that sound...

好きなもの・気になったもの・身近な生活

11/22 下地暁 @ VILLAGE 琉球の風

2010-11-25 20:31:37 | ライヴ
 まったくもって不勉強ながら、下地曉というミュージシャンの存在を知らないでいた。名前さえ聞いたことのないこの人のステージを、たまたま観光旅行で行った宮古島で観たんだけれど、ここで触れた音楽がとにかく強烈だった。歌の上手さや力強さはもちろんのこと、下地曉という人の人生の機微がそこには満ちあふれていて、それをものすごく親しみのある表現でもってやさしく語りかけてくる。親しげでありながら歌に内包されている迫力がとにかくものすごい。人間味あふれる彼の歌の力に、ただただ呆然としてしまったのだ。

 場所は、土産物店とローカルフードや泡盛を食べ呑みすることができる観光客向けの屋台村。無料で観ることができるステージで、彼の歌を聴いた。屋台村の無料のステージということで、飲み食いしながらの余興の趣たっぷり。そんなところだから観客もとてもリラックスしていて、自分も特に期待するわけでなく、なんとなく見ていた。

 が、これがとんでもないステージだった。下地曉はギターを弾きながら歌い、傍らには"88"荻野鉄也がハープを吹く(キーボードでプログラミング操作も)だけのシンプルな編成。しかしこれが彼の歌を中心にえもいわれぬ拡がりを見せる。その歌の説得力はおそろしくパワフルで、めちゃくちゃあたたかい。彼自身がとてもリラックスし、なんの力みもない緩やかで穏やかなステージなのに、そこにある濃密なエネルギーには震えがくるほど。歌の力をまざまざと感じさせられた瞬間だった。
 でもそんなすごい歌を聴かせながらも、観客とのやり取りはとてもくだけたもの。"88"との掛け合いも可笑しく、宮古の方言なども交えながらのMCはざっくばらんだ。常に笑いの絶えないステージはひたすら楽しい雰囲気だったけれど、ただ、「なくなりつつある宮古の言葉」を語るときの彼の表情には物寂しいものが感じられた。

 これはあとで知ったことだが、失われていく宮古の言葉や文化をなんとか残そうと彼は頑張っているのだそう。彼が実行委員長を務める宮古島の祭り、「クイチャーフェスティバル」(クイチャーは宮古の伝統的な踊りで、沖縄本島のカチャーシーとはまったく別もの)はそんな姿勢の表れだし、宮古の伝統歌を歌ったアルバムを出すなど、宮古の文化継承のための活動は精力的だ。東京で音楽活動をしていたときに経験したこと、故郷の宮古に帰ってきてから積極的に自己のルーツと向き合い、そこから感じた使命感。それらが彼の活動の原動力となっていて、彼の歌をことさら説得力のあるパワフルなものにしていると思うのだ。

 終演後、お二人と話す時間がもてた。ものすごく気さくに丁寧に接してくださる下地さんと荻野さんからはポジティブなエネルギーがみなぎっていた。
 これもあとで知ったことだが、この日はちょうど、前日に行われる予定だったクイチャーフェスティバルが、雨の影響で(会場が使用不可能になってしまったとのこと)開催延期になった直後だったらしい。そんなトラブルがあったすぐあとにも関わらず、疲れた顔も見せずに丁寧にお話ししてくださった下地さんの器の大きさにいまになって感じ入る次第。まったくもってタフな人だ。

 地元の文化を愛し、使命感をもった志の高いアーティストの歌は響きが違う。宮古に対してとても強い想いがある彼の歌には、まさしくそこで歌うことの必然があり、聴く側に強いメッセージとなって響いてくる。彼が宮古のルーツ音楽を歌うということは、音楽が音楽たるべき姿でそこに在るということを意味する。彼の活動は多くの人に知られるべきだ。

 下地暁さん、いままでお名前さえ知らなくてすみませんでした。これからアルバムを後追いし、宮古の音楽、文化も勉強していきたいと思います!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

