ID物語

書きなぐりSF小説

第37話。サイボーグの休暇。14. 地下基地

2011-02-28 | Weblog
 (ともかく、クルマがやって来た方向に徒歩で進む。途中で、枝分かれがあるものの、新しいタイヤの跡がアナライザーで分かるので、そちらに進む。)

リリ。あそこから出てきたみたい。

 (扉がある。羽鳥と虎之介が前に立ったら、開いた。男3人がいる。中央の人物が司令官のようだ。脇の2人は小銃を持っている。肩にかけたままで、構えてはいない。)

司令。おまえたちは誰だ。帰れという警告が分からなかったのか。

羽鳥。財務省の臨検だ。東京の管理会社には許可を得ている。そちらこそ、連絡がなかったのか。

司令。わざとらしいぞ。さっさと攻撃しないのか。

羽鳥。そっちこそ。

司令。お互い、相手の出方を見ているってことか。大した自信だ。

羽鳥。ふん、悪く思うな。これが地の性格だ。

司令。では、お望み通り、中を見せてやる。付いてくるんだ。

伊勢。私たちも付いていっていいかしら。

司令。おや、かなりの人数だな。女もいる。どういう集団だ。

羽鳥。だから、財務省の臨検。それぞれ、その筋のエキスパートだ。

司令。一応了解した。その銃を持っていた連中はどうなった。

羽鳥。事故で気を失っただけだ。そのうち醒めて、戻ってくるだろう。

司令。そうか。

 (私に連絡が来た。とりあえず、クロとイチとレイを送る。亜有に操縦するように指示。虎之介はシリーズBですぐに飛び立てるように待機させる。
 司令は伊勢が気に入ってしまったようで、そばに付けて説明する。)

伊勢。ずいぶん念入りに準備なさっていること。

司令。ああ。上官を説得するのが大変だった。ここが指令所だ。

羽鳥。管制室だな。

 (人はいない。ざっと見る。コンパクトだが、十分な機能があるようだ。)

羽鳥。A国風でもB国風でもない。

伊勢。というより、我が国の技術のようよ。どこかの基地の公開日に見たことがある装置。

羽鳥。物知り。

司令。ふむ。調査に来たのは嘘ではないようだ。では、次に行くか。

 (タンクはすべて擬装。地下に燃料タンクや整備室がある。まだ準備中のようだ。)

伊勢。要は、地下基地。

羽鳥。ああ。

司令。分かっている上に、全然驚かない。きさまたち、何だ。

羽鳥。だいたい分かるだろう。政府の調査部隊だ。その筋の。

司令。ただで済むわけないのは分かっているだろうな。

羽鳥。そちらこそ。もう連絡済み。あきらめるんだな。

司令。こちらも仕事だ。行くぞ。

 (部下2人がさっと銃を構えようとする。六郎が蒸気ロケットをふかす。ものすごい光と音と蒸気。一瞬視界が途絶えたすきに、全員逃げ出す。伊勢たちと自動人形が誘導。)

羽鳥。走っているけど、行く当てはあるのか。

志摩。整備場だ。出入り口があるはず。

 (整備場に入る。非常口らしき通路がある。そこに駆け込む。上への階段がある。駆け登る。パネルを開けたら、別の空タンクの中に出た。)

羽鳥。出入り口が分かるか。

リリ。あっちよ。

 (羽鳥がドアを開く。と、ライオンが入ってきた。2頭とも。とっさに空木と羽鳥が小銃を構える。
 ところが、ライオンは急に動かなくなり、その場でゆっくり転がり始めた。)

伊勢。リリ、鎮静剤投与。

リリ。了解。

 (リリが鎮静剤を打つ。しばらくしたら、ライオンは眠った。)

羽鳥。何か使ったなっ!。

伊勢。秘密。

森本。マタタビだ。あるいは類似物。

釜本。どこから出てきたのよ。

森本。詮索しない方がいいようだ。

 (外に出る。後から司令たちがやってきたけど、眠っているライオンにびっくりして、なかなか近づけないようだ。警察は来ていた。イチたちも。羽鳥がゲートを開け、中に誘導する。永田がいた。)

伊勢。永田さん、わざわざ来てくださったの?。

永田。興味深い一件なので。

 (銃声。司令の部下がライオンを撃ったらしい。)

羽鳥。出てくるぞ、司令たちが。行ってくる。

永田。気をつけて。

 (羽鳥が正面に立つ。万一に備え、リリと伊勢が射程範囲に近づく。志摩と空木が回り込む。イチたちも待機。3人が出てきた。)

司令。そんなところにいたのか。なぜ早く逃げない。

羽鳥。投降しろ。おまえたちは終わりだ。

司令。どうする気だ。

 (永田が合図。警察官が集まってくる。司令は形勢不利と判断して、タンクに逃げ込もうとするが、志摩と空木が立っている。司令たちは危険と判断して立ち止まる。
 警察官が駆け寄る。部下たちはおとなしく警察官に小銃を渡す。
 地下基地には20人ほどがいたが、他は技術者や専門家だった。武器は持っていなかったらしい。簡単に地下基地は制圧された。羽鳥は永田といっしょに現場の検証に付き合う。
 残りのメンバーはモグにて再出発。イチたちは東京に戻す。)

釜本。土本さん、大丈夫?。いっしょに帰ろうか。

土本。あなたたち、ただ者ではない。冷静な行動。

釜本。あなたは落ち着いていた。助かったわ。

土本。いったい、相手は何者だったの?。

釜本。知らない方がいい。もう、政府が対応している。大丈夫。

土本。政府と対立する大きな組織。あんなのがいるんだ。

釜本。めったにないわよ。

 (こちらでは、伊勢がリリと三郎をよしよししている。)

土本。自動人形も恐かったんだ。

釜本。そうなの?。

伊勢。ええ。行動は人工知能が決定してしまう。自分たちは起こったことを、ただ感じるのみ。

土本。なんだか哀れ。

伊勢。さあ、どうだか。

リリ。私たちは、今が幸せ。うまく使ってくれる。

三郎。ここは特別な地。来てよかった。

土本。この子たちのためにもがんばらなきゃ。

釜本。何をするの?。

土本。私のできることを。

第37話。サイボーグの休暇。13. 獅子退治

2011-02-27 | Weblog
 (羽鳥と志摩と空木が展開して、施設を調べ出す。残りは集団で散歩。)

森本。さすが、慣れてる。

伊勢。空木くんは調査は素人のはずよ。志摩の指示に従っているだけ。

 (直径30mほどもあるタンクが、広めの通路の脇に林立している感じ。そして、他には何もない。)

森本。やはり、タンクの中を調べないとだめだ。

リリ。あれ。

 (リリの指差した方向には、動物がいる。こちらにゆっくりと近づいてくる。)

森本。ライオンみたいだ。

伊勢。みたいじゃなくって、本物みたい。オスのライオン。

森本。釜本、ライオンをやっつけたことあるか。

釜本。ないわよ。

伊勢。冗談言ってないで。ゆっくりと後退して、入り口からでるのよ。後ろ向いて走ると、追いかけられる可能性あり。

リリ。あっちにもいる。

 (ライオン2匹に挟み撃ちされた格好だ。)

伊勢。どこから出てきたのよ。

三郎(通信機)。タンクは特定できた。こちらはライオンを誘(おび)き寄せるから、タンクに行け。

伊勢。人工知能の判断。とりあえず従ってみるか。

森本。ただのカラスに何ができるんだ。

伊勢。ワタリガラスよ。見てのお楽しみ。

 (三郎が、一頭のライオンの頭を後ろから蹴っ飛ばし、さらに、目の前でばっさばっさと羽ばたいてから逃げる。頭に来たライオンが三郎を追いかける。伊勢たちは三郎が指定したタンクに走る。もう一頭が追いかけてきたが、再び、三郎が後頭部を蹴っ飛ばす。2頭は仲良く三郎に誘導されていった。目標のタンクには羽鳥たちも集合。)

羽鳥。三郎、なんてやつ。10億円でも、買う。

伊勢。生きて帰れたらね。

リリ。入り口がある。

羽鳥。こいつも便利。どうやって発見したんだ。

伊勢。いいから、入るぞ。志摩、開けろ。

 (志摩が入り口を開けたら、羽鳥と空木が飛び込んだ。志摩も入る。ついで、全員。ライオンが入らないように、入り口を閉める。)

土本。タンクの中に入るのでなく、施設の外に出たらよかった。

羽鳥。いずれにせよ、警察は呼ぶ。安心しろ。

 (LS砲で照らす。タンクの中はがらんどう。)

森本。こんな石油タンクってあったか。

釜本。ないわよ。タンクというより、倉庫の感じ。

森本。床は普通のコンクリートだ。壁ものっぺらぼう。

釜本。倉庫というより、単なる空間。空調も何もない。

 (四郎と六郎に調査させる。ふむ、地下トンネルらしきものを発見。)

釜本。アクティブソナーでも持ってるのかな。

志摩。あるよ。内蔵。クリック音が聞こえるだろう。

釜本。それでさっきから、コッコッコッ、って聞こえるんだ。入り口もそれで発見したのか。

リリ。そうよ。反射の違いで。

 (トンネルの入り口はパネルで蓋をされている。)

伊勢。四郎、開けろ。

土本。ライオンがでてこないかな。

四郎。向こうには何もない。階段があるだけ。それに、なにか来たら、すぐに閉める。

羽鳥。さっさと開けろ。

 (開けたら、たしかに階段が見える。拳銃を構えた羽鳥が先に行く。その次が空木。広い廊下にでた。)

羽鳥。各タンクの地下を結んでいる感じだ。

森本。小さなクルマなら通れそうなくらい広い。

伊勢。そのようよ。タイヤの跡がある。

リリ。クルマが来る。

 (ヘッドライトを点けた車が、かなりの速度でこちらにやってくる。エンジン音はしない。電気自動車のようだ。と、スピードを落とす気配はない。)

羽鳥。危ない。

 (全員両脇にどける。車は通りすぎたかと思うと、器用に反転して、こちらに再び向かってくる。)

羽鳥。しつこい野郎だ。

 (羽鳥が拳銃を構える。運転手を狙撃するつもりだ。と、六郎が蒸気ロケットで発進。フロントガラスを体当たりで破って侵入。急ブレーキをかける。車は側壁に軽く衝突して止まる。羽鳥らが駆けつける。)

羽鳥。運転手と助手一名。気を失っている。

リリ。命に別条はない。

伊勢。しばらく眠らせて。

リリ。分かった。

 (リリは鎮静剤を打つ。)

志摩。武器がある。

羽鳥。ああ。向こうさん、十分に準備しているようだ。

 (自動小銃が2丁あった。羽鳥と空木が装備する。)

土本。もう十分よ。警察を呼ぼう。

羽鳥。ああ。そうしよう。

 (羽鳥は階段を登って、地上付近から通信。本部に連絡して、警察に踏み込むよう要請。)

羽鳥。じゃあ、こちらも進むぞ。

土本。もう十分よ。

羽鳥。この装備を見ろ。踏み込んだ警察官が危ない。もう少し情報を集めなきゃ。

土本。やれやれ。

第37話。サイボーグの休暇。12. 山の中のタンク

2011-02-26 | Weblog
 (名古屋、京都を抜け、中国自動車道を西進する。)

