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draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

NGS549672

2010-06-15 06:09:40 | 最近読んだ本
・「幼年期の終わり」/アーサー・C・クラーク

 世界の都市の上空を覆い尽くすオーヴァーロードの艦隊。この無言の圧力によって、世界は瞬く間に統一された。オーヴァーロードの総督・カレランは直接人類に語りかけることはなく、橋渡し役に国連を指定した。これによって、カレランの意思は全世界に通達される。
 こうして人類は誰も飢えず、争いも起きない平和な世界を手に入れたものの、決して姿を見せないオーヴァーロードに対して懐疑的な意見もあった。一体彼らの目的とは何なのか?国連のストルムグレン事務総長は会合のたびにカレランに迫るのだが、知能で勝るオーヴァーロードにいつもはぐらかされてしまう。が、やがてカレランは人類に約束する。今から50年後、わたしたちは姿を現そう、と。わたしたちは人類を見守るものであり、それ以上の干渉はしないと。
 それからついに50年後、オーヴァーロードは地上に降り立った。大きな翼に、頭に突き出た鋭い角…その姿はまさに、太古の人類が描く悪魔そのものの姿だった…。

 アーサー・C・クラークによる、誰もが名前くらいは聞いたことのあるSFの名作。…となればハヤカワ文庫版を思い浮かべてしまうけど、今回は光文社の古典新訳シリーズで読んでみた。これは名作文学をわかりやすい今の言葉で新訳してるシリーズなんだけど、これがけっこう読みやすくていい(文字も大きめだし)。しかも解説を読んでみれば、これは1990年に第1章を書き直した新バージョンだそうだ。

 物語は異星人オーヴァーロードとのコンタクトに始まり、それから起こる人類の進化…というか変異といえばいいのか。オーヴァーロードの監視によって事実上宇宙渡航を禁じられた人類は、精神方向に進化を始める。見えるはずのない遠くの宇宙が見えたり、物を動かす念力が使えたり。そのブレイクスルーの最初の子供こそ、オーヴァーロードの待ち望んでいたものだった。

 そのあとはオーヴァーロードの仕えるさらなる上位種・オーヴァーマインドとの精神融合が始まり、地球が消えていく…といった、ちょっと気持ち悪い展開になってしまうんだけど、その合間に宇宙を密航する青年の物語が挿入されていて、これが面白い。
 彼は物語の中盤で偶然オーヴァーロードの母星の情報を手に入れ、クジラの標本の中に潜り込む。案の定すぐ見つかって地球へ送還されることになるんだけど、それまでのしばらくの間、彼は異星人の文化に触れることになる。ここのくだりは本当にシンプルに、宇宙旅行モノといった感じで楽しい。この後地球へ帰った青年ジャンは、地球と人類最後の時を見届けることになるんだけどね…。

 それからオーヴァーロードといえば、DSのRPG「無限航路」に出てきたラスボスの名前だったな。もちろんこの作品が元になってるんだけど、どちらかといえばオーヴァーマインドがそれに近い存在か。いやー、こう見えてあんまり名作SFというのを読んでない俺だから。ああこれがそうだったのか、って。
 あとクラークは人工衛星の発案者だった、ということも年表から。厳密には人工衛星による通信のアイデアなんだけど、これを発表したのが1945年、実際に実現する25年も前だった…ということだそうですよ。

