夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

223夜

2005-08-31 16:44:01 | Weblog
千メートル級の山の頂上。サッカーコートのように平地になっている。サッカーコートの数倍の広さがある。ゴールがある辺だけさらにせりあがっている。数十メートルの高さがある。せりあがりの天辺にそれぞれ男と女が一人ずついる。天辺の男と女は愛し合っているが、そこから自由に降りることはできない。一年に一度だけ七夕の伝説のように天辺から降り、下の面でセックスができる。男のそばには大砲がある。女は静かに一年を待つが、男はいらだってときどき大砲を撃つ。大砲の弾は麓の町を襲って死者も出る大打撃を与える。町の人たちはそれも神のなせるわざで、黙って受け入れなければならないと思っている。

222夜

2005-08-30 14:58:00 | Weblog
二十年前の松田聖子が海の干潟の上を滑っている。干潟は沖に向かってどこまでも広がっている。二十年前の松田聖子は私の女神だった。単なるファンなどというレベルではなく、聖子がいたから私は生きていられたというレベルで、私は二十年前の聖子を愛していた。干潟も聖子も日の光を受けて輝いている。聖子は裸足なのに、干潟の上をアイススケートのように滑らかに滑る。私は聖子の美しい足の指をかつて愛していた。二十年ぶりに見た聖子の清潔さに私は心を奪われる。聖子の現在の汚れが激しい分だけ、二十年前の聖子は私を惹きつける。私はもうすぐ電車に乗って二十年後の聖子がいる二十年後の世界に帰らなければならない。もしこのままここに留まったら、私は時間の神に罰せられて死ぬ。しかし、死んでもいいから、私はこのまま二十年前の聖子を見続けたいと決意する。聖子のために生きた命が、聖子のために死ぬなら、それも仕方がない。

221夜

2005-08-29 19:27:32 | Weblog
体育館の床に数百人の人が寝転がっている。ステージの上に二人の人がいる。田中角栄と大平正芳だ。ともにかつての名宰相だ。彼らに会えるのはずいぶんラッキーだなと私は思う。しかし、彼らはもう数十年前に死んでいるはずだ。私は不思議に思って彼らをよく見ると、彼らは本物ではなく本物のそっくりさんだ。顔、体つき、しぐさ、しゃべりかた、すべてが本物と見分けがつかない。彼らがしゃべると、体育館にいるすべての人が感心して「ほーっ」とため息をつく。彼らは調子に乗ってしゃべり続けるが、同じせりふを単調にくり返すだけなので皆次第に飽きてくる。そっくりさんはしゃべることがなくなって困っている。二人のそっくりさんと数百人の人が無言で対峙しているのは、なんとも重苦しい。そう言えば、彼らは本物が存命のとき毎日のようにテレビに出ていた売れっ子だった。それが今はまったく仕事がない。一芸しかない芸人の末路はこんなに悲惨なものなのだなと私は悲しくなる。

220夜

2005-08-28 17:44:00 | Weblog
砂浜。私の横に父の弟に当たるおじさんがいる。おじさんは犬を抱いている。私はその犬が嫌いだ。犬も私が嫌いだ。しかし、おじさんは犬と私を仲良くさせようとして、犬を私に抱かせようとする。犬は私に抱かれるくらいなら海に飛び込んで死んだほうがましだという顔で、海にジャンプする。犬は海の上を必死で走って私から逃げる。私は怒って海の上を走る。犬も私もある瞬間に、自分たちが海の上を走っていることに気づく。犬と私には奇跡を起こしてしまったもの同士の共感が通じる。私と犬は目を見つめあう。親子以上の愛情が互いを包む。

219夜

2005-08-27 09:31:26 | Weblog
私は教室で国語の授業をしている。教室の後ろには国語では有名な教師がすわっている。私の授業を監視しているのだ。その教師は老齢だが、熱気ある授業をすることで知られている。授業に没入してくると、彼は狂人のように絶叫する。老教師の今は秘められた熱気が私にまで押し寄せてくるようだ。授業中なのに、生徒は私のほうを見ず、皆後ろを向いて老教師と対している。私は完全に無視された格好だ。私は思う。「自分が老教師の域にまで達するには、あと数十年かかるだろう。焦りは禁物」。