空木。山の中だ。

羽鳥。瀬戸内海から日本海まで100kmほどしかない。すぐに街に出られる。

空木。窓を見ててもつまらないな。

三郎。上空に行ってくる。モニタでアナライザーの画像が見られるはずだ。

 (三郎が飛び立つ。)

森本。便利。

 (空木、土本、森本、釜本がコンソールの前に集まる。土本が少し教えるだけで、森本も釜本もさっさとモニタを操作しだす。羽鳥は助手席でモニタを見る。)

伊勢。なんだか、大変な人材を送り込んで来たみたい。釜本さんたち、のほほんとした感じだから、最初、誤解しちゃった。

羽鳥。人は見かけに寄らないの典型だ。まだ、知りたい実力は見せてもらってないが。

伊勢。三郎を使い始めた。よくやる。

羽鳥。三郎が言うことを聞いていいと判断したんだろう?。

伊勢。ええ。その表現でいい。

羽鳥。自動人形は何か感じ取るのか。

伊勢。それはあると言われている。自動人形が独自に判断しているというよりは、私たちの行動を見て敏感に態度を変えているみたいだけど。

羽鳥。大したものだ。我々がいなかったら、別のヒントを探り出す。

伊勢。人工知能だもの、蓋然性の高いところから試みる。そのロジック作りは熱心な人が何人もいる。キキやレイは飛び出してしまうから、その状況になることが多い。

羽鳥。自律動作か。本当に自動人形が自分で自在に判断しだしたら、大変。

伊勢。そんな技術は無い。まだまだよ。指令の節約にはなったけど、フォローが大変で、全体として楽になったとは言えない。

 (森本たちは三郎からの映像を楽しんでいる。)

羽鳥。便利なやつ。どれくらいの速度で飛べるんだ?。

伊勢。普段は時速60kmくらい。今はこちらに合せて、100km/hで巡航している。数分なら、その倍は出るはず。

羽鳥。どれくらい飛んでられるんだ。

伊勢。6時間くらい。飛び方にもよるけど。空中で燃料補給すれば、ずっと飛んでられる。

羽鳥。空中給油って、非現実的な。

伊勢。やったことはない。可能性よ。

羽鳥。もっと使われてもよさそうだな。

伊勢。10億円のロボットカラス。とんでもない。誰が買うのよ。

羽鳥。おっと、すっかり忘れていた。じゃあ、何のためにそんな莫大な資金が動いているんだ。

伊勢。それが分かれば、自動人形の不気味さはぐっと低くなる。

 (三郎の高度を上げる。視界は広くなるけど、解像度はどんどん悪くなる。それでも、ぶれることなく、画像は安定している。)

釜本。大したもの。これじゃ、隠せるものなんか何もない。

土本。あんな山の中にタンク群。

森本。どれどれ、何かの工場らしい。備蓄基地とかではない。

釜本。辺鄙な場所にあるから、リサイクル施設か何かでしょう。

土本。近づこうか。

釜本。うん、見学。三郎、近づいて。

三郎。了解。

 (すっかり三郎を操作している。で、近づいてみると、円筒形の大型タンクが8基もあるのに、処理設備のようなものはない。ちょっと怪しい。)

土本。ふつう、あの手のタンクには会社名を入れるんじゃなかったっけ。

森本。義務ではない。それに、誰に見せるんだ?、こんな田舎で。

釜本。ふうん。やっぱり備蓄用かな。

空木。入り口はどこだ。

森本。守衛室みたいなのがある。

 (三郎が近づくと、やはり守衛室のようだ。門は閉められていて、ついでに守衛もいない。)

志摩。登録されているかな。…。登録上は、ゴルフ場のようだ。

森本。9つめはどれだ。

釜本。通路を利用するのよ。

森本。グリーンのようなところはなさそうだ。

空木。タンクに見えるのが室内ゴルフ場ってか。なバカな。

森本。冗談だ。疑義あり。

羽鳥。行くつもりか。

伊勢。虎之介たちに行かせよう。イチたち余ってるし。

羽鳥。おれが行く。それでいいか。

伊勢。高速を降りるの?。熊本工場はどうするのよ。

空木。放ってはおけん。行こう。

 (最寄りのインターチェンジを降りて、タンク群に向かう。まだ日は高い。モグから降りて、守衛室に向かう。)

羽鳥。その腰につけているのは何だ。

釜本。模擬刀よ。金属でできた。

羽鳥。忍者刀みたいに真っ直ぐだ。見せてくれ。

釜本。いいけど、すぐに返してよ。

羽鳥。たしかに、打撃しても、突いても痛いだけのようだな。鉄パイプ代わりってとこだ。

釜本。奪い取られても、大した攻撃力にはならない。

羽鳥。何か技を持ってるな。恐ろしいやつ。

伊勢。でもって、あなたの分厚そうな手袋は何よ。

森本。普通に手袋。

羽鳥。なわけない。ちょっと見せろ。う、重いぞ。こんなの振り回すのか。

志摩。すね当ても着けてる。

羽鳥。こっ、こいつら、戦闘準備完了、ってとこだ。

釜本。あんたもじゃない。格好だけかわいいけど、装備している。

羽鳥。見たな。

釜本。見てないけど、容易に想像できるわよ。

羽鳥。よかろう、見せてやる。

 (護身用拳銃を取り出す。すぐにホルダに戻した。)

釜本。威力はあまりなさそう。

羽鳥。当たり前だ。何をするつもりなんだよ。

伊勢。調査よ。うーん、でも困った。守衛がいない。

志摩。呼び鈴がある。押してみるよ。

 (返事はない。5分ほど待つけど、何も起こらない。)

羽鳥。不用心だな。特別監査だ。

伊勢。んなご都合のよい。

羽鳥。一応、そのゴルフ場管理の会社には知らせよう。

 (東京の管理会社に連絡したら、そこは全然開発のめどが立ってないとのこと。政府の立ち入りはご自由にと。)

伊勢。やっぱり疑義ありか。

羽鳥。じゃあ、入るぞ。

伊勢。リリ、何か仕掛けがありそう?。

リリ。脅威は検出されない。監視カメラも何もない。

羽鳥。南京錠か。柵を乗り越えた方がいいな。

森本。任せろ。

 (小さな道具箱を取りだし、手袋のまま器用に錠を開ける。)

羽鳥。きさまっ、何てことを。

森本。入るのか、入らないのか。

羽鳥。ありがたく入らせてもらう。

第37話。サイボーグの休暇。11. 九州へ

2011-02-25 | Weblog
 (空木は九州に観光に行きたいと所望。熊本支社に立ち寄るのが直接の目的。伊勢と志摩と羽鳥が付いて行く。森本、釜本、土本が同行。人数が多いので、モグで行く。自動人形はリリと三郎と四郎と六郎。翌日早朝、トカマク基地から出発。なぜか、羽鳥が運転。助手席の伊勢が話す。)

伊勢。話しかけていいかな。

羽鳥。複雑なことでなければ。

伊勢。なんで運転してるのよ。

羽鳥。運転したいから。

伊勢。購入を検討しているの?。

羽鳥。買えたらなあ。要求しても普通のワンボックスカーにされてしまいそう。

伊勢。モグ2号との比較。

羽鳥。あちらも興味ある。もうすぐ来るんでしたっけ。

志摩。来週。空木とは入れ替わりになる。

土本。惜しかったわね。乗りたかったでしょう。

空木。ああ。ま、そのうち機会もあるだろう。

伊勢。また、こんな感じで来たときに。

釜本。よくできたクルマ。それに、キャンピングカー部分は贅沢。

森本。日本のメーカーの発想ではない。

空木。F国ID社の渾身の作だ。他動人形。

釜本。ロボットカー。

空木。ただのロボットじゃないぞ。センサー群は自動人形と同等以上。頭脳があれば、自分で生存できるほどの仕掛けだ。

釜本。頭脳は自動人形。三郎でもいい。

三郎。今は私が支配している。

リリ。違いは外見だけよ。能力は変わらない。

釜本。情報処理能力に余裕があるからできる。

伊勢。普段はずいぶん余裕がある。

釜本。相手を追尾したりするときに、処理能力が必要だから。

伊勢。そうなのかも。解析しないと分からないけど。

森本。たぶん、そうでしょう。効果器が複数あれば、それで対応する。

リリ。なければ、それなりに。

土本。あれば、それなりにってこと。冗談じゃない、恐ろしいこと。

伊勢。なるほど。君たち、よく分かってる。

羽鳥。さすがに、我が国屈指の機械メーカーが派遣しただけのことはある。

土本。火本たちより、応用に詳しいかも。

伊勢。じゃあ、4機態勢のA31を操ってる奈良部長は、5倍力というのは過小評価。

リリ。モグも五郎も六郎も加わることができる。

土本。モグ2号が来たら、さらに他動人形が増える。

森本。最初から想定されていたのかな。

釜本。設計段階で、すぐに気付いたでしょう。私なら十分に余力のある処理能力を要求する。

 (道のりは長い。昼食は走りながら、モグ内で摂る。志摩と土本が食事を用意する。お茶とサンドイッチ。運転は伊勢に交代している。)

志摩。お手軽。

土本。自分で言わないの。ちゃんと料理したわよ。

森本。贅沢な気分だ。うん、おいしい。

釜本。モグで食べると、なんとなくゴージャス。

モグ。気に入ったか。

釜本。うわ、聞いていたの?。でも、そう。気に入った、とても。

森本。我が社もこんなクルマを考えないと。

羽鳥。そちらさんのクルマを改造したキャンピングカーならいくらもありそうだ。

森本。もちろん。だが、直接は扱ってない。ベースとして使ってくれているだけだ。

釜本。それに、そのベースも普通のトラックとかバス。こんな高度な制御はしない。

土本。このクルマは、もともと計測機の運搬用として考えられたからよ。そうでしょ?。

志摩。うん。その部分は他の我が社のクルマと共通している。他動人形のセンサーを生かすための車体。

森本。技術の蓄積があったってわけだ。突然できたのではない。

空木。一品ものに近い。

釜本。でも、何台か売れたそうじゃない。これほどのセンサーは付いてないけど。

志摩。あれは潜水観光船目的。そう、最低限の安全のためのセンサーしか付いてない。

森本。需要はあるってことだ。

空木。日本のメーカーに出てこられたら、かなわないよ。

森本。この上品な仕上げは到底無理。もっと廉価版の話だ。

釜本。数が売れないものは、そもそも作らない。

空木。悪かったな。

釜本。賞賛しているのよ。さすがF国。度量が違う。

空木。それはなんとなくある。

釜本。買う人も出てくる。余裕で。

空木。日本なら企業、団体。

釜本。ええ。だから、計測機運搬用というのは、いい目の付け所。

空木。それしかできない。おれの乗ってきたシリーズBだって、観測用途以外では、平凡な性能しか出せない。

森本。高価すぎるんだ。たいていの人があきれる値段が付いている。性能をよく吟味したら、納得できるんだけど。

空木。クルマも普通に売る気は無いんだよな。

第37話。サイボーグの休暇。10. 森本と釜本

2011-02-24 | Weblog
 (いっしょに新車両でトカマク基地に行く。伊勢も連れて。自動人形はクロとアン。)