どうすんべ

2010-05-31 01:03:27 | 最近読んだ本
・「日本封鎖」/マイケル・ディマーキュリオ

 時代は近未来。中国とロシアの一部が合併した新興国・大満州国は、密かに核ミサイルを保持していた。いわゆる旧ロシアの領地にあったものが、そっくりそのまま大満州の手に入ったものである。その所在を知った日本国は脅威とみなし、大満州へただちに核放棄を迫る。しかし大満州の大統領がこの外交を無視したため、日本は先制して核施設を攻撃。この事件がアメリカの耳に入ることになった。
 近年の日米の関係は悪化していた。日本はすでにAT&Tやインテルなどのアメリカの主要な企業を乗っ取り、アメリカへの製品の輸入は厳しく規制されていた。ここに大統領は日本海域を封鎖し、日本の輸出入を一切断ち切ると宣言。そしてその海上封鎖のため、パチーノ少将は大統領に招集されたのだった。
 しかし大統領の側近たちは日本の自衛隊を過小評価していた。日本には世界で最も高性能な潜水艦があり、さらにはその同型艦の無人化にも成功している。少数の前世代の潜水艦しか持たないアメリカにとっては、圧倒的に不利な条件である。少将は日本封鎖のためにはまず人工衛星を破壊し、全面的な戦争へ持っていくしかないと主張するが、それが過激な意見であると異端扱いされ、軍部からもにらまれてしまう。そうしているうちにも自衛隊の恐るべき潜水艦は着々と太平洋に展開し、無防備なアメリカ艦隊を虎視眈々と狙っているのだった…。

 よくある架空の戦記シリーズの、日本vsアメリカを描いた作品。まあもちろんアメリカ人が書いた小説なんで、ちょっとズレた日本観に首をかしげてしまうところもあるけどね。でも実際、日本の自衛隊の戦闘能力はかなりのものだと思うんだよ(よく知らないけど…)。最新の兵器や電子装備、色々と議論はあるけど軍事予算もそれなりに潤沢だし。
 それからちょっと変わっているところといえば、主人公がかなりの高官であるというところ。つまり最前線で潜水艦に乗って戦う、みたいなことはあんまりやらなくて、色々と作戦を考えたり、大統領と会合したり、書類を書いたり通達を出したりと、基本作戦指揮官ってのは裏方の仕事をやるというところ。それを地味と取るか少し毛色が変わっていると取るか。

 自分があまりにも高官だから、潜水艦に乗艦するときに気を使ってしまうというのは少し面白いよね。航空母艦が撃沈され、やむなく生きている潜水艦に乗り移ることになるんだけど、潜水艦の艦長というものは地球で最後の独裁者だから、なるべくことを荒立てないように、艦長の面目を保つこと。主人公自身も、昔そういう経験があったからなあ…と、色々な苦い過去を思い出す。それは決して、少将までの道のりがラクでハッピーではなかったということを暗示している描写ではある。んだけど、やっぱりトントン拍子で進んでいくストーリーを見ていると、そうも見えないんだけどな~。
 あとは、この近未来世界で紙代わり使われているライトパッドという電子端末ってもろにiPadだよな…と、タイムリーなモノに当たってしまったり。あとなぜか未来の内閣に入閣している杉本大蔵大臣…あ、あれは杉村太蔵議員か。

夏に向けて少しでもダイエット!

2010-05-27 03:28:47 | 最近読んだ本
・「地獄の世紀」/サイモン・クラーク

 それはある日、何の前触れもなく始まった。街じゅうの大人たちが突然子供たちを殺し始めたのだ。命からがら街から脱出した不良少年のニックは、途中でサラという少女とその小さな姉妹を救い出し、郊外の小屋に立てこもる。しかし間もなく大人たちの集団に見つかり、また荷物をまとめて自動車を走らせることになる。
 街で出会ったのは、少年少女たちのコミュニティだった。彼らは各自チームに分かれ、役割を分担しながら厳格な集団生活を営んでいた。彼らのいい子ちゃんぶりが鼻につくニックだったが、生き延びるためニックたちはしぶしぶその集団に加わることになる。
 それから幾度もの襲撃を逃れ、彼らはやがて大きなホテルにたどりつくのだが、そこで彼らの目的はほぼ達成されてしまう。倉庫からは十分な物資が確保され、おまけに銃も手に入ってしまう。当初の厳格な生活はあっさり崩れ去り、コミュニティの中に享楽主義が流れる。いつしかリーダーはチンピラの集団に取って代わり、少年少女たちは彼らの独裁と恐怖政治に怯えるようになってしまったのだった…。

