落書き帳

あまり触れられないことに触れる
内容は備忘録のため、誤解等含め随時改変

エンジン技術_4 三元触媒・O2センサ

2014年03月14日 | エンジン・自動車

魔法のブラックボックスを外側から眺めた話。

 

10年ほど前から触媒後にもO2センサが付くようになり、現在ほぼ100%付いているようである。

100%付いているかは未調査。J-OBD2(米欧OBD2のコピーなので触媒診断必須で触媒後O2センサ必須)は米欧に遅れに遅れて2008/10/1以降の新型車、2010/9/1以降の継続生産車が装着義務化なのでこれ以前の生産車のことを指す。

触媒後O2センサ無しでは当時の国内規制ですら、まともな市場品質が確保できない。は「ROMイジリ下手」な傍観者の感想で、排気がらみの法規適合性(OBD2含む)にはデジタルに白黒判断できない部分があったような・・・

アイドルストップ後のエンジン始動は触媒O2ストレージ量管理に対して最大の外乱になる。止めない方が何かと楽で車両停止ネンピ以外に悪くなる事は何もない、と誰も書かないから書いておく。

オマケ 

燃費測定モードでのMTのシフトアップ車速 2018~ WLTCモード移行により固定車速シフトアップ縛り廃止

上表には「メーカ任意」と書いたが計算方法は決まっていてメーカー裁量範囲がある。WLTPにて従来の固定車速→エンジン出力等から計算する方法に変更されたのは、欧州OEM要望の模様。

道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2019.02.15】 別添42(軽・中量車排出ガスの測定方法) P76~80

WlTPで等価慣性重量が階段刻み→完全連続式になり「カタログ燃費狙いで無理やり1ランク下に入れる」は無意味になった。ギミックではない必須装備の剥ぎ取り、燃料タンク容量削減はコレ。電気慣性(ダイナモ側のトルク制御で電気的・擬似的に車両質量の慣性を与える)が当り前になってずいぶんと時が経過している。

Tq慣性分=I×dω/dt 目標Tq=Tq慣性分[ dω/dt ]+Tq走行抵抗分[ ω ]

目標Tqがωの関数→ωとdω/dtの関数 トルクF/B性能(目標値に対する現在値の追従性)、トルク制御結果の安定性(原理式上は目標Tqがdω/dtに対して決まるので工夫≒小細工が要りそう)が十分であれば機械慣性を置き換えて無段階の等価慣性重量にできる。

オマケ

フツウは走行モード毎にMTのシフトアップ車速は固定(規定)されているが、米国は「シフトサーベィ」なる制度があってメーカーが申請して通ればその変速点に変更できた。公の制度なのかメーカー個別交渉ネタなのかは知らん。某社では「ネンピネタ」として’80年代に上がっていた+'90年代に確実にやっていた。ギヤ比はフツウに設定してあって「カタログ燃費狙いのウルトラハイギヤード」ではないが「かくかくしかじかでフツウのシフト点はココである」が通れば低い車速でシフトアップできた。

ソースは落書き帳で「某車1、某車2 フツウとシフトアップ車速違う」旨の記録があった。記録の時点では生産中で「申請中」の話ではなく確定事項。2車種しかないのではなく関わりがあったモノが記録に残っていただけで、特別なことではなかったと思われ。

 

前センサーのみで触媒O2ストレージ量が管理できれば後センサーは不要。後センサーによるO2ストレージF/B無し、前センサのフィードバックのみでは不可能。

触媒後O2センサが付いたのは、眼にした範囲では1988年型某車、カルフォルニア州仕様。OBD2は1994年型より段階的に義務化(1996年型で100%)なので、えらく時期が早い。市場調査目的と推定。某社は継続的にこの種のことをやっている。新規物が入っているが、宣伝しない、仕様が一般向けでない、価格が高い、要は売る気がなさそうなヤツはこれ目的。