森本。見たことないクルマだ。

奈良。思い出した。鈴鹿が来たので、特注したんだ。ID社製です。

釜本。不思議なサスペンション。何か仕掛けがある。

奈良。高度なアクティブサスペンション。計測機を乗せる場合のため。

森本。なるほど。試してもらえますか?。

 (お安いご用、といくつか試す。森本たちも森本たちで、平然と感触を確かめている。)

釜本。我が社のクルマの方が乗り心地は良いかも。

森本。だが、こちらは実用そうだぞ。何かノウハウがあるんだ。

釜本。それは分かる。

 (ふむ、産業スパイもやるわけだ。堂々としゃべっているのが、ふてぶてしい。
 亜有に連絡し、第二機動隊本部に行く。主なメンバーを集めて、互いに自己紹介。私は経緯を説明する。)

芦屋。ええと、要するに何がどうなのか分からん。

羽鳥。ID社が情報収集部を持つように、自社にも同等の部署を置きたいということ。

芦屋。肝心なところを教えるわけがない。なめられている。

羽鳥。そのようだ。だが、私企業としてはあっぱれな態度じゃないか。なんとか応援したい。

清水。軍需も扱う世界的有名企業。それなりの人材を確保するのは容易と思う。

羽鳥。だろうな。だが、そのままでは軍事衝突になる。虎之介、最近一発でも撃ったことあるか。

芦屋。そういえば、とんとごぶさたしている。腕、鈍ってないだろうな。

羽鳥。戦わずして勝つ。敵を殲滅させるなど愚の骨頂。ただし、いつまでも、幸運が続くとは思えん。

清水。で、自動人形が武力衝突の回避に寄与していると。

森本。なんとなく、そんな連想が。

芦屋。そちらさんは、自警団を組織するつもりはあるのか。

森本。小銃で武装した?。

芦屋。戦車や戦闘機を作っている。

羽鳥。おいおい、仮にも法治国家だぞ、日本は。政府を当てにしてくれていい。

釜本。それなりの部隊はいるみたい。でも、私たちは関係ない。

芦屋。もうやってる、ってわけだ。その上でこちらに来た。

羽鳥。用件は分かった。協力できるかな。

清水。できるだけのことをする。

火本。いいかな。発言して。

清水。遠慮しないで。

火本。本当の戦闘は厭わないけど、できれば回避したい。そのために、情報収集部が良いモデルになる。

釜本。そう思ってくれていい。

清水。それほど大したものなのかな。

羽鳥。奇跡と言っていい。我が政府も研究しているが、配備するどころか、計画段階ですべてボツ。

芦屋。志摩と鈴鹿がいるから。

羽鳥。あいつらの存在は大きい。だが、普通に優秀な戦闘員だ。裏付けが必要だ。

志摩。おれ、いるけど。

羽鳥。そして、切り札の伊勢さん。

伊勢。私、そんな評価なの?。

羽鳥。秘密。だが、バレバレだろう。究極の攻撃手段。これがあるから、志摩も鈴鹿も縦横に行動できる。そして、奈良さんと自動人形。どんな事態にも対応できる、驚異のロボット集団。

奈良。未完成だ。

羽鳥。その評価は後世に任せた方がいい。

リリ。私たちが平和に寄与。

羽鳥。そう言っている。今のところは、だがな。

リリ。信用していないんだ。

羽鳥。許してくれ。そのように訓練されている。

リリ。いいわよ。こちらだってそうだもの。でも、羽鳥さんは信頼している。信じていい。

羽鳥。現場ではだろう?。それはこちらも同じだ。リリが裏切ったら、こちらの態勢は完全に崩れる。

芦屋。たしかに、自動人形の存在をあてにしているところはある。

釜本。その自動人形は、奈良部長のコントロール下にいる。

清水。ええ。日本にいる自動人形のコントローラは奈良部長と伊勢さんと私。でも、最終的には、奈良部長が統括する。だから、奈良部長が操縦していると言っていい。今は11機か。

釜本。そこのところが知りたい。

清水。いいわよ。どうしようか。身近で知っている伊勢さんといっしょに相談しようか。いいですか?。

伊勢。私は構わない。

 (でもって、作戦会議に入る。なぜか知らぬが、私は外された。
 しかたがないので、アンとリリと四郎といっしょに基地内の探索。リリは四郎と手をつないで歩く。四郎はリリの兄役だが、リリからすると、自分のかわいがっている人形役らしい。四郎は説明の相手役をさせられている。四郎は時々相槌を打ちながら、おとなしく聞いている。
 コクウ班の8分の1の街を組み立てているところに来た。とても広いスタジオのような部屋で、中央に25mほどもある円形の模型の街がある。実物大にすると、直径200mに相当する。中心に小さな商店街があって、周囲は森やら畑やら。ぱらぱらと農家があって、川もある。日本の古い田舎町みたいだ。いわゆるバザールや西部劇の街と同じ構成。完成時にはプラネタリウムみたいにドームで覆うらしい。
 脇にロボットの操縦席用のボックスが2基あって、調整中。街には、無線コントロールの模型の小型車があって、そこからの画像がモニタに映っている。本当は、ロボットでないといけないのだけど、まずはクルマで試してみるということだ。街が完成に近づいたら、車椅子みたいなのを作るのだと。)

リリ。人形の街みたい。

奈良。やたらと大きい。豪勢だな。

リリ。リリ、あの街に行って、遊んでみたい。

奈良。できるかな。

 (コクウ班の技術者が対応してくれた。こちらがどんな点に関心があるかを知りたかったらしい。操縦席で、技術者が模型のクルマを無線操作する。モニタに前方などの様子が映し出される。座席はうまくできていて、模型に連動して傾いたり揺れたりする。ゲームセンターみたいだ。)

リリ。うわあ、本当に街を走っているみたい。

技術1。はは、よいしょしすぎ。でも、面白いでしょ?。

奈良。ええ。たしか、本来はサイボーグで小さくなって、事故などに対応。

技術1。そうです。一度、小さな街で調整しきってから、こちらの世界で試す。そうしないと、中途半端なものができる。

奈良。自動人形と同じか。何に役立つのか、さっぱり分からない。

技術1。人間と同じ動作なら、人間を投入すればいい。そう。最初から役立てようとすると、普通の道具と変わりなくなる。まずは、私たちが小さくなって、小さな街で暮らしてみる。

リリ。面白いの?。

技術1。面白いぞ。大きさが違うと、物の動きも違う。別世界と言っていい。

奈良。ここが最初の拠点になるのだ。

リリ。もっと先があるの?。行ってみたい。

技術1。64分の1と512分の1については、計画が始まっています。本当は、8分の1サイボーグに64分の1の街とサイボーグを作らせたいけれど、できるかどうか。

奈良。今は直接作るのと両面から。

技術1。失敗できないというのが大きい。企業の研究よりは楽ですけど。当面は、4096分の1が目標。これで、市販されている最小の電子部品の大きさ。

奈良。0.5mm程度か。目には見えない。

技術1。見えますよ。

リリ。ホコリの大きさ。肉眼では何も分からない。

技術1。そういう意味か。ミクロの決死圏をするには、さらに2回、8分の1の縮小をしないといけない。

リリ。光の波長の程度の大きさのサイボーグ。

技術1。それは、その1つ先。でも、たしかに、どうやって見るかからして問題。手のひらが光の波長程度の大きさか…。

奈良。想像を絶する。

技術1。ええ。やりがいがあります。ここに来てよかった。

 (リリとアンにも運転させる。すぐに慣れて、楽しそうだ。技術者は街の風景に慣れているらしく、見どころを紹介して行く。
 ふと気付くと、ギャラリーがいる。羽鳥に伊勢に森本に釜本。)

伊勢。お楽しみだこと。

森本。これがロボット。信じ難い動き。

羽鳥。ああ。いまさらながら不気味だ。特に、現場での動きは印象的だ。

釜本。だから、絶対に役立つと思ったんだ。

伊勢。莫大な開発費は、今も続いている。再開発中のためか、毎日のように小さな改良の知らせが来る。奈良さん、いいかな。

奈良。何でも。

伊勢。空木くんは今週末には帰る。その後は、森本くんたちはID社東京の、旧第二機動隊本部を使ってもらう。

奈良。いいけど、理由は。

伊勢。森本くんたちが通いやすいこと。自動人形はA31がいる。

奈良。作戦上は、どちらにいるかはあまり関係ないか。自動人形はA31の方が分かりやすいかも。

伊勢。じゃ、そうする。

奈良。そろそろ帰る。あとはよろしく。

伊勢。任せて。

第37話。サイボーグの休暇。9. 彗星の如く

2011-02-23 | Weblog
 (産業関連や外交関連の人々はそそくさと帰ってしまった。残りは、いわゆる関係のお偉方で、気勢をあげるために講堂に集合。まず、海原博士が感謝の意を表明。各界から応援の言葉が添えられた。)

水本。今のところうまく行ってる。順調すぎて恐いけど。

火本。行けるところまで行かなくちゃ。

鈴鹿。何か外部の動きはあるの?。

火本。ネットの一部で話題になっているのと、海外での対応がぱらぱら聞かれる程度。

鈴鹿。同じような国家計画とか。

火本。調査中、ってとこじゃないかな。本日の御一行様の中にも何人か関連する人がいたようだ。

鈴鹿。我が国も。

火本。当然、検討はしている。今夜の会合は、それらへの対応をどうするかが主題だろう。

 (その会合と言うか、接待に私と伊勢は誘われてしまった。タクシーで行く。いままで見たこともないような豪勢な料亭。ID社が招待したことになっている。我が社からの持ち出しは途方もない額なのだけど、形としてはサイボーグ研からかなりの研究費、東京オフィスとトカマク基地の管理費をもらっているからだ。
 我が社から来ている代表は事務方なので、技術担当は情報収集部周り、ということになる。羽鳥と関が警護のために同席。伊勢は志摩を呼んだ。自動人形は、三郎とコクウ、あと、迷ったあげくアンとジロを呼ぶ。リリはズケズケとものを言ってしまいそうなので、おとなしめで場を取り繕うのがうまいアンにしたのだ。大江山教授から、クロと六郎の要望があったので、動物型は全機集合。火本と水本と土本もいる。)

伊勢。こんな豪華な食事処、初めて。

奈良。私もだ。同じ部長でも、あちらは慣れているようだ。

 (総務部長はこうした会合に慣れているらしく、うまく部下に命じて幹事している。豪華にも鳴り物入り。私と伊勢がじっと聞いていると、部下の月野さんがやってきて、主だったメンバーに目通しをせよと。私と伊勢が交代で出向き、言葉を交わす。以前に見た人が多いけれど、初めての人もいる。全員、大げさな肩書きを持っている人々だ。もちろん、私は自動人形の統括者として紹介される。
 当然、鳥もアンドロイドも操縦しているのか、と言う質問が多い。社交辞令のあいさつのようだが、手短に状況を説明する。
 挨拶がおわって、ほっとしていたら、志摩が耳打ち、伊勢がつかまっていると。なにか突っ込んで話をしているようだ。もらった名刺をチェックする。コクウ班の筆頭のスポンサーで軍需部門もある我が国を代表する機械メーカー。そこの技術部長の一人だ。伊勢がやってきた。)

