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2報目の論文が出ました!\(>ω<)/

2013-08-17 15:58:43 | なんとなく有機化学がわかった気になる
だいぶ久しぶりの更新です。とりあえず生きてます(ぇ

生存報告はさておき、タイトルの通り、ボクが大学のラボ時代にやっていた研究の論文の2報目が公開されました!

1報目は以前にもこのブログでも紹介(宣伝)したもので、
Enantioselective Synthesis of Multisubstituted Biaryl Skeleton by Chiral Phosphoric Acid Catalyzed Desymmetrization/Kinetic Resolution Sequence
というタイトルのやつです。
JACSに掲載され、「軸不正を有する触媒で軸不正を誘起する」というよくわからないことやっています(ぉ
(過去記事はコチラ

では今回公開された2報目の論文の内容は!? というと、上記1報目の内容に絡んだものになっています。
掲載された論文誌は“RSC (Royal Society of Chemistry, 英国王立化学会)”から出されている“Chemical Science”というやつ。
タイトルは、
Prediction of suitable catalyst by 1H NMR: asymmetric synthesis of multisubstituted biaryls by chiral phosphoric acid catalyzed asymmetric bromination
です。

Chemical Scienceは2010年から登場したまだ歴史の浅い論文誌ですが、ACSのJACSやWileyのAngewandteなんかに対抗するために創設され、そこそこグレードの高い論文誌だそうで。
ボク自身は「なんか名前聞いたことがあるような…?」ぐらいの印象しかありませんでしたが( =ω=)
そもそもイギリスで有機化学系の論文誌と言うとChem. Comm. ぐらいしか印象になくて…
化学会としては老舗のくせに、結構パッとしない印象ですね、RSC(失礼)

では、論文の内容ですが、ざっくり言うとこんな感じです。
「基質とキラルリン酸触媒を混ぜたH NMRのケミカルシフトから、最適な基質と触媒の組み合わせが予測できるのではないか!?」
何言ってんだ( ・ω・) って感じですね(ぇ

現在の有機化学では新規の反応を開発をする際、1つの基質に対して何種類もの触媒を1つずつ試し、収率・不斉収率を確認して研究を進めていきます。
たとえその反応がどんなに簡単なものでも、そこには反応の仕込み、反応待ち時間、反応処理、精製等の手間のかかるステップが生まれてしまいます。
まして、そんな最適触媒発見のための反応(触媒検討)だけではなく、その触媒は他の基質にも使えるか?(基質検討) これこれこういう条件でもっと結果が伸ばせるか?(反応条件検討) 原料の基質なくなったから作らないと…(原料合成)といろいろとやることがあり、それら全てにさっきのステップが絡んでくるのです。
手間すぎますね( =ω=)
中でも触媒検討は反応開発系の研究では初期にやるため、ここでもたつくと中々先に進めません。

しかし!

その触媒検討をNMRである程度のアタリをつけられたらどうだろう?
同モル当量の基質と触媒をサンプルチューブに入れ、NMRを測定。
そのケミカルシフトを見て「この基質と触媒の組み合わせなら不斉が出そうだ」というのがわかれば、手間としてはだいぶ減るのでわ!?
……というのが今回の内容の名目ですね。

さて、ケミカルシフトを見ると言うけど、どんな変化があるのか?
ボクがやっていた不斉臭素化で扱っていた基質は、Cs対称性を持つオルト四置換のビアリール化合物でした。
対称性を持つということは、H NMRをとれば、いくつかのHは等価扱いになり、シングレットの2Hなんてのがよく出てきます。
今回見ている基質のHは、ヒドロキシ基の一つとなりの芳香環炭素上のHです。
なのでダブレットになるけど、見た目としてはシングレットで2H分、NMRをとれば6.6ppmあたりに出てきます(一番スタンダードな基質で)。
これにキラルな触媒を混ぜるとどうなるか?
サンプルチューブ内で基質と触媒は水素結合し、見かけ上は1つの化合物っぽくなります。
そうすると単体では等価だった基質のHも対称性が崩され、見かけシングレットだったピークは露骨に割れます(ダブレット1H × 2)。
今回の研究では、この露骨に2つに割れたダブレット1Hの“割れ幅(差)”に着目しています。
すなわち、結論から言えば「ケミカルシフトの割れ幅(差)が大きいほど、エナンチオ選択性が高くなる」ということです。

この不斉臭素化ではビナフチル部分が還元された、3, 3'位に9-アントリル基のついたリン酸触媒が最適触媒でしたが、この触媒と基質を混ぜてNMRをとると、6.6ppmに出ていたダブレット2Hは、約6.4、6.0ppmにそれぞれダブレット1Hが出るようになります。差としては0.4ppm弱といったところか。
しかし、不斉の出ない触媒、例えば3, 3'位に2, 4, 6-トリイソプロピルフェニル基の置換した触媒なんかだと、それぞれのダブレットはほとんど離れず、割れ幅としては0.02ppm程度にしかなりません。

そんな感じで本文には1つの基質に多種類の触媒を振ったものと、最適触媒を複数の基質に振って割れ幅を見た感じの結果をまとめています。
実際のNMRチャートはサポーティングインフォで誰でも見れるので、興味のある方はご覧くださいまし。
サポーティングインフォ-NMRスペクトル(PDF)

しかしこの研究も、投稿時には色々と議論があったそうです。
曰く、実際の不斉臭素化の反応では基質と触媒の2成分だけでなく、臭素化剤も加えた3成分で行っているのだから、2成分だけで見ることに意味はあるのか? 3成分でも同じことが言えるのか?

確かにむつかしいですね( =ω=)
それはボクも思うことがあり、ラボ時代、1回だけ3成分でNMRをとったことがありました。
最適な臭素化剤はNBP(N-ブロモフタルイミド)だけど、やつには芳香環があるからぐちゃぐちゃしてまうだろう。
じゃあNBS(N-ブロモスクシンイミド)か……いや、そもそも臭素化剤使ったらサンプルチューブ内で反応しちゃうじゃん!
-20℃の温度下で一瞬で終わっちゃう反応だぞ…
そこで反応しないけど、NBSに似たような構造のもの、ということで使用したのがNMS(N-メチルスクシンイミド)でした。
ブロモもメチルも嵩高いし、カルボニルもあるからリン酸のブレンステッド酸部分で水素結合もするだろうし、似たような系はできるのでは、とNMRにチャレンジ。
NMSも対称性を持つ化合物なので、単体でとればメチレンの4Hは高磁場側にシングレットで出てきます。
それを3成分でとると……めっちゃグチャグチャしました。マルチプレットです。
もちろん基質のダブレット2Hもちゃんと割れていました。
まぁだから何だという話ではあるけど、3成分でやっても(やれたとして)もピークの割れ幅とエナンチオ選択性の相関性はさほど変わらないんじゃないかなぁと(あくまで個人的な意見です)。
あまり大きく取り上げられてないけど、触媒とNBSだけの2成分でNMRをとったこともあるます。
NBSとかクロホに溶けにくいので苦労しましたね…

色々な議論はあったけど、最終的には「実際に反応を行わなくても、NMRで不斉収率が出るか否かわかるかもしれない可能性を示した」と言う部分が評価されたのだろうということで(なんとも曖昧な感じはするが)。

ボクがM2のとき、就活の片手間にNMRをとって大層な実験をした気になってやっていた内容だったので、正直通ってもOLとかJOC、TLあたりに落ち着くんじゃないかと思っていたけど、思っていた以上にいいところに通ってしまいましたね。

とりあえずこの研究に決着がついてよかったです(*´ω`*)

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