これまで解説してきた「介護の具体的な展開」に関する記述は、主に施設で認知症高齢者の介護や看護に携わる職員の方々を対象とした内容になりましたが、今回は「認知症高齢者の在宅介護」について触れておきたいと思います。
4-3 介護の具体的な展開 ― こうすれば上手く(適切に)介護できる
4-3-9 認知症高齢者の在宅介護について
4-3-9-1 在宅介護に求められること
認知症高齢者の在宅介護に際して、介護に携わられている家族の方々に必要なことは、必ずしも介護に関する理論や知識ではなく「介護負担を軽減する」ことにつきるのではないかと思っています。
「安心・安全・安定・安住のある介護環境の提供」に必要な「受容的・共感的対応」と「なじみの場づくり」のうち「なじみの場」は在宅介護では確保されています。しかし、介護家族に「受容的・共感的対応」を求めることは現実的にはかなり困難な場合が少なくありません。むしろ「介護の悪循環」に陥って介護負担が不必要に大きくなっている場合が多いように思われます。したがって、在宅介護に求められることは「介護家族の余裕」特に「精神的な余裕」を作り出すことです。介護家族が余裕を持ちながら介護できるようになれば「受容的・共感的対応」ができる場面も増加して「介護の悪循環」を避けることも可能となり、結果的に介護負担を軽減して長期間にわたって在宅介護を継続することも可能になると思われます。小生の「もの忘れ外来」では、食事が「腹八分目」と言われるように、在宅介護を続けるなら「腹六分目」が大切ですよ、と助言することにしています。
4-3-9-2 在宅介護を継続するための条件
家族の介護負担を軽減して在宅介護を継続するために不可欠な条件は、デイサービスやショートステイ、ホームヘルパーなどの在宅介護サービスの利用であり、家族会の開催や地域住民の啓発なども有効な方法です。ちなみに、施設介護に際しても「介護職員や看護職員の余裕」が必要不可欠であり、介護技術に関する研修に参加するだけではなく、職員自身の心身の健康管理や安定した家庭環境、経済環境、職場環境の確保なども適切な施設介護を提供する基盤となることを付記しておきたいと思います。
認知症高齢者の在宅介護に際しては、家族は精神的負担や身体的負担、経済的負担などの様々な介護負担を実感することになります。介護負担の有無や軽重は家族によって異なることは言うまでもありませんが、在宅介護における最も深刻な介護負担は精神的負担であると思われます。特に「中ボケ」の状態にある認知症高齢者は「家族に対する態様」と「他人に対する態様」が大きく異なる場合が多く、認知症高齢者の介護には「他人だからできること」と「家族だからできること」があることを家族に助言するようにしています(図56)。
また「火の不始末」「昼夜逆転」「徘徊」が頻繁にみられるようになった場合は「在宅介護は限界」であることを明確に伝えることにしています。家族に「喜・楽・愛」の感情をもたらす「快の情動」がない場合には、認知症高齢者の「快の情動」を刺激する「安心・安全・安定・安住」のある在宅介護を継続することはできません。
4-3-9-3 ZARRIT介護負担尺度;簡略版
図57は、小生が担当している「もの忘れ外来」で用いている「ZARRIT介護負担尺度;簡略版」で、「Zarrit介護負担スケール日本語版の応用」(荒井由美子博士)に掲載されている21項目の介護負担尺度から11項目を抽出したものです。
認知症高齢者を介護する家族には多種多様な介護負担がありますが、このような介護負担は一言で言い表すことができないものが大多数であると思います。また、その程度や内容も介護する家族によって様々であり、実際にその家族が感じる「介護負担感」は家族自身の生活環境や心身の状態によって大きく変動することも容易に推測できます。
認知症高齢者の在宅介護を継続的に支援していくためには、認知症高齢者の生活環境や心身の状態の管理と同等に、介護する家族の生活環境や心身の状態の管理が大変重要です。その際、介護する家族の介護負担感をリアルタイムで把握し、状況に応じた適切な助言を継続していく必要があります。外来診療に同伴する家族から認知症高齢者に関わる様々な情報を聴取すると同時に、家族の介護ストレスを緩和することを常に念頭に置く配慮が求められます。
小生の外来では、初診時あるいは定期通院を開始された時期に主たる介護者である家族に「ZARRIT介護負担尺度;簡略版」に記入していただき、以降の受診の際にその変化を比較しながら家族の介護負担感を共有し、何よりも家族自身が自らの介護負担感を客観視するための手段として活用しています。
