えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

私たちのバレンタイン2話

2019-05-02 09:21:37 | 書き物
3月。
ホワイトデー当日。
朝から無駄にドキドキしてた。
萩原さんから、本命のお返しがあるかもってつい期待しちゃって。
ただ、あの幾つものチョコを思うと、何かあっても義理のお返しかもしれないな。
そう自分に言い聞かせてた。
だって、期待し過ぎてへこみたくないもの。
定時のチャイムが鳴って、ゆっくりデスクを片付ける。
まだちょっと、何かあるかもしれないから…
全てしまいこんで、椅子にストンと座った。
あー結局、女子全員で貰った可愛い缶のお返しチョコで終了か…
勢いをつけて立ち上がる。
ロッカーに向かう廊下に出たら、「中野さん」
…私、呼ばれてる?
振り向いたら、あんなに待ってた萩原さんだった。
「あのさ、チョコのお礼したいから、帰りつきあってくれない?」
「…お礼?」
まさかと思ってたから、よっぽどポカンとしてたらしい。
「ご飯でもどう?」
「えっ…え…と、私とですか?」
「そう、中野さんと。嫌?」
「嫌じゃないです!」
「良かった。じゃ、1階のロビーで待ってて」
最後の最後で訪れた望み通りの展開。
ふわふわと顔が緩んだまま、エレベーターのボタンを押した。



3月の末、金曜日。
課の歓送迎会。
同じ島の先輩、同僚とすぐ近くの居酒屋に向かった。
予約された大きめの個室の前で、幹事さんがチェックをしてる。
その中に三島くんがいた。
「お、来たな」
同じフロアにいるのに、なんだか久しぶりな気がする。
このところ、見かけて無かったし…
三島くんが名簿にチェックするのを見て、個室に入ろうとした。
「ちょっと、こっち」
袖を引っ張られて皆と離れる。
「何?どうしたの?」
「今のうちに言っておこうと思って」
「え、まさか異動決まったの?」
3年目の私たち、異動になってもおかしくはないタイミングだけど…
「いや、異動ではないけど…長期出張」
「長期出張?どこ?」
三島くんの行き先は、新幹線なら何時間もかかる場所。
でも、異動ならともかく長期の出張なんてあるんだ。
「取引先の新店舗立ち上げで、メーカーも人を派遣するんだってさ。その初期メンバーになったんだ」
「へえ…そんなこと、なかなかないね」
「まあ、二人派遣されて半年くらいしたら、俺は帰ってくるけどね」
「そうなんだ。いつから?」
「4月から」
「えっもう来週からじゃない。気をつけて行って来てね。三島くん、慣れないとこ寝るの苦手じゃなかった?」
「心配してくれるの、そこ?」
「あ、ごめん…仕事もがんばって」
「仕事も…中野は相変わらずだなあ…」
笑ってる三島くん、久しぶりに見た。
何なんだろう、三島くんがこうしてくしゃって笑ってくれると、安心するなあ。
「まあ、頑張ってくるよ。それよりさ」
私の耳に、三島くんが口を寄せた。
「萩原さんと、付き合ってるんだって」
「…なんで、知ってるの」
社内では、分からないようにしてるつもりなのに。
「待ち合わせに使ってるカフェ、受付の子たちがよく行くらしい。見られてるな」
「…そうだったんだ…」
「良かったじゃん。まあ、お幸せに」
三島くんの口調が、なんとなく投げやりな気がしてつい、見返してしまった。
「三島くんこそ、あの子どうするの。せっかくチョコくれたのに」
「…あの子?」
何言ってるんだって顔を見て、しまったと慌てた。
私があの時見てたなんて、言って無かったの忘れてた。
「なんで、」
「ごめん!私、給湯室にいて見ちゃったの」
「中野、あれ見てたのか…」
「ごめん…で、どうなの?好きな人って誰?」
「そこまで聞いたのかよ」
「うん、まあ…せっかくくれたチョコ、返してたから気になって」
「そんなこと、聞かれたって言うかよ」
「えー、でも言ってくれたら協力するよ?」
「そんなの、いらない。ていうか中野には言わない。ほら、もう入れよ」
さっさと背中を向けて、行ってしまうのを見ていた。
好きな人…ほんとに誰なんだろう。
あんな頑なにならなくたっていいじゃない。
教えてくれたっていいじゃない。
気になるんだもの…





