(普通ならバスをチャーターするところだが、モノリスとピナクスの移動メカを利用する。部門長が優秀な案内係と運転手を付けてくれた。厚待遇である。運転手は1人でモノリスを運転。助手席に案内係が座る。伊勢、志摩、関、虎之介、そしてエスが後席に。ピナクスは鈴鹿が運転。ジャックが助手席に座る。後席には私と亜有、リリとクィーンが座る。ソファ部からは前が見えないので、備え付けの大型モニターで見ることになる。)
案内係(男)。重点的にご覧になりたい場所がありますか?。
(テレビ会議にて全員で協議に入る。やっぱり、お城かな、ということになり、案内係に告げる。
モノリスとピナクスは街道を行く。若い連中は、ソファでくつろぐより、情報の多いコンソールを好むようだ。モノリスでは志摩、関、虎之介がモニターにかじりつき。ピナクスでも亜有がリリを連れてモニターで周りを見ている。)
伊勢。あの連中、モニター見ていて楽しいのかしら。
エス。いろいろ数字が出てくるから、面白いんじゃないですか。
伊勢。数字ねえ。速度とか距離とか。
エス。分析も可能。
伊勢。軍時代からのセンサーか。ID社のレパートリーも加わって、およそ考えられる限りの計測ができたはず。
エス。モノリスの評価も表示される。
伊勢。危険か危険でないかなど。ふむ、たしかに自動人形の評価には興味がある。
(なんてことしてるから、エス以外、全員モニターにかじりつくことになった。
一方のピナクス。)
奈良。モニターなんか見て、楽しいんだろうか。
クィーン。普通のカメラではなくて、ピナクスのセンサーの情報ですし、自動人形の頭脳による加工もされますから、よく分かるはずです。
奈良。なるほど。自動人形が外界をどう捉えているかはよく分かるか。それで、亜有がかじりついているんだ。リリは質問の答え役だな。
クィーン。そのようです。
(湖岸の城に着く。モノリスとピナクスは迷ったが、正太郎とサクラの姿で連れて行く。本体は袋に入れて、前に抱えさす。幼稚園の通園みたいだ。仲がいいようで、お手手つないでいる。エスはリリに巻き付いて行く。大家族に見える。
城は外見も立派だし、内装もすばらしい。ヨーロッパ旅行の楽しみの一つだ。美しく復元されている。案内係が自慢げに解説する。)
案内係。みなさんは日本からいらしたとのこと。日本にもこんな城がありますか?。
伊勢。ありますよ。でも、中は博物館みたいになっているか、保存されている場合はもっと地味。当時は輝いていたんでしょうけど、よほど傷まない限り、そのままにしている。
案内係。侘び、寂び、というやつ。
(関と亜有が顔を見合わせる。そうだったか、そのような気もする、しないような気もする。たしかに、黄金色に再現しているのは、数えるほどしかない。)
関。朽ちて行く建物や装飾を、いつまでもそのまま大切にする性向はあるようです。
清水。西洋の建物でも、朽ち果てたものに対する同様の日本人の感情はあります。
案内係。そうですか。微妙です。
(文化的なギャップというものだろう。どうしようもない。でも、歴史的重みは分かる。こちらが感激しているのが分かるらしく、詳しく解説してくれる。
周りの訪問客を見てみるが、東洋人はこんな史跡にはほとんど来ないようだ。たまに日本人に会うくらい。だから、目立つこと。じろじろ見られる。派手な救護服の正太郎やエス付きのリリも拍車をかけている。
城から湖をながめる。よい眺めだ。)
清水。ふーん、いい眺め。山も見える。
伊勢。霊峰。怖い感じ。
清水。近づかない方がいいかも。あの地形は氷河の跡かしら。
伊勢。どれどれ。そんな感じ。ええと、直近の氷河期の痕かな。
