エンジン技術_4 三元触媒・O2センサで少し触れたが、疑問が出てきたので新規に項目を立てる。
オーバラップ中の新気の排気管への吹き抜けについては、自技会20085742がある。
内容はチラ見しただけだが、この程度の計測で的確に(イチャモンが付かない程度に)吹き抜け量を推定するのは無理がある。
「A/Fセンサーは結局何を拾っているか、拾えているか、拾えていないか」がスルーされている気がする。空気と燃料の質量を直接計測するワケではない。
エンジン仕様は不明だが、max9000rpmの高回転型NA+L4+PFIで
・6000rpm以上で、新気の数%が排気に抜けるようである
・PFIでは燃料も素通りで排気に抜ける分があるようである
とだけ書いておく。
本題は過給時の新気の排気管への吹き抜け量とそれに対する対処法で、まず基本の「A/F」については↓参照。以下「A/F=14.7」を「λ=1」としているが「14.7」にこだわる必要はない。燃料のC/H比が変われば変わってくるが、個人的にしっくりくる数字を書いただけ。エタノール(含酸素燃料)は炭化水素系よりも小さい数字になる。
「λ=1」の捉え方は、業界ではフツウはテキトーで(これで用は足りるから)
・CO2の極大点
・COを外挿して0%になる点 計測値は直線にはならずリーン域でもCOは排出するがそこはテキトーに
A/Fも「厳密式」にはフツウは用はなく、「厳密式」もいろいろ派閥があるが最近この種の話を聞かないのは「まあ好きにすれば~」だから
「14.7だ、いや14.5だ」とA/Fの細かい数字にこだわっても三元触媒の転換効率以外の扱いの範囲では無意味。空気過剰率λに一本化すればスッキリする。
A/F=(30ぐらい)-(CO%+CO2%+HC%) λ≦1に限る (30)は派閥があるので好きな数字を使う
HCのC6換算表示は過去の遺物で、当然のC1換算での式
λ≦1 CmHnの炭化水素ならフツウはテキトーな式で十分。
オマケ
HCのC6換算表示、C3換算表示は1985年頃には(業界内では)完全絶滅したはずだが古文書にはいくらでもあるので注意。モードネンピの「カーボンバランス法」による算出式がある。コレのHCも当然C1換算。C1換算でなければ「バランス」が成立しない。
フツウの4ストガソリンエンジンは、「排気弁出口」サンプリングでざっくり暖機後2000ppmC1程度。サンプリング位置がテールパイプ側になるほど(触媒・二次空気無しでも)酸化が進むので低くなる。古文書の「数字がおかしい」と思ったら、まず疑うべきはC6換算表示。
暖機後ざっくり「2000ppmC1程度」はPFI(排気行程噴射)or キャブレターの数字。
全滅したリーンバーンと「A/F」
PFIリーンバーンで、公称A/F 22程度。
DIリーンバーンで、公称A/F いくつだか忘れた。
全部「供給A/F(≒排気A/F)」の話で、点火プラグ周辺はリッチにしないと着火しない→エンジンout(触媒なし)NOxは画期的(λ=1 三元触媒並み)には減らず全滅した。
ディーゼルは最小λ=1.3程度(古文書の数字を写しただけでイマドキは?)、吸気絞り無しEGR無しで軽負荷なら供給A/Fはとんでもなくリーンだが、局所リッチだからNOxはモリモリ出る。「Φ-Tマップ」(NOxとススのマップ)の「Φ」(=1/λ)は、「局所Φ」。「T」も当然の「局所T」。トータルではλ>1なのにディーゼル部落はΦが主流。昔も今もススが主題で、Φは局所Φの意味で使うことが多い様子。「局所」の話だからこのマップを引くのは厄介でどうやって引いたのかは知らないが、ススガーNOxガーにそれなりの決着をつけた。Φ-Tマップ上は両立領域があるが、実現手段となるとまた別の話。
最近の流行は「筒内空燃比は均質でA/F=30」。NOxは「ほとんど出ない」らしいが、ウソかマコトか実現性とかは知らない。「ほとんど出ない」は、最低2桁ppm、できれば1桁ppm のことで、具体的に何ppm、何g/kWh なのかは知らない。定量的数字を出さなければ疑ってかかるのがフツウの人。定量的数字を出すのがムズカシイものは世にゴマンとあるが、NOxどうこうは世界制覇済みの某社の計測システムとセットで数字ありきの話。某社製機器=デファクト原器で営業所の分布を参照。