 街じゅうの大人たちが突然ゾンビになって襲いかかる、というL4Dみたいなパニックホラーものでもあるけど、もうひとつはコミュニティがいかに瓦解していくか…そして主人公がいかにそれを救うか、という話。ゴールディングの「蠅の王」みたいな感じではあるんだけど、コミュニティの平和に加えて変わり果てた大人たちとも戦わなきゃいけない、という板ばさみ。

 中盤からは主人公が大人たちに連れ去られて、故郷に戻る途中で色んなコミュニティを訪れることになるんだけど、その旅の過程でいかに自分が一刻も早く彼らを救わなければいけないか、という責任感を一層強くすることになる。まあ恋人(と子供)を置いたままだけに、なおさら…ね。そんな風に主人公だけにフォーカスを当てて主人公が世界を救う…というストーリーはある意味アリだ。最初のほうの文体がずいぶん軽い感じだったのでどうかなーとは思ったけど、読み進めていくうちにアクションもそれなりに盛り上がったので良かったです。雰囲気としては子供向けのような感じはするけどね。

いい感じに進んでいる

2010-05-09 21:36:52 | 最近読んだ本
・「渚にて」/ネヴィル・シュート

 1960年代の第3次世界大戦によって、北半球の国々は死滅した。唯一生き残ったアメリカ軍の潜水艦「スコーピオン」は南へ進路を取り、オーストラリア軍の指揮下へ入ることになる。燃料も資材も乏しくなってしまった世界で、いまやスコーピオンは世界でただ一隻の航行可能な船となってしまった。そんな中、スコーピオンは生存者の調査のため再びアメリカ本土へ赴くことになる。
 しかし調査航海の結果、街には人の生存している様子はなく、誰かが操作していたと思われた無線施設もただの風のいたずらだったということが判明する。失意のまま岐路に着くスコーピオン号。しかしこうしているうちにも、北半球を覆っている核の有害物質はじわじわと南へ迫ってきている。やがてはこの地球最後の楽園・オーストラリアにも放射能はやって来るだろう。それに対し人類はどうすることもできないのだ。
 やがて死に行く世界の中で、人々は最期の時、何を想って死ぬのだろうか…?

 核戦争による世界の終末を描いた作品で、なんで60年代に第3次大戦が?と思ってしまうけど、この作品の成立年代は1957年。まあ普通は1999年に核戦争…とイメージしてしまうんだけど、実際の年代と照らし合わせてみれば、第2次世界大戦の終結が1945年(まあ大体50年代として)、そこから戦争の各清算が終わって60年代にまた新たな火種が勃発する…という考えはごく自然なこと。ここではソビエトと中国の核の撃ち合いから世界の消滅へ…という背景になっているようだ。

 話のメインはスコーピオン号の死地への旅立ちではなくて、それを取り巻く人々の最期の日々。今でもアメリカにいる家族を愛し、軍規を重んじる潜水艦の艦長。故郷を目の当たりにして、思わず潜水艦を飛び出してしまうクルー。妻と赤ん坊に振り回されながらも、家族を大切にするオーストラリア人の少佐。フェラーリを手に入れ、ガソリンの少ない世界で何とか燃料を調達しようとする青年。いつかオーストラリアの外に出てみたいと夢見ていた田舎娘。
 もはや世界はどうにもならないとわかっていても、人々は普段の生活をやめることはなく、自分の家で最期を迎えようと考える。そこに派手な略奪や暴動は少なく、むしろ平穏に、笑って幸せに死んでいこうというところに思わず涙してしまう。思いのままに釣りをしたり、レースを開催したり、来年が来るはずもないのに農作業をしたり…。

