教育のとびら

教育の未来を提言 since 2007
presented by 福島 毅

ネオ・ソクラティック・ダイアローグに参加(前半:メソッド編)

2023-07-19 | 研修・セミナー・講演など

2023年7月8日(土)~9日(日)にかけて、ダイナミクス・オブ・ダイアログ LLCさんが主催のネオ・ソクラティック・ダイアローグ(以下略称 NSD)という哲学セミナーに参加したので、その報告です。今回は、メソッドに絞っての記事になります(後半のコンテンツ編はこちら

【NSDとは何か?】開催記事からの抜粋
===引用ここから===
ネオ・ソクラティク・ダイアローグ(NSD)とは、1つのテーマについて参加者が自分たちで問いを立て、自らの経験に基づいて時間をかけて話し合いながら、みなが合意できる答えを導き出す哲学対話ワークショップです。5~8名の参加者で、標準的には2日半時間をかけます。

NSDは、以下のようなステップで進んでいきます。

①参加者でテーマ(問い)を出し合い、1つを選ぶ。
②テーマに関しての例(自分が体験した経験)を参加者が出し合い、1つを選ぶ。
③選ばれた例を詳しく記述する。
④記述した例の中から核になる文(core statement)を見つける。
⑤問いの答えを出し合い、対話によってグループとしてまとめる。

通常の哲学対話と比べると、NSDでは「1つの例に基づいて、問いの答えを探究し、その答えについて合意を目指す」というところに特徴があります。

進行役は内容にはタッチせず、参加者の発言を文章として定式化することを促します。
また議論が紛糾した場合は、参加者同士でどのように対話を進めればよいかを話し合って解消していきます。
=====(引用ここまで)===

【NSDに参加した理由】
VUCAの時代と言われ、混迷を深める現代社会には、生きる指針とか何のため・誰のためにそれを行うか?ということがより一層問われる時代になってきています。そんなとき、宗教に頼るとか、ひたすら科学を信仰するとか、合理的解決をスマートに目指すという方法もありますが、自分が王道だと思うのは、”自分事として自分の頭で考えてみる”ということです。しかし、ひとりで理論を構築し、自分軸をつくり、自分自身を納得させながら判断していくのは、想像しただけでも大変です。そこで哲学が登場すると思うのです。いまの民主的な社会や法律などは、背後には必ず哲学があります。こうするのが、万人が必要として望んでいることだというコンセンサスを重視する社会です。

また、一方でAIの発達が目覚ましく、肉体的労働が機械に置き換わったように、知的労働すらAIに任せるシーンが今後ますます増えていきます。そうしたときに、人間にとって必要なことは、「人間らしく判断し行動する力」ということになると思っていて、哲学はその土台を支援してくれる大切なものと思うからです。

近年、「生きるための哲学講座」を自ら開催したり、他の哲学講座に参加するなどして知見を広めてきましたが、今回、現象学でいうところの本質観取と似ているNSDを体験してみたいと思い、参加しました。

【NSDの手順を体験してみて・・・】
内容の詳細については、次回のブログでご紹介します。
今回は主にスタートから合意形成までの手続きについてです。

1日目
スタートが10時。まず最初に、会の趣旨やスケジュール全体の説明があります。その後、講師(兼進行役)から、「NSDとは何か」についてのプレゼンがありました。これで受講者は概要を知ることになります。

1つNSDならではの仕組みに、”メタダイアローグ”というものがあり、ダイアローグ(対話)時のルール見直しや、コンテンツ(内容)から離れた話全般がある場合、メタダイアローグを参加者が誰でもいつでも提案できるというものです。これは、コンテンツ中心に流れているダイアローグを振り返って改善していくという重要な役割があるなぁと思いました。

実際のセッションに入っていく前に、対話のルールづくりを参加者どうしで行いました。これは主に発言や了承についての交通整理のためのものです。手上げをしてから発言するか、発言趣旨や内容がわからない場合はどういうゼスチャーで一時停止するかなどです。こうした基本ルールさえも参加者の同意でつくられていくのは、普段は行わないことですので、新鮮でした。

11時半から、いよいよ”問いの決定”および”例の選定”がはじまりました。
よく哲学対話では「〇〇とは何か?」という題で取り組むことが多いですが、それに縛られるものでなくてもOKということで、まずは、各自が考えてきた題が発表され、進行役がPCに記入し、それがプロジェクターに投影されていきました。その後、その候補からどれを選ぶか、選び方を含めて話し合いをしていきます。

問いの選定については、話し合いにより、以下の手順になりました。
①14個の候補を眺めて、1回目の意識調査を行う。ファーストインプレッションでやりたいものに〇をつけていき、どのテーマに参加者が関心が高いかの概観を共有する。
②得票が多い順に、なぜそのテーマなのか?何を議論したいか?などをテーマ提供者に発表してもらう。
③2回目の意識調査(実質的な投票)を行う。やりたいもの3つに〇をつけ、やりたくないものについては×をつける。×が1つでもついているものは、基本、候補からはずす。
④ほぼ、全員一致で、「信頼とは?」というテーマで取り組むことに決定。

