昨今、子どもの夏休み期間中の忙しさについては度々話題になる。塾の夏期講習や習い事との兼ね合いで家族旅行をしたり、友達と遊ぶ時間もほとんどない子もいると聞く。そういった現象はサッカー界も例外ではない。むしろ、夏休み期間中にいわゆる「サッカー漬けになっている」という子どものエピソードは様々な場所で耳にする。そういった現象は、サッカー界、またはフットサル界にとってプラスに働くのか。8月12日から3日間にわたり行われた「バーモントカップ第26回少年フットサル大会」に出場した指導者たちの言葉から考察する。
(文●山本浩之 写真●ジュニサカ編集部)
夏休みにサッカー漬けになる子どもたち
ジュニア年代のサッカーやフットサルを取材していると、毎年8月は多くのサッカー大会が開催され繁忙期になる。昨年度から全日本少年サッカー大会が夏から冬に移行したことはいえ、夏休みの時期を利用して、サッカー少年・少女たちが参加する大会が多く行われている。
最近は大会の会場などで指導者の方と話をすると、「子どもたちがサッカーに忙しい」といった話を聞くことが増えた。年間スケジュールの変更によって冬から夏に移行したフットサルの全国大会『バーモントカップ』。8月12日から行われた「バーモントカップ第26回少年フットサル大会」の会場でも、そんな話を聞いた。
出場チームの指導者に取材をしていて、たびたび耳にしたのが「トレセン」という言葉だった。ここで言う「トレセン」とは、8月3日(水)から8月7日(日)までの5日間に渡って、静岡県御殿場市にて開催されたJFAフットボールフューチャープログラム トレセン研修会U-12(※以下、FFP)のこと。
2014年まで全日本少年サッカー大会が開催されていた期間はバーモントカップではなくFFPが埋めている。47都道府県(東京都は2チーム)のトレセンから選抜された768名の選手が参加しており、バーモントカップのプログラムを調べてみると、JFAから発表された参加者リストにも名前の載っている選手は10%(全669名中65名)ほどいる。
そしてバーモントカップが終わっても、すぐ次の日から各地で大会が開催されることもあれば、週末の大会の準備に入るチームもあった。つまり子どもによっては、FFPに参加したあと、すぐ週末にバーモントカップ(8月12日から14日)があり、さらに翌日から、全国規模の大会に出場することになった選手も少なくないということだ。
「子どもたちがサッカーに忙しいのは気がかりなところです。うちの選手も トレセンに3人の選手が行っていましたし、Jクラブのスクールに通っている子もいて韓国に遠征していました」
こう話してくれたのは、今年度のバーモントカップで優勝したセンアーノ神戸Jr(兵庫県代表)の大木宏之監督。選手たちがほかでもサッカーをやっている状況では、チームがいくら休日を設けても効果は期待できない。そこで、選手自身が健康状態を把握できるように、食事と体重の自己管理を指導することから始めている。
「うちもそうですね。選手は(別のクラブで)サッカーをやっているのでスケジュールはタイトです」
昨年度のバーモントカップで優勝したブリンカールFC(愛知県代表)の古居俊平監督もこう話す。今大会は、子どもたちに良いコンディションで臨んでもらいたいと考え、「誰が出てもやれる」というチームに仕上げる工夫をし、大会に臨んだという。
夏休みに限ったことではない、サッカーとフットサルを両立する難しさ
このように指導者からは、選手のコンディションを把握しながら大会に臨んでいる様子が伺えた。一方で、そんな「子どもたちの夏休みはサッカーで忙しい」という話を多くの指導者から聞いたことで、ふと浮かんだのが「それではフットサルに取り組む時間はあったのだろうか?」という疑問だった。
しかし、サッカークラブがサッカーとフットサルの両立に苦戦するのは、なにも夏休みの期間に限ったことではないとバディ.FC(福岡県代表)の鶴丸聡一郎監督は指摘する。
「特に最近は、全日本少年サッカー大会に出場するためにリーグ戦(FAリーグ)の参加が義務化されたことで縛られてしまうところがあるからです。(FAリーグの)スケジュールをひとつ決めるにしても、フットサルがあるから日程を変えなければいけないと言うと、フットサルが悪者扱いされるというか、本当は無いはずの『サッカーとフットサルの垣根や温度差』を感じることがあります。
例えば対戦するチームについても、狭い地域のリーグ戦ばかりになってしまうと、いつも同じ相手になってしまい代わり映えがしません。もちろん(FAリーグの)意図は理解していますが、子どもたちは、いろいろなチームや選手と試合をすることによって発想力が得られたり磨かれたりする部分があると僕は思っているので、対外試合の計画を別に立てることになります。