伊勢。この宴会が終わったら、付き合って欲しいって。情報収集部の活動に興味があるらしい。

奈良。おもいっきり怪しい相談をかけられそうだな。

伊勢。どうする?。良ければ2人で行くことにしたいのだけど。

奈良。どんな出方をされるのか、興味はある。

伊勢。じゃあ、OKしておく。

 (鈴鹿に連絡して、志摩とアンたちを迎えに来るように言う。伊勢と空木と私は別のタクシーで、その企業の重役の屋敷に向かう。
 丁寧に応接室に案内される。広くて上品な作りだ。お茶が出て、しばらくしたら重役が技術部長とともに入ってきた。)

重役1。こんなに遅く、お誘いして申し訳ありません。他に機会を設けるのが難しくて。

伊勢。秘密の会合。

重役1。そんなところです。そちらが評判のサイボーグ。

伊勢。空木一人です。宇宙服みたいなのは外骨格型ロボットで、コクウと名前が付いています。私、伊勢陽子。こちらが部長の奈良治。

 (名刺交換。)

重役1。来ていただいたのは他でもない。我が社でもそちらと同じような組織を作ろうと思いましてな。ぜひともノウハウを伝授いただきたい。

伊勢。ええと。どのように伝わっているのかしら。

重役1。日本ID社情報収集部。企業や団体の公開された情報をまとめて、データベースにして売っている。もちろん、自社の製造販売戦略に真っ先に応用。

伊勢。そのとおりです。

重役1。だが、それはあくまで表向きの仕事。本当は、疑義のある企業団体に近づいて、動向を調査すること。おそらく国防省筋の秘密機関の支所だと言われている。

伊勢。ぶっそうなうわさ。でも、貴社のような大企業なら、同様の調査部隊はいるはず。

重役1。通常、秘密にする。ID社も当然、秘密部隊をお持ちのはずだ。だが、そちらは違う。堂々と営業している。

伊勢。企業に接近するため。

重役1。活躍もいくつか知られている。たしか、正体不明のステルス機を追い詰めたとか。

 (春の東京湾の事件だ。軍需で何かつながりがあるのかもしれない。)

重役1。その他、国際級の事件もいくつか。

伊勢。それで、こちらにどうしろと。

重役1。知っての通り、我が社は国際企業。そちらのような部門を作るのが、私の夢だったのだ。

 (おおっと、かなりの勘違いおじさんらしい。)

伊勢。何の用件かと思えば。そんなの、ID社に外注できるわけありません。我が社は実験機材メーカー。そちらでお作りになったらいいじゃないですか。軍需関連を通じて、それなりの人物は確保できそう。

重役1。では、研修させていただけませんかな。こちらの精鋭を派遣する。

奈良。理屈としてはできるはずだ。

伊勢。でも、当然、全部を開示するわけには行かないし、事件とやらもなかなか起こらない。

重役1。それでいいです。雰囲気が分かれば、及第点。

 (あくまで食い下がるつもりだ。とにかく、その精鋭という人物に会ってみることにした。
 翌日午前。情報収集部のオフィスにて。面接のため、伊勢はトカマク基地から呼びよせた。鈴鹿は営業に出かけている。男女2人が乗り込んで来た。)

森本。おはようございます。情報収集部はこちらでしょうか。

伊勢。ええ、その通り。私、情報収集部の副部長格の伊勢陽子。こちらが部長の奈良治。

森本。私は森本譲(もりもと ゆずる)。こちらは釜本真帆(かまもと まほ)。某機械メーカーから来ました。

釜本。おはようございます。

伊勢。ようこそ。ささ、こちらに。

 (面接に入る。で、この二人、普通の営業職みたいだ。自社の機械全般についての研修は受けている模様。どこが精鋭かというと、森本くんが柔道6段、釜本さんが剣道5段。年齢は羽鳥と同じくらい。森本は170cmほど、釜本は160cmほどと、普通の身長。形(なり)は平凡なサラリーマン。)

伊勢。…。いったい、どういう部署と紹介されて来たんですか。

森本。怪しい動きの企業団体の調査。商売しながら接近。証拠をつかんだら、警察か監督官庁に通報。

伊勢。そうですけど、そんな怪しい動きをつかんだら、ただでは帰してもらえない。

森本。ええ。ですから、武術のできる2人が来ました。

伊勢。相手はプロよ。

森本。それって、銃器で攻撃してくるってこと。

伊勢。陰険な罠も。

森本。話がちょっと違っているような気がする。

伊勢。はっきりいって、あんたらお荷物。さっさとレポート書いて立ち去れ。

森本。きつい意見。どうしよう、1カ月間はいろって言われたけど。

釜本。話が決裂したって、報告します。さよなら。

伊勢。うん。いい選択。

奈良。まあまあ。せっかくだから、部内の案内をする。それから、どういうつもりで来たのかの話をしよう。

釜本。すみません。そうしてもらえるとうれしい。

 (道場と射撃場はまだ開示できないので、表面だけだ。タロとジロが付いてくる。伊勢が差し向けたらしい。)

釜本。これが自動人形。精巧な動き。

森本。A国軍が開発した。銃器を扱えるらしい。

釜本。殺人兵器。ターミネーター。

森本。完成していたら、A国軍が手放すわけない。

奈良。そのとおり。調査と後始末にしか役立たない。

釜本。何かが足らなかったんだ。

森本。逆に、何かが多すぎたのかも。

釜本。でも、ここでは役立ってる。

 (こいつら、表面上ののほほんとした感じは擬装のようだ。頭はよさそうだし、深く調べてきたらしい。最上階の社員食堂でいっしょに昼食を摂る。)

奈良。ふうん、つまるところA31の動きを見てこいと。

森本。情報収集部がうまく行っている原因の一つとの評価です。

 (それはあるかもしれない。4機とも活躍している。)

奈良。今はトカマク基地に自動人形がたくさんいる。空木もいるし、最初はトカマク基地に行ったらどうだ。

釜本。ええ、奈良部長が良いと判断されるなら、従います。

第37話。サイボーグの休暇。8. トカマク第二基地完成式典

2011-02-22 | Weblog
 (週明け。トカマク基地の地下部分がほぼ完成。地上部分も、回廊部分が完成し、一般公開が可能。エクササイザーなども初期型が完成しているので、大向うにお披露目となった。対象は、議会筋、政府、学術、産業界。つまり、めぼしいところ全部。大臣までは来ないけど、かなりの要職の人が100人近くも来る。ID社は総務課を上げて対応。)

羽鳥。つまり、完成していないのは、電力公園と牧場と地下ドック。

水本。駐車場は、まだ仮。滑走路の下に建設中。それと、ID社が観測拠点を置いているけど、将来どうするかは決まってない。

羽鳥。4月からだと、まだ3カ月しか経ってない。よく完成した。

水本。あら、羽鳥さんの功績は大きいわよ。あっと言う間に引っ越し。

羽鳥。それは、おれの外見のためだろうが。ちっともうれしくない。

水本。めちゃかわいい。うらやましい。

羽鳥。水本は努力したら、ずっと良くなるとの評判だ。

水本。らしい。

羽鳥。じゃあ、大丈夫。

関。バスが来たらしい。迎えに行こう。

羽鳥。ああ。

 (2台のバスが来た。滑走路に誘導して、1台ずつステージで地下に移動する。海原所長と大江山教授がざっと説明しながら、本部の講堂に移動する。
 代表者のあいさつがある以外は、進行は展示会と似ている。ここで概要説明の後、基地内を見学。昼食の後、ID社からのプレゼン、つまり三郎、リリ、コクウ、モグの説明とデモ。そして、トースター号などのサイボーグ研の成果で締めくくる。
 挨拶が始まった。)

奈良。大仰な挨拶だな。

伊勢。学術系の研究としては、予算は大きい。明らかに、各界での次の予算を狙っている。

奈良。まだ海の物とも山の物ともつかない状態なのに?。

伊勢。派手に目立っているもの。ほーら出てきた。海原所長の大ぼら。

 (スライドに、海原所長が思いつく限りのロボットとサイボーグの活躍が提示される。大江山教授はちょっと苦笑しているようだけど、火本らは真剣に見ている。ふざけたような絵にも、大先輩の努力の成果が盛り込まれている。それを必死で探り出そうとしているのだ。)

伊勢。海原博士、ここに来ていいお弟子さんを得たみたい。

奈良。大江山教授も、いろいろやりたいだろうが、なにせ忙しすぎる。

伊勢。ええ。特に今は。

 (大江山教授が現状報告。システムに強い教授だ。理路整然とした大計画を掲げる。統一された設計思想に基づいて、無数のロボットやサイボーグが連携できるのだ。ここで揚げた図は有名となり、しばらくマスコミなどで引用されることになる。
 ID社からの予備のプレゼンは、伊勢が行った。いつもは技術が担当するのだけど、本日は特別。三郎たちを紹介して行く。
 5班に分かれて、トカマク基地内の見学。海原博士と大江山教授のグループはVIP多数なので、特別警戒。永田や虎之介が付いている。人の扱いがうまいA31もこちら。
 火本と水本のグループは技術志向の人々。イチたちが付いている。
 残りは怪しい連中、つまり軍や外交関連だ。土本が率い、私とリリと三郎と四郎、五郎が付いて行く。ほどなく、未完成のサイボーグよりも、私が率いている自動人形の方に注目が集まった。)

来賓1。大層な技術だ。武器が扱えるそうだな。

奈良。ええ。軍事コードは維持されている。アンドロイドはライフルを上手に扱います。もちろん、このリリも五郎も。

来賓2。どうやって操縦しているのだ。

奈良。このコントローラに指令を入れる。脚を動かせとか、具体的な指示もできますが、普段は、警戒せよなどのいくつかの大まかな指令をする。

来賓1。とっさの判断は、ロボットに任せているんだな。

奈良。そうです。

土本。試さない方がいい。中途半端に自動人形を攻撃すると、逆襲を受ける。

来賓2。そんなことだろうと思った。さっきから警戒されている。

土本。分かるんですか?。

来賓2。お互い様のようだ。

 (でも、リリは慣れたもの。余裕で愛敬振りまいている。Y国本部では、このような状況は普通にあるようだ。)

来賓1。この基地に司令機能はあるのか。

奈良。まさか、そんなのありません。物語の司令部ならありますけど。

来賓1。詳しく見せて欲しい。

 (海原博士に連絡し、こちらは独自行動に移る。本部最深部の司令室に移動。慣れた連中、模型かどうかを慎重に見ている。)

来賓2。こりゃ大変。整備したら使えそうだ。

来賓1。ああ。建物自身も

土本。比重的に土の中に浮いているそうです。

来賓1。戦略潜水艦相当。ID社、またやったな。

来賓2。軍事技術をおもちゃにするとは。

土本。軍事的には全然役立たないとの評判。

来賓1。役立ったら大変。その片鱗がかいま見れるということだ。

来賓2。今は純粋な学術目的のようだが、将来どうなるかは分からん。

土本。この基地を軍事応用などさせません。

来賓1。お嬢さん、我々の仕事は、あらゆる可能性を考えることだ。こちらだって、日本を敵に回すなど、考えたくもない。

来賓2。見る人が見たら、日本はいつでも準備できますよ、に見える。

土本。実績で証明するしかない。

来賓1。その通りだ。こうした会は役立つ。サイボーグ計画は民需を狙っている。よく分かった。

 (詳細に基地を見て行く。慎重に吟味しているようだ。
 昼食は地上。回廊に設けられた観客席で摂る。弁当やサンドイッチを配る。定時なので、エクササイザーがクレーターから出てきた。少数だが、拍手と歓声が湧く。)

