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draw_or_die

everything will be worthy but cloudy

2008-08-02 22:41:28 | 最近読んだ本
・「カレンの眠る日」/アマンダ・エア・ウォード

 ひとりはカレン、生まれも環境も恵まれなかった彼女。彼女は娼婦の仕事のトラブルからやむなく人を殺し、いつの間にやら新聞やTVからは凶悪な連続殺人犯として仕立て上げられている。彼女は裁判に関しては傍観的で、HIVの感染に苦しみながら、間もなくやってくる死刑の日をただ静かに待っている。
 もうひとりはフラニー、新米の医師。医者として患者を死なせてしまったプレッシャーや、間近に控える恋人との結婚に整理がつかないままに、彼女は突然飛び出してしまう。やがて彼女は叔父の死をきっかけに、カレンの担当医を引き継ぐことにする。。
 もうひとりはシーリア、カレンに夫を殺された被害者。残された彼女には、悲しみや怒りのような感情がいまひとつ沸いてこなかった。たまたま知り合った若者との情事にふけりつつ、あまり身の入っていない空虚な生活。
 この3人がカレンの処刑日という収束点に向かいつつ、奇妙に結びついていく話。

 もちろん大前提として刑務所・死刑囚…というガッチリした枠組みなので派手な心の交流といった流れにはならないけど、加害者/被害者の間のひとつの決着(あるいは、それ以上?)が描かれている。たとえば処刑によって何かが解決するわけではない。それ以前に、死とはごくパーソナルなものだ。それを見届ける行為に何の意味があるのだろうか?…みたいな。
 最初はチャラい感じのシーリアがラストにそういう結論に達して、最終的にカレンを赦す気持ちになったのが、この小説の結びというわけ。う~ん、特に感想はないなあ…。

Vostroだと文章書きづらい

2008-07-30 01:37:08 | 最近読んだ本
・「誰も死なない世界」/ジェイムズ・L・ハルペリン

 ベンジャミン・フランクリン・スミス、1925年生まれ。彼はこの時代に生まれたことを少し後悔していた。時代の流れとともに、どんどん便利になっていく世界。この先テクノロジーがもっと進化すれば、人間の寿命はもっと延びるかもしれない。そしてついには、死ぬことさえなくなるかもしれない…。
 彼は第二次世界大戦で死線を乗り越えたのち、医師として高名を成す。たくさんの子や家族にも恵まれ、自身も老いていく中でやって来た死の瞬間、彼はいよいよ計画を実行に移す。死体を冷凍保存し、いつの日か医学がもっと進歩した時代に自身を解凍すれば、死をも克服できるかもしれない。
 こうしてベンは自ら氷の中に入っていったのだが…。

 ラリイ・ニーヴンの「時間外領域」を思わせるような物語筋。でもニーヴンのように、時間の果てまでひとっ飛び!みたいな冒険SFではなく、序盤はクライオニクス(冷凍保存技術)に対する倫理観や技術的な問題などの、わりと現実的なところにページを割いている。
 自身を冷凍保存するという常識はずれの遺言に困惑してしまう遺族たち。それに遺産争いの要素も加わって、中盤は法廷バトルに。その後は少しずつ時間軸が未来へシフトしていき、変化していく世界、進化していく技術、次々に冷凍化を志願するベンの家族たち。果たしてベンが復活する日はやってくるのか?

 物語途中まではクライオニクスに対する様々なアプローチや、ベン叔父さんそっちのけでスミス一族の話が続いていたりするんで、「これは結局誰も復活しないオチなのか?」と思っていたけども、ある瞬間からクライオニクスが実現可能になってくると、物語は一気に未来のSFへと加速していく。
 ナノマシンの産物によって不老不死&サイボーグ化が当たり前になり、そこから「人のあり方」が問われてくる。でもそれは悲観的にジメジメと描かれているのではなくて、ラストあたりでブラックホールが地球に向かっていって絶体絶命だー!と未来人が落ち込んでいる中で、「人間はマシンとは違う。希望を持っているからこそ、生きる意味があるんだ!」と、旧世代の人間であるベンによって主張されているのが上手い落とし方ではある(結局スペック高い未来人は、さらに高度なテクノロジーを発展させてその問題を克服してしまうんだけどね)。

