goo blog サービス終了のお知らせ 

draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

生を得て死を想い、死を得て生を想う

2008-02-19 15:06:14 | 最近読んだ本
・「夜明けのヴァンパイア」/アン・ライス

 映画にもなった「インタビュー・ウィズ・~」です。しかしこのタイトル、いかにもストレートすぎて、どうして邦題の「夜明けのヴァンパイア」にしないのかと思ったら、原題も「インタビュー・ウィズ~」だった、という。この「夜明けのヴァンパイア」という詩的なタイトルはいいよね。

 物語は現代のアメリカ、そこで出会ったヴァンパイアが語る、200年に及ぶ長い長い独白。どのようにして彼がヴァンパイアになり、どんなことを考え、どんな仲間と出会っていったか…というものだけど、はっきり言ってあまり面白くない。語り手であるルイ君があまりにも傍観者すぎるんだよね(この点は他のヴァンパイアからも指摘されるんだけど)。この200年間、何をやってきたか…と言われれば特に何もやっていない。ただ悲しみとともに、不死であることに苦悩し、時を重ねていったとしか言いようがない。

 傲慢で欲望のままに生きるレスタト、少女の姿のまま妖しく成長していったクローディア。これらのキャラはとても魅力的なんだけど、やっぱりそれに負けないぐらいのカラーが主人公には欲しいわけなんですよ。そうでなくてもタダでさえ文体が重くて、とにかく話が長くてウンザリしてくるんだから…。
 話のスタイルを、もっとインタビュワーが茶々を入れて対話形式にする、という形にすれば多少は読みやすかったかも?最後までほとんど私小説みたいな感じで自分の内面を延々と綴っているのは、べつにヴァンパイアという題材を使わなくともよかったのでは?とさえ思えてくる。

メイ

2008-02-08 13:45:14 | 最近読んだ本
・「僕たちの戦争」/A・E・ホッチナー

 まるで赤道直下のような暑さのセントルイス。僕はそこの集合住宅で少年時代をすごした。家は貧しかった。家賃も払えず、日々食べるものにも困っている。でも退屈することはなかった、学校の友達や一風変わった近所の住人たち、それにガラクタを集めていろんな遊びもした…。
 けれども家賃の滞納から、同じフロアの住人は次々と追い出しを食らっている。次は僕たちの家族かもしれない。母は病気で入院してしまった。父は仕事で遠いところに行くことになった。一つの季節の終わりが、一歩一歩近づきつつあった。そんな少年時代の、一つの物語。

 やっぱり少年時代の郷愁ってどの国でも似ているのかな、と思ってしまった。暑い夏、団地、貧しいけど心豊かな生活。それから子供の遊びも。ビー玉で遊んだり、物を売ったり手伝ったりして小遣いを稼いだり、友達みんなで野球をやったり…。
 巻末の解説の「少年という季節」という表現、たとえば夏の暑さのように、人生の中の季節として喩えているのは気に入った。でもせっかく最後まで読んで爽やかな気分になったのに、大人の目線からいらんことをクドクドと説明しているのは気に入らないけど。

 主人公がいい子すぎるかな、とは思ったけどファンタジーとしてみればそれもいいのかなー、と。でもそれはオッサンの感じるところであって、彼らにとってみれば、ごく自然と輝いていた姿なのかもしれないね。

クライ

2008-02-05 23:11:48 | 最近読んだ本
・「独房の修道女」/ポール・L・ムーアクラフト

 中世の時代、イギリスのシアの村には一人の隠修女が存在していた。隠修女とは教会の独居房の中にこもり、世俗からまったく切り離されて生涯を神への祈りに捧げる修道女のことである。
 その隠修女を研究しているアマチュア歴史家の司教、デュバルは創作に打ち込んでいた。ひとりの隠修女の生涯をめぐる小説、彼女はなぜ、石の牢へ入っていったのか?彼女は何を思い、その身を捧げたのか?少しでも彼女に近づくために、司教は密かに地下室に女達を閉じ込め、現代の隠修女を蘇らせようとしていたのだった。その壮大なる実験のために拉致された主人公のマーダ、彼女は果たして石の牢獄から脱出することができるのだろうか?