関。離れているけど、迫力。他にこんなのあるのかな。

伊勢。単なるオブジェだったらある。発電用の風車も見様によっては似ている。

関。人間、考えることは変わらないか。

永田。ちゃんと完成させることに意義があるのだ。何の役にもたたないロボットであったとしても。

羽鳥。もしも、あの巨大ロボットが動き出したら大変。ほら、あちこちでひそひそ話が始まっている。

来賓1。よくあんなの作る。何の役に立つんだ?。

来賓2。何も役立たないのを誇示しているんだ。エッフェル塔のようなもの。

来賓1。目立てばいいってか。しかし、あんなのが本当に暴れたら大変だぞ。

来賓2。そんなに高価ではなさそうだ。量産もできそう。

来賓1。何か持ち上げられるんですか?。

奈良。クレーンと同等だそうです。小さいクルマを持ち上げて投げたり、砲丸投げの要領で荷物を飛ばしたりできる。

来賓1。国防省が射程内に入る。

奈良。ええと、どうだったか。

土本。このエクササイザーではできないそうです。

来賓2。最初からそのつもりなら、設計できるってことだな。

来賓1。カタパルトか。

来賓2。古代ローマの。

来賓1。こりゃ、この基地を取られたら大変だ。

奈良。ご冗談を。

来賓1。もちろん冗談だ。うまく作ってあると賛辞しているのだ。

土本。恐れ入ります。

 (映像的なインパクトは絶大で、トカマク基地完成自身は、オタクネットワークでしか広まらなかったのに、エクササイザーの勇姿は全世界を飛び回った。そして、これ以降、じわりじわりとその効果が現れてくるのである。
 午後。三郎とリリと空木とモグを回廊の観客席前に勢ぞろいさせる。リリには翼を着けて。本社から来た技術担当が解説している。
 まず、三郎を飛ばす。思わぬ高速が出る。そして、ワタリガラスの鳴き声。リリも飛ばして、高速飛行と三郎との空中演技を披露する。
 イチとレイ、四郎、五郎、六郎が加わって、例の幼児番組の体操をする。拍手。
 その後は、サイボーグ研の開発計画の話になった。各班の代表者からの説明と現地案内。オリヅル号は飛ばした。終了。)

第37話。サイボーグの休暇。7. すり替え

2011-02-21 | Weblog
 (1時間ほどでダム湖に着いた。)

羽鳥。ずいぶん奥地だな。とても観光資源にはなりそうにない。

志摩。一応、人がいないことを確認する。イチ、レイ、三郎。周囲を探査してくれ。

三郎。了解。

羽鳥。ん、通信機に連絡だ。…まさか…、軍がトレーラーを停止させたのだが、模型だった。

伊勢。そんなまさか。

空木。自動人形が間違うわけがない。コクウ、見ただろ。

コクウ。本物の兵器だった。軍はニセモノをつかまされたんだろう。

羽鳥。確かめなきゃ。

空木。空中バイクが早そうだな。

羽鳥。借りるぞ。仕掛けがあるなら、やばい。イチとレイを直行させてくれ。

清水。イチとレイを操縦する。私はモグで追いかける。

 (マグネの空中バイクの後席に羽鳥が乗って出発。もう一台にはコクウに入った空木と虎之介が乗る。)

伊勢。私たちも追いかけましょう。

 (旧車両とトースター号が出発。もちろん、イチとレイが真っ先に到着。)

イチ(通信機)。入れ替わっている。三郎たちのデータと違う。

伊勢。イチ、元来た道を捜索。レイ、前方に飛んで。

 (羽鳥は高速道を空中バイクでぶっ飛ばす。航空機並みの速度だ。空木たちも付いて行く。)

清水。よくやる。

志摩。あんな速度じゃ恐いはずだよ。

土本。必死で耐えてるんだ。羽鳥さん、ただ者ではない。

 (しばらくして現地に着いた。)

羽鳥。ミサイルが入れ替わっている。さっき見たのとデザインがわずかに違う。

コクウ。トレーラーは変わってない。

羽鳥。分かるんだな。

 (乗員は運転手一人だけ。助手席の男は気付いたら消えていたと。)

羽鳥。運転手は何も知らないようだ。すり変わった模型のミサイルを、おとりとして運ばされたんだ。

芦屋。ほんのわずかの時間に入れ替わった。

羽鳥。軍のヘリの監視下でだ。なめやがって。

レイ(通信機)。護衛船団のバイクが先のサービスエリアにいる。

伊勢。よくやった、レイ。イチ、レイに合流して、さらに手がかりを探せ。

羽鳥。行ってみよう。

空木。軍に任せるんじゃなかったのか。

羽鳥。頭に来た。おれが手を出す。

空木。手伝ってやるぜ。

 (2台の空中バイクが発進。羽鳥は調査が進むまで、軍にはあからさまな行動をしないよう要請した。
 イチとレイは、同じ駐車場に2台目の相手方のバイクと、3台のクルマを発見。分散して駐車している。三郎を近づける。イチとレイは、近くに着陸。いつでも飛び立てるように準備して。)

三郎(通信機)。誰もいない。5台とも。

空木。便利なカラス。

コクウ。匂いを追跡しよう。あたりにいるだろう。

羽鳥。きさまも便利そうだな。

空木。おかげさまで。

 (到着した羽鳥らは駐車場を捜索する。別の手がかりがあるかどうかだ。
 さて、はるか後方。トースター号はエレキが運転席にいて、火本と水本が後席にいる。)

水本。ロボットが運転しているって、ばれたら大変。

火本。ぼくよりもエレキの方が運転がうまい。

水本。情けない人間。

エレキ。気にするな。今は緊急事態だ。

火本。ミサイルを入れ替えたって、どうやったんだろう。

水本。普通にやるなら、クレーンで移動。

火本。走るトレーラーのままで。ヘリの死角であっと言う間に。

水本。離れ業。

火本。じゃあ、本物のミサイルを乗せたトラックか何かにはクレーンが付いている。

水本。他の可能性はあるかな…。

エレキ。そんな感じのトレーラーが走っている。

火本。どれどれ、前方のか。たしかに、普通のトレーラーじゃないな。荷物と運転席の間に、クレーンが付いている。あんな小さなのじゃ、コンテナを運ぶのは無理。

水本。思いっ切り怪しいデザインだわよ。

エレキ。相手はプロだろう。もし本物なら、後ろからくっついて走ると気付かれるぞ。

火本。イチに空中から追跡させよう。

 (亜有が指令して、イチに追跡させる。)

イチ(通信機)。上空に到達した。

土本。ほとんど連想ゲーム。外れの可能性の方が大きい。

清水。他の手がかりもないし、確かめるだけよ。イチ、トレーラーに着陸して調べなさい。

 (イチは着陸して、音響調査。荷台の箱の中にミサイルのような反応。)

羽鳥。エレキ、行くぞ。

 (って、めちゃくちゃ。羽鳥はエレキに命じて、高速を爆走する。慌てて、空木と虎之介が追いかける。イチは再び上空に離脱。)

伊勢。あいつら、めちゃくちゃ。志摩、支援しろ。

志摩。使えるのは五郎と六郎。

清水。充分。合流しなさい。

志摩。やってみる。

 (伊勢は旧車両にいて、リリと四郎がいる。モグは志摩が運転していて、亜有と土本と五郎と六郎がいる。
 羽鳥のバイクが怪しいトレーラーに追い付いた。何をするのかと思ったら、トレーラーの助手席のドアにくっついて、ガラスを拳銃の柄で割り、ドアを開けて侵入する。助手席の男が反撃してきたので、取っ組み合いを始める。)

伊勢。あの男、無謀。虎之介、突っ込め。五郎も。

 (虎之介は運転席から侵入。運転者を殴って、ひるませ、こちらも格闘。五郎が蒸気ロケットで運転席に入り、運転する。ハザードランプを出して、停車。旧車両とモグが追い付いて、停車。荷台を確認。
 本物のミサイルだった。リリと四郎が調べたけど、他に仕掛けはなく、運んでいるだけのようだ。)

伊勢。いったい、あんたたち、何するつもりなのよ。

羽鳥。とりあえず、この男ども2人をモグに入れてください。こちらはトレーラーでサービスエリアに行きます。

 (乗っていた男は気を失っている。五郎と六郎がチェック。命に別条はない。)

伊勢。自らおとりになるのか。やめとけば。

羽鳥。これだけは譲れん。行くぞ。

 (トレーラーは虎之介が運転。羽鳥が助手席に座る。羽鳥は軍に経過を報告し、作戦を組み立てている。)

伊勢。やれやれ。付き合ってやるか。

 (空中バイクと旧車両とモグも発進。目指すはサービスエリアだ。)

土本。もう十分。やめさせてください。

清水。羽鳥さん、自信満々。勝算があるんだ。任せようよ。

土本。私、慣れそうもない。

清水。そっちで、捕まえた男どもを見ていてよ。気が紛れる。

土本。紛れそうもないけど、やってみる。

 (五郎が手当てしている。暴れられると自損他損しそうなので、かるく鎮静剤を打っている。土本は、うとうとしている男どもと、とりとめのない話をする。
 羽鳥のトレーラーがサービスエリアにやってきた。駐車場の空いている部分に止まり、何回かクラクションを鳴らす。男どもが集まってきた。)

男1。遅いじゃないかよっ。軍がうようよしてるんだ。早くするんだよ。

男2。こらーっ、返事せんか。何やっている。

羽鳥。きさまら、軍をなめやがって。思い知れ。

男3。こいつら、仲間じゃないぞ。

 (軍のヘリが飛んで来た。そして、周囲から数十人が取り囲む。男どもは沈黙した。)

羽鳥。どんな状況なのかは分かるようだな。安心しろ、すぐに警察が来る。引き渡すのはそちらだ。

 (羽鳥が場を取り仕切る。何か複雑な事情があったようで、羽鳥は後処理のために離脱した。ダム湖には残りが向かう。空中バイクのオフロード性能を試し、夕方にはトカマク基地に帰る。)

第37話。サイボーグの休暇。6. むき出しの最新ミサイル

2011-02-20 | Weblog
 (虎之介はモグを運転。いるのはイチとレイと五郎と六郎。)

芦屋。人間がいない。

レイ。ご愁傷様。

イチ。なんで旧車両を使ったの?。伊勢さんたち、ここに来たらいいのに。

レイ。トカマク基地に誰もいなくなるからよ。旧車両が余る。考えなさいよ。

イチ。いざとなったら、ぼくが取ってくる。

レイ。ねばるわね。

芦屋。漫才停止。よくしゃべる自動人形。A31と大違いだ。

レイ。アンはおとなしいし、タロとジロも寡黙。お上品な設定なのよ。

芦屋。あれが自動人形の典型と思っていた。

レイ。それでいいのよ。単にパラメータの設定が違うだけ。

芦屋。このやろ、人間に説教しやがって。

レイ。へへーん、勝ってみなさい。

芦屋。お断りだ。自動人形に勝っても虚しいだけ。良くできている。どうなってるんだ。

レイ。虎之介が優秀だからよ。私たちを使いこなしてくれる。

芦屋。今度はよいしょか。今モグを支配しているはだれだ。

イチ。ぼく。

芦屋。いつもと変わらないけどな。

モグ。私の個性はそのままだ。変えない方がいいだろう。

芦屋。もちろん。

モグ。大きなロケットを積んだトラックがいる。

イチ。どれどれ。幌も何もしてない。丸見え。

芦屋。軍だろう。

レイ。でも、きれいな色。デモ用のロケット。

芦屋。じゃあ、航空ショーか何かだな。

モグ。弾頭は本物だ。

芦屋。何だと?。怪しいぞ。亜有に知らせろ。

レイ。知らせた。三郎を乗せて、接近するって。

 (もちろん、羽鳥にも伊勢にもすぐに知らせた。)