 それから家族の結びつきだったり、親子間の確執だったりというテーマ…こっちのほうが作者的には主軸なのだろうか。子供を愛せなかった親・ベンと、それを許せなかった子・ゲイリー。この二人の和解…は前出のベン叔父さんの演説よりかはちょっとパンチ弱いかなあ。

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2008-07-18 23:51:47 | 最近読んだ本
・「クライシス・フォア」/アンディ・マクナブ

 元SAS隊員・ニックに命じられた次の仕事は、かつての同僚だったセアラを捜索することだった。情報部の職員で、作戦中に何ヶ月も一緒だったこともある彼女。そんな彼女が突然失踪したというので、彼女をよく知るニックが召喚されたのだった。
 前回の事件で組織の暗部に触れて以来、大いに不信感を募らせてきた彼だが、保護したケリーを食べさせていくためにはこういう稼業を続けていくしかない。と、こんな感じでまたまた偽装されたパスポートを携え、再びアメリカにやってきたのだが…。

 というわけでニック・ストーンシリーズの第2弾。今回小さなケリーはイギリスにお留守番、ということでいよいよニックの実力が本領発揮されるわけだが、そう簡単に物事はうまくいってくれない。
 作中で説明されていてなるほどなー、と思ったのがまさにそれで、「実戦ではスパイ映画のように何から何まで完璧な作戦が立てられているわけではない」、ということ。何かを考慮し忘れている時もあるし、予定外の事が起きるときもある。それから自分自身がやり損ねるときもある(おれだって40%ぐらいは失敗する、とはニックの弁)。
 ではそうなった時、どうすればいいのか?そうなったらあとは自分で判断して、その場で切り抜けていくしかない。完璧な潜入テクニックを持っていながらも時に撃たれたり、時に民間人に銃を突きつけられて絶体絶命になったり、不本意ながら弓矢で戦うことになってしまったりと、なかなかツキに恵まれない我らがニック君。
 事態が思ったとおりに進んでくれないのも、彼を苛立たせる。いわゆる必知事項(need to know)というやつで、末端の工作員は必要最低限の情報しか与えられない。セアラを発見したのもつかの間、今度はセアラの暗殺命令が下る。一体どうなっているのか?そしてセアラといえば、ひとたび銃を持てば人を躊躇なく殺してしまうやっかいな女で…。

 で、このタイトルはラストあたりで出てくる、ホワイトハウス内の集中監視室らしいんだけど、う~ん、毎度の事ながらもうちょっと全体を総括するようなタイトルって付けられないんですか。


スピード上げていこう

2008-07-05 12:11:29 | 最近読んだ本
・「リヴァイアサン」/ポール・オースター

 ある日、ある男が自作の爆弾で爆死した。その事故はあまりにも大きかったので、死んだ男の身元はわからなかった。しかし残された財布のメモの中から、警察は私に事情聴取を求めてきた。いかにも、その男は私の親友だったサックスという男だ。私は、彼とはあまり親しくない友人だった、とだけ説明し、二人の刑事に帰ってもらった。そして私は、「彼」のことについて、長い話を綴り始める…。

 物書きである「私」が、同じく若き作家であるサックスとの交友について語る、在りし日の思い出話。文章全体にどことなく朝霧のような、澄みきったイメージが浮かんでくる。文体自体にはパラグラフも少なくページ密度も濃いというのに、こんなにさわやかなのはこの作家のカラーなのか、それとも翻訳家のセンスなのか。
 回想はサックスのことから、私自身の半生、その他のニューヨークの芸術家友だちに及んでいく。なぜなら彼らの話をせずにサックスを語ることはできないし、サックスもまた彼らに色々な影響を与えたり与えられたりしているわけで、このあたりの人間関係の結びつきの密度の濃さも、この小説の大きな特徴である。