4-3 介護の具体的な展開 ― こうすれば上手く(適切に)介護できる
4-3-9 認知症高齢者の在宅介護について
4-3-9-1 在宅介護に求められること
認知症高齢者の在宅介護に際して、介護に携わられている家族の方々に必要なことは、必ずしも介護に関する理論や知識ではなく「介護負担を軽減する」ことにつきるのではないかと思っています。
「安心・安全・安定・安住のある介護環境の提供」に必要な「受容的・共感的対応」と「なじみの場づくり」のうち「なじみの場」は在宅介護では確保されています。しかし、介護家族に「受容的・共感的対応」を求めることは現実的にはかなり困難な場合が少なくありません。むしろ「介護の悪循環」に陥って介護負担が不必要に大きくなっている場合が多いように思われます。したがって、在宅介護に求められることは「介護家族の余裕」特に「精神的な余裕」を作り出すことです。介護家族が余裕を持ちながら介護できるようになれば「受容的・共感的対応」ができる場面も増加して「介護の悪循環」を避けることも可能となり、結果的に介護負担を軽減して長期間にわたって在宅介護を継続することも可能になると思われます。小生の「もの忘れ外来」では、食事が「腹八分目」と言われるように、在宅介護を続けるなら「腹六分目」が大切ですよ、と助言することにしています。
4-3-9-2 在宅介護を継続するための条件
家族の介護負担を軽減して在宅介護を継続するために不可欠な条件は、デイサービスやショートステイ、ホームヘルパーなどの在宅介護サービスの利用であり、家族会の開催や地域住民の啓発なども有効な方法です。ちなみに、施設介護に際しても「介護職員や看護職員の余裕」が必要不可欠であり、介護技術に関する研修に参加するだけではなく、職員自身の心身の健康管理や安定した家庭環境、経済環境、職場環境の確保なども適切な施設介護を提供する基盤となることを付記しておきたいと思います。
認知症高齢者の在宅介護に際しては、家族は精神的負担や身体的負担、経済的負担などの様々な介護負担を実感することになります。介護負担の有無や軽重は家族によって異なることは言うまでもありませんが、在宅介護における最も深刻な介護負担は精神的負担であると思われます。特に「中ボケ」の状態にある認知症高齢者は「家族に対する態様」と「他人に対する態様」が大きく異なる場合が多く、認知症高齢者の介護には「他人だからできること」と「家族だからできること」があることを家族に助言するようにしています(図56)。
また「火の不始末」「昼夜逆転」「徘徊」が頻繁にみられるようになった場合は「在宅介護は限界」であることを明確に伝えることにしています。家族に「喜・楽・愛」の感情をもたらす「快の情動」がない場合には、認知症高齢者の「快の情動」を刺激する「安心・安全・安定・安住」のある在宅介護を継続することはできません。
4-3-9-3 ZARRIT介護負担尺度;簡略版
図57は、小生が担当している「もの忘れ外来」で用いている「ZARRIT介護負担尺度;簡略版」で、「Zarrit介護負担スケール日本語版の応用」(荒井由美子博士)に掲載されている21項目の介護負担尺度から11項目を抽出したものです。
認知症高齢者を介護する家族には多種多様な介護負担がありますが、このような介護負担は一言で言い表すことができないものが大多数であると思います。また、その程度や内容も介護する家族によって様々であり、実際にその家族が感じる「介護負担感」は家族自身の生活環境や心身の状態によって大きく変動することも容易に推測できます。
認知症高齢者の在宅介護を継続的に支援していくためには、認知症高齢者の生活環境や心身の状態の管理と同等に、介護する家族の生活環境や心身の状態の管理が大変重要です。その際、介護する家族の介護負担感をリアルタイムで把握し、状況に応じた適切な助言を継続していく必要があります。外来診療に同伴する家族から認知症高齢者に関わる様々な情報を聴取すると同時に、家族の介護ストレスを緩和することを常に念頭に置く配慮が求められます。
小生の外来では、初診時あるいは定期通院を開始された時期に主たる介護者である家族に「ZARRIT介護負担尺度;簡略版」に記入していただき、以降の受診の際にその変化を比較しながら家族の介護負担感を共有し、何よりも家族自身が自らの介護負担感を客観視するための手段として活用しています。