対象とするエンジン
資料は、mazda技報2016、Honda技報2016/04。
H社資料を全部貼る。
事の発端はM社のBSFC曲線。(2000rpm) 目盛りは勝手に記入
340Nm以上で明確にBSFC悪化がゆるくなる。
フツウは全負荷までH社のBSFC曲線(こちらは1500rpm)のように釣り針形になる。M社の340Nm(17.1bar)以上が「ド派手な掃気」「新気が排気管に明確に素通りする領域」と推定される。VVTの作動はH社資料参照。大同小異のはず。
M社は
「ハイオク入れればパワーアップするよ♡」
の珍仕様なので、↑がRON91なのかハイオク使用なのか不明だが、RON91ならば高負荷BEMP、BSFCはおそらく世界記録。2000rpmに全振りするとこうなるらしい。
↑以前にM社は無過給で似た「絵」をばらまいているが(2010年)、↓は公称トルク(現実)とかけ離れた妄想。
【ハイオク入れればパワーアップするよ♡】
レギュラー仕様(RON91)で、「仕様」として↑のようにカタログにkW数字付きで明記している他社の例を知らない。フツウはハイオク仕様に対して
「レギュラー入れるな」
「レギュラー入れればパワーダウンするよ」
だけ。作るのはメーカーの勝手で、「ハイオクレギュラーの判定精度・制御性能」「客への説明と客の受け取り方」次第と書いておく。
「ハイオク点火時期マップ」「レギュラー点火時期マップ」自体は大昔から存在して古文書ネタ。むかしむかしの見聞は、
「レギュラー仕様」 ハイオクマップ、レギュラーマップ、全て同じ値(レギュラー用点火時期)を設定してマップ切替を実質無効化する。
【ハイオク入れればパワーアップするよ♡】
をレギュラー仕様の「仕様」とするにはハイオクマップをレギュラーマップに対して進めた設定にする。ハイオク/レギュラーの判定はノックコントロールによる。切替スイッチの類を付けた例は知らない。「ユーザーの操作」はキカイ以上に信用できないから必然的にそうなる。
全てを「ノックコントロールF/B」に委ねる仕様にしないのは(例えばマップは1枚にしてオクタン価分は全てノックコントロールF/B分だけで吸収)←には無理があるからで、イマでも変わらないと思われ。
過給+掃気は特に目新しい話ではない。例えば、B社広告(2013年付の模様)
http://www.bosch.co.jp/jsae2014/ja/pdf/02_GDI_02_J_DS-Sheet-Scavenging_ja.pdf
対PFI+TCI比、DI+TCI+掃気でBSFC15%削減、300g/kWh→255g/kWhとでもすれば特におかしな数字ではない。目盛り無し即スルー広告での「差別化」に腐心する自動車屋 (いわゆるOEM) 相手に、ウソを並べても無意味だからウソはない。軽負荷の話ではなく10年程前まで皆様が全スルーしてきた高負荷過給域の話。
焦点は、
「どの社もやっているが、どの程度やっているか、ド派手にやると種々問題があるがそれにどう対処するか?」
ド派手掃気をやるにあたって、必要になったのが「新気吹き抜け量推定制御」。最大で新気の10%超が排気に素通りで抜ける。無視できる量ではない。DIなので燃料が排気へ素通りして抜けることはない。
4stの新気吹き抜け量に関する文献は知る限りではほとんどない。↑ぐらいしかなく、これとて内容は不満足、不十分。おそらく
・「膨張行程~排気行程のシリンダー内ガスサンプリング」(クランク角同期でのサンプリング)←既燃ガスの混合、酸化が進む膨張行程終半~吸気弁開まで 筒内ガス組成の空間的、時間的不均一は誤差の元なので良さげなサンプリング区間があるはず
・排気管中のガスの連続サンプリング←これで「平均排気A/F」を求める
をやって両者から新気吹き抜け量を求めないと、定量的なデーターは得られないと思われる。