 今まで自分の中で「人の死」というと、とにかく苦しんで苦しんで悲惨なものであると考えていたんだけど、これを読んで「人はこんなにも安らかに死を迎えられるんだ」と思ってしまった。そりゃ人は遅かれ早かれ死んでしまうんだけど、その死への期限が短くて、明確にされていると、かえって人は楽観的になるものだと。それから人は最期の時に、やぶれかぶれな行動ではなく、自分の信じているものに準じるものだと。それは軍規だったり、普段の仕事だったり、あるいは宗教だったり(きっと自分も、いつも通りの仕事をしながら死んでいくと思う)。
 おそらく作品の主題としては架空の第3次世界大戦だったり、核への恐怖だったりするんだけど、やっぱり自分の中では「死を見つめる」というテーマの作品に映ったな。まあ実際、ラストの平穏な生活にけっこうなページを割いているわけだからね。

報告書提出がダルい

2010-04-28 01:27:05 | 最近読んだ本
・「ムーン・パレス」/ポール・オースター

 僕は貧乏学生だった。両親はすでにいなかったので、伯父さんからのお金でアパートを借りて大学へ通っていたのだが、伯父さんの急死によって僕の生活は急速に悪化していった。食事は極端に減り、友達とのつき合いもなし。ギリギリの生活で何とか卒業できる計算だったが、ある日僕はとうとうアパートを追い出され、路頭をさまようことになってしまった。
 放浪期間中、僕は公園で寝泊りしていた。特にこの生活が苦しいとは思わなかった。公園でブラブラしているホームレスを気にする人はいないし、食べるものはといえばゴミ箱をあされば確保できた。けれども夏が過ぎて秋がやってくると、僕は豪雨に濡れて体調を崩してしまうのだった。

 道端で倒れていた僕を救出してくれたのが、かつて僕のルームメイトの友人と、アパート暮らし時代に知り合ったキティという女の子だった。僕は友人の部屋で体力を回復しながらも、何とかこの埋め合わせをできないかと考えていた。
 そんな中、僕は学生課の求人欄からぴったりの仕事を探し出す。目の見えない老人の話し相手をするという内容で、住み込み・食事つきの待遇。これでやっと友人の部屋にお世話にならないで済む。戦々恐々、気難しいその老人と付き合っていくうちに、やがて老人は自分自身の奇妙な人生について記録するようにと、僕に口述筆記を頼むのだった…。

 「リヴァイアサン」を読んですっかりオースター好きになってしまったんだけど、この作品もまた、オースターならではの独特の清涼感と静寂感に包まれている。エンタテイメント系のわくわくしてくるテンションもいいけど、たまにはこういった文芸的な雰囲気も、ね。奇妙な最期を遂げた友人が、どうしてああも奇妙になってしまったのか…という物語を主人公の「僕」が語る、というのは後年の「リヴァイアサン」にも通じる構図なのかもしれない。まあそんなふうにして、中盤はやがて死に行く老人と若者の僕との心温まるふれあいが描かれている。

 このエキセントリックな老人が彼らしい見事な死を遂げた後、僕はもう一人の人物と知り合うことになる。老人が身分を偽る前の、前妻との間にできた子。その子供は現在大学教授をしており、頭も才能もあるのに地方のつまらない大学を転々としている。ここで僕はふたたび、この太った教授の物語に入り込むことになる。どうして彼は日陰の人生を歩んでいるのか…?そして明らかになる、老人の息子と僕とのつながり(実は僕の本当の父親だった、という)。

 物語の最後のほうで、僕はその父親とも死に別れてしまう。葬式や遺産の処理をしながら、僕は特に何の感情も沸かず、それが終わればひたすらどこかを目指して旅を続けていく。旅の途中で自動車と金を失い、ガールフレンドも失い、無心で歩き続けた先に辿り着いたのは、カリフォルニアのどこかの街…。この虚無感に何か物語のオチ的なものを期待されても困ってしまうんだけど、人生を生きるということはこういうものだ、とか、人はそれぞれ別の方向に向かって歩いていくものだ、とかそういう読後感を感じ取ればいいのかな。

