『とくさ』 福島サトル・ 角川書店・角川ホラー文庫(2004.11)
新聞記者を辞めた私は、奇妙な男から秘薬ニスイについて執筆を依頼されるが、
取材相手の死など不吉な体験をする。実は男は死者の言葉を呼び返そうとして
いたのだ。庭を覆い隠す木賊(とくさ)のように、私の不安は増殖してゆくが。
言葉の呪術的な力を駆使した物語。日本ホラー小説大賞短編佳作賞受賞。
『エピタフ』 あせごの まん・ 角川書店・角川ホラー文庫(2006.11)
幼馴染みの一家にまつわる哀しい死の真相に迫る表題作。三つの願いを叶えて
くれる猿をめぐる騒動を描く「ニホンザルの手」、貧しい男が新興宗教の教祖
に祭り上げられ、しだいに壊れてゆく恐怖をつづる「憑」を収録。異色作家の
日本ホラー小説大賞短編賞受賞第一作。
『スィート・リトル・ベイビー』 牧野 修・角川書店・角川ホラー文庫(1999.12)
ボランティアで児童虐待の電話相談をしている彼女自身、かつて育児ノイローゼ
になりかけていたところを、保健婦に救われたという過去が。人はなぜ幼い子供
を虐待しなくてはならないのか。そんな疑問を抱く彼女は、恐ろしい出来事へと
巻き込まれていく。日本ホラー小説大賞長編賞受賞。
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他のジャンルでもそうだが、ホラーでも才能ある作家たちが活躍しはじめている。
角川ホラー文庫は長い間、読みつづけているが、日本人による、いい作品も多い。
この3冊も悪くない。なかには馬鹿馬鹿しい短編もあるが、作家それぞれに面白
い個性が。成長も期待できる。ホラーも文庫の古書をすこしずつ買い集めている。
これからは、いい作品は手放さないように。再読するかもしれないので。
『とくさ』の中の『犬ヲ埋メル』と、『エピタフ』の『墓碑銘』の感覚はとくに
素晴らしいと感じた。そのイメージや展開が私の胸を打つ。悲しみやせつなさが
迫ってくる怪談である。あせごの まんの前作『余は如何にして服部ヒロシとなり
しか』もまた読みたくなった。奇妙すぎるホラーだった記憶が。牧野 修の作品は
複数読んでいる。ほぼ安心して読める。多彩な作家だ。