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ベーくん

ハーレーをのんびりカスタムしていく男

アンドリュースのカム比較

2010年11月15日 | カム交換

前回のブログの続きです。

ミントン氏のカムに関するアドバイスは2点。
(1) インテイクバルブを閉じるタイミングが30°前後
(2) ピストンの動きが最も速くなるTDC+76°のときにバルブが0.40インチ開く

これが中低速でトルクを太らせるカムの条件だった。氏いわく、アンドリュースのカタログで該当するものは21Hだけ。しかし実際には3つあった。2010年カタログには09Hと48Hが新しく追加されていた。
(06Dyna, 07以降TC96のチェーンドライブ・カム)

# Grind Timing CL Duration Valve Lift@ Springs
.053 .020 Lift TDC
Stock
06ダイナ
Intake
Exhaust
02/34
42/-03
106
112.5
216
219
256
259
.473
.474
.087
.110
Stock
Stock 07 Intake
Exhaust
-09/25
42/-03
107
112.5
196
219
234
259
.473
.474
.087
.110
Stock
2010
新製品

09H -02/28
40/-04
105
112
206
216
242
252
.492
.486
.075
.075
Stock
  21H 10/30
40/08
100
106
220
228
255
264
.498
.498
.134
.121
Stock
  26H 11/35
41/09
102
106
226
230
262
266
.492
.490
.138
.120
Stock
2010
新製品
48H 13/29
43/15
98
104
222
238
257
273
.548
.548
.153
.163
Stock

(アンドリュース・プロダクト社2010年カタログから抜粋)

09Hはかなりマイルドな感じが数字から見て取れる。ストックの06ダイナよりも作用角(Duration)が小さい。リフトもあまり差がない。TC96に使うと差があるのかも知れない。

21Hはミントン氏のお墨付き。低回転でトルクが盛り上がるストリート向け。26Hもトルク重視で二人乗りが楽になると評判のカムだが、ミントンさんは「普段使わない5500回転のために低回転域が犠牲になっている」と切り捨ててしまった。

48Hは未知のカムだ。カタログの説明では、「2010年デビュー。ニューデザイン、カムの先端が幅広になっている。ストックのツーリングモデルに最適。中低速で最大トルクを発生する。」となっている。

1)「カムの先端が幅広」 = カムが素早く開き、その状態を長く保てるということか。
2)「ストック」に適合 = 21H同様「ボルト・イン・カム」ということか。
3)「ツーリングモデル向け」 = これは「トルク重視」と見て間違いない。

■ CLとは
カタログの項目に「CL」という列がある。これは「センターラインと読む」と注釈があった。センターラインはピストンのTDC~カムの頂上ポイントまでの角度のこと。

■ インテイクのCL = 小さいほどトルクを生む
v-twinforum.comの記事
によるとハーレーの場合、吸気側のカムのセンターライン(CL)は通常98~106°の間にセットされている。吸気側ではこの数字が98°に近くなるほどバルブタイミングが早まりトルク重視型となる。逆に106°に近づくほど高回転型のエンジンとなる。

■ 排気カムのCL
排気側のカムのセンターラインは通常112~102°の間とされている。排気側ではCLが112°に近いとバルブイベントが早まって低回転型となり、102°に近いと逆に高回転型となると説明されていた。

■ センターラインとオーバーラップの関係
両方のCL(センターライン)を小さい数字にすると結果的にオーバーラップが増える。その結果、高回転で良く回るがその分低速トルクは犠牲となる。吸気と排気を比較すると、吸気側のセンターラインの変更が結果に対してより支配的な影響を及ぼす。

48Hは吸気イベントが21H・26Hよりもすこし早い。よって48Hは21Hよりも更に一層低回転型だと言えるが、オーバーラップが少し幅広となっているので低速トルクへネガティブな影響もある。その分48Hは上にノビるはずだが。。

■ ノーマルカムのCL
両方のセンターラインを大きな数字にすると結果的にオーバーラップがなくなる=ノーマルカム。

■ カタログにない数値「LSA」
LSAはローブ・セパレーション・アングル: 吸気側と排気側のセンターラインがお互いにどれくらい離れているかを示す数字。だがメーカーのカタログには掲載されていない。v-twinforum.comの記事によると、この数値とエンジン特性は以下のような関係になっている。

【セパレーションが狭い=98-103°】
中低速でトルク増大、最大トルクが増大、アクセルのレスポンス向上、狭いパワーバンド、シリンダー圧力増大、ノッキング、始動時の圧縮増、圧縮効率が増大、不安定なアイドル、オーバーラップ増、ピストンとバルブのクリアランスが減少、アイドル時インマニの圧力増