フツウは、4stの新気の吹き抜けを意識することはない。多少あったとしても無視されて、「排気A/F」を「燃焼A/F」として扱うだけで、「排気A/F」だけを見て適合する。これで用は足りるから。新気の吹き抜けがあれば「排気A/F」より「燃焼A/F」はリッチ側になる。「燃焼A/F」は、直接的に計測するのは困難。やる気になれば可能だろうが、フツウは必要性がないのでヤラナイ+やった例を知らない。
吹き抜け新気量の実測(排気分析計使用)と制御modelによる推定結果の比較。
本題の疑問点は↓
結論(推定)は↓ 太線で囲った部分が推定仕様。
新気吹き抜け領域(控え目に10%抜けるとする)は、
・燃焼A/F=13.2、排気A/F=14.7。
・掃気は万能ではなく、中高回転でやろうとすると仮に過給機性能が十分、排圧等の問題がなくても触媒耐久性が問題になる。吹き抜け量を際限なく増やすと燃焼A/Fを更にリッチ化しなくてはならずBSFC悪化の要素となる。掃気マンセ~は三元触媒無し時代の遺物で、「程度問題、領域問題、頻度問題」が裏に存在する。2st直噴は「程度問題、領域問題、頻度問題」が論外なので三元触媒頼みでは製品として成立しない。2stの新気吹き抜け量は一声=25%位でフツウ。
・BSFC曲線の数字を拾うと、
①最小BSFC 217g/kWh 10bar
数字は良すぎだがBSFC絶対値は本題ではないのでヨイショで放置。
数字を出さない+上下方向を異様に潰したグラフ=常識の範囲内で世間並み+α(EGR分、気筒容積がデカイ分) と解釈。
図の黄色矢印の位置は変で、ここはEGR=OFF。「見た目の印象」が命の広報資料で定量性とは無縁でどうでもE。「広報資料専任の絵描き」を雇うのではなく技術者と称する中の人が描いている。
②ド派手掃気寸前 260g/kWh 17bar ①×1.20
悪化主因は点火時期リタード。点火時期リタードではない、ターボのポンピングロスだと言い出す方は、2LターボディーゼルのBSFCマップ
http://glanze.sakura.ne.jp/great_trials.html
と比べる。無過給トルク(EGR無しと仮定)は7~8bar程度でこれより高負荷は過給域。目玉はずっと高負荷側にある。全負荷が最低BSFCにならないのは、出力優先でススの限界までλを下げるから。
③ド派手10%掃気WOT 270g/kWh 21.2bar ②×1.04
燃焼A/F=14.7→13.2による悪化は同一空気量で比較して7%程度(無過給圧縮比フツウのPFIの数字例で、これだけの過給圧になると?) ②の傾向を率直に釣針形に延長すると350g/kWh(熱負荷=リタード損失が大きすぎてこの運転点は成立しない 吸入空気量=燃料噴射量は③に対して350/270=1.3倍)になるところを点火時期進角でリカバーしこの程度に抑えた。「点火時期進角」は、点火時期の絶対値を進めていることを必ずしも意味しない。吸入空気量アップ、シリンダー内空気量アップ→リタード損失増となるところを、空気量を上げても②と同等のリタード損失になる点火時期を設定できたの意味。
「Effect of Rapid Combustion」ではない。結果はそうであっても、「掃気により、リタード損失の増加を抑えた」が事実真実。
仮に全負荷クールドEGR(@2000rpm)ができれば「Rapid Combustion」にはならないが、BSFC悪化は抑えられる可能性がある。圧縮比、過給圧を上げていくと、EGR無しでも要求二次電圧が上がる(EGRを入れるとたぶん更に厳しくなる)→IGN-COILの二次電圧を上げないと火が飛ばなくなる問題を思い出したが、面倒臭そうなヤヤコシイ計測器を一度チラ見したことがあるだけなのでやめておく。
オマケ
EGR領域 HP-EGRの特徴がわかる。
昔の
「軽負荷だけのEGR」
「オマケEGR」
「この程度の量なら潔く止めちまえEGR」
「止めてもよかったはずだがサーベランスその他が心配でほとんどのカイシャが廃止しなかったUS向けEGR」(←当然ながら止めるのが「正解」だったのかは闇の中)
とは180°様変わりしている。