オマケ 米国の「model year」 日本の車検証の「年式」とは違う

明確な定義はずーっと知らなかったがwikiの説明で違和感はない。言いだしっぺはGMのようで、排気ガラミの法規もコレで決まっている。

社内品質確認は一種の儀式で、やらないよりマシだが「使われ方」がわからないと判断できないものはゴマンとある。分かり切った卑近な例で言えば「公称出力」「定格出力」。使われ方がかくかくしかじかで、何kWと名乗っても問題ない数字に、半ば慣例不文律的になっている。乗用車の300kWと、トラックの300kWは、意味が別物。乗用車300kWを10トン車(総重量20トン)に載せても計算上は走るが、何kmもつかな?それ以前に燃費+ドライバビリティがメチャ悪で話にならないが。

と書いたあと、某社のwebによると1987年某4気筒1box車が触媒後O2センサの頭出しらしい。当時対外的には黙っていたと思われ市場調査目的は明らか。

 

触媒後O2センサの目的は触媒診断と、高精度空燃比制御(O2ストレージ量管理)だが、後者について触れる。触媒診断 / O2ストレージF/B制御に関する日本語のまとまった解説は自技会20064059。

エンジン出口(触媒入口)排気ガス組成 (乾きガス)

乾きガス(H2Oを除去した状態)で成分表示するのがフツウで、分析計に凝縮水が入るのは邪魔なので予め除去するから 

濃度はmol%(体積%)表示で質量%に非ず(常識) 計測原理は全て「分子数・分子濃度」を計測だったはず

HC   2000ppm=0.2% (C1換算) C1H2とする

NO   2000ppm=0.2%

CO   0.5%

H2  0.1%

触媒出口排気ガス組成 (乾きガス)

HC=NO=CO=H2=0% となってH2O、CO2、N2に全て酸化還元

↑を眺めて暗算すれば、酸化に要する酸素原子数よりもNOから放出される酸素原子数が少ないことは明らか

触媒出口O2濃度=0% で反応が完結するものとするとして成分バランスを計算する

実際に0%かどうかは知らないが(O2濃度はフツウは測らない)0次近似としては十分

触媒入口O2=0.75%

触媒出口O2=0.00%

上例ではNOxをNOで代表したが、NO2で代表すると(俳ガス中のNO/NO2比率は特定できない or 特定した例を知らない)

触媒入口O2=0.65%

触媒出口O2=0.00%

 

酸化に要するO2より、NOxから放出されるO2の方が少なく、触媒後の方が触媒前よりも酸素濃度が低くなる。NOxを全てNO2とした場合でも0.65%低い。

触媒前O2センサ 高応答(物理的距離による遅れ、触媒のO2ストレージによる遅れがない) メイン制御

触媒後O2センサ 触媒後の酸素濃度を0%近傍の狭い幅に保つ補正制御→触媒転換性能極大化

制御上は、前センサがメインだが、触媒転換性能極大化からは後センサがメイン。最終目的は触媒後の酸素濃度を0%近傍のある幅に保つことで、前O2センサはそのための手段。前で一生懸命やるだけだけは、空燃比誤差(残存酸素濃度誤差)が触媒で積分される。触媒にはO2ストレージ能力があり、常に酸素を吸蔵&放出している。O2ストレージ量を適正範囲に収めないと酸化反応還元反応のどちらかが極端に低下する。NOx還元反応(NOx→N2+O2)の方が酸化反応よりも感度が敏感。触媒入口空燃比に対してNOxの感度が立っている教科書の触媒単体特性や実車での体感とも一致する。

O2ストレージ量を最も直接的に近い形で計測できるのが触媒後O2センサ。「O2ストレージ量そのもの」を計測する手段は知らない。

超アバウトな説明は

後ろO2センサ出力  

≒0V(リーン張り付き)