案内係。そう思います。
関。何か、学術的な見方。
芦屋。そうだな。彼女らにとっては単純に美しい景色ではないみたいだ。
関。うらやましいと言うか、ごめんこうむりたいと言うか。
芦屋。うん、図鑑なんかによくある、文字が記入された模式図が連想される。
関。あははは、地図か何かを見ているようなもの。
芦屋。おれたちで言うと、地図から作戦上の意味を読み取るようなものか。
関。おれたちって、まあ、そうだけど。もっとロマンチックな話がないかしら。
リリ。お二人、もう十分にロマンチックだわ。
関。リリ、突然現れて。びっくりしたじゃない。
リリ。さっきからいた。お二人がお二人の世界に入っていたから分からなかったのよ。
芦屋。それがロマンチックなの?。
リリ。いいえ、この出会いそのものがロマンチック。ああ、ロマンチックだわ。
関。出会えそうもない二人が出会った。それはそうね。運が悪けりゃ、敵対している。
リリ。奇跡よ。
関。ふふ、そう思うことにする。
(リリは飽きたのか、気を利かせたのか、とててと行ってしまった。)
芦屋。変なアンドロイド。A31とは全く違う。
関。好奇心の向け方と解釈、表現のやり方。結構個性的。
芦屋。あの年代の女の子の関心を再現しているとか。
関。そういう趣向はあるでしょう。なぜそれっぽく見えるかの研究とか。
芦屋。奈良さんの領域か。動物行動学。
関。気味の悪いほどの的確な人選。今もジャックたちがかわいそうなくらい奈良さんに従おうとしている。
芦屋。ああ、そうだな。
関。虎之介は気味悪く思わないの?。
芦屋。もともと、A31は伊勢さんの暴走を押さえ込むための仕掛けと聞いたことがある。そのA31を操れるのが奈良さん。自動人形に対する特異な才能を見いだされた。だから、ここにいる。
関。伊勢さんを再び生かすために。
芦屋。そうだ。伊勢さんは強力すぎる。だから使い道がなかった。
関。それなのに、情報収集部では縦横に活躍している。部下の信頼も厚い。
芦屋。伊勢さんが自制しているのは、A31がいるから。伊勢さんにはA31への対抗手段が無い。
関。自動人形は生物化学戦対応の救護ロボット。毒も効かなければ、極限環境でも行動できる。攻撃者から避難してきた人を守ろうとする。自分が破壊されるのもいとわない。
芦屋。伊勢さんが最大限の攻撃をしても、とりあえずA31はしばらくは動く。ジャックたちも同様。
関。虎之介さんの関心は、むしろこの組み合わせをアレンジした人物。
芦屋。そのとおり。勘だが、何か意図がある。
関。大きな将来計画だったら、恐ろしいこと。清水さんは知っているのかな。
芦屋。さあて。でも、彼女の行動は何か感づいている感じ。
関。いつまでも情報収集部に来ている。調べ物を理由にして。そして、ことある毎に、こうして付いてくる。
芦屋。ああ、何かつかんでないとしたら、それこそ不思議だ。
(志摩と鈴鹿は久しぶりの自由を楽しんでいる。仲がいいのだ、もともと。)
鈴鹿。志摩といると何となく落ち着く。
志摩。鈴鹿と歩くなんて久しぶり。
鈴鹿。しょっちゅうだわよ。大学なんかで。
志摩。そういえばそうだ。
鈴鹿。コンビを組んで1年。とりあえず、両人とも恋人はできない。
志摩。鈴鹿の好みは永田さんに奈良さん。
鈴鹿。両人とも遠い存在。どうしようもない。
志摩。級友にはめぼしい男はいない。
鈴鹿。がっかりよ。もう少し期待していたんだけど。
志摩。合コンなんか行かないの?。
鈴鹿。別に飢えてないわよ。
志摩。あっと言う間に時は過ぎる。命短し、恋せよ乙女。
鈴鹿。余計なお世話、と言いたいところだけど、実際、切実。
