blueな日々

( Art で逢いましょう)

戦争は遠い話ではない

2009年03月21日 | 読書メモ

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『アンノウン』 古処誠二・ 文藝春秋(2006.11)
自衛隊は隊員に存在意義を見失わせる軍隊だった。訓練の意味は何か。
組織の目標は何か。誰もが越えねばならないその壁を前に、ひとりの
若い隊員は隊長室から発見された盗聴器に初めて明確な敵を実感する。
自衛隊という閉鎖空間を描き、メフィスト賞を受賞したデビュー作。

『接近』 古処誠二・ 新潮社(2006.7)
昭和二十年四月、アメリカ軍が沖縄本島に上陸したとき、彼は十一歳
だった。学校教育が示すままに、郷土の言葉を封じて生きる彼の前に、
おなじく郷土の言葉を封じた、アメリカ人が突然日本兵の姿で現れる。
出会うはずのなかった彼らは、努力をもって体得した日本の標準語で、
時間を共有し、意思を伝え、距離を詰めてゆく。人の必然にしたがい、
相容れない価値観は「接近」した。

『七月七日』 古処誠二・集英社(2006.11)
第二次大戦末期、栄光なき孤独な闘い。日系二世の彼は、日本人の顔
をして日本語を話すが、米国の語学兵として戦地にいた。米兵からは
蔑まれ、日本兵からは裏切り者と罵られる中、彼は誇りを守るために
闘いつづけた。捕虜となって帰属国家を見失う日本人と接して、その
複雑な心理を、彼は目の当たりにする。捕虜の禁忌に縛られ、不義の
罪悪に懊悩する人々にあるのは、いつの世にも通じ、いずれの国にも
通じる、社会の構図だった。戦争小説の傑作。

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作家は元自衛官らしい。それでなんとなく作品のよさが理解できそう
な気分にも。戦争の描き方が細部までおおよそ納得できるのだ。彼は
私とほぼ同世代で、ともに戦争を経験していない。だからだろう彼は
書き私は読む。それぞれの守備範囲で戦争を考える。『接近』は最後
だけが気にかかる。他の終わり方はないのか。子供の選択がおとなび
すぎているような。『七月七日』は出だしが妙に軽かったが、すぐに
私は主人公に同化していた。私は軟弱ゆえに彼からいろいろ教わった。
『アンノウン』は現在の物語。自衛隊内部でのミステリィ。なかなか
のいい味だった。おもしろい連作も期待できそうな予感が。

また大岡昇平の『俘虜記』や『野火』を読みたくなった。私にとって、
最高の戦争文学なのだ。戦記ものやその文学は私からは切り離せない。
人間の生き死にの、究極の姿にも思えて、気になってしかたないので。




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