【セパレーションが広い=104-108°】
高回転でトルク増大、最大トルクが減少、広いパワーバンド、アクセルのレスポンスがマイルドになる、ピークパワーの増大、シリンダー圧力減少、ノッキング減る、始動が楽、圧縮効率の減少、アイドル時インマニの圧力減、アイドリングが安定、オーバーラップ減少、ピストンとバルブのクリアランスが増える。

■ LSA(セパレーション) = ( 吸気CL + 排気CL ) ÷ 2
21H = 103°
26H = 104°
48H = 101°

一番低速トルク型なのは48H。その次は21H。26Hはどちらかと言えば高回転型だということになる。

// ------------------------------------------------

自分が興味があるのは、右手を捻ればどこからでも駆け上がる低回転の力。これを手に入れたい。“ミントン氏の法則” で言えば21Hが低速域で最も扱いやすそうだと言える。48Hも吸気バルブが30度近くで閉じる。センターラインやセパレーションアングルに目をやってみて、48Hもとても魅力的なカムに見える。

次回は「アンドリュースに手紙を書く」です


ジョー・ミントン氏のカム選び

2010年11月08日 | カム交換

「カム選択 ~ 実践ガイド/限られた予算でパワーを向上させる方法」というコラム記事を雑誌で読んでカム交換に興味を持った。(2010年2月号のAmerican Rider)

コラムライターはジョー・ミントン氏。彼は隔月発行のこのバイク雑誌で毎回コラムを書いている。読んでる限りでは、この人はかなり実直な性格のようだ。理論をこねくり回すより実際の経験に基づいた結果だけを信じるタイプ。

たとえば、あるコラムで「マフラー交換で10%パワーアップできる」と言っときながら、「実は一番安価なパワーアップの方法はシフトダウンすることだ!」と言ったりする。あるいは、「ハイフロー・エアクリが高回転域で劇的なパワーアップをもたらす」と前置きしておいて、「実は街乗りバイクにハイフローのエアクリは不要だ!」とも言う。ポート研磨とかヘッドジョブについては「5000回転まわさないなら忘れろ!」だそうだ。そして、カムに関しては「ストリートで滅多に使わない高回転域でパワー増大できるカムなど役に立たない!」と切り捨てるので、カスタムを生半可に考えている読者は読みながら凍り付いてしまう。

とはいっても、氏は長年ハーレーのビルダー、チューナー、ライターとして知られていて、キャブメーカーのミクニ・アメリカン社の各種製品選択ガイドを書いたり、アンドリュース・プロダクツ社など主要パーツメーカーと製品開発をしていた経歴があることから、彼の意見に対して世間は一目置いているようだ。

■ 氏がいうところのストック・カムの問題とは・・・

1) オーバーラップが全くない(TC96)
排気バルブが閉じるタイミングが早すぎるし、吸気バルブが開くタイミングが遅すぎる。そのため、シリンダーを十分な量の混合気で満たせない。(環境基準に対応するため)

2) 作用角が小さい(デュレーションが短い)
これはただパワーダウンの原因になるだけはなく、どう燃調しようが高回転域(>4000RPM)で息切れを起こすという(CVOを除く)。

3) バルブの動きが遅い
ストックエンジンの吸気バルブが完全に開くまで時間がかかりすぎる。シリンダーの充填効率が悪い。

■ ストリート向けで普段使い勝手が良いカムの条件は二つ

【1】 吸気バルブ閉鎖のタイミング=30度
ミントン氏によると、一般的なカムの特徴として、吸気バルブの閉鎖のタイミングが早ければ早いほど低いRPMでトルクが太り、遅ければ遅いほど高回転型のエンジンとなる。中低速で乗るストリートバイクでは、この数字が30度前後となっていれば良い。

【2】 TDC+76度のとき吸気バルブの高さ=0.4インチ
氏の経験則から、ピストンの動きが最高速に達するときに吸気バルブが0.4インチ開いていれば良いそうだ。それはTDC+76度のときに起きる。

TDC+76°でインテイク0.400インチ開はほとんどのカムが合格だそうだが、インテイク30°閉鎖のカムは非常に少ない。去年のアンドリュース・プロダクツ社のカタログでは21番(21Hなど)だけだそうだ。ミントン氏がいうには、21Hを使えばほぼオール・パーパスのストリート・バイクになるという。2200RPMあたりから強力なトルクを発生し始め、4000RPMではノーマルと比べて大きな差を感じるという。また26Hカムを引き合いに出し、『26Hは高回転域で多少伸びしろがある』と指摘しながらも、「その分貴重な低速域(3000RPMまで)を犠牲にしている」と言って21Hを読者に薦めている。

