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draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

メガネ壊れて修理代2万、痛すぎる

2009-01-22 03:31:46 | 最近読んだ本
・「闇を駆ける女神」/カレン・ハーバー

 時はフランス革命時、ヴァンパイアの呪いをかけられてしまった貴族の娘・シモーヌ。彼女は家族を殺された無念から、ヴァンパイアの力を人々を革命から救うために使っていた。彼女はラ・フランム(炎)と呼ばれ、今日もひとり投獄された人々を救出するために戦う。
 一方イギリスでは、一人のスパイがフランスに向けて旅立とうとしているところだった。コルデと呼ばれる男、彼に与えられた仕事は革命の裏で暗躍する人物を消すこと。彼は仕事に疲れており、これが最後の仕事になるだろうと予感していた。そんな二人が出会ったのが港での戦闘、革命軍から市民を逃がすために二人は共闘する。パートナーを作らない主義のコルデだったが、ラ・フランムの異常な身体能力に興味を引かれ、やがて二人は手を組んでパリの牢獄を目指すことになる…。

 設定だけ見ると、まさに王道のヒロイック・ファンタジーって感じ。でもこのストーリーの主軸になっているのが、「二人がいかにしてお互いを知り、仲良くなっていくか」というポイントなので、メインは冒険とかバトルじゃなかったりする。で、この二人が敵の目を欺くために偽装結婚したり、セックスしたりすることによってお互い心惹かれていくさまがすごく丁寧にいちいち描かれていて、なるほどそういう視点のストーリーもアリだなーと思ってしまう。

 ヴァンパイアであることに劣等感を持ち、ひたすら人との接触を避けようとするシモーヌ。ヴァンパイアの力を使い、善行をすることによって人間に戻れると信じている彼女。人間に戻りたいと思うのなら、なぜ今更結婚をためらうのか?ツンツンしてる初期から、少しずつ愛によって解きほぐされていく彼女の心の移り変わりを読むことができる。
 ただこういう物語の運びだけに、もうちょっとアクション分とかヒロインがピンチ分とか盛り込んでもよかったような気がするけどな。フランス革命というバックグラウンドもあんまりストーリーに関わってこないし。それからイギリス人のコルデ、この愛の求め方もイギリス式…というかフランス人のそれだよな。

ダイビングも面白そうだよねって感想

2009-01-10 23:22:12 | 最近読んだ本
・「ティース」/ヒュー・ギャラガー

 伝説のアングラカルチャー誌、「ダステッド」のライターだった僕。熱狂的なファンだった僕は「ダステッド」に投稿を続け、それが編集部の目に止まり、それから僕のライターとしての人生が始まったのだった。つまらない家庭から抜け出し、ふとした事故で負った歯の痛みも無視して。ひもじい思いをしたこともあれば楽しいこともあった、それはまさに黄金時代だった。
 そして雑誌は廃刊し、かつての仲間は次々と次の職を見つける中で、僕は相変わらずガールフレンドの家に転がり込んでは煮え切らない日々。そんな途中でふと聞いた、アングラカルチャーの象徴ともいえた俳優、ナイル・リヴァーズのドラッグ中毒死。僕は昔のインタビューのテープを掘り起こしてみる。
 「君は旅をしてみればいいんじゃないか?」、「世界中を旅して文章を書けばいい」…そんなカリスマの言葉に今更ながら動かされて、僕は世界を放浪してみることにする。かつて好評だった「ダステッド」のコラム、そんなようなものを道中書いていけば、きっと僕のライター人生は再び花開くだろう、そんな希望を抱きながら…。

 これぞパンクで、アナーキーな若者らしいイカレタ感覚の、何とも痛快な放浪物語。昔の戦友がどんどん新しい環境へ旅立っていく中での焦り。やっつけの取材仕事とインドネシアへの旅の途中で、かつての仲間が本当は裏切っていたと思い始める僕。ラスト辺りで、出世街道まっしぐらの親友と、落ちぶれてドラッグ中毒の僕が向き合う場面がある。
「どうしてあの時、力になろうとしてくれなかったんだよ!?」
「どうしてあの時、力になってくれと言わなかったんだよ!?」
友情は決裂してしまうけど、きちんと腹の中をブチまけて別れることができたから、いいシーン。