218夜

2005-08-26 19:06:18 | Weblog
私は小さな町の診療所の内科医だ。深夜、救急患者が運ばれてくる。私は内科医だから、患者の状態がよくわからない。私は「様子をみましょう」と言って、患者を朝まで放置しておく。「様子を見ましょう」というのは、内科医の決まり文句だ。これで今まで失敗したことはない。むしろ焦って下手な手を打つほうが悪い結果を招く。朝、私が勤務を終わって家で寝ていると、外科医から電話がかかってくる。「私は内科医として、あのように処置するしかなく・・・」と、私は必死で言い訳する。外科医は無言だ。患者は死んだらしい。私は電話を切って布団を頭からかぶる。布団は異常に重くなる。体調が悪いと布団は重く感じるものだが、しかしこれは重いなどというものではない。石そのものだ。私がかけた二枚の布団が巨大な石版になっている。助けを呼ぼうとしても声が出せない。呼吸もできなくなってくる。私はこのまま死ぬのだろうか。これが患者を殺した罰なのだとすれば、それも仕方がないと思い始めている。

217夜

2005-08-25 09:18:30 | Weblog
地下通路。ここは秘密組織の地下基地に続く道だ。白い壁。白い天井。電灯はどこにも見えないのに地上の昼と同じ明るさだ。天井自体が光を発している。私はピストルを一丁持って通路を進む。向こうの曲がり角から組織の最下層の兵隊がやってくる。学生のような格好をしている。私は兵隊に向かってピストルを発射する。ビニール袋に詰めた液体が破裂するように兵隊の体から真っ赤な血が噴出する。私はまた撃つ。今度は青い血が噴出する。次の兵隊は黄色い血だ。この組織の兵隊は一人一人違う色の血を持っている。私は面白くなってバンバン撃つ。血の色は十種類以上は数えた。今度は赤かなと思って赤い血が出ると予想が当たったうれしさを感じる。

216夜

2005-08-24 09:47:10 | Weblog
線路の側のビル。私は三階にいる。大きな窓がある。線路を電車が通る。私が立っている床は地震のように揺れる。横揺れでなく縦揺れだ。床が抜けるのではないかと思うほどだ。「電車が通ると線路と床が共鳴して横揺れではおさまらず、縦揺れになるんですよ」と事務員が私に言う。理屈はよくわからないが、なんとなく納得する。また電車が通る。同じように揺れるが、「別に気にすることはないんだ」と思って私は安心している。しかし、今度はあまりにも揺れがひどい。いつまでも続く。千両編成の貨物列車だという。一時間は揺れが続くという。トランポリンに乗って跳ねているようだ。なにもすることができない。しかし、他の人は揺れのリズムに合わせて床を歩き、机に座って仕事をしている。「すぐ慣れますよ」と事務員が言う。二十分もすると体が揺れに慣れてくる。私も少しなら歩けるようになる。膝の関節をうまく使うのがコツだ。事務員は言う。「この程度の揺れなら、まだいい。五千両編成の列車も一週間に一度は通る。線路は五本あるが、その全部に列車が同時に走ることもある。そのときはさすがにベテラン職員も立てなくなる」。

215夜

2005-08-23 09:50:26 | Weblog
巨大なダルマ落とし。高さ一メートルの円柱が五段重なっている。円の直径は一メートル。一番上にテレビによく出るコメディアンがすわっている。小太りで頭が大きい。コメディアンは最初は笑っているが、次第に真剣な表情となる。念が高まったところで「ウン」と全身に力を入れると、一番下の円柱がスッと外れる。そして連続してスッスッスッと円柱が外れていき、最後にコメディアンは床の上にすわっている。これはこのコメディアンの最高の芸だという。一年に一回、正月にしか見せない。この芸を見たいがために、ファンは残りの一年、このコメディアンの笑えない芸に耐えている。

214夜

2005-08-22 10:02:55 | Weblog
直径二メートルの木製の丸テーブル。椅子はない。私はテーブルの上でうつ伏せて寝ている。結構寝心地がいいなと思う。次第に丸テーブルは遊園地のコーヒーカップのようにグルグル回りだす。体育館のような広い部屋で、私以外にも数え切れない人が丸テーブルの上で回っている。丸テーブルは猛烈なスピードで回る。上にいる人間はしがみついているのがやっとだ。丸テーブル同士は激しくぶつかり合う。私のテーブルも強い衝撃を受けて私は振り落とされそうになるが、かろうじてこらえる。テーブルからはじき出され、宙を飛んでいる人も見える。床に落ちたら、テーブルの足に踏みつけられて死か、よくて大怪我だ。私は耳鳴りがするほどの回転に耐えるだけだ