すると、さらにサッカーの試合数が増えてしまい、フットサルの日程と重なってしまうこともあるわけです。そうなるとサッカーチームによっては、サッカーを優先に考えますから『フットサルはやめてしまおう』となるわけです。だから、机上で考えたところ(サッカー協会)と現場の目線(指導者)、子どものスケジュールの3つがもっと融合されないといけないと感じます」
サッカーとの活動時間の競合を考慮すれば、バーモントカップの都道府県大会やフットサルリーグの試合は、開始時間を夕方や夜にしたり、できるだけ短い期間で試合を消化させるために1日の試合数を増やしたりして対応しなければならなくなるが、子どもたちのコンディションを考えると問題視する声もあがっている。
またフットサル専門のチームには別の問題もある。所属するサッカーチームの活動があればサッカーが優先されてしまうということだ。たとえバーモントカップの全国大会に出場したとしても、予選で活躍した主力選手が全国大会で欠場するというケースもあるようだ。
もう一度考えたいフットサルの必要性
ただ、そんな状況にあっても、やはり指導者は子どもたちにフットサルを取り組ませたいと考えている。鶴丸監督は、バディ.FCがフットサルを取り入れ続けている理由についてこう述べる。
「うちはボールを持っていないところでの動き(オフ・ザ・ボール)を重要視しています。今の子どもたちはボールを持つ技術は格段に上がっています。これは目を見張るものがあります。
ところが、みんなから『うまいね』と言われるような子でもボールを持っていないときの動きは全く進歩していないんです。育成年代は技術(の指導が)が先行していますが、僕はボールを持っていないときに、子どもたちが何を考えているのかこそ大事だというのは、ずっと言っています。
例えば、キックインのときにはキッカーにしてもボールの受け手にして瞬間的な判断を要求されますので、フットサルから学ぶことができます」
フットサルを専門にしているアッズーロ和歌山フットサルクラブ(和歌山県代表)の中尾隼土監督はこんな話をしてくれた。かつて海外(タイ)のプロフットサルチームでプロ選手として活躍した経歴の持ち主だ。
「まだ日本では『フットサル = ミニサッカー』という感覚が抜け切れていないようです。
『足元を磨いて来いよ』とか『テクニックを磨いて来いよ』という先入観があるようです。でも、実はフットサルはそうではないんです。狭い局面があるから判断力や認知力、そして決断力も必要です。そういう部分が凝縮されているのがフットサルです」
コートの狭いフットサルに取り組むことで、ボールの運び方や視野の確保が向上すると話す中尾監督。教え子たちが所属しているサッカーチームの試合をよく見に行くが、フットサルをやっていることによって、サッカーのときに「見る、運ぶ、決断する」ことがレベルアップしていくのを実感しているという。
「ブラジルの小学生は「みんな当たり前のように小さい頃からフットサルをプレーしている」と教えてくれたのは、マリオフットサルスクール(静岡県代表)の安光マリオ監督。日系ブラジル人のマリオ監督が来日したのは23年前。Fリーグが誕生する以前の草創期から日本のフットサルに携わってきた人物だ。現在は、マリオフットサルスクールとともに、ブラジルの名門サントスFCの日本での養成機関「サントスFCサッカーアカデミージャパン」を静岡県で開校しサッカーの指導にもあたっている。
「子どもはフットサルをやっていると考え方が速くなる。フットサルは小さいスペースでプレーするから、いつも考えていないとダメ、自分で判断ができるようにならないといけない。僕ら(指導者は)子どもたちに教えるのではなくて、イメージを見せるだけ。これがある、あれがあるって、いろんなイメージを見せて伝える。子どもは、そのなかから“自分でプレーを選択する”。それがブラジルのやり方」
フットサルの良さを欠落させてしまうものとは
3人の指導者の話に共通しているのが「フットサルによって判断力が身につく」と言うこと。だとすれば、子どもたちが、これから将来の夢に向かってサッカーやフットサルを続けていくうえで、ジュニア年代でフットサルに取り組むメリットは大きいと言える。サッカーやフットサルにおいて『判断力』や『決断力』といった、いわゆる選手のインテリジェンスに関わる部分が重要なのは周知の通り。
それだけに、子どもたちが純粋に勝利を目指すバーモントカップのようなフットサル大会の存在は貴重になってくる。都道府県大会に挑戦して全国大会を目指すことや、勝ち抜いて代表となり全国のチームと強度の高い試合をすることは、フットサルに取り組むチームや選手にとって推進力となることだろう。