→触媒後でO2多すぎ→触媒がO2でパンク→NOx還元機能は働かない こちらの方が↓よりも感度が敏感でNOxは【ドバドバ排出】になりやすい

≒1V-α(リッチ張り付き)

→触媒後にO2なし→触媒が還元性成分(HC、CO、H2)でパンク→酸化機能は働かない

 

【触媒前O2センサだけでは不十分】の実験例 

前O2センサの空燃比F/B制御の基本構成は大昔からどこのカイシャも同じで

①前O2センサがリッチ→リーンに反転すれば燃料噴射空燃比F/B補正項をスッテプ的に増やす(スキップ項) 以後リッチに反転するまでは斜め上げで増やす(積分項) 

②リーン→リッチ反転の場合は逆

スキップ項、積分項は各々リッチに振る側、リーンに振る側を

[エンジン回転、エンジン負荷(Qa/rpm) ]

のマップに割り付ける。

マップ値のリッチ/リーンのバランスを変えると制御中心空燃比が変わる→触媒後の【CO+HC、NOxのバランス】が変わる。

memo 積分項は時間制御ではなく次サイクルまで(次の気筒まで)の変化率を与えるので同じ数字を入れても自動的に回転数に比例する

 

定常運転で【CO+HC、NOのバランス】が良さげなところにマップをセットする。

触媒後ろにO2センサを付けて出力をモニター(ECUには入力せず制御には使わない)

同一回転負荷で、延々と定常運転を続けるとそのうち(CO+HC)、NOxのどちらかがモリモリ出てくる。

① (CO+HC)がモリモリ=触媒後ろO2センサはリッチ張り付き

② NOxがモリモリ=触媒後ろO2センサはリーン張り付き

①、②とも、「モリモリ排出」と触媒後ろO2センサ電圧の動きはほぼ同期していたと記憶する。

厄介なことに同一車両・同一運転点で同じ実験を繰り返すと、結果は必ずしも同じにならない。実験開始時の触媒O2ストレージ量が管理できない(エンジン始動とか燃料カットは外乱になる)+わずかな誤差・偏差が触媒で積分されるからで、部品精度云々とかは的外れ。定点定常運転ですらこうなのだから、過渡モードでは触媒後O2センサのないシステムは半ば「メクラ打ち」、と認識されるようになって20年以上が経過。

 

触媒後O2センサのない二輪車はどうなんだって?規制値が緩いからであって、一番安く規制強化に対応する(排気性能の「実力」を上げる)方法はこれしか残っていないじゃないの~?EURO5は2020~の予定で、四輪車のOBD2相当対応義務化→触媒診断必須でこのときやる? → コストダウン要求で、触媒診断対応時期まで数年先延ばしの模様

 

O2センサの原理はジルコニア管の内外にO2濃度差があると起電力を発生することを利用している。管表面に白金をコーティングし酸化触媒作用をさせる。CO、HC、H2等の「未燃分」を酸化して「空燃比」計測に反映させる。

この触媒作用があたかもCOのみに対して働くかのような記述したモノがあるが、誤り。H2だろうがHCだろうか、容易に酸化できるものは(COだけ選択的に選り好みすることなく)じゃんじゃん酸化する。自技会20024165参照。コメントは勝手に記入。

 

HCに関しては「酸化性」の問題があり、O2との混合が十分進んでいれば(低分子量未燃HCは)問題なく酸化できる。そうでなければ触媒後センサによる高精度空燃比制御は半ば無意味だろう。

HCの「酸化性」については自技会875279参照。分子量の大きいHCほど拡散されにくく、A/FセンサにA/Fとして検出されないことが示されている。

極端な例が失火時のA/Fセンサの挙動で、一般的に失火するとA/Fセンサは「リーン」を出力する。暖機後の失火なら気筒内に液体で残るガソリン割合は少ない→排気管に出るのは「失火サイクルの生ガス」と解釈できる。「λ=1の生ガス」をA/Fセンサは必ずしも「λ=1」とは認識しない。と断定調で書いたが勝手な思い込みに過ぎず何か裏付け検証をしたワケではない。

