・旬の食材の語源 しゅんのしょくざいのごげん
そのものを指す言葉として名前があります。食材にもそれぞれに名前が付けられていますが、どのような経緯で付けられていったのか、夏季の旬の食材の語源を少し探ってみました。
魚貝類
◇障泥烏賊 あおりいか
障泥烏賊は、形が障泥(あおり)と呼ばれる馬の胴体に巻く泥よけの馬具に似ることによる。
また、透明な薄い甲で胴の周りにひろい、ひれ(みみ)をもちひれをあおって泳ぐことから名前の由来ともしている。
英名では胴体と鰭を合わせて卵形(Oval)をしていることからOval squid(squid いか)、さらに他のイカにはあまり見られない大きな鰭(Bigfin)があり珊瑚礁(reef)に棲息しているからBigfin reef squidとも呼ばれる。
◇鯵 あじ
語源は旧暦三月(現在の四月)ごろから味がよいことからおいしくて参ってしまうといわれる。
新釈魚名考(昭和57年:栄川省造著)で群がって泳ぐから参は、「参集する」との意味合いがあり魚編に参の字が添えられた。
◇穴子 あなご
昼間は砂地、岩穴などの狭い穴に潜(ひそ)んでいるから穴子と命名されたと言われる。
◇鮎 あゆ
当て字は多く、鮎のほかに阿由、安由、香魚、年魚、王魚、細鱗魚、黄頬魚、国栖魚、渓鰮等がある。
古事記(712年:年魚)、日本書紀(720年:年魚・阿喩・細鱗魚)、万葉集(740~阿由、和可由、阿由故)、風土記などにアユが多く出てくる。
鮎の文字に統一し使用しはじめたのは和名類聚抄(わみょうるいじょうしょう:931年)以降といわれる。
鮎の字は、神功皇后(じんぐうこうごう)が200年ごろに占いによく使われたことから来ていることがよく知られる。
香魚は水草の藻類を餌とし食べ、香りのよいことから。
年魚は和名類聚抄にアユは一年魚といわれ、一生が春に生まれ冬にはいなくなるということから。
◇エイ
魚偏に覃とか、賁と書くがネットで表示されない。
小学館の日本国語大辞典で、その容姿のエダヒラキ(枝開)から転じた、尾が柄杓(ひしゃく)の柄に似ているところから、イデハリ(出針)、エハリ(枝針)から転じた、尾の長いことからのエビ(燕尾)から転じたという説。
アイヌ語の尖って刺され痛むことを表すアイから転じたという説などがある。
◇魚 おこぜ
オコゼの呼び方は「痴ずく(おこずく)」からで背びれのトゲには猛毒があり、刺されると激痛が走ることから「痴ずく」とはズキズキ痛むと言う意味という。
◇間八 かんぱち
口より眼の回りに掛け黒褐色の斜めの帯びが走り背部よりみると八の字に見えることからカンパチの名がついたとか。方言でカンパチとは暴れ者のことから、この魚の性格をみての呼び名であると言う説と諸説あり定まっていない。
◇蜆 しじみ
アサリに比べて殻が小さく身が縮んでいるように見える、殻の表面の模様が縮んだようであることから「ちぢみ」が転じて「しじみ」 になったといわれる。漢字の「蜆」は、浅瀬の砂地に小さなもの(虫)が見える(見)ことより蜆ということとしている。
◇舌平目・舌鮃 したびらめ
舌(ベロ)のような形をした魚からといわれる。地方によって異なり、「うしのした」「うまのした」などという。
◇鱸 すずき
貝原益軒の日本釈明(元禄12年:1699)で身が白くすすいだような魚で、さらにすすぎ洗いしたようなきれいな身でススギが転じスズキになったとする。
「大言海」はスズキが荒磯(ありそ)などを勢いよく泳ぎ回る性質から「進む」ススムの活用形の「進き」ススキが語源ではないかとしている。
元禄8年(1695年)発行の本朝食鑑、正徳2年(1712年)発行の和漢三才図会では黒い色を盧(ろ)といい、この若魚(わかうお・じゃくぎょ)は白き生地に黒い黒斑点が散在しているので、魚偏に盧と書いて鱸としたという。
◇鯣烏賊 するめいか
墨を吐く群れを意味する「スミムレ」からスルメに転じたと言う説とスルメ寿留女(するめ)として家に喜びを留める嫁、長期保存食とし噛むほどに味があるという意味が込められ祝儀に利用する。
鳥賊は、海上で死んだふりをしてカラスをおびき寄せ2本の触腕で反対に巻き込んで食べてしまったという伝説による。
◇太刀魚 たちうお
