「小谷美紗子」を語る

この人も川村結花と同様、実力に相応しくない知名度の低さが悲しいです。この人の音楽を聴けば、売上ランキングの結果が、内容と結びつかないというのをこれでもかと思い知らされます。はっきり言って、最近のゴールデンの歌番組に出てくるような安い音楽とは、全く次元の違う実力者ですよ、小谷美紗子は。

川村結花の紹介で、「邦楽界ナンバーワンのシンガーソングライター」という言葉を使ってしまいましたが、実際のところ、小谷美紗子は実力的に川村結花とほとんど差はありません。というか、個人の好き嫌いで判断すればどっちが上でもおかしくないでしょう。それほどの実力者です。

彼女はデビュー当時から「天才」と称されたようです。確かに衝撃作の名高いデビュー曲「嘆きの雪」で、すでに彼女の世界観は完成していました。そのデビュー曲をはじめ、特に初期の段階の曲で存在感が強いのですが、最初に彼女の曲を聴いて耳に残るのは、とにかくあの圧倒的歌唱力でしょう。最近の新人で、「圧倒的歌唱力」というキャッチコピーを掲げて、見事に看板負けしているアーティストがちらほら見うけられます。その言葉は、このレベルに達してなきゃ使っちゃだめよと言わんばかりの圧倒的歌唱力です。

というのも、彼女はただ技術的に歌がうまいだけではないのです。それぞれの曲調に対応した、ベストの歌声を作り上げ、表情豊かな表現力で、その曲の世界観と融合させています。そして、それこそが真の歌唱力と言えるのではないでしょうか。時に力強く、時にやさしく、時に美しく姿を変える小谷美紗子のボーカルは、それだけでじゅうぶん一流と呼べるだけの素質を持っています。

そして、その歌唱力を生かしきれるだけのソングライティング力も、彼女は持ち合わせています。川村結花がジャズとフュージョンなら、小谷美紗子は洋楽とクラシックの影響を強く受けた音楽のようですね。職人的というよりは、イマジネーションを重視した、印象派な、しかしそれでいてメロディアスな楽曲を彼女は作ります。それが彼女の表現力で、とても深みのある音楽となっています。

そして、その世界観の中に「若さ」というか、「ピュアさ」があるのも彼女の特徴ですね。その「ピュアさ」が、時には痛々しくもありますが、しかし純粋で素直な人間性が音楽に反映され、よりいっそうの緊張感を生み出していると言えるでしょう。それはそれで長所と十分言えるのですが、逆に短所に作用してしまう面も無きにしもあらずです。つまり「大人の成熟味」をものにしきれていないというか、まあ歳相応のものなんですが、それが小谷美紗子のたった一つの弱点であり、川村結花との唯一の差でもあると僕は考えるんですけどね。

とはいえ、彼女が日本トップレベルのシンガーソングライターであることに変わりはありません。「知る人ぞ知る」という言葉が、あまりにも相応しいアーティストです。彼女を聴いて、日本の音楽の層の厚さを知ってみてください。