ところがジュニア年代は、サッカーでもフットサルでもフィジカルな部分が勝るところがある。身体の大きさ、キック力、足の速さを全面に押し出すことで勝ち上がっていくチームもいる。サッカーチームが即席でフットサルに取り組んでも、これまでのサッカーの経験やそうした部分に頼れば、試合で勝つことは可能かもしれない。
しかし、そうなってくると肝心な判断力を必要とするシーンがゲームから欠落してしまう恐れがあるのだ。子どもたちがフットサルの良さを吸収することができないのならば、なにもサッカーの忙しい合間にフットサルに取り組まなくてもよいではないか。そういう話になってくる。育成年代のタイトルがかかっている試合の難しいところかもしれない。
フットサルによって子どもに判断力が身につくといっても一朝一夕というわけにはいかない。だからこそ、指導者と選手がしっかりとフットサルに向き合える時間が必要になってくる。フットサルやバーモントカップが、サッカーの活動でタイトになっているスケジュールの合間に開催されるのではなく、子どもやチームが余裕をもって試合に臨める環境づくりが今後は求められてくるのではないだろうか。
大切なのは、試合ではなくて、一つひとつのプレー
「子どもたちにとって、サッカーはJリーグや日本代表が目標になっている。だからフットサルもFリーグや日本代表を中心に子どもたちが目指したいと思えるような環境になれば盛りあがっていくと思うのです」そう中尾監督は言う。
今年9月には南米コロンビアで「第8回FIFAフットサルワールドカップ」が開催される。日本代表は出場を逃しているが、日本(候補地は愛知県)は次の2020年の第9回大会の開催地とし立候補している。正式な開催地は今年12月のFIFA評議会で決定されるが、もし自国開催が実現すれば日本のフットサル界にとっては育成年代も含めて追い風になる。2020年には東京オリンピックも開催され、バーモントカップも記念すべき30回目の節目の大会となる。4年後、果たして、そのときの子どもたちはどんな試合を繰り広げるだろうか。
「ブラジルでは日本のように(サッカーもフットサルも)一日にたくさんの試合はしない。子どもたちは試合をたくさんやるから上手くなるというわけではないと思う。心も身体も疲れる可能性が大きい。大切なのは、試合ではなくて、一つひとつのプレー。それが試合に繋がっていく」
そんなマリオ監督の言葉が思い出される。育成年代にとって試合や大会は、ただこなすことだけが目的ではないはずだ。
(文●山本浩之 写真●ジュニサカ編集部)
夏休みにサッカー漬けになる子どもたち
ジュニア年代のサッカーやフットサルを取材していると、毎年8月は多くのサッカー大会が開催され繁忙期になる。昨年度から全日本少年サッカー大会が夏から冬に移行したことはいえ、夏休みの時期を利用して、サッカー少年・少女たちが参加する大会が多く行われている。
最近は大会の会場などで指導者の方と話をすると、「子どもたちがサッカーに忙しい」といった話を聞くことが増えた。年間スケジュールの変更によって冬から夏に移行したフットサルの全国大会『バーモントカップ』。8月12日から行われた「バーモントカップ第26回少年フットサル大会」の会場でも、そんな話を聞いた。
出場チームの指導者に取材をしていて、たびたび耳にしたのが「トレセン」という言葉だった。ここで言う「トレセン」とは、8月3日(水)から8月7日(日)までの5日間に渡って、静岡県御殿場市にて開催されたJFAフットボールフューチャープログラム トレセン研修会U-12(※以下、FFP)のこと。
2014年まで全日本少年サッカー大会が開催されていた期間はバーモントカップではなくFFPが埋めている。47都道府県(東京都は2チーム)のトレセンから選抜された768名の選手が参加しており、バーモントカップのプログラムを調べてみると、JFAから発表された参加者リストにも名前の載っている選手は10%(全669名中65名)ほどいる。
そしてバーモントカップが終わっても、すぐ次の日から各地で大会が開催されることもあれば、週末の大会の準備に入るチームもあった。つまり子どもによっては、FFPに参加したあと、すぐ週末にバーモントカップ(8月12日から14日)があり、さらに翌日から、全国規模の大会に出場することになった選手も少なくないということだ。
「子どもたちがサッカーに忙しいのは気がかりなところです。うちの選手も トレセンに3人の選手が行っていましたし、Jクラブのスクールに通っている子もいて韓国に遠征していました」