被弾1でも

2010-04-12 05:16:07 | 最近読んだ本
・「氷河期を乗りきれ」/リチャード・モラン

 大西洋沖で噴火した海底火山の影響により、北半球は永遠の冬に包まれた。火山灰により日光は届かず、平均気温は10℃以上も下がった。凍死者や餓死者が続出する中で、アメリカはシェルター建設計画を急ピッチに進めていた。一方で地球の冬の影響を受けなかったアルゼンチンは、アメリカやヨーロッパ諸国へ食料を輸出し、急速に財力を蓄えていったのだった。
 そんな中、ウクライナはある一隻の原子力潜水艦を持て余していた。ソビエト崩壊の混乱で闇に葬られていたこの潜水艦、これには30億ドルの価値があり、餓えているウクライナ国民にとってはぜひとも食料に換えたいものだった。アルゼンチンの不当な食料値上げに苦しむアメリカは、秘密裏にウクライナとの巨額の取引が行われたという不穏な動きを突き止めるのだが…?

 地球寒冷化によるパニックを描いた作品で、すぐ思いつくような主人公とヒロインがシェルターを求めて不毛の大地を旅する…というような話じゃなくて、寒冷化によって各国のパワーバランスが変化していくという、ガンダム00の前半みたいな政治ゲーム主体を描いた作品となっている。そんな意外な内容だっただけに、中々面白く読めてしまった。各陣営の様子がテンポのいい会話によって描かれていて、とてもわかりやすい。どうせ主人公とヒロインの恋愛とか倦怠とか過去のグダグダを話されて終わりなんだろ…とか思っていただけにね。下巻ぐらいでそういうのもちょっとあるんだけどね。

 そして後半からは主人公が地球の冬を解消するための手段を思いつき、各国協力のもと北極の氷を溶かそうと艦隊を集結させるのだけれども、そうはさせまいとアルゼンチンは潜水艦を送り込む。そう、なんとラストは艦隊戦になるという超展開で。これも意外だったので面白かった。読み終わって全体を見れば地球科学あり、諜報戦あり、艦隊戦もあり…といい意味で裏切られた感じ。
 そんな中、作中での日本の動きも興味深いところ。ここで日本はアメリカからアルゼンチンに擦り寄って、農業機器や電子製品を輸出する見返りに十分な食料を割り当てられている…、という中々したたかな動き。いやいや作者さんは日本を買いかぶりすぎですって。どうせ日本は国策を方向転換しているうちにすぐ内輪もめになってあれこれグダグダしているうちに国民全員飢え死に…みたいないつものパターンですから。

椅子を片付けよう

2010-04-01 00:21:21 | 最近読んだ本
・「ジャンパー グリフィンの物語」/スティーブン・グールド

 前作「ジャンパー」が映画化されるにあたって一部設定やキャラが変更されて、これは映画化で追加されたもう一人のジャンパーこと、グリフィンを主人公にしたお話。
 主人公グリフィンがテレポーテーションの能力を発動させたのは、5歳のとき。このジャンプ能力を危険視した彼の両親はそれ以降各地を転々と引越し、決して人前ではジャンプを見せないようにとグリフィンに課する。学校には通えないので、勉強は両親が先生の自宅学習。と、同時に両親は彼にジャンプ能力を使ったある訓練を行っていた。
 鬼役の父がペイント弾で撃ち、グリフィンはそれをジャンプでかわす。誰よりも速く、銃の狙いさえつけさせないような動きで。彼の身に何かあったとき、彼のジャンプ能力を狙う何者かが現れたとき、それはきっと必ず役に立つはず…。そんなある日、ふとした事でジャンプ能力を見せてしまった彼のもとに謎の一団が現れ、グリフィンはジャンプで逃れるも彼の両親は無残にも殺されてしまうのだった…。