 それからこの物語の要素として加えられているのが、自分自身の内面の「痛み」である、歯痛との付き合い。反骨精神でいつも皮肉っていた自分の歯も、いつしかシャレにならないほど悪化していって、もうどうしようもなくみじめになっていく自分。むかし自サイトの日記でも書いたかもしれないけど、歯はすべての健康の基本だよ、みんなも歯を大切にしようね…。ということで、結局主人公は歯を治療することを決意するということでシメ。

金がないからヘコんでるとかそういう感じ、最悪

2009-01-07 19:18:41 | 最近読んだ本
・「車輪の下(で)」/ヘルマン・ヘッセ

 ギーベンラート氏の一人息子、ハンス。このシュヴァルツヴァルト地方の田舎町ではいまだ彼のような秀才を輩出したことはなく、彼は町中の人々から一心に期待を寄せられていた。持病の頭痛と戦いながら勉強する彼だったが、ほどなく彼は神学校の入学試験に2番の成績で合格し、故郷を離れてそこで学ぶことになる。

 不安と期待の入り混じった神学校での寮生活。間もなく彼は同級生の親友を得た。彼の名はヘルマン・ハイルナー、上流階級の出身で、詩人の才能があり、まるっきりハンスとは逆のタイプだったが、ハイルナーはハンスを必要とし、またハンスもハイルナーと交わることによって心の平安を得ることができた。
 同時にハイルナーには多少エキセントリックな所があり、同級生に対して乱暴をはたらくこともあった。教師達はハイルナーの才能を認めていながらも異端扱いし、ハンスに彼と付き合わないようにと忠告をする。しかしその友情もあっけなく終わりを迎えてしまう。ハイルナーが神学校の寮を抜け出して家出してしまい、退学になってしまったのだった。
 元々ハイルナーと付き合い始めた頃から、ハンスの成績は少しずつ下がっていた。それが親友の退学により、彼の集中力は完全に切れてしまったのである。とうとうハンスは医者から神経症と診断され、神学校を退学する。

 地元に戻った彼。彼はしばらくニート生活を続けながら、機械工として働くことを決意する。彼は工房で歯車を磨きながら、働くことの素晴らしさ・社会全体の何たるかを肌で理解する。そして働き通した後の週末、ハンスは仲間と共に飲みに行き、ひどく酔った後、川で溺死しているのを発見される。

 …まあ、これを読む年齢によって感想は変わっていたかもしれない。でも、おっさんになってこの作品を読んで確信するのは「ハンスはハッピーエンドに終わった」ということ。「いや、溺死(自殺?)してるじゃん!」と思うかもしれないけど、まず第一に物語を終わらせるために、ハンスの死は必要だったということ。じゃあ彼は慣れない機械工になって一生苦しむのか?そういうエンディングにはならないと思う。機械工の仲間が挫折をネタにして、ネチネチ言われないのも好ポイントだよね。机上の勉強だけではなく、ハンスはちゃんと労働を身に実感してこの世界を理解できたのだから、幸福に終れたと思う。
 それから、やっぱり作品全体の華となるのが神学校時代の親友・ハイルナーくん。どこかなまめかしくて、大人びているけど、時に子供みたいに涙を拭くこともなく泣きじゃくる。いいキャラだよね。ハンスにキスしたりするし。たぶんこのキスシーンは5本の指に入るほどの名キスシーンだと思うよ。
 ハイルナーのキャラを浮き立たせるために、あえてこれといった主張のない無色透明な主人公に設定してるんだ、と自分は分析している。やっぱり読後の感想って、主人公の死よりもハイルナーきゅんとか、圧搾を手伝ってる女の子(エンマちゃん)のほうが印象深いでしょ?受験に苦しむ少年、という境遇も容易に共感できるし。

 それからラストの靴屋のセリフがやらしいよね。この靴屋は元々学問に対して懐疑的で、神学校に入学する前もハンスに悪い入れ知恵してるし、ハンスの葬式の時も父親に対して「彼らが息子を殺したのです」と、ぼかした表現で神父や教師達を指さしている。ホントに大人って、汚いよね…。

