本当に大丈夫なんですか 手が震えるなど、副作用が厳しすぎる
週刊現代
35種類もの薬を飲んだ
「僕は'01年から'13年まで、抗うつ薬、精神安定剤、睡眠薬などの向精神薬を服用しても休まず、12年間ずっとです。この間に受診した医療機関は9つ、服用した向精神薬は35種類にも上ります」
こう語るのは、シンガー・ソングライターで日本を代表するウクレレ奏者の山口岩男さん(55歳)。
ギタリストとしても活躍し、森山直太朗などのライブにも参加していた山口さんだが、仕事へのストレスと弟の突然死をきっかけにパニック障害とうつ病を発症。複数の薬を服用し「薬物依存」状態になっていた。
現在は、懸命な努力の末、薬物依存から脱出。看護師だった妻の支えもあり、うつ病を克服した。ただ、ここまでの道のりは地獄だったという。
今年の4月に、その壮絶な体験を綴った自著『「うつ病」が僕のアイデンティティだった薬物依存というドロ沼からの生還』を上梓した。山口さんが振り返る。「薬を飲み始めると一旦、動悸や息切れなどは治まりました。ところがすぐに効き目が弱くなった。身体は薬物に対して耐性を付けていくのです。1杯では酔えないので2杯3杯と増えていくアルコールのような感じで、徐々に薬の量も増えていきました。
それと同時に目に見える副作用も出てきました。現在私の体重は約50kgですが、薬を飲んでいたころは90kgまで太りました。
ウクレレのレッスンをしている動画が残っているのですが、精神安定剤は筋弛緩剤でもあるので、口元が緩んでヨダレが出てしまい、言葉もしっかり話せていなかった」
厚労省の調べによると、日本のうつ病患者(医療機関受診者)は100万人を突破。高齢者のうつも増えていて、10人に1人は「老年期うつ」にかかるというデータもある。
先頃、NHKの『あさイチ』(10月31日放送)でも特集され大きな話題を呼んだ。特に番組のなかで大きく取り上げられていたのが、うつ病の薬による副作用だ。
抗うつ薬の副作用は、眠気や口の渇き、頭痛、吐き気、倦怠感からEDまで多種多様。
番組内では、いくら薬を飲んでも治らないばかりか、「手が震えて、ペンも持てなくなった」「薬を体内で消化しきれずに、急性膵炎になった」など副作用に苦しむ人が複数登場。効果に比べて厳しすぎる副作用が浮き彫りになった。
うつ病の人は、幸福ホルモンと呼ばれる脳内のセロトニンの量が減少している。それらのホルモンを増やすために使われるのが抗うつ薬である。
軽症、中症の患者には、まずパキシル、ルボックス(一般名はパロキセチン塩酸塩、フルボキサミンマレイン酸塩、以下同)などのSSRIと、SNRIのトレドミン(ミルナシプラン塩酸塩)の中から、一つが使われる。
それで効果がないと三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬と呼ばれる効き目の強い薬が処方される。
YSこころのクリニック院長の宮島賢也氏が語る。宮島氏は医者であるとともに、7年間うつ病を患った経験を持つ。自著に『薬を使わない精神科医の「うつ」が消えるノート』などがある。「いまはSSRIが主流になってきていますが、ベテランの精神科医には、昔ながらの三環系のほうが効果があると信じ込んでいる人もいます。ただし、三環系の薬は副作用も強いので注意が必要です。
薬は根本的な治療ではなく、あくまで『対症療法』であることを頭に置いておく必要があります」
薬をやめた後も大変
抗うつ薬は、脳に作用するため、精神面の副作用も大きい。
うつ病を経験したノンフィクション作家の上原善広氏が実体験を語る。
「'10年に(うつと躁を繰り返す)双極性障害と診断され、三環系抗うつ薬とベンゾジアゼピン系の睡眠薬・ハルシオン(トリアゾラム)、同系抗不安薬のデパス(エチゾラム)などを処方されました。
薬を服用するとまず体が動かなくなり、眠っていないけれど眠っているような状態になりました。
薬を飲み始めてから1ヵ月後、3ヵ月後、そして、1年後に3回自殺未遂を起こしました。脳に影響を与える薬なので、理性のたがまでも外してしまったのです」
うつ病の場合、抗不安薬や睡眠薬がほぼ間違いなく一緒に処方される。こうして、あっという間に何種類にも薬が増えていくのだ。
「効かないものだから、薬がどんどん変更されるんです。許容量一杯一杯になってくると、違う薬にスイッチして、またその薬の最大許容量までやるという繰り返し。
しまいには医師からは『統合失調症じゃないか』と言われ、さらに薬を出されそうになり、『おかしい、もうやめよう』と思い留まることができました」(上原氏)
それはギリギリの判断だったという。