 なぜ同じ文筆業である彼が、連続爆弾魔になったのか。その種明かしは、かなり後半になってからでないとわからない。でもそれまでの展開が退屈なわけでもなく、初対面の好青年風のサックスから、家族単位で付き合いを始めるサックス、やがて結婚生活に破綻を迎えるサックス…と、少しずつ彼が変わっていくさまを見て取れるかもしれない。
 変わっていく友人、変わらない私。「私」の立場からは、ある種サックスの行動的なところが羨ましかったのかもしれない。しかし一方で彼は作家を続ける「私」を評価していた。どこか同じでありながら、対照的である二人。だからこそ二人は出会い、親友になれたのだろう。

どうにも時間がなくて

2008-06-25 05:17:53 | 最近読んだ本
・「時間のかかる彫刻」/シオドア・スタージョン

 SFファンなら誰もが名前ぐらいは知っているスタージョンの、1970年頃に書かれた短編を集めた短編集。実はあんまり短編集って読まないんだよね。なぜなら、こういう書評とか書きづらいから…。とかそういうのは置いといて、やっぱり短編は短編ならではの魅力もあって、よく練られた構成とか、一発芸的なオチとかがあって面白い。

 主なところを拾ってみると、純粋な少年少女の成長モノ「箱」…これは半分ぐらいでオチ読めちゃったよなあ。と冷めてしまう自分はもう心の清い少年じゃないのか。「<ない>のだった!――本当だ!」はこの漫画的な発想の飛躍を見習わなければ。ともかくイキオイ的なもので。「フレミス伯父さん」とか「茶色の靴」とか「時間のかかる彫刻」の、世界を変えてしまうような発明・システム…こういうのってSFっぽい雰囲気だよな。

 「ここに、そしてイーゼルに」はちょっと構成が複雑。しかし何よりも言いたいことはラスト。自分の成長と共に、美しいものは見えにくくなっていく。でも確かに、美しいものはどこにでもあって…、みたいな感じの。
 これまで「人間以上」や「夢みる宝石」を読んでいて、どことなく気持ち悪い雰囲気を描く作家かなと思っていたら割とそうでもない感じだった。それよりも1950~1960年代アメリカの、のんびりとした牧歌的なものが感じられて、よく考えてみれば初期のSF作家ってみんなそういうような雰囲気を携えているよなあとか思いつつ以下云々。

仕事中によく寝た、すごく寝た

2008-06-15 23:58:45 | 最近読んだ本
・「リモート・コントロール」/アンディ・マクナブ

 主人公ニックはSASの隊員。今回与えられた任務はIRAのテロリスト2人を尾行するというものだったが、彼らがアメリカに渡った途端、突然の中止命令が下る。
 あまりもの拍子抜けに戸惑う彼だったが、この機会を利用してアメリカに住んでいる同僚に会うことにする。が、同僚の家を訪問すると、家族は全員殺されていて、彼はそこにひとり隠れていた娘のケリーを保護する。裏には警察ではない何者かが関係しているようだが…。
 この事件によって殺人&誘拐犯の容疑者に仕立て上げられてしまったニックだったが、今は作戦中で身分を偽装してある上に、ここは外国のアメリカ。イギリスの援助を仰ぐことはできない。まだ6歳の幼いケリーを連れながら、ニックはアメリカからの脱出と、事件に隠された陰謀を探ることになる…。

 作者が元SASのベテラン兵士という経歴ということで、実戦に基づいた非常にリアルなアクション描写が特色。時には実例を交えながら、「こんな風にすると、こういう恐れがあるから、こういう風に行動しているんだよ」と、まるでサバイバル訓練の講義を受けているかのごとくに、豊富なミリタリーネタ分を供給してくれる。
 そして同じような語り口で、ストーリーのバックグラウンドを語ったり同僚のエピソードを綴ったりと、重くならない一人称の文体でテンポよく進行していく。ボリュームもたっぷりで、飽きることもない。

 このタイトルの意味はラストのほうのシーンの、電話越しのケリーに破壊工作を必死で伝えているところを表したもの…かな?隠密行動のエキスパートであるニックが、小さな子供の扱いに頭を悩ませながら目的を遂行していく…という対比が言うまでもなくポイントとなるところですね。

