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DREAM-BALLOON

夢風船って
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ブログ開設から4000日!

80:ツルの里~発表~

2010-10-04 03:35:42 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 3班の発表が始まった。班長のタケさん、僕、真悟、オッキー、あゆみちゃんの順で前に整列する。タケさんが渡されたマイクを持って、一歩前に出る。
「3班の班長をしております、南竹です。え~、今から発表を行うわけですが、この班はメンバーのうち3人が中学生という、少し変わった班です。そこでですね、思い切ってこの3人に発表の準備を全て任せてみることにしました。あちらの・・・砂井さんも、諸事情で参加できないものですから。」
・・・へ?諸事情ってなんだよ!!諸事情の説明が班員にすらないことに、心の中で多少苛立つ。タケさんの前置きは続く。
「正直なところ私も・・・3人の希望で、発表の内容を聞いていません。」
会場が、“大丈夫かよ・・・”という思いと共にざわつく。わかるよ専門家の皆さん、その気持ちは。でも・・・

タケさんにも、この会場で、みんなと一緒に聞いてほしいのだ!!

「長くなりましたが・・・ということで、私も楽しみに3人の発表を聞こうと思います。それじゃぁ・・・あっくんよろしく。」
タケさんが後ろに下がって、僕にマイクを渡す。あ~やばい!緊張がハンパではない!はたしてこんな内容の発表で、受け入れてもらえるのだろうか・・・。横では同じく、真悟とオッキーが不安そうな顔をし、あゆみちゃんはニコニコしている。前を向くと、後ろの方にいる、のぞみさんの姿が目に入った。

自分の思ったことや、感じたこと。

もう一度、のぞみさんのアドバイスをちゃんと思い出す。自分でもよくわからないが、少し落ち着いた気持ちになった気がした。よし!!真悟、オッキーと3人で考えたんだ!自信を持ってやろう!!僕は書いてきた原稿に目を落とし、マイクを口に近づける。

 「それでは今から、3班の発表を始めます。よろしくお願いします。」
3班のメンバー一礼。拍手が起こる。
「えっと、さっきタケさ・・・班長も言った通り、3班は僕たち中学1年生3人で内容を考えました。それをまとめたものを、僕が発表したいと思います。」
ふぅ~。大きく息を吐く。
「僕たちは昨日ここに来る前に、大郡駅の近くに広がる田んぼを見たのですが、その時、九黒町の環境に近いかも、っと思いました。そして、どうしてナベヅルは九黒町にだけやってくるのか不思議でした。」
“大郡駅の近くに広がる田んぼ”とは、真悟のパパさんの車から見た、コクマルガラスがいたかもしれない場所のことである。
「でも、この九黒町に来てその疑問が解決しました。ナベヅルがこの町にやってくのは、元からある自然環境のお陰だけでなく、ここに住んでいる皆さんの努力があるからだとわかったからです。あの場所には、電柱や電線がありました。休耕田に水はたまっていませんでした。デコイもありませんでした。しかし、この町の皆さんはツルを守る為に、他のどこでも行なっていない努力をされています。他のどこでもなく九黒町にツルがやってくるのは、間違いなくその努力の甲斐あってだと思うので、続けてほしいと思います。環境を守りながら人間が共生する大変さ、というのが、この『九黒ナベヅルミーティング』に参加して、僕たちが改めて感じたことです。」
そう、これが僕たちが一番感じたこと。そしてのぞみさんの言う通りで、そこから僕たち素人中学生なりの答えが見えてきたのだ。
「僕たちは次に、どうしてその努力にもかかわらずナベヅルの渡来数が減り続けているのかを考えました。と言っても、僕たちには専門的な知識が無いのでなんとなくですが、この町の努力以上に、他の地域の環境が悪化しているからではないでしょうか?」
ナベヅルは、冬場だけ越冬に九黒町にやってくる。つまり他の地域で過ごす時間も長く、渡りの時にはいろいろな場所を通る。そのどこかに、環境悪化などの問題が起きているのではないかという意味だ。まぁ、この辺りの説明を発表に取り入れていないのは、専門家の方々はこんな事、百も承知だとわかっているからだ。肝心なのはここから!個人的には、身の丈に合ったいい答えが出せたと思うけど・・・受け入れられるかドキドキだ。
「え~、そこで、3班の考えたナベヅルの渡来数を増やす方法ですが・・・

第2回、第3回、九黒ナベヅルミーティングを開催することです。」

 何やらアットホームな回答に、体育館全体がポカンとした雰囲気に包まれたのが、原稿を見ていてもわかった。慌てて理由の説明に移る。
「あっ、えっと、さっき話したように、九黒町について何も知らなかった僕たちですら、この二日間で、勉強になったことがたくさんあり、自然環境を大事にしようという気持ちが強くなりました。大事なのは一人ひとりの意識だと思います。第2回、第3回と九黒ナベヅルミーティングを開催すれば、少しずつでも、九黒町以外の人たちの意識を変えられるのではないでしょうか。是非来年も、九黒ナベヅルミーティングを開催してください!これで3班の発表を終わります。」
・・・終わった。3班一礼。果たして僕たちの発表は、どのように受けとめられたのだろうか。礼をしながらちらりと横を見ると、オッキー、慎吾も不安げな表情だ。なんだか顔を上げたくない。その時だった。
“パチパチッ”
どこからともなく始まった拍手は、瞬く間に体育館中に広がる。前を見ると立ち上がって拍手をしているのは・・・カネ副会長!?昨日の夕食ではあんなに対抗心むき出しだったのに・・・。
「よかったぁ!すご~くよかったよ!!」
「いやぁ~!!いい発表だった。」
っと、すぐ隣で僕たちをべた褒めするのは、あゆみちゃんとタケさん。褒めていただいてありがとうございます!!・・・ってそもそも、同じ班員なのにその客観的さ・・・変な話ですよ!?トク副会長やのぞみさんも、笑顔で拍手を送ってくれている。
「なんか俺たち・・・結果上手くいったんじゃね!?」
「うほ~い!俺もそう思う!」
「やね!」
僕もそう思う。

今日一番の拍手だ。

「え~皆さん。」
突然、タケさんがマイクを持って話始めた。拍手が鳴り止む。いったい何事だ??
「無事これで、九黒ナベズルミーティングの行事も閉会式を残すのみとなりました。そこで私の班のメンバーである、砂井あゆみさんの事について秘密にしていた事があるのですが、それを挨拶も兼ねて、砂井さんの方から発表していただきたいと思います。」
やけに急展開だ。・・・あゆみちゃんの秘密?僕たち班員にも喋ってない事なのだろうか??
そんな事を考えているうちに、マイクはあゆみちゃんに渡り、少し前に出て立つ。
「皆さんはじめまして。この度、シリーズ特集『ツルの里』を新しく担当させてもらう事になりました、『東南新聞』の砂井あゆみです。」
・・・?何を言ってるんだこの人は?オッキーも慎吾も口が半開きで眉間にしわがよっている。
「・・・あゆみちゃん??」
「3人とも黙っててごめんね。後でゆっくり説明するから。とにかく私、純粋な参加者としてじゃなくて・・・

記者として仕事で参加してるの。」

 あゆみちゃんが記者??さっきまで感じていた発表の満足感は、あゆみちゃんのカミングアウトによって、全部が持っていかれてしまった。