 

【事実】 

前センサと後センサは制御中心センサ出力電圧(制御中心残存酸素濃度)をずらさないと制御が干渉する。

後の制御中心を前に対して「O2センサ・A/Fセンサの計測値基準で」リッチ側にしないと制御が干渉する。

「制御中心空燃比」と書かないのは、フツウに考えれば「空燃比」は触媒の前と後で変わらないから。

A/Fセンサで計測した「空燃比」は触媒前と後で違うはずで(と言っても「A/Fセンサ出力のA/F」換算で0.1以下?)、排気分析計を使う場合は「空燃比」計算に使う成分と計算式次第でどうとでも変わる。微小な差だが排気性能に影響甚大なので、ここはアバウトに済ませるわけにはいかないのだ。

通常は、ソフトで対応しているようだ。前センサがO2センサでもA/Fセンサでも話の筋は同じ。

【推定原因】

・触媒前と後で、そもそも酸素濃度が違う。上の計算例では0.65%。

・O2センサ触媒層(A/Fセンサでも原理的部分は同じ)で高分子量未燃HCは酸化されにくい。未燃分(HC、CO、H2)込みの排気λが同じ「1」でも未燃HCの多い触媒前センサーは未燃HCをλとして検出できずリーン側に(誤)判定する。

・O2センサの「酸素濃淡電池としての応答速度」と「センサ表面の酸化触媒の酸化速度」が違う。後者の方が遅い。

・Lean→Rich応答とRich→Lean応答が違う。皆様コレが好きな模様だが、

①後ろセンサのF/Bはそもそもゆっくり アイマイなキオクによればF/B周期は数倍?以上

②前センサのF/Bは応答違いを織り込み済みでリッチ側へ振るスキップ項が元々大きい

③↑の実験例は個体バラツキ、経時変化(経時劣化)を排除した新品相当の1台の定点定常実験

を考えれば筋違い。主因子にはならない。

 

と断定調で書いたず~っと後に

 

1990前後に「NOxナントカO2センサ」って小耳にしたような気がするなぁ→その後聞いたキオクがない

ググり+αで資料が出てきた。

①自技会905163  (1990年) NOx中のOを解離させるため、Rhを添加するタイプ

②2012_デンソーテクニカルレビュー_高感度O2センサの開発(2012年 フリーアクセス)

②は①より複雑な内容で解読は断念

コレについて当方には語るモノは何もないが、↑の話の筋がどう変わるかは読者にお任せする。

 

 

 

三元触媒を機能させるには、触媒後の残存酸素濃度は0%近傍の「触媒後ストイキ」でなければならない。

これが、2stが直噴にしてもダメな理由。直噴にして燃料吹き抜けを防いでも空気は抜ける。25%の空気が抜けても触媒後ストイキにするには、燃焼ガスストイキに対し1/0.75=1.33倍の燃料を吹かなければならない。燃料消費は1.33倍に悪化。触媒の処理量が多すぎて溶損。四輪車の4stでも二次空気を入れているエンジンがまれに現存するが、暖機中の排気モード域(低パワー域)のみ作動し高負荷増量域で作動しない。作動させれば処理量が多すぎて即触媒溶損するがこれと同じこと。

2stのNOxが低いと言っていられたのは規制値が緩かった頃の話で、エンジン出口全域10ppm以下まで下げれば文句なし酸化触媒のみでOK。「全域」が重要で、HCCIは領域が狭すぎて30年前と同じ。

オマケ

4st過給オーバーラップ中掃気教なる宗派があるようだ。リキを出すにはお説の通りで文句はない。空気の何%が抜けるのか、排気対策はどう考えるのか、常に不問のようなのでつついておく。全開域だからどうでもいいとかの話は、技術ではないので却下。触媒無し時代の思考をそのまま現代に展開しても無意味。