 ジャンプ(テレポーテーション)に対して、ジャンプを「感知」できる人間が存在する、というのがこの第2作目になって追加された要素。彼らは感知能力によってジャンパーを追跡し、抹殺する。その目的は全編明らかにされていないが、国家保安のため…みたいな名目で世界中に散らばっているようだ。
 命からがら逃げ出したグリフィンはメキシコに亡命し、そこで言葉を学びながら2年ほど潜伏する。が、歯の治療に使った歯型からまた「彼ら」に足をつかまれて、安息の地を追われることになってしまう。その後もイギリスで、フランスで…とグリフィンは友達を作ったりある程度の生活を得るのだが、やはり彼らに阻まれる。そんなグリフィンの放浪の人生を描いたのが、この作品。

 最初は母親からフランス語を教えてもらったり、図書館で数学の勉強をしていたりと、このグリフィンというキャラがずいぶんといい子ちゃんで鼻につくなーと思っていたら、いきなりの急展開でそんなことなど一気に忘れてしまう。が、またメキシコでお姉さんとイチャイチャしてたりイギリスの友人と有意義な旅行を楽しんでいるのを見ていると、やっぱり何だか気に障る感じが拭えない。
 そう思うのは多分、主人公グリフィンが幼くて早熟だからなんだろうなあ。物語最初の時点でグリフィンはまだ9歳。それから長年の潜伏期間も含めて最終的には18歳になるんだけど、それでもまだ若いよなあ、というのがおっさんの俺の感想。いっそのこと、大人になってから能力発現に目覚めたジャンパーの放浪の話が見てみたいな…世捨て人みたいな感じのキャラで。と、いう感想を抱いてしまうのは、やっぱりこのテレポーテーション能力が誰しもが描く夢の能力だからなんだろうか。
 フランスで出会った女の子のエピソードはいかにもジュブナイルっぽくて良かったかな。まるっきり場所違いのスターバックスのカップを持っているところを見られて、それから付き合いが始まる。男物の大きなコートを着ているのは、今は大嫌いだけど、それが父からもらったコートだったから…。

 ちなみにこれには第3作も出ているらしいのですが、う~んこんなにシリーズ続かれるのもなあ…。まあ読んじゃうかもしれないけどさ。

なかなかうまくいかない

2010-03-14 15:36:41 | 最近読んだ本
・「暴力教室」/エヴァン・ハンター

 失業から、実業高校の教員の職を得たリック。かつて実業高校で教えた経験があるのと、軍にいた経歴があったのが決め手になったようだ。さっそく教職課程を思い出し、新しい環境で教師を始めるリック。まず最初に生徒には厳しく当たること。優しく接するのは後からでもいい。教室内では誰が命令者であるかを分からせる…。
 初日からがんばるリックに、ある教師は言う。実業高校なんてものは社会のゴミ箱みたいなものさ。普通の学校で落ちこぼれた奴らが、街に出て暴れ出さないように収容しているだけ。教師はさしずめ、ゴミ箱の上に載せる蓋や重しといったところか。けれどもリックは、こんな場所でもちゃんとした教育は出来るはずだ、と何とか生徒たちの心をつなぎ止めようと苦闘する。

 そんな彼がある事に気づいたのは、ふと生徒たちの知能指数の表を見たときだった。生徒たちの知能指数は60後半から80まで、つまり一般的に照らし合わせてみれば彼らは愚鈍であったり、ちょっと頭が足りない子ということになる。ではつまり授業中いつも騒いでいて、教師の話を聞かないのは彼らが悪だからか?いや、そうではない。彼らは教育を受けていないだけなのだ。彼らは教育を受けていないから、一緒くたに悪とみなされてしまうのだ。
 生徒たちにちゃんと話を聞かせられれば、生徒たちに「ほら、私はお金をあげる人なんですよ」と気づかせるためには一体どうしたらいいのか…。時に生徒たちと殴り合いになりながら、流血沙汰になりながらもリックは最下層の教育現場に向き合う。