もう絶対車運転しねー

2008-12-25 20:43:14 | 最近読んだ本
・「モロー博士の島」/ハーバート・ジョージ・ウェルズ

 航海中に難破船に衝突したレディ・ヴェイン号。大きな救命ボートで脱出した数名はすぐに救出されたが、小型ボートに乗った私は洋上を数日間漂流していた。そこを助けてもらったのが、モンゴメリという男。彼の船には奇妙な動物が積まれていて、彼の従者の男も、どこか体のバランスがおかしいような、いびつな感じをしていた。
 モンゴメリの降りた先は名もない小さな島。酔いどれの船長が無理やり私も降ろしてしまったので、やむなくその島にやっかいになることにする。そこにはモローという博士が生物の研究をしていた。モローという名、どこかで聞いたことのある名前だったが、私は思い出す。輸血に関しての論文を発表し、残酷な生物解剖で学会を追放された学者。この島全体が博士の生物実験場なのだろうか…?
 島を散策中、いくつもの奇妙でおぞましい生物に恐怖を覚えた私は、モローのもとを逃げ出そうとする。その道中に見かけたのは、獣的生活を拒絶し、人間らしく生きようとする亜人間のコミュニティ。その後モローとモンゴメリになだめられ、私は部屋に戻る。
 博士自身が語ることによれば、動物を改造して人間を作り上げるということで、それに人間としてのモラル、「掟」を教育するということ。けれども獣は人間たりえなくて、結局四つ足で歩くようになり、人間に襲いかかってしまう。博士とモンゴメリは殺され、残った私は動物人間たちを統率しようとするも、彼らは次第に人語を話さなくなり、最終的に私は島を脱出する…。

 同じ作者による「タイム・マシン(これは映画で見た)」だったり、あるいはジュール・ヴェルヌもそうだけど、古典SFという以前にある種の人間社会への批判が顕れている。つまりここで言いたいのは我々人間もまた、堕落によって獣に退化してしまうかもしれない…という指摘、なのかな?本の裏表紙に書かれている「現代の遺伝子改造を予見した…」とはちょっと違うかもしれない。そういったテーマはむしろ「ジュラシック・パーク」の方かも。
 それから「獣は人間たりえない」というテーマも、個人的には入っていると見ている。これは聖書とかキリスト教が出典なんだろうか。獣人間萌えは、わりと21世紀の現代ではOKなジャンルではあるんだけどね…。

 あと、「関節がいびつな格好の人間」という表現を読んで、思わずプレステ3の「白騎士」のキャラを思い浮かべてしまった。

こういうの↓

もしかして今年はボーナスなし!?いや、マジでヤバいんですけど!

2008-12-23 23:21:59 | 最近読んだ本
・「よい子はみんな天国へ」/ジェシー・ハンター

 少年ばかりをさらっている誘拐犯、通称・チョコレートマン。しかし今回彼は間違って女の子を誘拐してしまった。彼女の名前はエミリー。小さい頃に夫と離婚して以来、女手一つで貧しいながらも育ってきた子。
 いつもは手早く殺したあと、身代金要求の電話をかけて、母親の錯乱した表情を見るのが楽しみだった。しかし今度は女の子。彼は女の子に触れることはできない。チョコレートマンと女の子との対面は一体何をもたらすのか?いつもの方程式が崩れ、その結果は警察にも、チョコレートマン本人にもわからない…。

 このエミリーという子が積極的にチョコレートマンに接触することによって、この犯人の心の内面が垣間見えてくるんだけど、やっぱり普通は怖くて話しかけられないよな。でも彼女が恐れないのはシングルマザーによって育てられた子で、見かけよりもずっと大人びていて、大人に対してちょっと遠慮している子だから。まあそういうバックグラウンドの理由付けによって、犯人と少女との会話が成立している。

 …で、その事件を担当している警官の男女のペアが役に立たね~。結局母親が先に犯人の元に駆けつけてしまったし。それで母親も逆に捕まってしまうだけに、結局こいつら何なんだよという感じに。でもよくよく考えてみればこの少女が主人公というわけで、べつに警察小説モノだとか探偵モノとかそういうカテゴリにはならない…のか。この犯人の心理とか犯行に至る動機とかがあまり詳しく書かれてないのも、女の子がちょっと奇妙な体験をして少し大人になっていく(母親離れしていく)…という、それだけの話にしたかったからそうしたのかもしれない。ちょっと物足りない気はしたけど。