高速ブチ回し無過給4stでは、一説によると高回転で数%の空気が抜けるようである。直接計測は困難で、膨張行程終わり付近の気筒内ガスサンプル+排気管ガス連続サンプルでもしないと直接的証拠にはならない。

 

 

2st直噴で、一番ニーズがありそうなのが250ccスクーター。車体は肥大化し200kg前後。発進加速は125ccと変わらない。このクラス発進加速最速は、車重130kg程度(*注)だったクラス最初期の某車で、その後はトロクなる一方。このクラスのEU向けは近年250cc超に軒並み排気量アップしている。EUの大型クラス免許区分は出力25kW(バイク基準でのぶち回し無しなら500cc程度)が分かれ目で排気量は無関係なので、巨体に見合わない非力エンジンでは商品力がない。→250cc超車検縛りのない仕向地は、お手軽に実質タダでできる排気量アップ。穴の大小だけで分けているからタダ同然。

*注 車重130kg程度

昔の二輪車の諸元表は「乾燥重量」なる一般ユーザーにはカンケーない数字が載っていたがコレではなく「整備重量」(走行可能な状態 燃料満タン 冷却水・潤滑油・サスペンション油・ブレーキ液・バッテリー液込み)の重量のこと。四輪車の車重はコレ以外の表記はない。「乾燥重量」は新車の販売店への輸送過程以外では意味のない数字。デブを隠すため「乾燥重量」だけを表記していたカイシャ・車種があったとキオクする。「乾燥重量」は21世紀になっても残っていたがいつの間にか消えた模様。1998~二輪車の排気規制が始まったが、試験はシャシーダイナモで行う。「乾燥重量」を言われたところで等価慣性重量の設定ができない。

発進時の単気筒4stの振動orトルク変動は失格レベル。125ccならこの辺は気にならない。スペースユーティリティからはエンジンはできるだけ小さくしたい。

 

エンジンテクノロジー誌(山海堂)2004/12 p54~59に、2st直噴の研究試験紹介記事がある。

自着火ガソリン機関の実用化研究

直噴+HCCIで、対4st250cc、燃費2割改善、400cc並動力性能と良いことずくめだが排気がEUROⅢ(ECE-40モード)止まり、とは書いていないが真相はそうだろう。ここが一番の問題。

アイドルの不整燃焼がなくならないので、常時負荷をかけて電気的に吸収する方向性も言及されている。2stのアイドルは残留ガスだらけで回るのが不思議なぐらいだが、傍観者でも思いつく直噴間引き噴射ではダメ?

2stのスムーズネス(アホ馬力チューンのパラパラ失火しまくり仕様は対象外)&軽快感は捨てがたいが、排気は目処が立たないと見えてその後の続報はない。排気に関しては、「軽負荷だけの技術」に留まる。

あまり眼にすることがない2st、4stの機械損失、FMEP(ポンピングロス込)をP55より転載する。エンジン仕様、回転数条件は記載がなく不明。横軸はBEMPなので、等軸トルクベースで見るには、

・上側のグラフでは、2stは横軸方向に2倍にする

・下側のグラフでは、2stは横軸方向、縦軸方向ともに2倍にする 

見慣れた4st相当の形に直せばよい。

2stを4stと同じリッタートルクNm/Lで比較できる形に直すと↓の赤線。

MEP→リッタートルク換算は、赤線(2st)でも便宜的に4stの係数「4π」を使えばよい。

2stは燃焼回数が2倍だからその分メカロスを節約するは言いすぎで、話半分であることがわかる。中負荷まではこの話はウソではない。機械効率がメカロス(ポンピングロス、スカベンジング仕事込)の割に悪いのは図示効率が悪いから。