こう話してくれたのは、今年度のバーモントカップで優勝したセンアーノ神戸Jr(兵庫県代表)の大木宏之監督。選手たちがほかでもサッカーをやっている状況では、チームがいくら休日を設けても効果は期待できない。そこで、選手自身が健康状態を把握できるように、食事と体重の自己管理を指導することから始めている。
「うちもそうですね。選手は(別のクラブで)サッカーをやっているのでスケジュールはタイトです」
昨年度のバーモントカップで優勝したブリンカールFC(愛知県代表)の古居俊平監督もこう話す。今大会は、子どもたちに良いコンディションで臨んでもらいたいと考え、「誰が出てもやれる」というチームに仕上げる工夫をし、大会に臨んだという。
夏休みに限ったことではない、サッカーとフットサルを両立する難しさ
このように指導者からは、選手のコンディションを把握しながら大会に臨んでいる様子が伺えた。一方で、そんな「子どもたちの夏休みはサッカーで忙しい」という話を多くの指導者から聞いたことで、ふと浮かんだのが「それではフットサルに取り組む時間はあったのだろうか?」という疑問だった。
しかし、サッカークラブがサッカーとフットサルの両立に苦戦するのは、なにも夏休みの期間に限ったことではないとバディ.FC(福岡県代表)の鶴丸聡一郎監督は指摘する。
「特に最近は、全日本少年サッカー大会に出場するためにリーグ戦(FAリーグ)の参加が義務化されたことで縛られてしまうところがあるからです。(FAリーグの)スケジュールをひとつ決めるにしても、フットサルがあるから日程を変えなければいけないと言うと、フットサルが悪者扱いされるというか、本当は無いはずの『サッカーとフットサルの垣根や温度差』を感じることがあります。
例えば対戦するチームについても、狭い地域のリーグ戦ばかりになってしまうと、いつも同じ相手になってしまい代わり映えがしません。もちろん(FAリーグの)意図は理解していますが、子どもたちは、いろいろなチームや選手と試合をすることによって発想力が得られたり磨かれたりする部分があると僕は思っているので、対外試合の計画を別に立てることになります。
すると、さらにサッカーの試合数が増えてしまい、フットサルの日程と重なってしまうこともあるわけです。そうなるとサッカーチームによっては、サッカーを優先に考えますから『フットサルはやめてしまおう』となるわけです。だから、机上で考えたところ(サッカー協会)と現場の目線(指導者)、子どものスケジュールの3つがもっと融合されないといけないと感じます」
サッカーとの活動時間の競合を考慮すれば、バーモントカップの都道府県大会やフットサルリーグの試合は、開始時間を夕方や夜にしたり、できるだけ短い期間で試合を消化させるために1日の試合数を増やしたりして対応しなければならなくなるが、子どもたちのコンディションを考えると問題視する声もあがっている。
またフットサル専門のチームには別の問題もある。所属するサッカーチームの活動があればサッカーが優先されてしまうということだ。たとえバーモントカップの全国大会に出場したとしても、予選で活躍した主力選手が全国大会で欠場するというケースもあるようだ。
もう一度考えたいフットサルの必要性
ただ、そんな状況にあっても、やはり指導者は子どもたちにフットサルを取り組ませたいと考えている。鶴丸監督は、バディ.FCがフットサルを取り入れ続けている理由についてこう述べる。
「うちはボールを持っていないところでの動き(オフ・ザ・ボール)を重要視しています。今の子どもたちはボールを持つ技術は格段に上がっています。これは目を見張るものがあります。
ところが、みんなから『うまいね』と言われるような子でもボールを持っていないときの動きは全く進歩していないんです。育成年代は技術(の指導が)が先行していますが、僕はボールを持っていないときに、子どもたちが何を考えているのかこそ大事だというのは、ずっと言っています。
例えば、キックインのときにはキッカーにしてもボールの受け手にして瞬間的な判断を要求されますので、フットサルから学ぶことができます」
フットサルを専門にしているアッズーロ和歌山フットサルクラブ(和歌山県代表)の中尾隼土監督はこんな話をしてくれた。かつて海外(タイ)のプロフットサルチームでプロ選手として活躍した経歴の持ち主だ。
「まだ日本では『フットサル = ミニサッカー』という感覚が抜け切れていないようです。
『足元を磨いて来いよ』とか『テクニックを磨いて来いよ』という先入観があるようです。でも、実はフットサルはそうではないんです。狭い局面があるから判断力や認知力、そして決断力も必要です。そういう部分が凝縮されているのがフットサルです」
