいえ。

海原。それで、あいさつに来たのじゃ。では、おいとまする。

羽鳥。あ、博士。ご一緒に。

志摩。トースター号で行きます。

 (行ってしまった。)

伊勢。この分じゃ、2階は早々にがらがらになる。

奈良。いつまでも居座られるよりましだ。

伊勢。たった3カ月間だった。

奈良。大江山教授は、ここに拠を構えたがるだろう。

伊勢。第二機動隊本部を残せばよい。電話一本なら、大学でもいいんじゃないの?。

奈良。交渉だな。

 (連絡場所としては良いので、看板と小さな展示場と連絡係は残すことになった。つまり、2階のサイボーグ研は大幅縮小。第二機動隊本部は閉鎖。元の資料室に戻る。)

鈴鹿。ただいまー。ふー、久しぶりに計測機が売れた。

奈良。久しぶり…。

伊勢。よくやったわ。

鈴鹿。サイボーグ研が騒がしいみたい。

奈良。引っ越しらしい。トカマク基地に。

鈴鹿。隼人と亜有につられたか。

伊勢。なんともあからさまな表現。でも、そうらしい。

鈴鹿。じゃあ、タイトルの「6月の花嫁」って、トカマク基地に移ることだったのかな。

奈良。そうじゃないのか。

伊勢。あなた、語り手本人でしょ。じゃないのか、って何よ。

奈良。現時点ではタイトルなど考えてないはずだ。

鈴鹿。混乱する話は、あとで。誰が嫁ぐのか、ちょっと話題になってたのに。

奈良。羽鳥くんがこちらに来てくれた。

鈴鹿。げっ、花嫁は隼人。

奈良。すっかりこちらが気に入ったらしい。

鈴鹿。それはいいけど、彼の狙いは何よ。

伊勢。さあ、単に面白そうだから、じゃないかな。いろいろ機械がいじれるし。

鈴鹿。そんな感じはあった。

伊勢。魅力的な女性もわんさか。

鈴鹿。一応、まともな男だった。姿さえ目をつぶれば、男の中の男。

伊勢。複雑な背景は無いみたい。永田さんと同じ。

鈴鹿。向こうで対応するのは亜有。

奈良。そうなる。永田らと同じ。

鈴鹿。それで私の出番が少ないんだ。

奈良。今回も充分出たような気が…。

鈴鹿。私も向こうに行こうかな。

伊勢。何か起こる確率は、都心の方がずっと高い。

鈴鹿。だから、私をここに残す。

奈良。ええと…。

鈴鹿。なによ、その災難が残るような感じの視線は。

伊勢。存分に活躍してちょうだい。

鈴鹿。はあい。

第35話。6月の花嫁。19. 駅の保安設備

2011-01-17 | Weblog
 (最寄りの私鉄の駅に入る。駅長室におじゃま。)

駅員1。ID社、計測機のメーカー。機材の売り込み。

志摩。はい、そうです。

駅員1。困ったな。ここではその手の機材の選択はできない。近くに本社オフィスがあるから行ってみますか。連絡しておきます。

志摩。後学のため、駅の施設を見せてもらえますか?。

駅員1。駅長に聞いてきます。

 (幸い、ID社を知っていた。短時間ならいい、と許可。)

駅員1。そちらはお友達。

エレキ。政府の役人だ。

羽鳥。ごほごほごほっ。就活中です。

駅員1。計測機会社の。宇宙開発か何か。

エレキ。そんなところだ。

駅員1。そちらも派手な格好。

志摩。エレキは我が社が調整中のアンドロイド。高度なセンサーが付いている。訓練中。おじゃまでしたか。

駅員1。いや、目の保養にいい。高性能ロボットを間近に見られるなんて、ラッキー。アメリカンヒーローの感じ。こっちもかわいい。

羽鳥。じっと見ちゃ、いや。

駅員1。も、もしかして、男。

エレキ。よく分かったな。

駅員1。未体験ゾーンだ。自分でも意味不明だけど。

 (駅の施設を見学する。都心の駅だ。小さいけど、意外に重装備。羽鳥は鉄道警備の経験があるらしく、ここぞとばかりに熱心に見ている。)

駅員1。ご熱心。あれと同じ感じの人を以前に見たことがある。何だったかな。

エレキ。要人が通過するとか。

駅員1。そうだった。ものものしい警戒。警察官がどかどかと入ってきて、緊張したんだった。次の駅で降りるだけだったのに。

羽鳥。不備はない。

駅員1。あのときに、根掘り葉掘り指摘されたから、敏感になっているんですよ。よく片づいているでしょ?。

羽鳥。ああ、ご苦労さんです。

駅員1。あなた、何者。

羽鳥。もういいわ。よく分かったから。

志摩。ありがとうございます。参考になりました。

駅員1。今ので。

羽鳥。ええ、来てよかった。

 (よろしければ、というので、引率されて、ホームに出て保安設備などを見学する。乗客が多いためか、安全のための装置が多数ある。)