213夜

2005-08-21 09:34:36 | Weblog
高さ二メートルの赤レンガの塀が果てが見えないほど左右にのびている。一部分に穴が開いていて土の中に下っている。人一人がやっとくぐれるくらいの穴だが、そこが地下映画館の入り口だ。私は映画館に降りようとするが、引き返して入り口の横にある便所に行っておくことにする。床までの幕をめくると、そこが便所だ。教室くらいの部屋の真ん中に小便器があるので小便が出にくい。窓から外を見ると神社の社殿が見える。赤いレンガ塀は境内を囲んでいたわけだ。神社の地下に映画館があるということは、映画館は神社の経営なのだろう。社殿は二メートルの水路で囲まれている。茶色の水が激しく流れていて、所所渦を巻いている。御神体は水に関する神なのだろうか。その豊かな水を見ると、私の小便の勢いのなさがあまりに情けない。自分がつまらない人間に思えてくる。私は小便を早早に切り上げて映画館に降りる。

212夜

2005-08-20 12:01:19 | Weblog
私の家は広大だ。外観はコンクリート打ちっぱなしだが、内部はすべて純日本風の白木作りだ。玄関から中にはいって廊下を進めども進めども果てがない。もう三十分も歩いているのに、誰とも会わない。この家では一日家族の誰とも出くわさないことなど、ざらにある。家族でもしょっちゅう家の中で迷子になることが難だが、そのときは廊下の壁の所所に隠された電話でコントロール室を呼べばいい。この家を管理するメインコンピュータが自分が進むべき方向を指示してくれる。電話のあり場所には家族にしかわからない印があって、そこを押すと電話が現れる。その印がわからない他人はこの家の中にはいったら、永遠にこの家から出られない恐れがある。そんな泥棒が何人もいるという噂もあるが、私はまだ出会ったことがない。私は今自分の部屋に帰ろうとしているのだが、やっぱり迷ってしまった。電話でメインコンピュータに問うと、「右左左右左右右左右右右左左」とコンピュータが指示する。私は言われた通りに廊下を曲がる。するとそこに私の部屋が現れる。

211夜

2005-08-19 17:32:41 | Weblog
おばあちゃんの家の横の坂。自転車のハンドルの上に私が腰掛けている。後ろでは弟がサドルにまたがってペダルをこいでいる。下りなので、弟はスピードに乗ってペダルをこぐ。自動車が向こうからビュンビュンやってくる。自転車は反対車線の真ん中にいる。自動車はスピードを緩める気配もなく、私の横をすり抜けていく。私は「スピードを落とせ」と弟に叫ぶが、弟はまったく聞かない。

210夜

2005-08-19 16:46:18 | Weblog
道の左右に金網があり、その中にゾウがいる。パオーンと鳴いているが、どこか不自然だ。金網の中はジャングルになっていてオランウータンやトラも姿を見せる。皆仲良くしているところをみると、すべてコンピュータ制御のロボットのようだ。ちょっと見ではロボットとわからないほど精巧だ。金網が尽きるところに身長二メートルもある巨大な土人が左右に数十人も並んでいて両側から槍を突き出している。私は自転車に乗っているが、このまま走り続けると槍に突き刺されてしまう。見ていると、槍の突き出し方に規則性があるのがわかる。槍が交差したとき、その下は三角のトンネルになって、その一瞬にトンネルを突き抜ければ無傷で通り抜けられるようだ。私はタイミングを計り、トンネルができた瞬間に突っ込む。私が通り抜ける寸前に槍が引かれ、通り抜けた瞬間に槍が突き出される。一瞬遅かったら私の体は串刺しになっていたところだ。

209夜

2005-08-19 09:06:45 | Weblog
二軒のラーメン屋が道を隔てて店を開いている。一軒は道に直接カウンターを出していて五人しかすわれないが、いつも行列していて周辺に迷惑をかけている。一軒は百人もはいれる店だが、客は一人もいない。私は急にラーメンが食べたくなる。行列の店はうまいに決まっているが、今も百人以上並んでいて、いつ私の番がくるかわからない。仕方がなく私はもう一軒にはいる。主人は客がいないのに猛烈な勢いでチャーハンを作っていて、直径二メートルの皿に山盛りになっている。注文もしないのに私の前にもチャーハンがくる。まずい。腐った魚と腐ったオレンジを混ぜたような味がする。私は一口しか食べられない。改めてラーメンを注文するが、主人は依然としてチャーハンを作り続けていて、ラーメンがやってくる気配はまったくない。