駐車場に歩いていく3人に二町さんが手を振る。
「いってらっしゃ~い!」
本当にあの人はいつも笑顔だ。見送られる僕は、大して気分が弾んでいないけども。駐車場についた。来園者と職員の駐車場は繋がってはいるが、一応仕切られている。車をボンッと叩き、僕と佳昭に愛車を紹介する原口さん。
「さ~て!これがわしの愛車いや!かっっっこええじゃろうが??」
『かっこ』の部分に、尋常じゃないイントネーション。
「お~!!かっっっこええね、お兄ちゃん!」
・・・真似せんでもええ。濃い緑色で、形はいわゆるジープみたいなやつだ。背後にはがっちりとスペアタイヤが取り付けられている。職員の駐車場には、車が1、2、3、4台。・・・あれ?レンジャーが4人で、あと園長がいるが・・・。
「原口さん、車が1台少なくないですか??」
周りを見回して、何かを思い出した様子の原口さん。
「おっ!そうじゃった。晃宏君が外に観察行った間にちょっと電話があってな。渡中さんが出かけたんじゃ。」
そういえば、ビジターセンターに戻ってきてから、見かけないなと思っていた。
「おぅし!そろそろ行くぞ~!!藤村兄弟後ろに乗ってくれ~。」
「は~い。」
おぉ!車高がやけに高い・・・。
原口さんの車は、一般道をものすごい速さで疾走する!そして車高が高いから揺れる!
「よ~く外見とけよ~!!」
「はい。確かに酔いそうです・・・。」
「な~にをとぼけた事を。パトカーのチェックい~や!せめてタカでも探せ!」
「タカ探す!お兄ちゃんは?」
とりあえずパトカーに集中しよう・・・。
「タマシギかぁ・・・。」
本日のガイドウォークのターゲット、タマシギ。“シギ”とついているが、シギ科ではない。タマシギ科という別の科に属している。水場に生息していることや、くちばし、足が長い事などは他のシギと同じだが、目がパッチリ大きく、ずんぐりした体型が特徴だ。水田や湿地に一年中いるらしいが僕はまだ見た事がない。そして、このタマシギの何より大きな特徴は、オスよりメスの色彩が派手なことである!カモを見たらわかるように、一般的に、鳥類はオスの方がメスより派手だ。オスが派手なのは、メスの気を引き子孫を残す為だといわれているが、羽色の逆転したタマシギは、面白いことに、繁殖にかかわる多くの行動も雌雄で逆転する。卵はメスにしか産めないのでしょうがないが、子育て全般はオスが行うのだ!なんとも、近代的な考え方を取り入れた野鳥ではないか。
“僕はバードウォッチングを頑張る!”そう電車の中で決意した日から、僕はかなりの頻度で図鑑を見て、そして暇な週末には観察パークに通うようになった。勿論まだあの人ほどではないが、かなり野鳥についての知識は増えた。その実感は自分でもすごくある。ただ、タマシギについての知識は、ラッキーな部分が大きい。どういう意味かといえば、観察パークでは、土曜日に工作のあとでビデオ上映会も行われているのだが、先週がたまたまタマシギについてのビデオだったのだ。工作・ビデオ上映会・ガイドウォークは、観察公園の3大イベントと呼ばれている。
「今日って、タマシギの観察ポイントとして有名っていう用水路に行くんですよね?」
これは二町さんの情報。先週ビデオを見た後で、結構近くにタマシギの生息地があると言っていたのを思い出した。原口さんから返ってきたのは意外な返事だった。
「馬鹿言うな。」
「え・・・?違うんですか!?」
原口さんは、片手でクルクルとハンドルを回しながら答える。
「“見に行く”バードウォッチングなら、わしのおらんときにしてくれ。今日は“探す”バードウォッチングじゃ。観察したい野鳥の好む環境、餌、生息している季節を頭に入れて探す。その野鳥がおるって場所に見に行って観察できるのは、当たり前の話いや。わしらにとっては何も面白くない。まぁよほどのレア鳥の時は見に行くこともあるがの。見に行くバードウォッチングで満足できるのは、まだまだ新米の二町さんくらいまでかの。」
二町さんでまだ新米か。じゃぁ僕はいったいなんだ?ゴミなのか?そうなのか!?でも実際、観察ポイントを教えてくれたのも二町さんだったし、原口さんの言うことも当たっているのかもしれない。さっき猿越さんも、鳥の名前や姿に詳しいだけでは駄目だと言っていた。その話と近いものがある。
気づくと車はいつの間にか、細めの農道を走っていた。車のスピードもずいぶん落ち、原口さんはしきりに左右を見ている。タマシギのいそうな場所を探しているのは僕にもすぐわかる。
「ここなんかええじゃないか!」
原口さんが車を止めた。すぐにドアを開けようとする佳昭を原口さんはとめる。
「佳昭君!ちょっと待て!人間が降りてくると野鳥が驚いて逃げてしまうかもしれん。まずは車の中から双眼鏡で確認するほうがええ。」
「わかりました!」
佳昭はすぐに、車内から観察パークでお借りした双眼鏡を構える。原口さんが発見したポイントは、田んぼの側にある小さな沼・・・というと大げさだが、水と土が混ざりあってベトベトしたような場所だ。その上に、多種多様な雑草が青々と茂っている。僕も双眼鏡を構える。右側に観察場所があるのだが、佳昭が右に座っているもんだからなんともやりづらい。
「こういう場所が好きなんじゃ、タマシギちゃんは・・・。おっ!こりゃさっそくおったぞ!!見てみぃ!言った通りじゃろうが!?」
「ほんとですか!?」
「どこどこ!?!?」
やっぱ早い!僕なんかまだ佳昭の頭しか観察してないというのに!