コートの狭いフットサルに取り組むことで、ボールの運び方や視野の確保が向上すると話す中尾監督。教え子たちが所属しているサッカーチームの試合をよく見に行くが、フットサルをやっていることによって、サッカーのときに「見る、運ぶ、決断する」ことがレベルアップしていくのを実感しているという。
「ブラジルの小学生は「みんな当たり前のように小さい頃からフットサルをプレーしている」と教えてくれたのは、マリオフットサルスクール(静岡県代表)の安光マリオ監督。日系ブラジル人のマリオ監督が来日したのは23年前。Fリーグが誕生する以前の草創期から日本のフットサルに携わってきた人物だ。現在は、マリオフットサルスクールとともに、ブラジルの名門サントスFCの日本での養成機関「サントスFCサッカーアカデミージャパン」を静岡県で開校しサッカーの指導にもあたっている。
「子どもはフットサルをやっていると考え方が速くなる。フットサルは小さいスペースでプレーするから、いつも考えていないとダメ、自分で判断ができるようにならないといけない。僕ら(指導者は)子どもたちに教えるのではなくて、イメージを見せるだけ。これがある、あれがあるって、いろんなイメージを見せて伝える。子どもは、そのなかから“自分でプレーを選択する”。それがブラジルのやり方」
フットサルの良さを欠落させてしまうものとは
3人の指導者の話に共通しているのが「フットサルによって判断力が身につく」と言うこと。だとすれば、子どもたちが、これから将来の夢に向かってサッカーやフットサルを続けていくうえで、ジュニア年代でフットサルに取り組むメリットは大きいと言える。サッカーやフットサルにおいて『判断力』や『決断力』といった、いわゆる選手のインテリジェンスに関わる部分が重要なのは周知の通り。
それだけに、子どもたちが純粋に勝利を目指すバーモントカップのようなフットサル大会の存在は貴重になってくる。都道府県大会に挑戦して全国大会を目指すことや、勝ち抜いて代表となり全国のチームと強度の高い試合をすることは、フットサルに取り組むチームや選手にとって推進力となることだろう。
ところがジュニア年代は、サッカーでもフットサルでもフィジカルな部分が勝るところがある。身体の大きさ、キック力、足の速さを全面に押し出すことで勝ち上がっていくチームもいる。サッカーチームが即席でフットサルに取り組んでも、これまでのサッカーの経験やそうした部分に頼れば、試合で勝つことは可能かもしれない。
しかし、そうなってくると肝心な判断力を必要とするシーンがゲームから欠落してしまう恐れがあるのだ。子どもたちがフットサルの良さを吸収することができないのならば、なにもサッカーの忙しい合間にフットサルに取り組まなくてもよいではないか。そういう話になってくる。育成年代のタイトルがかかっている試合の難しいところかもしれない。
フットサルによって子どもに判断力が身につくといっても一朝一夕というわけにはいかない。だからこそ、指導者と選手がしっかりとフットサルに向き合える時間が必要になってくる。フットサルやバーモントカップが、サッカーの活動でタイトになっているスケジュールの合間に開催されるのではなく、子どもやチームが余裕をもって試合に臨める環境づくりが今後は求められてくるのではないだろうか。
大切なのは、試合ではなくて、一つひとつのプレー
「子どもたちにとって、サッカーはJリーグや日本代表が目標になっている。だからフットサルもFリーグや日本代表を中心に子どもたちが目指したいと思えるような環境になれば盛りあがっていくと思うのです」そう中尾監督は言う。
今年9月には南米コロンビアで「第8回FIFAフットサルワールドカップ」が開催される。日本代表は出場を逃しているが、日本(候補地は愛知県)は次の2020年の第9回大会の開催地とし立候補している。正式な開催地は今年12月のFIFA評議会で決定されるが、もし自国開催が実現すれば日本のフットサル界にとっては育成年代も含めて追い風になる。2020年には東京オリンピックも開催され、バーモントカップも記念すべき30回目の節目の大会となる。4年後、果たして、そのときの子どもたちはどんな試合を繰り広げるだろうか。
「ブラジルでは日本のように(サッカーもフットサルも)一日にたくさんの試合はしない。子どもたちは試合をたくさんやるから上手くなるというわけではないと思う。心も身体も疲れる可能性が大きい。大切なのは、試合ではなくて、一つひとつのプレー。それが試合に繋がっていく」
そんなマリオ監督の言葉が思い出される。育成年代にとって試合や大会は、ただこなすことだけが目的ではないはずだ。