太陽

2008-06-03 00:06:32 | 最近読んだ本
・「奇蹟の輝き」/リチャード・マシスン

 交通事故で命を落としてしまった主人公クリス。しかし彼の意識は死後もまだ存在しており、彼は幽霊の姿のまま、悲しみに暮れる家族を見守っていた。
 やがて彼のたどり着いた場所は、天国(heaven)・常夏の国(summer land)・収穫場(harvest)ともいえる世界。そこで彼は従兄弟のアルバートに出会う。従兄弟の案内のもと、天国のような常夏の国に暮らすクリスだったが、何故か心は晴れない。それは、妻を残したまま死んでしまったという無念が胸の中に残っているからだった。
 そんな中、彼は妻が自殺してしまったという知らせを受ける。妻が落ちていった場所は常夏の国ではない、地獄とも呼べる場所。何とかして妻に再会したい。そう願うクリスの強い意志に動かされて、地獄への旅に同行するアルバート。果たして彼は妻を救い出すことができるのだろうか…?

 魂の存在や、輪廻転生といったものは我々日本人にはおなじみだけど、やはり西洋人にとっては多少異質なものなのか。そういった観念はまあすんなり受け入れられるとして、従兄弟アルバートの説明もうるさくない程度にまとめられている。
 地獄(と言われている場所)の描写もなかなか嫌らしい感じが出ている。ただしここは二人での道中なんで、そんなに苦しい感じはしなかったりするんだけど、やっぱりもう少しねちっこく、ヘヴィに描いてほしかったかな。少し物足りない感じが。

 そしてラストバトルは妻・アンの精神世界。魂の存在や死後の世界を信じない彼女は、うらぶれた家の中に閉じこもっていた。植物は枯れ、家具は傷つき、何もかもがくすんでいる彼女の世界(この「ゆめにっき」的な空間の表現が印象的だった)。心を閉ざしたアンに、クリスの呼びかけは通じるのか…。これが冒険やバトルではなくて、ラストが夫婦の会話というのがポイントだね。

 全体的な構成で言えばそんなに重苦しくはなく、コンパクトな感じなのでやっぱりそれなりの重厚感というか、読み応えがほしいところなんだけど…、まあ別にいいか。それから、何で主人公は常夏の国に行けたんだろうか。これはべつに心の清い者だけが行ける場所というわけでもないし(中には排他的な人間もいる)。

「君が地獄から出られないのなら、僕と一緒にここを天国にしよう」

今まで調子が良かったのに

2008-05-22 16:48:01 | 最近読んだ本
・「ザ・マミー」/アン・ライス

 まあいわゆる「夜明けのヴァンパイア」のイメージが強くて、アン・ライスはヴァンパイア専門作家かと思っていたけど、他にも一般的なホラーを手がけている作家らしい。というわけで今度の題材は「ミイラ」。

 ついにラムセス2世の墓を発掘したストラトフォード博士。壁を発破していよいよその中に入ってみると、そこはエジプト様式というよりはローマ趣味の調度品があふれている、まるで墓というよりはどこか書斎のような雰囲気でもあった。そして壁に書かれた、複数の言語による警告。「我は不死の存在である」…、そして「呪い」。包帯で巻かれたミイラはなぜか生き生きとしていて、今にも動き出しそうだ。夢中になって調査を続ける博士は、ミイラの呪いか、突然の死を遂げてしまう…。

 長い眠りから覚めた不死者・ラムセスが会社経営も兼ねるストラトフォードのお家騒動に巻き込まれつつ、その娘であるジュリーに恋に落ちていくといった、ホラー風味というよりはどこかドタバタとしたコメディータッチの雰囲気。もちろんそれだけにとどまらずに、中盤からはエジプトへの旅行が始まり、そこでラムセスの過去が見え始める。そしてかつての恋人だったクレオパトラの復活…と、全般を通して絶妙のテンポで進行する。
 なんだ、ライスってこういうライトな雰囲気も書けるじゃないか…というのが読み始めての印象。ラムセスの思慮深いところや行動的なところがとっても魅力的で、やっぱり多少なりともスーパーマン的なところが欲しいわけなんですよ。どこぞの引きこもりヴァンパイアのルイ君とは違って。