lolo

2008-12-11 01:17:18 | 最近読んだ本
・「クローン捜査官」/エリック・ラストベーダー

 全米を震撼させている殺人鬼、ペイル・セイント。そんなペイル・セイントをついに逮捕したという連絡が入った。夜中にもかかわらず署に向かう夫、しかしそれは罠だった、殺人鬼自らが出頭してくるという大胆な犯行によって夫は取調室で殺され、こうしてまた犠牲者が一人増えてしまうのだった。
 夜中に呼び出してしまったことに対し、少なからず責を感じている同僚のクリストファー。しかし捜査はまったく手がかりのないまま進まない。そんな裏で、遺伝子の研究学者であるロバートの妻・カサンドラはあることを実行していた。現場に残されていた犯人の皮膚からクローン人間を作り出し、犯人を追跡させるという計画…。

 こうして生まれたもう一人のペイル・セイント、ロレンス。彼は驚くべきスピードで物事を学んでいき、クリストファーの忠実な片腕として捜査に貢献していくことになる。しかし彼は殺人鬼のクローンである以上、いつ何時暴走して「彼」と同化してしまうかわからない。それから急成長のトレードオフとして、彼の細胞は常人の数倍のスピードで老化していくため、タイムリミットは刻一刻と迫っていく…。
 果たして、彼らはペイル・セイントを捕まえることができるのか?そして、ロレンスの行く末は…?

 言うまでもなく主役ともいえるのが、クローン人間であるロレンス。無邪気で、何でも知っている頭脳を持ちながらも、外の世界のことを何も知らない。殺人鬼の因子を持っていながらも、クリストファーやカサンドラの愛を受け、ただ犯人を追跡するだけに全うする、それだけの存在。ペイル・セイント自身もその分身に惹かれ、接触を試みようとする。なかなかこれは面白かった設定。実験用のマウスに自己を投影する、「アルジャーノン」的なシーンもある。
 それから、敵であるペイル・セイントが異常に強くてしぶといというのが印象に残ったな。特に軍出身者というわけでもないのに、弾丸で撃たれても死なないし、近接戦闘がやたら強い。それでありながら、パソコンも駆使して警察内部を撹乱するというかなりの知能犯。

 ただそれだけに、ロレンス君が出てくるまでがちょっと長くて退屈なんだよな。ここまで150ページじゃなくて、100ページぐらいまでに縮めたい。う~ん、もうちょっと削れるような要素ってあると思うんだけどな。クリストファーの息子の話とか。
 それからこの徳間文庫って普通の文庫本より5mmほど背が高くて、手持ちのブックカバーに入らなかった。幅も600ページ以上あって厚いし。

そろそろいろいろと整理しないと

2008-11-23 13:12:16 | 最近読んだ本
・「偽りの薔薇の園」/アイリーン・グージ

 ショッピング中に、急に産気づいたシルヴィ。彼女の頭の中に恐怖が浮かんだ。このお腹の中にいるのは、夫との子ではないのだ。思いがけず銀行の頭取と結ばれた彼女だったが、性生活は惨めなものだった。そんな時にめぐり会った雑役夫、彼女は激しい情熱で彼と愛を交わしたのだった。
 初産の苦しみの末、生まれたのは黒い肌の女の子。もちろん、この子を夫の前に出すわけにはいかない。夫と別れるのか?しかし別れたところで彼女にはこの子を養っていく能力などない。
 そんなことを考えている間に、入院しているボロ病院が火事になる。大慌てで育児室に残っていた一人の赤ん坊を抱え、逃げ出す彼女。その子の母親は火事で亡くなってしまった。この時、彼女の中に悪魔の考えがよぎる。この白い肌の女の子、彼女を自分と夫との子にしてしまえば…。
 そして時は流れ、シルヴィの本当の子だった少女は貧しい家庭の中、三人姉妹の末っ子としてたくましく育っていた…。

 読み始めて10ページもしないうちに「これは!」と思わせてしまう、スリリングに満ちた大河ドラマ。貧しい環境に負けずに、美しく力強く生きていくローズと、恵まれた境遇に甘んじることなく、自分の生きる道を見つけ出そうとするレイチェル。どちらのヒロインも魅力的で、両方のサイドのストーリーが面白いなーと思ったのは結構久しぶりかな。
 そんな二人が交わるきっかけになるのが、ローズの幼なじみで将来の結婚を約束した青年・ブリアン。物語中盤、ベトナムで瀕死の傷を負っていたところをレイチェルに助けられ、彼はレイチェルと結婚する。それを知ったローズは深く傷つくとともに、今までよりもっと強く生きていこうと決心するのだが…。