軽負荷はEGRするならVVTで内部EGR。温度を下げる必要がないと言うか、「cooled」が害悪になる場合がある。
結果だけを見れば、
・過給域はwaste gateで捨てる分をEGRに回した。
・この過給機系の能力(エンジンとのマッチングを含む)では2500rpm以下の過給域EGRは不可能。LP-EGRに変えれば少々EGR領域は拡大するが全負荷EGRは空気量が足りなくなるので不可能。
λ=1限界は52.6kW/L(5000rpm)、47.1kW/L(4000rpm)。気筒容積大なのでノッキングと排気温度はキツイ。
従来機種 3.7L V6のλ=1限界は20kW/L、2.3L T/C は30kW/L程度で、むかしむかしに引き戻された気分になれる。イマドキ基準ではお恥ずかしいレベルなので表に出せないが、「過去は踏み台に活かせ」で、比較用に最後のお勤め。これでは「高負荷燃費率が悪い」と他人をdisる以前の話だが、この程度は平然とやるのも芸のうち。
「ハイオク入れればパワーアップするよ♡」
の珍仕様だが、λ=1領域はRON91と善意に解釈しておく。ハイオク使用時は最大出力アップするが、「確実に」ハイオク判定した場合、点火時期進角、ブーストアップしているだけの話。
↑のWOTトルク、355Nm/5000rpmはハイオクの数字。レギュラーは323Nm/5000rpm。↑↑のグラフで太線で書かれているのはハイオクのトルクで、レギュラーは目立たないように薄い色で書かれた4000~6000rpmの線。毎度おなじみの小細工。
2018/11発売のJPN向けは、
「ハイオク入れればパワーアップするよ♡」
を止めた模様。営業圧力? 顧客配慮? 届出&認可(国交省)がらみ?
むかしむかし某社は、ハイオク仕様に対し
「レギュラーガソリンを使用できます♡」
と玉虫色に安易に記載し、騒動になったとキオク。
ハイオクre〇〇〇〇〇だ、ハイオクre△△△△△△だ とやっていたのも似たような時期では?伏せ字は英語。
気持ちは分からなくはないが、白黒つけたい人にはこれでも玉虫色に見える。技術的にどうこうはともかく、客に玉虫色の説明をして誰得?
騒動の結末は知らないが、カタログ&オーナズマニュアルの記載・表現を変更したと思われ。
2020/01
2019年、EPAエンジンベンチデータ公開
エンジン技術_6 燃費の目玉(9) 2019年 EPA投下データ ターボエンジン3機種
US2016 SKY-G 2.5L turbo
タービン入口圧
略定パワー特性になる
HP-EGR付だが、waste gateで捨てる分を回していると思えばEGR無しでも大筋は変わらず
過給圧(インマニ圧)
赤線で囲った領域が、タービン入口圧(時間平均)~インマニ圧(時間平均)から見た掃気可能そうな領域。
各気筒の排気弁出口では圧力(静圧)が大きく変動しているはずだが、0次近似レベルではこれで十分に見える。
「動的効果」で
・特異点的に他にも掃気可能領域があるのだ
・掃気可能領域はこれよりもメチャメチャ広いのだ
・・・
とやりたい方は排気弁出口+気筒内圧+インマニの静圧データを時間軸(横軸クランク角度)で公開すべし。この辺のデータ取得に困難はない+ややこしい話がからむので「文芸」に出番はない。
2016/05 発行の絵↓は実車量産開始と同時期で「実車発売前だ」の言い訳は適用されない。
毎度の恒例で、全負荷増量は「ないことになっている」
EPA実機データ US2016年型
見た目(局所をガン見せずにプロポーションを眺める)はオレ的に違和感なし→「これが実力」
「絵に描いたようなfish hook curve」だがEPAデータをそのままグラフ化して加工の類は一切無し。
数字無し目盛り無しで「BSFC曲線のfish hook curveの鉄壁」を打ち破ったと見せた「ひしゃげた釣り針」は2作目で
「絵描き(自称技術者)の気分を映したフィクション」
2作目の「ひしゃげた釣り針」も実現していない。
フィクション3作目は作風を変えて「ひしゃげた釣り針」は引っ込めた模様。
エンジン技術_6 燃費の目玉(5) SKY-X VW1.5L T社2.5L