次回は「アンドリュースのカム比較」です。


TCのカム機構、その問題点と変遷について

2010年11月01日 | カム交換

■ 新型カムは何が違うのか?
06Dynaを含む07以降のTC96と、それ以前のTCのカム周りの構造は何がどう違うのだろうか。
主な違いを表にしてみた。

項目 99-06のTC 06Dyna
07以降のTC96
カム駆動方式 チェーン駆動 チェーン駆動
タイミングチェーンの種類 サイレントチェーン ローラーチェーン
チェーンテンショナー バネ 油圧/ナイロン製パッド
カムシャフトの支持 (F)ボールベアリング
(R)ローラーベアリング
サポートプレート
(ベアリング無し)
オイルポンプ - 流量23%向上


新旧でカム周りがずいぶんと違っている。なぜだろうか。


99-06年のTC88はどんな問題を抱えていたのだろうか。
以下に99-06TCの問題点と対応方法を挙げてみた。

■ カムボルトとスプロケットの問題と対応
1999年 リアカム・ボルトおよびリアカムのドライブスプロケット破損が問題化
→ メーカーが耐久性の高いボルトに交換、スプロケットの仕様変更で対応。

■ アウターベアリングの問題と対応
2000年 リアカムのサポートプレートのボールベアリングの破損が問題化
→ メーカーがリア側をローラーベアリングに交換して対応。

■ インナーベアリングの問題と対応
カム内側のベアリング(INA製)に耐久性疑惑あり。
→ ユーザーは耐久性の高いベアリング(Timken/Torrington製)に交換して対応。
<参考画像>
http://www.v-twinforum.com/forums/twin-cam-engine-mods/95247-inner-cam-bearings-whats-difference.html

■ サイレントチェーンの問題
TCでは2本のカムがチェーンでつながれていてリア側がフロントのカムを駆動している。TCではサイレントチェーンという機構が採用された。サイレント・チェーンはスムーズかつ静かに回るというメリットがある反面、経年してチェーンが伸びやすい。そのため、高回転でバルブ動作のタイミングに狂いが出やすいというデメリットがある。これに対して多くのユーザーがローラーチェーンに変更することで対応した。ローラーチェーンは軽く耐久性があり、高回転でも精度が落ちにくい。

■ テンショナーの問題
高回転時にバルブをすばやく正確に動かすためにはバブルスプリングの強度を上げる必要がある。スプリングの力はバルブに伝えられると同時にロッカー、プッシュロッド、カム、カムチェーンを伝い、カムチェーンテンショナーに負担をかける。高回転時にテンショナーがこの力に負けてチェーンのテンションをキープできなくなりカムチェーンがばたつくことが問題となった。バルブスプリングを増強するとバルブタイミングに最大4度の誤差がでると言われた。

■ テンショナーパッドの問題
また、サイレントチェーンはその形状のためテンショナーのパッドを深く削る。このため、規定のメンテスケジュールを大きく前倒しにしてパッド交換が必要となるケースが多かった。削られたパッドの破片がオイルに乗ってエンジン全体を損傷したり、目詰まりを起こすこともあった。これに対してチェーンの表面を磨くなどして対応するユーザーもいたが効果は一時的なものだった。

■ クランクシャフトが曲がる!?
あまり知られていないツインカムエンジンの構造上の問題として、クランクシャフトの軸のゆがみ(ぶれ)がある。エンジンに負担をかけ続けるとクランクシャフトがゆがんで軸が中心からずれてくる。いったん歪みが発生すると、さまざまな異音、ブリーザーからオイル吐出が増えたりする。最終的にはスターター、オイルポンプ、カム、カムプレートなどに影響が及ぶ。何かが裂けたり壊れたりするとピストンやシリンダーにも損傷が及ぶ。保証期間内ならエンジンを交換してくれるかもしれない。しかし新しいエンジンとて構造は壊れたエンジンと全く同じ。この問題はどのTCエンジンにも潜んでいる構造上の問題と言われている。"harley crankshaft runout" や "harley pinion shaft runout" で検索すると本国のユーザーたちはかなり真剣にこの問題を追いかけていることがわかる。