泳ぎは特徴的で暗くなってくると水面下で頭を上にし背鰭を小刻みに波打たせながら立ち泳ぎをすること、細長い、銀光した魚体が太刀(大きな刀)に似ていることから名前がついたといわれる。
◇飛魚 とびうお
胸びれが長く紡錘形(ぼうすいけい)をしている。海上を飛行(滑空)し飛距離400mにも及び、飛ぶ魚からといわれ 英名でも「フライングフィッシュ」と呼ばれる。
◇遍羅 倍良 べら
和歌山、淡路ではベロとの呼び名が多く、高知ではベロ・ベリ・ベリベリとなる。北陸の富山でもベロという。これら一連の名は岩や海草の間を柔らかく体を動かして、すべるように泳ぎまわる動作の感じから来たもので、舌の意のベロと同源語ではないかとしている。
『さかな異名抄』(1966年 朝日新聞社)で著者内田恵太郎が記載している。
◇真子鰈 まこがれい
カレイの語源は朝鮮半島近海で多く獲れ「韓エイ(カラエイ)」 から、さらに「エイのような形の魚」からきているともいう。蝶(ちょう)のように平べったい魚だから鰈と当て字され真子(魚の卵巣)が大きく美味なことから名前がつけられたという。
野菜類・海藻類
◇明日葉 あしたば
若芽を摘んで翌日には新芽が出て生育の勢いがよい植物であるところから名がついたという。
◇オリーブOlive おりーぶ
オイルという言葉の語源事態が、オリーブを意味するアラビア語であることは知られるがオリーブといわれるのは、なぜなのかは、見出せなかった。
◇枝豆 えだまめ
「枝成り豆」で、大豆の未熟なうちに枝のままゆでて食べていたことからで枝豆といわれる。
◇カシスBlackcurrant/Cassis かしす
カシスはフランス語でcassis、和名をクロフサスグリ、クロスグリ(黒酸塊)といい日本では北海道、東北で栽培している。
◇南瓜 かぼちゃ
アメリカ大陸発見後にアジアに広がりカンボジアより伝わってカボチャの名前がつけられたという。
◇胡瓜 きゅうり
中国より西域(胡:えびす、異民族)からシルクロードを経てもたらされたとし胡瓜といわれる。きゅうりのことを「かっぱ」とすし屋でよくいうが川の暴れものであった河童(かっぱ)を静めるため好物である胡瓜を江戸時代頃から供えたことが始まりという。
◇莢隠元 さやいんげん
江戸時代に隠元和尚によって伝えられ、その名をとって「いんげん」と呼ばれ、その後、莢ごと食べることから「さやいんげん」になったといわれる。未熟なインゲン豆をやわらかいさやごとの早取りであることから。
◇紫蘇 しそ
漢名で紫蘇は、中国で食中毒で肌の色は紫色に変色し、死にかけていた若者にシソの葉を煎じて飲ませたところ、元気を取り戻したことから紫蘇と名づけられた。
◇天草 てんぐさ
天草(あまくさ)の由来としては天は海士(あま)の意で草は民草という意味。
九州を中心として海浜に居住し、漁を生業として居た民族の島だったことからついた名ではないかという。
天草の語源で天草を煮るとドロドロに溶け、さめて煮こごる藻であるところから、古くは、こごる藻葉(コゴルモハ)、凝海藻(コルモ)と呼ばれた。
これからトコロテンができ当初 ココロブトといい次第にその後にココロテイ⇒トコロテイ⇒ココロテン⇒トコロテンと呼び名を変えられていったといわれている。
◇冬瓜 とうがん
ウリ科で冬でも食べられるので冬瓜の名があるという。
◇玉蜀黍 とうもろこし
以前から中国より渡来していた「モロコシ:唐土」という植物によく似ていたことから、「唐(外国)のモロコシ」という意味で「トウモロコシ」となった。玉蜀黍は穀粒が玉の様な蜀(中国)からの黍で黍は実が黄色であることから、黄実(きみ:黍)→「きび」となったとするのが有力。
◇蕃茄 トマト
メキシコでトマトゥル(tomatl)の膨らむ果実と呼ばれていたのが語源という。蕃茄(ばんか:ファンジェ)とは、「蕃」は、外国という意味で外国から来た茄子ということらしい。
◇ピーマン
トウガラシを意味するフランス語のPiment(ピマン)が語源とされるがスペイン名のピミエントPimientoが転訛(てんか)したという説もある。
◇茄子 なす
中国では茄(なす)、茄子(なすび)と書いている。日本に渡来しナスは宮中の女房言葉で奈須比といわれていた。夏に収穫できることから夏の実から転じてナスビになったという説があり夏実(なつみ)に由来するという説がある。
