花のある生活

花はあまり出てきませんが。

人間はなぜ「妬む」のか

2023-04-20 | 読んだ本
正しい恨みの晴らし方 科学で読み解くネガティブ感情  中野信子+澤田匡人 

脳科学者と心理学者が「人間はなぜ妬むのか」を、脳科学と心理学の見地から解き明かした本。

人気の脳科学者の人が書いているので手に取ってみたけど、すごいタイトルだね~。



人間は「自分より優れている人」「自分が持っていないモノを持っている人」「自分より早くこれらのモノを手に入れた人」というように、家柄、財産、個人の才能や能力、年齢、容姿の美醜、身長の高低、地位や肩書など・・・あらゆるものに「妬みの感情」を持ちます。


「妬みを感じる」というのは、その対象が「自分にとって大切なモノ」で、相手の方が優れているという状況を察知しているから

その時点で、相対的に「自分の評価は相手より劣っている」と認識され、自身のプライドが傷つきます。

自分と自分以外の人間を比較することで自己評価が下がり、それに伴ってネガティブな感情が生じます。

しかし、自分の周りにいる人間を誰でも「妬みの対象」にしているわけでもありません。


自分自身の環境から、あまりに「能力や格が違う相手」や、全く環境の違う「別世界の人間」を妬みの対象にすることは少なく、むしろ、自分と相手とは同等、またはわずかの差しかない「自分に近い他者」に強い妬みを感じるといわれています。


例えば、年の近い兄弟姉妹や、学校の同級生・職場の同僚、友人などで、場合によっては親と子の間でも「妬みの感情」はあるのかもしれませんし、テレビの視聴中やSNSで見ただけの「年齢の近い他人」「境遇の似た他人」でも「妬みの感情」が生じることもあるかもしれません。



心理学では「うらやましい」に近い感情を「良性妬み」、ネガティブなニュアンスが強い敵意を持った妬みを「悪性妬み」と分けて考えるのがトレンドなのだそう。

日本語だと「妬み」も「嫉妬」も、ほとんど同じような意味で使われていますが、英語では「enby(妬み)」「Jealousy(嫉妬)」と別々の単語があります。

学術上では「妬み」と「嫉妬」は似ているようで、それぞれ別々の感情だとされています。



「妬み(enby)」は、自分の持っていない「何らかの好ましい価値のあるモノ」を自分以外の誰かが持っていて、それを自分も手に入れたいと願うあまり、その相手に対して生じる不快に思う感情。

「嫉妬(jealousy)」は、自分が持っていると思っている「何らかの好ましい価値のあるモノ」を自分以外の誰かが奪いに来るのではないかという可能性があるとき、その相手を排除したいと願う不快な感情。



例えば「自分に自信を持っているのに、相手から評価されない」「自分に対する称賛や尊敬がない」と感じるときなど。

これも「自分よりも○○の方がいいのか!」ということで、「自分の持っているモノに魅力がない。 別の魅力を持った人間に奪われる、不安だ」となり「強い嫉妬」を感じる、ということに。

要するに、これは「私は大勢の人たちから支持されているのに、何であなたは私を支持してくれないの?」と言っているようなもの。


それなりに大勢の人たちから支持されているから「自分に自信を持つことが出来ている」わけだが
だからといって一人でも「自分に関心の無い人」がいると、その人につられて行ってしまうかもしれない、と考えるのは自信があるのか無いのか矛盾しているし。

私からすると「そんなに大勢の人から支持されているなら、それでいいじゃない」と思うけど。

要するに「自分の信念から来た自信」じゃないんだね。



第6章 愛が憎しみに変わるとき「ストーキングが止まらない」では、「ストーカー加害者」の傾向には
1.確固たる心理的動機があり、正当性を妄想的に信じ込んでいる。
2.相手を一方的に追い詰め、迷惑をかけていることを自覚しながらも、相手に好意を持たれる望みをかけている。
3.その望みが絶たれた時、心のバランスは憎しみに反転し、自殺または相手を殺害することもある。

ストーカー加害者の多くは、法を犯してまで相手に復讐する権利があると思い込んでいて、「こんな自分がフラれるなんてありえない」「信頼関係を裏切られた」「相手が間違っている」と被害者意識を持ち、相手に何らかの対応を要求し続ける執念深さもあります。


ストーカーの種類には
・別れた元の交際者がストーカー化した「拒絶型」
・望んだ相手と相思相愛の関係になろうとする「親密追求型」
・距離の詰め方が極端に不器用なので、結果的にストーカーとみなされる「不適格型」
・何らかの性的嗜好を満たしたいがために、被害者を「自分の獲物」とみなし、追いかけ回す「捕食型」
・「被害者意識」と「正義感」を持ち、自分を侮辱した相手を執拗に追いかける「恨み型」


