大阪・天王寺夜8時20分発の特急は10時38分に白浜に着く。
手荷物もない気楽な旅だ。さっそく駅前でタクシーを拾う。
ドライバーに「三段壁へ」と告げると、ルームミラーでちらっと
こちらをうかがい、車は静かに動き出した。
白浜、三段壁は、自殺の名所のひとつといわれる。
海岸線に沿う温泉街を抜けると、間もなく、三段壁に着く。
公衆電話のわきに、(いのちの電話)の案内板が立っている。
そのあたりで車を止めた。「おひとりですか。観光ですか。」
ドライバーの問いに「いや、ちょっと待ち合わせ」と短く答えた。
千畳敷の南海岸にそそり立つ高さ50mの断崖。
この大岩壁は、南北2kmにわたってひろがり、
岩肌に打ち寄せる黒潮が激しくぶつかり合い、
凄まじい音だけが耳に響く、向かい風のはずが、
なぜか、引き寄せられる感覚の異様な風だ。
崖の上の細い遊歩道をたどると、「柵を越えないでください」
の立て看板が等間隔に、あたかも手招きをするかのようだ。
ほんと、ひと足前に踏み出せば、死ねる。確実に。
楽になれる。なんという甘美な誘いであろう。
ふと我に返った。返れたというのが正しい感覚であった。
ようやく、元きたあのタクシーを降りたところにたどり着き、
手をあげて拾った車に乗り込んだ。「シーサイドホテル」と
つげると、「お客さん、大丈夫でした。」とドライバー。
怪訝に思っていると、どうやら行きしなに乗った同じ車、
同じドライバーであった。ドライバー曰く、私の身なり口ぶりから、
三段壁に飛び込み自殺しに来た客と思ったらしい。
聞けば、次のような共通点があるらしい。
これといった手荷物もなく、口々に「待ち合わせ」というらしい。
こんな三段壁で誰と待ち合わせというのか。でも確かに私も
「待ち合わせ」と無意識に答えた。このドライバーも気の毒にも
月に2,3度似たような客を乗せるらしい。
当然、自分の客が飛び降り自殺とは夢見が良いはずがない。
何故私も待ち合わせと答えたのか。あの崖上の何とも言えない魅惑的な
感覚はなんなのだろうと気になりつつ車はホテルへ着いた。
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