羽鳥。近づけるか。

空木。三郎が近づいている。それではだめか。

羽鳥。行くんだよ。この眼で確かめてやる。

空木。はいはい。シートベルト締めて。

水本。飛ばす気?。

空木。緊急事態だろ?。

羽鳥。2度も確認するな。行け。

 (空木はトースター号を飛ばし、トレーラーに急接近する。)

羽鳥。ミサイルだ、3基。運んでいるだけで、ここで発射は無理。

空木。自動人形が反応している。爆発させるのは可能だ。

羽鳥。そう評価しているんだな。

空木。まず、間違いない。

羽鳥。我が軍の輸送かどうか問い合わせてみる。

三郎(通信機)。弾頭は最新型。爆発すると危険だ。

羽鳥。データを送れ。

 (このトースター号は情報収集部の作戦用に、ID社のモニタを仕込んでいる。そこに映し出す。)

羽鳥。なんてこった。弾頭もロケットも本物。最新兵器だ。政府が運んでいる可能性はない。

空木。横流し。

羽鳥。可能性は低い。テロ目的か、違法輸出目的か。

空木。三郎がいるから、見失うことはない。少し離れるぞ。

羽鳥。ああ。そうしてくれ。

伊勢(通信機)。イチとレイを飛ばす。あたりに関連車両がないかを監視する。

羽鳥。よろしく。

 (我が国屈指の高速道だ、交通量は多い。でも、しばらく調べていると傾向が分かる。)

清水。クルマが他に3台と、バイクが2台。

羽鳥。予想か。

清水。もちろん。通信してくれたら確定できるけど。

羽鳥。慣れているようだ。しっぽは出さんだろう。

芦屋。護送船団だな。

羽鳥。ああ。出来心とか、そんなのじゃない。

空木。で、どうするんだい?。

羽鳥。きさま、どうするつもりだったんだ。

水本。あの…、お二人とも調査が業務のはず。

羽鳥。だから、調査中だ。

空木。手を出すかどうか決めかねている。

水本。普通、泳がせるんじゃないの。

羽鳥。爆発したら、たいへん。対戦車用のミサイルだ。それも、まとまった台数を破壊できる。周囲のクルマはただでは済むまい。

水本。何てこと。

羽鳥。指令が来た。軍が対応する。それまで追跡しろと。

水本。高速道でどんぱち。

羽鳥。相手の出方しだいだ。そうならないことを祈る。

 (相手は、バイク2台とクルマ1台がトレーラーの前方。クルマ2台が後方にいる。
 15分ほどしたら、軍のヘリがやってきた。はるか上空から偵察しているのだけど、とてもうるさい。トレーラーの助手席にいた男が見上げている。)

清水(通信機)。軍の動きを気付かれた。短い通信をしている。符牒みたいで、解析は無理。

羽鳥。さすがに計測機メーカーだな。しかし、こちらは必要ないだろう。ヘリがあんな行動するということは、すでに包囲終了ってことだ。ありがとう。もう引き上げてよい。

空木。三郎、帰還しろ。

三郎。了解。

空木。じゃあ、こちらは予定通り、ダム湖に行くぞ。

羽鳥。そうしてくれ。

第37話。サイボーグの休暇。5. 高速道にて

2011-02-19 | Weblog
 (翌日、本社の北方にあるダム湖に向かう。空中バイクとモグと旧車両とトースター号を使って。
 空木はコクウを着て、トースター号を運転する。助手席に水本。うしろに羽鳥と火本と三郎。風防は立てているけど、オープンカーにしている。)

水本。空木さん、器用。よく運転する。

空木。慣れてしまえば、難しくない。コクウをまとってるから、むしろ生身の人間より有利。それにしても、良くできたクルマだ。このままでも売れるんじゃないか。

水本。売れた。少数だけど、手作りだから、生産が追い付かない。このトースター1号も、中身は普通の乗用車の0号も。

空木。ロボットカーにするよりも、このままの方が面白いかも。

羽鳥。同感だ。このベースのクルマが良くできているから、生半可なロボット化はお笑いを提供する可能性が高い。

火本。厳しい意見。

水本。コクウを使っているのなら、ロボット車と同じと思うけど。

空木。なるほど。うまく言う。

羽鳥。コクウはどう思う?、このクルマ。

コクウ。普通の自動車だ。やや、癖がある。いいという人もいるだろう。

羽鳥。世界最高峰だぜ。

コクウ。操縦できなければ、意味がない。普通のセダンの操縦性を期待する人はがっかりするだろう。

羽鳥。まるで分かったような意見。

空木。急速に慣れてきている。ある意味、分かっていると言って良い。

羽鳥。空木のフィードバックがあるから、独立した自動人形より有利か。

空木。それはある。本部が注目しているのも、その点。ただし、おれ流の理解だ。

羽鳥。中身も優秀でないと、コクウを持て余すってか。

火本。空木さんの技能を超えることはできない。

空木。微妙だな。そんな気もするけど、おれの思い上がりかもしれない。コクウには、自動人形の膨大なノウハウが込められている。それを使っているだけかもしれない。

羽鳥。使っているんだったら、操縦していることになる。謙遜することはない。

空木。オリヅル号は完成したのか?。

水本。まだ全然だめ。視覚、聴覚センサーは組み込んだ。脚で着陸もできる。でも、人間がすべて操縦しないとだめ。

羽鳥。狭いところなんかには入って行けない。

水本。とても操縦しきれない。今は普通の模型飛行機と同じよ。

空木。これが操作パネルだな。発射していいか。

水本。発射はいいけど、誰が操縦するのよ。

空木。おれがやる。

水本。コクウの処理能力にものを言わせて、トースター号と同時に操縦。やめてよ、危険。

空木。オリヅル号が心配なんだな。わかった。十分に練習してから飛ばす。

羽鳥。あきれたやつ。お前も相当慌て者だな。

空木。この性格だけは、直すつもりはない。

羽鳥。あとで実力を見せてもらおう。

空木。たっぷりとな。

 (旧車両は志摩が運転。伊勢とリリと四郎がいる。)

リリ。久しぶり。昔、作戦に付いていった頃を思い出す。モニタもそのまま。

伊勢。活躍してくれた。いい機体。

リリ。お任せあれ。いつでも連れていってください。

伊勢。期待している。

リリ。自動人形が増えた。

伊勢。うん。こちらにはこんなにいるのに、東京にはA31がごっそりいる。イチとレイとエレキとマグネが増えたからよ。もうたくさん。

リリ。操縦者が増えるといいのに。

伊勢。そうね。増やさないと。

リリ。水本さんがやってくださりそう。

伊勢。あらあ、分かるの?。大切に使ってくれるかな。

リリ。そう思うけど、何か腹積もりがありそう。

伊勢。超能力者、火本の世話係をさせたいのよ。自分がいつもそばにいることはできない。

リリ。私たちならできる。火本さんの暴走を押さえることができる。

伊勢。少なくとも、人間に神秘は感じない。私たちが、あなたたちを見る目と同じ。水本さんたちのY国での研修がすんだら、イチたちをあてがわなきゃ。

リリ。私たちと合流する。

伊勢。あ、そうか。普段はY国にいるものね。よろしく。

リリ。うん。がんばる。楽しみ。

第37話。サイボーグの休暇。4. 歓迎パーティー

2011-02-18 | Weblog
 (内輪のパーティーなので、トカマク基地の食堂をそのまま利用することにした。
 海原所長と大江山教授が挨拶して、そのまま立食会に移行。A31が演奏し、久しぶりに集まった、三郎、四郎、五郎、六郎がコーラスしている。リリとイチたちは会場回り。)

水本。教授、話があります。

大江山。何だ、真剣な顔して。

水本。真剣です。私、ID社のY国本部に行くかも。サイボーグの研修で。まだ、応募したばかりだから、返事待ちです。

大江山。サイボーグって、コクウのことか。

水本。普通の外骨格型自動人形。

大江山。そりゃまた突然。だが、行け。何かつかんでこい。どんなやつらが開発したのか、興味がある。

水本。本当に新しいものを作ることができる連中。

大江山。本物の科学と技術。戦国時代の人々が、開国時の志士が驚嘆した、西洋の技芸。火本も行くのか。

水本。すっかり忘れていた。有頂天になってたのかも。

大江山。行って欲しいが、どう答えるだろう。

 (水本は火本にさりげなく聞く。いいよ、水本が行くのなら、と普通の返事。水本は空木と交渉して、2人とも推薦してもらう。
 本部から見ると、飛んで火に入る夏の虫だった。なにしろ、日本の国家計画の当事者がのこのこやってくるわけだ。審査はあっと言う間に終了。とにかく呼べ、何かさせろ、ということになった。)

伊勢。ニュース、ニュース。

奈良。なんだ、うれしい顔して。

伊勢。水本さんと火本くんがY国本部に行くって。サイボーグの研修で。

奈良。そりゃまた突然。

リリ。あの2人、何かある。感じる。

奈良。超能力を持っているといううわさだ。

リリ。それでか。未来が分かるのかな。他人の心も。

奈良。ついでに、動物も、自動人形も。

伊勢。なに漫才してるのよ。日本の最優秀の学生がどんなものか、驚かせてやりましょう。

奈良。いつ行くんだ。

伊勢。まだ応募したばかり。

奈良。なんだ。未確定の話か。

伊勢。本部が蹴るわけない。ヴィルコメン、ゼア、グート、ってなもんよ。

奈良。じゃあ、次は予算の話か。

伊勢。何とかならないかしら。

奈良。交通費は別として、滞在費を何とかしよう。調べてみる。

伊勢。よろしく。

 (心配はいらなかった。両人ともID社のモニタ社員だった。社の施設を使えば格安で暮らして行ける。
 パーティーが終わり、私は鈴鹿とA31を引き連れてID社東京に戻る。伊勢と志摩はそのままトカマク基地に泊まる。自動人形が多いから、コントローラが必要なのだ。
 第二機動隊本部にて。)

リリ。うれしい、伊勢さんの配下。

伊勢。三郎との組み合わせ。珍しいわね。

三郎。また作戦に行くんですか?。

伊勢。状況による。出動要請があったら、すぐに対応しないといけない。

空木。明日、山で空中バイクを試すんですけど、どうします?。

伊勢。よほど山奥でないと、大迷惑。

志摩。いつも行っている、ダム湖に行こう。

伊勢。三郎やリリもつれて行きたい。

志摩。許可を取っておきます。

 (夜。自動人形の探索、いっしょに行くのは、火本、水本、土本、そして伊勢。自動人形は総出演。四郎、五郎、六郎までいる。)