 子供たちと教育問題という普遍的なテーマの作品で、時代や国を問わずすんなりと入り込める作品。新任になって最初の一日の緊張感だとか、生徒たちとの間のなかなか崩れない障壁とかそのほか色々。そんな激動の学校生活の中でも一瞬だけ、ほんの一瞬だけど生徒の心をつかんで素晴らしい授業になる時もあって、それこそが教師をやって良かった瞬間なんだとリックは感じる。けっこう厚い本なんだけど、するすると読めてしまったのは久しぶりだな。
 それから思ったのはこの作品、会話がくどいわけじゃないんだけどすごく丁寧に書かれているんだよな。どうでもいいところを省略しないというか。例えばリックと同僚の教師がバーで飲みながら昔のジャズについてダラダラ話してるんだけど、それもいちいち「○○は?」「じゃあ○○は?」とか話していて、「僕らはその後も、昔のジャズシンガーの名前を挙げながら延々と語り合った…」とかで片付けない。そんな丁寧な運びが、クライマックスのひとつである「51匹目の竜」の話で盛り上がっていく教室とか、教師と生徒でペンキを塗りながら腹を割って語り合うシーンで活かされてるんだろうね。

 そしてもちろん、太古の昔から続く教育問題に完全な答えはないわけで…。物語の結末もこれといった象徴的な物事で終わるわけではなく、「こんなふうにして実業高校の毎日は続いていくんですよ」と、職員用の食堂でお茶を飲む教員たちのおしゃべりで終わるという結び方は、なかなか好ましいですよね。

寒い

2010-03-10 03:05:19 | 最近読んだ本
・「蠅の王」/ウィリアム・ゴールディング

 飛行機が無人島に墜落して、生存したのは子供たちだけだった。年長のラーフ、合唱隊の隊長のジャック、太っちょのピギー、それから小さな子たち。彼らはラーフをリーダーとして一致団結し、救助を待ちながら無人島で生きていくことを決めた。
 けれども何も心配することはない、この島には甘い果実が豊富に実り、人間を攻撃する獣もいない。ここは「宝島」であり、「燕とアマゾン」であり、「珊瑚島」なのだ。昼間は日光浴をしたり海で泳いだり、空腹になれば手近にある果実を取って食べればいい。

 しかしそんな少年たちの楽園も長くは続かなかった。小さな子達は決められたルールを守らなくなり、小屋作りを手伝わないし、ところかまわず排泄する。ジャックの一団は島に野生の豚がいると分かるや、作業を放り出して狩りを始めようとする。
 狩りよりも何より大切なのは、焚き火を絶やさずに救助の煙を上げ続けることなんだ、と懸命に呼びかけるラーフだったが、次第に少年たちは狩りと食肉への欲望に取り付かれ、身も心も蛮族へと変貌していく。ラーフとジャック、激しい対立の末ついにジャックのグループはラーフたちを異端と扱い、島全体に火を放ち「人間狩り」を始めるのだった…。

 無人島での少年たちのサバイバルを描く「15少年漂流記」のような出だしから、次第に起こっていくモラルの低下、それから人間たちの殺し合い。漫画でいうと「漂流教室」とか「ドラゴンヘッド」とかを思い出させる。といっても、アクションの過激さやエグさでいえば、さすがに漫画にはかなわないけどね。それでも終盤の追い詰められていくラーフの戦いはスピード感があり、手に汗握る展開ではある。
 こんな惨状になりながら、主人公のラーフはどうしてこうなってしまったんだろうと自問する。たとえばこの無人島が何もない、厳しい環境だったらもっとみんな助け合っただろうか?たぶんそれでも、食料の奪い合いやある程度安定してしまったら争いごとは起きてしまうと思うんだよね。楽園においてもなお、争い合い殺しあう人間の「悪」の部分…、これが蠅で真っ黒になった豚頭で示されるシンボル、「蠅の王」というわけ。