現実の恋愛関係だけではなく、相手の知らないところで一方的に追い回しているようなときは、なおさら「自分の期待どおりの行動」を得られることは無いでしょう。

嫉妬をこじらせて「恨みの感情」まで行ってしまうと、さらに問題の解決が難しくなってしまいます。



人は「自分以外の人間が『タイミング良く得をする場面』を見たとき」などに「ズルい」と言いますね。

これも「妬みの一種」で、自分よりも得をしていると思われる人間を見ると「不正な手段を使っているのだろう」「その幸運を手に入れるのに相応しくない」と考え、不快な気分になります。

例えば、割引になっている商品をポイント〇倍の時に買い物したとか、「ショップのカードのポイント」と「楽天ポイント」が同時に付くような場合とか、ほとんどは快く対応してもらえますが、時には、あまりよく思わない店員さんもいるようです。

サイトで先着順でポイントが多く付く「ポイント預金」がなぜか申し込めない状態になっているのも、そうなんだろうけど。

たぶん、そんなに裕福でもない人間がポイント貯めたりして「お得な買い物をしている姿」が気に入らないのでしょうね。

この場合は「その幸運を手に入れるのに相応しくない」と考えている、ということかな。



「第9章 私たちのネガティブ感情とのつき合い方」で、著者2人の対談が載っているのだけど、ここで

「達観していると思われるかもしれませんが、実は一番苦しんできたのが脳科学者や心理学者ではないかと思います。 なぜなら、羨み、妬み、恨みなどのネガティブ感情と言われるものに人一倍敏感な人が心理学者や脳科学者になりたいという動機を持ちやすいからです。 ネガティブ感情に対して意識的で苦しみやすいため、何とかしたくて学び始めるのです。」

「脳科学者も心理学者も、それぞれの視点や方法でネガティブ感情に取り組んでいますが、共通点は「苦しみながら生きている自分」というレイヤーとは別のレイヤー、つまり学者という立場を得ることで、その苦しみを客観的に見ることができる。 そういう回避方法を使えるということです。 これが学問の良いところです。」

「メタ認知と言いますが、自分自身の感情の動きに対して、学問という見方をすることによって、ネガティブ感情による苦しみをダイレクトに受けて傷つくことを避けられます。 すると意識的にショックを和らげることができるようになります。」


「自分自身のネガティブ感情」の扱い方も難しいけれど、「他人のネガティブ感情」に対する扱い方はもっと難しい。

他人は自分の思い通りに動くわけではないし、自分が悪いわけでもなく、いきなり意地悪されたり、八つ当たりされたりすることも多いから。

そんなところから私も「心理学」に興味を持ったわけだけど、そこから学問を究めて学者として成功しているのは、すごいことだと思う。


興味を持ったことを調べて知識を得るということは良いことだ。




目次

はじめに

第1章  恨まずにはいられない~心理学の視点から①
なぜ怒り続けられるのか/不条理が許せない/見返しとプライド/仕返しの流儀/代理報復と集団/シャーデンフロイデと癒し

第2章  妬みと羨みの心理学~心理学の視点から②
なぜリア充が気に入らないのか/持たざる者の悪意/妬みをもたらす微妙な差/羨みと妬みの狭間で/飼いならされる妬み/感情のシーソーゲーム/妬みに操られないために

第3章  妬みを感じるとき、脳では何が起こっているのか~脳科学の視点から①
妬みと嫉妬の違い/妬みを感じる脳/他人の不幸を喜ぶ脳/妬み続けられるのは人間だけ?

第4章  正しさにこだわる人たち~心理学の視点から③
なぜ必殺仕事人が好まれるのか/魅惑のゴシップ/這い寄る同調圧力/いじめを正当化するもの/みんなで恨めば怖くない/正しさで鈍る正しさ

第5章  正義という名の麻薬~脳科学の視点から②
「道徳的攻撃」の快感/処罰感情と生贄――スケープゴート現象/あの人は罰を受けて当然?――「いじめられる側にも理由がある」の心理/正義が凶器になる時

第6章  愛が憎しみに変わるとき~心理学の視点から④
なぜ既読スルーが許せないのか/リベンジポルノと恨み/こじらせた嫉妬/ストーキングが止まらない/愛憎の連鎖を断ち切れるのか

第7章  嫉妬の脳科学~脳科学の視点から③
嫉妬とは/芸術作品にみる嫉妬――アマデウス・娘道成寺・危険な情事・ミザリー・ロベルトは今夜/ヒトはなぜ嫉妬するのか――親切な脳といじわるな脳/ネガティブ感情の処方箋――男には正義、女には共感で

第8章  ネガティブ感情の意味~脳科学の視点から④
不条理を検出し、仕返しをするメリット/亜闍世コンプレックス――お母さん、なぜ私を産んだのですか/「人間」という病

第9章  私たちのネガティブ感情とのつき合い方  
対談  中野信子×澤田匡人

脳科学者や心理学者は妬みや恨みに敏感/芸人が羨ましくて妬ましくてしかたない/嫉妬は相手をコントロールしたい欲求?/おかしい、変わっていると言われた子ども時代/異質な人に対して寛容な社会/妬みや恨みを抱えた人に向けて

おわりに





この記事についてブログを書く
« 知的な距離感 | トップ | チューリップフェアも初日か... »
最新の画像もっと見る