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3 GREAT AMERICAN VOICESでのキャロル・キング

2007-11-19 19:29:39 | ライヴ
 ネットでのライブレビューで結構絶賛されてるこのライブイベントについて、やっぱりどうもなにか違和感というか、疑問ばかりを感じていた自分なのですが、そんな自分もキャロル・キング目当てに行ってきましたよ、3 Great American Voices。

 どうやらその日ごとに出演順が違うということで、目当てのキャロルはいつ出るんだろう?と気をもんでいると、この日の出番は最初。
 客電がおち、スポットライトを浴びながらキャロル・キング登場。素敵な笑顔で現われたキャロルは、一瞬にしてその笑顔だけで武道館をあたたかい雰囲気にしてしまう。そんな彼女がピアノに向き合うと期待に胸を高鳴らせながら固唾を飲む観客。
 "Beautiful"から始まり、"Up On The Roof"、"So Far Away"、"You've Got A Friend"と歌われる珠玉の名曲たち。曲が終わるごとに楽しそうに話す彼女を見ていると、それだけで心が満たされる。思うにキャロルの歌は発表当時よりさらに現代生活において有効である。人間関係が希薄なうえ、ギスギスしがちな現代の社会生活の中で、彼女の歌が発するメッセージはダイレクトに胸に迫ってくる。それは他者と積極的に関わろうとするポジティブな姿勢であり、弱い自分を吐露する勇気であり、愛に基づくヒューマニズムである。単にいいメロディだとかノスタルジックな思い出だとか、それだけではない歌がもつ普遍的な力。それこそがキャロル・キングの歌なのだ。

 さて、そんなキャロル、さすがに高い音になると往年の歌声は出ない。かなり厳しい瞬間もあったが、ぼくはそこに彼女の意地を見た。キーを落として歌うなら簡単に出来る。歌い方を低く抑えればそれなりに歌いきれる。が、彼女はところどころ抑えることはあっても、基本的にはオリジナルの歌い方にこだわった。声が出なくとも精一杯歌おうとするところに、彼女の自分の歌にかける執念を感じたのだ。声が出なくても強引に歌いきろうという姿勢は彼女の年齢と音楽キャリアとを考えるとおそろしく攻撃的で、年齢的な衰えはあっても音楽にかける情熱はさらに研ぎ澄まされているように見えた。
 ライブ中、終始穏やかな笑顔を見せていた彼女が一転、"I Feel The Earth Move"で一心不乱に激しく鍵盤を叩いていたときのアグレッシブな顔には、音楽と向き合う一人の求道的なアーティストの姿があった。

 フルステージを望む身としては短い時間だったが、それでも彼女の音楽キャリアがまだまだ終わっていないことを確認できただけでもじゅうぶんな収穫である。と、それよりなにより、短時間ながらもやはり素晴らしい曲を聴かせてもらったことは大きな大きな喜びだ。次の来日があるのかどうかわからないけれど、ぜひともまた観たい。今回聴けなかった曲はまだまだたくさんあるのだから。
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スウェーデンサウンズ・イン・ジャパン07

2007-11-10 08:24:16 | ライヴ
 「スウェーデンサウンズ・イン・ジャパン07」という、そのまんまのタイトルのイベントに行ってきた。最近は北欧のポップ音楽を好んで聴き、聴いているうちになぜかスウェーデンの音楽ばかりが自分の好みにドンピシャなことに気付き・・。そんな矢先のイベントだったので、それはそれは楽しみに行ってきましたよ。

 出演は、今までアルバムはおろか、曲もロクに聴いたことがない人たちばかりの4組。出演順に、ペニラ・アンダション(Pernilla Andersson)、マヤ・ヒラサワ(Maia Hirasawa)、サハラ・ホットナイツ(Sahara Hotnights)、ラスト・デイズ・オブ・エイプリル(Last Days of April)。
 会場の渋谷DUO Music Exchangeは開演時間になってもそこまで混み合ってもいず(「超満員」というより、「満員に近い」といった感じ)、とても観やすい環境になっていました。