<参考動画>



// ------------------------------------------------

いろんな問題を抱えていたようだが、メーカーは06dynaの形で一挙に解決策を示したようだ。サイレントチェーンはローラーチェーンに変更。バネ式のテンショナーは油圧に変わった。パッド材もナイロンとなった。カムプレートからベアリングが消えた。かわりにプレートの金属穴の表面にオイルを張り、そこにシャフトを浮かせて支えることになった。サポートプレートは99年から今日に至るまで4度以上仕様が変更され、現在の形となった。

<参考画像: カム比較>
http://www.hotbikeweb.com/tech/0809_hbkp_building_a_stout_twin_cam_crank/photo_09.html
左が07ローラーチェーン、右が99サイレントチェーン

<参考画像: サポートプレート比較>
http://www.hotbikeweb.com/tech/0612_hbkp_andrews_harley_cam_conversion_kit/photo_03.html
左が00(ベアリング支持)、右が新型(ベアリング無し)

チェーンの伸びやテンショナーのオーバーロードによるバルブタイミングのズレをなくすためにはカムをギヤ駆動にするのがベストだろう。しかし、新型はチェーン駆動のまま。これは、クランクシャフトのぶれの問題が未解決のままだとすれば納得できる。もしクランクシャフトの軸ぶれが発生したら、ギヤカムは噛み合わせが悪くなってしまう。そのために新しいモデルでもチェーンのままにしたのではないか。

これらのことを踏まえると、自分のような素人カスタムによるカムギア化は避けたほうが絶対に無難だ。ということで、カムを交換するならローラーチェーン型でいこうと思う。

次回は「ジョーミントン氏のカム選び」です。


費用シミュレーション

2010年10月31日 | カム交換

円高の秋。何を思ったのかカム交換をしてみたくなりました。そこでカム交換にかかる費用を実際にシミュレーションしてみた。交換の作業は自分でやるとして、それができるかどうかは別の問題として、必要なツールとパーツ代だけでいくらになるのかを計算してみた。パーツ&ツールリストはサービスマニュアル、パーツ本、交換手順を示したサイトを参考にしました。他にも必要なパーツがあるかもしれませんが。

ツールリスト

ツール 価格
インナー・カムベアリング・リムーバー
HD/94144-09
(インナーベアリングの取り外し)
$107
インナー・カムベアリング・インストーラー
(社外品/インナーベアリングの取り付け)
$50
オイルポンプ・アラインメント・ツール
(社外品/3本セット)
$11
カムギア・ロック・ツール
HD/94076-09
$31
4点 約200


上記1,4はmandmcycles.comで、2,3は mbsmfg.comにて見積もり。 オイルポンプのアラインメントは2006年のサービスマニュアルではツールを使ってやるように書かれている。しかし、07以降のTCではツールの使用が省かれているとの情報あり。06ダイナはTC88。だから07以降のTC96のカムシャフトとは別物がついている。だが、その構造は07以降のTC96と同じだ。アラインメント用のツールは必要ないのかも知れない。

インナー・カムベアリング・リムーバーは社外品でも入手可能。値段も安いものがある。しかし、ebayにリストされていても海外に送ってくれないか、あるいは送料が高い。結局、値段が少々高くても他のパーツと同梱したら出費(送料)が少なくて済む。

パーツリスト

パーツ 価格(約)
カムシャフト
Andrews 21Hまたは48H
$250
インナー・カムベアリング(数量2)
Drag Specialties 0924-0107
$20
クイック・インストールプッシュロッドキット
17997-99A
$120
クリップ・リング
11461
$1
O-リング
11293(@オイルポンプ)
$1
O-リング
11301(@カムプレート 数量2)
$2
カムカバー・ガスケット
HD/25244-99A
$5
エグゾースト・ガスケット
HD/65324-83B 数量2
$15
7点 約$414


上の表のパーツはmandmcycles.comにて見積もってもらった。インナー・カムベアリングは「Torrington B-168を希望」と伝えたら販売店は「Sonnax」というブランド(ドラッグ・スペシャルティース品番)を見積もりにあげた。Sonnaxはディストリビューションの会社名で、ベアリングにはTorringtonの刻印があるとのこと。SonnaxベアリングはTorrington社製で間違いないようだ。

送料は他のパーツを含めて全部で$100ぐらい。送料を含む合計は約714ドル。円レート80円とすると約57000円ちょっと。配送時に支払う国内消費税5%を含む総合計は約6万円で収まると見た。ツールを持っていたら実質パーツ代は4万円ほどのはずだ。

数字は悪くない。カム交換を真剣に考えてみたくなりました。

次回は「カム交換、TCのカム機構、その問題点と変遷」です。