 とりあえずは犯人の視点で描かれるミステリ、見かけはごく普通だが偏狭的な習慣やルールにこだわる司教、と。まあそこらは別にお決まり的な普通の設定だけど、あまりわかりやすい殺気や狂気が出てこないのは迫力に欠けるかもしれない。
 隠修女を蘇らせるために神学の講義を垂れる司教、何とか相手を信じさせ、脱出のチャンスをうかがうマーダ。中核をなすのはこの二人の対話のかけひきなんだけど、キリスト教的な…という要素が絡むといまいち我々にはピンとこないから悲しくなってくる。これがもっと別の邪教で、相手が何を考えているのかわからず、そしていつ殺されるかもわからない…という緊張感があれば、少しは変わってきたかもしれないけど。

 それから司教が想像の中で作り上げた隠修女、これもまた彼に囚われた犠牲者の一人で、史実では必ずしも司教の小説の中のように生きたわけではないとされている。マーダは囚われの生活の中で、このいびつな創造物にも同情を覚えてくる。
 ラストはそれなりにスピード感が出てくるけど、やっぱりそれまでの対話シーンに緊張感がなくてね…。

やる気ないよ

2008-01-30 21:56:50 | 最近読んだ本
・「嘆きの雨」/マリリン・ウォレス

 連続殺人事件の最も有力な容疑者として疑われているリンダ。確かに彼女のアリバイには、一連の事件に合致している部分が多々あった。しかし彼女は事件に関わっていないばかりか、娘を殺された被害者でもあるのだ。
 警察に監視されていることから神経を衰弱し、隠れたり逃亡したりと不審な行動に走るリンダ。そうしている間にも、新たな犠牲者は増えていく。一体真犯人は、誰なのだろうか…?

 はっきり一言で片付けると、全然ダメ。ミステリの文法とかそういうのがあればの話、それに則ってこの小説の構造を分析すれば、書き出しの段階から失敗してると思う。不安にしている夫婦、それから捜査本部のシーン、どれもはっきりとした主題が提示されていない。あえてぼかしているというのなら、それも分かりづらくて失敗しているが…。
 主人公のリンダにも魅力なし。何かしらの信念に基づいて行動しているのならともかく、不安に駆られて行き当たりばったりで行動して意図がわからない。むかついてくるばかりで、これじゃあ共感は得られないな。

 ふとここまで書いたとき、このミステリには犯人側の視点が欠けているのかなと思った。真犯人の確固たる犯行のもと、それに翻弄される捜査本部とリンダ…という構図。これなら定番モノのミステリとして読めるんじゃないだろうか。とはいえ久しぶりのクソな本に当たってしまった…。

我が青春はすでに過ぎ去り

2008-01-21 15:11:40 | 最近読んだ本
・「西部戦線異状なし」/エーリッヒ・マリア・レマルク

 舞台は第一次大戦あたりのドイツだろうか。学徒動員された語り部の主人公が、陸地の戦線を移動しながら、普段のメシのことやら仲間のことやらをとりとめもなく語っていくという、まあそういう話。

 べつにこの小説が反戦とか、そういうものを主題にしているわけではないと思う。まだ19歳の主人公にとって「戦争」というものは現実としてそこに有る、というだけのもので、道中で仲間が死んだり、悲惨な戦闘が起きていてもそれはそれ、といった感じで日常の出来事として受け止められている。

 時おり主人公は自分の青春について考える。もし戦争をしていなかったら、自分はどういう人生を送っていたか。もっと青春を謳歌していたのではないか…。そんなことをぼんやりと考えながら、また心は戦場に戻る。
 でも戦争をしていようとしていまいと、青春は過ぎ去っていくもの。たとえ青春時代につまらないニート生活を送っていようとも、「怒りの葡萄」のような貧しいジプシー生活を送っていようとも、人はいつかはそういう時代を捨てて(つまらない)大人になっていく。それは決して戦争のせいにはできないのだ。
 そんな語り部の主人公もいつしか時を数えなくなり、生への情熱も失って、日課のごとく戦場に赴いていく。

 まあこういう話はよくあるものなんだろうけど、とりあえずはこの小説が有名なんだろうか。それに戦争体験、という話のネタは古今東西尽きないもので、誰も彼もが話したがるものだ。そんな感じで、普通の青春小説として読めばいいんじゃないでしょーか。

ブラジルから来たなんとやら

2008-01-19 04:08:28 | 最近読んだ本
・「天才狩り」/ソフィ・ガロワ

 世界中から芸術に秀でた天才を発掘し、それに巨額の奨学金を支給するというプロジェクト。長年受賞者を出せなかったこのプロジェクトは、次こそ受賞者を決めなければ解散してしまう。そんな中で新たに調査委員に選ばれたイギリス人心理学者のデイビッド、彼はちょっと気難しそうな女性調査員・ルイーズとコンビを組み、さっそく天才と目されるピアノ少年のもとへ派遣されるのだが…。