サクラ。どんな男の人が好みなの?。
鈴鹿。サクラ。なんであなたに相談しないといけないのよ。
サクラ。おぼれるものは藁をもつかむ。
志摩。それじゃサクラは藁になるよ。
鈴鹿。それに、おぼれてない。
サクラ。単なるたとえよ。
鈴鹿。もしかして、あんた、人間をバカにしてる?。
サクラ。してない。尊敬してる。
志摩。やっぱりバカにしているようだ。
鈴鹿。聞きしに勝る生意気な女。だれに似たのよ?。
サクラ。良くご存じの人物のはず。で、やっぱり永田さんがかわいい。
鈴鹿。正太郎を呼ぶ気なの?。
サクラ。へへっ、ばれたか。来なさい、正太郎。
志摩。命令している。
正太郎。来たよ。なんの用だい?。
サクラ。あなたは鈴鹿さんのお気に入りだって。
鈴鹿。どこをどういじれば、そういう結論が出るのよ。
サクラ。三段論法。
正太郎。三段論法なんか、どうでもいいよ。鈴鹿姉さん、きれいだね。
鈴鹿。ううむ。とめどもない意図を感じてしまう。
正太郎。うわさどおり、素直でない。
サクラ。根性が曲がっているともいう。
志摩。鈴鹿が怖くないの?。素手でも一撃で破壊されるよ。
サクラ。いちいち怖がってたら、街を歩けないわ。
鈴鹿。某人からくそまじめを取るとこうなるのか。
志摩。昨日みたいにくそまじめに戻った方がいいよ。
サクラ。そうした方がいいみたい。で、鈴鹿姉さん、どんな男の人が好みなの?。
鈴鹿。質問が変わっていない。
志摩。サクラは鈴鹿の恋のエンジェルを申し出ているんだ。相手してあげたら?。
鈴鹿。分かったわよ。くそまじめにしてよ。
サクラ。そうする。
鈴鹿。背が高くって、適度にいけメンで、優しくって、頭が適度によくって、体力があって、私より先に出てくれる。
サクラ。志摩さんそのものじゃない。
鈴鹿。そうだったか。
正太郎。ぼくはどうなの?。
鈴鹿。お子様。
正太郎。にべもない。
サクラ。お子様よ。その半ズボン、何とかしてよ。
正太郎。サクラだって、その本来なら恥ずかしいマイクロスカートが似合っている。
サクラ。暗にお子様だと言いたいわけ?。
志摩。もろに言っていると思う。
奈良。ええと、もういいか。古い修道院に行くそうだ。
鈴鹿。奈良さん…。それ、なんですか。
(ジャック親子と、リリを見つけた正太郎とサクラが3体で並んでいるのだ。大家族の物見遊山だ。)
伊勢。家族旅行。近所の子供付き。
鈴鹿。で、引率の親戚のおじさん。
志摩。言い得て妙だね。
芦屋。何と言うか、独特の光景だ。
関。自動人形がお笑い化している。真面目な開発意図、深遠な計画の一部なのに。
清水。そう。情報収集部に来るとこうなる。
(ぞろぞろと移動メカに乗り込む。修道院はすぐ近くだった。古いもので、博物館みたいになっている。)
志摩。何もない。建物と展示物だけ。
清水。でも、写真でみたものの確認になる。あちらは聖堂かな。
(がらんとした聖堂に入る。壁には多分、国宝級の飾り。案内係が解説してくれる。窓からの光の具合が印象的で、往時の聖なる空間を思い起こさせる。でも、それはずっと昔のことらしい。)
伊勢。建築や歴史に詳しい人なら楽しめそう。
奈良。ああ。
(自動人形はこういうのは全く分からない。きょろきょろ周囲を見回して、安全性を確認しているだけのようだ。アンなら美術品を形式的に分析してくれるのだが。)
正太郎。大切な建物のようです。良く保存されている。
サクラ。でも、私たちには意味は分からない。
奈良。たとえば、あちらは祭壇のようだが、なんの目的の製作物に見える?。
正太郎。祈りを捧げたり、感謝したりするもの。
サクラ。知識を検索するしかない。
奈良。それでも、人間が使うものとは認識できるだろう?。
正太郎。それ以外、考えられない。大切にされていることは分かる。
奈良。十分だ。
(しばらくぶらぶらして、今度は川沿いの食堂に向かう。)
案内係(男)。重点的にご覧になりたい場所がありますか?。
(テレビ会議にて全員で協議に入る。やっぱり、お城かな、ということになり、案内係に告げる。
モノリスとピナクスは街道を行く。若い連中は、ソファでくつろぐより、情報の多いコンソールを好むようだ。モノリスでは志摩、関、虎之介がモニターにかじりつき。ピナクスでも亜有がリリを連れてモニターで周りを見ている。)
伊勢。あの連中、モニター見ていて楽しいのかしら。
エス。いろいろ数字が出てくるから、面白いんじゃないですか。
伊勢。数字ねえ。速度とか距離とか。
エス。分析も可能。
伊勢。軍時代からのセンサーか。ID社のレパートリーも加わって、およそ考えられる限りの計測ができたはず。
エス。モノリスの評価も表示される。
伊勢。危険か危険でないかなど。ふむ、たしかに自動人形の評価には興味がある。
(なんてことしてるから、エス以外、全員モニターにかじりつくことになった。
一方のピナクス。)
奈良。モニターなんか見て、楽しいんだろうか。
クィーン。普通のカメラではなくて、ピナクスのセンサーの情報ですし、自動人形の頭脳による加工もされますから、よく分かるはずです。
奈良。なるほど。自動人形が外界をどう捉えているかはよく分かるか。それで、亜有がかじりついているんだ。リリは質問の答え役だな。
クィーン。そのようです。
(湖岸の城に着く。モノリスとピナクスは迷ったが、正太郎とサクラの姿で連れて行く。本体は袋に入れて、前に抱えさす。幼稚園の通園みたいだ。仲がいいようで、お手手つないでいる。エスはリリに巻き付いて行く。大家族に見える。
城は外見も立派だし、内装もすばらしい。ヨーロッパ旅行の楽しみの一つだ。美しく復元されている。案内係が自慢げに解説する。)
案内係。みなさんは日本からいらしたとのこと。日本にもこんな城がありますか?。
伊勢。ありますよ。でも、中は博物館みたいになっているか、保存されている場合はもっと地味。当時は輝いていたんでしょうけど、よほど傷まない限り、そのままにしている。
案内係。侘び、寂び、というやつ。
(関と亜有が顔を見合わせる。そうだったか、そのような気もする、しないような気もする。たしかに、黄金色に再現しているのは、数えるほどしかない。)
関。朽ちて行く建物や装飾を、いつまでもそのまま大切にする性向はあるようです。
清水。西洋の建物でも、朽ち果てたものに対する同様の日本人の感情はあります。
案内係。そうですか。微妙です。
(文化的なギャップというものだろう。どうしようもない。でも、歴史的重みは分かる。こちらが感激しているのが分かるらしく、詳しく解説してくれる。
周りの訪問客を見てみるが、東洋人はこんな史跡にはほとんど来ないようだ。たまに日本人に会うくらい。だから、目立つこと。じろじろ見られる。派手な救護服の正太郎やエス付きのリリも拍車をかけている。
城から湖をながめる。よい眺めだ。)
清水。ふーん、いい眺め。山も見える。
伊勢。霊峰。怖い感じ。
清水。近づかない方がいいかも。あの地形は氷河の跡かしら。
伊勢。どれどれ。そんな感じ。ええと、直近の氷河期の痕かな。
案内係。そう思います。
関。何か、学術的な見方。
芦屋。そうだな。彼女らにとっては単純に美しい景色ではないみたいだ。
関。うらやましいと言うか、ごめんこうむりたいと言うか。