11/10 Born Crain and SUEMITSU @ Billboard TOKYO

2010-11-12 19:04:47 | ライヴ
 いまだにライヴを観たことがないボーン・クレイン。その愁いのあるメロディとハジケるバンド・サウンドはポップ・ミュージックのなんたるかを示していて、ちょっぴり鼻にかかった甘い歌声もまた魅力的。彼のルックスにひきつけられる女性ファンも少なくないだろうけれど、見かけはアイドル然としていながらも、彼は実力のともなったポップ・マエストロだ。ライヴ映えしそうなアッパーな曲もあることだし、彼のステージはポップさ全開のとても楽しいものになるはず。期待していたのだ。
 それだけに今回、一日だけの来日ライヴってことでヒジョーに楽しみにしていた。2007年の初来日のときは自分のバンドをバックに熱~いステージを観せてくれたそうだけれど、今回はSUEMITSU & THE SUEMITHとの共演らしい。

 「そーか、今回は自分のバンドじゃなく、末光のバンドがバックについてやるのもおもしろいかもしれん、最新アルバム『アナトミー』で末光と共演した曲もあったし、この組み合わせもアリだなぁ」、と思っていると、事前に見たライヴ案内には「アコースティック・セット」とある。

 ん、これはどういうこと??

 「末光篤との共演」でなく「ボーン・クレインとSUEMITSU & THE SUEMITHとの共演」でどんなことよ??

 始まる前からどんな形態の演奏になるのかまったくわからないままの不安な気持ちで会場に入った。

 「共演」の「アコースティック・セット」とはつまり、前半が末光とギター一人のステージ、後半がボーンとギター一人のステージという形態だった。バンドを従えないボーン、しかも短い演奏時間のビルボードで、その後半だけしかやらないという承服しがたい内容に始まる前からガックリ。もっとしっかりとボーン・クレインを観たかったのに…。

 テンション下降著しいなか、末光とギタリスト登場。末光を観るのも初めてだが、ピアノをラウドに攻める末光に初めはイヤな感じがした。ずいぶんと潰された音のピアノが気の毒にさえ思えたけれど、それも曲によって弾き分けていただけなのだろう。音源として発表されている曲は少ししか知らないが、ピアノとギターのみでリアレンジされた曲はラフで、あえて力技で放り投げているような感じ。個人的に、バンド・サウンドの末光にはハードエッジな疾走感をイメージしているんだけれど、その音がアコースティックな場での表現として、いわゆるピアノの音色の美しさと相反するマッチョな音になっていくのはなんとなく理解できる。そういう意味では原曲のアレンジを知っていればかなりおもしろく聴けたんじゃないだろうか。この日にやった曲で自分が知ってたのは『Allegro Cantabile』だけだったが、このアコースティック・バージョンはすごくおもしろかった。この人のことはいままでよく知らなかったけれど、このステージを観て興味津々となった。
 と、ここでギターを弾いていたのがあの斉藤誠だったのは驚き。ギターがやっぱり上手かったなぁ。アコースティックなのにバッキバキなソロをかましてたもんなぁ。

 さて、後半、ボーン・クレインが出てくるとステージの色彩が一気に華やかに。ルックスではまったく勝ち目がない末光に男としてエールを送りたくなるほど対照的。ボーンがピアノを弾くとこれまた綺麗な音色で、剛健な末光のピアノと正反対。歌声は澱みがなく、情熱的。バンドでないことの物足りなさはまったく感じなかった。なにしろあざとさ、わざとらしさがまったくない、音楽に対するその真摯な態度が清々しい。自分の音楽を観客に丁寧に届けようとする彼の姿勢が歌を純粋なものにし、メロディの良さも相まって感動を誘う。音楽の才能は言わずもがな、彼のそういうスタンスも歌をより魅力あるものにしているのだ。

 末光30分、ボーン45分のソロに、共演2曲のライヴ。ボーンだけで1時間は観たかったし、時間的にみると不満はあるけれど、ライヴの内容自体は大満足。才色兼備なボーンはショーマンシップもあって、女性人気がすごいのも納得。同じ男としては実にイヤ~な存在だけれど、彼の言動には嫌味がまったくないので、優れたパフォーマーとしてただただ感嘆するばかりだった。今度はバンドで観たいなぁ。


<2nd show>
SUEMITSU & THE SUEMITH
1. Irony
2. Sagittarius
3. HAPPY(Cover)
4. Allegro Cantabile
5. Astaire
6. Larger Than Life(with Born Crain)

Born Crain
1. Larger Than Life(with SUEMITSU)
2. Piano Man
3. John Travolta
4. Fools Rush In
5. Calling All Cars
6. 4 Letter Word
7. Don't Ever Go
8. Tell The World
9. This Is Me
10. Walking In The Sun

Encore:
11. Butterfly (with SUEMITSU)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする