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draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

トマス・ハーディはお好き?

2009-04-28 01:55:52 | 最近読んだ本
・「千尋の闇」/ロバート・ゴダード

 失職中の私をマデイラ島に招いてくれた友人。彼はそこで観光者向けの雑誌を刊行していて、幸いビジネスは上手くいっているという。彼は私にある人物に引き合わせてくれた。雑誌の出資者ともいうべき人物で、その老人は私にある依頼を申し込んできた。

 老人の依頼とは、この館の前の持ち主でもあるエドウィン・ストラフォードという、あまり名の知られていない政治家について。彼は1910年のアスキス内閣で入閣し、チャーチルなどと肩を並べた政治家である。閣僚の中では最も若く、見た目も悪くない好青年風の男だが、この内閣で2~3年内務大臣を務めた後、突如として政界を去っている。しばらくのブランクを経て第一次大戦に従事した後はマデイラのこの館に移り住み、晩年はイギリスに戻り列車に轢かれて死んでいる。
 老人はこの館に残されていたというストラフォードの手記を見せてくれた。手記を読むうちに私は歴史学者としての興味が急に沸いてくる。図書館の味気ない資料ではなく、今まさに活きている歴史。私はこのストラフォードの手記に夢中になり、調査を始めることにする。青年時代のストラフォードの謎の失踪、そして謎の晩年…。彼は一体何を考え、何を思い生きたのだろうか…?

 うららかなマデイラ島で読み進められる、歴史の闇に葬られた知られざる人物の、知られざるサスペンス。あらすじだけ見ると、何だか地味でつまらなそうな感じを受けるけど、実際読んでみるとすごく面白くて引き込まれるんだなこれが。ストラフォード氏が地元で当選を果たして、それから閣僚としてどんどんキャリアを重ねて…と、本当にまともに政治家活動やってるんだけど全然退屈な感じはしなくて、どんどん手記を読み進めたくなる。
 手記は200ページほどで終わり、それから先は主人公のフィールドワークによってストラフォード氏の謎が少しずつ明らかにされていく。と同時に、主人公の周りでは何かきな臭い雰囲気が漂い始める。下巻からは隠された晩年の手記が発見されて、これによって晩年の謎が解明されると共に、意外な人物との関連が浮かび上がってくる。ストラフォードの真の敵とは、一体誰だったのか!?

 歴史によって語られる過去の事件が、現代にも継続されていく…というこの立体構造が何とも魅力的な作品。その中でも印象深いキャラが、物語の焦点でもあるエリザベス夫人。ストラフォードの元婚約者にして主人公の親戚でもある、すべてを知る者。そんな老夫人が主人公を最大の友人と認め、ラスト近くで誇り高い天寿を迎える姿に、ちょっと感動。

精神安定剤

2009-04-22 21:10:34 | 最近読んだ本
・「ヴァチカンへの密使」/デニス・ジョーンズ

 ナチス親衛隊保安部長・ハイトリヒのもとで働くシュターケ少佐。彼に与えられた新しい任務は予想外のものだった。少々屈辱を受けるかもしれないが、と断った上での任務内容は、ユダヤ人に変装することだった。この任務の目的は知らされていないが、おそらくユダヤ人社会へ潜入し、要人を暗殺することだろうと少佐は考えていた。
 いっぽうでイタリア系ユダヤ人のロッシ、彼はユダヤ人を国外へ亡命させるモサド機関で働いていた。田舎町の肉屋に変装した少佐は、図らずもロッシの助けを借りてイスラエルへ亡命することになる。ロッシという男、少佐の中ではいずれこの任務の前に立ちはだかる障壁になるだろうという予感があった。
 イスラエルでメッセンジャーとの接触に失敗した彼は、イギリスの諜報員を殺害した容疑で指名手配される。彼は再びロッシの援助によってローマへ亡命する。そこで待っていたのは以前出合った娼館の令嬢、彼女の口を通じて初めて、シュターケに課せられた任務が明かされるのだった…。

 シュターケとロッシ、この二人が各地を股にかけて対決するスパイ小説。まあ第二次大戦ものというよりも冒険小説といったほうがいいかな。のっけから裏切者を捕らえるための殲滅戦、そしてロッシサイドは亡命の援助シーンと緊張感あふれる運びで展開する。出だしも面白いし、道中も安定して面白かった。
 ラストはシュターケ少佐が衝撃の事実を知らされて反逆するんだけど、そこへ呉越同舟、二人が一時的に手を組むのも良かったかな。途中で偶然手に入ったアイテム・青酸カリのカプセルも最後でちゃんと使い道があったりする。

 タイトルの通り、ヴァチカンとローマ法王というのがキーワード。ヨーロッパ諸国でない我々にはわからないけど、いわゆるローマ法王の影響力は国家よりも大きくて、政局の流れによってはローマ法王が遺憾の意を表明したりすることもあるそうだ(これを回勅という)。ここではナチスドイツを批判する回勅が出されていて、これからのナチスの動き如何によっては、さらに厳しい内容の回勅が発行されることもあるだろう…というのが背景設定。

本が集中して読めない

2009-04-15 00:04:21 | 最近読んだ本
・「義理と拳のザンク」/ジェームズ・N・フライ

 ザンクはボクサーくずれの探偵(探偵、という肩書きでいいのか…?)。まあとりあえずは持ち前の体力とパンチで、地元の不良少年を更生させたりはしている。今回入った依頼は、ある警察官の娘のボディガードをすること。警察官はザンクの最も嫌いな人種だ。しかも娘っ子のお守りなんて尚更。しかしその警官はザンクの無二の親友でもある。彼は断ることはできなかった。

 久しぶりに会う親友はどこか様子がおかしかった。あんなに威風堂々としていたのに、何だかやつれていて、酒に酔っている様子。娘のボーイフレンドの警官と喧嘩をしていて、麻薬所持の罪を着せてしまうばかりか、その男を殺してしまう。あいつがそんな大それた事をするわけがない。ザンクは調査を開始するが、娘のサマンサも一緒に行くと聞かずにあちこちでトラブルに巻き込まれまくり。挙げ句に逮捕された父親を救出するため、裁判所を襲撃すると言い出して…。

 難しいことはあんまりよくわからないという、そんなにかしこくない異色のボクサー探偵ものの第2作目。というかこれしか読んでいないんだけど、ザンクが不注意すぎて相手の罠にかかってしまうシチュエーション以上に、同行しているこの娘の無鉄砲さがある意味目も当てられない状態で、アホなのはどっちのほうなんだよと思ってしまう。ホントこういう流れで大丈夫なのかと。主人公たちの単純さとは裏腹に事件の内容はけっこう混み入ってくるんだけど、逆にそういうのがわかりづらいとか読みにくい感じはあったかな。シンプルに拳で解決、というような明快ですっきりする話にすればよかったんじゃないかな。

なんか読んでて疲れた…

2009-04-05 18:58:45 | 最近読んだ本
・「傷跡」/アラン・ラッセル

 ダウンダウンの一角にある、市民参加のギャラリーで画廊の管理人が殺害された。主人公はこの事件を捜査する老刑事。彼は、現場にいた一人の女彫刻家に聞き込みを開始する。しかし彼女は多重人格障害を患っており、事件のことを聞き出すたびに新たな人格が現れていく。埒の明かない主人公は別の方面からも事件を調べてみることにする。
 主人公は彼女のセラピストを訪ねる。何とかセラピストの協力も得て捜査を進めたい彼だったが、多重人格障害はとてもナーバスなもので、そうそう簡単には彼女から本当の話を引き出すことはできないという。そんなことで気をもんでいる間にも彼女は突然失踪し、その後新たな死体が発見される。やはり殺人を犯したのは彼女なのだろうか…?

 まあ一言で言えば、とてもつまらない。…と来れば、何がつまらない要素なのかを分析する作業に入るんだけど、まず多重人格者の人格にギリシャ神話からの名前がつけられていて、ギリシャ神話に馴染みのない我々にとっては直感的に把握しにくい…からかなあ。例えばエウリュディケ、モイライ、マイナデス…これを聞いてどんなキャラなのか理解できるだろうか?もちろんこのギリシャ神話という要素はこの物語全体を支配していて、キーワードになっていることは確かなんだけどね。
 それから多重人格障害。つまり一人の人物が刹那的に色んなキャラに変身してしまうということ。改めてこれを表現するのって難しいよね。と感じてしまった。やっぱりこれもさらっと読んでいる限りでは読者には伝わらない感じになってしまっているのが痛い。

 あと感じたのは、警察官が主人公というからにはそれなりのハードボイルドな捜査があるのかと思いきや、前途のようにひたすら女彫刻家に話しかけるだけなので、何だか期待はずれ感が…という。お決まりのフィールドワークではなく、複雑に絡み合った一人の心の中を探る…という切り口はいいと思ったけど、書き方・テンポ・テーマ…すべてにおいてこれはダメな例だなあというのが感想でした。

バイオ5をプレイ中

2009-03-12 00:00:00 | 最近読んだ本
・「エヴァ・ライカーの記憶」/ドナルド・A・スタンウッド

 それは1941年、私がハワイで警官をやっていた頃。私は一つの殺人事件に巻き込まれる。バカンス中に夫が何者かに毒殺されたらしく、取り乱している妻。どうにか妻を落ち着かせてホテルに戻らせるも、再び訪れたときにはむごたらしく切り刻まれて殺されていた。そんな惨殺現場を目にした若い頃の私は、思わず腰を抜かしてその場を逃げ出してしまったのだった。

 あの失態から20年余り、私は作家に転向して成功を収めていた。そんな私に舞い込んできた新しい仕事、それは50年前に沈没したタイタニック号の引き揚げ作業のルポの仕事。なんでもこのプロジェクトのスポンサーである老資産家・ライカー氏よりぜひ君に書いてほしいとの、直々のご指名だそうである。私は運命的なつながりを感じていた。海に沈んだタイタニック号…そういえば警官時代に遭遇した、あの惨殺された夫婦もタイタニック号に乗船し、生還したと話していた。
 しかしタイタニックの事故の概要から始まり、生還した人たちにインタビューしていくうちに奇妙な展開になる。生還者の一人がインタビュー後に殺され、私自身も命を狙われかける。そしてライカーからの突然の連載打ち切りの通告。ライカーもどこかあやしい。めげずにライカーの事を調査しているうちに、一通の暗号を手に入れる。タイタニックに乗った娘をあずかったという脅迫電文だ。老いてなおタイタニックの引き上げに執着するライカー…、これには何かウラや陰謀めいたものがある。その事件の全貌は娘のエヴァ、すべてはタイタニックから生還した幼いエヴァの記憶にかかっていた…。

 タイタニックの事故をベースに、冒険やミステリの要素を合わせた大ボリューム作。おそらく誰が読んでも「これは名作、面白い!」と絶賛するほどの作品だろう。ストーリー展開から話のテンポまで、本当に良くできている。主人公が調査を進めるにつれて明かされていく真実、実は○○じゃなくて××だった…!というどんでん返し、この逆転がこの作品の醍醐味ともいえる。まあ色々とネタバレしてしまうと面白くないんで、あまり明かせないんだけど…。
 様々な調査の末にすべてのカードが出揃い、そこから導き出される超展開。ラストも蛇足にならずに一気に超スピードで駆け抜けていったのがすごいなあ。まさか最後になってジジイとババアでチェイスシーンをやるとは思うまい。

 それから解説でも少し触れているんだけど、やっぱりタイタニック号の悲劇の放つ不思議な魅力。改めて誰の心にも共感するストーリーだなと実感させられる。エヴァから当時の記憶を引き出すことに成功し、物語後半ではエヴァ・ライカーの視点でタイタニックの沈没が再現される。このパートの緊張感がすごくて、本当に引き寄せられる。水が押し寄せてパニックになっていく人々、脱出ボートを求め争う人々…。例えるならノアの箱舟のような、神話的とも言える普遍性がタイタニック号の悲劇にあると感じた。
 ちなみにこの本は1978年発表なので、最新のタイタニックの事実とはちょっと違うところもあるみたい。Wikipediaのタイタニックの項目でも目を通しながら読むと、より楽しめるかもしれないですよ。

心がとても重い

2009-03-05 06:11:14 | 最近読んだ本
・「奇術師の密室」/リチャード・マシスン

 語り部は老奇術師の私。十数年前に脱出のトリックに失敗し、全身不随となってしまった。私の息子が二代目奇術師を継いでいるものの、私自身は身体を動かすこともできなければ、しゃべることもできない。私は「置物状態」になりながら、終日部屋の中で過ごしている。

 事件が起きたのは昼過ぎ。部屋の中に入ってきたのはマネージャーと、アシスタントも務める息子の嫁。二人は密かに話していた(私は置物同様のため、いつも無視されている)。二代目の腕も、もう鈍りかけている。高尚な舞台芸術から脱して、安いラスベガスのステージでも稼いだほうがいいのではないか。息子の腕が落ちつつあるという話は、私にはとてもショックだった。
 そして次に部屋に入ってきたのは息子とマネージャー。マネージャーはラスベガスでの契約をもちかける。しかし息子は頑としてそれを受け入れない。口論の末、息子は私の目の前でマネージャーを奇術道具の銃で撃ち、音を聞いて駆けつけた妻も吹き矢で撃ってしまう。

 その後息子は私に食事を与え、身体を拭いてもとの部屋に戻す。部屋には変化があった。マネージャーの死体は隠されたが、妻は地面に倒れたまま。息子はどこかへ消え、その他部屋の様々にも手を加えた形跡があるようだが…?一体息子は何をしようとしているのか?ふと気づいた妻が立ち上がると、ちょうど屋敷に保安官が到着したところで…。

 とまあここまでが出題編といった感じの、一つの部屋&一つの視点で進行していく何とも奇妙なトリックサスペンス。身体を動かせない父の視点で基本的話が進んでいくので、読者はトリックの「ウラ」を見ることが出来ないわけで、まるでテーブルの近くでトランプ手品を見ているような気分になってくる。まあ本当にオモテがウラになったり、ウラがオモテになったりとびっくりの連続。端的に言えば、息子と妻との化かしあい対決ということになるんだけど、果たして勝つのはどちらか…といったところ。

もう最近どんどん行動力がなくなっていく

2009-03-03 01:10:44 | 最近読んだ本
・「エデンの炎」/ダン・シモンズ

 ダン・シモンズというと、「ハイペリオン」シリーズの…という枕詞が常套句のSF作家だけど、俺にとってシモンズという作家はむしろ一番最初に読んだ「殺戮のチェスゲーム」のような、極めて緻密で壮大なスケールのホラーエンタテイメント作家というイメージが強くて。もちろん「チェスゲーム」もご多分に漏れず、上中下巻とあわせて1500~1600ページぐらいと、中々の大盛りサイズ。読み始めちゃえば本当にあっという間にハマってしまうんだけどね。まあこれはシモンズ作品としては割合小規模な(?)、上下巻で600ページぐらいの作品。

 物語の舞台はハワイ島、マウナロア火山のふもとにある超高級リゾート。そこへ遊びにやってきた主人公エレノアだったが、あいにくキラウエアとマウナロア、二つの火山が活動中のためリゾートとは遠い別の空港に降ろされてしまう。何とかレンタカーのジープを借りて夕暮れまでに到着したい彼女だったが、道中で車がパンクして立ち往生している中年の女性を拾う。彼女はコーディ、この人もまた懸賞で当たって高級リゾートへ向かう途中だった。

 ようやくたどり着いたマウナペレ・リゾートだったが、人はガラガラ。もともとこのリゾートは当初から人の入りも少なく不人気で、おまけに火山が噴火中ということもあって大半の客はもう帰ってしまったらしい。そして何よりも、最近このリゾートで変死や行方不明者が次々と発生しているという不気味な噂…。そう、エレノアはここに単に遊びに来たのではないのだ。
 彼女の腕の中には祖母の日記、そこには19世紀のハワイ島での奇妙な冒険が記されていた。ハワイ島土着の神々、悪魔や霊が原住民や入植者の命を次々に奪っていったという体験譚、それを実証するためにわざわざここに来たのである。
 コーディもまた同じような理由だった。働きづめで疲れた日々、その中で何か特別なものを見たいという理由から、コーディはエレノアと意気投合し、一緒にこのリゾートに隠された悪霊を探ることになる…。