伊勢。じゃあ、イチたちの探索に付き合っているの?。

土本。イチたちが誘ってくる。最初は水本さんたち。今は私。

伊勢。全員、自動人形に慕われている。

土本。そうらしい。何のパラメータかは知らないけど。

伊勢。不思議。私はめったに誘われない。こちらから行こうと言ったり、付いていっても拒否されることはないけど。

土本。何だろうな。レイ、今の疑問に答えられる?。

レイ。何のこと?。伊勢さんといっしょに行動するのはうれしい。いつも面白いことが起こる。

土本。探索には誘わない。

レイ。だって、たいてい奈良さんとかがいるもの。

土本。ええと、伊勢さんが誘ったら拒否はしない。

レイ。うん。うれしい。

土本。でも、レイから誘うことはない。

レイ。機会があれば誘う。

伊勢。もういいわよ。意味のない回答しか返ってこない。

土本。これが自動人形の限界か。

伊勢。ええ。事実と直接の評価に関することしか、説明できない。自分の気持ちさえも、なぜそうなのか説明できない。

土本。なんだか哀れ。

伊勢。そう思ってくれる人に付いて行くのかも。私には無理。

土本。なにせ、ロボット。たしかに、理解できていると思い込むのは危険。

伊勢。そうよ。どんな動作が隠されているのか、分かりゃしない。

火本。プログラムが膨大すぎて、完全な解析はおそらく不可能。

水本。奈良さんにはそのあたりの直感があるのかな。

伊勢。それは言える。いくら獣医でも、イヌに咬まれたり、ネコに引っかかれたりするのはしょっちゅう。相手が大形動物だと、命の危険を感じることもあるでしょう。

水本。人間同士でも理解は難しい。

土本。なんとなく分かる。レイ、伊勢さんを慕うのはなぜ?。

レイ。だって、私たちをうまく使う。生きがいを感じる。

土本。ためだ。喜ばせプログラムが起動してしまった。

伊勢。いいわよ。役立ってくれるなら。頼りになるし、そばにいると安心。必死で守ってくれる。

レイ。約束する。がんばる。

 (地上に出る。三郎は飛び立つ。)

リリ。対岸の明かりがきれい。海の香りがする。

土本。うまく言う。

リリ。平和だね。

土本。うん。何としてでも守り通さねば。

 (その日は、全員、トカマク基地に泊まる。)

第37話。サイボーグの休暇。3. 第二機動隊本部にて

2011-02-17 | Weblog
 (パーティーは5時からだ。トカマク基地地下本館、第二機動隊本部でちょっと休む。)

鈴鹿。大丈夫?。ずっとシリーズBに乗ってきたんでしょう?。疲れてない?。

空木。適当に自動人形に操縦させた。旅客機といっしょだ。

小浜。便利だな。

空木。ここはどういう部屋なんだ?。

 (鈴鹿が説明する。)

空木。なるほどな。財務省の駐在所か。

水本。パーティションの向こうが。

鈴鹿。あんた、コクウが気に入ったの?。自分も入りたいとか。

水本。多分、そう。さっきから気になってしかたがない。

空木。本部で話をしてみるか。中に入りたがっている人間が一人いると。

水本。中身が女性のケースはあるの?。

鈴鹿。エリーザさん。経験豊富な考古学者だった。そうか、ニアミスだった。今年最初に来日してたのよ。海原博士と大江山教授は直接会っている。

水本。単に操縦するだけじゃだめで、何か貢献しないといけないんだ。

空木。選考要素にはなるけど、無理したら元も子もない。普通に大切にして、使ってくれる人が望まれる。

水本。その格好で。

空木。だから、今のところ応募は多くない。潜水服のような、宇宙服のようなの着て、何ができるのかって。

水本。潜水したらいい。宇宙で役立つかも。

空木。その手の仕事をおれはしているわけだが。

水本。なるほど。もう十分、ってことか。

空木。女性の参加は歓迎される。

水本。エリーザさんだっけ。いるじゃない。

空木。それでも、男性が圧倒的に多い。開発元では、あらゆる可能性を探りたいはずだ。

水本。応募してみる。

空木。すぐに伝える。

 (空木はサイボーグ研を見学。海原所長が自ら案内。)

空木。こりゃすごい。日本人として、誇りだ。

海原。うほほ、そう力(りき)むでない。ID社に追い付くので精一杯じゃ。

空木。追い越してしまったものを、猿真似とは言わない。元の技術が本物の証。

海原。そう思うことにするぞい。

空木。エクササイザー。サイボーグを巨大化したんだ。

海原。分かるか。お主、ただ者ではない。

空木。分かりますよ。行く行くは人間に操縦させるんだ。面白い。来た甲斐があった。

海原。エクササイザーはサイボーグの8倍バージョンじゃ。その上は分かるかの。

空木。64倍。身長100mのロボット。春の嵐で立ってられない。

海原。そうじゃの。

空木。海洋や宇宙では役立つかも。宇宙ステーションなどの構築とか。

海原。さらに8倍はどうじゃ。

空木。身長800m。もはや宇宙しか活躍の舞台は無い。

海原。何か思いつくかの。

空木。もちろん、建設ロボット。

海原。さらに8倍はどうじゃ。

空木。身長6.4km。博士、ふざけています?。

海原。よく気付いたの。

空木。んーでも、伝説の木星大気に生息する浮遊木星人ならあるかも。

海原。マッコウクジラとダイオウイカじゃの。

空木。どちらも20mほど。スケール大違い。

海原。木星の話じゃ。

空木。お後がよろしいようで。

第37話。サイボーグの休暇。2. 空中バイクを試す

2011-02-16 | Weblog
 (放っておくといつまでたっても離れないので、食堂に誘導する。空木はコクウに入る。なぜか、羽鳥と水本がそばにいる。)

空木。やっと落ち着いた。日本食も久しぶり。

羽鳥。信じ難い技術。細やかな動作。どうなってんだ。

水本。ID社の技術もさることながら、空木くんが一所懸命に調整したのよ。そうでしょ?。

空木。ああ、いくらなんでも、機械だからな。使う人の腕次第ってところはある。

羽鳥。コクウは自動人形。空中バイクも操縦できるのかな。

空木。何だそれは。

 (水本が説明する。)

空木。2人乗りの小型のホバークラフト。乗ってみたい。できるかな。

水本。相談してみる。

羽鳥。水本、熱心だな。

水本。あなたこそ。国益にかかわるから?。

羽鳥。それはある。先進各国がこの技術を狙っている理由が分かる。世界に20機とか広まらない限り、争奪戦は続くだろう。

空木。そろそろ同じコンセプトの2号機ができるんじゃないかな。うわさを聞いたことがある。普通のサイボーグは慎重になっているけど、そちらも少数ながら製作は続くらしい。1年に2機程度。

羽鳥。技術の継承だ。ID社は何か狙っている。

水本。いつでも量産に入れるように。

羽鳥。そういうこと。

空木。量産には入ったものの、自動人形は作れば作るほど赤字の厄介者。誰もが不思議がっている。

羽鳥。役立ちはするんだろう?。

空木。関係者の献身的な努力で。って、日本では縦横に役立っているはずだ。

羽鳥。情報収集部の作戦に同行したことがある。びっくりするような動き。

空木。他にもいくつか役立つ事例がある。でも、赤字をひっくり返すような規模ではない。社会貢献にもなってないし、訳が分からない。

水本。技術の誇示かな。

羽鳥。理由としては弱い。

水本。私たちが集まった。

羽鳥。あはは。その餌って訳か。うまいうまい。

水本。自動人形が情報収集部など、社内で使われている限り、外部への影響力はない。でも、その技術でサイボーグを作った。そこで初めて、各国が慌てて対応。

羽鳥。別の分野でも、そんなのはある。要するに、ID社は最先端企業ってことだ。

水本。それだけかしら。

羽鳥。そうだろう。考えすぎだよ。我が国にだって秘密の研究などたくさんある。故意にせよ、知らず知らずにせよ、漏れて大騒ぎになることはある。いずれ公表されるにしてもだ。

水本。なるほど。そう考えるか。

 (食後。ちょっと休憩してから、空中バイクを試す。滑走路にて。ギャラリーが多い。)

空木。まず、走っているところを見せてくれ。

鈴鹿。じゃあ、エレキ、私を乗せて走って。

エレキ。任せろ。

 (操縦席にエレキ、後席に鈴鹿が乗って出発。最初からホバークラフトにしたから、ものすごい風。)

空木。うわあ、こりゃ小型のヘリコプター並だ。近づかない方がいいな。

水本。こほほっ。次来たときには、車輪を使うよう言いましょう。

空木。普段はそうするのか。

水本。設計段階から考えられていたみたい。

 (戻ってきた。今度は、車輪を使うようにいう。もちろん、スラスタで前進するわけだから、それなりの風力はあるが、さっきよりはまし。)

空木。推進力だけになったわけだ。

水本。うん。乗ってみる?。

空木。もう少しだ。水上での動きを見てみたい。

 (海岸の道路に出る。同じく、鈴鹿がデモンストレーションする。)

空木。大したものだ。

水本。操縦してみてよ。

空木。そうだなあ。まずはアンドロイドに操縦させよう。鈴鹿の乗り方と合せて。

水本。慎重。

空木。なにせ、初めてだ。

 (もう一台をマグネに操縦させ、後席にコクウに入った空木が座る。出発。エレキの空中バイクの動きをよくみていたらしい。マグネにいろんな動作を次々に指示する。生真面目なマグネ、いちいち全力で応えている。)

羽鳥。何てやつ。この程度は簡単らしい。水本は知っていたのか。

水本。空木くんとは、今日、初めて会った。

羽鳥。すっかり気に入ったようだな。

水本。面白い人。なにか通じるものがある。

羽鳥。機械好き。

水本。そんな単純なことなのかも。

 (空木が戻ってきた。びっくりしている。)

空木。自動人形が慣れている。どうなっているんだ。

水本。調整したのよ。羽鳥さんもいろいろ教えてくれた。波の乗りきり方とか。

空木。そうなのか。もうほとんどすることがない。

羽鳥。あきれたやつだ。空中バイクの操縦法を自動人形に教えようとしたのか。

空木。そのつもりだった。

羽鳥。まだ、山越えとかに使ったことは無い。開発目標はそちらだったはずだ。

空木。じゃあ、その調整をするか。明日にも出かけよう。

水本。コクウに操縦させてみる?。

空木。どうしようかな。一周だけしてみよう。さっき後席から操縦したから、同じことだけど。

羽鳥。やった方がいい。

空木。そうしてみる。

 (今度は、コクウが操縦席に入る。出発。そのあたりを一周するだけ。でも、楽しそうだ。くるくる回ったり、ジャンプしたりしている。)

水本。空木さん、うれしそう。だから、あんなに熱心なんだ。

羽鳥。それが知りたかったことか。

水本。うん。それもある。

羽鳥。他は何だ。

水本。うまく言えない。ちょっと引かれる。

羽鳥。類は友を呼ぶ。

水本。何よそれ、どういう意味よ。

羽鳥。別に。

第37話。サイボーグの休暇。1. プロローグ

2011-02-15 | Weblog
 (7月の最初の週末。国立サイボーグ研(註: フィクション)の招きで志摩たちの後輩、空木一人(うつぎ かずと)がY国のID本部から来日することになった。主目的は、サイボーグ研、つまりトカマク基地の地下部分の完成記念式典に参加するため。本人は休暇のつもりらしい。
 空木は宇宙服型の自動人形、コクウをまとっている。空木は事故で四肢が動かせないため、コクウに指令して自分の筋肉を動かし、さらにコクウが力を倍増する。この動作がサイボーグ。外骨格型の自動人形は世界に4機しかなく、四肢が不自由な人間が入っているのは空木のみ。
 前回と同じく、世界最強と言われるB国仕様のシリーズBでやって来る。最初は、こちらにあいさつに寄ると言っていたのだが、来たとしてもいっしょにトカマク基地に移動するだけなので、直接行くように要請。私(奈良)と伊勢と志摩は旧車両でトカマク基地に行く。A31(自動人形クロ、アン、タロ、ジロ)もいっしょ。
 トカマク基地の整備場で。)