 最初に現れたのはペニラ・アンダション。ステージ真ん中に置かれたキーボードの前に、いくぶん緊張したような面持ちで立ち、そして歌い始めた。曲によって2人のバックメンバーをつけたりしながらきれいな歌声とメロディを淡々と歌っていく姿。それは、わざとらしいショーマンシップとはかけ離れた、純粋にいい曲を生み出そうとする高いミュージシャンシップにあふれていた。ステージでの演出がほとんどない(MCも用意された言葉ではなかったような・・)、歌と曲だけで真っ向勝負するステージによって、彼女の音楽はよりダイレクトに響いてくる。
 彼女の音楽には知性がある。実はぼくが彼女のステージを観て一番強く感じたのが音楽に対する知性だ。音楽的な教育を受けてきた背景もあるのだろうけれど、その音作りには様々な音楽の要素が彼女なりの解釈で脈打っていて、かといって高尚とか難解とかのイメージをけっしてもたせず、なじみやすいポップな部分をしっかりと保っている。しかもすごいのは、それが彼女が確信的にやっているようでもなく、ごくごく自然な彼女の表現というかたちで表われてきていることだ。
 今までに出したアルバムは3枚。本国スウェーデンで彼女に注目が集った2枚目、3枚目のアルバムは日本では未発売らしい。1枚目のアルバムは彼女の音楽的な素養を紹介するにとどまった感が強かったが、聴いたことのなかった2枚目以降をこの会場で買った。これから聴くのが楽しみだ。

 2番目に登場したのはマヤ・ヒラサワ。実は、以前youtubeで見た彼女の曲の素晴らしさにはとにかくビックリしていたし、今年知ったアーティストの中でぼくにとってのベストな人がこのマヤ・ヒラサワなのだ。
 小さな身体でギターを叩くように弾き、独特の魅力的な声で歌う彼女にはまるで屈託がない。歌うことを心から楽しんでいる姿は、その素晴らしい曲とともに、とても感動的だ。目の前の世界が大きく広がっていくかのような、その力強くもあり繊細でもある歌声は、どんどんと自分の中に入ってくる。
 彼女の場合、まず歌があって、そこにギターなどの楽器がついてくる。その歌は絶対的であって、楽器は同等な存在ではない。表現豊かな歌は命をもち、そのときそのときで表情を変える。サポートする楽器はそのときそのときでその歌に合わせるだけだ。いろいろな表情を持つその歌声の魅力はライヴでは際立ち、同じ曲をアルバムで聴いても受ける印象はまるで違う。
 今回のライヴは女性のキーボードと一緒にやっていたが、この人の歌がまた上手い。マヤの独特の歌と交じり合う彼女のコーラスの美しいこと! 有機的に創り上げられるその歌の世界には無駄がまったくなく、彼女のキーボード、マヤのギターと小さい鉄琴(?)が、大きな力をもつ彼女たちの歌を引き立てる。その歌の圧倒的な力を文字にすることはとても難しいが、少なくともぼく自身が歌にもっているイメージの扉をひとつ増やしてくれたことはたしか。彼女にはぜひともまた来日して、今度はフルステージをみせてほしいものである。

 そして次に出てきたのはサハラ・ホットナイツ。ヴォーカル&ギター、ギター、ベース、ドラムスというごくごく一般的なメンバー構成の女性4人組バンド。そんなバンドが出す音というのがまたオーソドックスなスタイルの、ストレートなロック。そのあまりのストレートさはぼくにとっては特に感じることもなく、なので特に書くことがありません・・。

