NEC、デンマークIT大手買収は「安い買い物」か
山田 雄一郎:東洋経済 記者引用
2018年1月、英国のITサービス大手の買収を発表するNECの新野隆社長(撮影:今井康一)
電機大手のNECが2018年12月、デンマーク最大手のIT企業「KMD A/S」(以下、KMD社)を1360億円で買収すると発表した。
NECは2018年1月に英国のITサービス企業「Northgate Public Services」(以下、ノースゲート社)を713億円で買収したばかり。NECにとって1000億円以上の買収は初めて。これまで過去最大の買収はノースゲート社の713億円だった。NECは買収戦略を加速していると言っても過言ではないだろう。
買収価格は「非常に安かった」
KMDは官需に強いソフトウェア、ITサービス企業で、デンマークは現在、e-government(電子政府)化が世界で最も進んだ国として知られている。KMD社もノースゲート社も、NECが中期経営計画で「グローバルでの成長エンジン」と位置付けるセーフティ事業(情報システムのプラットフォームを活用した犯罪捜査支援や出入国管理、行政基盤、住民サービスなど)が主柱である。
NECが保有しているキャッシュ(現金・現金同等物)は2018年9月末で3707億円。今回の買収資金1360億円はすべて手元資金でまかなう予定だ。買収関連費用として計8社に約20億円を支払う。各社の金額は不明だが、「最も多く支払うのはファイナンシャル・アドバイザリー(FA)を務めたモルガン・スタンレーに対して。成功報酬部分が大きかったから」とNECの山品正勝・執行役員常務は明かす。
買収金額をEBITDA(税引き前利益に支払利息と減価償却費を加えた金額)で割った数値を「EBITDA倍率」という。買収金額が割高か割安かを示す指標だ。新野隆社長は「KMD社のEBITDA倍率は約8倍。この手の(IT)企業買収では非常に安いと思っている。前回のノースゲート社が12.3倍。それに比べても安い。(ノースゲート社買収と同様)今回もビット(競争入札)にならなかった。(買収金額の1360億円やEBITDA倍率8倍というのは)非常にいい数字だったと思っている」と2018年12月27日の会見で胸を張った。
新野社長の言うとおりなら、NECはなぜKMD社を安く買えたのだろうか。また、なぜNEC以外の買い手が現れなかったのだろうか。その鍵を握るのはKMD社の成り立ちである。
話は2012年にさかのぼる。デンマーク政府は行政手続きのデジタル化を進める資金を捻出するために、国営企業だったKMD社を民営化した。当時、買い手として手を挙げたのが複数のプライベート・エクイティ(未公開株投資、以下PE)ファンドを運営する投資会社、アメリカのアドベント・インターナショナル・コーポレーション(以下AIC社)だった。