芦屋。うん、図鑑なんかによくある、文字が記入された模式図が連想される。
関。あははは、地図か何かを見ているようなもの。
芦屋。おれたちで言うと、地図から作戦上の意味を読み取るようなものか。
関。おれたちって、まあ、そうだけど。もっとロマンチックな話がないかしら。
リリ。お二人、もう十分にロマンチックだわ。
関。リリ、突然現れて。びっくりしたじゃない。
リリ。さっきからいた。お二人がお二人の世界に入っていたから分からなかったのよ。
芦屋。それがロマンチックなの?。
リリ。いいえ、この出会いそのものがロマンチック。ああ、ロマンチックだわ。
関。出会えそうもない二人が出会った。それはそうね。運が悪けりゃ、敵対している。
リリ。奇跡よ。
関。ふふ、そう思うことにする。
(リリは飽きたのか、気を利かせたのか、とててと行ってしまった。)
芦屋。変なアンドロイド。A31とは全く違う。
関。好奇心の向け方と解釈、表現のやり方。結構個性的。
芦屋。あの年代の女の子の関心を再現しているとか。
関。そういう趣向はあるでしょう。なぜそれっぽく見えるかの研究とか。
芦屋。奈良さんの領域か。動物行動学。
関。気味の悪いほどの的確な人選。今もジャックたちがかわいそうなくらい奈良さんに従おうとしている。
芦屋。ああ、そうだな。
関。虎之介は気味悪く思わないの?。
芦屋。もともと、A31は伊勢さんの暴走を押さえ込むための仕掛けと聞いたことがある。そのA31を操れるのが奈良さん。自動人形に対する特異な才能を見いだされた。だから、ここにいる。
関。伊勢さんを再び生かすために。
芦屋。そうだ。伊勢さんは強力すぎる。だから使い道がなかった。
関。それなのに、情報収集部では縦横に活躍している。部下の信頼も厚い。
芦屋。伊勢さんが自制しているのは、A31がいるから。伊勢さんにはA31への対抗手段が無い。
関。自動人形は生物化学戦対応の救護ロボット。毒も効かなければ、極限環境でも行動できる。攻撃者から避難してきた人を守ろうとする。自分が破壊されるのもいとわない。
芦屋。伊勢さんが最大限の攻撃をしても、とりあえずA31はしばらくは動く。ジャックたちも同様。
関。虎之介さんの関心は、むしろこの組み合わせをアレンジした人物。
芦屋。そのとおり。勘だが、何か意図がある。
関。大きな将来計画だったら、恐ろしいこと。清水さんは知っているのかな。
芦屋。さあて。でも、彼女の行動は何か感づいている感じ。
関。いつまでも情報収集部に来ている。調べ物を理由にして。そして、ことある毎に、こうして付いてくる。
芦屋。ああ、何かつかんでないとしたら、それこそ不思議だ。
(志摩と鈴鹿は久しぶりの自由を楽しんでいる。仲がいいのだ、もともと。)
鈴鹿。志摩といると何となく落ち着く。
志摩。鈴鹿と歩くなんて久しぶり。
鈴鹿。しょっちゅうだわよ。大学なんかで。
志摩。そういえばそうだ。
鈴鹿。コンビを組んで1年。とりあえず、両人とも恋人はできない。
志摩。鈴鹿の好みは永田さんに奈良さん。
鈴鹿。両人とも遠い存在。どうしようもない。
志摩。級友にはめぼしい男はいない。
鈴鹿。がっかりよ。もう少し期待していたんだけど。
志摩。合コンなんか行かないの?。
鈴鹿。別に飢えてないわよ。
志摩。あっと言う間に時は過ぎる。命短し、恋せよ乙女。
鈴鹿。余計なお世話、と言いたいところだけど、実際、切実。
サクラ。どんな男の人が好みなの?。
鈴鹿。サクラ。なんであなたに相談しないといけないのよ。
サクラ。おぼれるものは藁をもつかむ。
志摩。それじゃサクラは藁になるよ。
鈴鹿。それに、おぼれてない。