 誰もいないリゾートで次々と起きる怪事件…という設定が中々にハマっているホラー作品。暖かいはずなのに何故か急に寒気を覚えたり、突然停電したり、謎のトンネルができていたりというシチュエーションに「ああやっぱりコレだよ」と、久しぶりにホラーものを読んで思ってしまった。
 事件と同時進行で綴られる祖母の体験記も主軸だけど、それに加えてもう一つ軸が追加されているのが、このリゾートのオーナーであるトランボ氏。物語はトランボ氏の視点からも進んでいく。億万長者のトランボ氏はリゾートの売却計画を考えていて、今まさに日本人の経営者と契約を結んでいる最中だった。首をなかなか縦に振らない日本人にあせりを感じていく中で、次々と舞い込んでくる悪いニュース。妻が訴訟を持ち込んでくるわ、愛人が乗り込んでくるわで大わらわ。もちろん商談中にも怪事件は次々と起こっていくわけで、そんな最悪の事態の連続に悪態をつきまくるトランボ氏がコミカルで面白い。

 ラストは結構あっさり目というかカラッとしている。最後に悪霊の洞窟に突入するのが主人公のエレノアじゃなくてコーディおばさんとトランボ氏の意外な組み合わせのうえに、「糞食らえだぜ!」と邪神に中指を立てるトランボ氏。そしてコーディおばさんの正体は実は…みたいな、物事を達観し、飾らない言葉で他人を勇気づけるようなコーディおばさんのキャラが中々良かったかな。

給料日なので色々と買い物を

2009-02-13 08:11:30 | 最近読んだ本
・「動物農場」/ジョージ・オーウェル

 ある日、荘園農場の老豚メージャー爺さんの見た夢。すべての動物たちが人間の支配から逃れ、動物たちだけで農園を経営し、互いが助け合って生きていく生活。農場の動物たちはそんな話を聞いて、革命の日を夢見て密かに力を蓄えていた。
 それから間もなくして、革命はあっさりと成功する。これからはもう人間のために働かなくていいんだ。メージャー爺さんの遺志を継いだ豚たちが指導者となり、荘園農場は新たに動物農場として新たな共同生活を始めることになった。
 しかし動物農場は、少しずつ理想の姿とはかけ離れていく。電気を導入するための風車建設計画、その計画をめぐって意見が対立、反対意見者が追放されてしまうばかりか、いつしか風車の建設は農場の動物にとって義務となってしまう。豚たち特権階級は犬を親衛隊に引き連れ、政治が次第に独裁的になっていき、掲げられていた当初のスローガンも歪められて、いつの間にか農場の動物たちは以前よりも悲惨な生活を送ることになってしまうのだった…。

 理想のコミュニティを求めるうちにいつしか独裁的になり、結局もとの社会よりも悪くなってしまう…というような、寓話的なお話。書かれた時代から言えば共産社会に対する風刺…なのかもしれないけど、そういった前情報を与えられなければ、特にどの社会に対しての…という話ではないような気がする。ともかく動物たちの社会、というカタチでいかにコミュニティが瓦解していくか、というプロセスがわかりやすく描かれている。

 やはり大きなターニングポイントになったのは風車の建設…だろうか?「叶えば便利な夢」から「絶対に実現させねばならぬ計画」に変わり、動物たちは強制労働を強いられる。さらには外部に計画が頓挫しているように見せないため、プロパガンダまで実行する。う~む、やっぱり外部を意識し始めたとき、現実とのズレは少しずつ生じてくるものだよね。ウチはウチ、よそはよそ…でいいじゃない(といっても、いつまでも閉鎖的では変化に取り残されてしまうけど)。

 それから、少し悪意をもって描かれているのが豚さんたち。頭のいい豚たちは、じつは革命の日の当日から動物たちを欺いていて、何かにつけて規則を変えてしまったり特権を享受したりしている。やっぱりこういう輩がトップにいるから、コミュニティは崩壊するんじゃないだろうか?豚さんがもっといい人たちだったらよかったのになあ、なんて平和的な感想を持ってしまうのは、俺が豚さんみたいな立派な指導者にはなれない証なのかもしれない…。