 う~ん、恋人がほぼ死亡状態から生き返ってしまうのが何ともうそくせー。それに続く愛憎の三角関係がいきなり安っぽい昼メロテイストになってしまうのが…。まあこれが中盤の展開。ラストは二人が協力して共通の敵を倒し、そこでローズは生い立ちの秘密を知ることになる。
 いったんねじ曲がった運命は元には戻らないけど、最終的にあるべき場所に落ち着く…というのは十分ハッピーなエンディング。ちょうどローズのルビーの耳飾りが、最後のシーンで両方揃うのと同じように…。

 やっぱりこういったドラマ、漫画じゃなくて900ページほどの膨大な文章で読むのがいいよね、と思うと共に、さらには続編もあるらしくて中々楽しみだ。

11月はヤバイ、とてもヤバイ

2008-11-02 00:20:51 | 最近読んだ本
・「エンデュミオンと叡智の書」/マシュー・スケルトン

 ある吹雪の夜中、ソリを引きながら街へ入る二人の姿があった。そのソリの上には、蛇の細工が施された不気味なチェスト。彼らの向かった先は製本職人・グーテンベルグの工房。二人組のうちのひとりはヨハン・フスト、グーテンベルグの出資者である。グーテンベルグはまさにこれから、世界で初めての聖書の活字印刷に着手しようとしていたところであった。
 そして時は流れ、現代のオックスフォード。母親の研究でこの図書館に滞在している主人公の少年は、退屈をもてあましていた。元々本はあまり好きではない。おまけにいつもうるさくて、何にでも顔を突っ込む妹を見てあげないといけないのだから…。そんな彼がきまぐれに選んだ本、それは何も書かれていない奇妙な本だった。しかし再び本に目をやると、何やら意味ありげな文章が浮かんで見える。これは一体どういう事なのか?何故僕だけが読めるのか?何故僕が本に選ばれたのか?それから、その本をつけ狙おうとする影の存在。
 少年は不思議な本に導かれながら、妹と共に本の真実へと迫っていく…。

 歴史パートに登場する人物はすべてノンフィクションで、聖書を出版したグーテンベルグは有名ですね。そしてその出資者だった、悪名高きフスト。フストの助手で、のちにグーテンベルグに従事することになるシェーファーという青年も実在の人物。それらの実際のエピソードが細かくつながっていって、現代パートに受け継がれていくという構図。活字のヒントが木こりの積み木細工にあった、というのも本当の話らしいです。
 で、この主人公の少年なんだけど、正直あんまり好きになれなかった。うーんなんでだろうね。紙に隠された文字を読めるのがどうして特徴も取り柄もない僕なのか?どうして頭も切れて度胸もある妹じゃないんだろう?主人公はそんな風に妹に引け目を感じているし、じっさい妹も、どうして私じゃないんだろう?と口にするシーンがある。
 でもやっぱりそれは、この小説を読んでいるオレが「本当は自分が選ばれたかった」と心のどこかで思っているからじゃないだろうか。ラストでも黒幕が「なぜ私が選ばれなかったのか」というような事を口走る。誰もが皆、物語の主人公になりたかったんだよね。最初は頼りなかった主人公も、「選ばれた」ことによって成長していく。そしてちょっとだけ、妹とも仲直りもする。そういうようなファンタジー。

画像は準備中

2008-10-25 01:29:15 | 最近読んだ本
・「黒い地図」/ピーター・スピーゲルマン

 友人のツテで紹介された、新たな依頼主。依頼主はかつてMWBという企業に勤めていた。MWBは世界各地に支店を持つグローバルな銀行である一方で、いわゆるマネーロンダリングなどの汚い仕事も扱っており、解体された現在ではFBIの監視下に置かれている。そんな依頼主が、何者かからMWB時代の古い書類のコピーを送りつけられ、脅迫されているという。
 往々にして脅迫が成立するパターンというのは多くなく、大抵は警察に相談することによって解決するのだが、やはり主人公のもとに依頼が来るということは一筋縄ではいかない、という証拠。それから往々にして、依頼人はすべての情報を公開せず、嘘をつくものだ。ともかく期限のリミットが近づいていることから、主人公はさっそく調査を開始するのだが…。