伊勢。空木くん、よく1週間も休暇が取れた。

奈良。全くの偶然だったらしい。たまたま予定がぽっかり空いたのだそうだ。

大江山。到着したようだ。エレベータを下ろす。

 (休日というのに、いち早くサイボーグを見たい連中が集まっている。熱心なこと。空木の体調は良いらしく、サイボーグ研のための時間も作ってくれるようだ。さっそく本日は基地内で歓迎パーティーの予定。
 シリーズBが降りてきた。空木たちが降りてくる。うっ、小さな救護服。あの影は…。)

リリ。パパーっ、私よ、リリよー。

土本。自動人形がパパって言ってる。誰がパパよ。

水本。ほら、駆けてくる。

 (でも、その前に大型のカラスがばっさばっさと飛んで来て、私の肩に着地。頬をすりつける。)

三郎。久しぶり。お元気そうで何よりです。

奈良。三郎。会えてうれしい。よく来てくれた。

リリ。三郎っ、ずるい。私が先に見つけたのよ。

 (言うが早いか、どかっと私に飛びかかり、三郎と同じように頬をすりつける。)

リリ。逢えてうれしい。

奈良。こちらもだ。活躍しているようだな。

リリ。ええ、おかげさまで。

 (すぐに離れた。でも、しっかり腕を握っている。)

土本。ロボットの隠し子がいたなんて。見る目が変わりそう。

水本。やり手みたい。ほら、空木さんが来た。すぐに分かる。

 (空木はコクウの中に入っている。風防は格納している。)

空木。おはようございます。

コクウ。おはよう。

伊勢。よく来てくださった。タイミングよく。ありがと。

空木。これまた大仰な仕掛け。

芦屋。この地下基地だろう?。見かけ倒しだ。

空木。芦屋さん。お久しぶりです。

鈴鹿。元気そう。

空木。ええ。おかげさまで。

水本。そちらのロボットは?。もしかして四郎。

空木。そうです。あの、こちらは…。

伊勢。紹介する。

 (伊勢が主だったメンバーに空木を紹介する。Y国から来たのは、人間は空木だけ。自動人形がコクウにリリに三郎。リリは空木の世話係の名目だが、今はほぼコクウだけで生活できる。単に付いてきたみたいだ。三郎は、E国ID社が気を利かせてくれたらしい。他動人形の四郎は三郎の補助兼リリのガード役。
 空木が乗ってきたシリーズBは本社から来た技術者が整備区画に格納した。コクウを使わないときに移動に使う、ロボット腕付きの電動車椅子も持ってきた。
 さっそく、空木は基地内の見学を希望。なんだか、大勢がゾロゾロ付いて行く。)

空木。鈴鹿さんほか、派手な格好。コクウが全然目立たない。というか、溶け込んでいる。

鈴鹿。いろいろあってね。トカマク基地はアニメに出てくる同名の基地と瓜二つ。そこにいる敵側の戦闘員の制服よ。創作が入っているけど。

空木。ラットルズ。見たことある。詳しくは知らない。

 (普通の動作は調整済みのようで、見るからに自由に動いている。アンドロイドとは明らかに違う、円滑な動き。海原博士以下、コクウ班が目を見張っている。)

海原。いい動きじゃの。アンドロイドよりもずっと慣れた動きじゃ。

空木。海原博士。再びお会いできて光栄です。ええ、コクウがよくやってくれます。自分では動いていないのに、自然とこうなった。

海原。不思議じゃの。これを見てしまうと、イチでさえ不自然な動きに見える。

イチ。ぼくが不自然なの?。

海原。ロボットに見える。あまりに人間に似ると不気味じゃが。

イチ。ぼくはこれが動きやすい。だめかな。

海原。イチはその方がいいのじゃろ。理由があるはずじゃ。

 (原子炉を見学。地上に出て、回廊部を散策。再び地下に入って、倉庫、居住区を見学。本部に入る。)

空木。おもちゃだとしても、真剣な作り。

志摩。ある意味、実用。少し改造したら、籠城は可能だ。構造物としても、土の中に浮く原子力潜水艦。

空木。やはりそうか。

 (どうしてもコクウを間近で見たいという研究員が続出。なので、講堂に行き、空木はロボット腕付き電動車椅子に移動する。でも、今度は電動車椅子の方が注目されてしまった。)

研究員1。よくこんなの操縦する。難しいだろう。

空木。もう慣れました。最初はたしかに難しかった。

研究員2。これがあれば、コクウなんかいらないくらいだ。…、いや、失礼。

空木。正直、その通りです。おれが少々働いたくらいでは、コクウは買えない。この電動車椅子だったら、買える。

研究員1。この技術蓄積があったから、コクウは成功したんだ。何かあると思っていた。

研究員2。目の前にしないと、信じ難い。よく来てくれた。

 (そんなこんなで、もみくちゃ状態。でも、空木はまじめ。律儀に質問に答え、必要ならデモしている。
 こちらでは、コクウに人が集まっている。土本も関心があるらしい。そばに寄る。)

研究員3。自動人形もそうだが、途方もない技術だ。

土本。その代わり、開発費も天文学的。

研究員4。A国軍が40機も作ったあげく、放棄したんだった。あきらめきれなかったんだ。

研究員3。あれが電極だ。筋電図を取る。でもって、こちらの電極で別の筋肉を動かす。しかけ自体は普通の外骨格型サイボーグと同じ。

研究員4。いわゆる生命維持装置が付いてる。高価になるわけだ。

研究員3。買えるようにするためには、どこまで機能を絞り込めるか、か。手探りになる。

研究員4。そのためにおれたちがいるってことだが。

 (三郎とリリは飛ばすために、クレータに出る。三郎班とケイコ班が熱心に調べている。)

研究員5。これが翼か。初めて見た。

リリ。私の体格は、ケイコとほぼ同じ。翼で飛べるぎりぎりの大きさ。ロケット人間のオリジナルのサクラは、レイと同じくらいの大きさ。

研究員6。翼を展開してよ。

リリ。うん。

 (3mほどの幅の翼が展開される。)

水本。うわっ、想像してたより、大きい。

リリ。飛んでみる。

 (たたたっと走って、ジェットに点火。すうっっと上昇して行く。)

研究員5。実際に飛んでいるのを見ても、まだ信じ難い。

 (ワタリガラスロボットの三郎がお付き合いで飛ぶ。空中で絡み合って、遊んでいる。リリの特徴的な行動だ。)

研究員5。あんな低速でも揚力が出るように、翼を大きくしているんだ。

研究員6。あの姿勢を続けるのは、人間では無理だ。

研究員5。ああ。ロボット専用の装置。

 (水本が通信機でリリに指示して、350km/hほどの速度を出す。立派に航空機の速度だ。)

研究員6。こりゃ、A国がびっくりするのも当然。あわてて、自動人形の再開発計画を立てたんだっけ。

研究員5。去年のことだ。議会の予算審議でしか分からん。計画自体は秘密ではないが、ちっとも内容の情報が入ってこない。

研究員6。国家機密の塊。

研究員5。そうなんだろう。予算が半端ではなかった。

研究員6。こちらは細々か。なにせ学術系の研究だからな。2桁ほど研究費が違うんだろう?。

研究員5。3桁に届くんじゃないか。

研究員6。産業界とか、我が軍とか動かないのか。

研究員5。密かに狙っているだろう。出すときには出す。そのためには、こちらががんばらなきゃ。

水本。今ケイコ班がやっているのは、見回りロボットの開発。

研究員5。ええ。飛ばすのは蒸気ロケットで。五郎みたいに、抱きかかえて搬送したいところだけど、機材運びがせいぜいでしょう。

水本。それでも大したもの。

研究員6。リリは楽しそうに飛んでいる。こちらのロボットにも翼を付けてあげたい。

水本。あれか。リリが本部にスカウトされたわけ。そばにいる人を鼓舞するんだ。

研究員6。不思議な動作。だれが仕込んだんだろう。

水本。きっかけは奈良部長でしょうけど、その後、よってたかって調整された感じ。

研究員6。元気な女の子に見えるからか。外見って、大事だな。

研究員5。ああ。天真爛漫に見える。性格を与えて、育てて行くんだ。

水本。ふむ。奈良部長、動物を育てる技術を応用したな。

第36話。雨の日に。24. トカマク基地へ

2011-02-14 | Weblog
 (翌朝。土本が朝食を用意。外はもう明るい。)

清水。うん。おいしい。

土本。普通の朝食になっちゃった。

火本。揺れが穏やかになったのかな。

土本。東京湾に入ったもの。

水本。じゃあ、私たち、一足先に帰る。

羽鳥。私たちって、水本と火本のことか。

鈴鹿。他に指すものがなければ、そうよ。

 (食事が終わったら、火本と水本は空中バイクに乗って、トカマク基地に先に帰った。)

羽鳥。2人ともメカ好きだ。空中バイクもサイボーグ研で作るのかな。

土本。普通のスクータに、フロート付けた感じで。

羽鳥。あるいは、水上オートバイに車輪付けたみたいな感じで。ありそうでないよな。

鈴鹿。形にもよるけど、便利そうな気がする。

羽鳥。実用は難しそうだぞ。

土本。それに、用途もニッチに近い。

モグ。エクササイザーが見えるぞ。

羽鳥。火本が出したんだな。

鈴鹿。こちらに見せるために。

 (はるか先。肉眼ではほとんど見えない。モグのモニタで見る。ゆっくり動いている。近づくにつれ、肉眼でも確認できるようになった。)

羽鳥。よく見える。ステージを付けたんだ。

土本。ええ。クレーター内だとよく見えないとの指摘を受けて。

羽鳥。早、ファンが付いているのか。

土本。ポーズを公募したから。一部で評判よ。

鈴鹿。動作が増えて、エクササイザー999とか。

羽鳥。危ない名前。

土本。じゃあ、エクササイザー1999。

羽鳥。それもだめ。

鈴鹿。エクササイザー3999。

羽鳥。二千台を飛ばしたな。

鈴鹿。倍にしただけよ。

羽鳥。体操だけだと平和だ。

鈴鹿。うん。マラカス振るとか。

羽鳥。そろばん振るとか。

清水。志摩なら分かりそう。

羽鳥。何だそれは。

清水。お粗末さまでした。

羽鳥。言えよ。

清水。ググってください。

羽鳥。しょーもないことだな。

鈴鹿。あんた、まじめすぎる。どうせ、そうよ。

清水。古い芸人の芸のことよ。見ても分からない人、続出。

羽鳥。マラカスはよさそうだ。やってみようよ。

土本。提案してみる。

 (朝日がまぶしい。モグはトカマク基地に帰る。)

第36話、終了。