夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

636夜

2007-06-17 09:54:11 | Weblog
一般的な木造日本家屋。六畳の部屋が二つ。一方は畳。一方はコンクリートのプール。底が知れないほど深い。プールには中学生の少女五人と、大人の男二人が入っている。水着はない。一人の男は私、もう一人はテレビによく出るコメディアン。水鉄砲で水のかけあいをする。水鉄砲は次第に巨大化し、直径一mのものまで登場する。私は不毛な水鉄砲合戦から逃げるためにプールの底に潜る。コメディアンの「あいつは底で油揚げを食うんだ」という非難の言葉が私を追ってくる。私にはその非難の意味が理解できない。水には酸素が溶け込んでいる。まったく苦しくない。何百m潜っただろうか。やっと底までたどり着く。水上の喧騒と違って、水の底は驚くほど静寂だ。所所に灯りがついていて薄っすらと前が見える。私がいるのと向かい側の角に、かつてのアイドル歌手がいる。三十年前、私とこのアイドル歌手は愛し合っている時期があった。しかし、私の無理解から別れることになり、歌手は姿を消した。「三十年ぶりだね」と私は歌手に言う。二人の間に三十年ぶりの愛情が復活したように感じる。「私はここでずっとあなたを待っていた」と歌手は私に言う。歌手は歳を取っていない。水の底では時間が止まっている。私だけが地上の世界で醜く歳を取ってしまったのだ。私はこのままプールの底で歌手と一緒に暮らそうと思う。地上にいる私の家族はなんとかやっていくだろう。ここで三十年も私を待っていた歌手の誠実さに応えなければならない。見るとプールの底には油揚げが浮いている。これを食べていれば生きられる。私にはやっとコメディアンの非難の意味が理解できる。

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