志摩。念入りだ。

駅員1。ええ。都庁の近く。不穏なやつが集まる都会。

羽鳥。スリとかひったくりとか。

駅員1。そういう古典的なのも。

羽鳥。機関銃持ったテロ軍団とか。

駅員1。そんなのも想定範囲かもしれないけど、警察は爆発物を主に警戒しているみたい。

羽鳥。「爆発物の持ち込みは禁止されています」か。警戒していますよ、と知らせるため。

駅員1。でしょうね。あ、そうか。持ち込んじゃだめだったんだ、と引き下がる犯人は考えにくい。

羽鳥。ん、ID社の通信機が鳴ってる。何だろ、今ごろ。

エレキ(通信機)。エレキだ。前方8mほどにある紙袋に爆発物が入っている。

羽鳥。おまえっ、なんでわざわざ通信機で。

エレキ。直接しゃべっていいか?。

羽鳥(通信機)。いや、まずい。で、それ以上の情報は。

エレキ。今からデータを採取する。近づく。

 (羽鳥は合図して、2人と1機で取り囲む。どうやら、紙袋はベンチの端に座っている男の持ち物らしい。志摩が話しかける。)

志摩。こんにちは。いいお日和で。

男21。うるさい。なんだ、おまえは。なんか用か。

志摩。とってもいいお話があるんです。これを聞くと、誰でも幸せになれる。少しお時間をいただけますか。

男21。なんだ。宗教の勧誘か。こんなところでやったら、お前、駅員に拘束されるぞ。

志摩。雑談しているだけ。ほら、あっちでは商談しているみたいだ。

 (ケータイで必死で交渉している男がいる。内容丸分かり。)

男21。そーとー、間抜けなやつだな。あれじゃ、卸値とか、交渉のやり方なんかが周囲に筒抜け。

志摩。では、心置きなく。

男21。それで説得したつもりかよ。それとこれとは別だ。

志摩。私たちがこの世に生まれたのには理由があります。そして、あなたと私がここにいるのも、立派な理由があるのです。

男21。ほー、あるなら聞かせてもらい所だが、今はいい。とっとと立ち去りな。って、聞いてないか。

エレキ(通信機)。起爆装置はない。爆薬は高性能。

 (羽鳥は横から近づき、紙袋を持ち上げる。でも、てぐすが付いていたらしく、男が気がつく。)

男21。うわっ、なんだお前。何しやがる。

羽鳥。これ、あなたの?。邪魔よ。

男21。こりゃまた失礼。

羽鳥。変なにおいがする。毒か何か。

男21。余計なお世話だ。

羽鳥。見てみていいかな。何か腐っていたら、大変。

男21。腐るわけねえ。何いってんだ、おまえ。

羽鳥。やっぱり変だ。警察に届ける。よいしょっと。

男21。かわいいからって、やさしくしていたら、つけあがりやがって。持って行くな。

羽鳥。何でよ、あなたのものなの?。

男21。どうでもいい。

羽鳥。もってゆこーっと。

 (羽鳥がぐいぐい引っ張る。てぐすはかなり強力らしい。その先は、腕のバンドに繋がっているみたいで、引っ張ったので見えてしまった。さすがに駅員は異変と判断した。)

駅員1。あなた、ちょっと駅長室まで来てください。

男21。さっきから。引っかけやがったなー。

 (懐から拳銃をだす。さっと、志摩がつかんで奪う。)

志摩。拳銃かな。

男21。うわっ、お前も仲間か。

羽鳥。観念しやがれー。

男21。バカにするな。

 (今度は、ふくらはぎの付近に仕込んでいた大型のナイフを出し、こともあろうに、羽鳥に突きつけようとする。志摩がとっさにけり飛ばす。崩れたところを羽鳥がさらに腕力で攻撃。気を失った。羽鳥がボディチェックをして残りの武器があるかを確認。エレキが怪我などをチェック。)

エレキ。警察を呼べ。

駅員1。その方がよさそうだ。待っててください。すぐに呼んで来ます。

 (羽鳥は紙袋の中の爆発物を確認。政府の通信機で連絡している。専門家を呼ぶようだ。
 警察官がやってきて、男を武器所持の現行犯で拘束。羽鳥は身分証を見せて、専門家を呼んだことを説明している。)

駅員1。あなた方、何者。

志摩。羽鳥から説明があるはずです。私は、ID社の調査の者。

駅員1。対テロの。

志摩。まさか。いろんな企業の動向を見るのです。

駅員1。企業のシンクタンクの人。ついでに、計測機の売り込みもする。

志摩。はい。

 (駅員も羽鳥から説明を受けた。ちょっとびっくりしていたけど、警察官と連携していたので安心したらしい。駅長に構内電話で説明して、そのまま開放された。いったん、ID社東京のオフィスに戻る。)