 どことなく間の抜けた、天然っぽい雰囲気を漂わせつつも、鋭い洞察力を見せるデイビッド。常に上を目指そうとカリカリしている女性調査員のルイーズ。この凸凹コンビ(といっても早々にコンビ解消してしまうんだけど)が世界各地を散らばった天才の卵を調査していく、冒険ストーリー。

 やっぱりデイビッドのキャラが良いんだと思う。僕は探偵じゃないよと言いながらも、あれよという間に物事の核心を突き、ユーモアあふれる語り口で人から話を引き出していく。中盤からはアクション分が多くなって、なぜかブラジルで誘拐事件に巻き込まれたりモロッコで警察に追われたりと、プロジェクトの調査員は天才の候補者に振り回されるハメに。

 デイビッドとルイーズはそれぞれ別の候補者を立てるんだけど、本当にラストまで受賞者はどっちなのか?というハラハラさせる展開が良い。とはいっても、やっぱりデイビッドのキャラが(以下略)。受賞して大金を受け取るよりも、親友として信頼を勝ち取るほうが、若い天才にとっては価値あるものなんだろうなあ。
 親子のつながりとか、遺伝の本能が図らずも二人を引き合わせる…みたいなエピソードも感動的。

2008-01-15 01:48:20 | 最近読んだ本
・「ラザロの子」/ロバート・モーソン

 交通事故に遭い、一命は取り留めたものの、脳を大きく損壊し昏睡状態になってしまった我が娘。事故の現場にいた息子も、ショックにより心を閉ざしてしまった。こんな感じで序盤から重苦しい雰囲気で、読者を引きずりこんでいく展開。さらに追い討ちをかけるように、娘の看病に身をすり減らしていく母親、会社経営の窮地に立たされている父…。
 そんな中でふと耳にした、アメリカのとある医療施設で新しい治療方法が実験的に行われているという噂。今の病院ではこれ以上意識が回復する見込みはなく、一家は娘のために、そして息子のためにすべてを託す決意をするのだった…。

 べつにこの診療所が黒幕というわけじゃないですけどね。どちらかといえば、別サイドのもう一人の主人公といった感じ。この新しい医療施設を切り盛りするのは、幼少の頃に弟を亡くした、才能あふれる女性。彼女がいかに新しい治療法を発見し、注目を浴びて、またある一方で非難を受けながらも、研究をいかに続けていくか…というのもメインのテーマ。

 ある意味生き死にの問題よりも微妙な、脳死あるいは植物状態での見極め。生命維持装置を外したり、その他の処置を施すには、とにかく倫理的な問題やら法律上の問題やらが付きまとっているらしく、まさに作中のとおりに「非常に重要な問題ではあるが、明確な線引きはされていない」…というのが実情だったりするんだろうなあ。
 まあそういうわけだから、作中でのカウンセリングにちょっとオカルト的な精神世界が入っちゃっているのはご愛嬌、なのか。多方面からの政治的圧力をかけられて、今にも病院が閉鎖される中での決死のオペ…というスピード感で細かい部分を紛らわそうとしている感じはあったが。
 とはいえこの題材を選んだことは、なかなかに勇気あることなのかもしれない。

今年最後の本は

2007-12-30 03:59:30 | 最近読んだ本
・「迷宮の愛」/ノーマン・カタコフ

 舞台は第二次大戦時のオーストリア。デモ隊の暴動に巻き込まれ、運命的に出会ったニックとカーリー。しかしニックはしがない貧乏役者で、カーリーは名家の令嬢。しかも恋のライバルは、金も身分もまるで比べ物にならない男爵さま。はたして二人の愛の行方は…という、まあ普通のストーリー。

 場面がどうにもコロコロ変わるのはよくない。いつの間にか視点はニック、かと思えば男爵。しかも普通は1行空けとかするじゃん。これが本当に、読んでいてどーにも…という感じで。それから、キャラがちょこまかと動きすぎる。まるで早回しのビデオを見ているようにせわしない。
 とはいえ、中盤でオーストリアがナチスドイツに占領されて、主人公であるニックが追われる身になって緊張感が増してくるといい感じのテンポになってくる。もちろん、このパートを書きたいがために前フリを急いだ…というのはわからないでもないけど。