 最後に登場したのはラスト・デイズ・オブ・エイプリル。実は彼らのアルバムを1枚聴いたのだけれど、「この曲は○○に似てる、こっちの曲は○○に似てる・・」という印象ばかりで、曲自体はいいのに、どうもその似たバンドのことばかり考えてしまって、あまり集中して聴けないでいた。
 ところがこのライヴを観て印象はまるで変わった。彼らには彼らにしかない「雰囲気」があるのだ。その独特の空気感は彼らにしか生み出せないものであるし、そしてそれが自分にとってとても心地いいものであることがわかった。
 その独特な雰囲気を作っているのがカール・ラーソン。彼はいろいろな面ですごい。FMラジオでのインタビューでの受け答えを聴いて思ったことだけれど(ライヴ中のMCでもそうだが)、彼はとても謙虚で朴訥とした性格の人であるのに、ステージでの存在感は突出している。小さなストロークで弾くギターは、ときに静かに、ときに荒々しくバンドを引っ張る。彼のギターはコードストロークから離れたときにより独特な音を選ぶのだけれど、それが曲のカラーを決定づけ、そしてそれがとても魅力的なのだ。それに加え、囁くようでもありながら、直情的な面ももつそのヴォーカルの色気と、いい曲を書くという作曲能力。バンドのフロントマンとして必要な要素をじゅうぶん過ぎるほど併せ持つ彼が引っ張るバンドの素晴らしさは、ライヴという場で真価を発揮する。
 ベースが引っ込み気味、ドラムが硬い感じもしたけれど、これはこれでバンドの音としてギターの音が際立つことになっていたと思う(初めて観るのでこんな言い方になってしまいますが・・)。聞いたところによると、今回のライヴはバンドとしてひさしぶりだったらしく、始まる前は結構緊張していたようだが、そんなこともまるでわからないくらいの堂々としたステージ、彼らの雰囲気はしっかりと会場を包んでいた。
 そんなライヴを観たあと、今まで集中して聴けなかったアルバムがまったく違うものに聴こえるようになった。彼らの魅力がなんであるのか、ようやくわかった気がする。

 スウェーデンのポップミュージックはおもしろい。まだまだ自分が知らないだけで、すぐれた音楽がたくさんあるはずだ。
 来年もあったらぜひとも行きたいです、スウェーデンサウンズ。
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キャロル・キング初来日のときのお話し

2007-11-01 20:37:45 | Weblog
 昨日に引き続きキャロル・キングの話しです。

 17年前のキャロル・キング初来日と初コンサート。ちょうど同じ時期にストーンズとマッカートニーが続けて来日、日本での初めてのステージを東京ドームで盛大にやっていたので、キャロルの初ステージは陰に隠れ、けっして大きな話題になることはなかったんだけれど、ぼくはしっかり2日続けてNHKホールの彼女のステージを観ました。

 昔のことなので細かいところまでは覚えていないけど、とにかく感動したことだけは強烈な思い出として鮮明に残っている。アルバム"CITY STREETS"を出したあとのライブだったにもかかわらず、セットリストは"TAPESTRY"を中心にしたベストアルバムのような選曲。誰もが聴きたいであろう曲を次々に歌う彼女の姿を、観客みんなが息を殺して見つめていたのがとても印象的なステージだった。名盤"TAPESTRY"からの曲が始まる瞬間の観客の息遣いや空気の揺らぎははっきりと感じとれ、曲の素晴らしさはもちろんのこと、そんな観客の想いさえもがNHKホールに素敵な雰囲気を作り上げていた。
 キャロル本人はいつもと同じステージだったのかもしれないけれど、生の歌を聴きたいと待ち焦がれていた日本の古くからのファンは、それはそれはメラメラとした期待をもって身を乗り出さんばかりにステージを見つめていたのだ。

 当時48才だったキャロルだが、スラッとしたモデルのようなプロポーションにタイトなステージ衣装は本当に若々しかった。アップテンポな曲では細い身体で軽やかにリズムをとり、しっとりした曲では鍵盤をやさしく撫でる。2日目のステージでは幾分声がかすれていたが、それでもじゅうぶん満足できるだけのたくさんの曲を歌いきるそのエネルギーには驚いたものだ。曲そのものがもつ強烈な魅力と彼女の音楽にかける情熱、そして観客それぞれの思い入れ。

 コンサートが終わって会場をあとにするとき、涙をうかべている人を見かけた。一人や二人ではない。何人もの人が目を腫らして出てくるのだ。その人たちがどんな気持ちで、どんな思い入れをもって、そしてなにを感じて目を腫らしているのか、それはわからない。ただ、理由はわからなくても納得はできる。目を腫らすことの意味はじゅうぶんわかる。その音に触れたとき、自分の中でなにかがどうにかなってしまうのだ。きっとそれがキャロル・キングという人の音楽なのだろうと思う。
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