この問いを選定する手段で、意識調査を使うという提案を自分がしたのですが、NSDとは親和性が高い民主的な決定方法だなぁと思いました。もちろん常に多数決がいいわけではありませんが、2日間の対話に耐えうる質を担保するには、なるべく多くの人の合意(そしてやりたくないという人がいない状態)を取ることは重要であったので今振り返っても良い方法であったと思っています。

次に、”例の選定” 作業に入りました。
NSDでは、問いに対する答えの定式化を探求する手段として、今回のテーマである「信頼とは?」について、各個人が”信頼”に関係する自身の体験エピソードを披露します。それが進行役によって記述され、プロジェクターに投影されます。その後、自由討論で、どの参加者の個人エピソードを掘り下げるのがふさわしいかを対話しながら決定します。なぜその個人エピソードを掘り下げることが問いの答えにつながりそうかあたりを探りながらじっくりと対話し、どの参加者のエピソードを今後深堀するかが決まりました。

ここで昼休憩。

午後は、決定したエピソードを出した人に口頭で詳述してもらい、それが全体共有されます。昔は模造紙にペン書きなども行われていたそうですが、今回の進行ではGoogleドキュメントで共有されプロジェクター投影されるとともに、参加者個人が持参したスマホやPCで自分のペースでみることもでき、こうしたITを使った方法での共有は快適でした。

この「例の詳述」が終わると、次の段階では、この詳述文の中で答えの本質のヒントになりそうな核となる文章をピックアップしていく作業(定式化)に入りました。詳述された文章で、核となりそうな部分を参加者どうしが見つけ出し、太字で見やすくしていきます。こうして構造化や核となるキーワードの抽出作業が行われていきます。
かなり頭を使う作業ですので、1時間半作業したら、30分の休憩を取るというペースで進んでいきます。

核となる文章のピックアップが終わると、「信頼とは何か?」の答えとなる文章を部分的につくっていく作業に入ります。そして、仮に文章化してみて、それがあらゆる状況、条件に当てはまる普遍的なものかどうかを参加者どうしが対話しながら検証をすすめます。1人でも納得がいかないものについては採用されません。

今回の参加者は7名+進行役で進みました。多人数だとさまざまな視点で検証できる反面、全員の合意をとるのが難しくなっていくので、経験上はこのくらいの参加人数が限界のようです。

10時にスタートした1日目のセッションは、予定通り19時半に終了しました。

2日目
10時にスタート。
昨日のおさらいを進行役が説明。
前日までの議論で合意が取れているところと、まだ定式化できていない部分を明らかにしつつ、さらに定式化(問いの答えの文章づくり)の精度をあげていきます。

全員納得の定式化が終わったのが予定終了時間近く。
参加者各自がチェックアウトをして終了となりました。
本来は、この定式化が、自分のケースにあてはまるか以外でも、さらに他のケースを想定してより広範囲に適用可能な定式化なのかを検証するはずだったのですが、時間的な余裕が取れなかったのでここまでで終了となりました。

【NSDを終えて、プロセスの振り返り】
1つの問いに丸2日間をかけるという、いわば贅沢な時間だったわけですが、脳や体もかなり消耗した感があります。しかし、それによって編み出された暫定解に、皆さん満足されていたようです。日常の人間関係や商品・サービス説明に、「信頼」という言葉は多く使われています。しかし、実際に「信頼」について語ると辞書的な定義文では語れない奥深さがあるとともに、言葉というものはこうして吟味していくと、使っているうちに暗黙に多くの人が了承している共通了解というものが存在すること。そしてそれを探求することは、ある概念について深い理解を促していくものなのだなぁと実感しました。

NSDは、現象学の本質観取と似ていますが、
似ているところは、
①「〇〇とは何か?」という本質について探求し、定式化(暫定的な定義文をつくる)するところ
②データや統計や人の話から作っていくのではなく、あくまで個人の体験に即して、実際に現れている現象をベースに対話が進むこと
③最終的な局面では、全員が納得する解を暫定解として確認して終了すること

違うところは、
①問いを何にするか からスタートする(本質観取では、予め決まっている)
②対話のルールも参加者がつくる(本質観取では、ファシリテーターがグランドルールを提示することが多い)
③1つの体験談を深めて本質を追求する(本質観取では複数の参加者の体験を出し合い、共通要素を抽出していく)
④取り組み時間が圧倒的に長い(本質観取では1~3時間程度)


なお、後半では、実際の信頼とは何かについての内容について、自分目線からの総括をする予定ですので、そちらもご覧ください。

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