なお、英語ではEgg plantsで卵の木と呼ばれている。
◇バイアム ばいあむ
ジャワほうれん草、ヒユナ、ヤサイヒユともいう。
◇バジル ばじる
日本名で目箒(めぼうき)としている。バジルの語源は、古代ギリシア貴人の香水、入浴、薬用にされていたことからギリシア語でBasilikon phuton(王者のハーブ)の意味の名で呼ばれていたことによる。
◇糸瓜 へちま
完熟すると繊維質の糸状になることから糸瓜、へちまは、最初いとうり→とうり→「と」がいろはにほへとちりぬの「へ」と「ち」の間にあることから「へちま」といわれるようになったという。
◇不断草 ふだんそう
一年中収穫できることから不断草、とこな(夏菜)ともいわれ生育がよい。
◇蔓紫 つるむらさき
セイロンホウレンソウともいわれる。葉の根元に、濃い紫色の実をつけることから名づけられたという。
◇乳茸 ちちだけ
傷をつけると渋みのある乳汁が分泌し名前の由来としている。
◇甕菜 ようさい
エンサイ、クウシンサイの別名がある。
果物
◇アセロラAcerola あせろら
アセロラはスペイン語で英名がウエストインディアンチェリーともいう。
◇しいくわしゃー シイクワシャー
沖縄でシイは、酸、クワシャーは、食べさせる、与えるもの(果)の意味がある。
◇李Plum すもも
すっぱいもも(酸桃)に由来し名前がつけられたという。
◇西瓜 すいか
中国に11世紀頃西方からきたウリで西瓜としている。中国より西瓜(さいか)として渡来し、のちに明治に入りスイカに転じている。
◇スターフルーツ すたーふるーつ
果実の切り口が星型で、あることからで、中心部に扁平のやわらかな種子を数個もつトロピカルフルーツ(熱帯産のフルーツ)としている。
◇ネクタリンNectarine ねくたりん
ギリシャ神話での神酒・薬酒ネクタルがあり、桃などから作った果実をすりつぶして作ったジュースをネクターと呼ぶが、ネクタリンに由来している。
◇パッションフルーツ(果物時計草) ぱっしょんふるーつ
時計の文字盤を連想させることから時計草と名前がついた。
◇ぶるーべりー ブルーベリー
ベリー(berry)は、「小さい果実」を意味し、成熟した実がブルーであることから。
◇ペピーノ ぺぴーの
ナス科、南米のエクアドル原産。草本、一年生で高さ1mになるニュージーランドで栽培の盛んな果物のトロピカルフルーツのひとつ。
スペイン人が南米に侵出したときに、果実がキュウリに似ていたことから名付けられペピーノはスペイン語でキュウリの意味でナスのようなトマトのようなフルーツであり英語名はMelon pearという。
◇桃Peach もも
果実に毛がみられ、もも(毛々)、赤い実であることから、燃実(もえみ)、紅葉美(もみじみ)が転じて、実の多いことから百(もも)としたいう。
大言海では、真実(まみ)が変化したものとしている。
Peachは、古代ギリシャではこのみずみずしい果物を、ペルシャのメロンMelon Persikonと呼び、メロンMelonとは、単に果物全般を指す言葉であった。
しだいに、ローマではメロンが省略され、ペルシカムPersicumと呼ばれ、やがてフランス語のペーシュPeche、英語のピーチPeachへと変化していったという。
◇竜眼 りゅうがん
黒くて大きな種が真ん中にあるフルーツで種を竜の眼に見立てられ竜眼の名前が付けられている。
◇檸檬Lemon れもん
漢字の檸檬は中国語。別名が枸櫞(くえん:レモン)で成分のクエン酸に由来する。
レモンの語源は、柑橘類の果実を指すアラビア語のライムウンとペルシャ語のリムンに由来している。
国語辞書の大言海(だいげんかい)は、1932~37年(昭和7~12年)に約8万語が収録され刊行した語源解釈書。
江戸時代前期の享保2年(1717年)に「東雅」が新井白石によって書かれている。
言葉の語源を解説したもので、中国の漢の時代に発行されたといわれる最古の辞書「爾雅(著者不詳)」にならった書物といわれる。
語源を知ることは、言葉の意味や使い方を正しく知るうえで、興味深くなり、より理解力を高めるのに役立ちます。
ご愛読戴きましてありがとうございます。よりよい情報をお届けしてまいります。