 物語の最後で、少年たちは海兵たちに助けられる。ラーフが追い詰められてまさに絶体絶命のときに、兵隊さんは少年たちに呼びかける。「こりゃひどく派手に海賊ごっこで遊んでいるじゃないか」と。そう、これまでの惨劇は大人たちにとってみれば遊びに過ぎなかったんだ…と。そして子供たちは目が覚め、自らの行いを恥じるようになる…。
 それじゃあ今まで何人も殺してきたジャックは、何のペナルティもなく故国に帰れるのか?いっそ焦土作戦の時に焼け死んでしまえばよかったのではないか?
 しかしジャックは最後のところで、全身を黒く塗って蛮族になっているところを大人たちに見られ、恥ずかしそうにしている。「君たちのうち、誰がリーダーなんだ?」と問う大人に対し、そっと人の影に隠れようとしている。そこにジャックの行いに対する贖罪があり、救いが描かれているんだと思う。

まだ歯を治療中

2010-03-01 20:47:24 | 最近読んだ本
・「獅子の湖」/ハモンド・イネス

 わたしの父はアマチュア無線を趣味にしていて、元々身体が不自由だっただけに、一日中自分の無線室にこもって世界の通信局と交信していた。そんな父がついに亡くなったという知らせを受けて、わたしは実家に帰ることになった。
 父の部屋には交信を記録したログ・ノートがたくさんあり、その最後の交信記録はラブラドルの遭難者からの通信だった。といっても、ここロンドンとカナダのラブラドル地方は海を越えて何千キロも離れているため、ふつう通信を受信することは不可能なことである。それにニュースと照らし合わせてみれば、遭難者からの通信の日付は彼らの捜索が打ち切られた日よりもずっと後の日にちであり、もしこれが正しいのなら遭難者はまだ生きていたということになる。
 わたしはこの事実を警察に話したが、警察はわたしの父の精神状態が不安定で、おそらく幻覚を見たのだろうという結論を下した。
 わたしは職場に戻る前に、知り合いのパイロットにもこの事を話してみた。すると彼は、それなら実際に現地へ行って調べてみてはどうかと言った。飛行機ならすぐに出せる。多少寒いが、貨物室に乗っていけば後の手続き等々はこちらで何とかしよう。色々と悩んだ末、わたしは父の最後の通信ノートを手にラブラドルへ向かうことにしたのだった。

 まずラブラドル地方というのを調べてみると、カナダ北部のグリーンランドに近い地域で、森林と雪原だけのなーんにもない土地だそうだ。氷河期から抜け出したのもつい最近らしく、詳細な地形が調査されたのも20世紀になってからの話。そこに主人公のわたしは降り立つのだけれども、ここでは今ラブラドル鉄道が建設中であり、雪原の開拓地で黙々と働くぶっきらぼうで排他的な世界が広がっていく。
 よそ者扱いを受けながら、何とか真実を知りたいと建設現場の奥地へと進んでいく主人公だが、もうこの件は終わったんだと片付ける住民は一向に構ってくれない。しかし詳しく調べていくうちに、彼らが遭難したと思われる「獅子の湖」と呼ばれる場所には自分の祖父も行っており、祖父もまた獅子の湖で命を落としたのだということが明らかになる。そして奇妙な因果に導かれ、わたしたちは獅子の湖を目指すことになる…。

 ロンドンから小さな飛行機に乗り、鉄道建設中の開拓地、それから後半からの未開地の探検。まるで旅をしているような気分にさせてくれる作品。1週間単位の大規模な行軍になるにもかかわらず、まるですぐそこまで行くような感覚でホイホイと請合っていく住民たち。基本は排他的だけれども、いざとなって身内のこととなれば情に厚く…やっぱりそれが人間の温かさってものだよなと。