 ニューヨークの探偵、独身で、いわくつきの過去があり、独りを好む。まあここらへんはおなじみの設定として、特色は財界をテーマにしていることぐらいだろうか。
 でとりあえず全体の内容について触れると、調査がなかなか上手く進まないところにあまり面白さを感じないのです。とりあえず手がかりは色々と手広く入ってくるものの、それがすぐに途切れてしまって深いところに入れない…というのは実際のリアルな探偵調査もそうなのかもしれないけどね。もちろんラスト近くになってようやくバラバラになっていた糸がより合わさってくるけど、何だか納得いかないよね。どうでもいい人が実は犯人だったりね。

 それから主人公が初対面で感じる「依頼人は嘘をつく」というのが、もうひとつのキーワード。と書いてしまうと、ほとんどネタバレになってしまうか。うん、でもまあそんなものか。ラストでも読者同様に、主人公もあまりスッキリしないような気分で終わっているし。

風邪が治りつつある

2008-10-14 03:09:05 | 最近読んだ本
・「地上50mmの迎撃」/ジェイムズ・セイヤー

 主人公の担当した事件。ついに捕らえたマフィアの大物の判決が下る日。しかし無常にも無罪の判決が下る。街頭でドンが高らかに勝利宣言をしたそのとき、頭がこっぱみじんに砕け散った。スナイパーに殺られたのだ。始めはマフィア間の抗争かと思われたが、立て続けに下っ端のどうでもいいマフィアの小物がスナイパーによって目の前で殺される。
 自身、元スナイパーだった主人公は訓練基地に赴き、この一連の犯人像の手がかりをつかもうとするも、そこでもまた謎のスナイパーによってジャマが入る。そこでついに確信する、これはマフィアとは関係ない、明らかに自分に対する挑戦だ。やがて敵の正体が判明する。ロシアのスナイパーのトゥルソフ、彼とは直接面識はない(はず)。かつて最強のスナイパーと謳われた主人公を倒さなければ、彼のスナイパーとしてのプライドが許さないのだろうか?
 こうして主人公は都会ニューヨークを去り、自宅のアイダホの山荘に立てこもって敵を待つのだった…。

 スナイパー小説というと映画「スターリングラード」の原作になった「鼠たちの戦争」が真っ先に思い浮かんで、もちろんそれは好きな本の一つ。この本でもスターリングラード攻防に関するエピソードがちょっとだけ書かれていて、それだけスナイパー達にとっては「伝説の戦い」だったのかもしれない。
 まるで主人公以外は目に入らないとばかりに、殺しを続けながら猛然と突き進んでいくトゥルソフ。避けられぬ対決であることを悟り、最初はスナイパーに復帰することに乗り気でなかった主人公も、再びライフルを手にすることによって少しずつ昔のカンが戻って来るのを実感する。スナイパー特有の空気の感じ方。あるいはスナイパー特有のクセ、みたいなもの(ハエを手で捕まえられるとか…)。ああ、やっぱりスナイパーって特殊な技能を持つ別の人種なんだなー、と読者も主人公自身も感じることになる。

 もちろんアクションも申し分ない。山中で、たった二人で繰り広げられる死闘、あまりにも愚かしい戦いでありつつも、思わずのめりこんでしまう(相手がそこに潜伏しているんだったら、爆撃機で一網打尽にしちゃえばいいじゃん!という外野のツッコミにも負けず)。スターリングラード戦で使われた偽装テクニックや、さらにそれをも上回るトリックも飛び出す。
 まあ、でもどちらかというと山間で繰り広げられる密林戦じゃなくて、高層ビルのジャングルを舞台にした市街戦が見たかったかな…というのが本音でもあるかな。でもそんな事やったらあぶねーか。冒頭でビルからのスナイプをちゃんと解説しているだけに、そういうのも勝手に期待しちゃうのが贅沢な悩みで困る。
 あとは警備によってFBIやら警官やらが多数派遣されて、戦争特需(?)に沸くアイダホのクソ田舎の平和っぷりとか。