ホワイトデーにご飯をご馳走になった時。
お酒を飲みながら、
「付き合ってみる?」って言われて付き合い始めた。
そう言ってくれたから、少しは好意を持ってくれてるのかなって思って。
萩原さんは優しくて、映画に誘ってくれたりドライブに連れてってくれたりした。
だけど、彼女になれたなんていつまでも慣れなくて、ほんとなのかなって毎日思ってた。
萩原さんは、三島くんみたいに口も悪くなくて、ちゃんと女の子扱いしてくれる。
だから、付き合って4月くらいまでは、私の足はふわふわと地上10センチくらいに浮いていられた。
でも…なんとなく分かってたんだ。
たぶん、付き合ってみよっか、って言ってはくれたけど、好意なんて無かったってこと。
興味ぐらいは持ってくれたって、思いたいけど…
どうなのかな。
だって、優しくしてくれるけどいつもどこか上の空なんだもの。






5月になってGWに1度映画を観た後。
萩原さんからの連絡が減って来たことに気づく。
メッセージを送っても、既読はつくけど返事がなかなか来ない。
電話してみると、出てはくれるけど話が続かない。
何回か呼び出すと切れてしまうこともあった。
どうして?
私、彼女じゃないの?
浮いてた足は地面に着いて、めり込みそう。
そんな頃、久しぶりに萩原さんからのメッセージ。
土曜日の夕方、よく待ち合わせに使ってたカフェに向かった。




「本当にごめん」
私の彼氏のはずのその人は、注文したコーヒーに口もつけずに、頭を下げた。
「実はちょうどバレンタインの前に、彼女と喧嘩しちゃって…
強情で全然折れないからちょっと脅かしてやれって思って、つい…中野さんのチョコ、受け取ったんだ。
本命のチョコを受け取ったって言ったら、自分から折れるんじゃないかって…
中野さんのチョコ、利用したみたいになって…ごめん」
黙って聞きながら、モヤモヤした。
モヤモヤしたけど…思っていたより
冷静な自分もいた。
これ、結構ひどいことよね。
私にも、萩原さんの彼女にも…
「あの…なんで今私に謝ってくれるんですか?彼女さんとはどうなったんですか?」
私が聞いたこと、萩原さんの痛いとこを突いたみたいだ。
バツが悪そうな顔。
「ああ…そうだよね、いきなりこんなこと。彼女とは別れたんだ。脅かすつもりが決定的に怒っちゃって。もう別れるって言われて」
当たり前だわ。
私だってそう言う。
萩原さん、彼女甘く見すぎ。
「そうか、勝手にしろって思ってたんだけど。でも…だんだん後悔し始めて…これで終わりにしたくないって思って」
「それで私に…?」
「うん、彼女に謝るにしても、まず中野さんに謝らないとって思って」
「そう、ですか…」
ショックじゃないってわけじゃないけど、私は…こんなこと聞かされた割には、平気みたい。
何だろう…
萩原さんの気持ち、うっすら分かってたからかな。
確かにいい気持ちはしないけど、ちゃんと謝ってくれたからかな…
それに、チョコを渡しといてなんだけど、あんまり悲しくないんだ。
「中野さん?あの…」
「私のことなら、気にしないで下さい。萩原さんの気持ちはなんとなく分かってました。彼女がいたことは知らなかったけど」
「え…俺そんなあからさまだった?」
「いえ…そんなことなかったです。
でも、いつもなんだか上の空に見えました。」
「そうか…ごめん、ほんとに」
「もう、いいですよ。私帰りますね。ちょっぴりの間でも付き合えたのは嬉しかったし、色々勉強になりました」
バッグをガシッと掴んでスタスタと歩き出す。
飲み物代はまあ、お詫びの奢りということにしてもらおう。




























































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