gen's HomePage

クラリネットに関する情報などなど・・・

メシアン四重奏の驚くべき裏側

2009-01-24 21:00:20 | 音楽
時の終わりへ メシアンカルテットの物語 (叢書・20世紀の芸術と文学)

レベッカ リシン

アルファベータ


このアイテムの詳細を見る


を読んでみました。この本はメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」(この本の中では原語の意味を考慮し「時の終わりへの四重奏曲」と訳されている)の書かれた経緯、初演者のその後の辿った運命、等をまとめた本です。この曲が、第二次大戦中、メシアンが従軍中(フランス軍)にナチスに捕虜とされ、捕虜収容所で偶然あった音楽家3人(ヴァイオリン・チェロ・クラリネット)と自分(ピアノ)のために書かれ、捕虜収容所の中で初演された・・・というのはかなり有名な話(伝説に近い)です。しかし、メシアン以外の3人が誰で、どういう人間で、その後どういう生涯を辿ったかは、これまであまり明らかにされてはいませんでした。この本は、それを生存者のインタビューを通じて明らかにした画期的なものです。この本で初めて明らかになった事実が結構あります。専門書っぽさはなく、文章は平易で読みやすいです。生存者のインタビューは1994年前後になるのですが、実はこの時期がぎりぎりのタイミングで、その当時を語れる人はその後まもなく亡くなっています。まさに貴重な記録と言えるでしょう。

そのメシアン以外の初演メンバーは、

ヴァイオリン:ジャン・ル・ブーレール
チェロ:エチエンヌ・パスキエ
クラリネット:アンリ・アコカ

の3人です。まず、世に伝わる話と違うのは、この4人のうち、パスキエ・アコカ・メシアンは捕虜収容所で出会ったのではなく、捕虜になる前にフランスのベルダンというところの軍楽隊で従軍中にあっていて、第三曲「鳥たちの深淵」は、その頃に最初に書かれたものであることです(学者の説では、メシアンのインタビューから第五曲「間奏曲」が最初とされていた。→他にもメシアンが結構適当なことを言っていたことがいくつかこの本で明らかにされている)。捕虜収容所でブーレールと合流し、ドイツ軍は音楽家をやや優遇して扱ったので、メシアンは作曲を行うことができたそうです。

メシアンとパスキエは、著名な芸術家であったため、この曲の初演後、幸運にもパリに戻されることになります(パスキエはメシアンといたのはラッキーだったと語っている)。アコカとブーレールは収容所に残りますが、アコカは脱出を試みて成功します。彼はユダヤ人であったために苦労しますが生き延び、フランスのオケに戻ることができました。ブーレールは最も長く収容所にいた(7年)ために、ヴァイオリンができなくなりますが、その後、俳優に転身し活躍することになります。

・・・等といった興味深い事実が明らかにされています。

また、この録音はメシアン監修の由緒正しきものであることがわかりました。

アンサンブル・アンテルコンタンポランのバスクラリネット

2008-09-27 07:42:25 | 音楽
先日の記事で、アンサンブル・アンテルコンタンポランによるベルクの室内協奏曲の紹介をしました。全体の演奏としては甘口で、自分は昔の辛口の演奏のほうが好きかな-と思ったのですが、1つ気づいたことがあります。

バスクラリネットがうまい。

この曲は単独で(持ち替えでなく)バスクラリネットが使われていますが、かなり難しく、こんなパッセージ、バスクラで吹けないというようなのが出てきます。他の人と一緒に動くというのは少なめで、バスクラが単独で存在感を持ち、他の楽器からの受け渡しが多く、入るタイミングもかなり難しいと思います。

しかし、この演奏のバスクラはすばらしいです。うまい。そして結構音が太くてでかい。これは録音の関係もあるとは思いますが、すばらしい音でとれています。このことに関しては、旧盤よりも新盤のほうがお勧めです。 バスクラの良い教材になると思います。
(ちなみにコントラファゴットも結構活躍しています)

私の愛する時代

2008-08-21 00:13:50 | 音楽
エコノミストの池田信夫さんのブログで、戦間期のウィーンというエントリがあります。この第一次世界大戦の前後の芸術が音楽でも絵画でも自分は一番好きです。時代の変わり目というか、それまで築き上げた物が壊れる境目というか、モダンな世界に入る直前で、美しいものが多いと思います。このころは時代としてはあまり良いものではなかったはずで、第一次世界大戦で戦車が初めて使われて、戦争の戦い方が変わり、悲惨な消耗戦が行われるようになり、大量殺戮に向かっていく時代です。そんな時代にすぐれた芸術や科学が生まれたというのは不思議なことであるように思います。

シェーンベルクに関する記述について、少しおかしいことがあったので、コメントで突っ込みをしたら返事がちゃんとありました。初めてだったのでちょっとうれしかったです。

N響アワーのメシアン特集

2008-07-17 16:57:43 | 音楽
少し前の話になりますが、NHKのN響アワーでメシアン特集をやりました。ゲストはメシアンの弟子でもあった作曲家&ピアニストの加古隆でした。これはなかなかおもしろいものでした。曲はキリストの昇天とトゥランガリラ交響曲の抜粋でした。加古隆は即興演奏のほうの仕事が忙しくなって、さっぱり学校に行かない劣等生だったみたいに言っていましたが、メシアンはとてもやさしくしてくれたそうです。池辺さんも若いときに影響を受けたそうで、なつかしがっていました。印象に残った言葉として、加古隆がメシアンから聞いた「すべて(和声やリズム)はメロディーに従属するのだ。メロディーが一番偉いのだ・・・」みたいな言葉がありました。あれだけ新しい和声やリズムを生み出して、メロディーがあるんだかないんだかわからないような曲も書いていた人がメロディーを愛していたというのは非常に印象的でおもしろいことだと思いました。

N響の演奏も悪くありませんでした。特にトゥランガリラの第五楽章などはかなり難しい曲ですが、さほど崩壊することもなく、メシアンのおもしろさを十分に伝えていました。ちょっと気になったのは、オンド・マルトノにイマイチ迫力がないことでした。弾いていたのは日本人にしてオンド・マルトノの第一人者の一人である原田節さんでした。彼が弾いているのは生でも聞いたことがあるのですが、そのときもちょっと引きぎみだなーと思いました。電子楽器なんだからボリュームあげればでかくなったりしないのかな、そういうものでもないのかな、等考えていました。例えば、有名なプレヴィンの録音等はでかく、ポルタメントも派手にやっています。CDだから調整できるのですかね・・・。