負荷~FMEPの傾向が4st、2stで逆なのは、2st特有の掃気(スカベンジング)仕事に由来。

低中負荷のメカロスは2st圧倒的有利だが、現実には膨張比の低さ(4stが1回転を使うガス交換を下死点近傍で済ませるから排気ポートは4st比で早開き気味+圧縮比は元々低い)、低負荷の失火サイクルの多さ、全域燃料の素通りでBSFCはメチャ×3悪。失火サイクルと燃料の素通りを直噴+HCCIでカイゼンしましたというのが本記事。

記事中には圧縮比の記載がなく不明だが、メチャ低のままと推定。ポートタイミング(排気側は可変制御弁付)も不明。不明だらけになるのは、「技術報告」ではなく「宣伝・広告」の意図・圧力が働くからで、肝心な部分を飛ばして宣伝部分を強調するのはどこでも同じで、弱点が透けて見えるのもこれまた同じ。立場上「真実」全てをぶちまけるワケにははいかないので傍観者が代弁する。

トルク特性は↓ 250cc 2st+直噴、385cc 4st、250cc 4st を比較。元グラフのkW表示をNm換算。

BSFCは↓ 横軸BEMPなので排気量あたりトルクで見る場合は、2stは横軸方向に2倍にする。

グラフ中の「AR」は一般には通用しないカイシャ方言(宣伝用語)で、「HCCI」のこと。

「Stoichometoric」の注記が曲者で、2stの場合は「燃焼A/Fがλ=1」の意味と推定。排気中に多量のO2が含まれるので三元触媒によるNOx処理は無理で、↑に書いたように最新規制(Euro4 新型車2016年~、継続車2017年~)対応をするには燃焼A/Fの更なるリッチ化が必要→このBSFCは無理で、特に高負荷は大幅悪化は必然。やろうとしてもおそらく触媒が溶損する。

白けた書き方をしたが、HCCI領域は60%負荷まで達していてビックリ物で、排気制御弁等々で目一杯やった結果がここまで。更に高負荷まで伸ばせない理由は、「筒内ガス温度ガー(内部EGRで上げる)」「dP/dθガー」等々と思われるが他所の方にお任せする。

 

重要部分をp59より引用 。「PDI-AR」 は、250cc 2st DI仕様を指す。

***以下引用***

小型の酸化触媒Φ60.5×110(100セル/平方インチタイプ)を排気系内に装滞した。試験結果を図13にまとめる。PDI-ARエンジンは空気による掃気行程で排気へと吹き抜ける空気のため排気には常に2~5%のO2が含まれる。そのためHC,COに対する酸化触媒の活性は非常に高い。またNOxに関しては積極的な後処理は行っていないが、AR燃焼の効果で非常に低い値である。

***引用終わり***

・【排気には常に2~5%のO2が含まれる】

→単純にλを逆算するとλ=1.1~1.3 で、O2は全て掃気の新気由来、燃焼λ=1で数字上の辻褄は合う。

・【NOxに関しては積極的な後処理は行っていないが、AR燃焼の効果で非常に低い値である】

→HCCI領域(排気絞りを付加した大量自己EGR領域)を外れればNOxに関してはフツウの2st直噴と同じで、高負荷を使えば即NOxアウト。EURO4からWMTCモード完全移行でエンジン負荷は増える。高出力車ほど走行モードが高速側(エンジン高負荷側)に拡大される。

 

と書いた後、

https://www.jsme.or.jp/esd/89th/89thA-TS/11ATS0744-2.pdf

を拾った。討論会の議事録(2012年)で、カイシャ公認(検閲済)の宣伝広告ではない。検閲に血道をあげたところで、カイシャなど消滅するときはあっという間。討論会は検閲無しでじゃんじゃんやるべし。カイシャとかブランドとか固有技術とか製品とかが消滅しようが、事実の記録は誰かが参考にする。

 

170901追記

2stの燃料噴射については、

http://www.jsae.or.jp/engine_rev/

2017 Vol.7 No.4 ガソリン筒内噴射の開発史(連載第4回)を参照。