 そして話は愛憎劇から大きくスケールアップし、戦争の拡大とともに3人はそれぞれの世界で必死に生き延びようとする。ニックはアメリカに亡命して映画界の風雲児として成り上がり、男爵は収容所の工場長に派遣され、ナチスとにらみ合いを続ける。カーリーは男爵の目をあざむき、亡命を手助けするスパイとして活動している。はたして彼らの、苦しい旅の果てに待つものは…。

 読み終わってみれば、なんともいえぬ大ボリューム。とりあえず、オーストリアという国家が歴史的に絶えず侵略されてきた、ということはわかったかな。それこそ、オスマン・トルコの時代から…。
 ラストで悪役としてあっさり片付けられてしまう男爵も、いち国民としてオーストリアの独立を理想として掲げていたわけで。その愛国主義はカーリーも、ニックだって持っていたと思うんですよね。恋敵である以前に、彼らは同じ同志だったわけですよ。
 何となくこのストーリーを、愛憎だけでは終わらせてはいけないような気もするけどな。

勉強会の資料作らなきゃ…

2007-12-26 06:54:37 | 最近読んだ本
・「天国への鍵」/リチャード・ドイッチ

 かつて盗みを失敗し、刑務所に入れられて愛する者を大きく傷つけてしまった主人公。今は親友の警察官の監視の下に更生の道を歩み、妻と一緒にひそやかに暮らしている。
 そんな妻が、ある日がんで倒れてしまった。前科のために借金もできない彼は、多大な治療費を払うために、やむなくある男からの依頼を受ける。それは、バチカンにある二つの古い鍵を盗み出すことだった。金輪際盗みはやらないと誓った彼だったが、愛するものを救うために、彼はバチカンに乗り込んでいく…。

 まずプロローグがおっ、と思わせる構成になっていた。これでいうと、彼の人生の転機になった「盗みを失敗する」というシーンがプロローグになっているんだけど、そのプロローグはおいしいところで途切れになっている。それで場面は変わって主人公夫婦の日常描写、しばらくしてからプロローグの続き(オチ)が描かれ、「そういうわけで今はこんな生活を送っているんだ」…といった感じの流れになっている。

 それからバチカンで鍵を盗み出した後も、アクションは続く。むしろ厳重警備な美術館からいかにお宝を盗み出すか?という、いくつものトリックを使ったこのシーンをメインに持っていってもよかったような気がするけど、その後もまだまだストーリーが続く、というのは単純に嬉しいことなのかもしれない。が、後半からのストーリーは目的も流れ的にもいまいちな、ダラダラとしたインパクトに欠けるものだった。

ヤクザ

2007-12-12 00:02:11 | 最近読んだ本
・「時に架ける橋」/ロバート・チャールズ・ウィルスン

 町の郊外の、少し不便な場所にひっそりと建っている家を買った主人公。使われていなくて10年も経つというのに、家具はきれいなままで、まるで誰かが定期的に手入れをしたかのよう。
 家を調べているうちに、主人公は地下室の壁の中にトンネルを発見する。トンネルの先は、なんと30年前の世界に通じていた。現世に嫌気が差した主人公は、そのトンネルを抜けて30年前の世界に移住することを決意する…。

 まあいわゆるタイムトラベルものだ。しかしだからといって、この時間差を利用して儲けようとか、そういう利己的なキャラは全然いなかったりする。コレに出てくる登場人物に共通するのは、どことなく人間味あふれる、「いい人」っぽい雰囲気。人物描写はなかなかいいと思う。「時間」というテーマのほかに「家(Home)」という郷愁的なモチーフも入っているからかな。

 それからタイムトンネルの正体が何なのか、という点が不明瞭に描かれているのも、ある種の不気味さを感じさせるところ。確かにタイムトンネルは便利だ。しかしこれが結局何であるのかは、わかったようなわからないような、はぐらかされているような説明しかされてなくて…。まあ物語の焦点はこういうところじゃないしね。

 他の未来からやってきた、パワードスーツを着る男。いつトンネルから見知らぬ未来人がやってこないかと、常に怯えている。だから恐怖心ゆえに、他のタイムトラベラーを排除しようと行動に出るわけで。主人公の敵ではあるけれども、いわゆる黒幕的な描かれ方はされていない。
 エピローグの彼が故郷に帰るシーンは、なかなかにホッとするようなエンディング。