
不祥事は続くよどこまでも・・・昨年来、番組制作費の着服などが問題視されているNHKで、またしても職員の着服・不正経理が明らかになりました。ビール券を不正に請求・換金したり、五輪チケットを転売したりと、公共放送に携わる人間としてあるまじき行為の連発です。相次ぐ不祥事を受けて「業務総点検」を行った挙句に判明したことなのでしょうが、今回明らかになった行為も所詮は「氷山の一角」なのかもしれません。本気で点検すれば、まだまだ似たような不祥事が出てくるのかもしれません。テレマップで「古代エジプト展開幕!」などと呑気に宣伝している場合じゃないでしょう、日本放送協会さん。
昔の出来事を蒸し返すのは好ましくないのかもしれませんが、先日の未成年タレント飲酒問題で減給・無期限出演停止を食らった上にマスコミからバッシングを受けているフジテレビ菊間千乃アナに比べ、十五年前に酔っ払ってタクシー運転手に暴行を働いた松平定知アナへ下した処遇が果たして妥当だったのか。菊間アナは警察から事情を聞かれたそうですが、当時の松平アナも交番へ連れて行かれたのです。未成年を飲酒の場に呼んだ行為も問題ですが、暴力沙汰には至りませんでした。しかし松平アナは酔っ払った上に、他人に暴力を振るったのです。「人気アナだから」「酔った上での過ちだから」といって許されることではない。
確かに松平アナは事件後、朝のニュースを降板し一時は謹慎状態でした。また局次長級ポストから部次長級へと降格される処分を受けました。しかしNHKは彼に謝罪の場を与えました。形はどうあれ、ブラウン管を通じて彼は視聴者に謝罪したのです。事件から一年以上過ぎると彼は特集番組の司会として復帰し、1993(平成5)年初めには「4月から夜7時のニュースを担当させる」という話も出たようです。ところがその矢先に「ムスタンやらせ事件」が発覚し、彼のニュース復帰は先送りになったと言われています。当時読んだ週刊誌によれば「ヤラセ問題で叩かれている時に松平を復帰させたら『寝た子を起こす(=彼の暴力沙汰を蒸し返される)』結果になりかねないと判断した」とか。彼がニュースに復帰したのは1996(平成8)年4月のことでした。
暴力沙汰から一年近く過ぎたころ、元NHKアナの某氏が雑誌で「松平アナはデスクワークに徹したほうが良いのでは」と言及していました。彼はまた「松平アナの復帰に対して懐疑的な視聴者は少なくない」とも書いていました。しかし三行半を突きつけて辞めていった人のアドバイスに耳を傾ける気などなかったのか、NHKは松平アナをスタジオに復帰させました。なんと心が広い組織でしょう。一説には、当時の会長が松平アナを大変気に入っていたから厳罰は避けられた、とも言われたようですが(あくまで雑誌の記事である)。
もし今、松平アナが暴力沙汰を起こしたなら、果たして謹慎と降格だけで済んだでしょうか。
NHK職員といっても所詮は人の子、娑婆と無縁でいられるはずはありません。フジの佐野アナみたいに海外で風俗にハマった人もいるかもしれません。時には息抜きも大事です。NHKのあるベテランアナ(既に退職)は若い頃、徹夜でマージャンに興じた後に天気予報に出演し「西(シャー)の風・・・」と原稿を読んでしまったという逸話が残っているそうです。また戦時中の話として1943(昭和18)10月、学徒出陣壮行会の実況を命じられた和田信賢アナが二日酔いで潰れてしまい、急遽サブの志村正順(まさより)アナに交代したと、志村アナご本人が最近の朝日新聞で打ち明けていました。あの国難の中でさえ、そんな大らかさも罷り通ったのですね。
※志村元アナは「和田さんは、そんな(学徒出陣の)中継はいやなので酔いつぶれて僕に譲ったのですよ、きっと」と語っている。雨の神宮外苑で行われた壮行会に参加した学生の大半が戦死したといわれる。
しかし今は国や地方自治体、特殊法人の「無駄遣い」が何かと槍玉に挙げられるご時世です(ややヒステリックなキャンペーンという気がしないでもないが)。NHKとて、受信料という「公費」で運営される団体です。これまでの不祥事を知って「職員の腹を肥やすために受信料を払っているわけじゃない」と立腹する視聴者が現れても不思議ではありません。むしろ、なぜ今までみんな黙って受信料を払っていたのかと、不思議に思うほどです。受信料不払いという行為を、どれだけの職員が真摯に受け止めているのでしょうか。
正直な話、NHKは多少の受信料不払いなど堪えていないように感じます。関連会社が書籍やグッズ、映像ソフトで売上げを伸ばしているようですし、何よりも「受信料は公費」という意識が徹底していないのではないか。公共放送に携わる人間が「公共」を忘れてしまったら、もはや公共放送の意味を為しません。
ここ数日はフジ(=菊間)叩きが耳目を集めている感さえありますが、それが一段落したら今度はNHKが標的にされるのかもしれません。いや既に「第二ラウンド」が始まっているのかもしれない。先日朝日新聞が「番組改竄問題」について再び取り上げましたが、これに対してNHKは納得の行く説明を果たしたと言えるのでしょうか。「スポンサーは視聴者の皆様」と本気で考えているなら、その視聴者の疑問や批判に誠意を持って答えてゆくことが「公共放送機関の使命」ではないのか。今はマスコミの記事を感情的に反駁する時ではないはず。全国の視聴者がNHK職員の一挙一動に注目していることを自覚していただきたい。事あるごとに画面に映し出される「まっすぐ、真剣」のフレーズは、単なるポーズや口約束といった軽い言葉ではないはずです。