夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

96夜

2005-07-16 10:48:07 | Weblog
海岸から海のほうに突き出した家。海岸は岩場だが、海の一部を堰き止めて、そこにコンクリートを打ち込み、土台を築いて建てた家だ。満潮になると家の床と同じ面まで水がくる。最も海に突き出した部屋は東西南の三面が強化ガラスでできている。五センチの厚さを持つガラスで、どんなことがあっても壊れることはないと、家の人たちは信じている。中は十畳ほどの和室だ。海は今凍結している。東西南の三面が床と同じ高さで凍結した海に囲まれている。空には鈍い太陽が出て、海は一面に光っている。私は客としてその部屋の中に座っているが、まったく寒さを感じない。南をずっと見渡すと、凍った水平線が見える。その沖から凍結した海を越えて津波がやってくるという情報がもたらされる。しかし、家に届くまでには津波も力を失っているから、この家が崩壊することはないと、家族の人たちは思っている。本当にそうだろうか。私は心配だ。見ていると、水平線が徐徐に盛り上がって、津波がくる気配だ。津波は凍結した海の上を滑るようにして迫ってくる。今さら逃げようもないので、私はじっとしている。津波は強化ガラスにドンとぶつかる。ガラスにひびがはいったかと恐怖させるほど大きな音だ。一瞬のうちにガラスの外側はすべて水に覆われる。この家は津波の底になったようだ。しかし、水が家の中に浸入してくる気配はまったくない。この程度のことは最初から想定して作った家のなのだと、私は思う。恐ろしく巨大な津波で、いつまでたっても家は水の底から出る気配がないが、心配はない。

コメントを投稿