 とはいえ一方で、やはり不死であること…という題材だけに、どうオチを付けたら良いものか?という苦悩は見える(だって死なないから、終わらないわけだし)。割と空気だったジュリーの許婚・アレックスも終盤で魅力的な一面を見せるものの、なんだか彼だけバッドエンドになってしまうのはちょっと可哀想だよなあ。

New Keyboard

2008-05-12 12:01:40 | 最近読んだ本
・「王宮劇場の惨劇」/チャールズ・オブライアン

 時はフランス革命の時代。父を亡くしていたアンは、義父のアントワーヌに育てられ、また芸人でもある彼はアンの芸の師匠でもある、とても親密な存在だった。そんなアントワーヌが、ある女優とトラブルになり、女優を殺した上に自殺を図ったというのだ。
 彼が犯人であるという警察側の見解に納得のいかない彼女は、共通の知人である大佐と一緒にこの事件の裏側を探り出す。いっぽうこの時代のパリでは、スリや泥棒による盗難事件も相次いでおり、大佐が独自に進めていた盗難事件の調査も、アンの義父の事件について調べているうちに次第に関連性を持つようになりはじめてきて…、という一風変わったミステリ。

 まあネタ的には面白いことは面白いんだろうけど、少しばかり要素を詰め込みすぎな感じはある。実際ここに書いたあらすじのほかに、主人公のアンは舞台女優のほかに聾唖学校の教師も手伝っているだとか、事件の真相を知る聾唖者の証言者がいて、どうやってその証言者から真実を聞きだすかとか、伯爵家の屋敷の知られざる歴史だとか、それから…。
 歴史的要素を持つミステリ…というのはわかるけど、細かな描写よりもちょっとアクション分多めな、スピード重視でいきたいところ。まあ、あとは、女主人公が時代にそぐわず活動的…というのは突っ込みどころではないと思うので、あえて言及しないでおくとして…。

手首痛え!

2008-04-26 02:54:35 | 最近読んだ本
・「銀色の愛ふたたび」/タニス・リー

 というわけで「銀色の恋人」の続編。
 こんどの主人公は「スラムで育ったノラ猫」、ローレン。彼女は小さい頃に、床板の下からジェーンの書いた手記を見つける。少女とロボットの、甘い恋。孤児院に育ち、あまり恵まれない生活を送っていた彼女にとっては、それは憧れの世界だった。
 そして17歳になったある日。院から抜け出して独立していた彼女は、あるニュースを耳にする。人間そっくりのロボット・シルバーの復活。夢に描いていた銀色の恋人。何となしにそこへ行ってみると、彼女は魅了された、そう、ジェーンのように。けれども彼女はジェーンではないし、ロボットの彼も以前のシルバーではない(微妙にマイナーチェンジされている)。ローレンはそこでロボット会社にスカウトされ、ヴァーリスと名を変えたロボットと、ジェーンの過去の追体験をしてゆくのだが…。

 と、こんな感じの書き出しなので、時と場所を変えたラブストーリーが再び始まるのかと思いきや、物語は新たな方向へと展開していく。前作「銀色の恋人」がお姫様とロボットのお気楽な恋物語とすれば、本作はその関係にさらに立ち入った型の愛…になるんだろうか。
 シルバーの欠陥を踏まえて作られた、新たな力を持つロボットたち。彼らは姿形を自在に変えられるようになり、それらはもはや人間の能力を超えている。彼らは人間に反逆する、雪山の中腹に作られた「エデンの園」に立てこもって。

 ともかく多少のラブロマンスを期待して読んでいると、ちょっと肩透かしを食らう印象に。ローレンの正体が実は人間とロボットのハイブリッドであるとか、そういう超展開で来るかよ!という感想だ。何だか後半からの破滅論は90年代っぽい世界観だしなあ…。でも生と死、愛と憎というテーマはいかにもタニス・リーらしいカラーではあるけど。