今月はあまり本読めない感じ

2009-02-01 14:36:35 | 最近読んだ本
・「フラクタルの女神」/アン・ハリス

 スラムでの貧困生活に嫌気が差して、とうとう実家を出て行った女の子。娼婦をしたり、コカインを売ったりして生活しているうちに、ある厄介事に巻き込まれる。セックスライブカメラの前で人を刺してしまったのだ。その場から逃げ出す彼女だったが、そのライブビデオを見ていたく感動した人物がいた。
 ラウール博士、人工知能生命を作り出すことに情熱を傾ける老博士、博士は八方手を尽くして彼女を探し当てる。ぜひとも彼女に人工知能のモデルになってもらいたい。ではなぜ彼女なのか?それは、彼女の行動が混沌(フラクタル)に満ちているから。あらかじめ予測された人造の人工知能ではとても単純で退屈で、まったく人間らしくない。時に主人に反抗すること、それこそが人工生命に必要なものなのだ。

 こうしてニューヨークからチュニスの研究所に送られるはずの彼女だったが、ところが博士の部下たちが「反抗」してシベリアの廃研究所に運んでしまう。この行動の意味するものは何か?そして、雪の中退屈をもてあます彼女。次第に研究所内は険悪なムードになってきて…。

 というのがあらすじみたいなものか(説明するにあたって、かなり他のエピソードを削ったけど)。設定だけ見ると中々面白そうな感じはするんだけど、やっぱりそれぞれが雑然としすぎてるし、何だか読みにくい。レズビアンの科学者、半魚人、自我に薄いメイドロボ…それから幼い頃に売られて別れ別れになってしまった兄妹、とか。これはどうも主役以外にスポットを当てすぎ…のような気がするんだよなあ、このまとまらない感は。

心のヘコみがまだ回復しない…

2009-01-25 21:21:26 | 最近読んだ本
・「サーティーブルー」/マイク・ゲイル

 もうすぐ30歳を迎える僕。三十路になったら何が変わるのだろうか?今アパートで一緒に暮らしている女の子と付き添うのだろうか?そんなことを考えているいるうちに、僕とエレインはふとお互いに熱が冷めてしまって、別れようという話になった。どうしてだろう。普通こういう別れ話なら何か感情の変化があっていいはずなのに。
 僕はオーストラリアへ転勤を希望することにして、それまでの3ヶ月間イギリスの実家に泊まることにした。久しぶりに再会する学生時代の仲間達、30を前にしても僕らはちっとも変わることはなかった、一晩中起きて酒を飲んだり、公園で一日中しゃべっていたり、むしろあの頃よりも楽しいとさえ思える。そして、こうしている間にも僕は30歳になろうとしている。僕はこれからどうしたいのか?僕はどこへ向かおうとしているのか?僕は最善の伴侶を見つけることができるのだろうか?

 タイトルが「サーティーブルー」なんで、30歳になることへの苦しみとか、何でもないのにヘコんでしまうとかそういう話をイメージしてたけど、この話のテーマは「ノスタルジア」だよね。故郷を離れて社会に旅立ち、何年か経って再会を祝う…という話。もう30歳なんて年齢だけど、心はまだまだ十分に青春してるじゃん。みたいな。
 主人公の僕も、地元で旧友の子と付き合い始めてそれなりに進展はするんだけど、やっぱり二人は一緒に居ても幸せにはならないと思う…という結論に達して、結局友達のままで終わってしまう。そこで導き出されるのは、田舎に帰ることは未来ではなくて、ひと時の過去を振り返るだけ。だから僕たちはまた、それぞれの道を歩み始める…。

 そう考えると、外人の30歳ってどこかポジティブだよね。それに比べて俺らは30歳になって何の未来もない。ノーフューチャーってやつだ。「少なくとも理想の結婚相手の条件としての高収入、これはクリアしてるつもりだ…」とか言ってみてえよ。