「わしのところからは草の陰になって・・・ほとんど見えんけあれじゃが、藤村兄弟の所からは多分よ~見えるぞ!ほら!左の奥!紫の花の後ろじゃ!」
えっと・・・あっ動いた!あれかぁ!!!・・・って、え?何か見覚えのある奴だ。
「原口さん・・・あれほんとにタマシギですか?今、動いたんで、多分原口さんの所からもよく見えると思います。」
「な~にを言うか・・・って、ええんぇ~~っ!!ほんとじゃ。クサシギじゃな・・・。」
「ですよね?」
イソシギもよく似ているが、この目の前にいるのは、腹からにかけての白色部が脇に食い込んでいない。クサシギだ。
「はっは!おっかしいのぉ、タマシギはおらんか。」
焦っている。原口さんが確実に焦っている!しかし、どんなときもポジティブなのが原口さんだ!
「ま!えかろう!このクサシギちゅ~んも多少珍しいけの!初観察じゃろうが?」
「いや・・・一回見た事あります。」
「なぬ!?」
険しい表情になる原口さん。いやでも、見たよな?うん、見たよ。ミヤコドリを見つけた日に『藪次郎池』で。
「原口さん!僕は初観察です!嬉し~!!」
っと佳昭。一転してにこやかな表情になる原口さん。
「そうかそうか!いやぁ、佳昭君は素直でええ子じゃのぉ!晃宏君はここに置いて、2人でいこうかのぉ!」
「ちょっすいませんっ!やめてください!」
なんで謝ってるんだ自分・・・。はぁめんどくさい。こんな事になる予感がしたから嫌だったんだ・・・。
「そんじゃクサシギには別れを告げて・・・しょうがない。行ってみようかの??」
「どこにですか?」
「観察ポイントとして有名な、例の用水路じゃ!!!」
ん~~行くんかいっ!!!
「いってらっしゃ~い!」
本当にあの人はいつも笑顔だ。見送られる僕は、大して気分が弾んでいないけども。駐車場についた。来園者と職員の駐車場は繋がってはいるが、一応仕切られている。車をボンッと叩き、僕と佳昭に愛車を紹介する原口さん。
「さ~て!これがわしの愛車いや!かっっっこええじゃろうが??」
『かっこ』の部分に、尋常じゃないイントネーション。
「お~!!かっっっこええね、お兄ちゃん!」
・・・真似せんでもええ。濃い緑色で、形はいわゆるジープみたいなやつだ。背後にはがっちりとスペアタイヤが取り付けられている。職員の駐車場には、車が1、2、3、4台。・・・あれ?レンジャーが4人で、あと園長がいるが・・・。
「原口さん、車が1台少なくないですか??」
周りを見回して、何かを思い出した様子の原口さん。
「おっ!そうじゃった。晃宏君が外に観察行った間にちょっと電話があってな。渡中さんが出かけたんじゃ。」
そういえば、ビジターセンターに戻ってきてから、見かけないなと思っていた。
「おぅし!そろそろ行くぞ~!!藤村兄弟後ろに乗ってくれ~。」
「は~い。」
おぉ!車高がやけに高い・・・。
原口さんの車は、一般道をものすごい速さで疾走する!そして車高が高いから揺れる!