サクラ。単なるたとえよ。
鈴鹿。もしかして、あんた、人間をバカにしてる?。
サクラ。してない。尊敬してる。
志摩。やっぱりバカにしているようだ。
鈴鹿。聞きしに勝る生意気な女。だれに似たのよ?。
サクラ。良くご存じの人物のはず。で、やっぱり永田さんがかわいい。
鈴鹿。正太郎を呼ぶ気なの?。
サクラ。へへっ、ばれたか。来なさい、正太郎。
志摩。命令している。
正太郎。来たよ。なんの用だい?。
サクラ。あなたは鈴鹿さんのお気に入りだって。
鈴鹿。どこをどういじれば、そういう結論が出るのよ。
サクラ。三段論法。
正太郎。三段論法なんか、どうでもいいよ。鈴鹿姉さん、きれいだね。
鈴鹿。ううむ。とめどもない意図を感じてしまう。
正太郎。うわさどおり、素直でない。
サクラ。根性が曲がっているともいう。
志摩。鈴鹿が怖くないの?。素手でも一撃で破壊されるよ。
サクラ。いちいち怖がってたら、街を歩けないわ。
鈴鹿。某人からくそまじめを取るとこうなるのか。
志摩。昨日みたいにくそまじめに戻った方がいいよ。
サクラ。そうした方がいいみたい。で、鈴鹿姉さん、どんな男の人が好みなの?。
鈴鹿。質問が変わっていない。
志摩。サクラは鈴鹿の恋のエンジェルを申し出ているんだ。相手してあげたら?。
鈴鹿。分かったわよ。くそまじめにしてよ。
サクラ。そうする。
鈴鹿。背が高くって、適度にいけメンで、優しくって、頭が適度によくって、体力があって、私より先に出てくれる。
サクラ。志摩さんそのものじゃない。
鈴鹿。そうだったか。
正太郎。ぼくはどうなの?。
鈴鹿。お子様。
正太郎。にべもない。
サクラ。お子様よ。その半ズボン、何とかしてよ。
正太郎。サクラだって、その本来なら恥ずかしいマイクロスカートが似合っている。
サクラ。暗にお子様だと言いたいわけ?。
志摩。もろに言っていると思う。
奈良。ええと、もういいか。古い修道院に行くそうだ。
鈴鹿。奈良さん…。それ、なんですか。
(ジャック親子と、リリを見つけた正太郎とサクラが3体で並んでいるのだ。大家族の物見遊山だ。)
伊勢。家族旅行。近所の子供付き。
鈴鹿。で、引率の親戚のおじさん。
志摩。言い得て妙だね。
芦屋。何と言うか、独特の光景だ。
関。自動人形がお笑い化している。真面目な開発意図、深遠な計画の一部なのに。
清水。そう。情報収集部に来るとこうなる。
(ぞろぞろと移動メカに乗り込む。修道院はすぐ近くだった。古いもので、博物館みたいになっている。)
志摩。何もない。建物と展示物だけ。
清水。でも、写真でみたものの確認になる。あちらは聖堂かな。
(がらんとした聖堂に入る。壁には多分、国宝級の飾り。案内係が解説してくれる。窓からの光の具合が印象的で、往時の聖なる空間を思い起こさせる。でも、それはずっと昔のことらしい。)
伊勢。建築や歴史に詳しい人なら楽しめそう。
奈良。ああ。
(自動人形はこういうのは全く分からない。きょろきょろ周囲を見回して、安全性を確認しているだけのようだ。アンなら美術品を形式的に分析してくれるのだが。)
正太郎。大切な建物のようです。良く保存されている。
サクラ。でも、私たちには意味は分からない。
奈良。たとえば、あちらは祭壇のようだが、なんの目的の製作物に見える?。
正太郎。祈りを捧げたり、感謝したりするもの。
サクラ。知識を検索するしかない。
奈良。それでも、人間が使うものとは認識できるだろう?。
正太郎。それ以外、考えられない。大切にされていることは分かる。
奈良。十分だ。
(しばらくぶらぶらして、今度は川沿いの食堂に向かう。)