「よ~く外見とけよ~!!」
「はい。確かに酔いそうです・・・。」
「な~にをとぼけた事を。パトカーのチェックい~や!せめてタカでも探せ!」
「タカ探す!お兄ちゃんは?」
とりあえずパトカーに集中しよう・・・。
「タマシギかぁ・・・。」
本日のガイドウォークのターゲット、タマシギ。“シギ”とついているが、シギ科ではない。タマシギ科という別の科に属している。水場に生息していることや、くちばし、足が長い事などは他のシギと同じだが、目がパッチリ大きく、ずんぐりした体型が特徴だ。水田や湿地に一年中いるらしいが僕はまだ見た事がない。そして、このタマシギの何より大きな特徴は、オスよりメスの色彩が派手なことである!カモを見たらわかるように、一般的に、鳥類はオスの方がメスより派手だ。オスが派手なのは、メスの気を引き子孫を残す為だといわれているが、羽色の逆転したタマシギは、面白いことに、繁殖にかかわる多くの行動も雌雄で逆転する。卵はメスにしか産めないのでしょうがないが、子育て全般はオスが行うのだ!なんとも、近代的な考え方を取り入れた野鳥ではないか。
“僕はバードウォッチングを頑張る!”そう電車の中で決意した日から、僕はかなりの頻度で図鑑を見て、そして暇な週末には観察パークに通うようになった。勿論まだあの人ほどではないが、かなり野鳥についての知識は増えた。その実感は自分でもすごくある。ただ、タマシギについての知識は、ラッキーな部分が大きい。どういう意味かといえば、観察パークでは、土曜日に工作のあとでビデオ上映会も行われているのだが、先週がたまたまタマシギについてのビデオだったのだ。工作・ビデオ上映会・ガイドウォークは、観察公園の3大イベントと呼ばれている。
「今日って、タマシギの観察ポイントとして有名っていう用水路に行くんですよね?」
これは二町さんの情報。先週ビデオを見た後で、結構近くにタマシギの生息地があると言っていたのを思い出した。原口さんから返ってきたのは意外な返事だった。
「馬鹿言うな。」
「え・・・?違うんですか!?」
原口さんは、片手でクルクルとハンドルを回しながら答える。
「“見に行く”バードウォッチングなら、わしのおらんときにしてくれ。今日は“探す”バードウォッチングじゃ。観察したい野鳥の好む環境、餌、生息している季節を頭に入れて探す。その野鳥がおるって場所に見に行って観察できるのは、当たり前の話いや。わしらにとっては何も面白くない。まぁよほどのレア鳥の時は見に行くこともあるがの。見に行くバードウォッチングで満足できるのは、まだまだ新米の二町さんくらいまでかの。」
二町さんでまだ新米か。じゃぁ僕はいったいなんだ?ゴミなのか?そうなのか!?でも実際、観察ポイントを教えてくれたのも二町さんだったし、原口さんの言うことも当たっているのかもしれない。さっき猿越さんも、鳥の名前や姿に詳しいだけでは駄目だと言っていた。その話と近いものがある。
気づくと車はいつの間にか、細めの農道を走っていた。車のスピードもずいぶん落ち、原口さんはしきりに左右を見ている。タマシギのいそうな場所を探しているのは僕にもすぐわかる。
「ここなんかええじゃないか!」
原口さんが車を止めた。すぐにドアを開けようとする佳昭を原口さんはとめる。
「佳昭君!ちょっと待て!人間が降りてくると野鳥が驚いて逃げてしまうかもしれん。まずは車の中から双眼鏡で確認するほうがええ。」
「わかりました!」
佳昭はすぐに、車内から観察パークでお借りした双眼鏡を構える。原口さんが発見したポイントは、田んぼの側にある小さな沼・・・というと大げさだが、水と土が混ざりあってベトベトしたような場所だ。その上に、多種多様な雑草が青々と茂っている。僕も双眼鏡を構える。右側に観察場所があるのだが、佳昭が右に座っているもんだからなんともやりづらい。
「こういう場所が好きなんじゃ、タマシギちゃんは・・・。おっ!こりゃさっそくおったぞ!!見てみぃ!言った通りじゃろうが!?」
「ほんとですか!?」
「どこどこ!?!?」
やっぱ早い!僕なんかまだ佳昭の頭しか観察してないというのに!
「わしのところからは草の陰になって・・・ほとんど見えんけあれじゃが、藤村兄弟の所からは多分よ~見えるぞ!ほら!左の奥!紫の花の後ろじゃ!」
えっと・・・あっ動いた!あれかぁ!!!・・・って、え?何か見覚えのある奴だ。
「原口さん・・・あれほんとにタマシギですか?今、動いたんで、多分原口さんの所からもよく見えると思います。」
「な~にを言うか・・・って、ええんぇ~~っ!!ほんとじゃ。クサシギじゃな・・・。」
「ですよね?」
イソシギもよく似ているが、この目の前にいるのは、腹からにかけての白色部が脇に食い込んでいない。クサシギだ。
「はっは!おっかしいのぉ、タマシギはおらんか。」
焦っている。原口さんが確実に焦っている!しかし、どんなときもポジティブなのが原口さんだ!
「ま!えかろう!このクサシギちゅ~んも多少珍しいけの!初観察じゃろうが?」
「いや・・・一回見た事あります。」
「なぬ!?」
険しい表情になる原口さん。いやでも、見たよな?うん、見たよ。ミヤコドリを見つけた日に『藪次郎池』で。
「原口さん!僕は初観察です!嬉し~!!」
っと佳昭。一転してにこやかな表情になる原口さん。
「そうかそうか!いやぁ、佳昭君は素直でええ子じゃのぉ!晃宏君はここに置いて、2人でいこうかのぉ!」
「ちょっすいませんっ!やめてください!」
なんで謝ってるんだ自分・・・。はぁめんどくさい。こんな事になる予感がしたから嫌だったんだ・・・。
「そんじゃクサシギには別れを告げて・・・しょうがない。行ってみようかの??」
「どこにですか?」
「観察ポイントとして有名な、例の用水路じゃ!!!」
ん~~行くんかいっ!!!